Posted on 2019/04/03
クラシック音楽誌「レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811」、新譜月報コーナーに『ベートーヴェン:交響曲 第2番 & 第5番「運命」 / 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ』が掲載されました。準特選盤、大きな特徴のひとつティンパニによるリズム主題化、木の撥を使用していること、(もっと早く見てたらよかった)、具体的解説とタイム箇所も明記されているので、評論ポイントごとに「ここのことか!」ととてもわかりやすく読み聴きすることができます。
新譜月評
THE RECORD GEIJUTSU 準特選盤
ベートーヴェン:交響曲第2番・第5番《運命》 /久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ
準 金子建志
すでに新日本フィルでもベートーヴェンのステージ経験を重ねてきた久石にとって、ソリスト集団的な中編成オーケストラによる《運命》は、作曲家的分析を実際の音で突き詰める絶好の実験工房となる。その目標が、1小節を8分音符単位で1+3に記譜することでリズム主題が楽章全体を支配する構造を開拓した第1楽章は言うまでもないが、52~53小節のようにティンパニを単純な8分音符連打として、書き分けている個所がいくつかある。久石はそこ [0分35秒~] もティンパニをリズム主題化して叩かせるため、ロックのような乗りになる。390小節 [5分30秒~] のティンパニも同様にリズム主題化させているため、SLか闘いの太鼓を思わせる。直前の382小節~の弦も同じにしたかったようだが、集団作業となる弦にとっては至難なせいか、ティンパニほどではない。似た構造が再現する第4楽章も、ティンパニによるリズム主題の筋肉強化が散見されるが、反復記号直前 [1分44秒~] のように方向性が曖昧に聞こえる個所は、楽員内の自浄作用が働いたのか? 全てを貫徹すればミニマルの先取りになるから、久石は自身のルーツを示したかったのかも知れない。2曲とも緩徐楽章はテンポ設定・表現とも正攻法で、古楽器オーケストラ以降を基準にするなら標準的。楽想の対比や縁取りは鋭いが、スケルツォでトリオをテンポ的に隔絶するアーノンクール流は不採用。快速調の中でもカンタービレには自然な呼吸感が確保されている。
推薦 満津岡信育
久石譲とナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェンの交響曲全集の第2弾。第1弾を扱った際に指摘したように、古典配置による小編成のモダン・オーケストラによる演奏である。ブックレットに引用されている久石のコンセプトは、”作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン”、”往年のロマンティックな表現もピリオド楽器の演奏も、ロックやポップスも経た上で、さらに先へと向かうベートーヴェン”とのことだが、指揮者の意図がすみずみまで浸透し、奏者の一人一人が鮮やかに機能しているのが印象的。テンポはきわめて速く、ドイツ流儀の拍節感ではなく、あえてオフビートを強調している箇所もあり、鋭い切れ味でノリのよい演奏が展開されている。《運命》は、木の撥で硬質な響きを発するティンパニが目立ちまくっているが、第1弾の録音に比べて音の抜けがよく、リズムのおもしろさを打ち出している。第4楽章で演奏する楽器の種類が増える際に、サウンドのキャラクターが一変するあたりも興味深い。また、舞台下手に陣取ったコントラバスも大活躍している。久石は2011年に東京フィルと《運命》をライヴ録音(ワンダーシティ)していたが、テンポ設定が速く、推進力に富んだ当盤の方が、格段にインパクトに富んでいる。第2番も躍動感に富み、緩徐楽章も淀みのない力感がみなぎり、しなやかな歌心に満ちている。
[録音評] 鈴木裕
速めのテンポでリズムを強調し、特に第5番ではティンパニや低弦の存在感が大きいがそれを反映。響きのいい長野市芸術館メインホールではあるが、演奏のよさをダイレクトに楽しめる音を捕捉している。と言ってもドライな録音ではなくオーケストラに近いマイキングながら、ホールの響きのよさものびやかで、同時に細部まで明瞭な録音だ。
(レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811より)
また前月号の「レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810」では、いち早く「New Disc Collection」のコーナーでも紹介されました。
極寒を吹き飛ばす久石譲のハレなベートーヴェン第2弾
今月の締めは、「ドラマ音楽の達人」久石譲が芸術監督を務める長野市芸術館をフランチャイズとしたナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェン/交響曲ツィクルスのライヴ録音シリーズの第2弾、第5&2番。デビュー盤の第1&3番については、本欄の昨年8月号で「勢いの勝った痛快な演奏」とご紹介したが、今回の2曲にも指揮者・久石が語る「例えればロックのようにリズムをベースにしたアプローチで……」という基本姿勢が貫かれている。第1ヴァイオリン8の室内管編成の演奏は、すべての局面で陰もなく明快、シンプルな力感を添えながら超快速のテンポで運ばれる。ピリオドとモダンの要素を混合させながら、エッジを効かせた疾風怒濤のハレな表現は痛快すぎて、ベートーヴェン音楽の精神性などに思いを寄せる暇もないのだが、それはそれで心地よいのだ。
(レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810より)
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