Info. 2015/04/23 久石譲 イタリア・コンサート 開催決定

2015年4月23日、久石譲のイタリアコンサートが開催される。ウーディネ極東映画祭(ウディネ・ファーイースト映画祭)でのスペシャル・ガラ・コンサートとして、現地開催される。

ウーディネ極東映画祭(イタリア語:Far East Film Festival)は、イタリアのウーディネで開かれる極東(東アジアおよび東南アジア)で製作された映画を対象とする映画祭である。

 

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Blog. 「キーボードスペシャル 1995年3月号」 久石譲 ピアノレッスン講座

Posted on 2015/3/12

先日「キーボードスペシャル 1995年3月号 No.122」より当時新作『MELODY Blvd.』の久石譲インタビュー内容をアップしました。

こちら ⇒ Blog. 「キーボードスペシャル 1995年3月号」 久石譲インタビュー内容

 

同雑誌には、実はページを進めると、久石譲が再び登場しています。やさしいPIANO講座 というコーナーです。なんとここで、久石譲の楽曲を、久石譲本人が直々に、レクチャーしているわけです。これはかなりお宝もの、貴重だと思います。

オフィシャル・スコア(久石譲監修 楽譜)でも、ここまでこまかいレクチャーはもちろんありません。譜面しかありません。1曲を具体的に、しかも、作曲者本人、自らもピアノ演奏している、ここが「お宝もの」と言っているところです。

ピアノ講座ですので、それなりに楽器をしていないと、ちんぷんかんぷんな内容かもしれません。コードネーム(和音)や楽典用語も多数でてきます。ただ、そこは作曲家であり編曲・アレンジもする久石譲だけあって、ピアノのみならず楽曲の構成に関する話や、他の楽器の話、他楽器パートをふまえてのピアノパートの弾き方など、とても内容の濃いものになっています。

また、あの独特な久石譲ピアノ奏法の秘密も発見できます。またまた!最後には久石譲の毎日のピアノトレーニング法も初公開!40~45分の特別メニューを作って、それをほぼ毎日練習している、という内容です。

ピアノをやっている方も、そうでない方も、楽器をやっている方も、音楽を聴く方なら、楽しめる音楽話だと思います。忠実に記していますので「譜例」などの注釈がでてきます。これは雑誌内にはもちろん譜面の例がたくさん表記されているのですが、ここで譜例は出てきませんのでご了承ください。

 

 

 

やさしいPIANO講座 久石譲 「Piano」をマスター!

久石譲さんが、映画音楽からのベスト・メロディに英詞をつけたセルフ・カバー・アルバム『MELODY Blvd.』を発表。NHKの連続テレビ小説でおなじみ「ぴあの」からの、ピアノ・プレイについてくわしく教えてもらおう。

 

●コードネームで表せないことも

-今日は、アルバムの中から「Piano(ぴあの)」のピアノ・プレイについて教えてください。まずイントロの部分ですが…。

久石:
「イントロは音域が広いね。左手が分散和音になるからたいへんですよね。あんまり自分で意識したことはないけど(笑)。」

-左手のいちばん下の音は、基本的にコードのルートを押さえているのですか。

久石:
「…僕の場合、コードネームで表せないことがけっこう多いんですよ。簡単に言うと、出だしがAでその次はBm7。ふつうはこう〈譜例①a〉行くんだけど、僕の場合だと〈譜例①b〉なんです。正式には〈譜例①c〉で、Bの音が絶えず残っているんですよね。ここがこの曲でいちばん大事なコード進行になるから、イントロでも同じなんですよね。進行が、Aメロなんかと似ているコード進行でわざと変えているから、大事なのはそのへんのニュアンスが出るか出ないかですよね。」

「ほかのキーでやると、もっとハッキリするんですよ。もともとのキーはE♭majなんです。だから、このへんのコード感がすごく大事。あくまでコード感を大切にしてほしいのと、maj7のコードがけっこう多いので、コードがどんどん変わっていくんです。そういう意味では、これをピアノで弾く時はあくまできちんと進行を押さえていかないとつらいですね。また、パッシング・コードなんかも多いから、そのへんをうまく弾けるといいでしょう。」

-Aメロのバッキングで、メロディとピアノのフィル・フレーズの兼ね合いについてはどうでしょう。

久石:
「Aメロのバッキングはギターだけなんで、僕がピアノでよくやるのは単音のバッキングなんです。やっぱり自分がサウンドを聴いていて思うのは、”いつもピアノがコードを鳴らしていたり、一生懸命弾かなければいけないというわけじゃない”ということ。ピアノの単音はとても美しいから、効果的なところに入れるのは好きなんです。あと、こういうフィル〈譜例②a〉が入ってくるとか、あるいはコードで一生懸命弾いて入ってくるよりは、こういうオブリガード〈譜例②b〉を大切にしたいね。」

 

●ソロをとる時は”ルーズ”に

-間奏ではピアノがメロディをとっていますが、弾き方のポイントを教えてください。

久石:
「間奏の部分は、基本的な弾き方で言うとルーズにルーズに後ろに弾くんですよ。要するにパキパキと弾くのではなくて、あくまで実際のリズムより後ろ後ろで弾いていく。コードを弾く時も左手に”ひっかけ”〈譜例③〉を入れていきます。そして転調していくわけですけど、基本的にメロディのソロをとる時は、できるだけルーズ…つまり”あとノリ”にします。その感じはすごく大切かもしれない。ただし、うんとリズミックな曲の時は逆に突っ込ませるけど。」

「あと、3オクターブだったら3オクターブでやる時に、全部の音が同時には発音していないんです。分散和音のようにずれていますよね〈譜例④〉。微妙なんですけど、ジャストのタイミングでは弾いていないんですよ。こういうメロディを弾く時はちょっとずらす、そうすると音がやさしくなるんです。自分でソロを取る時は、そういうことにすごく気をつけて弾いています。」

「あとはね、基本的にバッキングはレンジ〈音域〉の取り方が一番大切です。僕の場合だと、真ん中のCの音を中心にしたあたりからちょっと下ぐらいを目安に、だいたい弾くんですよ。全体としてギターがもうちょっと上のほうの単音の音で入ってくる前提で考えるから、どうしてもレンジとしてはこうなる〈譜例⑤〉。ものによって左手がうるさくなる場合は、左手をうんとシンプルに弾いてみる。そういう感じでリズム・バッキングは弾いていますね。」

「ただ、人によってずいぶん高いレンジで、もうこのぐらい〈譜例⑥〉弾いてしまう人がいます。どうしてもこのへんの高いレンジになると、ボーカルにぶつかってくるから、ボーカルよりもやや低めのレンジを使うケースのほうが、僕は圧倒的に多いです。それはストリングにも言えることで、ストリングもだいたいこのへんのレンジと、ちょうどボーカルが入りそうなところを抜いたところと上、という計算でやっていますからね。同じようにバッキングもギターとのコンビネーションによりますけど…。」

