1984年3月 LP発売 CX-7155
1984年3月 CT発売 CAY-670
原作:氷室冴子 音楽:久石譲
ジャケットイラスト:藤田和子
氷室ファン待望のイメージアルバム
ミント・エージのシンデレラたちに贈る氷室ファンタジーのオリジナルサウンドトラック!
録音を終えて 久石譲・談
Q.原作を読んで、どんな印象をうけました?
Joe:
すごく変った物語だと思いましたね。ああいう設定ってあまりないでしょう。だから自分の持っている音楽性の中でどの方向からアプローチしようかと考えた時には、現実じゃない、という所から絞っていきましたね。非現実的なものをシンプルにやる、そしてそれをこの小説の読者である若い女の子たちの感性に最もフィットするようにやるにはどうしたらいいかと考えました。
Q.非現実的なものを表現する上で、具体的にはどういう方法をとったのですか?
Joe:
これは夢の中の物語で、見方によっては非常にビョーキしてる世界だよね。だから、ミニマル・ミュージックという、小さなパターンを繰り返して作っていく手法を使って、一種不訶思議な時間感覚を創り出そうと思ったわけです。もうひとつのポイントは、全体にオルガン・サウンドを中心にしたことかな。
Q.原作には、白鳥の湖とか白雪姫とかのパロディがいっぱいでてきますが、そのあたりはどのように考えたのですか?
Joe:
白雪姫、白鳥の湖、オーロラ姫、ジェイン・エア、そういったテーマが全部有名だったら、それをうまくパロディにして全く違った風に作っていく方法もあったかもしれません。実は《緋と黒の舞姫》では白鳥の湖のモチーフをちょっと出してるんだけど、全部のメロディをキチンと使えるんでなければ、パロディにする意味が無いですからね。それに個々のキャラクターを音楽的に表現する段になると、この小説はそれぞれの人物が実はこんなに暗かった、実はこんなに悲惨だったっていう話だから、単純なパロディでは描ききれなかったですね。
Q.登場人物の中で特に好きなキャラクターは?
Joe:
好きというか、やりやすかったのは、《待ち続ける女》のジェイン・エアでした。ヨーロピアン、それも戦前のドイツの暗い酒場、みたいなイメージが最初からあって、デカダンス、のような感じでやってみようということで一番最初にメロディが出来上りました。
Q.全曲を録音し終って、一番印象に残っているのはどの曲ですか?
Joe:
勿論みんな気に入っているけれど、《シーラカンスの夢》は中でも一番満足していますね。あの曲ではテープ・ループという方法を使いました。アーと歌った声をテープに録音し、それをぐるっと回して秒数の異なる何本かのエンドレス・テープを作り、それを重ねあわせると非常に微妙な色合いがでる、という手法なんですけどね。
Q.アルバムが完成しての感想をひとつ。
Joe:
かなり常識からはずれたような音作りをした気がする、あまり意図はしなかったんだけれど。例えば、1コーラスがあって2コーラスがある、すると普通はその間に間奏という部分があって間奏のメロディがあるんだけど、このアルバムではあまりそういうことはしていない。ごく自然にやったことが、世間で言う、ビョーキしてますね、という音に近かった、しかしそれも決して暗くならなかったのが救いなんじゃないか、と本人は自負しているわけです。
(LPライナーノーツより)
楽曲解説
SIDE 1
シンデレラ迷宮
《シンデレラ迷宮》のテーマ曲。印象的なイントロと共に、このイメージ・アルバムの幕が上る。コンピューターを使ったシンプルなデジタル・リズムの上に、美しいメロディが静かに奏でられてゆく。クラシカルな音楽を”いま”の感覚で捉えなおした佳曲といえよう。この物語全体に漂う一種不訶思議なファンタジーを強く感じさせてくれる。
リネの夢
この物語そのものであるところの《リネの夢》のテーマ。現代音楽の手法であり、クラフトワーク、YMO等、近年のテクノ・ポップ・グループに大きな影響を与えた〈ミニマル・ミュージック〉(パターン・ミュージック)-最小単位の音のパターンを繰り返す音楽手法-を使い、”夢”の不思議な時間感覚を捉えている。この手法はアルバム全体を通して、非現実を象徴する音型として、何ヶ所かで使われている。
王妃の孤独
白雪姫の継母たる王妃のテーマ。バロック音楽の大聖堂のオルガンを思わせる重厚な響きに、単音のピアノが重なっていく。王妃の高貴さ、その運命のかなしさを淡淡と綴る。
緋と黒の舞姫
《リネの夢》の音型を使ったイントロの中から突然強烈なリズムが踊り出る。〈蒼ざめた湖〉のほとりに住む緋と黒の舞姫オディールのテーマ。途中、ストリングスの音色で、どこかエキゾチックな妖しいオブリガートがメロディに絡み合う。オディールは、舞姫というより、緋と黒のディスコ・クィーン、くらいの強烈なイメージで捉えられている。藤田和子氏描くところのオディールのイラストも、可愛く、かなしみに満ちたディスコ・クィーンというった方がイメージに合っているのではないだろうか。(中間部で二度出てくる白鳥の湖のパロディ、分かりますか?)
