Blog. 「Music Voice」久石譲 ミュージック・フューチャー Vol.2 記事内容

Posted on 2015/10/1

9月28日、Web「Music Voice」に掲載された記事です。

9月24,25日に開催された「久石譲 プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.2」のコンサート・レポートとして各楽曲の詳細が写真付きで紹介されています。

貴重な記録です。

 

 

久石譲、ミュージック・フューチャー・コンサート開催
現代の音楽を奏でる

音楽家・久石譲が主宰する『ミュージック・フューチャー Vol.2』コンサートが9月24日・25日に、東京・よみうり大手町ホールにて開催された。

これは『未来につながる音楽を紹介する場』として昨年からスタートしたコンサート・シリーズ。前回は東欧系のミニマル・ミュージックやポストクラシカル系で構成されていたが、今年はアメリカ系でプログラムした。

難しい音楽ジャンルと思われがちだが、先入観なしで純粋に現代の音楽を楽しんで貰おうと始めたもの。冒頭、ステージに立った久石はこの日の演奏曲をわかりやすく解説し、「理屈はどうでもいいです。聴いて面白かったとか、興奮したとか。みなさんがそれぞれが感じて貰って聴いて欲しい。寝ない程度にね(笑)」と緊張気味の客席を和ませる。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載1

 

1曲目はミニマル・ミュージックの古典的作品でスティーヴ・ライヒの「エイト・ラインズ」。2台のピアノがリズム楽器となり、禅の修行僧のように淡々とストイックにビートを刻む。その上を弦楽器と管楽器がかくれんぼしてるように、消えたり出てきたりと変化自在に飛び回る。むず痒いような、くすぐったいような、それでいて心地よい不思議な感覚を体感。

2曲目は3つの楽章で構成されるジョン・アダムズの「室内交響曲」。隣の部屋で息子がカートゥーン・アニメを見ている時に作曲したそうで、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさが詰まった曲だ。

第1楽章「雑種のアリア」は、各楽器が好き勝手な音を奏で賑々しく始まる。その間を縫うようにパーカッションが様々な音を喧しく立てて大活躍。まさに子供部屋にいるような感覚だ。

第2楽章「バスの歩行を伴うアリア」はタイトル通り、バスーンとコントラバスが忙しく動き回る。なんだか秘密の地下室に迷い込んだ時の、怖いけど先に進んでみたい。そんな感じを思い起こさせてくれる曲だ。

第3楽章「ロードランナー」は、運動会に参加してるかのような楽しげな楽曲。各楽器が勝手気ままに演奏するも、ポイントにパーカッションが入りキリリと締め、気がついたら高揚感が高まってくる。タクトを振る久石もリズミカルで実に楽しそう。ここまでが第1部。いずれの曲も次に何が飛び出して来るかのドキドキやワクワクの連続で、実にスリリングだ。

インターミッション明けの第2部はポストクラシカルの若手作曲家、ブライス・デスナーの「Aheym」。デスナーはNYブルックリンのロックバンド、The Nationalのギタリストとしても活動する異色の経歴で、やはりポップ・フィールドでも活動する久石とは立ち位置が近い。ここでは弦楽四重奏で演奏。弦楽器4つで演奏するという制約があるだけで、時にはチェロがリズム楽器になったりと自由自在に飛び回る。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載2

 

続いては久石譲の「Single Track Music1」。8月にリリースされた『ミニマリズム2』に収録された楽曲で、サックス四重奏と打楽器で演奏を担う。終始、単音のユニゾンで構成され、少しづつズレていくのが聴いてて心地よい。

ここで久石は再び指揮に立ち、最後の「室内交響曲」にのぞむ。本コンサートの為に書き下ろされた新曲で、まだ世界でも稀な6弦のエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした全3楽章から成る大作だ。

昨年のこのコンサートで、ニコ・ミューリーの「Seeing is Believing」を演奏するために、この珍しいヴァイオリンを購入。『せっかく買ったので、(この楽器使って)なんか曲を書かなきゃ』という動機で作曲したそう。ステージにはクラシック系ホールでは珍しいギターアンプが置かれている。昨年の公演ではラインを通じてPAから音を出していたが、コンサートマスターでもあり奏者の西江辰郎は、今年はエレクトリック・ヴァイオリンを直接アンプに繋ぐ手法に打って出た。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載3

 

第1楽章は、ディストーション(ひずみ)をたっぷり利かせたエレクトリック・ヴァイオリンがホール内に高らかと響き渡るド派手なオープニングで幕を開けた。かつてウッドストックでジミ・ヘンドリックスが弾いた「星条旗よ永遠なれ」に匹敵する程の衝撃が客席を走る。

第2楽章ではステージからは女性コーラスのような、あり得ない音がきこえてくる。これはブラス隊の3人がマウスピースを直接口にくわえて作り出した仰天の奏法。こんな茶目っ気たっぷりの悪戯を仕掛けるところが、いかにも久石らしい。

第3楽章では金管、木管、パーカッションにピアノの音が一斉に花開いたように宙を飛び交い、うなりを上げて客席に突き刺さる。プレイヤーひとりひとりの技と技がぶつかり合いながら爆ぜる、凄まじささえ感じさせる演奏。混沌の美学、ここに極まれり。そして再び、エレクトリック・ヴァイオリンが顔を出しエコーマシンを駆使したトリッキーなプレイまでもを披露し、ザラザラとした硬質のディストーション・サウンドで締めた。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載5

 

実に攻撃的で緊張感を強いられる曲でありながら、聴いた(もしくは体感)後に残るのは興奮と爽快感。オーディエンスも、ただただ圧倒され万雷の拍手で応える。クラシック系の楽器でこそ編成されてはいるが、これはもはやプログレッシブ・ロック。久石譲が主宰するミュージック・フューチャー・コンサートは羊の皮を被ったオオカミだ。果たして、来年は何を仕掛けてくるか―。

 

 

■セットリスト

▽第1部
スティーヴ・ライヒ「エイト・ラインズ(1983)」
ジョン・アダムズ「室内交響曲(1982)」
ブライス・デスナー「Aheym(2009)」(日本初演)

▽第2部
久石譲「Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion」(世界初演)
久石譲「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」(世界初演)

▽出演
久石譲(指揮)、西江辰郎(Future Orchestra コンサートマスター)、崎谷直人(弦楽四重奏)ほか

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載4

(Music Voice より)

公式サイト:Music Voice 久石譲 ミュージック・フューチャー

 

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Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.2」 コンサート・レポート

Posted on 2015/9/30

9月24,25日に開催された「久石譲 プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.2」。2014年久石譲によって新しく企画された「ミュージック・フューチャー」シリーズは年1回開催、今年で2回目となります。「ミュージック・フューチャー」とは?どういうコンセプトと想いによってスタートしたのか?

まずは公式コンサートパンフレットより。

 

 

久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー
Joe Hisaishi Presents  Music Future

国立音楽大学在学中よりミニマル・ミュージックに興味を持ち、現代音楽作曲家として活動を開始した久石譲は、今から30年以上前、自ら演奏会を企画し、当時最先端のミニマル・ミュージックを積極的に演奏・紹介していた。『風の谷のナウシカ』以降、彼が映像音楽を中心とする音楽に活動の軸足を置くようになっても、自身のルーツであるミニマル・ミュージックの作曲を継続してきた経緯は、多くのファンの知るところである。さらに、近年指揮者としても本格的な活動を開始すると、久石は作曲家出身の指揮者という立場から、現代に書かれた優れた音楽を紹介していきたいと強く願うようになった。そんな彼が現代屈指のミニマリストという視点で最先端の音楽を自らセレクト・紹介すべく始めたコンサートシリーズが「Music Future」である。

本シリーズの開始に際して決められた大まかな指針は、次の通りである。まず”未来に伝えたい古典”というべき、評価の定まった重要作を紹介すること。併せて、久石より若い世代に属する注目の作曲家を必ず紹介すること。一人よがりの難解な語法で書かれた音楽ではなく、基本的に調性システムも組み込んで書かれた聴衆と高いコミュニケーション能力を持つ音楽──具体的には親しみやすいメロディーやハーモニーで書かれ、クラシックならではの美しいアコースティックな響きを持ちながら、シンプルで力強く、聴く者の心にダイレクトに訴えかけるミニマル・ミュージックのような作品──を紹介すること。欧米で高い評価を受けながら、まだ日本で初演されていない作品/作曲家を紹介すること。久石の新作を世界初演、または演奏すること。

 

2014.9.29 Yomiuri Otemachi Hall
Music Future Vol.1

このようなコンセプトに基いて昨年開催された「Vol.1」は、久石の新作《弦楽四重奏曲第1番》と《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas》の世界初演を中心に据えながら、彼がかねてから強いシンパシーを寄せている作曲家、欧米では”ホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)”と呼ばれている東欧の作曲家2人がフィーチャーされた。ポーランド出身のヘンリク・グレツキ作曲《あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム》(久石は指揮のほか、ピアノパートも一部担当)と、エストニア出身のアルヴォ・ペルト作曲《スンマ~弦楽四重奏のための》及び《鏡の中の鏡~チェロとピアノのための》(ピアノパートは久石)である。さらに久石が注目する若手作曲家として、アメリカ人ニコ・ミューリーの作品から、珍しい6弦エレクトリック・ヴァイオリンを独奏に用いた《Seeing Is Believing》が久石の指揮で日本初演された。ビョークとのコラボレーションからメトロポリタン・オペラの委嘱オペラまで幅広い活動をみせているミューリーの管弦楽曲を日本で初紹介したこと、さらに6弦エレクトリック・ヴァイオリンを用いたクラシック作品を日本で初演奏したこと、という点からも「Vol.1」がもたらした成果は極めて大きかったと言えるだろう。

前回の「Vol.1」が”ヨーロッパ(東欧)”に焦点を当てていたとするならば、今回開催との「Vol.2」では”アメリカ”が中心的テーマを担っている。”アメリカン・ミニマル・ミュージック”と呼ばれるミニマリスト第1世代の作曲家の中で、日本でも特に人気の高いスティーヴ・ライヒの代表作《エイト・ラインズ》(邦人プロ演奏家による日本初の演奏)。第1世代に直接影響を受けた”ポスト・ミニマリズム”の作曲家で、久石同様指揮者としても活動しているジョン・アダムズの《室内交響曲》。そして、彼らの影響を受けた”ポストクラシカル”の注目株にして、インディーズ・バンド「ザ・ナショナル」のギタリストとしても知られるブライス・デスナーの弦楽四重奏曲《Aheym》(日本初演)。これら3曲の演奏によって、ミニマリスト第1世代から最先端の”ポストクラシカル”へと続く、ミニマルを中心としたアメリカ音楽過去30年の軌跡を明快に辿ることが出来るだろう。

そして「Vol.2」の目玉となる久石の世界初演作品は、《Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion》と《室内交響曲 for Electric Violin and Camber Orchestra》の2曲を予定。前者は久石が今後展開していくミニマル・ミュージックの方法論を具体的に示した最重要作、そして後者は上述の《Seeing In Believing》の6弦エレクトリック・ヴァイオリンに刺激を受けた久石が、初めてこの楽器の作曲に挑戦した野心作である(同楽器のためにクラシック作品を書いた作曲家は現時点でミューリーのほか、ジョン・アダムズやテリー・ライリーなど、ごくわずかしか存在しない)。

