Blog. 「DVDビデオ・ぴあ 2001年10月号」 映画『Quartet』久石譲 インタビュー内容

Posted on 2019/03/16

雑誌「DVDビデオ・ぴあ 2001年10月号」に掲載された久石譲インタビューです。映画初監督作品『Quartet / カルテット』についてたっぷり語られています。

 

 

映画の作曲家が映画を撮るということ
久石譲インタビュー

宮崎駿、北野武、大林宣彦といった人気監督作品の音楽監督として、現代日本映画の最前線を突っ走っている久石譲が映画監督に初挑戦した。その「カルテット」は、弦楽四重奏団を組んだ若者4人を追った青春ドラマ。だが、ただの青春映画ではない。これは久石いわく「日本初の音楽映画」。映画の作曲家が映画を撮るとき、いったいそこには何が生まれるのだろうか。

取材・文=賀来タクト

 

監督挑戦に当たり、久石譲は映画音楽の作り手としての自身を基本に置いた。職業監督としてではなく、映画音楽へのより深い理解を得るための「経験の一つ」だというのだ。

「いろいろお誘いをいただいてきた中の一つが形になってきたときに、それならと思って引き受けたんです。あくまで僕は音楽家ですから、その僕が監督するなら、ドラマに対して音楽がいかに絡みきれるか、音楽がセリフ代わりにものを言うように作れるか、そういうことにこだわってみたかった」

言葉を超えた映像と音楽のジョイント。久石が目指した映画こそ「日本初の音楽映画」であった。そういう理想にかなった作品は海外でもそんなに見当たらないと、苦笑いが漏れる。

「あえていえば、ジョン・コリリアーノが音楽をやった『レッド・バイオリン』くらいかな。黒澤明監督が”映画的”なる表現をされていましたね。音楽と映像が深く絡んでいったときに、そういう映画にしかできないものに迫れる瞬間って必ずあると思うんです。そういうところに1シーンでもいいから到達したかった」

偶然と言うべきか、「レッド・バイオリン」さながらに、その初監督作品「カルテット」では弦楽器とドラマが巧みに絡みあった物語が展開する。学生時代、弦楽四重奏団を組んでいた若者4人がふとしたことで再会、それぞれ人生の転換期を迎えていた彼らが今一度カルテットのコンクールに挑戦するというもの。随所に描かれる演奏シーンのために、久石は撮影前に使用する楽曲40曲を全てオリジナルで書き上げ、それに合わせて撮影を進めた。

「全体の半分弱くらいが音楽シーンで、時間軸に固定されますから、構成自体は難しくなかったんです。でも、セリフの投げ合いで感情を引っ張りすぎると音楽シーンのパワーがなくなっちゃうから、芝居は極力抑える、カメラは引くって決めてましたね。そういう意味では、北野監督的なやり方だったんですよ。過剰に説明をせずに、どこまで引いて見せるかという意味ではね。武さんは僕が映画を撮るというのを知っていたんです。あるとき一緒にご飯を食べていて、武さんが大杉漣さんに話をしていたんですよ。”ラーメンをおいしく撮る方法って、いかに本当においしいかと見えるようなカットを撮らなくちゃいけないんだよ。たいがいの監督がしくじるのは、いかにうまいかという内容を説明しちゃうから。トンコツ味でとか昆布のダシでとかさ、そうするとトンコツが嫌いな人はそれを聞いた瞬間、半分引いちゃうんだよな”って。大杉さんに話をするフリをして、たぶん僕に言ってくれたんだと思う。それがすごく残っていて、大変なヒントをいただきましたよね」

ちなみに、撮影現場では主要スタッフに使用楽器の譜面が手渡された。小節ごとにカメラの動きやアングルを決めるなど、絵コンテ代わりに使ったのだ。必死だったのはスタッフばかりではない。役者陣は楽器の実演を余儀なくされ、場面によってはプロに眼前で演奏をしてもらう、その動きにならいながら演奏シーンを撮ったのだ。

「音楽映画と謳っていながら、役者さんが本当に弾いているように見えなかったらアウトじゃないですか。演奏で観る人を引かせないようにするのは難しい。日本でそれをうまくやっている映画ってあまりないですよね。なおのこと譜面を渡されたスタッフもパニクってましたけれども(笑)」

撮影を終えてしばらく経ったある日、主人公の第1バイオリン奏者・明夫を演じた袴田吉彦に問えば「僕にとって素に帰る映画になっちゃいました」という声が返ってきた。演奏シーンの大変さに加え、芝居も概ね任されていたことが自分の原点を見ざるを得ない結果になったというのだ。

「それはすごく嬉しいな。本当に袴田くんでなかったらこの映画はできなかった。袴田くんの役は、父親の想い出のために音楽を愛していながら恨んでもいるという矛盾した気持ちを抱えていて、最後の最後まで笑わない。そんな女性から見たら嫌みな男をどう魅力的に引っ張るかっていうことでは脚本の段階から悩みましたし、逆にステレオタイプに陥らない人間を描けたという満足感も大きいですね」

