Blog. 「レコード芸術 2018年4月号」ベートーヴェン:交響曲第2番&第5番「運命」 久石譲 NCO 準特選盤・評

Posted on 2019/04/03

クラシック音楽誌「レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811」、新譜月報コーナーに『ベートーヴェン:交響曲 第2番 & 第5番「運命」 / 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ』が掲載されました。準特選盤、大きな特徴のひとつティンパニによるリズム主題化、木の撥を使用していること、(もっと早く見てたらよかった)、具体的解説とタイム箇所も明記されているので、評論ポイントごとに「ここのことか!」ととてもわかりやすく読み聴きすることができます。

 

 

新譜月評

THE RECORD GEIJUTSU 準特選盤
ベートーヴェン:交響曲第2番・第5番《運命》 /久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ

 

準 金子建志
すでに新日本フィルでもベートーヴェンのステージ経験を重ねてきた久石にとって、ソリスト集団的な中編成オーケストラによる《運命》は、作曲家的分析を実際の音で突き詰める絶好の実験工房となる。その目標が、1小節を8分音符単位で1+3に記譜することでリズム主題が楽章全体を支配する構造を開拓した第1楽章は言うまでもないが、52~53小節のようにティンパニを単純な8分音符連打として、書き分けている個所がいくつかある。久石はそこ [0分35秒~] もティンパニをリズム主題化して叩かせるため、ロックのような乗りになる。390小節 [5分30秒~] のティンパニも同様にリズム主題化させているため、SLか闘いの太鼓を思わせる。直前の382小節~の弦も同じにしたかったようだが、集団作業となる弦にとっては至難なせいか、ティンパニほどではない。似た構造が再現する第4楽章も、ティンパニによるリズム主題の筋肉強化が散見されるが、反復記号直前 [1分44秒~] のように方向性が曖昧に聞こえる個所は、楽員内の自浄作用が働いたのか? 全てを貫徹すればミニマルの先取りになるから、久石は自身のルーツを示したかったのかも知れない。2曲とも緩徐楽章はテンポ設定・表現とも正攻法で、古楽器オーケストラ以降を基準にするなら標準的。楽想の対比や縁取りは鋭いが、スケルツォでトリオをテンポ的に隔絶するアーノンクール流は不採用。快速調の中でもカンタービレには自然な呼吸感が確保されている。

 

推薦 満津岡信育
久石譲とナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェンの交響曲全集の第2弾。第1弾を扱った際に指摘したように、古典配置による小編成のモダン・オーケストラによる演奏である。ブックレットに引用されている久石のコンセプトは、”作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン”、”往年のロマンティックな表現もピリオド楽器の演奏も、ロックやポップスも経た上で、さらに先へと向かうベートーヴェン”とのことだが、指揮者の意図がすみずみまで浸透し、奏者の一人一人が鮮やかに機能しているのが印象的。テンポはきわめて速く、ドイツ流儀の拍節感ではなく、あえてオフビートを強調している箇所もあり、鋭い切れ味でノリのよい演奏が展開されている。《運命》は、木の撥で硬質な響きを発するティンパニが目立ちまくっているが、第1弾の録音に比べて音の抜けがよく、リズムのおもしろさを打ち出している。第4楽章で演奏する楽器の種類が増える際に、サウンドのキャラクターが一変するあたりも興味深い。また、舞台下手に陣取ったコントラバスも大活躍している。久石は2011年に東京フィルと《運命》をライヴ録音(ワンダーシティ)していたが、テンポ設定が速く、推進力に富んだ当盤の方が、格段にインパクトに富んでいる。第2番も躍動感に富み、緩徐楽章も淀みのない力感がみなぎり、しなやかな歌心に満ちている。

 

[録音評] 鈴木裕
速めのテンポでリズムを強調し、特に第5番ではティンパニや低弦の存在感が大きいがそれを反映。響きのいい長野市芸術館メインホールではあるが、演奏のよさをダイレクトに楽しめる音を捕捉している。と言ってもドライな録音ではなくオーケストラに近いマイキングながら、ホールの響きのよさものびやかで、同時に細部まで明瞭な録音だ。

(レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811より)

 

 

 