ここ30年の音楽シーンにおいて、なぜミニマル・ミュージックが広く受け入れられるようになったのか。そして、なぜ久石の音楽が日本にとどまらず、を世界中で受け入れられるようになったのか。前回同様、今回も”音楽の未来”を鮮やかに示してくれるであろう「Music Future Vol.2」に中に、必ずやその答えを見つけ出すことが出来るはずだ。

文:前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(コンサート・パンフレットより)

 

 

いつもの久石譲、とりわけ映画音楽やジブリ作品での久石譲とは、まったく趣向の異なるコンサート企画です。

 

 

久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.2

[公演期間]  久石譲 ミュージックフューチャー Vol.2
2015/09/24,25

[公演回数]
2公演
東京・よみうり大手町ホール

[編成]
指揮:久石譲
ヴァイオリン:西江辰郎(Future Orchestraコンサートマスター)
管弦楽:Future Orchestra 他

[曲目]
スティーヴ・ライヒ:エイト・ラインズ
ジョン・アダムズ:室内交響曲
I. Mongrel Airs
II. Aria with Walking Bass
III. Roadrunner

—-intermission—-

ブライス・デスナー:Aheym *日本初演
久石譲:Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion *世界初演
久石譲:室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra *世界初演
I. Mov.1
II. Mov.2
III. Mov.3

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、他作品も多い本公演の楽曲解説をコンサート・パンフレットより紐解いていきます。

 

 

【楽曲解説】

スティーヴ・ライヒ:エイト・ラインズ

[作曲者によるノート]
《エイト・ラインズ》は5つのセクションからなり、類似関係にある第1セクションと第3セクションではピアノ、チェロ、ヴィオラ、バス・クラリネットが動きまわるような音形を演奏する。これに対し、やはり類似関係にある第2セクションと第4セクションでは、チェロがロングトーンを保ちながら演奏する。最後の第5セクションは、全ての音素材が結合する。セクションからセクションへの移行は、互いにオーバーラップしながら可能な限りスムーズに行われる。従って、前のセクションがいつ終わり、次のセクションがいつ始まったのか、正確に聴き分けるのは困難である。第1、3、5セクションでは、フルートとピッコロ(またはそのどちらか)にやや長い旋律線が登場する。より短いパターンが撚られて生まれる、そうした長い旋律線に対する関心は、私の初期の作品や、1976年から77年にかけて研究したヘブライ語聖書の朗唱(詠唱)に源流がある。 -スティーヴ・ライヒ

 

ジョン・アダムズ:室内交響曲

[作曲者によるノート]
15の楽器を用いた演奏時間22分の《室内交響曲》は、同名の先行作品、すなわちシェーンベルクの作品9と疑わしい類似性がある。私の作品ではシンセサイザー、パーカッション(トラップ・セット)、トランペット、トロンボーンが含まれるが、楽器編成はほぼシェーンベルクに従っている。しかしながら、シェーンベルクの曲が中断されない単一構造で演奏されるのに対し、私の曲は第1楽章《雑種のアリア Mongrel Airs》、第2楽章《バスの歩行を伴うアリア Aria with Walking Bass》、第3楽章《ロードランナー Roadrunner》と、3つの独立した楽章に分かれている。それぞれ楽章名は、音楽の大まかな雰囲気を表している。

私は長きにわたり、巨大なエネルギーを表現するため、大キャンバスの上の極太の絵筆で描くような音楽を作曲してきた。それは交響曲だったりオペラだったり、あるいは《フリジアン・ゲート》《シェイカー・ループス》《グランド・ピアノラ・ミュージック》のような小規模の作品であっても、基本的にはソノリティの集積が生み出す力強い音響を追求してきた。それに対し、本質的にポリフォニックで、各楽章を平等に扱わなくてはいけない室内楽の作曲は苦手だった。しかし、シェーンベルクの作品がきっかけとなり、交響作品の重量感が室内楽特有の透明感や敏捷性と結びつき得るような、作曲フォーマットの可能性がひらけた。また、アメリカのカートゥーン音楽の伝統も、ここぞとばかりに技巧を駆使するポリフォニー音楽の新たなモデルを示していた。演奏家として私が親しんできた、20世紀前半の作品にもヒントがあった。例えばミヨーの《世界の創造》、ストラヴィンスキーの《八重奏曲》と《兵士の物語》、そして知名度は低いが『レンとスティンピー』を約60年も先取りしたような、ヒンデミットの素晴らしい木管五重奏曲《小さな室内音楽》などである。

私の《室内交響曲》はユーモアに溢れた曲にも関わらず、驚くべきことに演奏困難だということが判明した。基本的に全音階で作曲した《フリジアン・ゲート》や《グランド・ピアノラ・ミュージック》と異なり、《クリングホファーの死》以後の語法で書かれたと言える本作は、直線的で、半音階を用いた音楽である。各楽器は、トラップ・セットの容赦ないクリック音と頻繁に向き合いながら、途方もなく至難なパッセージと驚くほど速いテンポを切り抜けなければならない。だが、そこにこの作品のひねくれた魅力が存在すると思う(第1楽章のタイトルは当初「しつけとおしおき Discipliner et Punire」だったが、私の音楽を「育ちが悪い」を批判したイギリス人批評家に敬意を表し、「雑種のアリア」に変えた)。 -ジョン・アダムズ

 

ブライス・デスナー:Aheym

[作曲者によるノート]
「Aheym」とはイディッシュ語で「家路に向かって」を意味するが、この作品は”逃亡”や”移住”といった概念を音楽で表現した曲である。子供の頃、私はきょうだいと共に祖母のもとで過ごし、祖母がアメリカに渡ってきた経緯を詳しく訊いた(父の家族はポーランド/ロシアから渡ったユダヤ系移民だった)。祖母はごく断片的にしか語ってくれなかったが、その言葉は私たち家族みんなの思い出となり、やがては私たち自身の文化的アイデンティティとなって、過去と結びついていった。ニューヨーク・バーナード大学教授でワルシャワ・ゲットーの数すくない生き残りのひとりでもある、イディッシュ系アメリカ詩人イリナ・クレフィシュIrena Klepfiszは、「家路への旅 Di rayze aheym」という詩の中で、「異邦人に中に、彼女の故郷がある。まさにここが、彼女の生きるべき場所。彼女の記憶は、やがて記念碑になる」と書いている。《Aheym》は私の祖母サラー・デスナー(Sarah Dessner)に捧げられた。 -ブライス・デスナー

 

久石譲
Single Track Music 1  for 4 Saxophones and Percussion

原曲は、毎年ウィンド・アンサンブルの新作を委嘱初演する浜松市の音楽イベント「バンド維新」のために書かれた吹奏楽曲(2015年2月22日アクトシティ浜松にて初演)。久石自身の解説によれば、単音から24音まで増殖するフレーズがユニゾンで演奏され、その中のある音が高音や低音に配置されることで別のフレーズが浮かび上がってくるという、シンプルな構造で作られている。アメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家たち、特にスティーヴ・ライヒはミニマル特有のズレ(とそこから生まれる変化のプロセス)を生み出すため、バッハ以来おなじみのポリフォニック(多声音楽的)な書法、具体的にはカノンのような手法で声部を重ね合わせる実験を試みた。だが、久石は本作においてそうしたポリフォニックな手法に頼らず、あくまでも単旋律のユニゾンにこだわりながらズレを生み出す試みにチャレンジしている。つまり”複線”を走るのではなく、ひたすら”単線”を走り続けるわけだ。鉄道の”単線”を意味する「Single Track」という曲名はそこに由来しているが、その際、フレーズ内の音が高音や低音に配置されることで生まれる別のフレーズは、車窓から見えるビルの窓ガラスや川の水面に映る自分の反射した姿(の変形)と考えると、分かりやすいかもしれない。

今回世界初演されるサックス四重奏&打楽器版において、パーカッショニストがヴィブラフォンを演奏するセクションから中間部となるが、久石自身の解説によれば、そこに聴かれる和音らしき響きはあくまでもフレーズの持続音(サステイン)が伸びた結果生まれたものであって、決して意図したものではないという。喩えて言うならば、山間部を走る列車の走行音や警笛がこだまし、それが偶発的なハーモニーを生み出すようなものである。ユニゾンのフレーズの音が時間軸上でズラされることで生まれるさまざまな音風景は──久石は本作を鉄道の標題音楽として書いているわけではないが──車窓から見える多種多様な光景が自分の中のさまざまな記憶を呼び起こしていく、そんな自由連想的な聴き方をリスナーに許容している。最初のユニゾンのフレーズが、民謡のようにもジャズのようにも、あるいはわらべ唄のようにも聴こえてくる面白さ。そういう面白さを実現するためには、最初のフレーズが思わず口ずさみたくなるような親しみやすさを持ちながら、同時に高度な可塑性に耐えうる可能性を潜在的に秘めていなけれなならない。こういうフレーズは、ポップスフィールドで感性を徹底的に鍛え上げられた、久石のような作曲家でなければ絶対に書けないフレーズだと思う。そういう意味で本作は、現代音楽作曲家としての久石のスタンスをこれまでになく明瞭に示した楽曲と言えるだろう。 -前島秀国

 

久石譲
室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra

作曲者本人が当日解説予定。

(【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

ここからは実際に演奏会を体感しての内容になります。

 

久石譲MC

コンサート冒頭に久石譲による挨拶と本コンサートに関するMCがありました。マイクを持ったのはこの1回のみ、伝えたい大切なことはここですべて語られています。演奏プログラムの各楽曲の解説がメインとなっています。楽曲解説は重複しますので割愛しますが、久石譲の言葉でわかりやすく語られ、その都度リアクションを起こす聴衆とのやりとりが印象的でした。

そしてコンサート・パンフレットには掲載されていなかった久石譲新作「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」について解説がありました。

要点としては、

「エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのためのコンチェルト(協奏曲)だが、古典クラシック音楽にも「スペイン交響曲」(ラルゴ作曲)のように実質にはヴァイオリン・コンチェルトとなっている作品もある。」

「昨年Vol.1の演奏曲のために日本にはない6弦エレクトリック・ヴァイオリンを購入した。他者の作品を演奏するために買って、自分の曲を書かないのもないんじゃないかと思い新たに書き下ろすことにした。エレクトリック・ヴァイオリンの音は完全にアメリカン。そしてサクソフォンなどフィーチャーしたのもあり全体がすごくアメリカンに仕上がった。今年はアメリカ音楽を取り上げ、自分のなかのアメリカも確認する。そんなコンサートになったのではないか。」

「新しい体験をしていただく。今までに聴いたことがない音楽を聴いた。そこにあるのはおもしろかったかおもしろくなかったか、新しい体験ができたかできなかったか。ぜひ皆さんにこのコンサートがこれから新しい体験になっていただけるとありがたい。」

 