ドラマ自体に目を移すなら、そういった「引きの視点」がもたらした独特の味わいに注目すべきだろう。どこか喉越しのスッキリした「涼しい映画」になっているのだ。

「あ、そこのところ、太字で(笑)」

破顔一笑。

「そう、泣かそうと思えば、そういうシーンはいくらでもできる。でも、観る人の心に作品を残したいのなら、寸止めにするというか、過剰な情報や先入観を与えちゃダメなんです」

日本の空気とは思えないサラサラ感があると言おうか。「カルテット」には湿気の少ない空気感が確かにある。

「ありがたいなぁ。まずウェット感をどう取っていくかというね、日本的情緒をとにかく外していく作業に徹しましたよね。それを日本の風土で撮るのは大変なんです。スタッフには”なぜもっと芝居をさせないんだ”という気持ちがあったと思うんです。その中で初心を貫いていくことは精神的には大変でしたね。その辺は”初監督で何も知らないので”といって押し通しましたけれど(笑)」

あとで振り返っても「カルテット」には嫌みなクドさがない。

「この映画、2回観た人の反応がいいんですよ。芝居や何かを全部言葉でやっていると2回観たいとはあまり思わないですよね。でも、音楽は2度聴いても嫌にならない。その音楽が今回、セリフ代わりになってますね。リピートに耐える映画になったかと思うと、とてもうれしいですね」

実は撮影を1年前に終えてしまっている「カルテット」の後、久石は既に監督第2作を撮りあげていた。その「4 Movement」では、音楽映画という括りはなかった。つまり、音楽家としてではなく、より純粋に監督という立場で撮った作品になったといえるのだが……。

「音楽家として最低にやりづらい作品でした。画が全部音楽的なカットなんです。音楽でやるべきアクセントやリズムというものを画が全部やってしまっていて、それに音楽で上乗せするなんて過剰でしょ? 一番やりづらい監督は久石譲ですね(笑)」

映画監督を経験して「脚本の読み方が深くなった」と、再び顔が締まる。理想の映画音楽とは何かを探るための経験は、想像以上の結実を希代の作曲家にもたらしたようだ。

「映画って”映る画(うつるえ)”って書きます。武さんはそれを”1秒間に24枚の絵が映し出されるもの”という表現をされた。僕にとってはアクション、動くことなんです。『カルテット』では音楽シーンを格闘技ともいうべきアクションで考えていました。セリフのない『4 Movement』では人の動きの部分部分を追っていきました。その動きをつかまえるということを、もっとやってみたい。映画は全部が出ますから、もっと自分を磨いてね。そんな気持ちが残ったのは確かです」

映画監督・久石譲が再登場する日はそう遠くはなさそうである。

(DVDビデオ・ぴあ 2001年10月号 より)

 

 

QUARTET カルテット

 

久石譲 『カルテット DVD』

 

久石譲 『4 MOVEMENT』

 

 

 

Blog. 「FM fan 1998 No.25 11.16-11.29」 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/03/15

雑誌「FM fan 1998 No.25 11.16-11.29」に掲載された久石譲インタビューです。オリジナルソロアルバム『Nostalgia ~Piano Stories III~』のリリースタイミングになります。

 

 

久石譲

”歌のエスプリ”にスポットをあてた
「揺らぎ」のある新作をリリース

「ピアニストは”体力”をつけろと、おすすめします」と久石譲は笑って言う。「長野パラリンピック冬季競技大会」の総合プロデュースや宮崎駿作品、北野武作品の音楽監督、他アーティストへの楽曲提供など多岐にわたる音楽活動。とりわけ『もののけ姫』(宮崎駿監督)の音楽から『HANA-BI』(北野武監督)の音楽へと続いた時期には相当なハード・スケジュールをこなしたという。「ところが現在はその三倍も忙しいんです」という彼。来年にむけて、また北野武監督作品を担当するという。この超ハードなスケジュールを「今だから出来る」とガッチリと受けとめている。

そのさなかから生まれた、みずからプロデュースのニュー・アルバム『ノスタルジア~ピアノ・ストーリーズIII』。

「サウンドはガッチリと構築するスタイルなのですが、このスタイルを一回壊してみたい。メロディに集約し直してみたい。僕の場合、作曲もアレンジも演奏も自分でやってしまいますから、少し荒っぽくてもいいから原質が出るような、そういうアルバムを作ってみたいなというのが一番根底にありました。で、北野武監督『HANA-BI』ベネチア映画祭出品の間などでイタリアへ行って、イタリア的ニュアンスなんだというのが自分なりに分かりましてね。イタリアというとカンツォーネだとかオペラだとか、歌という感じがありますね。何かそういうところのアプローチをしたいなという……。

タイトルが『ノスタルジア』だからといって、郷愁といったニュアンスでは作っていないんです。われわれふだんレコーディングしていると、どうしてもドンカマで作っていく傾向がすごく多い。そればっかりだと、揺らぎのある音楽から遠ざかっちゃうんですね。歌のエスプリみたいなものが最近の音楽では、ほとんど聴くことが出来ませんよね。今、忘れがちになっているそういう重要な要素に、もう1回スポットを当ててみたい。それが最も新鮮なんじゃないか。そういうのが大まかなコンセプトです」

そして北イタリアのモデナでオーケストラをレコーディング。日本の音楽プロジェクトが北イタリアでのレコーディングは極めて稀。モデナ文化評議会が賛同し、フェラーラ・オーケストラとストロキ・ホールが協力した。これには9月4日から16日にわたる現地の有力新聞14紙が、大々的に久石のレコーディングを報道した。