また前月号の「レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810」では、いち早く「New Disc Collection」のコーナーでも紹介されました。

 

極寒を吹き飛ばす久石譲のハレなベートーヴェン第2弾

今月の締めは、「ドラマ音楽の達人」久石譲が芸術監督を務める長野市芸術館をフランチャイズとしたナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェン/交響曲ツィクルスのライヴ録音シリーズの第2弾、第5&2番。デビュー盤の第1&3番については、本欄の昨年8月号で「勢いの勝った痛快な演奏」とご紹介したが、今回の2曲にも指揮者・久石が語る「例えればロックのようにリズムをベースにしたアプローチで……」という基本姿勢が貫かれている。第1ヴァイオリン8の室内管編成の演奏は、すべての局面で陰もなく明快、シンプルな力感を添えながら超快速のテンポで運ばれる。ピリオドとモダンの要素を混合させながら、エッジを効かせた疾風怒濤のハレな表現は痛快すぎて、ベートーヴェン音楽の精神性などに思いを寄せる暇もないのだが、それはそれで心地よいのだ。

(レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810より)

 

 

 

 

 

 

 

 

Blog. 「レコード芸術 2017年9月号」ベートーヴェン:交響曲第1番&第3番「英雄」 久石譲 NCO 準特選盤・評

Posted on 2019/04/03

クラシック音楽誌「レコード芸術 2017年9月号 Vol.66 No.804」、新譜月報コーナーに『ベートーヴェン:交響曲 第1番 & 第3番「英雄」 / 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ』が掲載されました。準特選盤、評論家による専門的な分析や考察は視点を広げる学びになります。専門用語や深く切り込む玄人目線は、ついていけないこともたくさんあります。でも、いつかわかる日もくるかもしれません。録音についても詳しく評されとても興味深い内容です。

 

 

新譜月評

THE RECORD GEIJUTSU 準特選盤
ベートーヴェン:交響曲第1番・第3番《英雄》/久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ

 

推薦 金子建志
長野市芸術館(2016年オープン)の芸術監督に就任した久石が、少数精鋭の室内オーケストラとベートーヴェン・ツィクルスを開始。小編成による快速盤の中でも、飛び抜けて速く、スタッカート的な鋭さと切れ味が、抜きん出ている。第1番の主部に雪崩込むあたりから激辛ぶりは徹底しているので、その段階で拒絶してしまう人もいるだろう。常にアクセルを踏み直し、コンサートマスターも一致協力して牽引。それでいて第3楽章のトリオでは木管のテンポを大胆に落とし、後続の弦でルバート的に戻す、といった技も見せる。《エロイカ》はサバール(1994年)と比較すると、I [サバール=15:16、久石=15:35]、II [S=12:42、H=12:04]、III [S=5:25、H=5:30]、IV [S=10:49、H=11:19] と、いくぶん遅いのだが、第1楽章コーダ [15分22秒~] のようにオフビートをジャズ的に強調するぶん速く感じる。第3楽章の [1分02秒~] の掛け合いは、ディミヌエンド付加だけ見えるが、「2/4→3/2拍子」のヘミオラ認識が隠し味。第1楽章展開部 [7分35秒~] のsf強調も、最後の「リテヌート→ア・テンポ」が効いている。第4楽章の [1分24秒~] をソロにするベーレンライター版の指示も自然。第2楽章 [1分30秒~] のチェロのクレッシェンドもベーレンライター版どおりだが、第1楽章コーダのトランペット [14分46秒~] はモントゥー流に途中までハイB♭を吹かせるなど、選択肢の多さも濃さに繋がっている。

 