スティーヴ・ライヒ:エイト・ラインズ

まさかこの楽曲が日本のコンサートで生で聴けるとは、と感慨深い人も多いのではないでしょうか。さらにはミニマル作曲家であるライヒ × 久石譲という楽曲をつないでの夢のコラボレーション。オリジナル版に忠実な演奏になっていて、約18分に及ぶミニマル音空間を飽きさせることなく、ノンストップでリズムを刻んでいきます。これぞコンサートの醍醐味である視覚的に演奏を体感できることもあって、目で耳で味わうことができる、楽器や旋律が入り乱れ微細にズレていく音の変化、この楽曲ならではの堪能です。オリジナル版CDも多数リリースされています。

 

ジョン・アダムズ:室内交響曲

本当におもちゃ箱をひっくり返したような、どこから音が飛び出てくるか、どんなフレーズが突然鳴りだすかわからない、そんな不思議な作品です。原曲のオリジナル版も予習して臨みましたが、やはり聴くだけよりは鳴っている楽器を見て楽しめる作品です。視覚的に今鳴っている楽器を追えるだけでなく、この楽器からこんな音を響かせていたんだと新たに気づけるところもあります。聴くだけでは掴みどころがないような印象も、何かわからないけどおもしろいねという感覚へと変化します。ヴァイオリンやヴィオラは時に身を乗り出すようにリズミカルに演奏し、木管楽器は奏者たちが複数楽器をパートごとに使い分け。好奇心旺盛で気が散漫な子供心のようにいろんな音色が飛び交います。ジョン・アダムズが指揮したものも含め数バージョンがCDとしてリリースされています。

 

ブライス・デスナー:Aheym

久石譲も「この楽曲はロックだ」と語っていたとおり、イントロから凄まじい弦楽四重奏のパッセージです。オリジナル版(輸入盤CD)よりはややテンポが遅めだったかもしれません。その分、細部のフレーズや息のあったかけ合い、さまざまな表情や演奏技法による弦の響きを堪能できた楽曲です。4本の弦楽器すべてが主役と言ってもいいくらい、主旋律、対旋律、ハーモニー、リズムが、それぞれに交錯して突き進みます。原曲は若干エコーがかかっていますが(ホール録音か音編集のため)、本コンサートではよりアコースティックにシャープに音が削がれていて、4本の弦パートがそれぞれくっきりと浮かび上がっているのが印象的でした。約10分間糸を張りつめたような緊張感で圧巻のセッション。ロック・ミュージシャンでもある作曲家が、世界的有名な弦楽四重奏団クロノス・カルテットが委嘱した作品です。

 

久石譲
Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion

最新アルバム「ミニマリズム2」に収録されています。単旋律のユニゾンにこだわった斬新な楽曲ですが、こちらもCDで聴くだけではわからない、生演奏ならではのおもしろさと発見があります。

 

久石譲
室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra

本公演の目玉と言ってもいい、久石譲新作にして本邦初公開の世界初演作品です。本コンサートのために書き下ろされた室内交響曲。6弦エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーし、全3楽章(約30分)で構成された作品。6弦エレクトリック・ヴァイオリンのための作品ですから、そこをどのようにフィーチャーして全体を構成した作品となっているのか。また久石譲が語った”アメリカな仕上がり”とは。

第1楽章の冒頭から衝撃が走ります。まさにエレクトリック(電子的)な響き。これがヴァイオリンの音か、これがヴァイオリンの演奏か、と目を見張る耳を疑います。ペダル式エフェクター/フットコントローラーを駆使して、音を歪ませるディストーションを利かせたり、それはまさにロックのよう。さらにはルーパーと言われる、今演奏したプレイをその場でループ演奏させる機能も使い、ループさせたフレーズに新しい旋律を重ねていくという技法も。音だけを耳にしたらエレキギターじゃないかと思うくらいですが、そこはエレクトリック・ヴァイオリン。ひずませた音色のなかにもヴァイオリンならではの艶やかさがあるから不思議です。尖った音色のなかにも心地よさをかねそなえた響き。奏者のすぐ後ろに置かれたギターアンプから響く硬質なヴァイオリンとアコーステックな管弦楽の音色とが、違和感なく絡みあう一体感を演出するから不思議です。

なかなか耳に残りやすい親しみやすい旋律やモチーフがある作品ではありませんが、そこは調性とリズムを重んじるだけあって、魅惑的な世界へと惹き込まれます。途中、管楽器奏者たちが、楽器からマウスピースだけを外し、口にくわえて吹くというおもしろい一面も。歌っているのか吹いているのか、声なのか音なのか、そんな演出もありました。

第3楽章ではリズム動機も際立っていて、例えば初期作品の「MKWAJU」収録楽曲たちを思わせるような、音が1つずつ増えていく減っていく、1音ずつズレていくというミニマル的要素もふんだんに盛り込まれ、クライマックスへと盛り上がっていきます。

たとえば「DA・MA・SHI・絵」や「MKWAJU」という楽曲は、全体がリズムによって構成されている”動”なのですが、「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」で新たに魅せた久石譲のミニマル的手法は、”動”だけで突き進むのではなく、”静”パートもあり、緩急とメリハリがそこに生まれます。そのためより一層”動”パート(ミニマルなリズム動機)が浮き彫りになってくる、そんな新しい境地を開拓した作品ではないかと思います。

奏者の西江辰郎さんは、エレクトリック・ヴァイオリンを手(弦/弓)で足(フットコントローラー/エフェクター)で操るというとても難易度の高い演奏を完璧に披露されていました。エレクトリック・ヴァイオリンという独奏楽器を主役にすえた実験的要素の強い斬新な野心作です。

 

以上が各楽曲ごとの補足と感想になります。

総評するならば、とにかくアンサンブルのレベルの高さにただただ感動です。本コンサートのために編成されているFuture Orchestraをはじめ総勢29名の奏者。特筆すべきは、楽曲によって奏者が違うということです。

つまりは大編成のライヒ、アダムズ、久石譲新作はFuture Orchestraで、弦楽四重奏およびサックス四重奏はそのための編成と奏者です。それぞれの楽曲に対してほぼ1曲入魂に近いという、なんとも贅沢な編成になっているわけです。

オーケストラとは異なる、アンサンブルならではの緊張感もあり、音の細部、絶妙なかけあい、演奏技法と響きの余韻まで。観客のみなさんもおそらくそれを楽しむために来たんだと言わんばかりに、楽曲ごとに拍手が鳴り止まない、大人な至福の空間です。

 

 

久石譲プレゼンツということで、久石譲の登場シーンは、
冒頭MC
エイト・ラインズ(ライヒ) 指揮
室内交響曲(アダムズ) 指揮
室内交響曲(久石譲) 指揮

(弦楽四重奏では指揮者は立ちません)

 

 

久石譲のコンサートに行ったことがないならば、やはり久石譲音楽が堪能できるプログラムがいいでしょう。ジブリ音楽やCM音楽で久石譲を好きになり、それらが聴けないなら久石譲のコンサート行かない!と、食わず嫌いせず、今企画のようなコンサートにも触れることは大切だなと痛感。

本当に新しい体験ができます。久石譲の作品ではないけれど、久石譲が選んだ作品たちです。そこにはやはり何かつながりや見えないところで音で結ばれています。こんな音楽もあるんだ、こんな楽器や演奏方法、響きがあるんだ、きっと一聴の価値はあります。

そしてそんな音楽体験があればこそ、耳なじみのある久石譲音楽にも変化があらわれます。相乗効果となって、新しい久石譲音楽の聴こえ方がしてくるかもしれません。ぜひ来年以降も継続開催してほしいシリーズです。

”久石譲が今最もこだわっている音楽”がひっくるめて堪能できるそれがミュージック・フューチャーです。

 

 

最新のWebインタビューでも久石譲本人は語っています。

「今、僕が作っているのは、何か新しい体験をするための音楽。あ〜面白かったね、と素朴に感じてもらえるような音楽。色々な人に聴いてもらえればと思っています」

「クラシックをよく知っているとか、ミニマル・ミュージックに詳しいとかは全然関係ない! なんだかわからなかったけど、もの凄く面白かった! と、そういう感覚を味わってもらえるだけで、いいと思います! その体験が、もう一回こういった音楽を聴いてみたいというきっかけになれば嬉しい」

(Music Voice Webインタビューより)

 

 

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久石譲 ミュージックフューチャー Vol.2

 

Blog. 「Music Voice」 Web 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/9/30

9月19日、Web媒体「Music Voice」に久石譲インタビューが掲載されました。

ミニマル・ミュージックについて、最新オリジナル・ソロアルバム『ミニマリズム2』について、最新コンサート「ミュージック・フューチャー Vol.2」について、年末にかけての演奏会予定について。

そんな旬な話題について語られています。

 

 

久石譲に聞くミニマル音楽とは、難解か?ポップか?
聴き易さの秘密を解説

ミニマル・ミュージックという音楽がある。最小限の音を、同じパターンで反復させながら少しずつズラしていく音楽の手法で、現代音楽のジャンルのひとつに数えられる。なんだか難しい音楽みたいで、ちょっと近寄り難い雰囲気があるのは否めない。

そんなところへ、数々の映画音楽やCM音楽を世に送り出してきた作曲家の久石譲が“バリバリ”のミニマル・ミュージックのアルバム『ミニマリズム 2』を8月にリリースした。

そうした先入観もあって、恐る恐る久石に話を聞いてみると「あれ? 意外にも難しくない!」。クラシック音楽の要素にプログレッシブ・ロックやジャズ&フュージョンが加わり、さらにリズムやビートが入っていて、とっても聴き易い。何よりもポップで、ドキドキワクワクするような高揚感すら感じる。

 

Music Voice 1

 

アルバムタイトルの「ミニマリズム」という言葉は、ミニマル(Minimal)とリズム(Rhythm)を組み合わせた造語だという。キーワードは「リズム」か?。

久石に尋ねると「小さい音型が何度も繰り返されるだけなので、最初はあれ? と思ってしまうかもしれない。でも、実はリズムを基調にした上で組み立てていますので、ロック音楽にも共通項があって、根はそんなに難しいものではないんですよ(笑)」と聴き易さの秘密を明かしてくれた。

初期の前衛的なミニマル・ミュージックは、ズレを聴かせる、いわゆる難解なものが多かったそうだ。久石は現代音楽といわず、あえて“現代の音楽”と呼ぶ。

「リズムというのは音楽の垣根を崩して、誰にでも理解できるものになるんです。このリズムがあるおかげで、ワクワクするとか躍動感といった感覚が生まれ、“現代の音楽”は垣根を崩して入り易くなる」。

確かに、このアルバムを聴いているとジャンルや垣根といったカテゴライズがどうでもよくなってくるから不思議だ。

 

Music Voice 2

 

「今、僕が作っているのは、何か新しい体験をするための音楽。あ〜面白かったね、と素朴に感じてもらえるような音楽。色々な人に聴いてもらえればと思っています」

久石は昨年より、“未来につながる音楽を紹介する場”として『Music Future』コンサートを主宰しており、第2回の今年は9月24日と25日に東京・よみうり大手町ホールで開催される。

