Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’97」 コンサート・パンフレットより

Posted 2015/9/17

久石譲の過去のコンサートから。「PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-」1997年に開催されたアンサンブル構成の全国ツアーです。1997年という年が、久石譲の音楽活動においてどういう1年だったか。それはコンサートパンフレット冒頭に寄せた、久石譲のメッセージからわかります。

 

 

”「パラサイト・イヴ」にはじまり、「もののけ姫」、「HANA-BI」まで、とにかく今年は映画に明け暮れた。

うれしいことに、宮崎駿監督の「もののけ姫」は空前のヒットとなり、北野武監督の「HANA-BI」は、このほどベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得した。

すばらしい作品と出会え、かけがえのない1年になった。映画にかけてきた情熱とエッセンスを今夜は生の音楽で表現してみたい。”

久石譲

 

 

PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-

[公演期間]21 PIANO STORIES ’97
1997/10/02 – 1997/11/01

[公演回数]
10公演
10/2 長野・長野県県民文化会館中ホール
10/6 新潟・新潟テルサ
10/15 横浜・関内ホール
10/17 島根・島根県民ホール
10/19 広島・広島国際会議場フェニックスホール
10/24 栃木・鹿沼市民文化ホール
10/25 東京・ゆうぽうと簡易保険ホール
10/29 大阪・シアター・ドラマシティ
10/31 名古屋・名古屋市民会館中ホール
11/1 兵庫・神戸新聞松方ホール

[編成]
ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:後藤勇一郎
ヴァイオリン:杉浦清美
ヴィオラ:桑野聖
チェロ:近藤浩志
コントラバス:斉藤順
木管:吉田治
パーカッション:福島優美

[曲目]
MKWAJU
TIRA-RIN
Modern Strings

アシタカせっ記 (映画『もののけ姫』より)
もののけ姫
アシタカとサン

Two of Us (映画『ふたり』より)
Tango X.T.C (映画『はるか、ノスタルジィ』より)

Sonatine (映画『ソナチネ』より)
Silent Love (映画『あの夏、いちばん静かな海。』より)
HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
Kids Return (映画『キッズ・リターン』より)

794BDH
Les Aventuriers
Asian Dream Song

—–アンコール—–
風のとおり道(Piano & Violin) (映画『となりのトトロ』より)
Parasite EVE (映画『パラサイト・イヴ』より)
Madness

 

 

 

【楽曲解説】 Ensemble Night Program

MKWAJUより
I. MKWAJU
IV. TIRA-RIN
Modern Strings
オープニングはアルバム「MKWAJU」(ムクワジュ)からの2曲。アフリカの多重的なリズムを取り入れ、その構造を”見せる”かのような仕上がりが特徴的だ。ミニマル・ミュージックの面白さも味わえるのが聴きどころ。ストリングスのカッティングが耳に残る「Modern Strings」はソロ・アルバム『I am』(1991)から。

アシタカせっ記
もののけ姫
アシタカとサン
ここでは、今年7月に公開され空前の大ヒットとなった宮崎駿監督の『もののけ姫』から3曲を演奏する。日本を舞台に繰り広げられる”一大冒険時代活劇”を彩るサウンド・トラックは、広大なスケールとその深いメロディ・ラインが印象的。冒頭で響くメロディはメインテーマの「アシタカせっ記」。おなじみの挿入歌「もののけ姫」、そしてラストシーンでは「アシタカとサン」のピアノの音色が感動的なストーリーをしめくくる。今回のスタイルでは、コンサート初演。

Two of Us
Tango X.T.C.
この2曲は、大林宣彦監督作品からの選曲。「Tango X.T.C.(エクスタシー)」(映画『はるか、ノスタルジィ』より)、「Two of Us」(映画『ふたり』より)は、いずれもソロ・アルバム『My Lost City』(1992)に収録されている。

Silent Love
Sonatine
HABNA-BI
Kids Return
『あの夏、いちばん静かな海。』『Sonatine』『Kids Return』そして来年公開の『HANA-BI』と、久石さんは北野武監督作品の話題作も担当した。「Silent Love」は、『あの夏、いちばん静かな海。』の主人公ふたりの”無音の世界”を包みこむような神秘的なサウンドが印象深い。コンサートでは「Kids Return」とともにストリングスなどで演奏され、人気が高いナンバーでもある。スリリングなメロディラインが耳に残る「Sonatine」は、今回のアンサンブルのスタイルでは初演。今年9月に開催されたベネチア国際映画祭でのグランプリ受賞作品「HANA-BI」は、来年の映画公開とサントラ発売に先がけてのタイムリーな初演。

794BDH
Les Aventuriers
Asian Dream Song
「Les Aventuriers」は昨年リリースのソロ・アルバム『PIANO STORIES II ~ The Wind of Life』から。ストリングス、木管、パーカッションによるアンサンブルが斬新なサウンドを聴かせてくれる。アコースティク・インストの魅力を充分に堪能できる構成。
「Asian Dream Song」は来年の長野パラリンピック冬季競技大会のテーマソングのインスト・バージョン。

(【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

コンサート会場で販売されたこの公式パンフレットには、楽曲解説のほか小池聰行(オリコン社長)寄贈文なども収録されています。さらには映画『もののけ姫』の音楽レコーディング記が、レコーディング・スタジオの写真風景とともに記されています。

 

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このあたりの記録は、『もののけ姫は、こうして生まれた。』(DVD)にも収録されています。

 

 

もうひとつの特集は、『WORKS I』のロンドン・レコーディング日誌です。

Blog. 久石譲 「WORKS・I」 レコーディング日誌 (1997 コンサート・パンフレットより)

 

 

この時期の久石譲コンサートのスタイルは、ピアノ・ソロ、アンサンブル、オーケストラ、バンドなど、とてもバラエティに富んだ構成を循環していました。あらためてパンフレットを振り返って、「Silent Love」「Sonatine」の本公演構成での、アコースティック・アンサンブルは今となっては貴重ですね。

シンセサイザー基調のオリジナル版、オーケストラ・シンフォニーとして昇華した「WORKS・I」、そしてコンサートのみで披露されていたアンサンブル・バージョン。

楽曲解説を見ても、「HANA-BI」が当時公開前でのお披露目だったんです。とても新鮮な感覚で聴いていたということになります。1990年代後半を象徴するコンサートスタイルとその内容です。

パンフレットをパラパラめくっていたら、アンコールで披露された楽曲をメモしていました。懐かしい。でも、どの会場で聴いたんだろう、と思いながら。

 

 

久石譲 97 コンサート 3

久石譲 97 コンサート 2

久石譲 97 コンサート 1

 

Blog. 宮崎駿 × 久石譲 対談(1996)コンサート・パンフレットより

Posted on 2015/9/14

1996年の宮崎駿×久石譲 対談より。

1996年開催「久石譲 PIANO STORIES II ~The Wind of Life」オーケストラ、アンサンブル、ピアノソロ、という3編成にて、3ヶ月間にわたって全国で開催されたコンサート・ツアーです。

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES II Part.1-3」 コンサート・パンフレットより

 

同じパンフレット内での対談になります。

1996年というと映画「もののけ姫」(1997)の公開前年にあたり、イメージアルバムが完成した段階の頃です。この対談では「もののけ姫」の話というよりも、「となりのトトロ」制作当時の話や、その他ざっくばらんな内容になっています。

 

 

対談:宮崎駿 × 久石譲

音楽が映像を生かし、映像が音楽を生かした。
名作は、観る人すべでの心にしみて、送り手たちのもとを離れながら
いつまでも、いつまでも生きつづける。

久石:
はじめにお会いしたのは「風の谷のナウシカ」のときで83年ですから、もう13年も前ですね。以来、何本かやらせてもらってますけど、当時から宮崎さんのお仕事のスタンスって、基本的に変わらないですね。

宮崎:
そう、制作しながらなかなか結末が見えない。シナリオを作らないのは僕の悪いクセなんですよ。

久石:
最初お会いしたときも阿佐ヶ谷の仕事部屋に背景になるセルが張ってあって、で、宮崎さんはいきなり夢中になって説明をはじめて、僕はまだなにも把握してないんで、ハッ、ハッ、って言いながら全部聞いてる。それはもう、毎回同じ(笑)。

宮崎:
シナリオがないからこういう感じの世界ですって説明するしかないんですよね。本当ならアニメーションの場合は、とにかく絵コンテを全部揃えて、さぁこれを作るぞってみんなに示して、そこから準備期間がはじまるわけなんです。ある作業の段階を完結させてから次のステップにいくほうがたぶん生産性もいいし混乱もないでしょうけど、そうはいかないんですよね。

久石:
それはありますね。僕のケースだと、曲が全部書き終わってアレンジも決まって、それからレコーディングをスタートするのが理想なんですけど、たいがい1、2曲しか決まってないままワッと始めるんで、やりながら右往左往してるって感じです。その段階で僕が一番大切にすることは、”モノを作るときに視点がずれないように作りたい”ということなんですよね。日本では、アクションものの中にホームドラマ的要素が入ったりして、変わってしまうような映画やドラマが多いと思いますが、それだと本当の意味のリアリティがなくなっちゃうと思うわけです。だから音楽は絶対にそうならないようにしようと思っています。その場合、全体が見えないと5倍か10倍苦しむ感じがします。

宮崎:
ましてやこっちの方向でいいだろうと思ってレールを敷いて、方向を間違えてたらこれは深刻だしね。だからこの方向で間違ってないかどうかってのは、日々さいなまれながらやってますよね。


久石:
「もののけ姫」のイメージアルバムを作ったんですが、いつもなら考えるのに1ヶ月、制作に1ヶ月だったのが、今年のアタマから考えて実際に3月からレコーディングに入って6月までかかってしまった。今の自分が提供できる音楽的なラインはこれだろうと決めて、日本的な要素などを考えながら視点がずれないように音楽を作っていくと、5、6曲まではすぐいけますが、残りが非常に厳しいんです。

宮崎:
それは、僕が思うにCDなんぞができたせいですね。つまりね、音楽を作るっていうのと、CDの容量と関係あるでしょ。

久石:
ええ、大いにありますね。

宮崎:
だからみんなレコード時代よりも量的にいっぱい作んなきゃいけないでしょ。漫画でいうと、週刊で描いてる人がホントにのめり込むとね、それでパーになっちゃう。眠くならないアンプル飲んで5日間寝ないで描いたっていうんですね。これはね、才能の”大根おろし状態”というかね、そういう感覚になるんじゃないかなと思いますね。

久石:
CDだと1枚の収録時間が今はもう70分くらいですし。このままDVDになったら、音だけならものすごい容量ですからね。

宮崎:
そんなもん作ったら死んじまうんじゃない? どんどん多消費になって、そのことがホントにいろんな人の才能を脅かしてるって思うんですね。

久石:
だからそういうものに使われちゃわないで、いろんなアイデア出すしかないんですね。たとえばDVDがコンピューターとうまく連動できるならば、素材の音をそのまま全部入れてしまってユーザーが自分でミックスできるとか、映像の方でも未編集のものを入れておいて、これは監督の考えた編集、あなたはあなたの編集で映画を作ってください、というように。みんないろいろ新しい手を考えるでしょうね。


久石:
今年ずいぶん宮崎さんの本を読ませてもらったんですが、「時代の風音」という対談集では司馬遼太郎さん、堀田善衛さんとお話されてましたね。

宮崎:
ええ。司馬さんと堀田さんってぜんぜん違う人なんですよ。堀田さんは、日本人という視点からじゃなくて人間とか歴史とかいう視点で世界を見ていて、その中で日本も見ている。でも司馬さんという人は逆に、日本人であるというところから世界を眺める。徹底的に日本人であろうとすることにこだわってきた人です。

久石:
僕がふっと思ったのは堀田さんと司馬さんと宮崎さん、どなたも私小説と縁のない人だなってことです。日本の文学ってどうしても私小説がメインで始まっているじゃないですか。そういう意味でいうと堀田さん、司馬さんの作品に日本的な私小説の感覚はないし、宮崎さんの作品も私小説じゃない。もしかしたら僕のやってる音楽もあんまり私小説的な世界にこだわってないな、と思ったんです。