「たとえば、ギターがすごくガンガンくる時とかは、ベースのフレーズ〈譜例⑦〉を聴かせたいから、バッキングはこのレンジ〈譜例⑧〉でいきます。ところが、もうひとりのキーボード奏者とギターが入った時は、わりとレンジを高くとってモードで全部押してしまっているケースもあります。」

「それから、低音でうまく5度上を使うといいですよね。つまり音を重視させる時に、とくに弦なんかを書く時には、こういう配置〈譜例⑨a〉はすごく大切です。倍音構造的な話になるんだけど、手があるならばこういう配置〈譜例⑨b〉が僕はいちばん好きですね。」

「それからピアノ・ソロの時には、やっぱりどうしたってベース・ラインを押さえなければいけないから、ベース・ラインをきちんと弾いていったほうがいいですね。ただしポップスでベース・ラインがあるとうるさくなって音が濁ってしまう場合もあるので、ケース・バイ・ケースで考えたほうがいいです。」

「あとはリズムは正確に。当たり前だよって(笑)、でも難しいよね。4分打ちをドラムのハイハットといっしょに刻めたら、それは本当にうまい人でしょうね。4分打ちでリズムを感じるように弾けたら、完璧なんじゃないでしょうか。僕も勉強する時は、4分打ちから入るようにしています。バッキングに関しては打楽器のようにきちんと4つ打つということをやると、ピアノがうまくなるでしょうね。」

「「Piano」に関していっても、まず出だしはこういうふうに〈譜例⑩〉できるだけシンプルにペダルを使わないでやってみるといいんです。それから、次にペダルを使って同じことをやってみるといい。それで、自分で弾く時にウラを感じながら弾くことが大切なんだよね。手を上げた時にビートを感じるように弾いていると、意外とテンポは崩れないです。ギターの人がよくアップとダウンで数えながら、アップだけで音を出しているのと同じだよね。だから本当は、(4分音符で音を出していても8分のウラで鍵盤を)カラ打ちしていればリズムが狂わないですみますね。4つ打ちをちゃんとやっていれば、ピアノのバッキングはわかりやすくなるんじゃないかな。」

 

●エンディングは新しい曲を始めるつもりで

-エンディングについて、ポイントを教えてください。

久石:
「エンディングはB♭になります。リタルダンドするときに、どうしても向こう(海外)の歌手はそこにフェイクを入れてくるから、(そのフェイクが終わってアテンポする時に)同時に(ピアノのエンディングを)スタートさせてしまう。まったく新しい曲が始まるようなつもりにしたほうがいいです。だから、リタルダンドしている分だけ次は新たなテンポにするようなつもりで、少し早めなくらいで出て盛り上げて終わる、これが大切でしょう。そして、本当に終わる時はゆっくり、印象的なフレーズ〈譜例⑪〉が乗っかれば気持ちいいよね。」

 

●40分スペシャル・メニューを初公開!途中で休まずに…がポイント

-久石さんのフィンガー・トレーニング法は、何かありますか。

久石:
「本当は教えたくないけど…(笑)、紹介しようか。フィンガー・トレーニングには、だいたい40分の特別メニューを作ってあるんですよ。週に3回、コンサートが近くなると連日やっていますね。」

「基本的にはスケール。あまり時間がないから、今日はメジャー、今日はマイナーというふうに分けますけど…。速いテンポだけでやるのは意味がないから、3パターンやるんですよ〈譜例⑫〉。全部必ずメトロノーム付きで弾いて、それから「ハノン」の20~30番までの間から2つくらい選んで、それもテンポに対して8分、16分で弾くのを欠かさずに。」

「それから、親指の抜きの練習をそれぞれの指でやります〈譜例⑬〉。親指の動きがとにかくいちばん大切だから。それから、アルペジオを12分音符と16分音符でピアノの端から端まで4往復して、全部のキーでやって。それからテンポを変えて、それから半音階を4往復、指の独立を加えて練習して…〈譜例⑭〉。」

「こういう内容を40分~45分くらい、1回も休まずにやっています。音の強弱も、だんだん強くしたりだんだん弱くしたりしますから、汗だくになりますよ(笑)。腕の筋肉のスジが痛くなってきますけど、絶対に1秒たりとも休んではいけないんです。それぐらいやらないと、オーケストラと勝負できない。」

-とくに意識していることはありますか。

久石:
「姿勢はすごく意識しています。椅子の高さなんかもすごく気になる。しばらく弾いていなかったりスタジオでシンセばかりを弾いていると、そのあとはすごく姿勢が悪くなっているから。だからレコーディングが激しい時は、姿勢を直すためになおさらトレーニングが必要になります。ピアノっていうのは、ピアニシモの調性をいかにするかがカギだから、そのために指をきちんと独立させる運動は一生懸命やりますよね。自分のベスト・ポジションというのは、いつも大事にしたほうがいいですよ。」

(雑誌「KBスペシャル 1995年3月号 No.122」より)

 

 

最後に、紙面より少し写真を抜粋してご紹介します。

久石譲 ピアノレッスン 1

実際に久石譲のお仕事場での取材&レクチャーだったのでしょう。

 

久石譲 ピアノレッスン 2

本文中に登場するたくさんの譜例です。さすが専門誌。

 

久石譲 ピアノレッスン 3

久石譲の手と鍵盤。これほど貴重な使われ方はないでしょう。

 

久石譲 ピアノレッスン 4

「Piano 〈English Version〉」の楽譜が完全版として掲載されているという、なんとも贅沢な雑誌。計4ページのレクチャー&譜例による、久石譲ピアノ講座となっていました。

 

Blog. 「キーボードスペシャル 1995年3月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/3/10

音楽雑誌「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1995年3月号 No.122」にて特集された久石譲インタビューです。

ちょうど作品時期としては「地上の楽園」や「Melody Blvd.」「ぴあの」、つまり久石譲がシンセサウンドやバンドサウンドを追求していた時期です。今となってはかなりレアな作品群なのですが、その当時のインタビュー内容もまた貴重です。

 

 

 

「映像のための音楽と独立している音楽は100%違う」

久石譲さんがLAで制作した『MELODY Blvd.』は、過去に手掛けたスクリーン・ミュージックに英詞をつけ、現地のボーカリストを迎えて新たな世界を作り上げたという、いわばプロデューサー的立場に立ったセルフ・カバー作品。映像にともなう音楽を歌モノとしてリニューアルする時の、その具体的手法とはどんなことだったのだろうか?