ミニマル・ミュージックの古典から、ポストクラシカルと呼ばれる“現代の音楽”気鋭の作曲家に加え、このコンサートの為に久石は新曲を書き下ろす。まだ世界でも稀な6弦のエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした全3楽章から成る大作だ。

「第1楽章は、6弦のエレクトリック・ヴァイオリンでディストーションを利かせた“ロック”。衝撃的な出だしになります!」と新曲の構想に目を輝かせながら話す。

「クラシックをよく知っているとか、ミニマル・ミュージックに詳しいとかは全然関係ない! なんだかわからなかったけど、もの凄く面白かった! と、そういう感覚を味わってもらえるだけで、いいと思います! その体験が、もう一回こういった音楽を聴いてみたいというきっかけになれば嬉しい」。

クラシック系のホールでプラグド・サウンドが響き渡るとは。想像するだけでも楽しそう。

さらに年末に開催される『第九スペシャル -2015-』や、『ジルベスターコンサート2015 in festival hall』では、第九の序曲として演奏される「Orbis~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」で、新たな楽章を書き加えた完全版を披露する予定だという。こちらもミニマル・ミュージックの手法で書かれ、変拍子を多用しているため演奏者にとっては至難の曲になりそうだ。

 

Music Voice 3

 

公式サイト:Music Voice ミュージックヴォイス 久石譲

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」WOWOW放送内容

Posted on 2015/9/29

2015年夏8年ぶりの全国ツアーとなった「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2015」(W.D.O.2015)昨年につづいて今年もWOWOW放送されました。

 

久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA 2015
2015年9月23日(水・祝) 15:00- WOWOWライブ

番組紹介/解説
久石譲×宮崎駿の原点である「風の谷のナウシカ」が交響詩となって登場。終戦70周年の2015年、日本と世界が抱える「祈り」をテーマにしたプログラムも披露する。

内容/物語
作曲活動、スタジオワークのみならず、ピアノソロ、アンサンブル、オーケストラといったさまざまな演奏活動で高い人気を誇る音楽家・久石譲。そんな彼が、2004年に新日本フィルハーモニー交響楽団と立ち上げた「ワールド・ドリーム・オーケストラ」は、ジャンルを超えた幅広い音楽性で人気を博している。その全国ツアーの中から、2015年8月8日、東京 サントリーホールでのコンサートを放送する。

2015年、大きな話題となっているのが、宮崎駿監督作品の楽曲をオーケストラ組曲として表現するシリーズのスタートだ。第1弾は「風の谷のナウシカ」の交響組曲。久石譲が宮崎作品と初めて関わることになった記念すべき楽曲のオーケストラ組曲が世界初演される。誰もが耳にした名曲がスケール感豊かに鳴り響くさまは必聴。さらに、終戦70周年に当たる今年、日本と世界が抱える「祈り」をテーマにしたオリジナルプログラムも世界初披露する。

 

 

もちろん完全版、プログラム全曲(アンコール含む)を完全ノーカットで、加えて久石譲のインタビューもまじえながらの永久保存版的内容でした。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015

[公演期間]
2015/8/5 ~ 2015/8/13

[公演回数]
6公演
8/5 (大阪 ザ・シンフォニーホール)
8/6 (広島 上野学園ホール)
8/8 (東京 サントリーホール)
8/9 (東京 すみだトリフォニーホール)
8/12 (名古屋 愛知県芸術劇場コンサートホール)
8/13 (仙台 東京エレクトロンホール宮城)

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ (W.D.O.)
カウンター・テノール:高橋淳
合唱:栗友会合唱団 ※東京公演のみ (8/8.9)
合唱:W.D.O.特別編成合唱団 ※大阪公演のみ (8/5)

[曲目]
久石譲:祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~ ※世界初演
久石譲:The End of The World for Vocalists and Orchestra ※世界初演
I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World
久石譲編:The End of the World (Vocal Number) ※世界初演

—-休憩—-

久石譲:紅の豚 Il porco rosso ~ Madness (映画『紅の豚より)
久石譲:Dream More ※世界初演 (「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズ・ドリーム」CM曲)
久石譲:Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015 ※世界初演 (映画『風の谷のナウシカ』より)

—-アンコール—-
久石譲:Your Story 2015 (映画『悪人』より)
久石譲:World Dreams

※合唱編成曲
・The End of the World
・Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
・World Dreams

 

 

詳しい楽曲解説やコンサート・レポートはすでに書いています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・レポート

 

 

WOWOW放送を観ての追加補足です。

【久石譲インタビュー内容】(約6分)

主に公式コンサート・パンフレットでも語られている内容と重複しますが、”ツアーコンセプト””カウンターテナー起用””宮崎作品交響組曲シリーズ”に関して、こぼれ話などありました。

【歌詞】

コンサート・レポートにも書きましたが、アンコール曲「World Dreams」は合唱版での披露でした。(東京/大阪)また「The End of The World 第3楽章《D.e.a.d》」も、今回書き下ろされた歌詞です。

どちらも歌詞は麻衣さんが担当されていますが、WOWOW放送では歌詞テロップが表示され、より深く理解することができたのは大きな収穫です。歌詞は掲載しませんが、上記2曲歌詞ともに公式コンサート・パンフレットにも掲載されておらず、そういう点でもとても貴重な保存版となると思います。

 

 

WOWOW LIVE放送は、とても上品な映像美、複数台によるカメラアングルで、指揮者、オーケストラ奏者と、楽曲や旋律にあわせてフォーカスされるところが醍醐味です。もし今回の放送を見逃した方は、再放送:2014年10月23日(金)19:00- がすでに決定しています。

余談になりますが、昨年のW.D.O.2014は初回放送から再放送をふくめて、約1年間の間に計3-4回は放送されています。おそらく今年のW.D.O.2015も数回再放送されると思います。やはり久石譲のコンサートは会場で体感できるのが一番ですが、行けなかった方や、細部復習したい方など、TV放送されることはとてもありがたい限りです。

エンドクレジットでも「音楽監修:久石譲」となっていたとおり、映像カット割りもそうですが、音響に関しても久石譲のチェックが入っている、WOWOWコンサート放送です。そんな編集にも手をかけ、クオリティーを高めた放送が、数回だけというのは非常にもったいない限りです。

録音用マイクもステージには相当数セットされていましたので、もちろんこのWOWOW放送用だとも思いますが、CD/DVD化できるクオリティで保管できているのではないか?!と。

昨年のリハーサルから本番まで計6回を録音し、CDとしてもクオリティーを追求した渾身のライヴ盤「WORKS IV」。ここまではできないかもしれませんが、それでもLive盤としては作品化してもおかしくない演奏と完成度です。むしろ瞬間封印したようなその鮮度こそ、一期一会な演奏こそ、Live盤の醍醐味でもあります。

作品化された暁には、WOWOWテプッロ表示のみとなっている、麻衣さんによる上記2曲の歌詞も刻まれるかもしません。何度も深く読み返すことができるようになります。とりわけ「World Dreams」は、普遍的な”希望の歌””愛の歌”として時代を超えて、歌い継がれたい合唱作品に昇華されていると思います。そういった要望も各方面から舞い込むくらい浸透するといいですね。

 

最後に、重ねて忘れないように。

再放送:2014年10月23日(金)19:00-

 

 

Related page:

 

WDO 2015 WOWOW

 

Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 45 ~フォーレ/サン=サーンス~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/9/27

クラシックプレミアム第45巻は、フォーレ / サン=サーンスです。

 

【収録曲】
フォーレ
レクイエム 作品48 (オリジナル版:第2稿)
キャサリン・ボット(ソプラノ)
ジル・カシュマイユ(バリトン)
アラステア・ロス(オルガン)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
モンテヴェルディ合唱団 / ソールズベリー大聖堂少年合唱団
録音/1992年

サン=サーンス
組曲 《動物の謝肉祭》

マルタ・アルゲリッチ、ネルソン・フレイレ(ピアノ)
ギドン・クレーメル、イザベル・ファン・クーレン(ヴァイオリン)
タベア・ツィマーマン(ヴィオラ)
ミッシャ・マイスキー(チェロ)
ゲオルク・ヘルトナーゲル(コントラバス)
イレーナ・グラフェナウアー(フルート)
エドゥアルト・ブルンナー(クラリネット)
マルクス・シュテッケラー(シロフォン)
エディット・ザルメン=ヴェーバー(グロッケンシュピール)
録音/1985年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第43回は、
最もシンプルな音楽の形式は?

前号にてWDO2015の編集部ルポルタージュをはさみ久石譲音楽講義の再開です。

超多忙なスケジュールも垣間見れ、一人何役こなしてるんだろうかと感嘆の想いです。また今号のエッセイでは、クラシック音楽の基本、とりわけ形式を理解するうえでもとてもわかりやすい解説です。

一部のみをかいつまんで抜粋してしまうと、理解できなくなるおそれがあり、意図に反することになりかねませんので、限りなくすべてを紹介させていただきます。

 

「この夏のコンサート・ツアーのため、しばらく原稿書きから遠ざかっていたら文章が浮かんで来ない。まあプロの文筆家ではないから仕方ないのだが、頭が音符でいっぱいになると他のことはできなくなるのだろうか? はたまた単にブランクが原因か? もしブランクなら作曲が心配になる。ツアーをしている間は、さすがに作曲するのは無理だ。とするとここにもブランクができている。」

「5月のコンサート以来約2ヶ月半、毎日自宅と仕事場の往復だけの日々は至って地味でシンプルだった。何日も何も書けず泥沼を這いずり回ったような苦しい時期もあったが、今振り返ると確実に曲はできていたのだった。毎日こつこつと同じことをする、あるいは定期的なサイクルで繰り返し、同じことを続ける。もちろんそれは演奏でも作曲でも文章を書くのでも同じことで、続けること、それが一番。これぞミニマルな生活だ。さあ、作曲に戻るためにも早く原稿を上げよう。」

「前回、ホモフォニー(ハーモニー)の時代は機能和声の確立によって音楽はよりエモーショナルな表現が可能になったと書いた。この『クラシック プレミアム』で取り上げる楽曲の大半がそうであるように、多くの人が今日耳にするいわゆるクラシック音楽はこの時代の音楽である。」

「構造は至ってシンプル、メロディーラインとそれを支える和音が主になる歌謡形式に近いものだ。つまり8小節(これが7でも10小節でも同じ)のフレーズが基準になる。もちろんシェーンベルクの《浄められた夜》のように複雑な対旋律やリズムも加わるものもあるからそんなに単純ではない、と言われてもしょうがないのだが、ベーシックな構造は同じなのである。ヴィヴァルディや初期のハイドンを想像してもらえばわかりやすいかもしれない。もちろん8小節では20秒前後で曲が終わってしまうので、これをいくつも組み合わせて一つのまとまった曲にしていくわけだが。」

「ここで重要なのが形式だ。何となくダラダラとメロディーが続いていても、聴き手には何も訴えてこないし、締りがない。なんらかの約束事であるその音たちを受けるお皿のようなもの、あるいは容器がいる。それが形式である。」

