Posted on 2021/04/20
日本センチュリー交響楽団とのヴィジョンを語る
4月に久石譲が日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任した。ミニマル音楽や映画音楽の作曲家として有名で、10年ほど前から本格的に指揮活動も展開し、録音含めクラシック音楽界に新たな波を起こしている。そんな久石にとって国内主要オケの正式なポストは初めてとなる。その経緯について久石は「難しい現代作品を指揮した時の楽団員の一生懸命食らいついてくる姿勢に好感をもった。これまで海外オケなど多く指揮してきたが、日本センチュリー交響楽団とは一緒にやりたいと思った。それが就任の一番の理由」。また「これまで客演1回だけではイメージ通りにすべて実現できず、フラストレーションが溜まった。何回もやり直しながらアンサンブルを磨きたい」とも。
今年9月の定期では自作の「Encounter for String Orchestra」、その前後に予定されている関西ツアーではピアノと弦楽スタイルの「mládí for Piano and Strings」と映画『天空の城ラピュタ』に基づく交響組曲「Symphonic Suite Castle in the Sky」が披露される。そして2022年3月の定期では新作の初演も。これについて「現在、交響曲やヴィオラ協奏曲などいくつも抱えている。今のところ20分ほどの2つの舞曲を考えているが、変わるかもしれない」という。
この4月には大阪の“名物”、大阪国際フェスティバルの4オケの4大シンフォニー演奏会でベートーヴェンの交響曲第8番を指揮。「やるからには、4オケで一番目立って、勝ちに行く。そのための秘策が3つくらいある」と断言する。すでに優れた「ベートーヴェン交響曲全集」のCDをリリースしているが、「ベートーヴェンは一番いい時代に出てきた。ハイドン、モーツァルトと違って、エモーショナル、喜怒哀楽の表現が豊か。演奏するにはテンポの変化は有効」と語る。
今後の方針として「日本センチュリーを含めて4つのオケと恒常的に活動することになるが、それぞれ住み分けるにしても、コンセプトは1つ。自作、現代の音楽。とかく日本はヨーロッパ・スタイル中心主義に偏りがち。いま世界にある大切な曲で、日本で演奏されないものをきちんと選んで紹介したい。古典作品も漫然としていては“古典芸能”と変わらない。自分にしかできないことに挑戦するのがクリエイティヴな態度。誰もが知る古典作品に新たな表現を打ち出し活性化する。日本センチュリーは若々しい上品な音をもち、自分と肌合いがいい。このオーケストラの持つ感性を生かして、自分なりの新しいやり方を追求したい」。そうすることで、聴衆の高齢化が進む中、若い人たちにも魅力が感じられる演奏になるだろうという。
作曲と指揮の関係について、指揮活動は「作曲に非常に役立つ。作曲はアウトプットだがインプットがないとダメ」と語る。ブラームスを指揮すると、その楽器法がいつの間にか自分のものになっていることもあるようだ。モティーフ展開も参考になる。作曲家として「自分はミニマリスト。ポストミニマルのスタイルは命がけで守る。スタイルはコロコロ変えるべきでない」。そして「作曲は天職。作品は毎日作る。それが一番大事なこと」と結んだ。久石譲が日本センチュリー交響楽団と、どのような曲を紹介し、どのような新しいアプローチを聴かせてくれるか、期待するところ大である。
取材・文:横原千史
(ぶらあぼ2021年5月号より)
出典:ぶらあぼONLINE|久石譲
https://ebravo.jp/archives/85690