インタビュー:「ハウル」に通じる「Freedom」

連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)
インタビュー:「ハウル」に通じる「Freedom」

作曲家でピアニストの久石譲によるコンサートツアー「Freedom」が、11月3日から29日まで全国各地で行われる。カナダの女性弦楽アンサンブル、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタとの共演だ。コンサートへの意気込みを聞いた。(依田謙一)

—ツアータイトルを「Freedom」とした理由は。

久石 制作中のソロアルバム(10月発売予定だったが1月に延期)と共通のタイトルにしようと思っているところから話したい。今、自分自身が日常にがんじがらめになっていて、強い閉塞感を感じている。これは、この国に生きている皆が感じていることじゃないかと思う。夢は夢として実現しないものになっていて、最初から手の届く範囲で納得しないとやっていけなくなっている。

—前アルバム「ETUDE」は、収録曲「a Wish to the Moon」に代表されるように「夢はいつかかなう」というテーマでしたが。

久石 もちろんそれは今でも大切だと思っているが、まず自分自身が作ってしまっている束縛から解放されないと、何も始まらないんじゃないかという思いが強い。何かを捨てるということではなく、ありのままの自分を受け入れることで生まれる自由があるんじゃないかと。そういうことをアルバムとツアーで伝えたい。

—テーマを代表する曲は。

久石 新アルバムのために「Ikaros」という曲を書いた。アルバムを象徴する曲になると思う。ツアーでも演奏するよ。タイトルありきで、まさにギリシャ神話に登場するイカロスのこと。ろうで固めた羽で飛んで海に落ちてしまった彼に対して、身のほど知らずだと言う人もいれば、自分の好きなようにして納得しているんだからいいじゃないかと言う人もいるだろう。40歳以上の人は前者が多いかも知れない。しかし、若い子たちはきっと後者なんじゃないかと思う。ただ、僕はどちらがいいということを言いたいわけじゃない。客観的に語りたいだけ。

—曲を聴いて自分がどういう人間か知る。

久石 人によって明るいと感じる人もいれば、暗いと感じる人もいるだろうね。反応が楽しみ。

—アンジェル・デュポー&ラ・ピエタと共演することになったきっかけは。

久石 彼女たちを知ったのは、「ハウルの動く城」が一段落して気分転換したいとハワイに行った時、偶然テレビで演奏していたのを聴いたんだ。すぐに「これだ!」と思った。まず、彼女たちの演奏スタイルにひかれた。真っ黒な衣装で、立ちながら激しく体を揺らして演奏している姿は、とても魅力的だった。ちょうど、ライブならでは迫力ある演奏をやりたいと思っていたから、彼女たちとなら、相当激しいステージができるんじゃないかと直感した。弦楽の編成がツアーでやりたいと想定していたものとほぼ同じだったことも、大きなポイントだった。それで、日本に帰ってコンタクトを取ったんだ。

—彼女たちの反応は。

久石 CDを送ったら気に入ってくれて、すぐに共演が決まったよ。最初はアルバムを先行して発売する予定だったから、日程面で迷惑をかけたけど、とても好意的に対応してくれている。

—セッションはすでに行った?

久石 実はまだ彼女たちの演奏を生で聴いていないんだ。でも、なぜか不安より楽しみが勝る。きっと音量は大きくて勢いがあるだろうという確信さえある。不思議だよね。彼女たちは全員女性だけど、女性だから音に迫力がないということはないんだ。去年、チェロ奏者たちとツアーを回ったけど、一番大きな音を出していたのは女性だった。音楽の世界は、「男だから」「女だから」ということがないのがいいところ。

—プログラムの構成は。

久石 今までなら後半に演奏しているような密度の高い曲を、前半に集中させようと思っている。精神的にはもちろん、体力的にも大変なものになるだろうね。

—「ハウル」の曲も演奏される?

久石 メインテーマ曲「人生のメリーゴーランド」は、新アレンジで演奏するよ。実は「Freedom」の考え方は「ハウル」に通じるところが多い。僕は何もこのツアーやアルバムで、自分や聴いてくれた人の心が自由になるなんて思わないし、相変わらず「人生のメリーゴーランド」なんだ。下がる時もあれば上がる時もある。でも大切なのは、自分を受け入れながら自由になりたいと思って生き続けるプロセスなんじゃないかな。「人生のメリーゴーランド」というタイトルは、宮崎駿監督が付けたものなんだけど、「ハウル」はまさにそういう映画だよね。

(2004年10月18日  読売新聞)

 

連載 ハウルの動く城 久石譲

 

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