Blog. 「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」 プログラム・レポート (JOE CLUB 2007.10より)

Posted on 2016/1/15

久石譲の過去コンサートから「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」(2007)です。

 

プログラムレポート(JOE CLUB 2007.10 より)

 

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time

[公演期間]38 久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
2007/8/2 ~ 2007/8/12

[公演回数]
7公演
8/2 大阪・ザ・シンフォニーホール B
8/3 長野・松本城内特設ステージ A
8/7 東京・すみだトリフォニーホール B
8/8 東京・東京芸術劇場 A
8/10 広島・広島県立文化芸術ホール(旧・広島郵便貯金ホール) A
8/11 愛知・愛知県芸術劇場 B
8/12 福岡・福岡シンフォニーホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ゲストヴォーカル:林正子

[曲目]
ProgramA
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[久石譲 with W.D.O.] 【東京・広島・福岡】
Winter Garden 1st&2nd movement
天空の城ラピュタ
For You (Vo:林正子)
遠い街から (Vo:林正子)
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

[久石譲 with W.D.O.] 【長野】
Winter Garden 1st&2nd movement
君をのせて
Asian Dream Song
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

ProgramB
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
シェルブールの雨傘 (M.ルグラン) ※大阪のみ
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[Rock’n roll Wagner]
ツァラトゥストラはかく語りき 〜 We Will Rock You (R.シュトラウス/B.メイ/久石譲編曲)
Smoke on the Water 〜 Burn (ディープパープル)
Stairway to Heaven (J.ペイジ) (Vo:林正子)
Bohemian Rhapsody (F.マーキュリー) (Vo:林正子)
楽劇「ワルキューレ」より ワルキューレの騎行 (ワーグナー)

[久石譲 with W.D.O.]
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

—–アンコール—–
太王四神記より ※東京A・広島・愛知・福岡
Summer ※大阪・東京B
となりのトトロ ※全会場

 

 

プログラムレポート

8月2日、大阪公演から始まったWorld Dream Orchestra 2007。今回のコンサートは「There is the Time」と題し、W.D.O.プロジェクトの今までの集大成となる「W.D.O. Best」、久石のオリジナル楽曲を新日本フィルと共演する「久石譲 with W.D.O.」、そして「Rock’n roll Wagner」コーナー、と2プログラムによる盛り沢山の内容をお届けしました。大阪、松本、東京×2、広島、名古屋、福岡と全国6ヵ所、7公演分のプログラムレポートをお届けします!

2004年『World Dreams』、2005年『12月の恋人たち』、2006年『真夏の夜の悪夢』に続き、World Dream Orchestraのコンサートツアーも今年で4年目。ツアータイトルは『There is the Time』(今がその時)。過去3年間を振り返りつつ、これからのW.D.O.の進むべき路を再び考えてみようという、節目としての意味も込めてのツアータイトルとなりました。

今回はW.D.O.コンサートの序曲となっている「World Dreams」、そしてR.ワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲」の2曲が演奏されコンサートが幕を開けるという構成です。プログラムAの構成は”W.D.O. Best”として過去3回のコンサートから選りすぐりの楽曲と今回新たにアレンジした楽曲を演奏。後半は”久石譲 with W.D.O.”として久石のオーケストラ作品を演奏しました。プログラムBでは”W.D.O. Best”のコーナーと”Rock’in roll Wagner”と銘打ってロックの名曲のオーケストラアレンジとワーグナーの楽曲を演奏しました。

プログラムA、Bまとめて楽曲解説をしていきましょう。

W.D.O.コンサートツアーの序曲として定着してきた「World Dreams」。ただ単に祝典序曲としてではなく国歌のようなある種の格調の高さを持ちつつも、どこか懐かしく情感に訴えかけるメロディを持つこの曲はコンサートの幕開けにふさわしい楽曲です。2004年、初めてのW.D.O.のコンサートツアータイトルもこの曲のタイトルから「World Dreams」と名付けられました。「World Dreams」に続き演奏されたのが「ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲」。R.ワーグナーが作曲し、自ら台本も手掛けた楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」の第1幕への前奏曲でその祝典的な雰囲気から度々演奏会で取り上げられます。楽劇中のライトモチーフと呼ばれる旋律動機が楽曲の進行と共に提示され、最終的に同時進行でモチーフが絡み合う展開は圧巻です。