 

英語をつけることで、言葉よりも響きを重視

-今回ボーカルの歌詞を英語にしたのはなぜでしょうか。

久石:
「前作『地上の楽園』を作るのに2年半かかったんですよ。イギリスにずっと住みながら作ったんだけど、けっきょく思想的というかコンセプチュアルなアルバムになって、それがすごくキツかったんですね。そのあとだから、今度はすごく軽いものを作りたかった。終わった段階ですぐに「次はLAだ」というのもあったし、でもアルバム自体をまた全部オリジナルで作ろうとすると、すごくたいへんなことになる。ちょうど今作るのにいいんじゃないかということで、”セルフ・カバー”でやろうということになりました。前々からそういう話もあったので。

その段階で「久石譲スクリーン・ミュージック」みたいなベスト・メロディを集めて、今すごくボーカルに興味があるので全部ボーカルでやろうと。そこでボーカルに合う自分のメロディを選んだんだけど、あくまでインストゥルメンタル的なメロディ・ラインを聞かせたいというか…。日本語をそのままやっちゃうと、言葉の比重がすごく重くなってしまう。英語であれば日本人が聴いた段階で、言葉というよりもサウンドの一部という捉え方もできるから、ということなんです。」

-ボーカリストの人選は、久石さんがみずからなさったんでしょうか。

久石:
「すごい(量の)デモ・テープを聴きましたよ(笑)、全部で25人から30人ぐらい。『地上の楽園』で歌ってもらったイギリスのジャッキー・シェルダンの声なんかは、すごく日本人に共通するものがあったんです。でもLAのミュージシャンはとにかくパワーがあるということが大前提になるみたいなところがあって、女の人も男の人もすごく”シャウト型”が多いんだよね。だからイメージを合わせるのがたいへんだった、なかなかね。」

-今回はプロデュースもなさっていますね。もともと、久石さんのお名前はプロデューサーとしても有名なクインシー・ジョーンズに由来しているということなので、プロデューサーという立場から、このアルバムはどういうポジションにあるのかをお聞きしたいのですが。

久石:
「今回は自分のピアノをフィーチャーしていないし、自分で歌っているわけでもないでしょ?そういう意味で言うと、スタンスとしてはクインシー・ジョーンズとかデヴィッド・フォスター、アラン・パーソンズ・プロジェクトみたいな、そういうプロデュース・ワーク…つまりサウンドからコンセプトとか全部を含めたプロデュース・ワークがメインになって、なおかつそれで自分の個性をどこまで出せるんだろうかというのを、ちょっと実験したかったんです。今までの自分のソロ・アルバムの中では、とてもめずらしい形態ですよね。

要するに「久石譲とは何か?」という時、やっぱり「メロディ」だっていう部分があるわけですよね。だあら、そのメロディを1回きちんと切り取ってみて提出したらどうなるかな、みたいなところがあって…。現にLAでも、圧倒的にみんな「メロディがすごく好きだ」と言ってくれたので、僕はすごくうれしかったんですけどね。…誰も日本発売だって思っていなかったということも、笑えるんだけども(笑)。」

 

ボーカルものにする段階で原曲(映画)と切り離す

-作品的にはスクリーン・ミュージックが中心になっているわけですが、久石さんは映像と音にどんな関連づけをされているのでしょうか。

久石:
「僕の中では、映像のための音楽と、音楽だけで独立する音楽というのがまったく100%違います。映像がないと成り立たないような音楽はレコードになっちゃいけない。…もちろんサウンドトラックを除いて、でもボーカルものとかインストゥルメンタルだとか、アーティスト・アルバムには映像がついちゃいけない、というスタンスで必ず作っているんです。

作ったものに対して結果的にみんなが勝手に映像を思い浮かべたりするのは、それだけイマジネーションが豊富だからいいんだけど、僕のほうで「映像的に作ろう」とか、そういう感じでアルバムを作ったことは1回もない。だから今回の場合もスクリーン・ミュージックではあるんだけども、ボーカルものにする段階から原曲あるいはもとの映画というものから切り離したもの…基本的に言ったら音楽だけで独立していなければいけないと思っています。

ただ、「I Believe In You」の元になった「あなたになら…」という曲は、中山美穂さんが作詞して歌っているんですよね。そういう場合にオリジナルの詞は大切にしたいので、訳してもらう時にはできるだけそのニュアンスを汲んでください、ということで発注しました。」

 

核心部分のアイディアのネタの新鮮さが何より大切

-メロディを作る時は、やはりピアノを前にして考えていくのですか。

久石:
「最終的にはピアノです。でもそれまでに、考えるともなく考えている”発酵”する時期をきちんととっていますからね。実際は、朝ベッドの中とかシャワー浴びながらとか、そういう時に浮かぶケースのほうが圧倒的に多い。要するに、1フレーズでもいいからいちばんキャッチーな部分、「これだ」という核心のフレーズなりサウンドの感じとかね、そのアイディアが浮かんじゃえば、もうそこからイモヅル式に組み立てはできます。そのネタが新鮮でないと何やってもダメですから、それをつかむまでにすごく時間がかかりますよ。

それは、映画の時もCMでもこういうアルバムでもみんな同じです。たとえば『ぴあの』なんかは、3ヵ月ぐらいそれで悩んだ。アルバムを作る時はそれぞれ条件があるんですよね。『ぴあの』に関していうと、これはあくまで1日3回で月~土の半年間、膨大な量がテレビで流れるわけですよ。そんな時に飽きないメロディ、シングル・ヒットをねらうだけなら簡単だけど、そうじゃなくて日本のスタンダード曲になるくらいに、飽きないメロディを書こうというのが前提にあるでしょ。その条件の中で作ろうとするから、すごく時間がかかりましたね。」

-最初の2分音符が、たったひとつの音なのに深いですよね。

久石:
「日本語の歌詞でも確か「Dream」だったよね。けっきょく言えるのは、僕のメロディには英語がすごく乗りやすいこと。音数がそれほど多くなくて動きがあるから、英語のように単語で入ってくる言葉のほうがいいんだよね。「I love you」でも音が3つあれば言えてしまうんだけど、日本語だと「わたし」しかいかないじゃない?(笑)」

-これから、さらに挑戦したいのはどんなことですか。

久石:
「『風の谷のナウシカ』から『地上の楽園』までのサウンドが全部入っているような、前向きなアルバムを作りたいですね。それには”エスニック”ということをもう一度きちんとやって、自分なりに消化させて出せたらいいなと思っています。」

(雑誌「KBスペシャル 1995年3月号 No.122」より)

 

 