「行く前から、向こうのオケはいやというほど歌うからねと言われましたが、はたして!」

全曲新録の10曲は、『紅の豚』『HANA-BI』『時雨の記』の映画、CF、テレビでおなじみの曲のほかに書き下ろし曲、そして、ニーノ・ロータの「太陽がいっぱい」、声楽のアルトの歌手なら必ずといっていいほど歌うサンサーンスの「バビロンの丘」も含めて、久石譲のピアノの”うた”が満載だ。

ほかの仕事の合間をぬって、10月15日から12月16日まで全国主要9都市で、みずから構成・演奏する”久石譲ピアノ・ストーリーズ’98 -オーケストラ・ナイト-”。コンサートがあるとピアノに使う両の上腕が太くなるという生活は、まだまだ続く。久石の腕が太くなるにつれて、人々の心の体力がつく。

(インタビュー・文:三橋一夫)

(FM fan 1998 No.25 11.16-11.29 より)

 

 

久石譲 『PIANO STORIES 3』

 

 

 

Blog. 「FMステーション No.7 1998年4月5日号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/03/14

音楽雑誌「FMステーション No.7 1998年4月5日号」に掲載された久石譲インタビューです。映画音楽論について日本映画界・ハリウッド映画もふくめてたっぷりと語られています。

 

 

サウンドトラックの誘惑 SPECIAL INTERVIEW

久石譲

メインテーマはシンプルないいメロディを書きたい

昨年大ヒットした宮崎駿監督の『もののけ姫』や国際的に話題になった北野武監督の『HANA-BI』など、最近の邦画の話題作を一手に引き受けているサントラ界のヒットメーカーが、映画音楽に対する思いを語った。

 

武満徹、伊福部昭、坂本龍一など、これまでも多くの日本の作曲家が映画音楽に挑戦、世界的な成功を収めてきた。そして現在、日本の映画音楽界の頂点に君臨しているのが、久石譲である。昨年大ヒットした『もののけ姫』などの宮崎駿監督作品をはじめ、最近ではベネチア映画祭で金獅子賞を受賞した北野武監督作品『HANA-BI』なども彼の音楽によるもの。そしてそのどれもが、映像と音楽の結びつきを大切にしている久石だからこそ作ることのできる美しい旋律だ。このインタビューではそんな彼の映画音楽家としてのスタンスが熱く語られている。

 

-映画音楽を手がけることになったきっかけは?

久石:
「従来の音楽マーケットってボーカルものを中心に動いてますよね。ボーカルものに興味がないわけではないんですが、それまで自分がやってきたクラシック音楽や現代音楽の流れからいうと、こういった仕事のほうが、自分に向いていたというか…。ですから、いまでもこの仕事は気に入ってますね。」

-子供のころから映画はたくさん観ていたんですか?

久石:
「いっぱい観ましたよ。年間で300本くらい。」

-とすると、現在のお仕事には就くべくして就かれたという…。

久石:
「そうですかね。確かに、あまり苦労はなかったです(笑)。」

-映画音楽のほかにソロワークもされていますが、ご自身のなかで双方の位置づけの違いってありますか。

久石:
「映像がないと成り立たない音楽ってある意味では弱いと思っているので、ソロアルバムはできるだけピュアに、映像とは無関係に音楽として作品世界が成立することを目指しています。映画というのは、ご存じのように、自分のほかに大勢スタッフがいます。そこに音楽というポジションで参加するわけですから、自分だけで作業を進めても成り立たないわけですよね。監督の意向もあるし。逆にいえば、映画音楽のほうが自分の才能の新しい面を引き出してくれるという楽しみがありますね。」

-久石さんは、大林宣彦、北野武、宮崎駿といった日本を代表する監督の作品の音楽を手がけられていますが、3人の監督の作業の進め方や考え方の違いがあれば教えてください。

久石:
「最近、大林監督の作品は手がけていないので、ちょっとよくわかりませんが、やっぱりそれぞれ個性がありますよ。北野監督と宮崎監督はある意味で共通しているところがあるんですが、表現方法が全然違います。ボクにとっては自分が持っている幅というものがあるとしたら、お2人はその両極端に位置しているので、その点ではすごくやりやすい場合があるんです。ようするに、宮崎作品用に書いた作品を引きずりながら北野作品にはいるってことは絶対にないってことですね。」

-アニメと実写作品の作曲法の違いはありますか。

久石:
「それほどないですね。アニメだから、実写だからということは関係なく、基本的なスタンスは一緒だと思ってやってます。」

-映画音楽を担当するのに、撮影に立ち会ったりはするのですか。

久石:
「基本的にはすべての台本を読んで、フィルムが上がってから作ります。とはいっても、現場の空気感であったり、その場面のロケが設定的に作品のなかで重要だったりするときには撮影の段階から極力参加するようにしています。」