宮崎:
音楽をそういうふうに見る努力を僕はぜんぜんしてないから、音楽に関して言葉がないですね。

久石:
でも言葉といえば音楽って抽象的すぎて、音で何か言いたいと思っても無理ですよね。僕のようにピアノだとか弦だとか、インストゥルメンタルでやっている人間が、たとえばこの時代に対して僕の意見を言いたいと思ったら、ベートーヴェンのように1時間ぐらいの作品を書かなきゃならない。でも、それはエンターテイメントやポップスというフィールドから逸脱して、芸術家の方にいってしまう。それは僕のフィールドとは違うと思ったときに、インストゥルメンタルで音楽をやっていくことにすごく限界を感じますね。

宮崎:
仕事に関していうなら、僕は自分たちの仕事を駄菓子屋の商売だと決めてるんです。それはどういうことかというと、子供に一瞬”買い食い”の楽しみを与えられればそれでいいんだということです。ただ、駄菓子屋といってもいろんなものがある。売れりゃなんでもいいんだって、いいかげんな色素とか保存料とかじゃかじゃかつっこんで作っちゃうんじゃなくて、とにかく”駄菓子屋として一生懸命作りました”という駄菓子屋です。そういうことじゃなくて、名の通った、うまくはないんだけどすごいんだっていう和菓子を作りたいのなら、この場所は違うって思うんですね。

宮崎:
若いときはもう少し青くさく、「この映画さえできれば世の中変わる」なんて本気で思ってましたけどね、出来上がってみると何も変わらないんですよ。そういうときに自分たちのつっかえ棒はなんだろうと考えたら、この仕事の過程で自分たちがどれだけのことを手に入れたかってことくらい。メッセージを伝えるために映画を作るんだったら、書きゃいいんですもんね。

久石:
あっ、そうですね。

宮崎:
久石さんもそうでしょうけど、インタビューなんかでね”この作品のメッセージはなんですか”なんて聞かれるでしょ、黙って見てくれとしか言いようがないですよね。つまんなかったら途中で帰っていいし。もし少しでも心にひっかかることがあったら、それはなんだろうと感じたり、ときどき思い出してみてくれたらいいわけで。「テーマは? メッセージは? どこが見どころですか?」って言うけど、見どころ以外のとこは見どころじゃないのかって(笑)。

久石:
どんなことを思って作られましたか、というたぐいの質問は僕もよく受けますけど、言葉で説明するんじゃなくて、音楽を聴いてわかってもらいたいですね。

宮崎:
「紅の豚」のときね、お金もいっぱいかけちゃったし、罪ほろぼしにキャンペーンに協力しますって、日本全国を歩いたんです。そうすると1日に何回も、「なぜ主人公は豚なんですか?」「いつも空を飛ぶんですね」って聞かれるんで(笑)、だんだんハラがたってきてみんな違う答えをしたりしてね。

久石:
ハハハハッ! 大きなお世話ですよね。


久石:
「となりのトトロ」では、”トトロ”が登場するシーンで7拍子の音楽から音を抜いたことがありましたね。宮崎さんが「ここもう少し音うすくなりませんか」とか「少なくなりませんか」とかおっしゃって。僕もなんだかちょっと、”too much”だと感じてて、あのときにそれを指摘する宮崎さんて、すさまじいなあと思いました。

宮崎:
いやいや、久石さんの技術ですよ。久石さんがあの機械がいっぱいならんでる部屋にすわって、「音を1個ずつ抜きましょう」って、ひとつおきに抜いたんでしたね。それでトトロが現れてくる絵にあわせたら、余韻があって不思議にピッタリだった。こんなこともあるんだって思いましたよね。

久石:
あのとき、いったんは”音楽なし”ってことになったのが、ミーティングの翌日に電話をいただいて、まだ悩んでいらしたんですよね。やっぱり音楽を考えてほしいって。でも入れない可能性もあるけどいいですか、とおっしゃってた。それだけすごく難しいシーンでしたね。

宮崎:
トトロでは、打合せのとき確か”子供たちが歌ってくれる歌をぜひ作りたい”って話をしたんでしたね。

久石:
ええ。実は「さんぽ」は教科書に載るようになったんですよ。僕の唯一の、子供公認曲です(笑)。

宮崎:
それはすごいなぁ。この前ね、僕が時々行く山小屋の近くで「ラピュタ」の映画会をやった人たちがいるんですよ。最後に「君をのせて」の大合唱になって主催者が感動してました。おまけに蛍が飛んできたりして!

久石:
うれしいですねぇ。僕は、自分の子供が小さい時期にギンギンの現代音楽をやっていて、3、4歳の自分の子を見ながらアイデアが出る一番重要なときに子供の曲を作れなかったんです。それを今でもすごく後悔してるんですけど、トトロをやらせてもらったことで、その世界の仕事を残せたことが特にうれしいんです。

宮崎:
子供のいい歌が作られて残っていくというのはいいことですよね。

久石:
はい。ぜひ「もののけ姫」もいいものにしたいです。その制作がピークのときに、こうしてお話させていただいて、今日は本当にありがとうございました。

(PIANO STORIES II ~The Wind of Life 1996 コンサート・パンフレットより)

 

 

Related page:

 

 

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Blog. 「久石譲 PIANO STORIES II Part.1-3」(1996)コンサート・パンフレットより

Poated on 2015/9/13

久石譲の過去のコンサートから

「久石譲 PIANO STORIES II ~The Wind of Lie」
Part.1 Orchestra Night (2公演)
Part.2 Ensemble Night (7公演)
Part.3 Piano Solo Night (11公演)

なんとこの1996年は、当時最新作ソロアルバム『PIANO STORIES II』を引き下げ、上のように3タイプでのコンサートが精力的に開催されました。オーケストラ編成、アンサンブル編成、ピアノ・ソロ、しかもこれが10-12月という3ヶ月間のなかで、怒涛のように全国で開催されていたわけで伝説的です。

演奏プログラムもそれぞれの編成を活かした当時の久石メロディー満載のラインナップです。当時は小ホールもそうですが、短大や学園祭でも演奏していたんですね。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 1 Orchestra Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/10/14-15

[公演回数]
2公演 Bunkamuraオーチャードホール(東京)

[編成]
ピアノ:久石譲
指揮:金洪才
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

[曲目]
タスマニア物語

『My Lost City』より
1920
冬の夢
Madness

『もののけ姫』より
アシタカせっ記
シシ神の森

DA・MA・SHI・絵

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends
Angel Springs
Highlander
Kids Return
Asian Dream Song

【Melody Fair】
魔女の宅急便
「水の旅人」より FOR YOU
「水の旅人」より THEME

—–アンコール—–
Two of Us
「ナウシカ組曲」より 鳥の人

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 2 Ensembles Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/11/1-22

[公演回数]
全国7公演
11/1 長野県民文化会館中ホール(長野)
11/9 山口芸術短期大学(山口)
11/15 赤坂BLITZ(東京)
11/20 シアタードラマシティ(大阪)
11/21 草津文化芸術会館(滋賀)
11/22 関内ホール(横浜)

11/3 国立音楽大学講堂大ホール [国立音楽大学芸術祭]

[編成]
ピアノ:久石譲
String Quartet
Contra Bass
Marimba
Wood Wind

[曲目]
794BDH
Venus

『MKWAJU』より
MKWAJU
SHAK SHAK
LEMORE
TIRA-RIN

Tango X.T.C
Modern Strings

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends<ピアノソロ>
Angel Springs
Kids Return
Highlander
Les Aventuriers
Asian Dream Song

DA・MA・SHI・絵

—–アンコール—–
君だけを見ていた<ピアノソロ>
Madness

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 3 Piano Solo Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/12/10-27

[公演回数]
全国11公演
12/10 柏崎市民会館(新潟)
12/11 砺波市文化会館(富山)
12/12 松本市文化会館(長野)
12/14 パナソニック・グローブ座(東京)
12/15 パナソニック・グローブ座(東京)
12/16 仙台電力ホール(仙台)
12/19 米子市文化ホール(鳥取)
12/21 広島アステールプラザ(広島)
12/24 中野市民会館(長野)
12/26 しらかわホール(名古屋)
12/27 いずみホール(大阪)

[編成]
ピアノ:久石譲

[曲目]
The Inners
Dream
君だけを見ていた

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends
Angel Springs
Kids Return (MIDI)

Fantasia for Nausicaä
Drifting in the City

Cape Hotel
Tango X.T.C
※東京公演のみゲスト。
2曲差し替え<ゲスト:茂木大輔(Oboe)>
Two of Us
DA・MA・SHI・絵

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
The Wind of Life
Les Aventuriers (MIDI)
Asian Dream Song (MIDI)

—–アンコール—–
風のとおり道
Labyrinth of Eden

 

 

この伝説的コンサートを紐解くべく、当時会場で販売されたコンサート・パンフレットから、いくつかご紹介していきます。

 

 

【message】
-これは、まるでトライアスロンのような、
刺激的で、かつ知的な『久石譲の世界』だ。
”Orchestra Night 〈10月〉”
”Ensemble Night 〈11月〉”
”Piano Solo Night 〈12月〉”
漕いで、泳いで、そして走る。
エネルギーをそそいだパワフルなステージから
”最高の音楽”を演出していく、音楽の”トライアスロン”そのものなのである。

10月は『DA・MA・SHI・絵』の初演など、シンフォニックなサウンドで贅沢な響きを、11月ではミニマルを中心とした前衛的なアンサンブルで斬新なステージ構成を、12月はじっくりと落ち着いた雰囲気を醸し出すピアノ・ソロ。それぞれに個性的な表情が新鮮だ。

あの『Piano Stories』のリリースから8年。新譜『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』で、再び”原点”であるピアノに戻った久石譲が、ピアノとストリングスによる”良質”のアコースティック・インストゥルメンタルを提案している。

新作・初演に、これまで親しまれてきた曲を加えた、その1曲1曲が、ポップでアヴァンギャルドなアレンジメント・センスによって、限りなくピュアなメロディを創り出していく。

 

【楽曲解説】

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 1 Orchestra Night

■オープニングを飾る”タスマニア物語”は映画「タスマニア物語」(降旗康男監督)のメインテーマ。3拍子のリズムによって醸し出される雄大なスケール感が印象的。

■1920年代、”アール・デコ”の時代にインスピレーションを得たアルバム「My Lost City」(1992)からは”1920” ”冬の夢” ”Madness”の3曲。シンフォニック・コンサートにおいてもたびたびプログラムに取り上げられ、その美しいメロディと重厚なオーケストレーションの響きがみごとな統一感を出している。

■「もののけ姫」は1997年夏に公開予定の宮崎駿監督作品。公開に先がけてすでにイメージアルバムが発売されており、コンサートでは初演となる。”アシタカせっ記”(メインテーマ)他が演奏される予定。-「もののけ姫」は日本にとどまらず、これから世紀末を迎える、世界中のすべての人々に向けて創られるものだと思う。その音楽を手がけることになって、いま一番考えていることは、日本人としてのアイデンティティーをどう保ち、どう表現するかということである。映画の公開まで、宮崎監督との豪速球のキャッチボールが続きそうだ。「もののけ姫 イメージアルバム」より

■アルバム「α-BET-CITY」に収録されている”DA・MA・SHI・絵”はオーケストラ・バージョンでは初演となる。サンプリングを使用したミニマル的な原曲を再構成、弦・管楽器の広がりのある響きと爽快なリズムのコンビネーションが小気味良さを生み出している。

■今秋10月下旬発売予定の新譜「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」より、5曲演奏される。オーケストラでの演奏はもちろん初演。”Friends”はトヨタ「クラウンマジェスタ」CMで、”Angel Springs”はサントリーウイスキー「山崎」CMで、それぞれなじみ深いメロディとなっている。また”Kids Return”は今年7月に公開された北野武監督の最新作「Kids Return」のメインテーマ。”Asian Dream Song”は、久石譲が総合プロデューサーを務める「長野パラリンピック冬季競技大会」(1998年開催)の大会テーマ曲として作曲された。

