Info. 2021/04/21 スタジオジブリアナログ盤シリーズ完結記念 制作者座談会 前編/後編 (アニソン on VINYLより)

Posted on 2021/04/21

(4月14日付け)

4月24日(土)開催のアニソン on VINYLで「崖の上のポニョ」「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」がリリースされ、『宮崎駿・高畑勲 監督&音楽 久石譲』作品アナログ盤シリーズがついに完結。シリーズ全25作品の完結を記念し、制作者による座談会を実施!制作秘話やアナログ盤の魅力をたっぷりと語って頂きました。

 

参加者:
依田謙一さん 日本テレビ放送網(株) ※インタビュアー
岡田知子さん (株)徳間ジャパンコミュニケーションズ 開発本部 ストラテジック制作部
浜田純伸さん レコーディングエンジニア
川原樹芳さん アートディレクター (株)100KG
大柴千尋さん デザイナー (株)100KG
手塚和巳さん カッティングエンジニア 東洋化成(株)

撮影:豊島望

 

スタジオジブリアナログ盤シリーズ完結記念
制作者座談会 前編

―― 今日はよろしくお願いします。まずは今回のアナログ盤シリーズを企画した徳間ジャパンコミュニケーションズの岡田さん。

【岡田】スタジオジブリ作品のサウンドトラック盤の制作を担当しています。最初は「紅の豚」(1992年)で、以降すべての作品に携わっています。

―― 続いてレコーディングエンジニアの浜田純伸さん。

【浜田】久石譲さんに「スタジオ作るので来てよ」とお誘いいただいてから30年以上、レコーディングエンジニアを務めています。「風の谷のナウシカ」(1984年)の関連作品「風の谷のナウシカ ドラマ編 風の神さま」(映画音楽、セリフ、効果音をすべて収録したアルバム)の制作時、アシスタントで入ったのが最初で、「天空の城ラピュタ」(1986年)から久石さんのスタジオに入社して、本格的にお手伝いさせていただいています。以来、久石さんが手がける映画音楽については何らかの形で関わっています。

―― そして東洋化成の手塚和巳さん。

【手塚】私は浜田さんがレコーディングしてミックスしたものをレコード盤に溝を刻み込むというカッティングエンジニアという仕事をしています。

―― 最後はジャケットデザインを手掛けた100KGの川原樹芳さんと大柴千尋さん。

【川原】「崖の上のポニョ」(2008年)以降、サウンドトラック盤のジャケットを博報堂さんと一緒にデザインしていて、今回のアナログ盤シリーズは復刻も含めてすべて担当しています。

―― 「風の谷のナウシカ イメージアルバム 鳥の人…」(1983年)から始まる久石さんが作曲した作品を順次アナログ盤にしていくというこの企画、そもそもどういうきっかけで始まったのですか。

【岡田】「となりのトトロ」(1988年)まではLPの販売がメインなんですね。その後、CDのシェアが一気に広がりますが、当時はLPとカセットが最初に出て、1か月後にCDが販売されるというのがセオリーだったんです。CDがまだ3,800円とか4,000円とかした時代。それが「魔女の宅急便」(1989年)を経て次第にCDが主流となり、「紅の豚」以降はLPやカセットが作られなくなりました。ところが昨今のアナログ盤ブームで、LPが再び注目されています。アナログ盤の素晴らしさに気づいていただいたのは嬉しいのですが、結果としてオークションで高値取引きされることが多くなってしまったんです。それならばちゃんと復刻したものを出して、正規の価格で買っていただきたいと思ったのがきっかけです。