久石譲 『MELODY Blvd.』

久石譲 『MELODY BLVD』

まさにこのCDジャケットを象徴するかのようなサウンドになっています。

1. I Believe In You (映画「水の旅人」より / あたなになら)
2. Hush (映画「魔女の宅急便」より / 木洩れ陽の路地)
3. Lonely Dreamer (映画「この愛の物語」より / 鳥のように)
4. Two of Us (映画「ふたり」より / 草の想い)
5. I Stand Alone (映画「はるか、ノスタルジィ」より / 追憶のX.T.C.)
6. Girl (CX系ドラマ「時をかける少女」より / メインテーマ)
7. Rosso Adriatico (映画「紅の豚」より / 真紅の翼)
8. Piano(Re-Mix) (NHK連続テレビ小説「ぴあの」より / ぴあの)
9. Here We Are (映画「青春デンデケデケデケ」より / 青春のモニュメント)

 

 

おまけ。

本誌インタビューはカラーインタビューとなっていました。インタビュー記事中に、どんな写真が提供されていたかというと…

 

久石譲 KB 3

これはたしかCDの写真にも当時使われていたような。ジャケット裏写真だったかな、なんの作品だったか。。

 

久石譲 KB 1

久石譲 KB 2

コンサートというよりは、LIVE写真ですね!こんなとんがった(サウンド的にも)時代もあったということです。今はタキシートやジャケットにタクト(指揮棒)が定着していますが、当時のこういう時代も懐かしく新鮮ですね。

いや、それはこういった昔の写真だけでなく、この時代の久石譲音楽も今聴いても完成度高く、かつ新鮮です。『MELODY Blvd.』はよくドライブのおともに聴いていました。青空に吹き抜ける風、これから春の季節にピッタリです。

 

Blog. 「デイリースポーツオンライン」 2011年11月 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/3/8

2011年11月、3回にわたってWeb掲載されたデイリースポーツオンラインでの久石譲コラムです。

 

 

数々の名曲を残してきた作曲家・久石譲(60)。宮崎駿監督の「ジブリ作品」やテレビドラマのテーマ曲など、エンターテインメントの世界で活躍する傍ら、オーケストラの指揮にピアノ演奏と、クラシック音楽にも精力的に取り組んでいる。10月7日には「第24回 西本願寺音舞台」(TBS・MBS系で11月3日午前9時55分から放送)にも出演した。音楽への関わり方、バックボーン、そして日本人への提言…。日本を代表する音楽家による“言葉のアンサンブル”をご堪能あれ。(聞き手=福島大輔)

◇  ◇

‐数々の曲を作ってこられた中で、曲作りの過程というのはどういった形なのでしょうか。

久石:
「うーん、締め切り日があって、それに向かって必死にひねり出すという感じですかね(笑)。大概、書かなきゃいけないものはいくつかだぶってますから、その時に、今、これを勉強しなきゃいけないなっていう仕込みを時間がとてもかかりますので、割と順序立てて、組み立てながら作っていく感じです。アイデアが湧いた、湧かないみたいなことで必死になるよりは、最終的には確かにそれも大事なんですが、そこに持ち込むまでは、どれだけ論理的にやっていくか、というね」

‐計算の上で、ということですね。

久石:
「そうです。今回もお寺さんでやるわけで、『こういう所だったら、いくらでも曲の発想が浮かぶでしょ』なんて言う人もいるんですが、ふざけんな、ってね(笑)。そんなんだったら、一年中旅行してるよって」

‐ある程度こういう曲を作ると決めて、その世界観をご自身の中で作ってから、具体的な製作に入られると。

久石:
「そうなんです。映画の音楽にしても、脚本を読んで、その映像に合うやり方を考えて、そのままやったんでは面白くないから、一歩先を行くにはどうしたらいいか、とかいう感じでね」

‐世界観の作り方というのは、具体的にはどのようにされるのですか。

久石:
「いやこれは、毎回ケースバイケースですよ。例えば今回、西本願寺で演奏するプログラムを作るにしても、一曲一曲はある映画の音楽だったり、自分のアルバムのための音楽だったりするんですが、曲順を決める段階では、本来それぞれを最初に作ったときの意図とはまったく違って、前後関係でそれぞれの楽曲の意味が変わるんですよ。これが構成。1曲目から最後の曲まで聴き終わったときに、何を感じてもらうか。例えば1つの映画を見たように、聴いていただいた人たちがどのように感じてくれるか、それをすごく考えますよね」

‐曲というのは、そのシチュエーションごと1つの作品であると。

久石:
「もちろんそうです。どんな場合でも、パーツパーツがあって、例えば映画の場合は、1シーンずつ撮ってきたものを、最後にどう編集するかで、その意味づけが変わってきますよね。音楽でいえば、1曲の中にもあるし。何でこれは『ド』から『ソ』に降りたんだ、とかね。それが1曲単位になり、ある時間の長さになる。そんな感じがしますね」

‐これまで、ジブリ作品などのアニメ映画の音楽なども手掛けてこられましたが、そこにはやはりアニメならではの世界観が…。

久石:
「そうですね。アニメーションは、ほとんど宮崎(駿)さんの作品しかやってないんで。あれだけすごい人のをやっちゃうと、ほかの人のができないというのもあるんですが(笑)、宮崎さんの場合は、あまりアニメーションとは考えてないんですよ。現存する映画監督の中で、最低でも十本、あるいは五本の指に入るような優れた監督ですから、その人が何をやりたいかというと、そこに映っているものより、バックグラウンドの方が大きいんですね。やはりこちらが浅はかな知識でやっていると、とてもついていけないので、そうするとやっぱり…、勉強しないといけないですね(笑)」

‐勉強の仕方というのは、どのように。

久石:
「僕は今は基本的に、音楽のことしかやらないようにしているんですね。クラシックの指揮をしたりとかもするんですが、オフィスもありますんで、最低限お金は稼がなきゃいけない(笑)。そうすると、お昼の12時、1時過ぎぐらいから夜中の12時ぐらいまでは、エンターテインメントの作曲なり、仕事と言ったらちょっと語弊があるかもしれませんが、それを書く。そして家に帰ってから明け方まで、過去の作曲家の譜面を読んだり、彼らが生きた時代や本人の生活の環境、その時代の方法に対して、その作曲家がどのくらい進んでいたのか、遅れていたのか、そういうことを考えます。例に出すと、ブラームスなんかは当時の流行からすると、遅れた音楽をやっていたんです。まだベートーベンの影響を引きずっていた。ところが当時は、シューマンとかいろんな人たちが、新しい方法に入っていた。古くさい方法をとっている中で、革新的な方法をとっている人もいた。どっちが優れていたのか、というのは全然言えないんですよ。長く生き残ってきたものというのは、本物ですから。でも本人の中は、絶えず葛藤してたわけだよね。僕ら、ものを作る人間というのは、絶えずそれですから。今のこの時代で、僕が作曲家としてどういう書き方をするか、自分にとってはすごく重要なことで、そのようなことをいっぱい勉強するという感じですかね」