■Melody Fairでは、これまでに発表された数多くの作品の中から印象的なメロディ3曲を取り上げる。久石譲の魅力を再認識させてくれるような曲ばかりである。”魔女の宅急便”は1989年宮崎駿監督作品「魔女の宅急便」のテーマ曲。「水の旅人」(1993年公開/大林宣彦監督作品「水の旅人 ~侍Kids~」)はオーケストラとピアノによって、よりシンフォニックに再現されたスケールの大きい作品。”THEME”は文字通り、この映画のメインテーマ、”FOR YOU”はエンディングで中山美穂が歌って話題になったが、インストとしてもとても美しい曲。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 2 Ensembles Night

■オープニングの”794BDH”はマツダ「ファミリア4WD」CM曲。後にCM曲を集めたアルバム「CURVED MUSIC」に収録。”Sonatine”は1993年公開の北野武監督の話題作「Sonatine」メインテーマ。スリリングなメロディラインが印象的。”Modern Strings”はアルバム「I am」(1991)の中でも、ストリングスの裏アップ・ビートのカッティングが耳に残る、過激な作品。センチメンタルなタンゴの響きが懐かしい”Tango X.T.C.”は1992年のソロアルバム「My Lost City」に収録。

■『MKWAJU(ムクワジュ)』と題したこのコーナーでは、1981年にリリースされたアルバム「MKWAJU」から4曲演奏される。パーカッション・グループ、ムクワジュ・アンサンブルのために書かれたこの組曲は、アフリカの民族音がうから得た音型をもとに、アフリカのリズムが持っている多重的なリズム要素を、構造として”見せる”ことを目的として作曲した作品。ミニマル・ミュージックのおもしろさも味わえる。

■この秋の新譜「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」は、ピアノ&ストリングスの編成を中心としたアコースティック・インスト・アルバム。このコンサートでは、久石譲のプロデュース&アレンジによるストリングス、木管等のアンサンブルが、斬新なサウンドを聴かせてくれる。『アンサンブルの魅力』を充分に堪能できる構成となっている。

■”DA・MA・SHI・絵”はアルバム「α-BET-CITY」の中の1曲。原曲は、ミニマル的なサンプリングによる弦楽器、管楽器の響きが心地よい、オーケストラ的な広がりを持つ作品。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 3 Piano Solo Night

Part 3 Piano Solo Nightでは、これまでリリースしてきた代表的なアルバムの中からセレクトした曲を、ピアノソロそして、ピアノプレーヤーとのジョイントによる演奏で構成していく。「MKWAJU」「I am」「PIANO STORIES」「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」等は、いずれも、その音のイメージひとつひとつが吟味され表現されたアルバム。久石譲の感性が光るメロディ・ラインが、独自のピアノ・ワールドを創り上げる。

■ピアノプレーヤーとの”協演”
〈ピアノ・ソロ・ナイト〉で独自の世界を表現するのは、一人と一台の織りなす美しいハーモニー。ピアノプレーヤーがひとつのテーマを繰り返し、そこに生で演奏されるピアノが絡んでゆく。”久石ワールド”が2台のピアノによって紡ぎ出される。

「ピアノプレーヤーは、人間の可能性をより拡大するシステム。たとえば同じテーマを、ずっと同じテンポで弾くという、難しい部分を担当させています」 -久石譲

(【message】【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

楽曲解説からもわかるとおり、コンサート編成に合わせて楽曲を再構成するという、久石譲のスタンスの土台がつくられていった、そんな時代のような気もします。

これがのちの、オーケストラ作品であれば「WORKSシリーズ」「ミニマリズム・シリーズ」、アンサンブル作品であれば、「PIANO STORIESシリーズ」や「Shoot The Violist」など。

現在からこの20年近く前を振り返れば、簡単にそう言い表せてしまうのですが、やはり久石譲音楽活動において、コンサートというのは作品になる前段階もふくめた、重要な実験の場、創作活動の源、楽曲が成長していく場のような気がしてきます。

作品化されるまでに5年以上経過するものも常ですが、コンサートで披露(しかも幾度にわたって)された作品たちは、これからもいつか作品化されていくのではないか、と。。。

たとえば、「DA・MA・SHI・絵」。オリジナルが「α-BET-CITY」(1985)に収録されているわけですが、この1996年にオーケストラ初演されてから、その後も数々のコンサートで取り上げられてきて、オーケストラバージョンとしてCD作品化されたのは「ミニマリズム」(2009)。なんと13年という月日が流れています。

アンサンブル・バージョンもおそらくこのツアーあたりが原型だと思うのですが、コンサート演奏、修正・改訂を重ね、CD作品化されたのは…「Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~」(2000)。

久石譲の音楽と歩んでいくというのは、そういうことなんじゃないかと、そんな心境で当時のパンフレットを見返していました。久石譲のエネルギーが四方に爆発し、かつそれを収拾つけるかのように多種多彩な創作活動と演奏活動。そんな当時40代の走りつづける久石譲を感じます。

 

 

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Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

Posted on 2015/9/10

クラシックプレミアム第44巻は、ヤナーチェクとバルトークです。

いろいよ終盤は近代に突入しています。

 

【収録曲】
ヤナーチェク
《シンフォニエッタ》
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1987年

バルトーク
管弦楽のための協奏曲 Sz.116
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
シカゴ交響楽団
録音/1980年

《ルーマニア民俗舞曲》 Sz.68
エルネスト・アンセルメ指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
録音/1964年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」 ルポルダージュ
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015 リハーサルを取材

今号では久石譲によるエッセイ(音楽講義?)はお休みです。

ルポルタージュとして、8月に開催されたW.D.O.コンサートの、クラシックプレミアム編集部によるルポルタージュとなっています。前年(W.D.O. 2014)のルポルタージュにつづき今年も。うれしい限りです。

こちら ⇒ Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

ルポルタージュでは、普段わからない舞台裏が垣間見れることが一番です。2日間のリハーサル風景や、楽曲が仕上がっていく過程が、たっぷりと語られています。今年はどんな舞台裏だったのでしょうか。

 

 

昨年に続いて、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による「ワールド・ドリーム・オーケストラ」のコンサートが8月に開催。今年は8年ぶりの全国ツアーで、大阪(8月5日)を皮切りに、広島(6日)、東京(8日・9日)、名古屋(12日)、仙台(13日)をめぐる。そのリハーサル(3日・4日)のようすを編集部が取材した。

今回の「ワールド・ドリーム・オーケストラ」のプログラムは、久石さんが昨年から構想を練り、ぎりぎりまで検討したプログラムだという。それは戦後70年の大きな節目の年に行う「ワールド・ドリーム・オーケストラ」に、特別の想いを込めていることの表れなのだろう。その結果、すべて自作品で構成され、その大半が世界初演だ。ツアーでめぐる都市に広島や仙台があることからも想いの強さが伺える。

挨拶をしようとリハーサル直前の楽屋に向かう。中へ招じられるとそこには楽譜に向かって集中している久石さんの背中が見えた。気安く声をかけられるような雰囲気ではない。が、一瞬の後、くるりと振り向くと笑顔だ。

 

【15時 リハーサル開始 セッション①】

演奏会は2部構成で、第1部は、久石さんのピアノとチューブラー・ベルと弦楽合奏による《祈りのうた》に始まり、4楽章からなる交響作品《The End of The World》、続けて1962年に発表されたスタンダードナンバー《The End of the World》(邦題「この世の果てまで」)を久石さんが再構成した作品で終わる。

リハーサルの最初は大曲《The End of The World》第1楽章だ(リハーサルでは曲の楽器の編成等で演奏の順を決める)。その冒頭から久石さんの指示が飛びリズムの刻み方のこまかいニュアンスを伝えていく。このリズムは曲全体を覆うことになる重要なモティーフなのだ。指示される前と後の演奏を比べると、アクセントの置き方の微妙な違いで、これほど表情が変わるのかと驚く。巨大な音の魂が押し寄せてくるような楽章だ。この《The End of The World》の原曲は、2008年、久石さんが「9.11」に衝撃を受けて作曲した作品なのだ。

第2楽章は、中東風のメロディーを歌うチェロのソロとティンパニの応答で始まる。濃厚でエキゾティックな香り。やがてアルト・サクソフォーンのソロでジャズ風の展開となり、オーケストラ全体がスウィングしてくる。それを先導して久石さん自身がスウィングしている。身体全体からリズムが溢れているようだ。16時15分に休憩。

 

【16時35分~17時45分 セッション②】

久石さんのピアノとオーケストラによる《紅の豚》から始まる。これは第2部で演奏される曲。そしてテレビCMで聴きなれた《Dream More》。メロディーは聴きなれた曲だが、久石さんの新たな書き下ろしによる豊饒な響きのオーケストラ作品になっている。速い分散和音の繰り返しを異なる楽器で分けて受け持つという離れ業を聴かせる。それが楽器を変えながらメロディーを支えていくのだが、ぴたりとリズムが合う時の爽快感は格別だ。1時間の食事休憩。

 

【18時45分~19時45分 セッション③】

ここからオーケストラに混声合唱とカウンターテナーが加わる。《Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015》は、映画『風の谷のナウシカ』の音楽を演奏会用の作品として発表してきたもののいわば集大成ともいえる交響詩。演奏会では第2部の冒頭に演奏される。破壊と再生の叙事詩が、レクイエムのディエス・イレ(怒りの日)や壮大なフーガ、低弦が唸る不気味な音、清澄な女声合唱などで綴られていく。そして《The End of The World》の第3楽章。カウンターテナーの高橋淳さんの深く強靭な声が印象的だ。

 

【20時~21時 セッション④】

引き続き、オーケストラと混声合唱とカウンターテナー。《The End of The World》の壮大な第4楽章。次いで久石さん再構成版《The End of the World》で、オーケストラと混声合唱にカウンターテナーという珍しい組み合わせなのだが、心に強く訴えてくるものがある。そしてこの日の最後に《祈りのうた》。久石さんのピアノとチューブラー・ベルの応答に弦楽合奏が加わる静謐な音楽だ。今回の演奏会が、この曲から始まる意味は大きい。

 

翌日の4日のリハーサルにも顔を出した。前日と同じ《The End of The World》の第1楽章から始まる。するとオーケストラの音がまったく違う。音は厚く豊かになり、複雑なリズムもソリッドになっている。たった1日のリハーサルでここまで仕上がるのかと驚く。休憩時に垣間見た久石さんの表情も高揚したなかに確信がみなぎっていた。21時までリハーサルが続き、そのまま大阪入りするのだという。いよいよツアーが始まる。

(クラシックプレミアム 第44巻 より)

 

 

2日間にわたる濃厚なリハーサルだったようです。2日間ぶっ通しではあるものの、2日間で仕上げる集中力は、久石譲も新日本フィルも、さすがはプロだなと感嘆します。

さて、今年2015年の一大イベントとなった「W.D.O.2015」ですが、コンサート・レポートや、公式パンフレット内久石譲インタビューなど、興味のある方はそちらもぜひご覧ください。

そしてその歴史の1ページを刻んだコンサートの、WOWOW放送も日にちが迫ってきました。

 

WDO2015 Related page:

 

久石譲 コンサート 2015 W

 

クラシックプレミアム 44 ヤナーチェク バルトーク

 

Blog. 「かぐや姫の物語をつくる」ドキュメンタリーより 久石譲音楽制作軌跡

Posted on 2015/9/5

2013年公開 映画『かぐや姫の物語』スタジオジブリ作品宮崎駿監督の全作品を手がけた久石譲が、初めて高畑勲監督とタッグを組むことになった作品です。

 

2013年12月6日 22:00-【前編】
2013年12月13日 22:00-【後編】
WOWOW ドキュメンタリー番組 ノンフィクションW
「高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。 ジブリ第7スタジオ、933日の伝説」

 

この番組にて映画制作現場が特集放送されました。そして、2014年12月には、映像を大幅に付け加えて再編集した新しい作品として『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』がブルーレイ/DVD化されています。

タイトルの「第7スタジオ」は、今作のために新設されたスタジオ、「933日」は、現場にカメラが入った2011年5月5日から公開日までの日数です。その2年半にわたる制作過程がなんと200分にも及ぶドキュメンタリーとなっています。