―― アナログ盤の企画を聞いた久石さんやジブリの鈴木敏夫プロデューサーの反応はいかがでしたか。

【岡田】久石さんは「良いんじゃない? 浜田さんがきちんとみてくれるんでしょ?」という感じで快く了承を頂きました。鈴木さんは「へえ、アナログ盤って流行ってるんだ。面白いんじゃない?」という感じでしたね。実はアナログ盤を出していた当時、鈴木さんに毎回ジャケットを監修してもらっていたんです。「これをやったら良いんじゃない?」といろんなアイデアを出して頂いていました。例えば「天空の城ラピュタ」のサウンドトラック盤は2枚組だったので、中面の絵を背景画にして、その上にパズーとシータのセル画を入れてみようとか。こういうことはレコード会社の人間だとなかなか考えない。思いついたとしても、大ロットで製造しないと赤字になりそうなアイデアだからやらないんです。でも、鈴木さんとだとやってしまう(笑)。鈴木さんは当時、徳間書店で雑誌「アニメージュ」の編集長もやっていたから、雑誌の付録のような発想でいろんなアイデアがありましたね。アナログ盤の出し入れ口や歌詞のブックレットの開き方を逆にするというのも、斬新でした。

―― 本の編集者らしい発想ですね。

【岡田】その分、当時の商品は貴重なものになり、高値で取引きされていました。だから、まずは「風の谷のナウシカ」から「となりのトトロ」までの作品をどうしても復刻したかったんです。そして、復刻に際し、オリジナルを尊重しつつ良い音にするため、当時から携わっていた浜田さんに全作品のリマスタリングをお願いしました。

―― アナログ盤用の作業はどのように進めていったのですか。

【浜田】「となりのトトロ」あたりまでは、アナログのテープでレコーディングしているんですよ。その後、録音自体はデジタルになったけど、マスターはアナログのテープだった時代がしばらくあって。「千と千尋の神隠し」(2001年)ぐらいからマスターもデジタルに変わりました。CDというのは、16bitの44.1Khzというフォーマットで、16bitというのは音の大きさの段階、44.1Khzというのはサンプリングの周波数を表しますが、その基準に則ったものをそのままアナログ盤のマスターにするのではなく、一旦、アナログテープも含めて、マスターのデータを整理し、検証するところから始めました。

―― 昨今、音にこだわる人向けにはCDも高音質のハイレゾ盤も流通し、音の奥行きもある程度感じられる時代になっていると思いますが、アナログ盤ならではのリマスタリングのポイントは。

【浜田】低域の処理ですかね。物理的な特性で言うと、多分アナログ盤のほうが良くないんですよ。

―― 良くない?

【浜田】ええ。上も下も。上は揺れがあるし、下もCDだと理論上、低域はいくらでも伸びるんですけど、聴感上の低域感というのは明らかにアナログの方があって、ずっしりとした重厚感みたいなものを感じることができるんです。僕もレコーディングの過程で、アナログレコーディングからデジタルに変わった時に「上が綺麗に聴こえる」というところを気にしていたんですけど、実は低域をどうするかが重要なんです。ですから、今回は低域の処理が一番気にしたポイントですね。

―― こうして出来上がった音を手塚さんが受け取ってカッティング作業に入るわけですが、そもそもカッティングとは何かということも含めて教えていただけますか。

【手塚】彫刻刀のようなスタイラスというカッター針があるんですけど、それを下ろして溝を作っていきます。カッティングというと「切る」と思われがちですが、実際は「削る」なので「カービング」が正しいかもしれません。溝の幅は広くて90から100ミクロンぐらい。深さは20ミクロンから50ミクロンぐらい。1000分の5㎜とかそういう世界ですね。そのくらいの精度で刻み込んでいくんです。アナログ盤は回転数が33回転と45回転と一定で、盤の大きさも決まっていますから、ある程度収録する時間も制約があるんです。CDは60分や70分は平気で入りますが、LPは片面18分から25、6分。AB両面で50分ぐらいのものが普通だったんですけど、それをなるべく大きな音量で入れて、音が割れず、針飛びも起こさないように顕微鏡でチェックしたりしながら削っていく作業です。私が今でも使ってる機械は、1973、4年ぐらいに購入した物です。