オープニングの2曲に続いて”W.D.O. Best”のコーナー。まずは「パイレーツ・オブ・カリビアン」。今年第3作目である『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』が公開され話題になりましたが、第1作目である『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』の中で使用されていたサウンドトラックを組曲にして演奏しました。続いて、「24 Theme」。『24』は日本でも人気になったアメリカのサスペンスアクションドラマ。日本のテレビ局が1週間で24話すべてを放送したため寝不足の人が続出したとのこと。音楽は「pi、pi、pi、」の冒頭で有名ですが、オーケストラアレンジ版では混沌とした雰囲気の中で切迫感を感じさせるような独特の楽曲に仕上がっていました。次はW.D.O.2005『12月の恋人たち』から「ロシュフォールの恋人たち」。冒頭の印象的なウッドベースのソロ、中間部のドラムのソロありと2005年のコンサートでも人気の高かった曲です。ミシェル・ルグランの秀逸なスコアを山下康介さんのアレンジで、よりオーケストラの醍醐味を味わえる作品になりました。同じミシェル・ルグランの作品から「シェルブールの雨傘」。フルートのソロからバロック風に木管楽器が絡んでくる冒頭は他では聴くことのできない久石のアレンジです。1コーラスごとに転調を繰り返し次第に高揚してくる音楽とともにオーケストラも編成を大きくしてゆくその構成はオーケストラの魅力を十二分に楽しませてくれます。続いては「Mission Impossible」。テレビシリーズや映画を観たことがなくてもこの曲を知らない人はいないのではないでしょうか。

プログラムBの”Rock’n roll Wagner”のコーナーの始まりはR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」とQueenの「We Will Rock You」の融合です。有名な「ツァラトゥストラはかく語りき」の序曲が流れ、次第に「We Will Rock You」のリズムが現れます。合間にワーグナーの「マイスタージンガー」序曲のメロディが現れるなど、とてもコミカルな一方、力強さも感じられるアレンジです。こういった他では聴くことができない久石のアレンジ作品を聴けるのもファンにとってはW.D.O.コンサートだけなのではないでしょうか。続いて、ディープ・パープル「Smoke on the Water~Burn」。多くの人にとってロックの曲といえば!?な楽曲の2曲のメドレーを山下康介さんのアレンジで演奏しました。エレキギターの高速パッセージを弦楽器が演奏する様子は見ていても楽しめたのではないでしょうか。そして、レッド・ツェッペリンの「Stairway to Heaven(天国への階段)」。アコースティックギターから始める哀しげなフレーズが印象的なこの曲。ロック史上最高の名曲の1つを宮野幸子さんのアレンジ、林正子さんのヴォーカルで演奏しました。さらにはQueenからもう1曲「Bohemian Rhapsody」。Queenの楽曲といえばこの曲といえるほど有名かつ印象的な楽曲です。ハードロックとオペラが融合したこの曲をオーケストラの演奏と林正子さんのヴォーカルで演奏してみると、原曲のもつ世界観とはまた違った魅力が感じられたのではないでしょうか。コーナーを締めくくるのはワーグナー「ワルキューレの騎行」です。ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」の「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の四部作の中の「ワルキューレ」の第3幕への前奏曲にあたるこの曲は、単独で演奏会で演奏されることも多く、知っている方も多いと思います。今回は林正子さんのヴォーカルパートも加わり盛大にコーナーを締め括りました。

プログラムBでは”Rock’in roll Wagner”のコーナーの後に”久石譲 with W.D.O.”として4曲演奏しました。まずは『太王四神記』。韓国で制作されているペ・ヨンジュン主演の歴史ドラマであるこの作品は、久石が音楽を担当し日本でも放送予定です。その太王四神記BGMから1曲、今回のコンサートで世界初演となる楽曲を演奏しました。ドラマが持つ壮大なテーマと叙情性を存分に感じさせてくれる演奏で、これから始まるドラマを大いに盛り上げてくれそうです。そして、「Quartet」。久石の監督作品『Quartet カルテット』のメインテーマを今回のコンサートのために3管編成のオーケストラにアレンジしました。映画の中では、カルテットを組んでいる若者4人が再起を期してコンクールで演奏する弦楽四重奏曲です。3管編成版ではオーケストラの持つ力強さを実感していただけたのではないでしょうか。続いて「la pioggia」。イタリア語の”雨”と題されたこの曲は映画『時雨の記』に使用されました。スタティックで非常にノスタルジックなメロディに感銘を受けた人も多かったと思います。コーナーの最後は、コンサートの定番曲としてかなり定着してきた感のある「水の旅人」。ホルン6本のこの楽曲はコンサートを締め括るにはうってつけの曲でした。