‐ご自身が、その時代に立ち返るという感じでイメージされる。

久石:
「そういうことですね。あの、優れた指揮者というのは大勢いるんですが、自分がやる場合の武器って考えると、『作曲家』なんですよ。作曲家として、もう一回ほかの人の譜面を見るから、それはちょっと普通とは違うみたいで、いい意味での武器だと思いますね」

‐作曲家だけでなく指揮やピアノなど、多方面で活躍されていますが、1人の人間としていろんな方向から音楽を見るのは刺激になりますか。

久石:
「すごくありますよ。指揮をしているのも、基本的には指揮者になりたいのではなくて、通常、他人や古典の譜面を見ると、ざっと見て「こういう感じね」で済んじゃうんですけど、自分で実際オーケストラを指揮するとなると、ものすごく細かく見ますよね。それをやることによって、作曲家として『ああ、ここはこうやって音を動かせばいいんだ』っていうふうに、作曲の肥やしになるというのがベーシックですよ。それがないとやらないです」

‐指揮でも演奏でも、なにがしかのフィードバックがあると。

久石:
「ただ、そのおかげで、久石っていう作曲家はね、クソ難しいんですよ、演奏が(笑)。指揮も難しいし、ピアノも難しくて、もうちょっと演奏する人のこと考えて欲しいな、なんて思いますけど」

‐ご自身で演奏するときも…。

久石:
「最悪ですよね(笑)。やりすぎなんだ、っていつも思いながらやってます」

‐そもそも、作曲家を目指したきっかけというのは。

久石:
「きっかけって、ないんですよ。小さいときから、やるもんだと思ってたから、いろんな職業の中で作曲家を選んだ経緯というのはないんです。いや、作曲家を選んだというのは、中学2年か。音楽をやるというのは決めていたというか、やるもんだと思ってましたから。意識的に選んだという記憶はないです」

‐環境の中で、音楽があふれていたなどは。

久石:
「全然。何もなかったね。普通の一般家庭。ただすごく好きで、絶えず音楽は聴いてたし、小さいときからバイオリンを習ったりはしてましたけど」

‐中学校2年生で、作曲家に針が振れたというのは。

久石:
「ブラスバンドなんかをやっているときに、与えられた譜面を演奏するよりは、一生懸命譜面を書いては皆に聴かせている方が好きだったんですよ。それは再現する方の音楽家ではなくて、作る方だなと。それで作曲家を目指したんです」

‐初めて曲を作られたのはいつでしたか。

久石:
「中学1年ぐらいですね。全然手に負えてはいなかった(笑)。ただ音符を並べただけだったと思います。要は、いろんな蓄積がないとできないですね。よく、作曲家の個性なんていいますけど、ないんですよ、そんなのは。結局、自分が今までいろんな状況で聴いてきた音楽や体験してきたこと以外、出ることないですから。その中のものが、その時の思いで断片的に組み合わされて、『あなたの』というのが出てくるだけで、そんなねえ、オリジナリティーなんて、世の中にないと思いますよ。一生に1曲もできないと思う」

‐作ってできるものではなく、にじみ出てくるものだと。

久石:
「とすると、やはり自分のバックボーンを大きくするしかないわけですよね」

‐これまで音楽家として、多くのことを成し遂げてこられましたが、今後目指していかれるものとは。

久石:
「やっとね、今少し自由になってきた気がするんです。自由になったというのは、こういうふうなものを書きたいな、と思っても、全然書けなかった、行き着けなかったんですよ。それが最近、少し楽になったね。だから、体力があるうちに、長い曲を書きたいですね。この2、30年、エンターテインメントの方でやってたんですが、3、4年前から、クラシックの方にもう一回スタンスを戻してますから、そういう意味では、シンフォニーとかオペラとか、そういう作品をきちっと書きたいです」

‐楽になったというのは、蓄積されたものがある程度、自分の自由に出し引きできるようになったと。

久石:
「多少はね。多少はできるようになりましたけどね。でも、エンターテインメントの音楽も大好きですから、それもできる限りしっかり書いていきたいと思ってます」

‐最近の活動でいうと、東日本大震災の被災者へ向けてのコンサートなども行われました。

久石:
「あのときも、大船渡とか陸前高田、気仙沼あたりに行ったんです。そこでに感じた、日本人はどうなっちゃうんだろう、という思いは強かったですね。その中で…、何て言ったらいいんだろう、僕はもうちょっと、世界を意識しますね。どういうことかというと、こういうことが起こった、しかしいろんな対応を見てて、あまりにひどいじゃないですか。遅すぎるね。僕は日本人って、今一番ノロい民族だと思ってるんですよ。何やるにしても遅いでしょ。街中歩いてても思いますよ。店員も遅いし。本当にね、日本人って器用で速いと思ってたけど、そんなことないんです。例えば、この異常な休日の多さ(笑)。こんなんじゃ仕事できないですよ。一年中虫食いのような日程で動いてるでしょ。で、全部の会社が休む。日本人って、世界で一番働いてないと思う。僕の部屋には、ヨーロッパから見た世界地図が張ってあるんです。日本の地図は、日本がど真ん中にあって、ヨーロッパとアメリカが端にあるでしょ。いかにも日本が世界の中心に見えるじゃないですか。しかしヨーロッパの地図で見ると、日本は本当に東の端なんですよ。そこにいるんだって意識しないと、どんどん世界から置いていかれますよね」

‐日本を愛するが故に、の歯がゆさ。

久石:
「もちろんです。どんなに世界中行ったって、日本食が一番好きですし(笑)。今回の『音舞台』の曲目で『World Dreams』という曲があるんですが、これに作詞をして、大勢のコーラスの中でやるんです。これは、国歌のような曲を作りたいと思って、凛々しく、堂々とした曲になっています。これが多分、全体のピークになるんですが、私の伝えたいメッセージはそこに全部入っていると思います。今だからこそ、力強く、凛としていこう、というね」

◇  ◇

(デイリースポーツオンライン 2011年11月8日 より)

 

久石譲 モノクロ

 

Blog. 久石譲 「アップル iTunes インタビューズ」 『パリのアメリカ人』発売記念

Posted on 2015/3/6

2005年発売『パリのアメリカ人』久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)としての第2弾アルバムです。

アップル itunesサイト内でのインタビュー。当時はインタビュー動画も閲覧することができました。なかなか貴重な媒体での、そして貴重な作品をクローズアップしてのインタビュー内容となっています。

 

 