―― 片面に入る長さの違いはどうして生まれるんですか。

【手塚】30分入れようと思えば入るんですよ。ただ、入れてしまうと全体の音量が下がるんです。溝って、左右と上下に入ってるんですよね。大きくなれば大きくなるほど、振れが大きくなるんですよ。左右の振れが大きいと使う面積が増えてきますから、収録時間が長いものはなるべく面積を使わないようにしなければならない。ところが揺れを小さくすると音量が小さくなっちゃう。だからピアニシモからフォルテシモまで振り幅の広いクラシックなんかは結構な長さが入るんです。顕微鏡で見ながら、まだ少し揺れても隣と隣がまだ少し余裕がありそうだと分かると、そこをもう少しくっつけることであと30秒間を入るな、とか。

―― だとすると最近のJ-POPにK-POPに代表されるずっとフルボリュームのような曲は……。

【手塚】長くは入らないんですね。長く入れようとすると音を小さくするしかない。

―― 長さによって音質ではなく音量が変わるということなんですね。

【手塚】不思議なことに、全体の音量を均等に小さくしたものを聴くと、音質も何も全部変わったように聴こえるんです。逆にスピーカーのボリュームを変えないで、溝に刻まれた音量を大きくしたものを聴くと、なぜか大きい方がいいと感じる。

―― 面白いですね。今はネット配信でCDの何分の一といったデータ量の音質で聴いている人も多く、配信用のマスタリングを別途やることも普通になってきたという話も聞きますが、CDの16bit、44.1khzを一つの基準だとすると、アナログ盤はこれに対し、どのくらいの容量が入るのですか。

【手塚】容量っていうか、どういう作業をしているか、という方が合っているかと思います。容量自体はデジタルの方が入ると思います。

―― そうなると不思議なのは、よくアナログ盤で聴いた時の感想として、深みやあたたかさを感じると言いますよね。なぜそう感じるのでしょう。

【手塚】人間の耳は、下が20hz、上が20khzまでしか聴こえないと言われてます。CDに入るのもこの範囲がベースですが、人間の耳に聴こえないような18khzとか19khzとかも入れようと思えば入ると思うんですよね。だけど、我々が一番心地良く聴こえるところっていうのはもう少し下の方じゃないかなと思うんですよね。

―― 心地良いと感じる音域が、アナログ盤だと際立っているということでしょうか。

【手塚】そこは何とも言えないですけどね。

―― でもレコードの音は心地いいって言いますよね?

【浜田】デジタルは、情報が箱の中にギリギリまで入るんですよ。でもアナログのデータは外側にいけばいくほど、モヤっとしていて、段々見えなくなっていくんです。

―― グラデーションがある?

【浜田】そう。一番大事なところははっきり見えて、次第にグラデーションが掛かっているから、深みがあるように感じるのかもしれないですね。映像もそうじゃないですか。デジタルだとぼやけたように見えてもエッジがあって、ピントが全部合っているように感じるというか。

―― 確かに映像も音もデジタルって点の集合だから、どこまでいっても隙間がある。それがアナログだとゆるやかだから優しく感じるんですかね。映画のフィルムみたいなもので。

【手塚】僕も一時期そう思ったことはありましたよ。でもデジタルデータだってどんどん細かくなればアナログっぽくなるんじゃないかと思ったり。

―― 浜田さん、結局この心地よさの正体は何なんでしょうか。

【浜田】さっきのグラデーション的なことに尽きるんじゃないでしょうか。デジタルの音というのは記録できる限界の周波数を超えると急激にストンと落ちるんです。だからCDが出た最初の頃は「CDくさい」「デジタルくさい」とよく揶揄されていたんです。でも、段々そうじゃなくなってきている。それはADコンバータというデジタル変換する機械が進歩して、ギリギリのところまでアナログでフィルタを掛ける必要がなくなった。それで聴きやすくなったのはあると思いますね。あと高音質のSACD(Super Audio CD)などは、細かくデータを収録して、その密度が濃いから、手塚さんが考えたように上の方にいくとアナログのようにモヤッとしている。