「音楽は論理性が大事だ。ドだけでは意味を持たず、それに続く音の連なりがあって初めて音楽として成立する。この連続性には時間が必要なので論理的であると前に書いた。その一つの固まりが先ほどの8小節のメロディーあるいはモティーフなのだが、それを組み合わせ、時間軸の上で構築していくのに必要な約束事が形式なのだ。最もシンプルなものは三部形式である。こう書くとまた講義かと思われるから別の言いかたをする。」

「宇宙人に遭遇したらあなたはどうしますか?…はあ?…この質問に作曲家の武満徹氏は確か「相手の言ったことを繰り返す」というような意味のことを答えていたと思う。随分前に読んだ本なので記憶が定かではないのだが、僕も多分同じことをすると思う。その根拠は「わからなかったら繰り返す」ということだ。」

「そしてこれが三部形式の大前提なのである。あるメロディーから始まった、しばらく経ってからまた最初のメロディーが聞こえた。そうすると多くの人は一つのまとまったもの、あるいは完結したものと認識する。つまりa-b-aということになる。これは古今東西を問わずあらゆる音楽の基本形態であると言っていい。もう一度繰り返す、あるいはもう一度聞こえたということが人間の生理に合致しているのである。じゃあ先ほどの宇宙人は繰り返すのか? などと余計な質問をしてはいけない…これは人間の生理の話なのだから…なんとか収めたのだから蒸し返してはいけない(笑)。」

「さて8小節のメロディーがa-b-aで24小節前後になったとしても多くの場合は(テンポにもよるが)40~50秒くらいにしかならない。それでa-a’-b-a’とかa-b-a’-c-b-a-b-a’など様々な工夫をしながら音楽は徐々に大きな建物になっていった。その極致が交響曲である。特にその第1楽章が最たるものである。10~15分、マーラーに至っては30分もかかるその楽曲はどう作られているのか?」

「それがソナタ形式という形であり、実はこれもa-b-aの拡大版三部形式なのである。具体的にはまずテーマを演奏する提示部(a)、それからそのテーマを様々に変奏する展開部(b)、そしてもう一度最初のテーマを演奏する再現部(a)で構成されているのだが、ごらんのとおりa-b-aの三部形式になる。もちろんそんなに単純ではなく、提示部には第1主題と第2主題があり、それぞれもっと細かく約束事があるのだが、それは次回に書く。」

「重要なのは、ホモフォニー音楽は根がシンプルな分、情緒に訴える力が強く、それゆえ様々な約束事を作ることで大きな建造物にしていったということ。だが、それもやがて行き詰まっていくのである。」

 

 

そういえば最近読んだ本におもしろいコラムがありました。ワーグナーの「ニーベルングの指環」を取り上げてだったと思います。

ワーグナーはライトモチーフという手法を用いたことでも有名で、このメロディーは登場人物Aを表す、このメロディーは登場人物Bを表す、つまりスター・ウォーズの”ダースベイダーのテーマ”でも有名な手法がライトモチーフです。

さらにストーリーがある作品なので、状況によって、喜怒哀楽の表情へと変奏されます。これが上のエッセイにも書かれているa-a’、さらにはa-a’-a”などと連なっていく。

膨大なモチーフと、かつ膨大な変奏が入り乱れる作品において、ワーグナーは聴衆がついていけるか理解できるか心配で、あちこちにストーリーやライトモチーフを復習する場面を設けたというわけです。だから「ニーベルングの指環」などあれだけの長い演奏時間がかかることになったと。

おもしろいと最初に書いたのは、そのコラムに『ワーグナーが聴衆を信じていないさまが、異常にしつこいという人間性が表れている』と書かれていたからです。そういう捉え方もあるのかと、おもしろかったです。

たしかに時代もあります。CDもDVDもない時代に聴衆がその演奏会だけで作品を理解してくれるか、心配になるのもわかります。ちょうど今号での”形式”の講義と、直近で読んだ本の内容とがつながったのでご紹介まででした。

 

最後に。今回のエッセイ冒頭にさらっと書かれている久石譲の言葉は名言ですね。

 

”毎日こつこつと同じことをする、あるいは定期的なサイクルで繰り返し、同じことを続ける。もちろんそれは演奏でも作曲でも文章を書くのでも同じことで、続けること、それが一番。これぞミニマルな生活だ。”

ミニマルな生活、なかなかいい表現だなあと気に入ってしまいました。

ミニマルな生活
~シンプルに
~ミニマル(最小限)とは、選択と集中で優先順位をつけて
~ミニマル(音形)とは、モチーフつまり最も大切な核なこと
~繰り返し続ける

そう勝手に解釈いたしました。

なんだかとても力をもらった気がします、勝手な解釈でもって。

 

クラシックプレミアム 45 フォーレ サン=サーンス

 

Blog. 久石譲 「WORKS・I」 レコーディング日誌 (1997 コンサート・パンフレットより)

Posted on 2015/9/17

久石譲の過去のコンサートから。「PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-」1997年に開催されたアンサンブル構成の全国ツアーです。

 

公式パンフレットによる演奏プログラムや楽曲解説は

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’97」 コンサート・パンフレットより

 

 

同パンフレットに特集掲載された『WORKS・I』のロンドン・レコーディング日誌をご紹介します。

 

 

Making in LONDON

10月リリースのNew Album 「WORKS・I」のレコーディングが、8月中旬にロンドンで行われた。現地での様子を、同行したスタッフによるレコーディング記と写真でお伝えしよう。

【レコーディング記】

8.14 第1日目
ロンドン着。さっそくスタッフミーティングを行う。今回は生の録音が中心であることをふまえ、音のポイント、曲順など、久石さんのアイディアをもとにスタッフの意見をまとめる。明日はエンジニア、指揮者を含めたミーティングを行う予定である。

8.15 第2日目
朝9:20、Air Studios入り。メインホールのコントロールルームでスタッフミーティングを行う。譜面上で重要なポイントを確認したり、マイキングの説明を受けたり。午後、久石さんはピアノに向かい約2時間のリハーサル。明日から本番が始まる。

8.16 第3日目
10:00ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団(LPO)のメンバーがスタジオ入り。緊張感が高まる。久石さんの紹介のあといよいよスタート。いきなり音の迫力に圧倒される。1曲目の「交響詩曲ナウシカ」は18分にもおよぶ大曲。久石さんは、コントロールルームから指示を出したり、譜面の確認や楽員からの質問があるたびに、コントロールルームとホールを何度も往復して、大変な様子。

8.17 第4日目
イギリスのSundayの習慣に合わせ、off。

8.18 第5日目
オーケストラ録り2日目。「ソナチネ」からスタート。しかし、譜面の一部が抜けてしまっていたために、急きょ「Two of Us」からのレコーディングに。スタッフのミスにより、アーティストに迷惑をかけてしまったことを深く反省。オーケストラが昼食の間も久石さんの音のチェックは続く。この日はほかに「Tango X.T.C.」「Silent Love」を収録。「Silent Love」の弦の美しさはとても魅力的だった。LPOとのセッションはこれで終了。

8.19 第6日目
Air Studiosメインホールでの作業最終日。LPO以外の楽器や歌のレコーディングを行う。久石さんのピアノも録る。音色、音の響き、ともにとても良い結果となった。「交響詩ナウシカ」のボーイ・ソプラノの録りもあったが、先生と一緒にやってきた12歳の少年がとてもかわいらしく、澄んだ歌声を聴かせてくれた。19:00全レコーディングを終了。

8.20 第7日目
本日よりTD(トラックダウン/音をまとめる作業)に入る。スタジオもメインホールよりTD用の第2スタジオに移動。まずは「交響詩ナウシカ」から。音の微妙なズレ、ノイズなどをデジタル技術で補整しながら編集しなおす。また、久石さん、プロデューサー、エンジニアが相談しながらベストテイクを選ぶ作業が続けられる。22:00TD初日は「交響詩ナウシカ」のみで終了。

8.21 第8日目
TD2日目。「ソナチネ」からスタート。ホールで得た、あの響きを逃さないよう何度も聴きなおし比べながら編集していく。長時間にわたる作業にも久石さんの集中力はまったく衰えない。真のプロの姿を目の当たりにした。続いて「Madness」「For You」を作業、22:00終了。時間のペース配分も予定通り。

8.22 第9日目
TD最終日。「Tango X.T.C.」「Two of Us」「Silent Love」の順でTD作業は進む。バランスのとりかたで意見が飛び交い、一時息が詰まるようなムードが流れたが、ディスカッションの成果は仕上がりに反映された。TD終了後、即マスタリングの準備に入る。23:00終了。

8.23 第10日目
The Townhouseにてマスタリング。16:00全て終了。

(久石譲 PIANO STORIES ’97 コンサート・パンフレットより)

 

 

この「WORKS・I」のレコーディング記は、当時の旧久石譲オフィシャルサイトでももっと詳しく見ることができました。今はすでに残っていなくて残念です。

 

久石譲 works レコーディング

(指揮者のNick Ingman(中央奥)と 古い教会を改築したAir Studiosにて)

 

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’97」 コンサート・パンフレットより

Posted 2015/9/17

久石譲の過去のコンサートから。「PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-」1997年に開催されたアンサンブル構成の全国ツアーです。1997年という年が、久石譲の音楽活動においてどういう1年だったか。それはコンサートパンフレット冒頭に寄せた、久石譲のメッセージからわかります。

 

 

”「パラサイト・イヴ」にはじまり、「もののけ姫」、「HANA-BI」まで、とにかく今年は映画に明け暮れた。

うれしいことに、宮崎駿監督の「もののけ姫」は空前のヒットとなり、北野武監督の「HANA-BI」は、このほどベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得した。

すばらしい作品と出会え、かけがえのない1年になった。映画にかけてきた情熱とエッセンスを今夜は生の音楽で表現してみたい。”

久石譲

 

 

PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-

[公演期間]21 PIANO STORIES ’97
1997/10/02 – 1997/11/01

[公演回数]
10公演
10/2 長野・長野県県民文化会館中ホール
10/6 新潟・新潟テルサ
10/15 横浜・関内ホール
10/17 島根・島根県民ホール
10/19 広島・広島国際会議場フェニックスホール
10/24 栃木・鹿沼市民文化ホール
10/25 東京・ゆうぽうと簡易保険ホール
10/29 大阪・シアター・ドラマシティ
10/31 名古屋・名古屋市民会館中ホール
11/1 兵庫・神戸新聞松方ホール

[編成]
ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:後藤勇一郎
ヴァイオリン:杉浦清美
ヴィオラ:桑野聖
チェロ:近藤浩志
コントラバス:斉藤順
木管:吉田治
パーカッション:福島優美

[曲目]
MKWAJU
TIRA-RIN
Modern Strings

アシタカせっ記 (映画『もののけ姫』より)
もののけ姫
アシタカとサン

Two of Us (映画『ふたり』より)
Tango X.T.C (映画『はるか、ノスタルジィ』より)

Sonatine (映画『ソナチネ』より)
Silent Love (映画『あの夏、いちばん静かな海。』より)
HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
Kids Return (映画『キッズ・リターン』より)

