Info. 2016/05/20 「久石譲 フィリップ・グラスとの共演に向けて」 (SPICE スパイス)Webインタビュー

久石譲(作曲家)インタビュー フィリップ・グラスとの共演に向けて

久石譲、フィリップ・グラスのピアノパフォーマンス究極の集大成に参加決定

『現代最高の音楽家、フィリップ・グラスが11年ぶりに再来日する』
この報せを聞くだけで、飛び上がって喜ぶ人も少なくないはずだ。

御年79歳を迎えるグラス氏だが、その活動は今なおとどまる所を知らない。彼の作曲範囲はオペラ、ダンス、映画音楽からオーケストラにいたるまで多岐に渡っており、今なお熱狂的なファンを獲得し続けている。2012年には高松宮殿下記念世界文化賞を、2015年には芸術のノーベル賞とも言われるグレン・グールド賞を受賞するなどその活躍はまさに円熟の極みに達していると言えるだろう。

前回2005年の来日では、自身のアンサンブルと共に来日し、我々に最高の時間をプレゼントしてくれたグラス氏。今回の来日では『THE COMPLETE ETUDES』と題して、自身のピアノ・エチュード全20曲とともに来日する。90年代より作曲され始め、彼のピアノ楽曲の集大成とも言えるエチュードを、全曲、しかも生演奏で聴けるという超貴重な演目だ。また、グラス氏本人の意向で演奏者には毎回開催地出身のピアニストが参加する形がとられている。これまでにも、自身の作品を敬愛する音楽家たちと多くのコラボレーションを盛んに行ってきたグラス氏ならではと言えるだろう。今回はなんとその1人に、日本が誇る作曲家、久石譲氏の参加が決定した!

久石氏の作曲家としての活躍については今更多くを語る必要もないだろう。近年ではピアノソロ、オーケストラなど様々なスタイルでの演奏活動や、指揮活動の他、現代の音楽の作品も多く手がけている。

少々前置きが長くなったが、今回はそんな久石氏に、この共演への意気込みや、グラスへの想い、また彼自身の今後の活動についてインタビューをすることが出来た!

「フィリップ・グラスは最も敬愛する作曲家の1人」と語る久石氏のインタビューの様子をたっぷりとお届けしよう。

久石譲 フィリップ・グラス 3

-まず初めに、フィリップ・グラス氏との出会い、現代音楽との出会いはどのような形だったのでしょうか?

久石:
結構早い時期から出会っていて、大学時代には彼の音楽に凄くハマりましたね。録音もLP盤ですがいろいろ持っていました。『the Photographer 』とかだったかな。いわゆる現代音楽家、ミニマル音楽のラ・モンテ・ヤングや、テリー・ライリーなども20代の頃から既に惹かれていました。

 

-グラス氏の作品を初めて聴いたときの印象などは覚えていますでしょうか?

久石:
ある種わかりやすいなという印象を受けた気がします。親しみやすいといいますか。分散和音の多用や、同じリズムの繰り返しなどですね。しかしシンプル故…演奏はかなり難しいだろうなと感じました(笑)

 

-敬愛する作曲家の1人でもあるグラス氏と、今回実際に共演をするという事ですが、ご心境や意気込みをお聞かせ願えますか?

久石:
僕自身もミニマル音楽からスタートしており、現在もその影響下で作曲を続けています。そういったミニマル音楽の創始者の1人でもあるグラス氏のことは本当に尊敬しています。まして今回は、その本人から直接、共演のお誘いを受けたということは非常に光栄です。できる限り全力を尽くしたいです。

 

-お若い時からグラス氏を初め、様々な方の現代音楽をお聴きになっているとお聞きしました。そこからご自身の作品へは、具体的にどのような影響がありましたでしょうか?

久石:
いろいろな意味で凄く影響を受けていますね(笑)。影響もそうですが、その姿勢に考えさせられたことをよく覚えています。グラス氏の言葉に「ミニマル音楽は繰り返しを聴かせるものではない。そこで起こるズレを聴かせるのだ。」というものがあります。確か何かのインタビューでしたでしょうか。それが凄く印象に残っていますね。繰り返しの中で起こる「違い」を見せていく音楽なんだということですね。機械的ではなく。

実際に今回演奏させて頂く、グラス氏のエチュードなどを聴くと、想像以上にエモーショナル(感情的)なんですね。僕も自身のエチュードを作曲した時、グラス氏のエチュードはよく参考にさせてもらっていたのですが、「ミニマル音楽ってこんなに自由でいいんだ」と思った事をよく覚えています。

よくオーケストラなどで現代曲の指揮をすると、皆さんいかにキッチリ合わせるかという事に力を注ぐんですね。そうではなくて、グラス氏の場合は、いかに自由になるか、いかに音楽的にするか…それも変な話ですが(笑)…という姿勢なんですね。自身の考え方の幅が広がったのを感じましたね。

 

-作曲家として多くの素晴らしい作品を残されてきた久石さんですが、演奏家として他者の作品を演奏する時に大切にされていることは何かありますか?

