Blog. 「クラシック プレミアム 32 ~バロック名曲集~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/03/28

クラシックプレミアム第32巻は、バロック名曲集です。

優雅な宮廷音楽たちです。春の訪れのこの季節にもぴったりです。

 

【収録曲】
シャルパンティエ
《テ・デウム》 ニ長調より 前奏曲
サー・ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ

パッヘルベル
《カノン》
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮
パイヤール室内管弦楽団

リュリ
歌劇 《イシス》 より 二重唱〈恋をなさいな〉
ウィリアム・クリスティ指揮
エマヌエル・ハリミ(ソプラノ)
イザベル・オバディア(ソプラノ)
レザール・フロリサン

クープラン
《恋の夜鳴きうぐいす》
オリヴィエ・ボーモン(チェンバロ)

ラモー
《6声のコンセール》 より 〈めんどり〉
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮
パイヤール室内管弦楽団

スカルラッティ
ソナタ ホ長調 K.380
スコット・ロス(チェンバロ)

マルチェッロ
オーボエ協奏曲 ハ短調より 第2楽章
ピエール・ピエルロ(オーボエ)
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮
パイヤール室内管弦楽団

コレッリ
合奏協奏曲 ト短調 《クリスマス協奏曲》
イル・ジャルディーノ・アルモニコ

グルック
歌劇 《オルフェオとエウリディーチェ》 より 〈精霊の踊り〉
ヴォルフガング・シュルツ(フルート)
ヤーノシュ・ローラ指揮
フランツ・リスト室内管弦楽団

ヘンデル
歌劇 《セルセ》 より 〈オンブラ・マイ・フ〉
マリリン・ホーン(メゾ・ソプラノ)
クラウディオ・シモーネ指揮
イ・ソリスティ・ヴェネティ
歌劇 《リナルド》 より 〈私を泣かせてください〉
アンジェラ・ゲオルギュー(ソプラノ)
イオン・マリン指揮
コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団
ハープ協奏曲 変ロ長調
リリー・ラスキーヌ(ハープ)
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮
パイヤール室内管弦楽団
オラトリオ 《メサイア》 より 〈ハレルヤ・コーラス〉
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
ストックホルム室内合唱団

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第31回は、
音楽が音楽になる瞬間のこと

この「クラシックプレミアム」を通してクラシック音楽が身近なものになってくると同時に、指揮者、演奏者、録音ホール、スタジオ録音、ライブ録音、、など、同じ作品や同じ楽曲であっても、まったく鳴っている音や響き、印象や感動が変わってくるということを、身をもって体感している今日この頃です。そこがクラシック音楽を掘り下げる楽しみということが少しずつわかってきたような気がします。そして、今号のエッセイでは、そんな音楽の本質や醍醐味について久石譲の視点で語られています。

一部抜粋してご紹介します。

 

「僕がオーケストラを指揮するとき、楽譜をどこまで読み解くことができるか、作曲家が作りたかった音をどこまで読み取れるかが最大のポイントになる。とはいえ、ピッチ(音程)やリズムの乱れはどうしても気になるので、こまかく調整することになる。乱れない、間違えない、というのはアンサンブルの前提なのだ。ところが、ピッチが合っていて、リズムが正確で、強弱がしっかりしていれば感動する演奏になるかというと、それだけではならない。では、音楽が音楽になる瞬間ってどこなんだ。これがすごく難しい。」

「作曲でも同じことが言える。論理的な視点と感覚的な視点があれば音楽は作れるはずなのだが、実はそれだけでは音楽は成立しない。そこに作曲家の強い意志がなければならないのだ。これを作りたい、作らねばならないという強い思い、つまりインテンシティ(意志、決意、専心)が必要だ。演奏でもそこが問題になるのだろう。そして演奏に関して言えば、音楽が音楽になるための最後の砦、最後のチャンスがある。それが本番。観客を前にしたとき、ある種の沸騰点に達する。するとそれまで見えなかったスイッチが入り、音楽になる。僕がオーケストラを指揮するとき、最も大切にしていることはこのことだ。」

「そして、日本やアジア、ヨーロッパのさまざまなオーケストラを指揮してみて改めて思うのは、現在の日本のオーケストラのレベルの高さだ。団員それぞれの技術も優れているので、良い指揮者がいて、集中した演奏ができればどこのオーケストラも素晴らしい演奏をする。それをコンスタントにできれば一流のオーケストラだ。」

「外国のオーケストラは、みな自分のやりたいことを最大限やる。だからリハーサルでは、指揮者とオーケストラが互いに折り合いをつけながら進めていく。当然、演奏はしばしば中断することになる。いっぽう日本のオーケストラは、リハーサルのはじめからあまり止まることがない。合わせることに注力するからだ。ピッチとリズムを合わせようとする。個人個人の存在を主張するというよりは「合わせ」に入る。だからなのか、最終的にどうしてもスケール感が出なくなることがある。そういう点では、最初はハチャメチャでもなんとか折り合いをつけて一つの曲を作っていくほうが、最後はスケールが大きなものになるのではないだろうか。」

「例えば中国のオーケストラを指揮していたときのこと。とにかく団員一人一人が自己主張して、まとめるのが一苦労だった。ところが、朗々とした音を出させたら、こんな音は日本のオーケストラでは出ないのではないかというような、素晴らしくスケールの大きな音を出した。これはこれで国民性なのかなと思うのである。」

「そうした国民性の違いの上に、さらにそれぞれのオーケストラによってカラーのようなものがある。品のある音を出すオーケストラだとか、野武士のような音のオーケストラだとか、あるいは弦の鳴り方がきれいだとか……。奏者が違うのだから、各奏者の個性も当然出てくる。それが集まることでオーケストラの個性にもなっていく。」