WOWOW放送時にはあまり登場しなかった久石譲も、この映像作品では計40分以上特集されているところがポイントです。

この映画に関わった多くの関係者が登場します。そしてリアルな現場、ものごとが決まる瞬間、白熱したバトルなど、、いろいろな貴重な映像が収められています。映画『かぐや姫の物語』を深く読み解くうえで、その密着取材は渾身の記録だと思います。そんな歴史を刻んだドキュメンタリー映像から、久石譲に焦点をあててご紹介していきます。

 

 

【音楽:久石譲になるまで】 (チャプター:二〇一三年 一月)

かぐや姫の物語 933 1

高畑:
「悪人」の音楽は成功したと思っている。(以後、その説明)そういうものを要求するんだったら、新しい境地を拓くことができると思う。ドドーンとひとつやってくださいというね。

僕は久石さんについては、同じジブリでやってるのにね、宮さんとのコンビが確立されている以上、久石一色にするのはあまり良くないんじゃないか、やっぱりどんなに優れていてもコンビがあるなら違うほうがいいんじゃないかなって思うんだよね。ジブリにとってもそうじゃないかなって。

スタッフ:
そこで選択肢がせばまるのはあまりよくないんじゃないかと…

高畑:
難しいんですよ

 

悩んだ末、2012年暮れ久石譲に音楽をお願いすること決断、2013年1月4日、スタジオジブリにて高畑勲と久石譲の最初の打ち合わせ。

かぐや姫の物語 933 2

ここで挨拶と、映画『悪人』での音楽の話、そして『かぐや姫の物語』でどういう音楽が必要かという話など。

イメージをつかむためにその時点で出来ている映像を試写。(主に予告編で使われていたシーンなど)試写後の談話中、ここで「天人の音楽」の構想が高畑勲監督から飛び出す。

かぐや姫の物語 933 3

補足)
このエピソードに関しては数多くのインタビューでも久石譲から語られています。興味のある方はご参照ください。

 

打ち合わせ後、高畑勲監督は映画『風立ちぬ』制作現場の宮崎駿監督を訪ね、「久石さんに音楽をお願いすることにしました」と一言伝える。

このあたりがお二人の監督の親密な関係性と、かつ尊重と礼儀を重んじると感じる瞬間でした。

かぐや姫の物語 933 4

 

劇中でかぐや姫で琴を奏でるシーンは、音に絵を合わせる必要があるため、まずはその楽曲からの音楽制作および収録という流れに。

高畑監督のオーダーは、古い中国楽器「古琴(こきん)」で、それよりも新しい「古箏(こそう)」とどちらなのかなど確認する電話場面も。ただ「古琴」で実際に録音しようとすると困難や制約も多く、一般の人も知らないので音は「古箏」を使ってもいいのではと高畑監督。

そして楽曲収録。

「古箏」を使うことになったが、金属の弦を使った古箏では音が響きすぎることが問題に。タオルを数箇所につめ残響を減らす効果や、演奏用爪を外し、音を柔らかく近づける。

そういった試行錯誤から実際の楽曲録音までが一部始終収録されているかなり貴重なレコーディング風景、まさにその瞬間をとらえた内容です。

かぐや姫の物語 933 5

かぐや姫の物語 933 6

ここまで約20分間

 

【音楽:久石譲】 (チャプター:同)

最初の打ち合わせから半年、再び音楽打ち合わせが始まる。

ピアノスケッチをもとに、実際このシーンにどうかなと想定した場面にデモ音源を流していく。すべての楽曲が貴重なピアノスケッチであるということ、そして制作過程なので、実際に映画では使用されなかった、そんな幻の楽曲も登場します。

例えば、都にやってきたかぐや姫がうれしさのあまりはしゃぐシーン。当初、かぐや姫の感情の高ぶりを軽快な音楽で表現したピアノスケッチが流れます。

これに対して高畑監督は、「この子が喜んでる感じもほしいけれど、同時にそれを外から見ている感じがあったほうが…多分ふさわしいんだろうなって。運命というか一体どうなるのかなという感じがつきまとったほうがいいなと。この子に(音楽を)付けないで。その方が必要なんだという感じがしてたんです。」と。

これをうけてその場ですぐ久石譲が、準備してきたものからチョイスした別の楽曲(ピアノスケッチ)をあててみます。満場一致でその楽曲に決定する瞬間が収められています。

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かぐや姫の物語 933 8

 

映画終盤、かぐや姫と幼なじみ捨丸が再会し飛翔するシーン。

このシーンにつける音楽がとりわけ難航します。

久石譲の事務所スタジオに高畑監督やプロデューサーが訪ねて、打ち合わせや映像と音楽を合わせながら検討するという場面です。

久石譲の心臓部ともいえる事務所スタジオが登場するのもかなり希少です。どんな部屋模様なのか、どんな機材が設けられているのか、はたまた本棚に並んでいる本は、壁に飾ってある額は、そんなところにまでつい目をこらしてしまいます。 (余談でした)

ここでは最終形であるオーケストラを想定して、ピアノスケッチで決定した楽曲素材たちが、シンセサイザーによる肉付け、アレンジされたデモ音源となっています。少しですがそういったシンセ版かぐや姫の音源も聴くことができるシーンです。

 

この密着取材シーンはキャプチャはおやすみするとして、そのやりとりが忠実に再現されている小冊子「熱風」での久石譲インタビューから。このエピソードにおける制作過程の四苦八苦、長時間に及ぶ紆余曲折とその結末、久石譲自身によって語られています。

 

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(中略)高畑さんに事務所まで来てもらったんです。そのとき、7時間半かけて全曲手直ししてやっと見えたので心底ほっとしました。そして、「ちょっとここは後で直して欲しい」という曲があったので翌日直しを送ったんです。そしたら、その翌日の夜11時に高畑さんが飛んで来て「やっぱりあそこの音楽は、ああ言っちゃいましたけどほかの曲か前に出ているテーマのほうが」って(笑)。

「来たーー!」って、「おとといの7時間半はなんだったんだ」って。ゼロからつくり直しですよ、そのときだけは、さすがに僕もムッとしましたね(笑)。ただあのときは、高畑さんも作画チェックを全部やっていて、効果音もまだ決まっていない状態で、監督って基本的に決定することが一日に何百ってあるんです。そのすさまじい量をこなしていた最中でしたから。一番大変な時期だったのではないかなと思います。
Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より 抜粋)
////////////////////////////////////////////

 

この対談でも語られていました。よっぽど印象的な音楽制作エピソードとなったのでしょう。

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高畑:
むしろ難しかったのは、捨丸とかぐや姫が再会する場面の曲です。それまで出てくる生きる喜びのテーマより、もうひとつ別のテーマが必要だと思ったんです。命を燃やすことの象徴として男女の結びつきを描いているので、幼少期の生きる喜びのテーマとは違う喜びがそこに必要ではないかと。それで別のテーマを依頼して書いていただいたのですが、やっぱり違うと思ってしまった。それで元に戻って、再び生きる喜びのテーマをここで高鳴らした方がいいと久石さんにお伝えしたら「最初からそう言ってましたよ」って(笑)。

久石:
直後に天人の音楽という今までの流れとはまったく違うテーマが出てきますからね。捨丸との再会シーンで切り口を替えちゃうと、ちょっと過剰になるんじゃないかという印象を持っていました。それで元通りでいきましょうということになったら、逆にものすごい勢いの曲が生まれましたよね。
Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)
////////////////////////////////////////////

たしかに久石譲は”最初からそう言っていた”ことが、このドキュメンタリー映像で記録として証拠として残っていたりします。

 

ドキュメンタリーからかいつまんで経緯を説明すると、

このシーンに思い入れの強かった高畑勲監督は、制作期間を経るにつけて、ここには既成の主要テーマ曲からの変奏ではなく、新しいメロディーが必要だ、このシーンのためだけのラブテーマがほしいとオーダー。

それをうけて久石譲はこれまで当てていた仮音源から、新しい楽曲をつくることに。

数日後。

久石:
47 48(飛翔の曲)非常に困ってまして。というのは、新曲を書こうということにこの前なったんですが…。ラブテーマ的な要素もあるという話もあったんだけれど…僕はちょっと、かぐや姫は捨丸を好きだったんだけれど、恋愛対象と思ってたのかどうか…自分のすごくいい時だった象徴として捨丸がいるとすると、何か泣かせてもあまり意味ないねという感じになっちゃうと…じゃあ楽しくてかつていい時代だったら、前の”歓びの音楽”の延長にも近くなってくる…。その辺を高畑監督と相談してから書いたほうがいいんじゃないかと。

ここで久石譲が迷いながらも提案した音楽は、新たなメロディで感情の高ぶりを表すのではなく、場面全体を包み込むような音楽だったようです。

(ここでの幻の楽曲たちは流れません)

それからまた数日が経過し、楽曲の直しを聴いた高畑監督は、前回糸口が見えたはずの音楽にまた違和感を覚えてしまう。

要は包みこむような音楽だとムードミュージックになってしまって、やはりここには湧き立つようなメロディが必要だと、考えが二転三転して……。

この後、久石譲のもとへ直接お詫びと話をしに行ったようです。「直接行って話をしないと悪いでしょう。いろいろな意味で。」と深くつぶやく監督。

 

2013年10月8日 音楽レコーディング風景

かぐや姫の物語 933 9

かぐや姫の物語 933 10

東京交響楽団によるホール録音の模様から、上述「飛翔」シーンの音楽レコーディングを1曲まるまる聴くことができます。

ナレーション:
物語の前半、里山での暮らしの豊かさを表す音楽、久石が奏でたのはそれをアレンジしたメロディだった。幼いかぐや姫がなにげない日常のなかで抱いていた幸福感、クライマックスの”生きる喜び”につながった。

ここまで約20分間

 

最後に、2013年10月30日初号試写の模様が収められています。久石譲も同席した初号試写では、試写後のふたりの会話も少し収録されています。

高畑:
聴いてても本当によかった。何回聴いてもいいですから。

久石:
共同でやってるから。

と笑顔で握手をかわす二人の巨匠。

かぐや姫の物語 933 11

 

スタジオジブリ映画は、最新作公開ごとに、ドキュメンタリーも制作され、TV放送などもされていますが、ここまで久石譲にスポットを当てて、かつ記録として公開(作品化)されたのは、映画『もののけ姫』のドキュメンタリー以来ではないかというくらいの充実ぶりです。

宮崎駿監督との全10作品でも、このくらい久石譲音楽制作現場が映像記録として見ることができると、ファンとしてはありがたい限りなのですが。ドキュメント・フィルムは残っているとは思うのですが、世に出ることはないのでしょうね、残念です。

とはいえ、このドキュメンタリー映像作品は、このように久石譲音楽が誕生するまでの軌跡が刻まれています。

世に送り出された完成品がすべて、多くを語らず、それでももちろよいとは思うのです。でもこのような制作過程や記録を見ると、やはり完成版の作品への受け止め方や聴き方がかわってきます。記録として残すにふさわしい、残されるべき、そんな映画『かぐや姫の物語』にまつわるドキュメンタリーでした。このドキュメンタリー映像の活字版ともいえる、久石譲インタビューや高畑勲監督との対談も下記ご参照ください。

 

 

『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』

【チャプター】

  • この映画は声から始まった
  • 十四年の理由
  • 天才と職人と演出家
  • 高畑勲という現場
  • 二〇一二年 十二月
  • 二〇一三年 一月  (久石譲登場)
  • 主題歌、二階堂和美
  • プロデューサー、西村義明
  • 映画監督、宮崎駿
  • 音楽、久石譲  (久石譲登場)
  • 二〇一三年 十月  (久石譲登場)

 

 

Related Page:

 

高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。 DVD

高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。

 

Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 43 ~ラヴェル~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/8/31

クラシックプレミアム第43巻は、ラヴェルです。

 

【収録曲】
ピアノ協奏曲 ト長調
サンソン・フランソワ(ピアノ)
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音/1959年

《亡き王女のためのパヴァーヌ》
《水の戯れ》
サンソン・フランソワ(ピアノ)
録音/1967年

《ラ・ヴァルス》
《ボレロ》
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音/1961年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第42回は、
和音が音楽にもたらしたもの

まだまだ深い音楽講義はつづきます。ラストスパートといったところでしょうか。今回は和音の歴史について。

一部抜粋してご紹介します。

話の展開上、なかなか一部抜粋が難しい内容でしたため、今回はほぼ網羅しています予めご了承ください。

 