久石:
僕は他の人の作品を演奏する事はほとんどないんです。今回のこの共演も実は何回かお断りをいれたんです(笑)もちろん尊敬するグラス氏との共演は望んでいました。しかし、現在僕自身が超多忙であり、その合間を縫っての練習でグラス氏の期待に応えられるのか凄く心配だったためです。

しかしグラス氏が「それでもお願いしたい」と何度も言ってくださるので、大変恐縮ではあったのですが、今回お受けすることにしました。毎日時間を見つけては、死に物狂いで練習しています。今はそれしか考えられません(笑)

 

-ここで少し視点を変えて、「エチュード(練習曲)」というジャンルについてお聞きします。古今東西、昔から様々な作曲家がエチュードを作曲してきました。バッハの時代から始まり、ツェルニー、ショパン、ドビュッシーなどなど。そういった伝統あるエチュードは作曲家である久石さんの中でどのような存在でしょうか?

久石:
作曲家というのは、エチュードというものを書いてみたくなるものなんですね。単なる指の練習曲としてのエチュードではなく、ショパンのような「この曲はオクターブ」「この曲は3度の和音」といったテーマ明確に打ち出しながら、演奏会に耐えうるようなエチュードをです。なぜかというと、そういったテーマを持った作品というのは、作曲のとっかかりがあり、作曲しやすいとも言えるからです。グラス氏のエチュードはそれほどテーマに縛りがあるわけではありません。ただ、作曲という作業は、暗闇の中を進むようなものなんです。そこに何かテーマ的なものがあると、一歩踏み出しやすいわけですね。そういったことからもエチュードというのは作曲家にとっては意外に書きやすかったりします。ただ「エチュード」と付けるには最低12曲は書く必要性が出てきますが…(笑)

 

-今回グラス氏からこの依頼をお受けしてから、真っ先に楽譜を入手して研究されたそうですね。グラス氏のエチュードを全曲ご覧になって感じた魅力や面白さはどんなところでしょうか?

久石:
グラス氏のエチュードは、先ほども少し語らせて頂きましたが、ミニマル音楽的でありながら非常にエモーショナルで自由なんですね。そうでありながら、曲の枠組みは演奏者に左右されないほどしっかりしているんです。グラス氏本人が持つ構成力などは揺るがないんです。そういった部分が本当に奥深い作品であると感じています。今回の演奏会ではそういったグラス氏の音楽に、更に僕なりの作曲家としての解釈などを自由に重ねていけたら良いなと思っています。

 

-久石さんとグラス氏は、文明社会に警鐘を鳴らすような作品、新たなものの見方を提示するような作品を作曲されている部分などに、共通した姿勢を感じます。そういった部分はどうお考えでしょうか?

久石:
グラス氏は(音楽だけでなく)芸術の先を常に見据えてらっしゃるんですね。彼自身の音楽も、その裏側に、ものすごい知性力を感じさせてくれます。たまたま音楽が自分を表現するものなだけであって、どんな方法であれ、彼自身を表現する術を知っているんです。それが彼の音楽が進化し続ける理由でしょうね。そんなグラス氏と同じ姿勢で歩めているというのは非常に嬉しいですし、光栄です。

 

-最後に久石さんの今後の活動について少々お聞きします。今年、長野市芸術館の初代芸術監督にご就任されましたね。そのお話も少しお聞かせ願えますでしょうか?

久石:
現在オープニングコンサートの準備に大忙しです(笑)。《日常に芸術を》をコンセプトとして、皆さんに現代の音楽を伝えていけたらと思っています。「現代音楽」ではなく「現代の音楽」をです。僕は(作曲家本位の聴衆を置き去りにしてしまう)「現在音楽」はあまり好きではありません。自分が作曲している曲も「現代の音楽」であると思っています。決してわかりにくかったり、とっつきにくいものではないんですね。「現代の音楽」をしっかりと皆さんに伝えることは僕の役目であるとも思っています。もちろん古典も大切です。ただ1番大切なことはクラシック音楽を過去の音楽にしないということなんですね。今も生きている音楽にしたいんです。様々な新しい試みに挑戦していく予定ですので、今後もご期待下さい。

 

久石氏のフイリップ・グラス氏に対する尊敬と、現代「の」音楽に対する考え、並々ならぬ想いが感じ取れるインタビューであった。2人の夢の共演は6月5日(日)に実現予定だ。最高のメンバーで送る、フイリップ・グラスのピアノパフォーマンス究極の集大成に、是非とも足を運んでみてほしい。

出典元:SPICE – エンタメ特化型情報メディア スパイス より

 

久石譲 フィリップ・グラス 6

 

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