隣にいる人に優しくしてあげたくなるような、心安らぐ音楽をプレゼントしたい 久石譲

New ” for winter lovers” ALBUM
『パリのアメリカ人』 発売記念 Special Interview

宮崎駿作品、北野武作品をはじめとする数々の映画音楽を手がけ、さらにはイベントの総合演出や映像監督など、さまざまなフィールドで活躍する作曲家でピアニストの久石譲さん。最近では韓国映画『Welcome To Dongmakgol』、香港映画『A Chinese Tall Story』の音楽監督を務め、アジア各国での活動にも積極的に取り組んでいます。また、2005年11月30日には、新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラを率いてのニューアルバム『パリのアメリカ人』がリリースされ、12月2日からはコンサート『12月の恋人たち』がスタートするなど、ますます精力的な活動を展開中です。そんな久石さんに、ニューアルバムに込められた想い、そして初期の頃からのベテランMacユーザーとしての一面、また、iPodやiTunesの普及によって変化し始めた音楽の環境ついてお話をうかがいました。

 

ポップスオーケストラで奏でる、フランスの映画音楽。

Q. まず、ワールド・ドリーム・オーケストラの新作『パリのアメリカ人』について聞かせてください。フランス映画音楽を多くカバーされていますね。

久石:
ワールド・ドリーム・オーケストラは、僕以外の作曲家の曲を取り上げて指揮をする、というコンセプトで始めたシリーズです。基本的にポップスのオーケストラで、ボストンポップス(オーケストラ)みたいな位置づけになると思います。そのワールド・ドリーム・オーケストラのCDは、今回で2枚目。さあ何をやろうか、と考えた時に、フランスの映画音楽はどうだろうと思ったんです。フランス映画の音楽というのは、とてもいいメロディが多いんですね。あと、12月でしょう。内容的にヘビーなものよりも、心暖まるようなものにしたかった。「今年もキツかったなあ」なんて思っている「お疲れモード」の人たちに、音楽でホッとしてもらいたいという気持ちです。

Q. 『パリのアメリカ人』というコンセプトをもう少し詳しく説明していただけますか?

久石:
1920年代、30年代という世界大恐慌前後の時代、アメリカ人が憧れるものっていうのは「文化」だったんですね。成功したらパリに住むというのが、彼らのステイタスになっていた。それでコール・ポーターもフィッツジェラルドもパリに住むようになった。でも今、成功したらここに住みたい、というような場所はないでしょう? わかりやすい憧れの対象や目的がないこの時代に、「パリのアメリカ人」をテーマにすることで、今の時代性が浮き出てくるといいなと考えたんです。

一方で、パリのアメリカ人ということは、つまり異邦人ですから、基本的に居心地がいいはずがない。どこかに違和感を抱えて暮らさざるを得ない。そしてそれは、今この時代にみんなが抱えている問題とイコールだと思うんです。例えば会社に勤めている人でも、1日の大半を「オレ、この会社に合ってるのかな」って思って過ごしていたりする。なんとなく自分の居場所がないような気持ちになっている人っていっぱいいると思うんです。そういう現代人がこの音楽を聴くことで、安らげるようなものになっていたらいいなと考えています。

Q. フランス映画音楽以外にも、アメリカの作曲家、コール・ポーターの楽曲が多くカバーされているのが印象的でした。

久石:
コール・ポーターはね、作曲家なんだけど作詞もするんです。なので言葉とメロディの関係がすごく上手くいってる。それと、彼はパリに住んでいたんですよ。つまり、「パリのアメリカ人」。アルバムのコンセプトにも合っているということで、カバーしたわけです。

Q. 今作でヴォーカルを取っているレディ・キムの声は心地よいオーケストラの音楽に、いい意味でブルージーな感覚を与えていますよね。

久石:
コール・ポーターっていうと、やっぱり歌ですからね。スウィング的なものや、ジャジーな感覚を持っているということで、彼女を選んだんです。フランス映画音楽だけをそのままやってしまうのではイージーリスニングになってしまうかも知れない。どこかに異種のもの、アメリカン・テイストを入れたかったんですね。フランス料理にハンバーガーが入ってくるというか(笑)。それがコール・ポーターであり、レディ・キムのヴォーカルなわけです。ミスマッチの要素が入ることで両方が際立てばと。そういうことも含めて「パリのアメリカ人」なんです。

あと、こうしたテーマを日本人がやるっていう部分も面白いと思うんです。例えば僕はオーケストラをやってますけど、これは西洋音楽がベースでしょ。なんで日本人がやるんだって言われると困っちゃうわけです。結局みんな根無し草状態なんですよね。でも、だからこそ自分のルーツを知りたいという思いがある。そうした部分から出てくる孤独感や叙情っていうのは僕にとって昔からのテーマなんです。

Q. 2005年12月2日からはじまるコンサートについて教えて下さい。

久石:
基本的にはニューアルバムと共通のコンセプトなんですが、ステージならではの仕掛けも用意してますよ。例えば「パリのアメリカ人」という曲はアルバムでは1分くらいしかないんですが、18分フルでやるつもりです。また、ラヴェルをやったり、12月ですからクリスマス・ソングもやります。女性だけの30人程のコーラスが入ったりするし、レディ・キムの歌があるし、サクソフォン軍団やドラム、ベースも入るので、今までの中でいちばん大がかりな編成です。舞台のレイアウトを考える人が悲鳴をあげていますよ(笑)。ですから自然と、アルバムよりもさらに賑やかになっていくはずです。とにかく、この1年を一生懸命生きてきて、みんな疲れているだろうから、このコンサートを聴くことで心が安らいで、隣にいる人に優しくしてあげたくなるような、そんな音楽をみなさんにプレゼントしたいと思っています。

 

久石譲 itunes 2

 

iPodは大勢の人に選ばれたすぐれたツール。

Q. 久石さんはMacユーザーで、音楽ソフトVisionを使用しているそうですが、ピアノもオーケストラも生音による音楽ですよね。Macを音楽制作にどのように活用しているのでしょうか?

久石:
主に譜面を書くのに使っています。以前は手書きで書いてたんですけど、大量に曲を書かなくてはいけないときには、右手を痛めてしまうんですね。それではピアノを弾くのに困るので、Macで譜面を作成する方式に変えたんです。それが3年くらい前。ところがこれはこれで、問題も出てくる。手書きによる隠し味のようなものが、どうも出てこない。ここでホルンがすうっと伸びて、みたいな部分がオケではとても大事になってくるんですが、それは手描きの線によって無意識に表現されていたりするんですね。それをコンピュータでボーンと作っちゃうと、簡単だけど、情報量が手描きの半分位に落ちてしまう。ただ、逆にコンピュータの良さもあるんです。鉈で割ったような、ガツンという強さが出る。手書きとコンピュータ、それぞれのメリットを、新しい方法として融合させていくのに2年半くらいかかりましたね。

Q. 久石さんがMacを選んだのは何故だったのでしょうか?

久石:
VisionがMacのソフトウェアだったということはあるね。あと、実は僕はずいぶん昔にニューヨークで初めてMacを見て、すごく気に入っちゃってプリンタと一緒に買って、アメリカから持ち帰ってきたことがあるんです。それ以来Mac。かなり初期からのMacユーザーかもしれない。Macってすごくヒューマンなところがあるでしょ。それがよくてね。仕事やる場所には楽器からコンピュータから全て同じセットを置いていて、いつでも制作ができるようにしています。