―― 情報量でアナログらしさを表現しているということですね。

【浜田】そう。エッジがある感じを極限まで少なくなくしているんです。

【手塚】アナログ盤の方は、カッティングの過程でデジタルデータがびっちり入った音源がくると、なかなか再現できないことがあるんですよ。低い方もですけど、特に高い周波数帯域は大変です。溝にする際、カッターヘッドというものがあって、そこに電流をグッと流して刻み込みますが、高い周波数が入ると高電流が流れ、中で熱を持つんですよね。それを長時間やってると、コイルが焼きついちゃうってことがあって、長時間、といっても3秒とか4秒とかですが、続けてそういう状態になると、機械の方で保護するためにオフにしちゃう。デジタルで一生懸命作ったものが、アナログになるとカットされてしまうというか、溝にするためにその部分を変えていかなきゃいけなくなってしまう、極端に言うと。

―― 奥が深い。「タモリ倶楽部」のような(笑)。

【手塚】実は「タモリ倶楽部」に出演して試したんですよ。それはさておき、僕は長くやってるんで、奥が深いかどうか自分では分からないですけど、アナログ盤はそもそも制約がかなりあるんです。デジタルのハイレゾとか、普通のCDと比べてもかなりキャパシティが小さいと思います。でも、小さいからこそ、アナログしかなかった時代の先人たちは、イメージをちゃんと持ってやっていたんですね。

―― マスタリングしたデータがいくらしっかりあっても、機械的にカッティングすれば良い音になるかって言うと、全然そんなことじゃないってことですよね。

【手塚】ミキシング、マスタリングした人が「これがベストだ」と思ってやっても、アナログ盤にする時に完璧かどうかは別の問題なんですよ。ですから、作った人とか、演奏した人には、最終的にレコード盤になる直前のところでチェックしてもらえるようにしています。さすがに大きな変更はできないですが、料理でいうと塩胡椒のようなものを変える機会を設けています。

―― 「もうちょっと柔らかくなりませんか」みたいな。

【手塚】そうです。甘くなりませんかとか、硬くなりませんかとか、そういう言い方ですよね。

>>後編へつづく

出典:アニソン on VINYL|前編
https://animesongs.onvinyl.jp/ghibli1/

 

 

 

(4月21日付け)

スタジオジブリアナログ盤シリーズ完結記念
制作者座談会 後編

―― さて、アナログ盤はジャケットも魅力の一つです。川原さんと大柴さんのお仕事について伺いたいと思います。まず「風の谷のナウシカ」から「となりのトトロ」までは復刻ですよね。元の資料とかデータは残っていたんですかね?

【川原】それがそんなに残ってなかったんですよ。

【岡田】実は徳間ジャパンにも残ってないものがあって、すべてのアナログ盤を保管している鈴木さんにお借りすることになって(笑)。しかも版下の時代なのでデジタルデータは当然なくて、オリジナルを高画質でスキャンし、ゴミを取るなど修復する必要もあったので、スキャンは東洋化成さんに対応していただきました。

【川原】我々の作業としては、東洋化成さんからいただいたデータから、発売時の規格情報を消したりするのが大変でしたね。スキャンしたデータを印刷するためは、少しずつ自然に画像を足したりもしなければなりません。特に大変だったのが「となりのトトロ」のイメージ・ソング集。すごく汚れちゃってたんですよ。完全に修復するの、めちゃくちゃ大変でしたね(笑)。

―― 「紅の豚」以降のものはアナログ盤がないので、あらためてジャケットを作ったのですか。それともCDジャケットと共通?