シーラカンスの夢
舞台一転、オディールの部屋。深い湖の底-テープ・ループを利用した人声の、不気味な、そして何処か荘厳な響き、そしてオルガンの静かな響きの上に、ダルシマがメロディを奏でる。婚礼の祝宴のシーンに出てくる箱琴のイメージを、このダルシマの音色にダブらせて聞くのも面白いだろう。オディール編のこの二曲、緋と黒の舞姫の妖しい情熱と、深い悲しみの眠りを見事に描き分けている。
SIDE 2
シンデレラ・シンドローム
カルメン、ジュリエット、輝子-皆、自分を絶望の淵から救ってくれる王子が現われるのを、ただ身をすくませて待っているだけのシンデレラ症候群(シンドローム)患者だ。ここでは個々の人物のイメージは追わず、不気味さ、ビョーキっぽさを前面に出し、〈ハーレム・ディスコ〉とでも言った印象の曲になっている。
オーロラ姫の嘆き
暁の国の姫君ゼランディーヌのテーマ。作曲者久石譲のイメージの中では、このオーロラ姫のセクションが最もビョーキっぽい感じがあったようだ。変拍子のミニマル・ミュージックによるベーシックな音作りの上に、高音の美しいメロディがゆるやかに絡み合い、その一種の不均衡さが、オーロラ姫の精神のアンバランスを暗示するかのようだ。
待ち続ける女
決して来ることのない自分自身を永遠に待ち続ける狂気の女、ジェイン。世紀末、頽廃、デカダンスをキーワードにして、けだるいスキャット・ボーカルと何処かヨーロッパ風のアコーディオンが、ジェインの憂愁を映し出す。
ソーンフィールド館の炎上
ジェインのつけた火によって、ソーンフィールド館は次第に炎に包まれてゆく。激しいデジタル・リズムの上に、オルガンのアドリブが繰り広げられる。途中、前曲のジェインのモチーフがはさまり、女性の叫び声とともに、吸いこまれるようにして曲は幕を閉じる。
シンデレラ迷宮 (クロージング)
物語は大団円をむかえ、真暗になった画面にゆっくりとクレジット・タイトルがせり上ってゆく。《シンデレラ迷宮》のメロディが静かに流れ出す。ピアノとストリングスの音色が、やわらかくクロージング・テーマを歌い出す……
(楽曲解説 ~LPライナーノーツより)
LPライナーノーツにはその他に下記も掲載されている。
・シンデレラ迷宮のことなど 氷室冴子
・氷室さんのこと 藤田和子
・小説と音楽と 石原秋彦 (集英社コバルトシリーズ編集長)
Side 1
1.シンデレラ迷宮
2.リネの夢
3.王妃の孤独
4.緋と黒の舞姫
5.シーラカンスの夢
Side 2
1.シンデレラ・シンドローム
2.オーロラ姫の嘆き
3.待ち続ける女
4.ソーンフィールド館の炎上
5.シンデレラ迷宮 [クロージング]
原作:氷室冴子
作・編曲:久石譲
演奏:Wonder City Orchestra
ジャケットイラストレーション:藤田和子
All Composed & Arranged by Joe Hisaishi
Performed by Wonder City Orchestra
Guest:
Keiji Azami (dulcimer)
Kimie Kanai (scat)
Masumi Sasaki (voice)
Recorded at Columbia Studio & Arcadia Studio , Tokyo Jan. – Feb. 1984