「クラウディオ・モンテヴェルディというイタリアの作曲家がいる。16~17世紀にかけて活躍した人なのだが、現代でも比較的演奏される機会があり、歴史上重要な作曲家の1人だと僕は思っている。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者でもあった。この楽器は16~18世紀によく使われた楽器で、擦弦楽器である。ヴァイオリンを鈍くしたような音色で、風情がありヨーロッパの大理石の壁に馴染む音、と言ったら多少イメージを感じてもらえるだろうか。ただ弾き方はチェロのように縦にかまえるのでヴァイオリン属とは全く別系列であると言われている。以前、中国映画でこの楽器を使ってスタジオで録音したが(なんで中国映画にヴィオラ・ダ・ガンバか? という疑問を感じる方もいると思われるが、長くなるので説明は省略)、音が小さくすぐピッチが悪くなるので、演奏よりもチューニングに時間がかかった記憶がある。だが、間違いなくヴァイオリンと同一視するべきではないと思った。」

「それはさておき、1607年、モンテヴェルディのオペラ《オルフェオ》が初演された。もちろんギリシャ神話のあのオルフェオとエウリディーチェの話である。このオペラは今も取り上げられることはあるので、是非観てほしいのだが、その中に〈天上のバラ〉というアリアがある。主人公オルフェオが愛する妻エウリディーチェを讃える喜びのアリアである。一聴してすぐわかるのは、ここでは明確なメロディーラインとそれを伴奏するハープなどの和音がしっかりあることだ。つまりポリフォニー音楽のような横に動くモティーフがいくつか組み合わされるのではなく、一つのメロディーを和音が伴奏するといった形態で、当時としてはそれまでにない音楽だった。もちろん彼が創始したのではない。大勢の作曲家がその時代に同じ方法を採用していたのは言うまでもない。」

「ハーモニー(ホモフォニー)音楽の時代が到来したのである。構造はいたって簡単、明確な旋律にわかりやすい歌詞、それを器楽奏者が伴奏するのだから(モノディ様式というらしい)、聴き手にとっても理解しやすい。僕はDVDで観たのだが、音楽が輝いており、屈折してなく、音楽の可能性を心から信じていた時代だったと思われる。DVD自体は当然近年に撮影されたものなのだが、オーケストラ・ピットの奏者が当時を思わせる服装で演奏していて、何かとても華やいだ気分になれた。いつか演奏してみたいと思ったのだが、《オルフェオ》では作曲家の各声部への楽器指定が徹底しており(その前は即興的に集まった奏者が演奏することが多かった)、そういう意味では最初の本格的にオーケストレーションされた作品だったかもしれない。」

「このホモフォニー音楽の意味は横に動く各声部の関係よりも、和音自体の進行が音楽をリードしていくことにある。その約束事は16世紀に確立された機能和声である。ドとソの表の5度とドと下のファの裏の5度が重要だと前に書いたが、この倍音からできたトライアングルが機能和声でも重要になる。それぞれの音を基音とした三和音(根音の3度上と5度上の音)の進行が音楽を決定する。」

「その①I-V-I(ド-ソ-ド)。これは学校などの朝礼で起立、礼、着席というときによく使う和音進行である。あれ?今の時代そんなことをする学校はあるのだろうか? まあいいや、次、その②I-IV-I(ド-ファ-ド)。これは教会などで最後にアーメンという時に使う和音進行で別名アーメン終止とも言われている。その③I-IV-V-I(ド-ファ-ソ-ド)。これは今の時代のポップスやジャズを含めた調性音楽の大半を占めている和音進行と言っても過言ではない。もちろんそれぞれの代理和音があるのでもっと複雑だが、考え方(基本)は同じだ。」

「そしてその要は長音階と短音階である。ポリフォニー音楽の時代に主流だった旋法はほぼこの長・短音階に集約され、機能和声は生まれた。この長音階と短音階からできる三和音をよく見ると構成音のうちドとソは同じである。違いは真ん中の3度の音ミである。このミがそのままか、半音下がるミ♭(フラット)かで、和音の性格がまるで変わる。長三和音と短三和音というのだが、身近にある楽器で弾いてみていただきたい。ドミソは明るい、そしてドミ♭ソは暗い。これに異論のある方は…かなり個性的であると僕は認定します(笑)。」

「ここで重要なのは音楽に感情が持ち込まれたということである。明るい、暗いと感じる和音が音楽の発展とともに、歓喜を表現したり、暗い悲しみを表現できるようになる。バロック、古典派、ロマン派、そして後期ロマン派時代へと時空を経るにつけ、音楽はよりエモーショナルなものへと変貌していき、機能和声自体がもはや機能しなくなるのだが、今はまだそれに言及しない。さて最後に具体的な話、ミが329Hz、ミの♭が311Hzでその差はわずか18Hz!この差が音楽を大きく変えたのだ。」

 

 

クラシックプレミアム 43 ラヴェル

 

Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 42 ~マーラー~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/8/23

クラシックプレミアム第42巻は、マーラーです。

マーラーを引用した久石譲インタビューは過去にもありますが、とりわけ本号収録の「交響曲 第5番 嬰ハ短調」については、映画『ベニスに死す』の考察とともに論じているものがあります。

 

Blog. 久石譲 「日本経済新聞 入門講座 音楽と映像の微妙な関係 全4回連載」(2010年) 内容紹介

 

 

【収録曲】
交響曲 第5番 嬰ハ短調
レナード・バーンスタイン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1987年(ライヴ)

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第41回は、
ハーモニーのための革命的方法論 - 平均律

ここ数号エッセイと思って読んだら火傷するようなとても難しい音楽講義がつづいています。理解するには何回も読まないと、もしくは理解できない、そんなことも実際多いのですが。

でもこういった音楽理論を知るということは、その作曲家がこのようなバックボーンをふまえて、自分の作品をどう作り上げているのか。音楽理論や音楽上のルールというのは、創作活動のきっかけとなる発着点になったり、いい意味での制約をもうけることになるからです。

これは久石譲における音楽創作活動においてもそうです。過去のコンサートパンフレットなどの楽曲解説や、最新のオリジナル・アルバム『ミニマリズム2』においても、そういったことを垣間見ることができます。

いかに理論・ルール・制約のうえで、独創的で新しい音楽を生みだすか。これは作曲家にとって永遠のテーマなのだと思います。そういった思考の発展ができたらおもしろいと思います。

一部抜粋してご紹介します。

 

「ポリフォニー音楽というのは複数の独立した声部で成り立っているのだが、旋律に対して別の旋律を付ける場合、そこには約束事がある。その約束事(技法)を対位法という。もちろん前回書いたとおり最初に理論があったわけではなく後付け、あるいは同時進行的に決め事とされていくのだが、ノエル=ギャロン、マルセル・ビッチュ共著の『対位法』(矢代秋雄訳)によれば、「旋律線、およびそれ等の累積に関する学問である。それは音楽を水平次元より考察する。これに対し、音楽を垂直次元より考察するのが和声法であり…」などと書いてある。」

「目が点になるような言い回しなのだが、学術理論書なのだから仕方ない。音大生だった頃、独学でこの本を勉強したのだが、なぜか授業を受けた記憶がない。授業があったのかどうか? あまり真面目な学生ではなかったから単にサボっただけなのかもしれないのだが。」

「今日の我々を取り巻く音楽、ポップスを含めてその大半が長音階と短音階でできている。それは1オクターヴに12の音があり、その数だけ、いや正確にいうとそれぞれの音の長音階と短音階の分だけ移調が可能である。つまりどの音からも同じ音階が得られる。このシステムはいつできたのか? 誰が1オクターヴを12に分けたのか? そんなこと気にならない方は、ここから先は読まないほうががいいかもしれない(笑)。」

「一つの説は紀元前500年ほどの古代ギリシャ時代のピタゴラスが作った音律。これは仮にドの音を決め、そこから5度上のソの音を決める。これは整数比で2対3である。今度はそのソをまたドと読み替えて5度上の音を決める。それを12回繰り返すと大本のドにほぼ戻る。もろん誤差は生じるのだが。おそらく弦を張り、軽く指で押さえながらよい音のするところ(前に書いた倍音)の整数比を求め、それを繰り返しながら数学として、あるいは自然科学として研究分析したものだと思われる。鍛冶屋の金槌からヒントを得たという説もあるがそれはどうだろうか? 金属はいろいろな雑音や複雑な共鳴をするため、その整数比を割り出すのはかなりの無理がある。この12音律は古代の中国にもすでにあったとされているので、根本は倍音の構造(構成音)を人類が探り当てていった結果だと僕は思っている。」

「この整数比で純正音程を求めていった結果できる音階が純正律である。ドとソが2対3、ドとファが3対4、ドとミが4対5というふうに、ある基準音を元に整数比で割り出した音律である。古い教会のオルガンなどがこの純正律なのだが、大変純粋な響きが得られるといわれている。が、問題がある。ある調にはよいのだが、他の調では基準音が違うため音程が変に聞こえる。いわゆる調子っぱずれなのだ。これでは転調や移調は困難だ。」

「それを解消したのが、今日我々が使っている12平均律という音律なのである。なんだか本当に難しくなってきたが「音楽の進化」を語るとき、どうしても通らねばならない、いわば関所のようなところである。もう少し辛抱をお願いする。」

「1オクターヴは整数比で1対2である。このことは前に書いた。今日の国際基準であるラの音は440Hzで、下のラの音は220Hzだから周波数の整数比は1対2である。オーケストラの演奏会に行くと楽団の人がオーボエに合わせて最初にチューニングする音である。実際には441または442Hzまで上がってきているのだが、それはやはりピッチが高いほど張りがあるというか輝かしいというか、抜けがよく聞こえるからではないかと思われる。」

「話を戻して、上のラの音(440Hz)から下のラの音(220Hz)を引くと220、つまり1オクターヴは220Hzということになる。これは12で割ることができない。先ほどの純正律はそれでも整数比でなんとか音程を選んだが、12の音すべてに誤差を設定することで12の音すべてを均一化したのが12平均律である。これによって転調や移調は自由になり音楽は飛躍的に表現力を増した。それは新しい音楽、ハーモニーの時代を支えた革命的な方法論だった。」

 

 

そういえば、本号巻末の「西洋音楽史 42」((岡田暁生:著)には、このようなことが書いてありました。

 

「私が思うに、音楽史の中で突出して格違いの存在は、バッハとモーツァルトとベートーヴェンである。おそらく多くの人々がこれには同意してくれるはずだ。ただし彼らが「別格」であるその根拠は、互いにかなり異なっていて、これが面白い。まずバッハ。よく音楽を感情表現だと誤解している人がいるが、「気持ち」だけでは絶対に曲など作れない。感情よりも前に、まず音の建築術ともいうべきものをマスターしていないことには、作曲家にはなれない。それはすなわち、きちんと調和するように音を組み合わせていく設計の技術の類である。バッハの作品はいわば、音楽という建物の作り方の百科全書である。作曲家の主観だの表現だのといったことと無関係なところで成立しているバッハの音楽は、その法則性や客観性の点で科学と近いという言い方をしてもいいだろう。その意味でバッハは人間的な世界を超越した存在であり、人類が死滅した後の地球にあってもなお響き続けるだろう音楽を書いた人とすら言えると思う。」

なにかつながるところがあります。

 

クラシックプレミアム 42 マーラー

 

Blog. 久石譲 「もののけ姫」インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2015/8/17

1997年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『もののけ姫』

2013年4月より創刊した「文春ジブリ文庫 ジブリの教科書シリーズ」。それぞれの映画作品を詳しく知るための解説本として、豪華執筆陣が深く作品の世界を解説しています。

そんな書き下ろしもあったり、過去のインタビュー掲載などの情報をまとめ、再編集しているのがこのシリーズです。映画公開前後の新聞や、関連本など、散らばった秘話たちを、作品ごとにまとめたものになります。

 

そのような企画ですので、もちろんそこには久石譲のインタビューも収められています。過去「ジブリの教科書 シリーズ」においては、映画公開と同年発売の「ロマンアルバム」という書籍での、久石譲音楽インタビューが再録されていることが多かったのですが、「ジブリの教科書10 もののけ姫」においては、「もののけ姫 ロマンアルバム」からではなく、「映画もののけ姫 劇場用パンフレット」からのインタビュー編集となっています。

ロマンアルバムでのインタビュー内容はこちら
⇒ Blog. 久石譲 「もののけ姫」 インタビュー ロマンアルバムより

 

同じようにこちらも1995-1997年音楽制作当時の貴重なインタビューになっています。

 

 

オーケストラをベースに非常に骨太な世界を望んだんです。

-まず、久石さんがこの作品について最初に宮崎監督からお話を伺った時に感じられた印象から伺いたいのですが。

久石:
「『なぜ今の時代に宮崎さんがこの作品を作るのか』という、作る重みをすごく感じました。あれだけの戦闘シーンや凄惨シーンを正面きって宮崎さんが描かれたのは初めてですしね。『二十一世紀にはもう夢も希望もないけれども、真剣に生きなければならない。とにかく今は現実を受け入れて、前向きに生きろ』という宮崎さんからの強いメッセージがこの作品の中にあるんじゃないかと思いました」

-そのような作品メッセージに対して、どのような音楽作りを考えられましたか?