-北野武監督の『HANA-BI』の音楽は、どのような過程で作られたのでしょうか。

久石:
「通常、北野監督は、あまり注文を出さないんです。ある意味でおまかせ状態。それが、この『HANA-BI』では、「暴力シーンとかいろいろあるけど、それとは無関係にアコースティックな弦などのキレイな旋律を流したらどうかな」というようなことを初めていわれて…。ですから、今回はその言葉がキーワードになっています。いままでの北野作品では、同じフレーズを繰り返すような曲を主体にやっていたんですが、今回は、弦を使うということで、曲調がメロディアスになったり、いままでよりもエモーショナルなサウンドになるかなって。そのあたりを監督に確認しながら作りました。」

-映画音楽を作るうえでのこだわりはありますか。

久石:
「単音で弾いても成立するようなシンプルでいいメロディ、それをメインテーマにして作りたいという欲求はありますね。あとは、それぞれの監督の世界があるから、監督の言葉から誘発された自分というもの、あくまでもそういう自分を見失わないようにして書いているつもりです。」

-たしかに久石さんが手がけた映画のメインテーマは、一度聴いたら忘れられないくらいの美しさがありますね。キャッチーというか…。

久石:
「たとえば、『太陽がいっぱい』といわれたら、すぐにニーノ・ロータのメロディが浮かんできますよね。本来はそれくらい映画音楽って重要なものだったのに、いまはそれがなくなってきているんですよ。最近のハリウッド映画を観ていても、いいメロディを書ける人がどんどん減っているという感じがします。アクションシーンのバックに流れているのは、いつもドタバタした音楽しかなくて、この映画だから、この音楽っていうのをいまでもキッチリやっている人って…ジョン・ウィリアムズくらいじゃないですかね。たしかにハンス・ジマーや、ジェームズ・ホーナーといった人たちもいい音楽をいっぱい書いていますけど、全体的に考えると減っている。ハリウッドの人と話していても、「そのへんがいまいちばん弱いんだよねぇ」ということをいっています。」

-映像に音楽を付けるということで難しいことはなんでしょうか。

久石:
「映像と音楽ってつねに対等でいるべきだと思うんです。たとえば登場人物が走ったら速い音楽、泣いたら悲しい音楽のような、単に映像の伴奏でしかない曲の付け方、それっていわゆる世間でいう劇伴ですよ。それではまったく意味がない。いったいそのシーンで何が描かれているのかを判断したうえで、あくまでも音楽監督という立場からキッチリと構成していかなくてはいけない。」

-音楽がたんに添え物になっているのはいけないということですよね。

久石:
「そうです。映画にとって音楽ってものすごく危険なんですよ。扱いを間違えると映画のシーンよりも先に、これから起こることを予感させてしまう。こういったミスは作品の質を落としたりしますし、安っぽくなりますから。とくに最近のハリウッド映画の音楽を聴いていると、あまりにも画面と寄り添いすぎちゃうというか、画面の描写に徹しすぎる。あるいは、それを要求されすぎているという感じはしますね。」

-これまでおっしゃった点を踏まえて、最近の映画音楽家で成功しているな、と思える方はいますか。

久石:
「やっぱりジェームズ・ホーナーですかね。いい仕事しているなって思いますよ。『ブレイヴハート』など、すごく詩的なものを作るので好きですね。あと、少し前の作品ですけど、『ブレードランナー』もよかったな。あのころのヴァンゲリスはよかったですね。いい映画って音楽なんて気にならなくなっちゃいますよね。そういう意味でいうと、これらの作品は構成要素としてきちんと音楽が映画に参加しているなって感じがします。それがいちばん大事なんじゃないですかね。」

-日本の映画音楽はどうでしょう。

久石:
「どうなんでしょう。日本映画って自分がかかわった作品しか観ないですからね。ただ、映画音楽というものは、ギター、ベース、ドラムとキーボードがないと曲が書けないという人が作っちゃいけないと思うんですよ。たとえば弦だけだとか、メロディがないといった状況でも音楽が書ける…つまりクラシックの技術が最低限は必要ということです。とくに日本の映画音楽というのは、現代音楽やクラシック育ちの人が、いままで長い間、手がけてきました。ところが映画ってエンターテインメントですから、実はそのクラシックの技術と同じくらい、一方で普通のチャートにも入れられるくらいのポップスセンスを持っていないといけないんです。両方を持ち合わせている人が、映画音楽を作る…それが理想的なんですが、そういう条件を考えると、すごく限られちゃう。絶対数が少ない。アメリカ映画も最近はひどいといいましたが、そうはいってもアメリカで映画音楽家の地位がすごく高いのは、両方の才能を持ち合わせている人が貴重だということ。日本の映画音楽はいまひとつ主張しきれなくて、どうしても劇伴扱いになっている。作曲家の技術の問題が大きいと思いますね。」

-作曲家の育つ環境が整っていないということではないんですか。

久石:
「たしかにそれもあると思います。ある程度、数をこなしたり、優れた監督と一緒にやって苦労しなければ身についてこないですからね。」

-最後に、久石さんにとって、映画音楽とはなんでしょうか。

久石:
「もちろん、ライフワークであるという以上に、映像と音楽の関係というのは、ボクにとって最高に興味深いことでもあります。たとえばモーツァルトなどの時代でも、シンフォニーやソナタなどのほかにオペラも作っているんですよ。時代は違いますけれど、ボクにとって映画音楽は、モーツァルトがオペラを書くのと同じ。そういう気持ちで映像に融合する音楽を作っていきたい。これからもずっと、この仕事は続けていくだろうと思います。」