「最後に一つ。同じ曲を同じ指揮者、オーケストラで、レコーディング用に収録したCDとライヴ演奏を聴き比べてみるとテンポが違うことがあるが、それはなぜか。」

「音だけのレコーディングでは、完璧なものをめざそうとして、とても慎重になり、テンポも正確に計算されたもので進む。いっぽうライヴでは、その時のオーケストラの調子、指揮者の体調、観客の反応、その場にしかない特別な雰囲気のなかで音楽が生まれる。いわば一期一会。だから同じ曲でも何度でも聴きに行きたくなるのだ。その時、CDをコピーするような演奏がいいはずはない。場合によっては、テンポを速めて、あえて激しくすることもある。その時のライヴ感がコンサートの醍醐味である。そこには、たしかに音楽が音楽になる瞬間の秘密が隠されている。」

 

 

聴く側としては、いろいろと考えさせられる内容でした。レコードからCDと、音楽をコンパイルし、パッケージ化して、それが主流となり定着。日常的に、どこでも音楽を楽しめる反面、機械的というか無機質、変化のない音楽を聴きつづけることにも。そうするとエッセイに書かれているような”音楽をとおしての一期一会”そんな巡り合いは減っていくのは当たり前なわけで。

スピーカーから鳴る音楽で満足してしまった現代社会。もっといえばオーディオファンも過去の話、今はスマホの小さいスピーカー。コンサートにわざわざ足を運んででも聴くことの醍醐味。ほんと遠ざかっている社会だなと自分を鑑みても思います。

そんななか、お気に入りのクラシック音楽を、指揮者、演奏者、録音方法、年代、などなど、聴き比べをしているのが最近の楽しみです。ひとつの作品でも10枚くらいのCD、つまり10パターンくらいの演奏を聴き比べてみると、ほんとおもしろい発見があります。そして自分はこういうテンポ感や鳴り方が好きなんだな、ということもわかってきたりします。

もうひとつ言えば、これはデジタル音楽ではなく、クラシック音楽、つまりはアコースティック楽器だからこそ生まれる、その瞬間の響きの違いが楽しめる醍醐味なのかもしれません。まずは日常的なところから耳を肥やして(CDなどで聴き比べ)耳や感性を育てて、次は臨場感あるライヴを体感していきたいですね。

 

クラシックプレミアム 32 バロック名曲集

 

Blog. 久石譲 箱根駅伝テーマ曲「Runner of the Spirit」 CD作品紹介

Posted on 2015/3/24

2009年に箱根駅伝の新しいテーマ曲として誕生した「Runner of the Spirit」です。久石譲書き下ろし、しかも初の吹奏楽作品として、以降毎年正月にTV中継番組で聴くことのできる楽曲です。一度は耳にしたことがある人も多いと思います。

 

久石譲 箱根駅伝 Runner of the Spirit

 

この楽曲は久石譲によるCD作品化はされていません。

 

つい先日、この「ランナー・オブ・ザ・スピリット」のCDを見つけました。

 

東京佼成ウインドオーケストラ
『吹奏楽燦選/嗚呼! アフリカン・シンフォニー』
(2014/10/22発売)

東京佼成ウインドオーケストラ

1.音楽祭のプレリュード (アルフレッド・リード)
2.コンサートマーチ 《アルセナール》 (ヤン・ヴァンデルロースト)
3.ロマネスク (ジェイムズ・スウェアリンジェン)
4.海の男達の歌 (船乗りと海の歌) (ロバート・W・スミス)
5.マゼランの未知なる大陸への挑戦 (樽屋雅徳)
6.百年祭 (福島弘和) 2012年改訂版
7.嗚呼! (兼田敏)
8.吹奏楽のための《ランナー・オヴ・ザ・スピリット》 I. オープニング (久石譲)
9.吹奏楽のための《ランナー・オヴ・ザ・スピリット》 II. エンディング (久石譲)
10.ラ・フォリア ~吹奏楽のための小協奏曲(伊藤康英)
11.ボレロ(イン・ポップス) (モーリス・ラヴェル/岩井直溥)
12.アフリカン・シンフォニー (ヴァン・ マッコイ/岩井直溥)

演奏:東京佼成ウインドオーケストラ
指揮:藤岡幸夫

録音:2013年9月9~10日、江戸川文化センター(東京) [96kHz/24bit録音]

 

 

このCDに久石譲楽曲が収録されています。

「吹奏楽のための《ランナー・オヴ・ザ・スピリット》」
Runner of the Spirit for Symphonic Band
I. オープニング Opening
II. エンディング Ending

 

詳しい解説はCDライナーノーツも参考に紹介しています。

 

 

久石譲はこの作品の制作にあたってこう語っています。「オープニングはこれから走る高揚感を、エンディングは感動を伝えるものにしたい」。オープニングはファンファーレのように高らかに鳴り響く序奏から印象的です。箱根駅伝TV中継番組のCMジングルとしても使用されています。

エンディングは、しっとりとトランペットを中心にメロディーを奏で、ドラマを振り返るような勇壮で雄美な曲調となっています。そしてラストはオープニングで鳴り響いた管楽器たちが再びその勇姿を讃えている。スポーツマンシップを象徴するような晴れやかでエネルギーが湧き上がる作品です。

CD化されていないながらも人気は高く、多くの久石譲オフィシャルスコアを担っているショット・ミュージックより、2012年に楽譜レンタルも開始されています。もちろんオリジナル・スコアです。

 

 

 

CDに収められているこの楽曲について大切なこと。

本作品に収録されているこの2楽曲は、2009年から箱根駅伝のTV放送で流れているオリジナル音源ではありません。けれど、2009年からTV使用されているオリジナル版も東京佼成ウインドオーケストラが演奏していています。スコアにも忠実にほぼオリジナル音源に近いかたちで収録されています。