【川原】せっかく初めてアナログ盤になるので「見たことあるよね」というものいうのをなるべく外していこうという方針でやりました。

【岡田】CDはCDの大きさを意識したものなので、それを大きくするだけじゃだめだと思ったんですよね。音もリマスタリングするわけだし、新しいものにしたかったので、こちらの候補をもとにジブリに「新しい絵柄であまり人目に触れてないものをください」ってお願いしたんです。作品ごとにイメージアルバムとサウンドトラック盤がありますが、イメージアルバムはイラスト調、サウンドトラック盤は映画の場面というかたちで分けてリクエストしました。

【川原】ジブリ作品は「ジ・アート」という美術資料やイメージスケッチなどを集めたビジュアル集があるので、そこから絵を集めて、大柴とどれが良いのか話し合って。

【大柴】1枚のLPで20パターンは作りましたね。それを岡田さんにお見せして、絞り込んでからジブリに確認していただきました。

【川原】難しかったのが、やっぱり映画用に横長で描かれた絵なので、ジャケットとして製図しづらかったですね。さらに左に縦の帯が入ると、正方形じゃなくてちょっと縦長になっちゃうんですね。「この絵、良いよね」って言ったものが実はあんまりはまらなくて、「これじゃないよね」と思っていたものが意外とはまったり。

―― 川原さんと大柴さんで選んだ中で印象的だった絵は?

【川原】僕は「魔女の宅急便」のイメージアルバムに選んだ絵ですね。見たことがなかった絵ですが、とても印象的で、ぜひ使いたいと思いましたね。

【大柴】私は「紅の豚」のサウンドトラック盤で使っているポルコ・ロッソの飛行機の絵。外国で売っているレコードみたいな雰囲気にしたい、というのが裏テーマにあったので。これでオッケーが出たと聞いた時は嬉しかったですね。

―― 対比しやすいのも面白いですね。イメージアルバムが飛行機で、サウンドトラック盤も飛行機。

【岡田】イメージアルバムは、映画の制作が本格的になる前に、宮崎(駿)さんのリクエストをもとに久石さんがデモテープ的な意味合いで作るアルバム。そこから発展して映画のサントラができあがります。ですから、ジャケットでもイメージスケッチと実際の映画の絵(セル画)で対比させているんです。

―― 今更ながら、ジャケットの大きさってやっぱりLPの魅力ですよね。「ジャケ買い」って言葉はレコードから生まれたと思うんですけど、この大きさだから欲しくなるっていうのは確実にありますもんね。

【岡田】その分、発色のチェックもさらに細かくなるので、ジブリにOKもらえるまで、何度も試行錯誤しましたね。

―― 今回、面白いなと思ったのは、作品によって2枚組だけどC面までしかない作品は、余った1面にカッティングしたキャラクターのイラストが刻まれているんですね。

【手塚】レーザーエッチングという手法です。カッティングの代わりにレーザーでイラストを描いてから同じようにメッキをしてスタンパーを作るんです。

―― これがあってもちゃんと回るんですね。

【手塚】ちゃんと回ります。

―― レコーディングの話に戻りますが、今回のラインナップは、久石さんが手がけた作品集です。今聴いても音像もはっきりしていて、丹精に作られたものがちゃんと残っているんだと感じたのですが、浜田さんは久石さんがレコーディングで大事にされていることは何だと感じていますか。

【浜田】久石さんは、おそらく作曲する時点で(頭の中の)イメージを100%にできるだけ近づくよう追い込む人だと思うんです。アバウトなところがほとんどない。だからレコーディングに入る時には、もうイメージが決まっている。それに対してプラス何か違う要素が生まれた時は、本人がいいと思えば受け入れることもありますが、あくまで例外ですね。