(FMステーション No.7 1998年4月5日号 より)

 

 

Info. 2019/07/26 映画『ヴイナス戦記』監督:安彦良和 / 音楽:久石譲(1989)Blu-ray発売決定

『機動戦士ガンダム』(1979年)でキャラクターデザイン・作画監督・アニメーションディレクターを務めた安彦良和が、自身の同名コミックスを原作として1989年に映画化した『ヴイナス戦記』のBlu-rayが7月26日に発売。劇場公開から30年を経てHDネガスキャンとリマスターを施した特装限定版。 “Info. 2019/07/26 映画『ヴイナス戦記』監督:安彦良和 / 音楽:久石譲(1989)Blu-ray発売決定” の続きを読む

Info. 2019/04/05,12 [TV] 金曜ロードSHOW! 「さよなら平成 2週連続スタジオジブリ」『平成狸合戦ぽんぽこ』『風立ちぬ』放送決定

【さよなら平成 2週連続スタジオジブリ】「平成狸合戦ぽんぽこ」(高畑勲監督)「風立ちぬ」(宮崎駿監督)2週連続ノーカット放送決定! “Info. 2019/04/05,12 [TV] 金曜ロードSHOW! 「さよなら平成 2週連続スタジオジブリ」『平成狸合戦ぽんぽこ』『風立ちぬ』放送決定” の続きを読む

Info. 2019/03/06 久石譲ニューヨーク公演(Nov. 2018)NYAFF インタビュー動画公開

2018年11月2~3日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がアメリカ・ニューヨークにて開催されました。

このたび公開されたインタビュー動画は、ニューヨーク公演主催New York Asian Film Festival (NYAFF)によるもので、コンサート直後に取材されたものだと思われます。海外メディアの貴重なインタビューです。ぜひご覧ください。 “Info. 2019/03/06 久石譲ニューヨーク公演(Nov. 2018)NYAFF インタビュー動画公開” の続きを読む

Info. 2019/02/22 「宮崎アニメの作曲家、久石譲の賑やかなコンサート」リヨン公演 現地Web記事

2月16-18日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がフランス・リヨンにて開催されました。コンサート風景はご紹介しています。

 

 

ここでは現地Web記事をご紹介します。 “Info. 2019/02/22 「宮崎アニメの作曲家、久石譲の賑やかなコンサート」リヨン公演 現地Web記事” の続きを読む

Info. 2019/02/19 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(リヨン) プログラム 【2/20 Update!!】

Posted on 2019/02/19

2019年2月16-18日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がフランス・リヨンにて開催されました。

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。 “Info. 2019/02/19 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(リヨン) プログラム 【2/20 Update!!】” の続きを読む

Blog. 「月刊アピーリング 2004年10月号」久石譲スペシャルインタビュー “ハウルの動く城” 内容

Posted on 2019/02/19

ローソン限定販売「月刊アピーリング 2004年10月号」から、久石譲のインタビューです。雑誌表紙も『ハウルの動く城』、久石譲のぎっしり2ページに及ぶインタビュー、写真やプロフィールも含めると4ページ・オールカラー掲載。『ハウルの動く城』の音楽ができるまで、宮崎駿監督との打ち合わせからレコーディングまでの制作過程と、充実の内容です。

 

 

appeal+ing 巻頭インタビュー

久石譲

久石譲の映画音楽、新境地 『宮崎駿さんとは、最初から生理的なリズムが合っていたから20年一緒に仕事が出来たと思うんです。』

(目次より)

 

 

Interview with 久石譲

宮崎駿監督作品のみならず
様々な分野で才能を発揮する
日本を代表する音楽家
「鬼才」久石譲
スペシャルインタビュー

今から15年ほど前、モスクワに旅した友人が街角でサックスを吹いている老人と出会った。老人は『お前、日本人ならこの曲を知っているか?』と吹いてみせたのは黒澤明監督の「七人の侍」のテーマ曲だったという。おそらく日本のことなどさほど知らないモスクワの老人にも、映画音楽は言語の壁を越えて心に刻まれている。今だとその老人が生きていれば、サックスで吹くのはヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞した北野武監督の「HANA-BI」か、ベルリン国際映画祭グランプリ受賞作である宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のテーマ曲かもしれない。この2本の映画音楽を作曲したのが、久石譲。宮崎駿、北野武などの映画を始め、大林宣彦、澤井信一郎といった監督たちとのコラボレーションで知られる彼の音楽は、今や世界的にも親しまれている。その久石譲が、今秋公開される宮崎駿の新作「ハウルの動く城」の音楽を手掛けた。二人のコンビは、「風の谷のナウシカ」以来8本目。実に20年に渡る名コンビとなる。

「今回の映画で面白いことがあったんです。『ハウルの動く城』のイメージアルバム用に作った曲を、『ちょっと、画に当ててみますか?』と宮崎さんに言ってみたんです。映画の中では顔のカットやシーンが変わったりしますね。僕の曲にもリズムが変わる部分が当然ある。でもその画と曲タイミングが、全部合っていたんです。これには非常に驚きました。その時、『20年も一緒にやっているから合うんだね』と言った人がいます。僕もそうかなと最初は思ったんですが、実は逆なんですよん。何年一緒にやっていても合わない人とは合わない。つまり宮崎さんとは、最初から生理的なテンポ感がどこかで一致していたから、20年続いた。そういう気がするんです。ですから宮崎さんとは大変幸運な出会いだったと思いますし。その出会い自体が嬉しいことですね。」