オリジナル版と差異があるというのは、指揮者の違いによる楽曲のダイナミクス、テンポ、演奏表現方法という点です。パートごとに前面にフィーチャーされている楽器の違いやバランスによる印象と響きの違いです。

オリジナル版の指揮者は久石譲本人です。また本作CDの録音は2013年ともクレジットされていますので、2009年のオリジナル版音源でないことになります。指揮者は違うものの、演奏団体は同じ、スコアも同じオリジナル・スコア、ということになると思います。藤岡幸夫さんの指揮はとてもダイナミックでかっこいい仕上がりです。

2009年発表から現時点(2015年)までに久石譲名義として作品化されていないだけに、ほぼオリジナル版と言える程のバージョンがCD化されたことは、貴重でありうれしい限りです。CD販売だけでなく、Amazonやappleにて音楽配信もされています。試聴して確かめるもよし、単品で購入できるのもいいですね。

 

 

初の吹奏楽作品となった、この「Runner of the Spirit」から6年を経て、2015年にはバンド維新2015のために新しい吹奏楽作品を書き下ろしています。久石譲による吹奏楽作品は、「Runner of the Spirit」と「Single Track Music 1」の2作品のみになります。

毎年正月を楽しみにしていたのですが、1年に1回しか聴くことのできない「ランナー・オヴ・ザ・スピリット」。これからはいつでもクオリティの高いパフォーマンスと高音質をオーディオで楽しむことができます。TVスピーカーでしかも聞き耳をたてて楽しむしかなかった楽曲が、です。

ぜひこの東京佼成ウインドオーケストラのCD作品を参考にしてください。またこの曲を演奏しようと思っている吹奏楽団体の方も、ショット・ミュージックからのオフィシャル・スコアとあわせて、模範演奏としても参考にできるのかもしれません。

なによりも、聴くだけでもエネルギーが沸きあがる、そんな力があります。

 

 

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久石譲 箱根駅伝 Runner of the Spirit

 

Blog. 黒澤映画の作曲家たち (モーストリー・クラシック 2007年9月号より)

Posted on 2015/3/22

クラシック音楽誌「モーストリー・クラシック 2007年9月号 Vol.124」に久石譲インタビューが掲載されました。

こちら ⇒ Blog. 「モーストリー・クラシック 2007年9月号」 久石譲インタビュー内容

 

特集が「音楽と映画 成熟した関係」というテーマだったこともあり、ほかにも興味深い記事がたくさんありました。そのなかから黒澤明監督と作曲家たちをめぐる記事がありました。久石譲とは直接的には関係ないのですが、久石譲インタビューでもよく登場するキーワードがあります。

「対位法」 「ライトモチーフ」

これらの言葉の意味や、映像と音楽における対位法的関係がわかりやすく述べられています。またいかに、映画監督×音楽監督というものが一期一会の巡り合わせなのか、そこから生まれる化学反応やはたまた苦悩や一触即発なかけひき。

映像と音楽、監督と作曲家、黒澤明と早坂文雄、宮崎駿と久石譲、etc 置き換えて俯瞰的に見ることで、日本映画音楽の歴史がわかります。

そして黒澤映画時代に切り拓いた映画音楽の新しい世界を、現代の映画音楽巨匠久石譲がどのように継承しているのか、継承しつつもまた違った新しい世界を切り拓いたのか。そういうことに思いを巡らせながら興味深く読んだ特集でした。

 

 

MUSIC × CINEMA

黒澤映画の作曲家たち

映画における音楽の重要性を認識していた黒澤明。
完璧主義であり、何事にも妥協を許さない姿勢が、
映画製作だけではなく、映画音楽にも新しい方向性をもたらした。
情感を増長させる響き、内面から湧き出る旋律を思い描きながら映像を作る黒澤映画は、日本の映画音楽の分岐点となった。

(文:西村雄一郎 映画評論家)

 

「映像と音楽の関係は”映像+音楽”ではなく、”映像×音楽”でなければならない」

これは、黒澤明が音楽について述べたキーワードのような言葉である。この考えを具体的に実践してくれたのは、黒澤にとって唯一無二の作曲家だった早坂文雄である。1948年の映画「酔いどれ天使」のなかで、親分に裏切られた肺病やみのヤクザ(三船敏郎)が、闇市をとぼとぼ歩くシーンに、陽気で活発な「カッコウ・ワルツ」を流したのだ。

悲しい場面には悲しい音楽、楽しい場面には楽しい音楽を流すのが通例であるのに、あえて逆の音楽を使用する。つまり場面を説明し、装飾し、なぞっていくような前者の映画音楽の付け方を”映像+音楽”、場面の雰囲気とは正反対の音楽をぶつけることによって、その場の感情を増幅させる後者の方法を、”映像×音楽”と呼んだのである。

こうした掛け算ともいうべき音楽の使い方を”対位法”という。もともと音楽用語であって、全く異なるメロディーを同時進行させる技術のことを意味するが、これを映画に応用させたのだ。以後、対位法は、音と映像が絡み合う、黒澤の自家薬籠中のテクニックとなっていく。

それまで、デビュー作「姿三四郎」を担当した鈴木静一や、終戦直後の「わが青春に悔なし」の音楽を書いた服部正といった年長者の作曲家には、そうした大胆な実験精神はなかった。黒澤は早坂と組むことによって、自分の考える音楽設計が実現できることを大いに喜んだ。

