1960年代よりスティーヴ・ライヒらと並んでミニマル・ミュージックという潮流の中心にあり、次々と作品を発表。さらには映画音楽においても『コヤニスカッツィ』『めぐりあう時間たち』など多くの作品を手がけているのが、2017年に80歳を迎えるフィリップ・グラス。この6月、注目すべき公演『ギンズバーグへのオマージュ』のために来日するが、別の日には彼のピアノ曲をじっくりと聴くコンサートも開催される。全20曲の「エチュード」を3人のピアニストが演奏するという『ザ・コンプリート・エチュード』は、作曲者自身の演奏も聴けるという貴重な機会。そして、ピアニストのひとりに指名されたのが作曲家の久石譲だ。学生時代よりグラスの音楽に傾倒し、自らもミニマル・ミュージックの手法を駆使したオーケストラ曲などを多数書いている。
「敬愛するグラスさん直々のご依頼ですから、これほど光栄なことはありませんけれど、実はピアニストとして彼と同じステージに立つという現実を前に戦々恐々としています。グラスさんはミニマル・ミュージックについて『繰り返しを聴かせるのではなく、そこに生まれる音楽のズレこそが魅力だ』ということをおっしゃっていて大変に共感しましたし、実は僕もそうした手法で作品を書いています。ご自身が弾かれている『エチュード集』も聴きましたが、同じ音型を淡々と弾くという機械的な演奏ではなく、想像以上にエモーショナルで自由度の高いものでしたから非常に感銘を受けました。それでいて彼の知性がしっかりとバックボーンにあり、どう弾いても枠組みが崩れないという構成力には感服するばかり。シンプルなリズム・パターンや音型を重ねていながら、ちょっとした音の配置の違いで世界観ががらりと変わってしまうという奥深い作品です」
一般的には映画音楽などで知られる久石だが、この5月より芸術監督を務める長野市芸術館においても自身のコンサート用作品を指揮する予定があり、一方ではミニマルやポスト・クラシカルなど新旧世代の注目すべき作曲家を紹介するコンサート・シリーズ『MUSIC FUTURE』もプロデュースしている。
「グラスさんが素晴らしいのは、ご自身も演奏者として聴衆に接していること。今回は僕もピアニストではなく作曲家という視点で楽譜を読み、演奏したいと考えていますから、自分なりの解釈をお聴かせできると思います」
もうひとりのピアニストである滑川真希は「エチュード集」の初演者でもあるため、今回の公演は最高の顔ぶれとなる。グラスの新伝説をお聴き逃しありませんよう。パルコ・プロデュース「THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ」は6月4日(土)、フィリップ・グラス、久石譲、滑川真希が出演する「THE COMPLETE ETUDES」は6月5日(日)にそれぞれ東京・すみだトリフォニーホール 大ホールで上演。
取材・文:オヤマダアツシ(音楽ライター)
出典:チケットぴあ
http://ticket-news.pia.jp/pia/news.do?newsCd=201605190005