プログラムAの”久石譲 with W.D.O.”では久石の昨今の作品と共に、ソリストに焦点を当てプログラムが構成されました。まずは「Winter Garden 1st&2nd movement」。ミニマル指向が強く技術的にも非常に難解なこの楽曲をヴァイオリニストの豊嶋泰嗣さんが力強く演奏してくれました。変拍子のため合わせるのがとても難しかったのですがリハーサルの回数を重ねるごとに徐々にオーケストラとも息が合ってゆき、最終的にはとても素晴らしいものが出来上がりました。そして、コンサートでのリクエストがとても多い「天空の城ラピュタ」。2004年のコンサートの時にはゲスト・トランペッターのティム・モリソンさんが素晴らしい演奏を披露しました。今回は新日本フィルの服部孝也さんのソロでトランペットの素晴らしい音色を聴かせてくれました。さらにゲストヴォーカルの林正子さんは「For You」「遠い街から」の2曲を歌いました。「For You」は映画『水の旅人-侍KIDS-』の主題歌で中山美穂さんが歌っていた楽曲です。楽曲はオーケストラ版やヴァイオリンソロ版もあり、その印象的なメロディは林正子さんの歌声でさらに魅力的に響きました。「遠い街から」は今井美樹さんのアルバム『flow into space』に収められている久石の楽曲です。新日本フィルと久石本人によるピアノ伴奏、ヴォーカル林正子さんという今回のコンサートでなければまず聴くことのできないコラボレーションでお届けしました。今井美樹さんのバージョンとはまたひと味違った魅力を醸し出していました。

長野県の松本城特設ステージでの演奏では他の会場ではなかった地元有志のコーラス隊が加わり、『天空の城ラピュタ』から「君をのせて」と、長野パラリンピックテーマ曲「Asian Dream Song」とをオーケストラをバックに合唱しました。当日は強風でスコアのページが勝手にめくれてしまうので団員の方が指揮者用スコアを指揮台の裏から押さえなければいけないという状況にも関わらず、大盛況の野外ステージとなりました。

アンコールは会場によって多少の違いはありましたがプログラムA、B共に2曲ほど演奏しました。「summer」「となりのトトロ」、そして「太王四神記」です。「summer」はもちろん北野武監督作品『菊次郎の夏』のテーマ曲。今回の演奏はアルバム『空想美術館』に収められているバージョンで演奏しました。「となりのトトロ」は演奏が始めると観客の皆さんも演奏する新日本フィルの皆さんも、そして久石自身も自然と笑顔になって本当に楽しそうな演奏でした。

今回はW.D.O.コンサートツアー4年目の年ということもあり、節目という意味で”W.D.O. Best”として過去のアレンジ作品、そして”久石譲 with W.D.O.”として久石の楽曲を多く取り上げました。”Rock’n roll Wagner”のコーナーでは、言葉が重要な意味を持つ”ロック音楽”とワーグナーの楽劇という言葉に重点をおいた”オペラ”が、双方に併せ持つ劇的要素が共通しているという観点のもと、試行錯誤してプログラムを練り上げました。劇的というのは音量が大きいダイナミック(動的)な音楽ということだけを表しているのではなく、スタティック(静的)な音楽、今回のプログラムでいえば「天国への階段」、ワーグナーの作品でいえば今回は演奏されませんでしたが「トリスタンとイゾルデ」の様な作品にも相通じる劇的な要素を感じることができるのではないでしょうか。音楽と言葉の関係性をこのコンサートであらためて考えてみようと”歌”にも注目しソプラノの林正子さんをゲストに久石のヴォーカル作品もいくつか取り上げ、プログラムとしてはクラシック、ロック、ポップス、映画音楽とかなりバラエティに富んでいて飽きさせないプログラムになったのではないかと思います。

さて、今年で4度のコンサートツアーを終え、来年はどうなってゆくのでしょうか!?

実はスタッフもまだまだ先は見えていないのです。毎回毎回コンサートのプログラムに四苦八苦し、意義のあるコンサートにしようと久石、新日本フィルの皆様、そしてスタッフと頭を悩ませるわけです。現段階でいくつかテーマがあがってきておりますが、来年のテーマはいかに???乞うご期待!!!

(久石譲ファンクラブ会報 JOE CLUB 2007.10 より)

 

 

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