早坂の代表作というべき「七人の侍」では、ワーグナーが使用した”ライトモチーフ”という手法を生かしきる。ある人間、感情などを象徴する短い楽句を状況に合わせて発展させ、楽器を変えて演奏するのだ。特に勇ましくも哀しい「侍のテーマ」は、外国でも最も親しまれた日本の映画音楽となった。

さて、黒澤の映画音楽のもう一つの特徴は”テンプトラック”という点である。つまり音楽の具体的なイメージが強い黒澤は、既成のクラシック音楽のレコードを作曲家に提示して、「こんな音楽を書いてくれ」と注文する。しかし、似て非なるものを出せと言われた作曲家にとって、これは苦渋の方法だ。にもかかわらず、早坂は全霊を傾けて、黒澤の要求を受け入れた。

最もいい例が「羅生門」。真砂(京マチ子)が証言しながら陶酔感に陥っていくシーンで、黒澤はラヴェルの「ボレロ」のレコードを持って来た。作曲家は見事な早坂「ボレロ」に仕立てたが、ヨーロッパで公開後、フランスの楽譜出版元から「ラヴェルの剽窃(ひょうせつ)ではないか」という抗議の手紙が届いた。

55年、早坂が41歳で病死してからは、弟子の佐藤勝が音楽を引き継いだ。バーバリズム溢れる「用心棒」は、一世一代の傑作となった。「赤ひげ」では、第九や「びっくり」交響曲をモデルとしながらも、佐藤は堂々たる音楽を書いた。しかし「影武者」では、あまりのモデル曲の多さに閉口し、音楽監督の座を自ら降りている。

武満徹も被害に遭った作曲家だった。「どですかでん」は問題なく録音できたが、「乱」の三つの城炎上シーンでは、マーラーの「大地の歌」の〈告別〉に執着した黒澤と、険悪な関係になる。武満は「僕とか佐藤さんは、早坂の弟子という思いが強いんでしょうね」と苦笑した。

最晩年の作品を担当した池辺晋一郎の場合は、モデル曲で悩むことはなかったが、黒澤はすでにクラシック曲そのものを使うようになっていた。もはや作曲家は要らないのだ!「夢」では「コーカサスの風景」の〈村にて〉が、「八月の狂詩曲」ではヴィヴァルディの「スターバト・マーテル」が、そして遺作「まあだだよ」では、同じくヴィヴァルディの「調和の霊感」第9番第2楽章がラストで流されて、黒澤映画のフィナーレを飾ったのである。

 

内「乱」勃発寸前!?
信頼を勝ち取った音楽家たち
「乱」 作曲:武満徹 指揮:岩城宏之 演奏:札幌交響楽団

談:竹津宜男 元・札幌交響楽団ホルン奏者/事務局長

ロンドン交響楽団が演奏する予定だった「乱」の音楽は、武満さんが「僕の音が出せるのは札響だ」と言い張り、黒澤さんが折れる形で札響の演奏で収録しました。「田舎のオケでは3日かけても1曲も録れないだろう」と、録音に立ち会った黒澤さんは、無愛想でまともな挨拶もないまま、音楽について細かく指示していました。一方、自分の音楽をいじくり回されている武満さんは、表面上は気にせず、石の人のようでした。

テイク40くらいでしょうか。「いただきます」の声がかかり、一番長く最も重要な曲のレコーディングを初日の午前中だけで録り終えたのです。黒澤さんは、オケに深々とお辞儀をして「千歳まで来た甲斐がありました」とおっしゃって、その後は武満さんに指示を任せるようになりました。

武満さんの音楽に慣れていて、違和感なく音に入っていった札響と自然にさり気ないながら、何回、演奏し直しても何分の1秒と狂わず同じニュアンスを表現する岩城さんとのコンビネーション。それが武満さんの選択を黒澤さんに納得させたようです。

(モーストリー・クラシック 2007年9月号 Vol.124 より)

 

 

黒澤映画の歴史を紐解くと、音楽家たちの系図がわかります。早坂文雄の弟子が佐藤勝だったのと同じく、佐藤勝の弟子(のような存在)にあたるのが久石譲です。そうやって受け継がれているなにか、もあるのかもしれません。

また「テンプトラック」の話の補足です。映画監督が映画製作中に聴いている音楽が影響することは多々聞きます。何気なく聴いているものだったり、意図して聴いているものだったり。意図して聴くものとしては、映画シーンのイメージを膨らませるため、もしくはイメージにぴったりでそのまま使いたいか「テンプトラック」として注文するか。

 

 

宮崎駿監督作品では、こういったエピソードはあまり出てきません。映画製作中、作業中に聴いていた音楽の話。もちろんそこには先行してイメージアルバムを制作している、久石譲の作品用音楽モチーフがすでにある時期だから、ということもあるのかもしれません。

それでも、映画『崖の上のポニョ』に関しては、公式サイトにておもしろい製作現場話が公表されています。

 

 

”ワーグナーの「ワルキューレ」”を聴きながら”

宮崎監督がこの作品の構想を練っている最中にBGMとして良く聴いていた音楽は、ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」の全曲盤でした。「この音楽を聴くとアドレナリンがでる」とスタッフに話していたという証言もありますが、かのヒットラーが第二次世界大戦のドイツのプロパガンダに使用したように、ワーグナーの音楽は人間の精神を高揚させる力に溢れています。

そんな「ワルキューレ」が作品に影響を与えたとしても不思議なことではありません。
ポニョの本名が“ブリュンヒルデ”という設定で、それがワルキューレという空駆ける9人の乙女たちの長女の名前から来ていることや、娘を心配する父ヴォータンの魔法で眠らされてしまうこと、そもそもワルキューレの世界観が、今まさに終わりの時を迎えようとしている神々の世界が舞台であることからも推察できます。楽劇に登場するヴォータンは神々の長であり、世界の終焉を回避しようとあれこれ奔走する設定。そこにはポニョの父親フジモトの姿が浮かび上がってくるではありませんか。