Q. iPodやiTunesの普及で、音楽を楽しむ環境が大きく変化し始めています。そのことについて、どのように感じていますか?

久石:
僕自身、iPodはよく使っています。これはもう、完全に時代の流れですよね。レコード業界は今までは物流の世界だった。それが本当の意味でのソフトのやり取りになってきている。それは基本的にはいいことだと思います。 ただ、大事なのは、クリエイティブなことをやるためには、それなりの制作費が必要だということ。だから、法律的なことも踏まえて作曲家、作詞家、そして演奏者が存分に音楽を制作できる環境を作っていかないと、結果、クオリティが下がっていくと思うんです。

もうひとつは、曲を作る側の意識がどんどん変わっていくと思います。従来アルバムというのは、アルバムを牽引していくシングル曲があって、その他に実験的な楽曲を入れる余地もあった。それによってアーティストは冒険をし、成長していくわけです。それが1曲単位で選べるようになると、全部がシングルのようなものになっていかざるを得ない。即物的、刹那的な要求に対応していかないといけなくなるわけです。その結果、アーティストが成長するパワーを失う可能性もあるかもしれない。3、4年後にその結果が出てくると思うけど、今後どんな風に音楽を制作していくことになるのか、それを見守っていかなくてはいけないですね。

Q. 逆に、iTunes Music Storeの登場で得るものも大きいですよね。

久石:
そう。これまでドメスティックでしか聴けなかったものが、地球の裏側の人もアクセスして聴けるようになる。これはアーティストにとって絶対にプラスになることなんです。マーケットがレコード会社間の問題を飛び越え、全世界に広がっていく。それはiTunes Music Storeのようなものがないとあり得ない。その上でみんながどういう動きをしていくのか、それを見ていきたいですね。

Q. なるほど、確かにそれは興味深いですね。

久石:
そういう便利さはあればあるほどいいんです。その中でこちらが選択していけばいいわけですからね。僕が音楽やっていて感じるのは、一般の人は本当に頭がいいということ。ものを選ぶ能力が非常に高い。 先日、養老孟司さんと、いい音楽とは何か? という議論をしたんです。結論として、長く聴いても飽きないもの、時代を超えて生き残る音楽がいい音楽だと。それは道具にしても同じですよね。時代を超えて、大勢の人が使っているものというのは、やっぱりいいものなんですよ。何十万人、何百万人もの人と、何十年もの月日によって淘汰され、生き残ったものですからね、そこには絶対的な説得力があるんです。(iPodを指差して)これも、いいものだと思いますよ。これだけ大勢の人に選ばれているわけですから。

 

「AMERICAN IN PARIS」紹介

かろやかなフレンチ・ムーヴィー・ポップスに舞い、しなやかなコール・ポーターの名曲に酔う… 久石譲のセンセーショナルなアレンジによるセレブリティ・アイテム。

久石譲 『パリのアメリカ人』

01. パリのアメリカ人

1928年に作曲家ジョージ・ガーシュインが初めて手がけた同名のフル・オーケストラ用管弦楽曲をもとに、ミュージカル映画「巴里のアメリカ人」が作られたのは1951年のこと。パリに住む画家志望のアメリカ人青年とキュートなパリジェンヌの恋模様を小粋に描いたこのMGM作品は、主演および振付を務めたジーン・ケリーとレスリー・キャロンのダンス・シーンが話題となり、作品賞はじめ8つの部門でオスカーを受賞している。

02. 夜も昼も

コール・ポーターが作詞作曲を手がけた1932年のブロードウェイ・ミュージカル「陽気な離婚」からのナンバーで、主演スターであるフレッド・アステアのために書かれたもの。海辺のリゾートを舞台に、イギリス人作家と離婚を控えた女性との恋が描かれるこの作品は、名ダンス・コンビ、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャーズの主演で、1934年に「陽気な離婚者」と改題されて映画化された(邦題「コンチネンタル」)。

03. 男と女

フランシス・レイが手がけた「♪ダバダバダ」のメイン・テーマがあまりに名高いこの作品は、過去の痛手から立ち直れず、新たな愛へと踏み切れぬ男女の心の機微を描いた、大人のムードあふれる1966年のフランス映画。主演はジャン・ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメ。監督は、フランシス・レイと組んで「パリのめぐり逢い」(1967)、「白い恋人たち」(1968)等の名作を送り出したクロード・ルルーシュ。

04. ロシュフォールの恋人たち

監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーヴのゴールデン・トリオが生み出した、フランス・ミュージカル映画の傑作の一つ。お祭りにわきたつロシュフォールの街を舞台に、さまざまな恋が展開されてゆく1965年の作品で、ドヌーヴは実の姉フランソワーズ・ドルレアックと、夢に恋に生きる双子の姉妹役で生涯唯一の共演をはたした。ジョージ・チャキリス、ジーン・ケリーと、その他の出演者も豪華。

05. Le Petit Poucet

シャルル・ペローの童話「親指トム」をもとにした、2001年製作のフランス映画。小人の“親指トム”が主人公のファンタジーで、ロマーヌ・ボーランジェ、カトリーヌ・ドヌーヴらが出演している。監督は、ジャン・レノ主演の映画「クリムゾン・リバー2」を手がけたオリヴィエ・ダアン。久石譲が音楽を手がけ、主題歌をヴァネッサ・パラディが歌っている。

06. ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ

1943年のミュージカル映画「サムシング・トゥ・シャウト・アバウト」のためにコール・ポーターが作詞作曲した曲。ドン・アメチーとジャネット・ブレアが歌い、アカデミー主題歌賞にノミネートされたが、失敗作続きのブロードウェイ・プロデューサーが新作を舞台に乗せようとするまでの悪戦苦闘を描いた映画自体は流行らず、クリフォード・ブラウンと共演した歌手ヘレン・メリルのレコード等によってポピュラーな曲となった。

07. ビギン・ザ・ビギン

1935年に初演されたブロードウェイ・ミュージカル「ジュビリー」からのナンバーで、西インド諸島のマルチニーク島の民俗舞曲である“ビギン”と“始める=ビギン”を掛けて、コール・ポーターが作詞作曲した。身分を隠して城を抜け出し、普段できないことを楽しむロイヤル・ファミリーの姿を描いた「ジュビリー」はさほどヒットしなかったが、後の大スター、モンゴメリー・クリフトが子役として出演していたことで知られる。