 

宮崎作品の映画音楽が、サウンドトラックとして完成するまでにはプロセスがある。映画に使われる楽曲を作る前に、まずイメージアルバムが作られるのが「風の谷のナウシカ」以来、恒例化しているのだ。通常の場合、イメージアルバムはシンセサイザーやピアノで音を録り、それがサウンドトラックを録音する段階でオーケストラ演奏として完成されていく。だが今回の「ハウルの動く城」では初めてイメージアルバムから、約90人編成のオーケストラを使った。

「このところ、自分の仕事の中でオーケストラとの仕事が多いこともあって、表現として一番それがフィットしていると思ったんです。映画音楽を書く場合に自分が音楽家として、その時にいいと思っているものは何かが一番大事なんです。その時に自分が興味を持っていて、絶対に琴線に触れるものがありますよね。僕はそれを、極力映画の方へ持ち込むようにするんです。音楽は文章のように、論理的に組み立てるだけではできない部分がある。そこで本人が、これがいいんだと強く思うことが大事だと僕は思っているんです。今回ではそれが、オーケストラを使うことだったんですね。」

 

イメージアルバムとは具体的に、どのようにして生まれるのだろう。作業を行ったのは昨年9月。その段階では、勿論映画本編は完成していない。ヒントになるのは絵コンテや監督の宮崎駿から発せられる言葉だという。

「基本的には音楽の内容の説明なんですが、宮崎さんから『今回はこんな風に行きたい』といった説明があるんです。他にソフィーやハウルといった登場するキャラクターのイメージなどですね。そこから曲のテーマとなる題材をもらって、考えていくんです。またこの映画は、舞台設定がヨーロッパと明確に出ている。これは『魔女の宅急便』以来のことです。ただそのヨーロッパにしても、実在の世界ではなく宮崎さんの作り出したヨーロッパなんです。それだけに、どこか場所柄を限定する音楽ではありたくはない。あくまで宮崎さんがやろうとしている世界観を持って如何に音楽で表現するか。それを考えるんです。そこで今回はヨーロッパにもエスニック音楽はあるんですが、そういうローカルカラーはあまり出す必要がないと。色の強い特殊な楽器も使わないで、出来るだけストレートなオーケストラの音にしようと思いました。」

 

イメージアルバムの曲作りは、書き出すまではかなり難産だったという。

「最初は『ダメだ、これは無理だろう』と思ったくらいです。とにかく2、3曲でもできればいいという形で入っていったんですが、八ヶ岳の麓にあるリゾートスタジオに篭ったらいきなり書けたんです。1日1曲のペースで8日間に8曲書きました。しかも単なるメロディーではなく、オーケストラ・アレンジまでの譜面をですよ。普通は40分強のアルバムを作る場合、3ヶ月から半年はかかるんです。でもこの時は、1ヶ月で10曲出来た。ですから書き出すまでは難産でしたが、作業が始まってからは非常にスムーズなペースでしたね。」

 

イメージアルバムに収められた曲は、そのまま映画に全部使われるわけではない。実際に映画のシークエンスに合わせて、登場人物の心情や場面の状況を表現するのがサウンドトラックだとすれば、イメージアルバムは作品全体を作曲家が大掴みに捉えたものと言える。

「どちらかと言えば、僕のイマジネーションを羽ばたかせて作る感じですね。イメージアルバムは、あまり作品と整合性のあるものをやってはいけない。むしろ、ちょっと離れた方がいい場合もあると思っているんです。言い方は変ですが、いい加減なほうがいい(笑)。全曲をサウンドトラックで使うわけではないですから。その中で宮崎さんのイメージにフィットした曲があれば、そこから次の段階のサウンドトラックを考えていけばいいんです。ところが今回はオーケストラを使ったことで、精神的には少しサウンドトラックの方へ入り込んでいた部分がある。『もののけ姫』でも一緒に仕事をしたチェコ・フィルハーモニーに演奏してもらうということもあって、チェコ・フィルまでいってあんまりみっともないスコアでは演奏をしたくなかったし。ですからアルバム自体に完成度を求めたところがあるんです。そういう意味で、イメージアルバムとしてはいいやり方ではなかったのかなと思っているんです。」

 

完成度を意識したことで、イマジネーションを飛翔させるイメージアルバム本来の目的とのズレを感じたらしい。しかし、それがまたサウンドトラックという完成品を生み出す前段階の習作とも呼ぶべきイメージアルバムを、ひとつの作品にすることにも繋がった。