(出典:映画『崖の上のポニョ』公式サイト より)

 

 

ワーグナーの「ワルキューレ」が、映画製作中の宮崎駿監督に図らずも?!大きな影響を与えたことはここで明らかです。さてここで、宮崎駿監督から久石譲に「テンプトラック」として注文があったのか。つまり、ワーグナーのワルキューレの第◯幕に出てくる◯◯ような音楽をあのシーンで書いてほしい、など。

それは想像の域を超えませんが、ジブリ音楽初の本格的混声合唱も取り入れ、「ロマン派や印象派の作風をイメージした」ともポニョ音楽に関して語ったことのある久石譲。これは久石譲が宮崎駿監督の製作現場風景を見聞きしていて、敬意を表して取り入れることを自ら決断したのか、はたまた宮崎駿監督から深からず浅からずそういったオーダーがあったのか。そういったことに思いを巡らせることも、またおもしろい聴き方です。

 

やはり監督×音楽の化学反応の一期一会を感じるエピソードです。才能と才能のコラボレーションもそうですが、その時だからこそこういうふうに化学反応したんだ、というのが必ずあります。そんないろいろな過程や背景の結晶としてカタチになっていくのですね。かけがえのない映画、かけがえのない映画音楽。あらためてそんなことをおもった特集でした。

 

 

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モーストリー・クラシック 2007.9

 

Disc. 久石譲 『みずほ』 *Unreleased

2015年3月20日 TVCM放送

 

みずほフィナンシャルグループ
音楽:久石譲 曲名:みずほ(仮)*
*JASRAC登録名

 

みずほ 〈ハートフルアクション〉
みずほの丘(ハートフルアクション)篇 15秒
みずほの丘(ハートフルアクション)篇 30秒

2015年5月~
みずほの丘(東京2020)篇 15秒
みずほの丘(東京2020)篇 30秒

 

 

公式サイトにてCM動画試聴可能 (2015.3月現在)
公式サイト〉〉みずほフィナンシャルグループ ブランド広告

※公開終了2016.3

 

 

CM音楽らしい印象的な旋律。15秒、30秒という尺のなかで、その世界観を表現するとともに、いかにひっかかりやインパクト、印象を残すかという匠の技において、久石譲はやはりさすがである。

小編成のオーケストラ楽器で構成された楽曲は、めずらしくもピアノは登場しない。弦楽器、金管楽器、木管楽器と、そのメロディーを引きついていく展開となっている。CM映像のイメージ同様、とても新鮮で清潔で爽やかな印象を受けつつも、ただ軽快なメロディというわけでもなく、そこには落ち着いた風格すら感じられる。映画「風立ちぬ」のサウンドトラックに見られたような、品格のある小編成オーケストラサウンドに通じるものがある。

30秒版でも後半楽曲が展開されるなか終わるが、もちろん楽曲として完成されているであろうその先の展開が気になる。

未発売曲、CD作品化が期待される上質な作品である。

 

 

 

Blog. 「モーストリー・クラシック 2007年9月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/3/20

クラシック音楽誌「モーストリー・クラシック 2007年9月号 Vol.124」にて久石譲インタビューが掲載されています。

特集が「音楽と映画 成熟した関係」という今号テーマで、そのなかで久石譲インタビューが取り上げられています。なぜクラシック音楽を勉強しているのか?なぜクラシック音楽を指揮しているのか?指揮者と演奏家を両立させる意味は? そのようなことが語られています。

ちょうどタイミングとしては、「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」コンサートをひかえてのインタビューです。インタビュー内容と、最後に同コンサート演奏プログラムを載せていますので、照らし合わせながら読み進めるとおもしろいと思います。

 

 

MUSIC × CINEMA

久石譲が語る
「僕の中の映画音楽、指揮、クラシック音楽、そして未来」

宮崎駿、北野武両監督などの映画音楽を手がけ、近年は海外からの依頼も多い。久石譲の名声は今、世界に轟いている。一方では、ピアニストとして、2004年からは「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)」で本格的な指揮活動を開始した。いくつかの「顔」を持ち、さまざまな活動で進化を続けながらも、原点の音楽は常に意識している。

 

-久石さんのなかでの映画音楽の特徴はなんでしょう。

久石:
映画の音楽は、他の音楽ととこが違うかというと、映像と一緒になって効果を出すものだということが大前提になっていることです。両者が一体になった時に100%の効果が発揮させるように作るのです。音楽が語りすぎてもいけないのです。

黒澤監督も音楽を中心とする場面では、あえて映像だけでは物足りないように作っておき、音楽が入って満足できるものにすると言っています。

もう一方で、僕は常に映画的な表現を踏まえた上で、イマジネーション豊かな曲が書けたら、映像と相乗効果を上げて映画全体が魅力的になってくるとも思っていて、単独で聴いても魅力のある音楽を書かなければならないとも思っています。

 

私は、映画的な表現と音楽の関係について
常に考えながら作曲しています。

-映画的な表現というのは、具体的にどういったことですか。

久石:
舞台やテレビとは違うところなのですが、例えば、Larkという銘柄が刻まれたライターでたばこに火をつけるとします。舞台だと、客席から舞台まで距離があるので「Larkのライターで、たばこに火をつけた」という台詞が必要です。テレビだとライターでたばこに火をつけるのは説明の必要がないのですが、銘柄は見えないので、それを言う必要がある。映画の場合は、大画面でしかもアップで映りますから一目ですべてが分かる。ですから、劇伴のように走るシーンでは速いテンポ、泣いたら哀しい音楽という場面の説明ではなく、一歩進んで哀しいシーンでも、妙に楽しい音楽をつけると、哀しさが増していくこともある。それは映画音楽的な表現です。私は映画的な表現と音楽の関係について常に考えながら作曲しています。