準 満津岡信育
指揮者の意思がすみずみまで浸透したベートーヴェンである。8型が基本のヴァイオリンは両翼配置で、コントラバスを舞台下手奥にまとめた古典配置を採用。ライナー・ノーツで、久石自身が”われわれのオーケストラは、例えればロックのようにリズムをベースにしたアプローチで誰にでも聴きやすく、それでいて現代の視点、解釈でおおくりすることができます”と記しているように、テンポ設定は速く、拍節感も重厚さは塵ほどもなく、きわめて切れがよい。近藤薫がコンサートマスターを務めるオーケストラは、まさに一騎当千のメンバー揃いで、風を巻くように駆け抜け、要所で舞台上手奥に陣取るトランペットが咆吼し、ティンパニが轟音を発するのが印象的。あえてオフビート的に処理している箇所もあり、リズミックでノリのよい演奏が展開されている。弦のヴィブラートを抑制したり、《英雄》終楽章の最初の変奏の弦楽器をソロで弾かせるなど、目配りも利いている。ただし、今日ではウィーン古典派の諸作品においても、ファイやアントニーニなど、ピリオド・アプローチを軸に、さらに騒然とした演奏を行なう指揮者もおり、その点、久石の指揮ぶりはぐっとスマートで耳当たりがよい。ただし、久石の方法論だと、両曲とも第2楽章は、他の楽章に比べると物足りないのが惜しまれる。また、ティンパニ奏者が木の撥で轟然とffを発する際に、響きがやや飽和気味になる録音が筆者には気になった。

 

[録音評] 鈴木裕
第1番の小さめの編成のオーケストラに対しても、第3番の編成に対しても、近くから聴いているような高い臨場感を持っている。打楽器や金管楽器の力感も十分にあるとともに、弦楽器、木管楽器のパートの響きも透明感高く収録。長野市芸術館の響きのよさも奏功していて、高い天井や広い空間に音が広がっていく感じも実にうまく捉えている。

(レコード芸術 2017年9月号 Vol.66 No.804より)

 

 

本号では、「新譜月報」後半に掲載されている「優秀録音」(5盤選出)ページにも選ばれていました。筆者は [録音評] と同じ、より詳細に記されています。

 

新譜月報|優秀録音
いろいろな意味で意欲的な録音だ。まず、使われているのが2016年5月に誕生した長野市芸術館メインホールで、1300人程度を収容。第1番は同年7月に、第3番は翌年2月に収録されていて、ホールの響きとしてはまだ熟成されていないものの、録音を聴いている限りその響きは若すぎることがなく、音の重心の低さやまろやかさを持っている。確かに第1番の第4楽章など、大きめの音量の部分で密度の薄いソノリティも感じるところだが、第3番ではすでに落ち着いている。オーケストラの演奏については筆者の言及する担当ではないが、その響きを聴きつつコントロールしてることがわかる。そして録音。マルチ・マイクとステレオ・ワン・ポイント・マイクを絶妙にミックス。オーケストラの前後の奥行きは若干浅いが、ライナー・ノーツの写真を見ると実際に浅いので納得させられる。ホール、演奏、録音のそれぞれがよく、これからのシリーズも楽しみな組み合わせだ。(鈴木)

(レコード芸術 2017年9月号 Vol.66 No.804より)

 

 

 

また前月号の「レコード芸術 2017年8月号 Vol.66 No.803」では、いち早く「New Disc Collection」のコーナーでも紹介されました。

 

久石譲&ナガノ・チェンバー・オケの痛快なベートーヴェン

音楽家は作曲家と演奏家に大別される。いずれも音楽のさまざまに精通していることで、表現活動の一環としてタクトを手にする人が少なくない(言わずもがなだが、かつては作曲家=演奏家であった)。宮崎駿のアニメーション映画の音楽を数多く作曲した久石譲も、16年5月に開場した長野市芸術館をフランチャイズに結成されたナガノ・チェンバー・オーケストラの音楽監督として指揮活動を本格化させ、ベートーヴェンの交響曲全集の録音をスタート、その第1弾として第1番と第3番《英雄》をリリースした(昨年と今年の演奏会のライヴ録音)。

久石譲はクラシック音楽の指揮経験は豊かとはいえず、オーケストラは、コンサートマスターが現東京フィルのコンマスでもある近藤薫以下、30名ほどのメンバーは若手中心。それで「どんなベートーヴェンになるんだろう?」と聴いた演奏は……2曲ともにかなり楽しめた!