「あのイメージアルバムは、オーケストラ作品として凄いと思うんです。かつてプロコフィエフが書いた『ロミオとジュリエット』というバレエ曲がありました。あの曲は最初、注文主のバレエ団から『こんな曲は最低だ』と評価されて、まったく上演できなかった。その曲を組曲にしたものがアメリカで上演され、楽曲が評判になったことからバレエ上演へと繋がったんです。今や『ロミオとジュリエット』はバレエの名曲になっています。それと似たような意味で、このイメージアルバムに収められた交響組曲はこのままイメージアルバムだけで終わらせるのはマズイと思っています。自分なりに集中力を持って作った世界なので、実際の映画『ハウルの動く城』のサウンドトラックとは別かもしれないけれども、ひとつのオーケストラ作品として今後もアピールしていきたい。個人的にそう思っていますよ。」

 

イメージアルバムが完成して、いよいよ「ハウルの動く城」のサウンドトラックを作ることになった時、宮崎駿監督からひとつの提案があった。

「いつも宮崎さんは凄いなと思うことがあるんですが、今回は『徹底的に、ひとつのテーマ曲でいきたい』という提案があったんです。これは最初から最後まで変わらない、強固なこだわりでした。映画の中で主人公のソフィーは18歳の少女になったり、90歳のお婆さんになったりする。それを音楽ではひとつのテーマ曲で見せていきたいんだと。通常の場合は、映画1本で30曲ぐらい書くんです。その中でメインテーマ系は4、5ヶ所ですね。しかしこの作品では、メインテーマが17ヶ所以上ある。そうするとバリエーションを書くのが、とても大変なんです。すべてが同じ音楽であればいいのではなくて、主人公の心情が変わっていくのに合わせてひとつひとつのテーマ曲を変えなくてはいけない。それは非常にテクニックを要するんです。同じメロディーを使っているんだけれども、ほとんど違うようにも聴こえるバージョンから、ドラマの核心ではテーマ曲本来のメロディーを聴かせるバージョンまで、全部作らなくてはいけなかった。音楽的には大変でしたね。レコーディングのときには、来る日も来る日も『まだ同じ曲をやっている』という感じでした。でもこういうことにチャレンジしたのは、いい経験になりましたよ。宮崎さんが相当強い意志で、『1テーマ曲でいきたいんだ』とハッキリおっしゃっていましたから。僕だけだったら、とてもここまでひとつのテーマ曲にこだわる作り方は出来ない。きつくて逃げちゃいますよ(笑)」

 

そのテーマ曲を決定する時にも、今回はちょっと違うやり方をした。これまでは候補曲を何曲かシンセサイザーで音を作って、デモテープの形にして宮崎監督の所へ持っていく。しかし今回は、デモテープを作らなかったという。

「僕がその場で、ピアノで弾いてみせるというやり方をしたんです。候補曲は3曲用意したんですよ。その中で『これは、一番違うかな?』と思っていた曲に、プロデューサーの鈴木敏夫さんが真っ先に反応したんです。宮崎さんもその曲がいいと言いました。僕としては、持って行った3曲の中で一番薦めたい曲ではあったんですが、違うと言われる可能性が最も高いと感じていたんです。というのもワルツですから、今までの世界と一番違う感じの曲なんです。そのワルツをお二人が選んだのには、ビックリしました。と言うのも何本か一緒に仕事をしてくると、予定調和じゃないですけれど『こういう音楽なら上手くいくだろう』というのが、僕自身見えるんですね。勿論そういうタイプの曲も作りました。ただもうひとつ冒険的なものを用意して、そっちをお二人がいいと言ってくれた。そのことが凄く嬉しかったんです。今回の作品のように、これは恋愛物ですと謳っている映画は初めてです。そうすると、こちらとしても何か違うものにチャレンジしたかったですからね。」

 

宮崎監督が作ろうとしている世界を汲み取りながら、音楽家として新たな表現を模索する。映画音楽は作曲者の意志だけで自己完結するものではないだけに、実際に画と音楽を合わせる時には互いの間に葛藤がある。

「サウンドトラックを録っている時に宮崎さんが、ある曲を僕がつけようと思っていた場面と違う所につけたいと思ったんです。宮崎さんは作業をしながらどんどん考えていく方ですから。その時、宮崎さんは悩まれたらしいですね。思っている所と別のシーンに曲を使ったら、僕が怒り狂うということを宮崎さんは知っていますから(笑)。オーケストラの音録りをしている間中、『ウ~ン』と唸っていたと聞きました。僕は離れた場所にいますから、そんなことは知らなかったんですが。それでとりあえず、宮崎さんが使いたいという場面にその曲をあててみたんです。これがキッカケの部分が音楽的にズレることも全然なくて、いいんですよ。ものを作る人間同士ですから、ぶつかり合うことや毎回いろんなことがありましたけれども、20年やれてこれて良かったと思いますね。画と音が生理的にシンクロすることも含めて、いい意味でここまで来れたんだなあと実感しました。どんな作品でも苦しみますから、最後は早く終わればいいと思うんです。でも『ハウルの動く城』に関しては、もう半年この仕事をやっていたいと思いました。」

 

私はプロデューサーの鈴木敏夫と何度か会う機会があったが、彼は宮崎駿に関して『「紅の豚」以降、宮崎さんは作品に自分を出すようになった』と言っていた。これはいわゆる観客のニーズを第一に考えたエンタテインメントの作り方から変貌し、自らの主張や嗜好を作品の中に意図的に刷り込ませてきたということである。そういう意味で最近の映画は、よりパーソナルな宮崎駿の作家性が強まっている感じがある。こういう宮崎監督の変化に関して、20年間作品作りの併走者となってきた久石譲はどのように感じているのだろうか?

