Disc. 久石譲 『天空の城ラピュタ ドラマ編 光よ甦れ!』

1986年8月15日 LP発売 19AGL-3029~30
1986年8月15日 CT発売 19AGC-2029~30
1989年2月25日 CD発売 24ATC-178~9
1993年12月21日 CD発売 TKCA-70230

 

1986年公開 スタジオジブリ作品 映画「天空の城ラピュタ」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

本作品は映画本編を映像なしの音声のみで聴く作品である。BGMはもちろんセリフや効果音などもそのまま収録されている。

 

 

解説

●宮崎アニメはいつも魅惑のキャラクター・ボイスを生み出す。古くは「未来少年コナン」のラナス役を演じた信沢三恵子さんにはじまり、おなじみ「ルパン三世 カリオストロの城」のクラリス役をはじめ「新ルパン・最終話」の小山田マキや「風の谷のナウシカ」のナウシカを演じた島本須美さんなどのヒロインたち。宮崎作品にふれたことのある人なら、彼女たち以外の脇役にも、必ずひとりやふたりのお気に入りがいるはずだ。

●宮崎アニメの登場人物たちは、その一部分が、宮崎さん自身の”こうあってほしい”という想いから形作られている。と同時に、彼ら彼女らはとても存在感に満ちて描かれている。だから、その”想い”と”存在感”を同時に演じていかなければならないという宿命が、声を演じる人たちの上にのしかかっているはずである。これは、とても大変な仕事だと思う。その想いと存在感が両立したときに、はじめてそのキャラクターが生きてくるからだ。

●はたして「天空の城ラピュタ」ではどうだったのだろうか?

●それはぼくが書くまでもなく、映画をみていただければ、おわかりのはずである。じつに見事に”キマッタ”と思う。

●ロマンアルバムという単行本のための取材で、ぼくは「ラピュタ」の3日間のアフレコのあいだ、東京テレビセンターにほとんどぴったりはりつける、という幸運に恵まれた。詳しくは、ロマンアルバムに掲載されるそのレポートを読んでいただくとして、参考までに、いくつかのことをメモしておきたい。

●アフレコは、6月28日(土)、7月5日(土)、7日(日)の3日間だった。初日の午前中は、出演者全員そろって、オールラッシュを見る。台本片手に見ていた出演者の方々が、いつの間にか、台本から目を離して、映画にひきずりこまれている。台所で料理をするシータのところへ、海賊たちが次から次へと入って来るところは、大爆笑!だった。

●初日の午後は、まずパズー・田中真弓、シータ・横沢啓子のおふたりだけに、録音する。演技のポイントは、オーバーアクト、つまり役を作り過ぎないように、ということだった。自然な少年らしさ、少女らしさを演ずることが、どんなに大変なことか。

●7月5日、6日は一転して、出演者勢ぞろい。永井一郎さんをはじめ芸達者がそろい、自然とアフレコは盛りあがる。そのなかで、ムスカ役の田中農さんだけが淡々としているのが印象的。圧巻はなんといってもドーラ役の初井言榮さんで、ガラス越しに聞いている宮崎さんも思わず笑い出してしまうほど。ドーラには、おそらく”あんな年になっても元気なバアさんがいたら、世の中は平和になるだろう”という宮崎さんの強烈な想いが託されているにちがいない。

●最終日の最後に登場したのがボムじいさん役の常田富士男さんだった。ヒョウ然と現われ、ヒョウヒョウと語り、そしてまた去った、という感じで、アフレコは静かな幕切れをむかえたのだった。

片桐卓也

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

空から降ってきた少女
雲間から月光が射す夜、定期飛行船が空中海賊ドーラ一味に襲撃された。その時、飛行船の中で怪しい男たちに捕らえられていた少女シータは、船外へと飛びだし夜の闇に消えた。

地上の鉱山町、スラック渓谷に住む見習い機械工パズーは、光と共に空から降ってきた少女を助ける。翌朝、パズーの家で目を覚ましたシータに、彼は、死んだ父親が見たという伝説の空中の浮き島”ラピュタ”の話をした。いつか父の話を証明したいと願うパズー。

そこへシータのペンダントを狙うドーラたちが乗り込んできた。機関車にとび乗り、逃げるパズーたち。そこに現われた国防軍の装甲列車。シータを捕らえていた怪しい男たちだ。追っ手の発砲で崩れる橋から、深い谷底へと投げだされるふたり。だがその時、不思議なことが起こった。シータのペンダントが光を放ち始めると、ふたりの体は、空中に浮いていたのだ。

 

飛行石の謎
深い廃坑の底に降り立ったふたりは、そこで鉱山の石の専門家、ボムじいさんに会う。彼はシータのペンダントを見て、それはラピュタの技術だけが可能にする、飛行石の結晶だと言った。

廃坑を出たふたりは、追ってきた国防軍の男たちに捕らえられ、ティディス要塞へと連行された。そこでシータは、政府の調査機関のムスカに、地上のものでない壊れたロボットを見せられる。彼はシータの「リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ」という本名、彼女がラピュタの王位継承者であることまで知っていた。そして、パズーの命と引き換えに”ラピュタ”の位置を示す呪文を教えるよう迫るのだった。そうとは知らず、追い返されるパズー。家には海賊たちが陣どり、ティディスを襲撃しようとしていた。シータの言葉が実は、自分を救うためだということに気づいたパズーは、海賊たちとともに出撃する。

 