久石の音楽の運びには、ベートーヴェンの原典研究に基づく近年の表現スタイルを規範にしていることが窺え、メリハリが効いていて明快。テンポは速めで、常に躍動感がみなぎっている。最近の若手オケマンの巧さにも感心することしきり。この勢いの勝った痛快な演奏をするオーケストラが、これからどう熟成し、どのような情動を聴衆の内面に生み出していくのか、興味は尽きない。

(レコード芸術 2017年8月号 Vol.66 No.803より)

 

 

 

 

 

 

 

 

Blog. 「月刊ピアノ 2005年9月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/04/02

雑誌「月刊ピアノ 2005年9月号」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

”ハウル”も含む最新アルバム完成!自ら監督するオケをもつ意味を語る

理想があるんだ。だからもう来年の夏の企画までできてるもん(笑)

組曲「DEAD」はいかにして生まれたのか? 音楽監督と指揮を務める新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの次なるステージは? アメリカの映画音楽の巨匠J・ウィリアムズと久石の音楽性の違いは? などなど。どんな質問にも、穏やかに笑いながら鋭い答えを返してくる久石譲。揺るぎない確信から生まれた大きな余裕。そんなものを感じた。

 

オケのメンバーは”久石のフォルテはこれだ!”ってわかってる

ーやはり『WORKS III』で特筆すべきは、組曲「DEAD」だと思うのですが。これは数年前にご自分がメガホンを取る予定だった映画のために書いた曲だそうですね。

久石:
「そう。4、5年前ですね。でもその映画の内容が、人が死んだりとか、ちょっときついものだったので、時期をみようということになって、先に『カルテット』を撮ったんです。でもテーマ曲はできていて、そのときは2曲だけだったけど、僕の頭の中では4楽章の組曲にしようと思っていまして。今年こそは完成させたくてね。やっと発表できました。今回のアルバムはこの曲のために作った、といっても過言じゃないくらい(笑)」

ーDEADのスペルD,E,A,Dを音名に置き換えた、レ、ミ、ラ、レを主に使った作りになってるんですね、どの楽章も。おもしろい。

久石:
「映画の内容を考えながら、最初に思いついたアイデアだったんだけど、明快でしょう。明快だから音のインパクトも強い。だからどうしても弦楽オーケストラでやりたかったんです。フルだといろんな音色がありすぎちゃって派手になっちゃうから。弦だけの方がきっと深い世界が表現できるなあと思ってね」

ー元々久石さんがやってらっしゃった、現代音楽的なアプローチの作品ですよね。特に3楽章なんか、バリバリ、ミニマルですね。

久石:
「やっぱりそれは僕の本籍地みたいなものだから。すごく真剣になるとスタンスがそこに戻っちゃうんだよね、どうしても。でもね、もう一歩踏み込んじゃうと、ほんとうに現代音楽の作品になっちゃうんだけど、僕がいまやってるフィールドで考えると、それをポップスという世界の中に留める、ということが大事になってくるんです。僕は特別な人たち相手に音楽を作る芸術家じゃないからね。宮崎映画とか北野映画から僕の音楽を知ってくれたような多くの人たちと、コミュニケーションできる音楽でなくちゃいけないんです。今回はそのギリギリ(笑)。だいぶ挑戦的なことはしたなと思いますけどね」

ーところで、ワールド・ドリーム・オーケストラの音楽監督に就任されて1年経ちますが、オーケストラとの活動はいかがですか?

久石:
「作家としては最高に幸せなオケとの関係ができてると思いますね。おもしろいのはね、譜面にあるフレーズ、たとえばチェロなんて、譜面通りに弾けば、フォルテであっても、タ~ラ~ラ~って、上品に弾くんだけど、僕の楽譜にこういうフレーズでフォルテなんて書いてあると、なんの指示も出さないのにみんなガンガン弾きだすの(笑)。久石のフォルテはこれだって、もうわかってるんだよね」

ー確かに、記号のフォルテが、作曲家の頭の中に鳴ってるフォルテのイメージと同じというわけではないですもんね。

久石:
「譜面は表現できる範囲が意外と狭いですね。どんなに精密に書いて、その通りに演奏したっていい演奏になるわけじゃない。譜面の後ろにある世界というか、それぞれの演奏家が解釈できる範疇、そこに音楽家の個性が生まれるわけでね。そういう意味では自分が監督してるオーケストラがあるというのは本当に素晴らしいです。誰よりも僕の好きな音を出してくれるからね。今年の冬、ワールド・ドリーム主体のコンサートをやるんですけど”12月の恋人たち”というタイトルで、『白い恋人達』『シェルブールの雨傘』『男と女』……フレンチ・ムービーの曲を僕がアレンジします。あとコール・ポーターを、外人シンガーを呼んでやろうと思っていて。恋人同士で来るには最高のコンサートだと思うよ」