-音楽大学では、映画音楽に直結するようなことを学ばれたのでしょうか。

久石:
音楽大学の作曲科では、基本的なクラシック音楽の作曲の勉強をしました。クラシック音楽には、ソナタ形式を基本とした交響曲など具体的な音楽形式を追究していく流れがある。その一方で、オペラなどの劇的な要素を持った音楽も作られていました。その後者の流れが今日的には映画音楽にも反映しているわけです。

それに音楽大学の作曲科では、クラシック音楽の管弦楽法を学び、オーケストラ曲を書く技術を習得します。多くの楽器を使って音楽を書く技術や教養を持っていると、監督が要求してくるさまざまなニュアンスを表現し、表現の幅を広げることができる。ただ、僕の場合は、基礎的な管弦楽法は学びましたが、現代音楽に興味を覚え、ミニマルミュージックに出会ったことが、僕の原点になっています。大学で習得したことの延長線上にあるわけではありません。

-クラシック音楽を勉強したことが、基礎となっているのですね。

久石:
そうですね。でも、そこから先は、活動を進めていく過程でいろいろなことを勉強していきました。どんどん音楽の表現は進んでいきますから。でも最近になって、もっとクラシックの勉強をやっておくべきだったと思っているんです。それは、2004年からW.D.O.を指揮し始めたのがきっかけです。そこで演奏するワーグナーの楽譜を見直すと、学生時代には派手な音だなという印象しかなかった「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の前奏曲に書かれている対旋律の使い方やハーモニーの複雑な動きに感心したり、「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲の旋律の絡みの妙にも驚きました。

-ヴェルディやラヴェルなどのクラシック音楽の作品を指揮することで、映画音楽に影響を及ぼしていることはありますか。

久石:
指揮をするようになって、楽譜を深く読み込むようになりました。それに、どのようにすればオーケストラがいい音を出すのか、よく鳴らすとはどういうことなのかが、実際に指揮することでわかってきました。

作曲家で指揮者のクシシトフ・ペンデレツキは、音楽というのは、書いて演奏するまでのすべてを自分でやるべきだと言っています。自分が、指揮者として演奏家にどう表現するかを実際に伝えると、自分が譜面で書き足りなかった部分がわかってくるし、自分の考えていた音と実際に出てきた音が違ったりするという体験もしました。そういった実践を通じて「男たちの大和/YAMATO」や韓国映画の「トンマッコルへようこそ」など、オーケストラを使った映画音楽で表現の幅が広がりました。

-活動領域は広がっていますが、ご自分の活動をどう位置づけられていますか。

久石:
音楽家ですね。そのなかには映画音楽の制作、ソロアルバムの作成、ピアノ演奏、オーケストラを指揮するコンサートなどの活動があります。映画音楽の作業は、あくまで監督とのコラボレーションなので、自分の意思だけで音楽を作ることはできない。そういった共同作業を絶えず続けていくと自分自身が何を表現したいのかを見失いがちになりますから、映画音楽に偏り過ぎないようにしています。

-来年の夏に公開される宮崎駿監督の長編映画「崖の上のポニョ」の音楽を手がけられますが、どのようなものになりそうですか。

久石:
5歳の子供と人間になりたいと願う魚の女の子の交流を描いた話なので、その世界観を音楽にも反映させようと思い、前作の「ハウルの動く城」のような大編成のオーケストラを使ったものとは違った、純粋でシンプルな音楽にもチャレンジしたいと考えています。映画が公開されたら、幼稚園の子供たちがみんなこのテーマを口ずさんでいる状況になってくれたらありがたいですね。

-新しい領域へのチャレンジも続きますか。

久石:
最近、決心したことがあり、新たな試みも考えています。そして、オーケストラのシンフォニーのような少し大きな作品を体力のあるうちに作りたいと思っています。

(「モーストリー・クラシック 2007年9月号 Vol.124」より)

 

 

参考)

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time
Presented by AIGエジソン生命

[公演期間]久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
2007/8/2〜2007/8/12

[公演回数]
7公演(大阪/長野/東京2公演/広島/愛知/福岡)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ゲストヴォーカル:林正子

[曲目]
ProgramA(長野/池袋/広島/福岡)
World Dreams
[W.D.O.BEST]
マイスタージンガー序曲
パイレーツ・オブ・カリビアン
ロシュフォールの恋人たち
24 Theme
Mission Impossible
[久石譲 with W.D.O.]
Winter Garden 1st&2nd movement
天空の城ラピュタ
For You
遠い街から
Quartet
la pioggia
水の旅人
—–アンコール—–
太王四神記
となりのトトロ

ProgramB(大阪/すみだ/愛知)
World Dreams
[W.D.O.BEST]
マイスタージンガー序曲
パイレーツ・オブ・カリビアン
ロシュフォールの恋人たち
24 Theme
Mission Impossible
[Rock’n roll Wagner]
ツァラトゥストラはかく語りき〜We Will Rock You
Smoke on the Water〜Burn
Stairway to Heaven
Bohemian Rhapsody
ワルキューレの騎行
la pioggia
水の旅人
—–アンコール—–
太王四神記
Summer

 

モーストリー・クラシック 2007.9

 

Info. 2015/03/20 [CM] 「みずほフィナンシャルグループ」 久石譲音楽担当

みずほフィナンシャルグループの企業CMの音楽を久石譲が担当。

みずほ 〈ハートフルアクション〉
みずほの丘(ハートフルアクション)篇 15秒
みずほの丘(ハートフルアクション)篇 30秒

2015年3月20日 CMオンエア開始

公式サイトにてCM動画試聴可能
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Disc. 久石譲 『Dream More』*Unreleased