―― それを頼りにして作ってないってことですよね。

【浜田】そう。もともとある100%のイメージに近づけていくのが久石さんのレコーディングだといえると思います。

―― 初期の頃は結構シンセサイザーを多用していますが、最近はオーケストラ中心のシンフォニックなアプローチがメインで、レコーディングも変わってきましたよね。

【浜田】テクニカルなことはありますが、久石さんは基本的に変わってないと思っているんです。もともとミニマル・ミュージックの作曲家としてキャリアを始めていますが、今でもその本筋は変わってないような気がします。かつてフェアライトという日本で3人しか持ってなかったシンセサイザーを買って使っていましたが、それは久石さんの理想とする音楽を具現化するためだったと思うんです。全員の演奏を完璧にシンクロさせ、しかもリズムを少しずつズラすような演奏をスタジオミュージシャンに頼んでも断られていた時代ですから。それが今は面白がるミュージシャン、実際にできるプレイヤー、そして理解者も増えてきた。しかも久石さんは世界中のミュージシャンとやれる環境にある。シンセでやっていた時の方が好きだって言う人もいますけど、僕から見たら変わってないような気がします。

―― それにしても、サブスクを通じてカタログ的に音楽を聴いている人も多い中で、こういう聴くのにひと手間かかるアナログ盤が売れているっていうのはどうしてなんでしょうね。

【大柴】この前、渋谷のレコードショップに行ったらこのシリーズが何種類も売ってたんですよ。若い子に売れてるんだなぁと思って見てたんですけど。

【岡田】若い子もですが、今、売れているのは海外への輸出が多いんですね。

【手塚】海外か。海外の人って買ったらちゃんと聴くんだよね(笑)。

【岡田】そう。日本では買ってからもなかなか針を落とさず、大事に取っておくコレクターの方もそこそこいらっしゃいます(笑)。

―― 手塚さんや浜田さんからしてみたらしたら、せっかく買ったんだから聴いてほしいですよね。やっぱり劣化するのが心配なんですかね。

【手塚】針を落として摩擦で鳴らしていますから、削れていきますよね。でも、常識の範囲であればそんなすぐに劣化しないですよ。一方で、1回掛けて、そのまま50年間置いておいても聴けます。100年前のレコードが今あったとして、針を落とせばある程度の音は出るはずですよ。

【浜田】子供の頃、僕の家には安いプレイヤーしかなくて、友達にレコード貸してもらえなかったんですよ。「お前ん家で掛けると盤が痛む」って言われて(笑)。そのせいで、今でもレコード掛けると盤が痛むと思ってしまうんです。

―― だからあんまり聴かずに大事にしたくなる人もいるんですね(笑)。

―― このアナログ盤シリーズは2021年4月24日発売の「崖の上のポニョ」「風立ちぬ」(2013年)「かぐや姫の物語」(2013年)で一旦、完結します。それぞれお好きなものがあれば教えていただけますか。

【川原】僕はどうしてもジャケットのデザイン面からになりますが、そもそもこのシリーズって映画の場面写真があってロゴがあるので、そんなにいろいろできるわけじゃないんですね。そんな中で僕らが一番力を入れたのが、盤面のレーベルのデザインなんですよ。ここをぜひ見ていただきたいですね。中でも「かぐや姫の物語」は気に入ってます。水彩の絵のイメージで、見たことありそうでなさそうな感じも好きですね。

【大柴】私も「かぐや姫の物語」かな。やってるうちにどんどん目新しい物を作りたくなってしまうので、最新のものはお気に入りですね。あとはさっきも話した「紅の豚」のサウンドトラック盤。色も余白の感じも、すごく気に入っています。

【手塚】仕事でありながら気持ち良く聴いていたのが「となりのトトロ」の一連のシリーズですね。主題歌を歌っている井上あずみさんの声が心地良くて。

【浜田】僕も「となりのトトロ」かな。自分が本格的にやらせていただいた初期の作品ですが、今聴いても色褪せないミックスだと思います。進歩がないのかなと思ったりもしますけど(笑)。

―― 当時このクオリティーがもうできていたのかと。

【浜田】はい。今思い出しましたけど「となりのトトロ」の主題歌って1曲だけでミックスに16時間もかかっているんです。いろいろやって、ある程度できあがったところで久石さんに聴いてもらって、意見をもとに修正して…とやり取りしているうちに煮詰まっちゃって。8時間ぐらい経って全部一回リセットしたりして、気づいたら16時間(笑)。