久石:
「この映画の件で、初めて宮崎さんとお話した時に、直感的に今回、一番ベースになるのはオーケストラだろうと感じました。ですから二管編成の、六十六人によるオーケストラに、ほとんど全ての曲に入ってもらい、そこにエスニックな民族楽器と、隠し味的な電気楽器系をプラスするという形で作っていきました。こんなに大編成でやったのは、宮崎作品では初めてですよ。つまり非常に骨太の世界を望んだんです」

-今回、作品が日本を舞台にしているということで、音楽的にも日本的なものを取り入れたのでしょうか。

久石:
「自分にとって日本は非常に大切な要素だったので、もちろん積極的に取り入れました。ただ琵琶や尺八のように、その音がした瞬間に侍が出てきそうな音は極力引っ込めて、本当に音楽の骨格の中での日本的なものを相当意識して、五音音階と言いますか、西洋的なコード進行よりは、むしろアイルランド民謡に近い感じのものをベースに置きました」

-戦闘シーンの音楽作りについては。

久石:
「極力『これが戦闘シーンだ』というようなものは避けましたね。戦闘シーンの後で、そうならざるを得ないんだというような心境を歌うというような方向に考えて、レクイエムのように心情を表現するために音楽があるという考えを基本に作りました」

-この作品の音楽的構成についてはいかがですか。

久石:
「本当はワンテーマで押し切れれば良かったんですけど、二つのテーマ曲を要所要所にちりばめた形で構成しました」

-そのテーマ曲についてですが。

久石:
「一つは米良(美一)さんが歌った『もののけ姫』という曲から発生したバリエーションで、あの曲を器楽的に構成したものです」

-米良さんが歌われた曲はどういう風に作られたのですか。

久石:
「毎回、イメージアルバムを作る時に、作曲の手がかりになるような言葉を宮崎さんから頂くんです。その中の一つに、あの曲の詩のような言葉があったんです。宮崎さん本人は、きっと詩のつもりで書かれたわけではないと思うんですが、僕がこれは曲になるんじゃないかと思って、”歌”として仕上げたものです」

-もう一つのテーマ曲は。

久石:
「イメージアルバムの1曲目の『アシタカせっ記』という曲です。『幸せは来ないかもしれないけど、自分から生きろ』というような、のたうちまわっている登場人物たちを俯瞰して見ているような音楽として、映画の冒頭とラストに流れています。そうなると、この曲の方が本当のメインテーマとしての重みを持っていると僕は思いますね」

-最後に、ずっと宮崎監督の作品音楽を担当されてきて、久石さんがご覧になった宮崎監督の印象をお聞かせください。

久石:
「宮崎さんと僕の関係は、地方の大店の跡取り息子と、都会に出て遊んでいる次男坊という感じかな(笑)。僕にとっての宮崎さんという人は、自分の生き方の手本みたいな人。例えば僕は、綺麗な曲を書きたくて音楽をやっているわけじゃないんです。『じゃあなぜ曲を書いているのか』と考えた時に、宮崎さんの、自分はエンターテインメントであって、自分が作った映画を見おわった後に、何かちょっと残るものがあってほしいっていうスタンスは、ものを作る人間にとっての原点で、僕が常に曲を作りながら考えていることなんです。それを宮崎さんは作品の中に理想的な形で、実際に描かれているんです。

それともうひとつは、宮崎さんの人間としての生き方ですね。宮崎さんがいろんなところで発言されているものを読むと、この人は本当に世界を思い、日本を思い、自分を思い、あるいは自分の周りのジブリの若いスタッフを養うとか、いろんなことを抱え込んで、のたうち回っているのがよく分かるんですよね。それでいながら精神的には子供のままの純粋さを全然失っていない。そういう宮崎さんの姿を見ていると、『なるほど、こうやって生きる方法があるのか』と教えられたような気がするんです。」

(劇場用パンフレット(1997年) および ジブリの教科書10 もののけ姫 より)

 

 

2015年7月10日 発売

ジブリの教科書10『もののけ姫』 目次

ナビゲーター・福岡伸一
『もののけ姫』の生態史観

Part1
映画『もののけ姫』誕生
スタジオジブリ物語 未曾有の大作『もののけ姫』
鈴木敏夫 知恵と度胸の大博打! 未曾有の「もののけ」大作戦
宮崎 駿 荒ぶる神々と人間の戦い ~この映画の狙い~
宮崎 駿イメージボードコレクション

Part2
『もののけ姫』の制作現場
[原作・脚本・監督] 宮崎 駿
海外の記者が宮崎駿監督に問う、『もののけ姫』への四十四の質問
[作画監督] 安藤雅司
宮崎監督の隣で仕事がやれたというのは僕にとってとても勉強になりました。
[美術] 山本二三×田中直哉×武重洋二×黒田 聡×男鹿和雄
宮崎さんのイメージを絵にするのが僕らの仕事
[CG・撮影]
菅野嘉則×百瀬義行×片塰(かたあま)満則×井上雅史×奥井 敦
新技術(デジタル)の導入でセルアニメーションの表現法が広がった。
[音楽] 久石 譲
オーケストラをベースに、非常に骨太な世界を望んだんです。
出演者コメント
松田洋治(アシタカ)/石田ゆり子(サン)/田中裕子(エボシ)
小林 薫(ジコ坊)/西村雅彦(甲六)/上條恒彦(ゴンザ)
美輪明宏(モロ)/森 光子(ヒイさま)/森繁久彌(乙事主)
島本須美(トキ)/佐藤 允(タタリ神)/名古屋 章(牛飼い)
映画公開当時の掲載記事を再録!

from overseas
ニール・ゲイマン
フォルムを見て真の比類なき映画だと感じ、
ぜひ参加したいと 思ったのです。

Part3
作品の背景を読み解く
・viewpoint・宇野常寛
「生きろ。」と言われてウザいと感じた人のための『もののけ姫』の読み方
荻原規子 二人の女の板ばさみ
小松和彦 森の神殺しとその呪い 森をめぐる想像力の源泉をさぐる
永田 紅 生命力の輪郭からあふれ出たもの
小口雅史 北方の民=エミシ・エゾの世界の実像と『もののけ姫』
網野善彦 「自然」と「人間」、二つの聖地が衝突する悲劇
大塚英志『もののけ姫』解題

出典一覧
映画クレジット
宮崎 駿プロフィール

 

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ジブリの教科書10 もののけ姫

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・レポート

Posted on 2015/8/14

8年ぶりの全国ツアー開催となった今年のW.D.O.2015。今年のテーマは戦後70年を迎え日本と世界が抱える「祈り」。さらには宮崎駿監督作品の壮大な交響組曲シリーズ化始動。第1弾は『風の谷のナウシカ』を約20分に及ぶ交響詩へ。

 

〈ワールド・ドリーム・オーケストラ〉W.D.O.
“ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらう!”と、2004年に久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が始めたプロジェクト。2014年に3年ぶりに活動を復活させ東京公演、今年は国内5都市6公演にてツアー開催となった。

 

まずは演奏プログラム・アンコールのセットリストから。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015

[公演期間]
2015/08/05 – 2015/08/13

[公演回数]
6公演
8/5 大阪・ザ・シンフォニーホール
8/6 広島・上野学園ホール
8/8 東京・サントリーホール
8/9 東京・すみだトリフォニーホール
8/12 名古屋・愛知県芸術劇場コンサートホール
8/13 仙台・東京エレクトロンホール宮城

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
カウンター・テノール:高橋淳
合唱:栗友会合唱団 (東京)
合唱:W.D.O.特別編成合唱団 (大阪)

[曲目]
久石譲:祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~ *世界初演
久石譲:The End of The World for Vocalists and Orchestra *世界初演
I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World
久石譲編:The End of the World (Vocal Number) *世界初演

—-intermission—-

久石譲:紅の豚 il porco rosso ~ Madness
久石譲:Dream More *世界初演
久石譲:Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015 *世界初演

—-encore—-
久石譲:Your Story 2015
久石譲:World Dreams

※東京・大阪 (with mixed Chorus)
The End of the World
Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
World Dreams

※会場によって第2部の曲順が異なるケースあり

 

合唱編成ありなしの会場とその構成によって、曲順が変更になっている会場もあり、演出上の都合、最も適するプログラム構成を練ったゆえだと思います。

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場にて販売されたコンサート・パンフレットより各楽曲を紐解いていきます。「祈り」をテーマに久石譲が表現したかったこと、伝えたかったこと、プログラムに選ばれた楽曲のことなど。

 

 

【楽曲解説】

祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~
2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGM用のピアノソロ曲として作られた。久石の作家人生の中でも初のホーリー・ミニマリズム作品として書かれたこの曲は、極めてシンプルな3和音を基調とし、極限まで切りつめられた最小限の要素で構成されている。今回演奏される《祈りのうた》は、核をなすピアノに加え、チューブラベルズ、弦楽合奏が加えられた。厳かな鐘の鳴り響く中、静かに訥々と語りかけるように始まるピアノの旋律が印象的である。久石が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家ヘンリク・グレツキに捧げられている。

 

The End of The World for Vocalists and Orchestra
I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World

原曲の《The End of The World》は、2008年に「After 9.11」を題材に書き上げられた意欲作。オリジナル版は12人のチェロ、ハープ、パーカッション、コントラバスとピアノの特殊編成であった。「9.11 アメリカ同時多発テロ)」を契機に世界の秩序の崩壊と価値観の変容に危惧を抱いた久石が、混沌とした時代を生き抜く我々へ向けて力強いメッセージを音楽に託したエモーショナルな作品である。もともと構想段階ではコーラスの使用を考えていたが、2009年のソロアルバム「ミニマリズム」の制作で初めてコーラスを起用し、本格的なオーケストラ作品として大幅に加筆が行われた。そこからさらに6年を経た声楽と管弦楽のための《The End of the World》では、より作品としての深度が増し、全4楽章の長大な交響作品に仕上がっている。

第1楽章 《Collapse》
久石が実際に訪れたニューヨークの「グラウンド・ゼロ」に着想を得て作られた。冒頭から絶えず打ち鳴らされる鐘とピアノのリズムは、後の楽章にも通じる循環動機となり、強いメッセージを投げかけ続ける。リズムと複雑に絡み合う旋律は、焦点の定まらない危うさを醸し出す。

第2楽章 《Grace of the St.Paul》
グランド・ゼロに程近いセント・ポール教会の名を楽章名に用いた第2楽章は、人々の嘆きや祈り、悲哀を扱っている。冒頭、中東風のチェロのメロディーとティンパニによる対話から始まり、一転して中間部からはコントラバス、ドラムセットが加わり、ジャジーなメロディーが浮遊感を漂わせる。

第3楽章 《D.e.a.d》
2005年に発表した組曲《DEAD》第2楽章の《The Abyss ~深淵を臨む者は・・・・~》をもとに今回新たに声楽と弦楽合奏のために再構成、本作の第3楽章《D.e.a.d》としている。原曲の持つテーマ性が《The End of the World》の世界と融合し、カウンターテナーの歌声が静かで官能的な世界へと誘う。歌詞は久石のメモをもとに、本ツアーのために麻衣が書き下ろした。