794BDH
Les Aventuriers
Asian Dream Song

—–アンコール—–
風のとおり道(Piano & Violin) (映画『となりのトトロ』より)
Parasite EVE (映画『パラサイト・イヴ』より)
Madness

 

 

 

【楽曲解説】 Ensemble Night Program

MKWAJUより
I. MKWAJU
IV. TIRA-RIN
Modern Strings
オープニングはアルバム「MKWAJU」(ムクワジュ)からの2曲。アフリカの多重的なリズムを取り入れ、その構造を”見せる”かのような仕上がりが特徴的だ。ミニマル・ミュージックの面白さも味わえるのが聴きどころ。ストリングスのカッティングが耳に残る「Modern Strings」はソロ・アルバム『I am』(1991)から。

アシタカせっ記
もののけ姫
アシタカとサン
ここでは、今年7月に公開され空前の大ヒットとなった宮崎駿監督の『もののけ姫』から3曲を演奏する。日本を舞台に繰り広げられる”一大冒険時代活劇”を彩るサウンド・トラックは、広大なスケールとその深いメロディ・ラインが印象的。冒頭で響くメロディはメインテーマの「アシタカせっ記」。おなじみの挿入歌「もののけ姫」、そしてラストシーンでは「アシタカとサン」のピアノの音色が感動的なストーリーをしめくくる。今回のスタイルでは、コンサート初演。

Two of Us
Tango X.T.C.
この2曲は、大林宣彦監督作品からの選曲。「Tango X.T.C.(エクスタシー)」(映画『はるか、ノスタルジィ』より)、「Two of Us」(映画『ふたり』より)は、いずれもソロ・アルバム『My Lost City』(1992)に収録されている。

Silent Love
Sonatine
HABNA-BI
Kids Return
『あの夏、いちばん静かな海。』『Sonatine』『Kids Return』そして来年公開の『HANA-BI』と、久石さんは北野武監督作品の話題作も担当した。「Silent Love」は、『あの夏、いちばん静かな海。』の主人公ふたりの”無音の世界”を包みこむような神秘的なサウンドが印象深い。コンサートでは「Kids Return」とともにストリングスなどで演奏され、人気が高いナンバーでもある。スリリングなメロディラインが耳に残る「Sonatine」は、今回のアンサンブルのスタイルでは初演。今年9月に開催されたベネチア国際映画祭でのグランプリ受賞作品「HANA-BI」は、来年の映画公開とサントラ発売に先がけてのタイムリーな初演。

794BDH
Les Aventuriers
Asian Dream Song
「Les Aventuriers」は昨年リリースのソロ・アルバム『PIANO STORIES II ~ The Wind of Life』から。ストリングス、木管、パーカッションによるアンサンブルが斬新なサウンドを聴かせてくれる。アコースティク・インストの魅力を充分に堪能できる構成。
「Asian Dream Song」は来年の長野パラリンピック冬季競技大会のテーマソングのインスト・バージョン。

(【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

コンサート会場で販売されたこの公式パンフレットには、楽曲解説のほか小池聰行(オリコン社長)寄贈文なども収録されています。さらには映画『もののけ姫』の音楽レコーディング記が、レコーディング・スタジオの写真風景とともに記されています。

 

f19

このあたりの記録は、『もののけ姫は、こうして生まれた。』(DVD)にも収録されています。

 

 

もうひとつの特集は、『WORKS I』のロンドン・レコーディング日誌です。

Blog. 久石譲 「WORKS・I」 レコーディング日誌 (1997 コンサート・パンフレットより)

 

 

この時期の久石譲コンサートのスタイルは、ピアノ・ソロ、アンサンブル、オーケストラ、バンドなど、とてもバラエティに富んだ構成を循環していました。あらためてパンフレットを振り返って、「Silent Love」「Sonatine」の本公演構成での、アコースティック・アンサンブルは今となっては貴重ですね。

シンセサイザー基調のオリジナル版、オーケストラ・シンフォニーとして昇華した「WORKS・I」、そしてコンサートのみで披露されていたアンサンブル・バージョン。

楽曲解説を見ても、「HANA-BI」が当時公開前でのお披露目だったんです。とても新鮮な感覚で聴いていたということになります。1990年代後半を象徴するコンサートスタイルとその内容です。

パンフレットをパラパラめくっていたら、アンコールで披露された楽曲をメモしていました。懐かしい。でも、どの会場で聴いたんだろう、と思いながら。

 

 

久石譲 97 コンサート 3

久石譲 97 コンサート 2

久石譲 97 コンサート 1

 

Blog. 宮崎駿 × 久石譲 対談(1996)コンサート・パンフレットより

Posted on 2015/9/14

1996年の宮崎駿×久石譲 対談より。

1996年開催「久石譲 PIANO STORIES II ~The Wind of Life」オーケストラ、アンサンブル、ピアノソロ、という3編成にて、3ヶ月間にわたって全国で開催されたコンサート・ツアーです。

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES II Part.1-3」 コンサート・パンフレットより

 

同じパンフレット内での対談になります。

1996年というと映画「もののけ姫」(1997)の公開前年にあたり、イメージアルバムが完成した段階の頃です。この対談では「もののけ姫」の話というよりも、「となりのトトロ」制作当時の話や、その他ざっくばらんな内容になっています。

 

 

対談:宮崎駿 × 久石譲

音楽が映像を生かし、映像が音楽を生かした。
名作は、観る人すべでの心にしみて、送り手たちのもとを離れながら
いつまでも、いつまでも生きつづける。

久石:
はじめにお会いしたのは「風の谷のナウシカ」のときで83年ですから、もう13年も前ですね。以来、何本かやらせてもらってますけど、当時から宮崎さんのお仕事のスタンスって、基本的に変わらないですね。

宮崎:
そう、制作しながらなかなか結末が見えない。シナリオを作らないのは僕の悪いクセなんですよ。

久石:
最初お会いしたときも阿佐ヶ谷の仕事部屋に背景になるセルが張ってあって、で、宮崎さんはいきなり夢中になって説明をはじめて、僕はまだなにも把握してないんで、ハッ、ハッ、って言いながら全部聞いてる。それはもう、毎回同じ(笑)。

宮崎:
シナリオがないからこういう感じの世界ですって説明するしかないんですよね。本当ならアニメーションの場合は、とにかく絵コンテを全部揃えて、さぁこれを作るぞってみんなに示して、そこから準備期間がはじまるわけなんです。ある作業の段階を完結させてから次のステップにいくほうがたぶん生産性もいいし混乱もないでしょうけど、そうはいかないんですよね。

久石:
それはありますね。僕のケースだと、曲が全部書き終わってアレンジも決まって、それからレコーディングをスタートするのが理想なんですけど、たいがい1、2曲しか決まってないままワッと始めるんで、やりながら右往左往してるって感じです。その段階で僕が一番大切にすることは、”モノを作るときに視点がずれないように作りたい”ということなんですよね。日本では、アクションものの中にホームドラマ的要素が入ったりして、変わってしまうような映画やドラマが多いと思いますが、それだと本当の意味のリアリティがなくなっちゃうと思うわけです。だから音楽は絶対にそうならないようにしようと思っています。その場合、全体が見えないと5倍か10倍苦しむ感じがします。

宮崎:
ましてやこっちの方向でいいだろうと思ってレールを敷いて、方向を間違えてたらこれは深刻だしね。だからこの方向で間違ってないかどうかってのは、日々さいなまれながらやってますよね。


久石:
「もののけ姫」のイメージアルバムを作ったんですが、いつもなら考えるのに1ヶ月、制作に1ヶ月だったのが、今年のアタマから考えて実際に3月からレコーディングに入って6月までかかってしまった。今の自分が提供できる音楽的なラインはこれだろうと決めて、日本的な要素などを考えながら視点がずれないように音楽を作っていくと、5、6曲まではすぐいけますが、残りが非常に厳しいんです。

宮崎:
それは、僕が思うにCDなんぞができたせいですね。つまりね、音楽を作るっていうのと、CDの容量と関係あるでしょ。

久石:
ええ、大いにありますね。

宮崎:
だからみんなレコード時代よりも量的にいっぱい作んなきゃいけないでしょ。漫画でいうと、週刊で描いてる人がホントにのめり込むとね、それでパーになっちゃう。眠くならないアンプル飲んで5日間寝ないで描いたっていうんですね。これはね、才能の”大根おろし状態”というかね、そういう感覚になるんじゃないかなと思いますね。

久石:
CDだと1枚の収録時間が今はもう70分くらいですし。このままDVDになったら、音だけならものすごい容量ですからね。

宮崎:
そんなもん作ったら死んじまうんじゃない? どんどん多消費になって、そのことがホントにいろんな人の才能を脅かしてるって思うんですね。

久石:
だからそういうものに使われちゃわないで、いろんなアイデア出すしかないんですね。たとえばDVDがコンピューターとうまく連動できるならば、素材の音をそのまま全部入れてしまってユーザーが自分でミックスできるとか、映像の方でも未編集のものを入れておいて、これは監督の考えた編集、あなたはあなたの編集で映画を作ってください、というように。みんないろいろ新しい手を考えるでしょうね。


久石:
今年ずいぶん宮崎さんの本を読ませてもらったんですが、「時代の風音」という対談集では司馬遼太郎さん、堀田善衛さんとお話されてましたね。

宮崎:
ええ。司馬さんと堀田さんってぜんぜん違う人なんですよ。堀田さんは、日本人という視点からじゃなくて人間とか歴史とかいう視点で世界を見ていて、その中で日本も見ている。でも司馬さんという人は逆に、日本人であるというところから世界を眺める。徹底的に日本人であろうとすることにこだわってきた人です。

久石:
僕がふっと思ったのは堀田さんと司馬さんと宮崎さん、どなたも私小説と縁のない人だなってことです。日本の文学ってどうしても私小説がメインで始まっているじゃないですか。そういう意味でいうと堀田さん、司馬さんの作品に日本的な私小説の感覚はないし、宮崎さんの作品も私小説じゃない。もしかしたら僕のやってる音楽もあんまり私小説的な世界にこだわってないな、と思ったんです。

宮崎:
音楽をそういうふうに見る努力を僕はぜんぜんしてないから、音楽に関して言葉がないですね。

久石:
でも言葉といえば音楽って抽象的すぎて、音で何か言いたいと思っても無理ですよね。僕のようにピアノだとか弦だとか、インストゥルメンタルでやっている人間が、たとえばこの時代に対して僕の意見を言いたいと思ったら、ベートーヴェンのように1時間ぐらいの作品を書かなきゃならない。でも、それはエンターテイメントやポップスというフィールドから逸脱して、芸術家の方にいってしまう。それは僕のフィールドとは違うと思ったときに、インストゥルメンタルで音楽をやっていくことにすごく限界を感じますね。

宮崎:
仕事に関していうなら、僕は自分たちの仕事を駄菓子屋の商売だと決めてるんです。それはどういうことかというと、子供に一瞬”買い食い”の楽しみを与えられればそれでいいんだということです。ただ、駄菓子屋といってもいろんなものがある。売れりゃなんでもいいんだって、いいかげんな色素とか保存料とかじゃかじゃかつっこんで作っちゃうんじゃなくて、とにかく”駄菓子屋として一生懸命作りました”という駄菓子屋です。そういうことじゃなくて、名の通った、うまくはないんだけどすごいんだっていう和菓子を作りたいのなら、この場所は違うって思うんですね。