【岡田】私は川原さん、大柴さんと同じく「かぐや姫の物語」かな。高畑(勲)さんと久石さんの対談を入れることができたのが嬉しかったですね。唯一の高畑作品ということもありますし。

―― そもそも「風の谷のナウシカ」でプロデューサーだった高畑さんが久石さんにお願いしたところから歴史が始まっているわけですから、最初で最後のタッグとなった「かぐや姫の物語」は特別な作品ですよね。

【岡田】高畑さんは音楽に造詣が深かったから、生きいてたらLP化についても要望をいただけたかもしれませんね。

―― その要望が終わらなくてなかなか発売されなかったかもしれませんよ(笑)。

【岡田】そうかもしれない(笑)。

―― このシリーズはこれで一旦、完結ですか。

【岡田】そうなんですが、実はやりたいものも残っているんです。「となりのトトロ」のオーケストラストーリーズとか、久石さんが全米公開時に録り直した「天空の城ラピュタ」のUSAバージョンとか。

―― 実現したら楽しみですね。皆さん、今日はありがとうございました。それにしても不思議ですよね、この針と盤面の溝が触れるとこんなに繊細で膨大な情報が溢れるって。

【手塚】微妙な電流とか電圧とかによってそれを実現しているんです。カートリッジってところでキャッチして、それをアンプで増幅して、スピーカーで流してる。レコードって、スピーカーからはミックスされた完成型が聴こえるじゃないですか。でも、実際に盤面に入ってる音っていうのは、低い方がすごく鳴っていて、高い方はシャリシャリした音なんです。実際のミックスとはずいぶん印象が違う。

―― そうなんですか。

【手塚】それを再生する時に、アンプで今度はさらに低い方をいっぱい上げてあげて、高いほうを下げてあげる必要があるんです。ふくよかに聴こえるとかっていうのは、デジタルのように完成型の音を入れて再生するのと違い、一旦、違った音にして入れていることが関係していると思います。RIAAという周波数特性カーブに則って盤面に音を入れて、再生する時はアンプに逆RIAAカーブ(フォノイコライザー)というのがあって、それを通して再生するとミックスした音が再現される仕組み。アナログ盤の音とCDの印象の差はこの再生方法の違いが大きいかもしれないですね。

―― あるものをそのまま鳴らすんじゃないってことに、心地よさのマジックが含まれてるような気がしますね。

【手塚】それはあるでしょうね。

【浜田】それに加え、レコードは針を落とす行為に儀式感がありますよね。あんまりそこでドタバタしちゃいけないみたいな。自然と集中して聴いちゃいます。

―― やっぱりアナログ盤は飾っておかず、ぜひプレイヤーで聴いてほしいですね。

出典:アニソン on VLNYL|後編
https://animesongs.onvinyl.jp/ghibli2/

 

 

 

シリーズ累計10万枚突破記念
ゴールドディスク贈呈

2018年11月3日(レコード日)発売の「風の谷のナウシカ」「天空の城のラピュタ」「となりのトトロ」の復刻から始まり、2021年4月24日(アニソン on VINYL)発売の「崖の上のポニョ」「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」までをアナログ化した、スタジオジブリレコーズ『宮崎駿・高畑勲 監督&音楽 久石譲作品』アナログ盤シリーズ。世界中で大好評につきアナログ盤では異例の追加プレスが相次いでおります。この度、シリーズ累計10万枚突破を記念して、ゴールドディスクの贈呈を行いました。

(株) スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー 鈴木敏夫様
「シリーズ10万枚とはすごいですね!ありがとうございます!」

出典:アニソン on VINYL|GHIBLI
https://animesongs.onvinyl.jp/ghibli/

 

 

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