ー本当にハイペースに、次々とアイデアが湧いてくるんですねえ。

久石:
「ワールド・ドリームが好きだから、どんどんアイデアが出てきちゃうんです。だってもう来年の夏の企画までできてるもん(笑)。あとね、僕には理想があって……僕のコンサートの次の日にフルオケでマーラーを聴きに行く、なんていう人はあんまりいないと思うんですよ。そういう人たちに、クラシックの敷居はそんなに高くないんだって知ってもらいたくてね。だから冬のコンサートでも、フレンチムービー音楽とコールポーターと一緒に、ラヴェルのボレロもやるんです。別にクラシックの入門編をやりたいわけじゃなくて、クラシックにもポップスにも、こんなにいい音楽があるんだよって、垣根なくみんなに知ってもらいたいんだよね。たとえば『シェルブールの雨傘』のあとにブラームスの3番の3楽章なんかをやって、これっていい曲だなあって、先入観なしに聴いてもらえれば嬉しいじゃない。ワールド・ドリームではそういうことをどんどんやっていきますよ」

ーここまでたくさんの大作映画の音楽を次々に手がけていらっしゃる久石さんを”日本のジョン・ウィリアムズ”と呼ぶ声も多く聞かれます。ご自分では嬉しいことですか? 不本意なことですか?

久石:
「やっぱりオーケストラを扱って映画音楽をやってるから比べられるのはしょうがないと思うし、昨年、ワールド・ドリームでスター・ウォーズのテーマを自分で振ってみてよくわかったんだけど、あれだけのクオリティと内容のオーケストレーションをやれる人はいないですよ。すごく尊敬してるし、僕なんかまだまだだな、と思います。でもね、実際の音楽でいうと、僕と彼の作るものはまるで違うんですよ。僕は東洋人なので、5音階に近いところでモダンにアレンジしてやったりするものが多いんです。でもJ・ウィリアムズはファとシに非常に特徴がある。正反対のことをやってるんです。それはすごくおもしろいなあと思いますね。音楽の内容も方法論も違うけど、僕もあれくらいのクオリティを保って作品を発表し続けたいですね」

(月刊ピアノ 2005年9月号より)

 

 

久石譲 『WORKS3』

 

久石譲 『パリのアメリカ人』

 

久石譲 『W.D.O.』 DVD

 

 

 

 

Blog. 「モーストリー・クラシック 2019年5月号 vol.264」久石譲パリ公演 記事

Posted on 2019/03/31

クラシック音楽情報誌「モーストリー・クラシック MOSTLY CLASSIC 2019年5月号 vol.264」(2019年3月20日発売)に 久石譲コンサートの記事が掲載されました。

2019年2月開催「久石譲 シンフォニック・コンサート」パリ公演です。毎号、海外の音楽情報を伝えるコーナーのひとつとしてカラーページで紹介されています。

 

 

World Music Scene
海外音楽情報 世界の話題

Paris | February 2019 | FRANCE

文=三光洋(音楽ジャーナリスト)

「ジャポニスム 2018」で久石譲の演奏会がフィルハーモニー・ド・パリで
「東の国の交響曲」、「千と千尋の神隠し」などの演奏を観客は総立ちで讃える

昨年秋から行われた「ジャポニスム2018」の一環として、パリで久石譲のコンサートが行われた。2月10日にフィルハーモニー・ド・パリの演奏会に先立って開催されたトークショーには例外的に1000人を超える人々が詰めかけた。

久石は30分間、エマニュエル・オンドレ、フィルハーモニー・ド・パリ企画部長の質問に答えた。話題は作曲家としての歩み、バッハへの思い、東洋人としての死生観、フランス文化と多岐にわたった。「二日酔いの朝にベートーヴェンの交響曲は聴きたくない」といったユーモアも交えた直截な語り口に観客は静かな中にも和やかな雰囲気が広がっていた。