宮崎:
若いときはもう少し青くさく、「この映画さえできれば世の中変わる」なんて本気で思ってましたけどね、出来上がってみると何も変わらないんですよ。そういうときに自分たちのつっかえ棒はなんだろうと考えたら、この仕事の過程で自分たちがどれだけのことを手に入れたかってことくらい。メッセージを伝えるために映画を作るんだったら、書きゃいいんですもんね。

久石:
あっ、そうですね。

宮崎:
久石さんもそうでしょうけど、インタビューなんかでね”この作品のメッセージはなんですか”なんて聞かれるでしょ、黙って見てくれとしか言いようがないですよね。つまんなかったら途中で帰っていいし。もし少しでも心にひっかかることがあったら、それはなんだろうと感じたり、ときどき思い出してみてくれたらいいわけで。「テーマは? メッセージは? どこが見どころですか?」って言うけど、見どころ以外のとこは見どころじゃないのかって(笑)。

久石:
どんなことを思って作られましたか、というたぐいの質問は僕もよく受けますけど、言葉で説明するんじゃなくて、音楽を聴いてわかってもらいたいですね。

宮崎:
「紅の豚」のときね、お金もいっぱいかけちゃったし、罪ほろぼしにキャンペーンに協力しますって、日本全国を歩いたんです。そうすると1日に何回も、「なぜ主人公は豚なんですか?」「いつも空を飛ぶんですね」って聞かれるんで(笑)、だんだんハラがたってきてみんな違う答えをしたりしてね。

久石:
ハハハハッ! 大きなお世話ですよね。


久石:
「となりのトトロ」では、”トトロ”が登場するシーンで7拍子の音楽から音を抜いたことがありましたね。宮崎さんが「ここもう少し音うすくなりませんか」とか「少なくなりませんか」とかおっしゃって。僕もなんだかちょっと、”too much”だと感じてて、あのときにそれを指摘する宮崎さんて、すさまじいなあと思いました。

宮崎:
いやいや、久石さんの技術ですよ。久石さんがあの機械がいっぱいならんでる部屋にすわって、「音を1個ずつ抜きましょう」って、ひとつおきに抜いたんでしたね。それでトトロが現れてくる絵にあわせたら、余韻があって不思議にピッタリだった。こんなこともあるんだって思いましたよね。

久石:
あのとき、いったんは”音楽なし”ってことになったのが、ミーティングの翌日に電話をいただいて、まだ悩んでいらしたんですよね。やっぱり音楽を考えてほしいって。でも入れない可能性もあるけどいいですか、とおっしゃってた。それだけすごく難しいシーンでしたね。

宮崎:
トトロでは、打合せのとき確か”子供たちが歌ってくれる歌をぜひ作りたい”って話をしたんでしたね。

久石:
ええ。実は「さんぽ」は教科書に載るようになったんですよ。僕の唯一の、子供公認曲です(笑)。

宮崎:
それはすごいなぁ。この前ね、僕が時々行く山小屋の近くで「ラピュタ」の映画会をやった人たちがいるんですよ。最後に「君をのせて」の大合唱になって主催者が感動してました。おまけに蛍が飛んできたりして!

久石:
うれしいですねぇ。僕は、自分の子供が小さい時期にギンギンの現代音楽をやっていて、3、4歳の自分の子を見ながらアイデアが出る一番重要なときに子供の曲を作れなかったんです。それを今でもすごく後悔してるんですけど、トトロをやらせてもらったことで、その世界の仕事を残せたことが特にうれしいんです。

宮崎:
子供のいい歌が作られて残っていくというのはいいことですよね。

久石:
はい。ぜひ「もののけ姫」もいいものにしたいです。その制作がピークのときに、こうしてお話させていただいて、今日は本当にありがとうございました。

(PIANO STORIES II ~The Wind of Life 1996 コンサート・パンフレットより)

 

 

Related page:

 

 

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Blog. 「久石譲 PIANO STORIES II Part.1-3」(1996)コンサート・パンフレットより

Poated on 2015/9/13

久石譲の過去のコンサートから

「久石譲 PIANO STORIES II ~The Wind of Lie」
Part.1 Orchestra Night (2公演)
Part.2 Ensemble Night (7公演)
Part.3 Piano Solo Night (11公演)

なんとこの1996年は、当時最新作ソロアルバム『PIANO STORIES II』を引き下げ、上のように3タイプでのコンサートが精力的に開催されました。オーケストラ編成、アンサンブル編成、ピアノ・ソロ、しかもこれが10-12月という3ヶ月間のなかで、怒涛のように全国で開催されていたわけで伝説的です。

演奏プログラムもそれぞれの編成を活かした当時の久石メロディー満載のラインナップです。当時は小ホールもそうですが、短大や学園祭でも演奏していたんですね。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 1 Orchestra Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/10/14-15

[公演回数]
2公演 Bunkamuraオーチャードホール(東京)

[編成]
ピアノ:久石譲
指揮:金洪才
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

[曲目]
タスマニア物語

『My Lost City』より
1920
冬の夢
Madness

『もののけ姫』より
アシタカせっ記
シシ神の森

DA・MA・SHI・絵

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends
Angel Springs
Highlander
Kids Return
Asian Dream Song

【Melody Fair】
魔女の宅急便
「水の旅人」より FOR YOU
「水の旅人」より THEME

—–アンコール—–
Two of Us
「ナウシカ組曲」より 鳥の人

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 2 Ensembles Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/11/1-22

[公演回数]
全国7公演
11/1 長野県民文化会館中ホール(長野)
11/9 山口芸術短期大学(山口)
11/15 赤坂BLITZ(東京)
11/20 シアタードラマシティ(大阪)
11/21 草津文化芸術会館(滋賀)
11/22 関内ホール(横浜)

11/3 国立音楽大学講堂大ホール [国立音楽大学芸術祭]

[編成]
ピアノ:久石譲
String Quartet
Contra Bass
Marimba
Wood Wind

[曲目]
794BDH
Venus

『MKWAJU』より
MKWAJU
SHAK SHAK
LEMORE
TIRA-RIN

Tango X.T.C
Modern Strings

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends<ピアノソロ>
Angel Springs
Kids Return
Highlander
Les Aventuriers
Asian Dream Song

DA・MA・SHI・絵

—–アンコール—–
君だけを見ていた<ピアノソロ>
Madness

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 3 Piano Solo Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/12/10-27

[公演回数]
全国11公演
12/10 柏崎市民会館(新潟)
12/11 砺波市文化会館(富山)
12/12 松本市文化会館(長野)
12/14 パナソニック・グローブ座(東京)
12/15 パナソニック・グローブ座(東京)
12/16 仙台電力ホール(仙台)
12/19 米子市文化ホール(鳥取)
12/21 広島アステールプラザ(広島)
12/24 中野市民会館(長野)
12/26 しらかわホール(名古屋)
12/27 いずみホール(大阪)

[編成]
ピアノ:久石譲

[曲目]
The Inners
Dream
君だけを見ていた

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends
Angel Springs
Kids Return (MIDI)

Fantasia for Nausicaä
Drifting in the City

Cape Hotel
Tango X.T.C
※東京公演のみゲスト。
2曲差し替え<ゲスト:茂木大輔(Oboe)>
Two of Us
DA・MA・SHI・絵

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
The Wind of Life
Les Aventuriers (MIDI)
Asian Dream Song (MIDI)

—–アンコール—–
風のとおり道
Labyrinth of Eden

 

 

この伝説的コンサートを紐解くべく、当時会場で販売されたコンサート・パンフレットから、いくつかご紹介していきます。

 

 

【message】
-これは、まるでトライアスロンのような、
刺激的で、かつ知的な『久石譲の世界』だ。
”Orchestra Night 〈10月〉”
”Ensemble Night 〈11月〉”
”Piano Solo Night 〈12月〉”
漕いで、泳いで、そして走る。
エネルギーをそそいだパワフルなステージから
”最高の音楽”を演出していく、音楽の”トライアスロン”そのものなのである。

10月は『DA・MA・SHI・絵』の初演など、シンフォニックなサウンドで贅沢な響きを、11月ではミニマルを中心とした前衛的なアンサンブルで斬新なステージ構成を、12月はじっくりと落ち着いた雰囲気を醸し出すピアノ・ソロ。それぞれに個性的な表情が新鮮だ。

あの『Piano Stories』のリリースから8年。新譜『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』で、再び”原点”であるピアノに戻った久石譲が、ピアノとストリングスによる”良質”のアコースティック・インストゥルメンタルを提案している。

新作・初演に、これまで親しまれてきた曲を加えた、その1曲1曲が、ポップでアヴァンギャルドなアレンジメント・センスによって、限りなくピュアなメロディを創り出していく。

 

【楽曲解説】

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 1 Orchestra Night

■オープニングを飾る”タスマニア物語”は映画「タスマニア物語」(降旗康男監督)のメインテーマ。3拍子のリズムによって醸し出される雄大なスケール感が印象的。

■1920年代、”アール・デコ”の時代にインスピレーションを得たアルバム「My Lost City」(1992)からは”1920” ”冬の夢” ”Madness”の3曲。シンフォニック・コンサートにおいてもたびたびプログラムに取り上げられ、その美しいメロディと重厚なオーケストレーションの響きがみごとな統一感を出している。

■「もののけ姫」は1997年夏に公開予定の宮崎駿監督作品。公開に先がけてすでにイメージアルバムが発売されており、コンサートでは初演となる。”アシタカせっ記”(メインテーマ)他が演奏される予定。-「もののけ姫」は日本にとどまらず、これから世紀末を迎える、世界中のすべての人々に向けて創られるものだと思う。その音楽を手がけることになって、いま一番考えていることは、日本人としてのアイデンティティーをどう保ち、どう表現するかということである。映画の公開まで、宮崎監督との豪速球のキャッチボールが続きそうだ。「もののけ姫 イメージアルバム」より

■アルバム「α-BET-CITY」に収録されている”DA・MA・SHI・絵”はオーケストラ・バージョンでは初演となる。サンプリングを使用したミニマル的な原曲を再構成、弦・管楽器の広がりのある響きと爽快なリズムのコンビネーションが小気味良さを生み出している。

■今秋10月下旬発売予定の新譜「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」より、5曲演奏される。オーケストラでの演奏はもちろん初演。”Friends”はトヨタ「クラウンマジェスタ」CMで、”Angel Springs”はサントリーウイスキー「山崎」CMで、それぞれなじみ深いメロディとなっている。また”Kids Return”は今年7月に公開された北野武監督の最新作「Kids Return」のメインテーマ。”Asian Dream Song”は、久石譲が総合プロデューサーを務める「長野パラリンピック冬季競技大会」(1998年開催)の大会テーマ曲として作曲された。