第4楽章 《Beyond the World》
今回全曲を締めくくる楽章《Beyond the World》は、複雑かつ緻密に絡み合うパッセージによって絶えず緊張感を増長させ、大きな渦となる。「ミニマリズム」発表時に久石が付したラテン語の歌詞が、壮大なクライマックスを築き上げる。

 

The End of the World (Vocal Number)
前述の声楽と管弦楽のための《The End of the World》と対をなす形で演奏されるこの歌曲は、1962年に発表されたスタンダードナンバー。近しい者を失う悲しみを綴ったこの歌は、日本でも《この世の果てまで》というタイトルで発表され、多くの人々の心を打った。この歌に深い感銘を受けた久石が、「あなたがいなければ世界は終わる」という原詞の「you」を複数形の「あなたたち」と捉え、現代社会に強いメッセージを送る。カウンターテナーを歌う高橋淳が、従来スタンダードナンバーとして親しまれてきたこの曲に光を当てる。

 

Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
1984年3月11日に公開された宮崎駿監督作『風の谷のナウシカ』より。巨大産業文明崩壊後の世界を舞台に、風に乗り、蟲と心を通わせ、自然とともに生きる少女ナウシカが、愛によって荒廃した世界に奇跡を起こす、宮崎監督と久石の記念すべきコラボレーション第1作。過去に幾度も演奏会用作品として演奏されたきた「ナウシカ」であるが、今回約20分の交響詩として久石が新たに再構成した。劇中の場面を彩る主要テーマのみならず、映画には使用されなかった曲も贅沢に組み込まれ、壮大な物語の世界観をより完全な形で堪能できる長大な交響作品として生まれ変わった。

 

紅の豚 Il porco rosso ~ Madness
1992年に公開された宮崎駿監督作『紅の豚』より。世界大恐慌に揺れる1920年代のアドリア海を舞台に、空賊相手に賞金稼ぎを生業とする豚ポルコ・ロッソの物語。夢とロマンを追い求める飛行艇乗りの男達の小気味よい活劇でありながらも、より深く時代感を帯びた作品として人気を博した。

《il porco rosso》
大人の色香を漂わせる《il porco rosso》(「帰らざる日々」のテーマ)は、イメージアルバムでは《マルコとジーナ》として作られた。久石自身が奏でる優美なピアノの旋律が印象的な本バージョンでは、よりノスタルジックな大人のジャズへと変貌を遂げている。

《Madness》
劇中の工場から飛行艇が飛び立つシーンで流れるこの曲は、疾走感と迫力に満ち溢れている。映画と同時期に制作されたソロアルバム「My Lost City」に収録されていたこの曲に惚れ込んだ宮崎監督が、劇中曲への起用を熱望したという逸話を持つ。もともと米国の小説家スコット・フィッツジェラルドをテーマに書かれた楽曲だが、奇しくも『紅の豚』と同じ1920年代が舞台であり、退廃的でありながらもエネルギッシュな時代を感じさせる楽曲である。

 

Dream More
2015年3月から放送を開始した、サントリービール「ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム(Master’s Dream)」のための委嘱作品。小編成のソリッドなサウンドながらも、夢のビールにふさわしい華やかさと気品に溢れ、心に沁み入るオーケストラ作品として仕上げられた。フルバージョンは今回のコンサートで初披露となる。

 

(【楽曲解説】 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」コンサート・パンフレットより)

 

 

全28ページにも及ぶ公式パンフレットです。各会場ロビーにおける特設販売コーナーでは開演前も休憩中も終演後も人だかり。公式パンフレットも公演オリジナルTシャツも完売の勢いだったのでは。CDを手にとる方も多く会場全体で熱気のすごさを感じました。

 

WDO 2015 オフィシャルグッズ

 

 

楽曲解説でも、十分に本コンサートの内容は伝わると思います。補足程度に、感想や参考作品、またアンコール曲もまじえてご紹介していきます。

 

祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~
静寂とともに張りつめた緊張感。やはり「癒し」ではない「祈り」がそこにはあると感じられた楽曲。久石譲の作家性もついにここまできたか!と唸ってしまうほどの新境地。最新オリジナル・アルバム『ミニマリズム2』ではピアノソロを聴くことができます。本公演では楽曲解説とおりチューブラベルズ、弦楽合奏が加わっていますが、そこには不協和音も響きます。でもなぜか、とても厳かなある種心地よささえ感じる不協和音の響きに。シンプルゆえに尊い。大切なことには多くを語らない、同じように大切なことには多くの音を必要としない、そんな奥深い名曲誕生です。久石譲が次のステージに入った証、最も”今の久石譲”を象徴する作品になっていたと思います。

この鐘の音が次の《The End of the World》へと引き継がれていくのですが、「祈り」の鐘と、「警鐘」の鐘。シンプルなものからより複雑なところに世界は入っていくようにプログラムは続いていきます。

このティンティナブリ様式(小さな鐘、鐘の声 の意)は、久石譲も2014年にコンサートで取り上げたアルヴォ・ペルト(演目は「スンマ」)の作風の象徴でもあり、同作曲家による「フラトレス」(親族、兄弟、同志の意)という楽曲は、ティンティナブリ様式で書かれた人気作品です。余談です。

[参考作品]

Minima_Rhythm II

久石譲『ミニマリズム 2 Minima_Rhythm II』

 

The End of The World for Vocalists and Orchestra
楽曲解説には触れられていませんが、実は第1楽章からスケールアップしています。そこには新たなパートと旋律が加えられ、大幅な加筆と修正による再構築。まさかあの《DEAD組曲》からこの作品へ組み込まれるとは!という驚きもあり、全楽章通じて鳥肌たつ衝撃をうけた作品です。とりわけ、第1楽章と第4楽章の「ミニマリズム」からの進化が鮮烈に印象に刻まれています。個人的には本公演で一番震えた作品です。

楽曲解説にもあるとおり『Anotoer Piano Stories』(2008)で誕生し、『ミニマリズム』(2009)でシンフォニーとして完成したと思っていた作品が、6年を経てさらに高い次元へ昇華。下記参考作品内では、当時のインタビュー記事やライナーノーツも網羅していますので、興味のある方は時系列を追って見てみてください。脈々と時代を超えて鼓動し続けているこの作品の巨大さを感じます。

[参考作品]

久石譲 『Another Piano Stories』

久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』

久石譲 『ミニマリズム』

久石譲 『ミニマリズム Minima_Rhythm』

 

Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
本公演大本命の「ナウシカ」です。新たな生命を吹きこみ交響曲シリーズ化、記念すべき第1作として選ばれたのはもちろん「ナウシカ」です。たしかにコンサートでも多く演奏され人気の高い作品ですが、演目としては「風の伝説 -オープニング-」もしくは「鳥の人 -エンディング-」。武道館コンサート(2008)やチャリティーコンサート(2011)では、組曲としても演奏されています。

その原型となっているのが「Symphonic Poem “NAUSICCÄ”」。『WORKS I』(1997)に収録された約17分の大作です。一番の関心はやはり、そのオリジナル版から18年の時を超えどのように進化したのか。

交響詩として組み込まれた楽曲たちをナウシカ組曲誕生からの軌跡にて。

『WORKS I』(1997)
・風の伝説
・遠い日々
・メーヴェとコルベットの戦い
・谷への道
・ナウシカ・レクイエム
・鳥の人

交響詩全3部として構成されたナウシカ組曲の原型誕生。

 

『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ 』(2008)
『The Best of Cinema Music』(2011)
・風の伝説
・遠い日々
・メーヴェとコルベットの戦い
・ナウシカ・レクイエム
・鳥の人

映画本編では未使用楽曲の「谷への道」を除き、他楽曲も短縮しての約10分の組曲として再構成。さらには合唱パートが新たに起用されより壮大な世界観に発展。

 

『Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015』
・風の伝説
・遠い日々
・ナウシカ・レクイエム
・メーヴェとコルベットの戦い
・谷への道
・蘇る巨神兵
・遠い日々
・鳥の人
・風の伝説

『WORKS I』のオリジナル版を継承し、新たに巨神兵パートを追加。合唱編成も引き継がれ、交響詩ナウシカ2015ここに完結。

 

「蘇る巨神兵」が追加されただけか、と思うことなかれ!その壮大なスケールアップ感はすさまじい迫力。どの楽曲も修正が施され、今の久石譲の集大成といっても過言ではない進化をとげています。新作でもないのに集大成という表現は語弊があるかもしれませんが、”今久石譲が持ちうる術をすべて注ぎ込んだ”という意味ではまさに集大成と言って言い過ぎではありません。さらには耳に優しいナウシカ・サウンドに、不協和音と緊張感の「蘇る巨神兵」が加わったことにより、より本来の意味でのナウシカ世界観の完全版。静と動、裏と表、生と死、破壊と再生、両極面を備えもつ壮大な世界観。そして、久石譲の大衆性と芸術性の両面をもまた鋭く進化させた、第1弾にしてさすが記念碑的な作品へと生まれ変わりました。

「メーヴェとコルベットの戦い」も加筆され躍動感と高揚感がさらにパワーアップ。合唱パートは、「ナウシカ・レクイエム」、「蘇る巨神兵」、「遠い日々」、「鳥の人」。新たに加わった「蘇る巨神兵」でも合唱によるスリリングな不協和音グリッサンドを聴くことができます。

”今久石譲が持ちうる術をすべて注ぎ込んだ” と書きました。エンターテインメント(大衆性)とアート(芸術性)の両面を合わせ持つ久石譲音楽。

実は約1年前にこんな所感を書いています。

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おもしろいことに、『WORKS IV』に収録された「風立ちぬ」も「かぐや姫の物語」も決して耳あたりがいい音楽ばかりではない。そこには重厚な不協和音も響いているし、ルーツであるエスニック・サウンドやミニマル色も強く盛り込まれている。つまり、これまでの”WORKS”シリーズで取り上げられたジブリ作品に比べて、格段に前衛的で独創的なアート性が増しているのである。付け加えれば、「私は貝になりたい」でもヴァイオリンの重音奏法から激しいミニマルのパッションという、これまでには考えられないほど、大衆性と芸術性の境界線が崩れてきている。

これこそが、今久石譲が語っている”アーティメント”(アート+エンタテインメント)のかたちではないだろうかと思う。作品ごとに映画なら大衆性、オリジナルなら芸術性ではなく、作品ひとつひとつに大衆性と芸術性を混在させてしまう、いやその領域まで昇華させると言ったほうが正しい。かつその方法論のなかには”クラシック”という大きな軸が存在する。
Blog. 久石譲 新作『WORKS IV』ができてから -方向性-
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持論のオンパレードですが、久石譲を独断的に読み解いた論文です。
興味のある方はぜひご覧ください。

[参考作品]

久石譲 『WORKS 1』

久石譲 『WORKS I』 JOE meets 3 DIRECTORS

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

久石譲 『The Best of Cinema Music』

 

紅の豚 Il porco rosso ~ Madness
「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(2008)を彷彿とさせます。今回は映画でも印象的な2曲をメドレー構成にて。「il porco rosso」(帰らざる日々)は、なかなか披露される機会の少ない名曲。武道館ではピアノと金管アンサンブルにドラムも加わった大人なセッションでした。今回は雰囲気はジャジーなままに弦楽も加わりよりエレガントな装いに。久石譲によるピアノもたっぷり堪能。「Madness」は、コンサート人気曲ながら実はここ直近のコンサートでは遠ざかっていた定番曲。久しぶりの登場で疾走感も最高潮、やはり盛り上がる作品です。『紅の豚』における代表的な2曲ですが、今回の「交響詩ナウシカ2015」から始まった交響組曲シリーズ。『紅の豚』はどんな楽曲が組み込まれて、いつ花開くのか。今から待ち遠しいかぎりです。

[参考作品]

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

久石譲 『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ 』

 