「ほとんどの作家はその域に行きつけないんだけれども、特に『もののけ姫』以降の宮崎さんは表現の上で自由になったんじゃないですかね。これは大変なことですよ。とても僕は、自由になりきれない。例えばオーケストラの曲を書くと、それが古今東西の名曲の譜面に劣っているのは嫌だと思う。その劣っているのは嫌だと思う気持ちと、いい音楽を書くということはまた別ですけどね。作業をしていると自分のエゴやいろんなしがらみに、どうしても縛られる部分がある。『自分がいいと思うものさえ作ればいいんだ』という心境には、とてもじゃないけれどもなりきれません。そういう意味で『もののけ姫』以降の宮崎さんは、表現の上で本当に自由になった。その域まで辿り着いたという感じがします。」

 

このように言う久石譲ではあるが「ハウルの動く城」のサウンドトラックを作っている時には、宮崎駿とは違う形でキッチリと計算された表現よりも、ある種の自由さを持っていたようだ。それを彼自身は『ファジー』という言葉で語る。

「元々音自体に関しては、シンセサイザーとかいろんなものを使って、枠にはめない作り方をしてきたんです。『千と千尋の神隠し』ではバリ島や沖縄、アフリカのリズムを、現地の人が叩いたリズムをサンプリングしてオーケストラと融合させた。そういう音がアバンギャルドであるのは、僕にとっていいことなんです。ただ音の入れ方に関しては、これまでクリックを作ってかっちりと画にはめ込んでいたんです。ただ今はもっとファジーにやってもいいかなと。つまり多少音は伸びたとしても、そこに心がこもっていれば微妙なニュアンスが伝わるほうを選ぶ。これは自分がオーケストラの指揮をするようになって、変わったんだなと思うんです。音やリズムの正確さだけではなく、そこでもう一歩踏み込んだ表現をして次にいく。『ハウルの動く城』のレコーディングでは、そのニュアンスを大事にしました。とは言えちゃんとしたクリックも用意したんです。ただアクシデントでレコーディングの時に機械が故障して、曲の終わりを示すマーカーも無しに勘だけで3分ぐらいの曲をお尻がピッタリ合うようにしなくてはいけなくなって。それでも大体は合うものなんですよ。ちょっとしたズレが音楽的なニュアンスになって、映画の余韻にもなっている。作曲者の意図としては、画面が変わった瞬間に音がガンと入るとか、設計図を書いて組み立てていく。それでしっかりした演奏さえすれば、レコーディングはOKなんです。でも今回のように生の演奏をしていくと、自分が思ったテンポと実際にいい音楽になるテンポは違うんです。演奏者がいい気持ちになって朗々と演奏をすると長くなりますね。その長くなったことで成立するニュアンスの方を大事にして、その分をどこかで調整しようと努力する。こういうやり方をしていくと、映像が呼吸するように音楽も呼吸をしだすんです。がっちりしたものを作るよりも、音のニュアンスを活かす。これは僕にとって大きな方向転換なんです。ただ、最初からファジーでいいというのではない。きっちりと作り上げておいて、レコーディング本番で崩す。今回はそれが、いい効果を上げていると思います。僕にとっては新鮮で、凄く興奮するレコーディングでしたよ。」

 

現在、久石譲は秋のコンサートツアーと新作アルバムのレコーディングに追われている。

「ツアーは新作アルバムに引っ掛けた形のものになると思います。カナダから女性だけの弦楽アンサンブルを呼んで、彼女たちと僕のピアノで構成する形になります。『ハウルの動く城』で使われた曲は、映画のオーケストラとは違う、ピアノ・ソロで聴かせるバージョンのテーマ曲を入れようと思っています。アルバム制作は遅れているんですが、年末か来年の頭には完成させたいです。テーマは、今は皆がいろんなしがらみの中で生きているけれども、その大きな壁を作っているのは個人だろうと。もっと個人が自分の中で自由な気持ちを取り戻せたら、きっと楽に生きられるんじゃないか。そういう思いを込めているんです。ただアルバム自体は、難しい感じではなくて『伊右衛門』や『ベネッセ』のCMのために書いた曲も入れて、明るい感じにしようと思っていますね」

 

自分がツアーとアルバムのために掲げたテーマと、今は格闘している真っ最中だとか。こちらでは宮崎駿とのコラボレーションとは違った、音楽家・久石譲独自の表現が示されるはずだ。そのアルバムの完成を楽しみに待ちたい。

(文・金澤誠)

(月刊アピーリング 2004年10月号より)

 

 

 

ハウルの動く城 サウンドトラック

 

 

 

Info. 2019/02/18 「Joe Hisaishi – Paris 2019 – Concert Summary」久石譲パリ公演 現地レポート記事

2月9日、10日、「久石譲 シンフォニック・コンサート」パリ公演が開催されました。

現地取材、プログラム、コンサート風景(写真・動画)、コンサート・パンフレット、カンファレンス動画、現地コラムなどはまとめてご紹介しています。 “Info. 2019/02/18 「Joe Hisaishi – Paris 2019 – Concert Summary」久石譲パリ公演 現地レポート記事” の続きを読む