2015年3月17日 TVCM放送

 

サントリービール新商品 「ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム」
CM曲 『Dream More』 音楽:久石譲

 

 

発表会見にて久石譲は制作秘話を語っている。

「ビールのCMというと、明るい、みんなで乾杯!というような曲をつくることが多いと思うが、このCMでは心にしみるというかノスタルジックな、感傷的な部分も入れた メロディを書こうと思った。試飲をしてすごく美味しかったので、これもふくめて多重奏というかいろんな味わいのある楽曲にしようと思った」

 

 

弦楽とピアノによる上品な楽曲。そこから他の管楽器も加わっていき、厚みや深みのます展開。まさに多重奏、アンサンブルの極みが味わえる作品である。

CM音楽とは別に、プロモーション用のスペシャルムービでは、CM音楽とはまた違ったBGMを書き下ろしている。チェロによる多重奏の刻んだリズムが心地よいものや、ピアノの粒と小編成アンサンブルが流れるように奏でるものなど、決してメロディが展開するのではないが、短いモチーフで少しずつ展開させて空気感を生み出している。

未発売曲、CD化が期待される上質な作品である。

 

 

下記公式サイトよりCMおよびスペシャルムービー試聴可能。

 

2016年3月15日~ 『マスターズドリーム2016篇』O.A.開始
※映像/ナレーションは変更あり、音楽は変更なし。

ザ・プレミアム・モルツ『マスターズドリーム2016』篇 30秒 サントリー CM 

2015年6月14日~ 『お中元篇』O.A.開始
2015年11月8日~ 『お歳暮篇』O.A.開始
※映像/ナレーションは変更あり、音楽は変更なし。

New! 『お歳暮』篇 (2015.11.8現在)

ザ・プレミアム・モルツ『マスターズドリーム』篇 30秒 サントリー CM

ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム『スペシャルムービー』 4分21秒 サントリー

 

 

 

2015.8.14 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」(2015/8/5-13)にて初お披露目されることとなり、同公演のプログラムによって曲名が『Dream More』であることが公となった。

 

Dream More
2015年3月から放送を開始した、サントリービール「ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム(Master’s Dream)」のための委嘱作品。小編成のソリッドなサウンドながらも、夢のビールにふさわしい華やかさと気品に溢れ、心に沁み入るオーケストラ作品として仕上げられた。フルバージョンは今回のコンサートで初披露となる。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット 楽曲解説 より)

 

CMでも聴くことのできるあの旋律が、多重奏、いろいろなオーケストラ楽器によって奏でられ、中間部も構成された作品に。気品のあるオシャレで上品な楽曲へ。しっとり聴かせるヴァイオリン・ソロまで、テンポも緩急ありの、キラキラと輝くような色彩豊かな夢見心地。軽やかなんだけれど、軽くはない、やはりメロディの力と構成の巧みさ。心踊るようで、ノスタルジックに酔いしれるような。いろいろな表情をもった楽曲。跳ねるような踊るリズムはオーケストラ奏者にとっては難曲たらしめているだろう。が、それこそがこの楽曲の味となっている。サントリー伊右衛門CM曲「Oriental Wind」につづいて、この楽曲も定着しさらにいろいろなCMバージョンも聴いてみたい逸品。もちろん本コンサート版はぜひCD作品化してほしい、華やかにシンフォニー・ドレスアップされた楽曲。

 

 

2016.7追記

こちらのヴァージョンはLIVE盤として、CD作品『The End of The World』/久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(2016/7/13 Release)に収録されている。

 

The End of the World LP A

 

 

2016.11追記

2016年11月2日~ 『お歳暮(無濾過)』篇」 O.A.開始

ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム『お歳暮(無濾過)』篇 30秒 サントリー CM

ザ・プレミアム・モルツ『マスターズドリーム<山崎原酒樽熟成>』スペシャルムービー 3分36秒 サントリー

 

 

 

Info. 2015/03/17 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 32 ~バロック名曲集~」 久石譲エッセイ連載 発売

2015年3月17日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 32 ~バロック名曲集~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税

「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。

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Blog. 「クラシック プレミアム 31 ~ムソルグスキー / リムスキー=コルサコフ~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/3/14

クラシックプレミアム第31巻は、ムソルグスキー / リムスキー=コルサコフです。

 

【収録曲】
ムソルグスキー
組曲 《展覧会の絵》 (ラヴェル編曲)
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1993年(ライヴ)

リムスキー=コルサコフ
交響組曲 《シェエラザード》 作品35
フレデリック・ラロウ(ヴァイオリン・ソロ)
チョン・ミュンフン指揮
パリ・バスティーユ管弦楽団
録音/1992年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第30回は、
コンサートマスターってどんな人?