演奏会は当初2月9日と10日マチネの2回の予定だったが、切符は発売後わずか15分で4800枚が完売。10日夜の追加公演が決まり、延べ7200人が会場に足を運んだ。

プログラム前半は5楽章からなる42分の大曲「東の国の交響曲」だった。第1楽章「東の国」は2013年に作曲されたが、東日本大震災から受けた衝撃で、残りは16年になってようやく完成している。「東の国」は日本であるとともに、大きな被害を受けた東北でもある。

セリー音楽の影響が所々に感じられる一方、思い切った休止によって楽想が一転する独自の手法は映画音楽に永年携わってきたことと無縁ではないだろう。第2楽章「Air」は打楽器の繰り返しが特徴で、「音大生時代からずっとミニマル音楽に惹かれてきた」という先刻の談話が思い出された。

ソプラノ・ソロの市原愛は、第3楽章「東京ダンス」で日本語と英語による子供の囃子歌、第5楽章「祈る人」のラテン語詩句で澄み切った声を聴かせた。この最終楽章には作曲中にずっと頭の中で鳴っていたという「マタイ受難曲」の旋律が引用されるとともにフーガが使われ、バッハへの傾倒ぶりがうかがえた。

休憩後の後半は映画音楽を素材とした2曲が並んだ。「青春」(mládí)で久石はピアノを弾くとともに、弦楽器だけになった楽団を指揮した。「菊次郎の夏」で使用された”Summer”をはじめ、北野武監督の3作品で使われた旋律が流れた。

最後にフランスでも大ヒットした宮崎駿のアニメ映画「千と千尋の神隠し」を組曲にまとめた「Spirited Away Suite」が演奏されると、若者を主体とする観客はそろって立ち上がり、大きな歓声で久石と3Dオーケストラを讃えた。

パリとリヨンの高等音楽院を優秀な成績で卒業した若手を選抜し、映画音楽の演奏を行っている2012年創立の楽団(コンサートマスター、赤間美沙子)は、溌剌とした練度の高い演奏を聴かせてくれた。

(モーストリー・クラシック MOSTLY CLASSIC 2019年5月号 vol.264 より)

 

*写真は本誌掲載のものではありません。近いものを使用しています。

 

 

久石譲 シンフォニック・コンサート
Symphonic Concert JOE HISAISHI

[公演期間]  
2019/02/09,10

Saturday, February 9, 2019 at 8:30 p.m. 
Sunday, February 10, 2019 at 4:30 p.m.
Sunday, February 10, 2019 at 8:30 p.m.

[公演回数]
3公演 (フィルハーモニー・ド・パリ)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:3D Orchestra
ソプラノ:市川愛

[曲目] 
久石譲:THE EAST LAND SYMPHONY
1.The East Land  2.Air  3.Tokyo Dance  4.Rhapsody of Trinity  5.The Prayer
—-intermission—-
久石譲:【mládí】for Piano and Strings ~Summer / HANA-BI / Kids Return~
久石譲:Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲

—-encore—-
Porco Rosso (Pf.solo) ※9日公演
Asitaka and San (Pf.solo) ※10日公演
となりのトトロ

 

 

コンサート風景、本誌にもあったトークショー内容・カンファレンス動画(ノーカット33分)、現地取材記事や現地コラム、現地コンサート・レポートなどは、こちらでまとめてご紹介しています。

 

 

 

 

 

Info. 2019/03/29 久石譲さんよりメッセージをいただきました (長野市芸術館HPより)

久石譲さんよりメッセージをいただきました

長野市の皆さんへ

長野市の皆さん、久石譲です。この3月で長野市芸術館の芸術監督を任期満了に伴い退任することになりました。開館準備期間の2年半、そしてオープン後の3年にわたり、多くの方々から支援を頂き深く感謝しています。 “Info. 2019/03/29 久石譲さんよりメッセージをいただきました (長野市芸術館HPより)” の続きを読む

Info. 2019/04/27,29,30 「久石譲 スプリングコンサート Vol.1 ~仙台フィルとともに~」 ツアー開催決定!! 【3/28 Update!!】

Posted on 2019/01/02

久石譲×仙台フィルが起こす音楽の奇跡
東北での開催が決定!