■Melody Fairでは、これまでに発表された数多くの作品の中から印象的なメロディ3曲を取り上げる。久石譲の魅力を再認識させてくれるような曲ばかりである。”魔女の宅急便”は1989年宮崎駿監督作品「魔女の宅急便」のテーマ曲。「水の旅人」(1993年公開/大林宣彦監督作品「水の旅人 ~侍Kids~」)はオーケストラとピアノによって、よりシンフォニックに再現されたスケールの大きい作品。”THEME”は文字通り、この映画のメインテーマ、”FOR YOU”はエンディングで中山美穂が歌って話題になったが、インストとしてもとても美しい曲。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 2 Ensembles Night

■オープニングの”794BDH”はマツダ「ファミリア4WD」CM曲。後にCM曲を集めたアルバム「CURVED MUSIC」に収録。”Sonatine”は1993年公開の北野武監督の話題作「Sonatine」メインテーマ。スリリングなメロディラインが印象的。”Modern Strings”はアルバム「I am」(1991)の中でも、ストリングスの裏アップ・ビートのカッティングが耳に残る、過激な作品。センチメンタルなタンゴの響きが懐かしい”Tango X.T.C.”は1992年のソロアルバム「My Lost City」に収録。

■『MKWAJU(ムクワジュ)』と題したこのコーナーでは、1981年にリリースされたアルバム「MKWAJU」から4曲演奏される。パーカッション・グループ、ムクワジュ・アンサンブルのために書かれたこの組曲は、アフリカの民族音がうから得た音型をもとに、アフリカのリズムが持っている多重的なリズム要素を、構造として”見せる”ことを目的として作曲した作品。ミニマル・ミュージックのおもしろさも味わえる。

■この秋の新譜「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」は、ピアノ&ストリングスの編成を中心としたアコースティック・インスト・アルバム。このコンサートでは、久石譲のプロデュース&アレンジによるストリングス、木管等のアンサンブルが、斬新なサウンドを聴かせてくれる。『アンサンブルの魅力』を充分に堪能できる構成となっている。

■”DA・MA・SHI・絵”はアルバム「α-BET-CITY」の中の1曲。原曲は、ミニマル的なサンプリングによる弦楽器、管楽器の響きが心地よい、オーケストラ的な広がりを持つ作品。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 3 Piano Solo Night

Part 3 Piano Solo Nightでは、これまでリリースしてきた代表的なアルバムの中からセレクトした曲を、ピアノソロそして、ピアノプレーヤーとのジョイントによる演奏で構成していく。「MKWAJU」「I am」「PIANO STORIES」「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」等は、いずれも、その音のイメージひとつひとつが吟味され表現されたアルバム。久石譲の感性が光るメロディ・ラインが、独自のピアノ・ワールドを創り上げる。

■ピアノプレーヤーとの”協演”
〈ピアノ・ソロ・ナイト〉で独自の世界を表現するのは、一人と一台の織りなす美しいハーモニー。ピアノプレーヤーがひとつのテーマを繰り返し、そこに生で演奏されるピアノが絡んでゆく。”久石ワールド”が2台のピアノによって紡ぎ出される。

「ピアノプレーヤーは、人間の可能性をより拡大するシステム。たとえば同じテーマを、ずっと同じテンポで弾くという、難しい部分を担当させています」 -久石譲

(【message】【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

楽曲解説からもわかるとおり、コンサート編成に合わせて楽曲を再構成するという、久石譲のスタンスの土台がつくられていった、そんな時代のような気もします。

これがのちの、オーケストラ作品であれば「WORKSシリーズ」「ミニマリズム・シリーズ」、アンサンブル作品であれば、「PIANO STORIESシリーズ」や「Shoot The Violist」など。

現在からこの20年近く前を振り返れば、簡単にそう言い表せてしまうのですが、やはり久石譲音楽活動において、コンサートというのは作品になる前段階もふくめた、重要な実験の場、創作活動の源、楽曲が成長していく場のような気がしてきます。

作品化されるまでに5年以上経過するものも常ですが、コンサートで披露(しかも幾度にわたって)された作品たちは、これからもいつか作品化されていくのではないか、と。。。

たとえば、「DA・MA・SHI・絵」。オリジナルが「α-BET-CITY」(1985)に収録されているわけですが、この1996年にオーケストラ初演されてから、その後も数々のコンサートで取り上げられてきて、オーケストラバージョンとしてCD作品化されたのは「ミニマリズム」(2009)。なんと13年という月日が流れています。

アンサンブル・バージョンもおそらくこのツアーあたりが原型だと思うのですが、コンサート演奏、修正・改訂を重ね、CD作品化されたのは…「Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~」(2000)。

久石譲の音楽と歩んでいくというのは、そういうことなんじゃないかと、そんな心境で当時のパンフレットを見返していました。久石譲のエネルギーが四方に爆発し、かつそれを収拾つけるかのように多種多彩な創作活動と演奏活動。そんな当時40代の走りつづける久石譲を感じます。

 

 

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Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

Posted on 2015/9/10

クラシックプレミアム第44巻は、ヤナーチェクとバルトークです。

いろいよ終盤は近代に突入しています。

 

【収録曲】
ヤナーチェク
《シンフォニエッタ》
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1987年

バルトーク
管弦楽のための協奏曲 Sz.116
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
シカゴ交響楽団
録音/1980年

《ルーマニア民俗舞曲》 Sz.68
エルネスト・アンセルメ指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
録音/1964年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」 ルポルダージュ
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015 リハーサルを取材

今号では久石譲によるエッセイ(音楽講義?)はお休みです。

ルポルタージュとして、8月に開催されたW.D.O.コンサートの、クラシックプレミアム編集部によるルポルタージュとなっています。前年(W.D.O. 2014)のルポルタージュにつづき今年も。うれしい限りです。

こちら ⇒ Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

ルポルタージュでは、普段わからない舞台裏が垣間見れることが一番です。2日間のリハーサル風景や、楽曲が仕上がっていく過程が、たっぷりと語られています。今年はどんな舞台裏だったのでしょうか。

 

 

昨年に続いて、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による「ワールド・ドリーム・オーケストラ」のコンサートが8月に開催。今年は8年ぶりの全国ツアーで、大阪(8月5日)を皮切りに、広島(6日)、東京(8日・9日)、名古屋(12日)、仙台(13日)をめぐる。そのリハーサル(3日・4日)のようすを編集部が取材した。

今回の「ワールド・ドリーム・オーケストラ」のプログラムは、久石さんが昨年から構想を練り、ぎりぎりまで検討したプログラムだという。それは戦後70年の大きな節目の年に行う「ワールド・ドリーム・オーケストラ」に、特別の想いを込めていることの表れなのだろう。その結果、すべて自作品で構成され、その大半が世界初演だ。ツアーでめぐる都市に広島や仙台があることからも想いの強さが伺える。

挨拶をしようとリハーサル直前の楽屋に向かう。中へ招じられるとそこには楽譜に向かって集中している久石さんの背中が見えた。気安く声をかけられるような雰囲気ではない。が、一瞬の後、くるりと振り向くと笑顔だ。

 

【15時 リハーサル開始 セッション①】

演奏会は2部構成で、第1部は、久石さんのピアノとチューブラー・ベルと弦楽合奏による《祈りのうた》に始まり、4楽章からなる交響作品《The End of The World》、続けて1962年に発表されたスタンダードナンバー《The End of the World》(邦題「この世の果てまで」)を久石さんが再構成した作品で終わる。

リハーサルの最初は大曲《The End of The World》第1楽章だ(リハーサルでは曲の楽器の編成等で演奏の順を決める)。その冒頭から久石さんの指示が飛びリズムの刻み方のこまかいニュアンスを伝えていく。このリズムは曲全体を覆うことになる重要なモティーフなのだ。指示される前と後の演奏を比べると、アクセントの置き方の微妙な違いで、これほど表情が変わるのかと驚く。巨大な音の魂が押し寄せてくるような楽章だ。この《The End of The World》の原曲は、2008年、久石さんが「9.11」に衝撃を受けて作曲した作品なのだ。

第2楽章は、中東風のメロディーを歌うチェロのソロとティンパニの応答で始まる。濃厚でエキゾティックな香り。やがてアルト・サクソフォーンのソロでジャズ風の展開となり、オーケストラ全体がスウィングしてくる。それを先導して久石さん自身がスウィングしている。身体全体からリズムが溢れているようだ。16時15分に休憩。

 

【16時35分~17時45分 セッション②】

久石さんのピアノとオーケストラによる《紅の豚》から始まる。これは第2部で演奏される曲。そしてテレビCMで聴きなれた《Dream More》。メロディーは聴きなれた曲だが、久石さんの新たな書き下ろしによる豊饒な響きのオーケストラ作品になっている。速い分散和音の繰り返しを異なる楽器で分けて受け持つという離れ業を聴かせる。それが楽器を変えながらメロディーを支えていくのだが、ぴたりとリズムが合う時の爽快感は格別だ。1時間の食事休憩。

 

【18時45分~19時45分 セッション③】

ここからオーケストラに混声合唱とカウンターテナーが加わる。《Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015》は、映画『風の谷のナウシカ』の音楽を演奏会用の作品として発表してきたもののいわば集大成ともいえる交響詩。演奏会では第2部の冒頭に演奏される。破壊と再生の叙事詩が、レクイエムのディエス・イレ(怒りの日)や壮大なフーガ、低弦が唸る不気味な音、清澄な女声合唱などで綴られていく。そして《The End of The World》の第3楽章。カウンターテナーの高橋淳さんの深く強靭な声が印象的だ。

 

【20時~21時 セッション④】

引き続き、オーケストラと混声合唱とカウンターテナー。《The End of The World》の壮大な第4楽章。次いで久石さん再構成版《The End of the World》で、オーケストラと混声合唱にカウンターテナーという珍しい組み合わせなのだが、心に強く訴えてくるものがある。そしてこの日の最後に《祈りのうた》。久石さんのピアノとチューブラー・ベルの応答に弦楽合奏が加わる静謐な音楽だ。今回の演奏会が、この曲から始まる意味は大きい。

 

翌日の4日のリハーサルにも顔を出した。前日と同じ《The End of The World》の第1楽章から始まる。するとオーケストラの音がまったく違う。音は厚く豊かになり、複雑なリズムもソリッドになっている。たった1日のリハーサルでここまで仕上がるのかと驚く。休憩時に垣間見た久石さんの表情も高揚したなかに確信がみなぎっていた。21時までリハーサルが続き、そのまま大阪入りするのだという。いよいよツアーが始まる。

(クラシックプレミアム 第44巻 より)

 

 

2日間にわたる濃厚なリハーサルだったようです。2日間ぶっ通しではあるものの、2日間で仕上げる集中力は、久石譲も新日本フィルも、さすがはプロだなと感嘆します。

さて、今年2015年の一大イベントとなった「W.D.O.2015」ですが、コンサート・レポートや、公式パンフレット内久石譲インタビューなど、興味のある方はそちらもぜひご覧ください。

そしてその歴史の1ページを刻んだコンサートの、WOWOW放送も日にちが迫ってきました。

 

WDO2015 Related page:

 

久石譲 コンサート 2015 W

 

クラシックプレミアム 44 ヤナーチェク バルトーク