オーケストラ楽団のなかにおいて重要や役割とポジションのコンサートマスターについてわかりやすく、そして普段わからない裏側をのぞくことができます。コンサートマスターを理解したうえで、さらに指揮者との関係性ややり取りも読み進めることができます。

一部抜粋してご紹介します。

 

「前回、コンサートマスターの素晴らしい力演でいい演奏会ができたことを書いた。ところで、コンサートマスター(第1ヴァイオリンの一番前、客席側に座っている、いわばオーケストラのリーダー的存在)の具体的な役割などについて、ご存じのかたは意外に少ないのではないだろうか。」

「まず、僕が常々不思議だと思っているのは、コンサートマスターを務める人は、最初からコンサートマスター、あるいはその候補者としてオーケストラに入ってくることが多いことだ。普通はヴァイオリンの後ろの席から始めて、オーケストラの経験を十分に積んで、徐々に上りつめてコンサートマスターになると考えそうだが、そういうケースはあまり聞かない。オーケストラ経験のない若いヴァイオリニストでも、オーケストラの顔であるコンサートマスターとして白羽の矢が立つ。」

「では何をもってコンサートマスターの資質としているのだろうか。ヴァイオリンのうまさは当然だが、人をまとめる力があるというのも大きな条件になるのだろう。テクニック、統率力、人格、あるいは「華」とでもいうものなのか……。オーケストラ団員から見れば、あの人だから安心してついていけると思える人、もし若い人だとしても、この人なら育てようと思わせる人ということか。そして、あるオーケストラのコンサートマスターが、ほかのオーケストラに移る時、その場合もほとんどはコンサートマスターとして移籍するのだ。」

「舞台の裏からいうと、楽屋に指揮者の控室があるように、コンサートマスターの控室もある。ちなみにオーケストラ団員の個別の控室はない。つまり、コンサートマスターはオーケストラの中でも、特別なポジションなのだ。」

「ではその仕事。僕が初めてオーケストラを指揮したときのこと。木管楽器の奏者たちに合図をしようと思ったとき、当然、目が合うと思っていたのだが、なんと奏者たちの目が泳いでいるのだ。僕を見ていない。視線の先をたどると、みんな僕の左下あたり、コンサートマスターに目を向けていた。つまりオーケストラの人は、極論すると指揮者の僕を見ていなかったのだ!」

「なぜそんなことが起こるのかというと、そのオーケストラにあまり慣れていない指揮者の場合、コンサートマスターがまず指揮者の意図を理解し、それに他の奏者がついていくというのがオーケストラの基本のパターンだからなのだ。それだけコンサートマスターの役割は大きい。まさにオーケストラの顔だ。」

「僕は指揮をしていて気分が乗ってくるとついテンポを速めたくなることがあるのだが、お互い理解し合っている気心の知れたコンサートマスターだと、そんな時にはわざとテンポを遅らせてくる場合がある。そして目で「ここままだ急がずに」と合図を送ってきて、僕も目で応える。演奏中の阿吽の呼吸での会話だ。」

「どんなに大きな楽器編成で複雑な曲の場合でも、指揮者が一度にできることは限られている。手が8本もあれば細かく指揮できるのだが、そうはいかない。全体的なことや音楽の表情などの指示はもちろんするが、そこから先の細かいところまではできないこともある。そこで奏者は、音を出す細かいタイミングを、コンサートマスターの弓の動きに合わせることになる。」

「それはオーケストラの活動のあり方にも関係がある。ひとつのオーケストラの年間演奏数を100回として、それを何人の指揮者が振るのかを考えてみればわかっていただけると思う。少なく見積もっても数十人。次々に違う指揮者と限られたリハーサル時間だけで本番の舞台に立たなければならない。そういう状況の中で、オーケストラの奏者全員が指揮者だけを見ていたら、アンサンブルが成立しない。特に指揮の打点(拍の頭を示す指揮の動きのポイント)がわかりにくい場合などは、コンサートマスターに合わせることになる。」

「時には、オーケストラでも事故が起こる。だんだんアンサンブルが乱れてきて、このままいくと事故につながるというとき、いい指揮者はそこで危険を察知して回避する。そして、コンサートマスターもそれをいちはやく察知し、弓のボウイング(上げ下げ)を大きくして、オーケストラ全員にどこが拍の頭かを知らせるなどして事故を回避しようとするのだ。そうした数々の場面で、この人ならついていける、と思わせるものがあるから、コンサートマスターが務まるのだろう。やはり途轍もなくたいへんな役割なのだ。」

 

 

具体的でとてもわかりやすい内容でした。

オーケストラ演奏会を体験するときには、指揮者・コンサートマスターにも注目しながら聴くと、また違った味わいや感動を得ることができるかもしれませんね。

久石譲の上記エッセイでは、とても論理的に関係性や役割が書かれていましたが、先日紹介したバックナンバーでは、巻末の「西洋古典音楽史」コラムより、『なぜ指揮者がいるのか?(上)(下)』を2回にわたり特集していました。もっと具体的に、もっと辛辣に!?オーケストラ団員と指揮者の関係が語られていて、どの楽団も同じ、日本も海外も同じ、ということがよくわかります。

興味のある方はあわせて読むと、よりオーケストラの舞台裏がわかっておもしろいと思います。いや、結果、指揮者の重要性と名指揮者とは何か? がわかる内容です。

こちら ⇒ Blog. 「クラシック プレミアム 28 ~ピアノ名曲集~」(CDマガジン) レビュー

こちら ⇒ Blog. 「クラシック プレミアム 29 ~ブラームス2~」(CDマガジン) レビュー

 

クラシックプレミアム 31 ムソルグスキー

 

Info. 2015/03/12 久石譲 イタリア ウディネ・ファーイースト映画祭 特別功労賞受賞

この度、4月23日(木)よりイタリア、ウディネで開催される第17回ウディネ・ファーイースト映画祭(Far East Film Festival)にて、久石譲が特別功労賞である黄金マルベリー賞を受賞し、現地時間4月23日(木)にRTVスロベニア交響楽団と特別コンサートを開催することが決定した。

ウディネ・ファーイースト映画祭とは、1999年の第1回開催以来、毎年4月末に開催されている。東アジアおよび東南アジアの最新の映画作品をメインとし、毎年、対象各国の特集上映を行っている。過去には『20世紀少年』、『おくりびと』、『テルマエ・ロマエ』シリーズや『俺俺』などの上映を行い、日本映画の情報発信映画祭として、世界中から注目されている。

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