 

Sakura Tour 2019
久石譲 スプリングコンサート Vol.1 ~仙台フィルとともに~ “Info. 2019/04/27,29,30 「久石譲 スプリングコンサート Vol.1 ~仙台フィルとともに~」 ツアー開催決定!! 【3/28 Update!!】” の続きを読む

Info. 2019/04/30 「TRADITIONAL BEST / EXILE ATSUSHI」CD発売決定 「懺悔」「天音」久石譲楽曲収録 【3/23 Update!!】

Posted on 2019/01/11

平成最後の4月30日に39歳の誕生日を迎えるEXILE ATSUSHIが、“日本の心”をテーマとしたベストアルバム「TRADITIONAL BEST」を発売!

同作のテーマは“日本の心”。これは日本に生まれたアーティストとして、日本という国を想い、日本に生きる人々を想う活動の中で生まれたもので、同テーマのもとに現在まで活動を展開してきたという。 “Info. 2019/04/30 「TRADITIONAL BEST / EXILE ATSUSHI」CD発売決定 「懺悔」「天音」久石譲楽曲収録 【3/23 Update!!】” の続きを読む

Info. 2019/05/05,06 「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(プラハ) 開催決定!! 【3/19 Update!!】

Posted on 2018/10/20

2019年5月5日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がチェコ・プラハにて開催決定!

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。

1984年公開の「風の谷のナウシカ」から2013年公開の「風立ちぬ」まで、宮崎駿監督と久石譲コンビが手がけた全10作品の音楽を演奏するスペシャルなフィルム・コンサート。巨大スクリーンに映し出される映画の名シーンと共に奏でられるオーケストラの迫力の音楽。指揮・ピアノはもちろん久石譲、共演オーケストラはプラハ・シンフォニエッタ。 “Info. 2019/05/05,06 「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(プラハ) 開催決定!! 【3/19 Update!!】” の続きを読む

Blog. 「MUSICA NOVA ムジカノーヴァ 2007年3月号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/03/18

ピアノの情報誌「MUSICA NOVA ムジカノーヴァ 2007年3月号」に掲載された久石譲インタビューです。久石譲の創作活動への姿勢、芯のようなもの、普遍的に語られる大切なことが凝縮されています。

 

 

表紙の人

時間を超えて響いていく、美しい意志 久石譲

文:青澤隆明(音楽評論)

「過去は振り返らないんですよ、興味なくて」。久石譲はきっぱりと言う。「いまのほうが圧倒的にいい。前に戻りたいという気持ちはまったくないです。どんどん自分のやりたい音楽をやれる環境に近づいているから、いまが最高。そういう考え方ですね」。

いろいろな音楽が好きで、3、4歳のときにまずはヴァイオリンに触れた。「音楽をやるのは当たり前だと思っていたので、音楽家になる、と決心する必要はなかったです」。中学2年のとき、譜面を起こして吹奏楽の仲間に配るのが面白くて、それで演奏家より作曲家のほうがいいと思った。昨年から自身のオーケストラ作品を台北、香港、北京、上海、大阪で演奏し、3月、東京でのコンサートでツアーを締めくくるが、指揮者、ピアニストとしても広く活躍する現在でも、彼の音楽活動の根本が作曲にあることは揺るがない。「他人の曲は弾かないです。作曲家である自分が必要とする演奏を自分でしているから」。他の演奏家が弾くこともあまり考えていないと言う。「そういう意味では、積極性のある作曲家じゃないね(笑)。結果としてみんなに喜んでもらえるのが最高に嬉しい。だれかのために書いている、となった瞬間、作曲家としてのスタンスが変わってしまう気がして。最初に自分がいちばん喜べることを一生懸命やって、『うん、わかる』と聴いてもらえるのが理想です」。

ミニマルミュージックをベースに置く現代音楽の作曲家として出発し、「集団即興演奏を管理するシステムづくり」に取り組んでいた久石譲は、1980年代からポップス的なフィールドに入り、映画やCM音楽の名匠としても広く知られるようになった。そしていま、自分のスタンディング・ポジションを明確にする意味でも、弦楽四重奏やオーケストラ的な「作品を書こう」と考えている。「いちばんピュアに自分が考えていることを表現できる。それだけに大変と言えば大変ですけど」と語るピアノのためにも、数年前に発表した10曲に書き足し、全調性による24曲のエチュードとして完成させいたと意欲をみせる。「子ども用のピアノ曲も書きたいよね、作曲家として試されるけど。あまり難しくなくて、気持ちよくなれるものができたら最高」。