Dream More
まさかの蔵出し初お披露目、曲名も本邦初公開だったのでは「Dream More」、しかもフルバージョン。一聴程度では語るにふさわしくありませんが、とにかくオシャレで上品という印象。CMでも聴くことのできるあの旋律が、多重奏、いろいろなオーケストラ楽器によって奏でられ、中間部も構成された作品に。しっとり聴かせるヴァイオリン・ソロまで、テンポも緩急ありの、キラキラと輝くような色彩豊かな夢見心地。軽やかなんだけれど、軽くはない、やはりメロディの力と構成の巧みさ。心踊るようで、ノスタルジックに酔いしれるような。いろいろな表情をもった楽曲になっていました。サントリー伊右衛門CM曲「Oriental Wind」につづいて、この楽曲も定着しさらにいろいろなCMバージョンも聴いてみたい逸品。もちろん本コンサート版はぜひCD作品化してほしい、華やかにシンフォニー・ドレスアップされた作品に。

 

—–アンコール—–

Your Story 2015
今年のW.D.O.を象徴する編成ともいえるカウンターテナーの歌声。そしてアンコールでも再登場しての映画『悪人』より本ナンバー。久石譲のピアノとカウンターテナーでしっとりと始まり、オーケストラが寄り添うように重なりあうまさに鎮魂歌。2011年、「東日本大震災チャリティー・コンサート」でも披露された楽曲であることを考えると、久石譲が本編だけでなくアンコールにおいても一貫して「祈り」をテーマにしていたことをうかがわせます。戦後70年というだけでなく、東日本大震災も念頭に、”忘れてはいけない「戦争」「震災」”、そんなことを伝えたかったストーリーだったのではないでしょうか。

[参考作品]

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

久石譲 『The Best of Cinema Music』

 

Word Dreams
W.D.O.名義のコンサートでこの楽曲をやらないわけにはいかないでしょう、ということで。また今年は合唱編成あり公演となった大阪・東京では、なんとこの楽曲も合唱版として披露!過去に歌詞をつけたバージョンとして初お披露目されたのは「西本願寺音舞台」(2011)だったと思うのですが、それ以来ではないでしょうか。この楽曲も当初はワールド・ドリーム・オーケストラのアンセムとして書き下ろされたものですが、その後久石譲の想いとともに位置づけが変化していっているのかなと思います。だからこそ2011年東日本大震災と同年に誕生した合唱版を本公演にてふたたび。WDOの序曲という位置づけから、”未来への希望・夢”を託した作品へと、変化の兆しがうかがえる楽曲です。冒頭のイントロが終わったあと、さりげなくオリジナル版とは異なる転調をしています。合唱編成のためのキー(音程)に合わせているものと思われます。歌詞は麻衣さんが担当していますが、歌詞そのものは公になっていない作品です。

 

2004年W.D.O.発足当時の久石譲インタビューを読み返しても、時代を超えて色褪せない言葉や想いがそこにはありました。

「今、世界のシステムが壊れかけている。それを目の当たりにしながら、いったい自分は何ができるのだろうかと思う。僕は作曲なのだから、音楽を通して「人間って何なんだ」ということを自分なりに考えていくしかないだろう。若いころはもっと違うことを考えていたと思うけれど、音楽は何ができるのかということを、作曲家として今は一番やらなければならないと思う。」

「長く僕のコンサートに来てくれている人達は、毎回、僕が変わっていくことで、活動の姿を確認しているのだと思う。だからこそ評価は厳しい。このワールド・ドリーム・オーケストラも、居心地のいい、ちょっとセレブな時間を過ごすところ、では決してない。それはプログラム自体がすでに表現している。演奏する側も必死でやるから、聴く側もしっかり味わってくれ、と、そういう関係を築きたい。そこに手応えを感じたお客さんは、きっとまた来年も来てくれるだろう。そして僕達は、またガラッと変わる。」

Blog. 「World Dream Orchestra 2004」 コンサート・パンフレットより

[参考作品]

久石譲 『WORLD DREAMS』

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『WORLD DREAMS』

 

 

2014年に3年ぶりの復活を果たしたW.D.O.。その勢いのまま迎えた今年、流れを継承しつつも、「鎮魂」から「祈り」へと一歩推し進めたW.D.O.2015。同時に昨年とは異なり久石譲作品だけでテーマを完結させた今年は、とりわけ並々ならぬ想いがあったのではないかと思っています。

久石譲の芸術性が深く刻まれた第1部から、大衆性をさらに進化させて解き放たれた第2部、そしてアンコールをふくめて一貫した大きなテーマと流れ。久石譲の”今”を色濃く反映するカタチとなってきた「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」。来年以降はどんな”旬な久石譲音楽”を聴かせてくれるのか。

久石譲コンサート 2015-

 

まだまだ興奮冷めやらぬ感じですが、昨年のW.D.O.2014のようにCD化はあるのでしょうか!?(『WORKS IV』)ぜひより多くの人が聴くことができるように、CD作品化やNHKなどの地上波でのコンサート模様を観たいところですが、ひとまず9月23日放送決定のWOWOW LIVEを心待ちにしましょう。

下記、コンサート・パンフレットからの、久石譲インタビューもぜひご覧ください。

久石譲公式Facebookでは、早くも東京公演や、最終日の仙台公演の模様がアップされています。

 

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久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015パンフレット

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・パンフレットより

Posted on 2015/8/14

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・レポート にて公演詳細、演奏プログラム、アンコール、楽曲解説は公開しています。

ここでは同コンサート公式パンフレットより、久石譲のインタビュー内容をご紹介します。上述楽曲解説は前島秀国さんの筆によるものですが、このインタビューでは久石譲による各楽曲のことが語られており、あわせて読むとより深く味わうことができます。

 

 

INTERVEW

-久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)として8年ぶりの全国ツアーがいよいよスタートします。今回はプログラムの前半を中心に「祈り」をテーマにしていますがその理由は?

久石:
今年で終戦から70周年を迎えますが、僕は今の時代を”戦前”だと感じているところがあります。言い換えれば今は日本人として足元を見つめなきゃいけない時。そういう状況を踏まえたとき、祈りをテーマにしたいと思いました。21世紀に入ってからも世界中でいろんなことが起こっていますが、その根源として、互いの違いを際立たせている状況がすごく気になっています。違いを見出すことでお互いをより認め合うのではなく、距離を置き、時には憎しみ合ってしまっている。

-その思いを反映するかのように1曲目は《祈りのうた》。

久石:
毎年正月、三鷹の森ジブリ美術館で使うために宮崎(駿)さんに曲を贈っているのですが、今年出来たのがこれだったんです。昨年、ヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルトに代表されるような教会旋法を使ったホーリー・ミニマリズムを演奏してきた影響もあり、シンプルでありながらエモーショナルであることを追求したくなっていたんです。人間は前進しようとするとより複雑なものを求めがちですが、あえてシンプルにいきたかった。そうして出来上がったら自然と《祈りのうた》というタイトルが浮かびました。

-次に演奏する《The End of the World》は2008年に初めて発表したものを進化させ、楽章を増やしていますね。

久石:
この曲を作った直接的なきっかけは2001年に起こったアメリカ同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ映像をずっと自分の中で引きずっていて、グラウンド・ゼロを訪れたりする中で確実に世界の有り様が変わったのを感じていました。それが今に通じているところがあると思い、今回のツアーで演奏しようと思ったわけですが、もともとの3楽章に加え、さらに深いところに入っていけるような《D.e.a.d》という楽章を加えました。以前書いた《DEAD for Strings , Perc. , Harp and Piano》という組曲が《The End of the World》と通じる部分があったので、《DEAD》の第2楽章の弦楽曲をもとに新たに楽章を加え、全体を再構築しました。

-《The End of the World》は冒頭から鳴る鐘の音が印象的です。

久石:
鐘の音はまさに警鐘を意味しています。全楽章であのフレーズを通奏していますが、象徴しているのはいわば”地上の音”。それに対して入ってくる声は、人間を俯瞰で見るような目線です。地上にいる人間の業に対し、遠くから「どうなっていくんだろう」という問いかけをしているんです。

-前半の最後にはスキータ・デイヴィスのヒット曲でもある同名曲《The End of the World》も登場します。

久石:
この曲が最後にくることによって《The End of the World》を全部で5楽章と捉えられるような構成にしたいと思いました。”あなたがいなければ世界が終わる”というラブソングですが、”あなた”を”あなたたち”と解釈することもできて、そう考えるとこれは人類に対するラブソングでもある。だからといってそこにあるのは救いじゃないかもしれない。冒頭で示した鐘の音による旋律も入ってくるし、不協和音も漂っている。それをどう感じてもらえるかがポイントになってくると思います。

-後半は20分にわたる《Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015》から始まります。

久石:
オーケストラでのコンサートをずいぶんやってきましたが、映画音楽を演奏しようとすると一部分になってしまうことが多かったので、大きな作品として聴いてもらえるものを作りたいという思いがずっとありました。「風の谷のナウシカ」の組曲は以前に「WORKS I」というアルバムを作った時に、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で録音したバージョンがあったのですが、それをベースに映画で使われているものを継承しながらさらにスケールアップさせようと思って取り組みました。ただ、いざやり始めてみると大変。映画自体が破壊と再生というテーマを持っていて、前半のプログラムと通じているところが多く、精神的に苦労しました。

これを機会に宮崎さんの作品を交響組曲として表現していくプロジェクトを始められたらと思っています。世界中のオーケストラから演奏したいという要望もありますし、今後続けられれば嬉しい。ただ、僕は毎回のコンサートを「これが最後」という気持ちで臨んでいるので、今回きちんと成功してやっと次が見えてくるんだと思います。

-その後プログラムは《il porco rosso》~《Madness》から《Dream More》と続きます。

久石:
《il porco rosso》~《Madness》も含めて、前半と後半で別のアプローチのように見えますが、コンサートとして聴いたときに一つの流れがあって、そのテーマの中で楽しんでもらうということをすごく大切に考えています。重いテーマであっても、音楽を聴きに来た満足感というのはとても大事にしたいと思っています。《Dream More》はもともとCM曲ですが、最近の僕の傾向を反映してソリッドな作りのオーケストラ曲になりました。演奏が難しい曲ですが、今からどうなるか楽しみですね。

-いつもこのコンサートでやる《World Dreams》がプログラムに見当たらないですね。

久石:
そうなんです。もしかしたら、とだけ言っておきます(笑)

-今回は8月6日「原爆の日」に広島での公演もあります。

久石:
広島は日本にとっても世界にとっても平和の原点(中心)になる場所。そして平和になるために我々は哲学が必要です。昨年のW.D.O.で鎮魂をテーマにペンデレツキの《広島の犠牲者に捧げる哀歌》を演奏しましたが、空襲を想起させるような激しい曲でした。今回はもっと心の問題として捉えたいと思い、祈りをテーマにしています。戦後70年、広島は少なくとも経済的な面では飛躍的に復興したかもしれません。ビルもたくさん建った。しかし、人の気持ちはそれについていっているのだろうかという思いがあります。人間を取り巻く”形”をいくら進化させても、その精神は昔から良くも悪くも人類は進化していないはずです。最終日は東日本大震災から復興の途にある仙台でもコンサートをやります。中途半端に「大変ですね」と投げかけるのではなく、特別な思いを抱えながらもっと普通に接するような気持ちで臨みたい。今年ツアーを始めるにあたって、メモを記したんです。それは《The End of the World》の第3楽章の元になっていますが、内容は「私の幸せはあなたの幸せ あなたの幸せは私の幸せ 私の悲しみはあなたの悲しみ あなたの悲しみは私の悲しみ」というフレーズ。そういうコンサートになれば嬉しいですね。

2015.7.25 ワンダーシティにて 聞き手:依田謙一

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・パンフレットより)

 

 

2014年に3年ぶりの復活を果たしたW.D.O.。その流れを継承しつつも、「鎮魂」から「祈り」へと一歩推し進めたW.D.O.2015。同時に昨年とは異なり久石譲作品だけでテーマを完結させた今回は、とりわけ並々ならぬ想いがあったのではないかと思っています。

久石譲の芸術性が深く刻まれた第1部から、大衆性をさらに進化させて解き放たれた第2部、そしてアンコールをふくめて一貫した大きなテーマと流れ。

来年以降の久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラは開催されるのか?現時点では未知数ですが、期待が膨らまずにはいられない、そんな「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」でした。

 

下記、コンサート・レポートもぜひご参照ください。

9月23日 WOWOWでのコンサート放送は必見!必聴です!

 

 

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久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015パンフレット