08. 太陽がいっぱい

リッチな放蕩息子に憧れ、彼になりかわるべく恐ろしい犯罪に手を染めていく貧しい青年を描いた映画「太陽がいっぱい」(1960)は、主演のアラン・ドロンがスターの地位を不動のものとしたサスペンス・ドラマ。監督はルネ・クレマン、「ゴッドファーザー」シリーズやフェリーニ作品などで名高いニーノ・ロータが音楽を手がけた。後に「リプリー」(1999)のタイトルで、マット・デイモン主演でリメイクもされている。

09. ラストタンゴ・イン・パリ

パリのアパートでただただセックスに溺れる日々を送る中年男と若い女の姿をとらえた「ラストタンゴ・イン・パリ」は、衝撃的な性描写ゆえに1972年の発表当時世界各国で上映禁止となり、日本でも27年の年月を経てやっと無修正完全版が公開された。「ラスト・エンペラー」(1987)などで名高いベルナルド・ベルトルッチ監督が31歳の若さで発表した問題作で、主演はマーロン・ブランドとマリア・シュナイダー。

10. ソー・イン・ラヴ

シェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」のミュージカル版と、そこに出演している役者たちのラブロマンスが二重写しで描かれるブロードウェイ・ミュージカル「キス・ミー・ケイト」(1948)の、舞台裏の部分で歌われたナンバー。コール・ポーター作品として最大のヒットとなり、第一回トニー賞の栄誉に輝いたこのミュージカルは、1953年にMGMにて映画化されているが、その際コール・ポーターその人も出演をはたした。

11. シェルブールの雨傘

「ロシュフォールの恋人たち」に先駆け、監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーヴのゴールデン・トリオが生んだ、フランス・ミュージカル映画の最高傑作で、1964年度のカンヌ映画祭グランプリを受賞した。港町シェルブールを舞台に、戦争で引き裂かれる傘屋の娘と自動車修理工の若者との悲恋が、甘い調べに乗ってせつなく描かれるこの作品は、セリフもすべて歌いあげる手法も話題を呼んだ。

12. 白い恋人たち

フランス・グルノーブルにて1968年に開催された第十回冬季オリンピック大会の模様をとらえたドキュメンタリー映画で、「男と女」や「パリのめぐり逢い」と同じく、クロード・ルルーシュが監督を務め、フランシス・レイが音楽を担当している。アテネからの聖火リレーに始まり、華やかな開会式、各競技に挑む選手たちの姿、そして13日間の白熱した日々を経ての閉会式などが、ヴィヴィッドに描き出されている。

文:藤本真由

 

久石譲 itunes 1

 

Info. 2015/03/17 [CM] ザ・プレミアム・モルツ「MASTER’S DREAM」 音楽:久石譲

2015年3月3日、女優の竹内結子、音楽家の久石譲氏、書道家の武田双雲氏が、都内で行われた『Master’s Dream Lounge』(六本木ヒルズ 期間限定OPEN 3/4-3/18)オープン発表会に出席した。完成したCMのお披露目などやインタビューなどが行われた。

同じくサントリービールは、新商品「~ザ・プレミアム・モルツ~マスターズドリーム」を3月17日より発売。同日より、音楽を久石氏、書を武田氏が担当した新CMが放送される。

 

TVでのCMオンエアに先駆け、Youtubeサントリー公式チャンネルにて公開開始!

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Info. 2015/03/03 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 31 ~ムソルグスキー / リムスキー=コルサコフ~」 久石譲エッセイ連載 発売

2015年3月3日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 31 ~ムソルグスキー/リムスキー=コルサコフ~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税

「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。

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Blog. 週刊ポスト「Macはヒューマン」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/3/2

2011年11月11日号「週刊ポスト」に掲載された久石譲インタビューです。

長年愛用しているコンピューターMacについて語っています。

 

 

久石譲氏 「Macはヒューマン。よく固まるけどそれも楽しい」

10月に他界した故スティーブ・ジョブズは、常に革新的なアイデアを重視していた。そのため機械に思わぬ不具合が生じることも少なくないのだが、それでもユーザーは減らない。Macintosh愛好家である作曲家の久石譲氏がいう。

「一言でいえばヒューマンなんですよ。Macはよく固まる。集中して1時間ぐらいかけて作った曲がフリーズでおジャンというのは昔は日常茶飯事でした。泣きたくなるけど、それも楽しかったりする。人間味のあるパソコンですよね」

欠陥さえも愛してくれるユーザーがMacには大勢付いている。久石氏はMacintosh Plus(1986年)の思い出について、こう語った。

「ニューヨークにいた時、友人に勧められて衝動買いしました。最初に触った時の驚きは今でも覚えています。画面にはいくつかのアイコン、そして書類を作って必要ならコピーしていらなければゴミ箱に捨てる。今では当たり前ですが、当時の他のパソコンはこんなに直感的ではなかったんです。まるで自分の机の上で仕事をしているような感覚でしたね。それまで無機質だと思ったパソコンに急に人間味を感じました。

とはいえメモリが1MB程度なので、このマシンでは書類作成がメインでした。Macで曲を作るようになったのは1990年代中盤ぐらいでしょうか。皆さんに聴いていただいている最近の曲のほとんどはMacで作っています」

 

【プロフィール】
久石譲(ひさいし・じょう)1950年生まれ。作曲家として宮崎駿や滝田洋二郎の映画の音楽を担当。国内外で数々の音楽賞を受賞する日本を代表する作曲家。最新CD『The Best of Cinema Music』(ユニバーサルシグマ)が発売中。年末には北九州ソレイユホール(12月28日)、大阪ザ・シンフォニーホール(12月31日)にてコンサートを開催。

(週刊ポスト 2011年11月11日号)

(出典:NEWSポストセブン 2011.11.1 より)

 

Macintosh Plus(1986年)と久石譲氏

【Macintosh Plus(1986年)と久石譲氏】

 

Info. 2015/03/02 久石譲が台湾の交響楽団を指揮 ジブリ映画名曲などを披露 台湾・台南

音楽家の久石譲氏が先月26日、南部・台南市で開催中のイベント「台南芸術節」で、台湾のトップオーケストラ、フィルハーモニア台湾(国家交響楽団)を指揮し、ジブリ映画の名曲などを披露した。コンサートは台南文化センターの屋外広場でも同時中継され、素晴らしい演奏に観客からは熱い拍手が送られた。

演奏されたのは、「天空の城ラピュタ」のテーマソングや「千と千尋の神隠し」の挿入曲「あの夏へ」など。久石氏が映画「時雨の記」のメインテーマ曲「la pioggia」をピアノで独奏する場面もあった。

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Info. 2016年公開 映画「家族はつらいよ」 山田洋次監督 音楽:久石譲 決定

2016年公開予定 映画「家族はつらいよ」にて、山田洋次監督と音楽:久石譲が再び。「東京家族」「小さいおうち」に続く同監督3作目。

 

作品情報

山田洋次監督 20年ぶりの本格“喜劇”映画 「家族はつらいよ」 製作決定!

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