Info. 2019/02/14 「久石譲パリ公演カンファレンス」RENCONTRE AVEC JOE HISAISHI 動画公開

2月9日、10日、「久石譲 シンフォニック・コンサート」パリ公演が開催されました。

このコンサートは、2月6日から10日までパリ管弦楽団の本拠地フィルハーモニー・ド・パリ(Philharmonie de Paris)で開催される「ジャパン・ウィークエンド」という日本文化イベントに含まれた企画のひとつ。コンサートスケジュールをはさんで、久石譲とのカンファレンス(10日15時、入場無料)も行われました。

 

主催者公式サイトにて動画が公開されました。ノーカット約33分の貴重な映像です。ぜひご覧ください。

 

 

RENCONTRE AVEC JOE HISAISHI (約33分)

Enregistrée à la Philharmonie de Paris (grande salle Pierre Boulez – Philharmonie) le 10 février 2019

公式サイト:Philharmonie de Paris Live|RENCONTRE AVEC JOE HISAISHI
https://live.philharmoniedeparis.fr/encounter/1093609/rencontre-avec-joe-hisaishi.html

※2019年2月14日現在

 

 

「『THE EAST LAND SYMPHONY』は、まず東日本大震災という日本人にとってすごくショックな出来事がありまして。「3.11」と我々はよんでますけれども。そのときのショックがありまして、それを表現したいっていうんじゃないんですね。ちょうどそのあと9月にコンサートをもってまして、マーラーの交響曲第5番と新作の交響曲を発表する予定だった。それで少し書いていたんですが、そのさなかに大震災があって曲にすごくそれが影響してしまって、それで第1楽章と第2楽章だけその時なんとか作った、そういう経緯があります。」

「僕はミニマル・ミュージックという音楽をずっとやっていまして、例えばピエール・ブーレーズさん(フランス作曲家)、僕も若い頃やってたんですがミュージック・セリーという方法があります。十二音音楽の順列ですね。それとミニマルを組み合わせたらどうなるかと思って作ってたんで、必然的に通常のミニマル作品よりは不協和音が多くなって、それ自体は福島とはあまり関係がなかったです。」

「でも結果的に、(EAST LAND SYMPHONYの主題をハミングする)、なにかこう、結果ですけれどもたしかに津波を表現したようにも聴こえます。」

「大学の中盤でミニマル・ミュージックの影響を受けるんですけれども、それまではそういう音楽を一生懸命作っていて、シュトックハウゼン、ピエール・ブーレーズ、クセナキス、ルイジ・ノーノ、そっちのスタイルだったんで、わりと出だしはそういうヨーロッパ的な現代音楽を作っていました。」

(質問:映画音楽を作るときにはもっとシンプルであったほうがいいと思いますか?)

「う──ん。映画はやっぱりエンターテインメントである、同時に監督がもっている世界、つくりたい世界というのがあります。ですから、作曲家として望んだとおりの曲が書けるわけではないから、むしろコラボレーションによって引き起こされるものにとても期待しています。だから必然的にあまり難しいことをやってはいけないと思います。」

「すごく重要なことは、映像と音楽でひとつの世界をつくるから、音楽が100%ものを言ってしまったらうるさいんですね。ですから、どちらかというと60%、70%ぐらい、映像と共存できる書き方をします。(通訳:映像のほうが60%ですか?)うーん、それが、毎回違う。」

(質問:映像のない今回のような音楽作品の場合、作曲しながら映像が頭に浮かんできたりすることはありますか?)

「映像が浮かんでくるこは、あまりないです。というのは、ここはとても難しい言い方なんですけれども。例えば、あるテレビの仕事で海外行ったりしたんですね。そうするとね、「いやあ、こんなきれいな景色、いっぱいどんどん曲が浮かぶでしょ!」って言われるんですね。浮かぶわけないだろうそんなもん、みたいなね。そんな旅行して浮かぶんだったらしょっちゅう旅行してますよ、という話(笑)。」

「つまり、音楽は音できちんと構成していく。だからかなりロジカルに作っていかなければならない。そこですごくおもしろいことが起こります。とってもきちんと曲を書くと、結果「あっ、これは夕日を感じる」だとか「人間の愛を感じる」とかっていうのは結果出てくるんですね。最初からこれは人間の愛をこう表現するんだみたいに作って、ムードで作った曲っていうのは基本的にほんとつまんなくなります。」

(質問:好きな音楽、苦手な音楽はありますか?)

「だいたいのいろんな音楽は全部好きです。ただ、お酒飲みすぎて二日酔いの朝はベートーヴェンの「運命」は聴きたくない(笑)。」

(質問:『THE EAST LAND SYMPHONY』にバッハのマタイ受難曲の引用があったりなど、バッハはお好きなんですか?)