生活のなかに入ってくるようにピアノがあるといい、と語るその言葉は、久石譲のポップ・ミュージックが僕たちの日常を訪れるときのことをふと想わせる。日常生活と芸術的な美的時間を瞬時に結びつける表現者は、この現代をどのように生きているのだろうか。

「その時代の独特の空気、政治や経済も関係してくるけど、そのなかで自分が感じていることをきちんと表現したいというのはあります。ただ、単なる今日的な表現では、5年経つと古くなる。今日的な題材を扱いながらも、永遠のテーマになるような。本質的なところと関わりあえたらいいよね。そういうものをできるだけ探そうとしているところはあります。たとえばCMも、初対面の人の印象と近いところがあって、音楽はぱっと聴いた瞬間にその世界観がわかってしまう。それに、CMは15秒といっても1回じゃなく、何度もリピートして流れる。半年で色褪せてくるか、イメージが残るか、それが最大の試練と言えます」。

では、久石譲の音楽人生が一篇の映画だとしたら、いま、どんな物語のどのあたりを歩いているのだろう。こう尋ねると、音楽家は即座に「アンディ・ウォーホルが延々とエンパイア・ステイト・ビルを撮っていたような感じで、まあ、どこをとっても同じでしょう」と答えて笑った。「10年経っても、自分のスタンスは変わっていないと思う。今まで百パーセント満足したものはないからね」と。久石譲の不断の音楽冒険は、彼の愛するミニマル・ミュージックのように挑戦をくり返し、ひとつの限られた物語的な時間に帰着することはないのだろう。

「この次は絶対にクリアーにしようと、絶えず線になって反省して、さらに理想的な高い完成度の…、ここが難しいんですけどね。完成度が高ければいい音楽になるかというと、ものすごく立派な譜面を書いたからってそうはならない。むしろちょっと粗っぽく書いて、なんだかなあっていうときのほうが、人々に与えるインパクトが大きいケースもありますからね。実のところ、音楽がまだわからない。だからたぶん、10年後もそういうことに悩みながら、『いい音楽をどう創ろうか』と考えていくんじゃないかと思います」。

(ムジカノーヴァ MUSICA NOVA 2007年3月号 より)

 

 

 

Blog. 「GQ JAPAN 2006年3月号 No.34」 AUDI × HISAISHI 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2019/03/17

雑誌「GQ JAPAN 2006年3月号 No.34」に掲載された久石譲インタビューです。AUDI特集のなかのひとつとして紹介されました。

 

 

AUDI × HISAISHI

「僕にとってクルマとは、大音量で音楽を聴けるプライベートな空間。そんな大切な時を共に過ごせる誠実で繊細なクルマです」

20年以上活動を続けている宮崎駿作品の音楽はもちろん、ふと耳にする短いCM音楽 ~サントリー緑茶・伊右衛門~ であっても、聴く人の心を大きく揺さぶる久石譲の音楽。

「音楽って不思議なんですよ、思っている以上に歴史が短いんです。クラシック音楽が生まれたのはたかだか200年前、ポップスは1920年代以降ニューオーリンズのJAZZから。その後急激に数多くの音楽が生まれた。そんな中で大切にしているのは、出会ったことのない自分に出会ったような新鮮さ……自分自身が感動できるような音楽であることです」

最近では自ら指揮棒を振り、新日本フィルとの活動も増えている。

「自分が信頼するオーケストラが演奏することを想定して曲を書くと、よりエモーショナルな楽曲を作ることができるんです。実際に指揮をして経験を積み、それがまた作曲にフィードバックされています」

久石の活動の場は、世界に広がっている。昨年11月には香港映画のために中国のオーケストラの指揮も。

「大陸的な中国の国民性が出て、とてもよいテイクが録れました。言葉の問題はありましたが、改めて音楽に国境はないなと実感しました」

(GQ JAPAN 2006年3月号 No.34 より)