「いろんな意味で、音楽のいろんな無駄な要素を落として、ほんとにピュアなかたちがあるのはバッハだと思って、たぶん永久に聴きつづける音楽ですね。心から尊敬しています。」

「『THE EAST LAND SYMPHONY』の最後でマタイ受難曲を出したのは、福島のそういう悲惨なことが起こった、それを音楽で表現したかったわけではなくて、あくまで最後は”救い”でありたかった、”祈り”でありたかった。それで、自分のメロディだけでは、約50分かかる大作ですから、聴いてきてラストにそれが消化しきれなくて、ここにはもうどうしてもやっぱり…、というか『THE EAST LAND SYMPHONY』を作ってる間中ずうっと通奏低音みたいにマタイ受難曲が頭のなかで流れてたんですね。それでやはりどうしてもここに出したかった、というのはあります。」

(質問:あの世とか死後の世界とかについてはどのように?)

「東洋人ですから、思想的に考え方として、死後の世界と現在ってどっかつながってると思っています。」

(質問:フランスにはとても久石さんのファンが多いです。でもフランス人って合理主義で知られています。そういう国民からファンが多いということにどう思われますか?)

「信じられない(笑)。いつもたくさん聴きにきてもらっててね、それですごくいつも熱心に聴いてくれてて、自分自身がフランスの方たちにこんなに愛されてるっていうのは、なぜなのかはよくわからないですけれども、来て演奏するとき、あるいはそれ以外でも、できるだけもっと聴いてもらいたいというか聴いてもらえるように努力します。」

(質問:フランス文化でどんなことがお好きですか?)

「フランス文化で?えぇっとねえ(笑)それは全部素晴らしい。要するに文化がきちんとある国だから、すごく尊敬しているし。あのう、何て言ったらいいんだろう、街並みからなにからすべて、なんていうのかな、人間が住むっていうことがみんな目指すところなんだなっていう感じがします。」

(質問:今回1日に2回コンサートをやるというだけでもすごいと思うんですけれども、指揮と作曲とピアノを弾くという3つの偉業を同時に成し遂げます。たいていの作曲家はステージには登らないでそういうリスクはとらないと思うんですけれども、久石さんは逆にそういうリスクを楽しんでいるように感じます。そういう意識はありますか?)

「毎回もう嫌だって思いながらやってます(笑)。指揮をすると手がこわばっちゃうんですね。そうするとピアノを弾くときも、こうきちんと手ができなくて、こんなになって指伸びたままになっちゃうんですね。だからもう嫌だと思うんだけど、でもひとついい点もある。ピアノを弾いてて音間違えても、それは指揮のせいだって言い訳ができる(笑)。」

(質問:一日のなかでこの時間は指揮の時間とか、この時間は作曲の時間とか、一日の流れはどういうふうに?)

「作曲家なので、昼過ぎから夜の21時22時ぐらいまではずっと、毎日必ず作曲ですね。コンサートが控えていると、朝10時から12時までピアノを弾いて、午後から夜までは作曲し、夜の21時過ぎに帰ってきて、場合によっては0時近いですけれども、そこから明け方まで、わりとクラシックの指揮もよくやるので、ベートーヴェンやブラームスだとか、そういうのを朝まで勉強する。最悪のローテーションで一日が終わるケースも多いです。」

(質問:いつ寝てるんですか?)

「その合間。」

(質問:今日2回コンサートありますけれども、その合間に少し寝ますか?」

「もちろん(笑)。こういうコンサートで例えばフランスだとか来るとほんとに幸せなんですよ、作曲しなくていいから(笑)。だからひたすら寝てます、9時間、10時間、1日。」

(質問:インタビューで久石さんの謎が少し解けるかと思ったんですが、もっと謎が深まりました。)

「シンプルですよ(笑)。」

(質問:最後に来場者へメッセージをお願いします。)

「こんなにたくさんお越しいただいて本当にありがとうございます。今日2回コンサートやりますが、とにかくできるだけいい演奏をして、皆さんに楽しんで帰ってもらいたい。現代音楽、コンテンポラリーな作曲をしていると、どうしても観客を置いていってしまうようなところがある。自分もミニマリストとしてコンテンポラリーなものを書いていますが、結果やっぱりお金を払って見に来てくれたお客さんっていうのは一番大事だし、今こうやってトークを聞いてくれてる人たちもすごく一番大事です。ですから、そういう人たちを、どんなに自分たちが音楽家として一生懸命追求してても、音楽をやってるかぎりはやっぱり聴いてくれるっていう人を最も大切にしていくことが大事だと僕は思っています。だから、もし今日このなかでこのあと聴かれる方がいたら、ぜひ一生懸命やりますから楽しみにしていてください。」

(動画より 書き起こし)

 

 

 

 

コメントする/To Comment