竜の巣
捕らえられシータが、幼い頃、おばあちゃんに教わった”われを助けよ、光よ、甦れ!”という呪文を唱えると、ペンダントが強烈な光を発した。すると壊れたはずのロボットが動き、シータを救うかのように要塞を破壊しはじめた。城の塔に出るとペンダントの光は天の一点を指した。混乱の中、パズーと海賊たちは、ついにシータを救い出したが、ペンダントを失ってしまった。それを手に入れたムスカは、ラピュタを目ざし空中戦艦ゴリアテを出動させた。そしてシータとパズーも海賊たちのタイガーモス号でラピュタへと向かう。途中、ゴリアテに遭遇し攻撃を受けたため、パズーたちは凧で偵察に出るが、ラピュタを取り巻く環境の中で、タイガーモス号と離れてしまう。どうにか嵐を抜けた凧は緑の草地に着地する。そこは、あのロボットが守る、緑に囲まれた、天空の城ラピュタだった。

 

天空の城ラピュタ エンディングテーマ 君をのせて
城の中心には巨大な樹が茂り、ラピュタの墓標を見守っていた。突然、爆発音が響く。ゴリアテと、捕らえられたタイガーモス号がラピュタに着船したのだ。財宝を発見し、狂喜する将軍たち。それを尻目にラピュタを調査するムスカ。パズーたちはペンダントを取り戻そうとするが、逆にシータが捕まってしまった。ムスカはシータを連れ、城の奥へ。そこには巨大な飛行石が輝いていた。自分のラピュラ人の末裔だと言うムスカは、ラピュラの地上を一瞬に焼き尽くす強大な力を手中に収め、将軍や兵士たちを殺害する。ムスカのスキをついてペンダントを取り返したシータは、単身、救出に来たパズーとともに滅びに呪文を唱えた。ほとばしる閃光の中、崩壊していくラピュタ。脱出するドーラたち。巨大な樹だけとなったラピュタが飛行石を抱えて天に昇っていく。茫然としたドーラたちの目に何かが映った。パズーとシータが乗った凧がゆっくりと滑空してきた。

(ストーリー解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

《LP盤特典》
ジャケット特典/パズーとシータの複製セル画

天空の城ラピュタ ドラマ編 LP

(LPジャケット)

 

天空の城ラピュタ ドラマ編

DISC 1
1. 空から降ってきた少女
2. 飛行石の謎

DISC 2
1. 竜の巣
2. 天空の城ラピュタ
3. 君をのせて〜エンディングテーマ〜

 

Disc. 久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎』

久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック』

1986年8月15日 LP発売 25AGL-3025
1986年8月15日 CT発売 25AGC-2025
1986年9月25日 CD発売 32ATC-115
1993年12月21日 CD発売 TKCA-70227
2004年8月25日 CD発売 TKCA-72721
2018年11月3日 LP発売 TJJA-10012

 

1986年公開 スタジオジブリ作品 映画「天空の城ラピュタ」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

映画本編で使用されたBGMを収めたサントラ盤。挿入歌「君をのせて」も収録。「ラピュタ」は4chドルビーステレオを初めて採用した宮崎作品であり、音楽もそれにふさわしく、壮大なスケールの内容になった。1986年6~7月にかけて制作。

このアルバムのCDは、LP発売後1ヶ月少々経ってから新ジャケットで発売された。 ※下部ジャケット写真はCDデザイン

 

 

LAPUTA STUDIO MEMO

●6月20日(金)オールラッシュフィルム(セリフや音楽のない状態で編集されたフィルム)がほぼ完成。小雨が降り続く、深夜の東京・吉祥寺東映に関係スタッフを集めて映写された。映像のクオリティの高さに、一同息をのむ。

●6月23日(月)『ラピュタ』の制作をしている、スタジオジブリの近くにある喫茶店でBGMの本格的な打ちあわせ。3月に制作したイメージアルバム『空から降ってきた少女』をもとに、監督の宮崎駿さん、プロデューサーの高畑勲さん、音楽の久石譲さんが互いに意見を出し合って決めていく。1曲目からたちまち熱のこもった議論に。シータが捕らわれている飛行船に、海賊たちのフラップターが急襲するシーンに、音楽をつけるのかどうか、それはどんな曲か。熱論2時間、結局この曲は最後にもう一度話し合うことになった。午後4時から場所をジブリ第2スタジオ(実は仮眠室)に移して、深夜まで打ちあわせが行われた。

●6月24日(火)久石さんのワンダーステーション(スタジオ)にてレコーディング開始。「今回は徹底して絵の動きと音楽の流れを合わせることにこだわりたい」と久石さん。ラッシュフィルムのビデオをもとに、絵の動きのポイントの秒数を正確にチェック。『フェアライトIII』というスーパーシンセサイザーにデータを入れて、ベースとなるリズム体を作っていく。タイガーモス号の見張台にいるパズーとシータの曲からスタート。

●7月2日(水)連日徹夜の日が続く。海賊たちとスラッグ渓谷の親方との力くらべのシーンの曲を録る。絵のユーモラスな動きと完全に一致した曲に。楽しいシーンになりそう。

●7月7日(月)作品の最後に流れるテーマ曲『君をのせて』のボーカル録り。イメージアルバムの曲『シータとパズー』のメロディを生かした曲。作詩も宮崎さんとあって、作品にぴったり合ったテーマ曲に。井上杏美のそんだ越えがスタジオに響く。

●7月8日(火)日活スタジオでオーケストラ部分の録り。録るシーンごとに絵をスクリーンに映し、見て感じをつかんでもらってから、レコーディング開始。日活スタジオはじまって以来という総勢50名近くの大編成オーケストラの響きはさすが!

●7月10日(水)クライマックスで使用される児童合唱を録る。『ナウシカ』では4歳の女の子の歌った曲が話題になったが、今回は、杉並児童合唱団の30人の女の子を起用。3声にアレンジされた『シータとパズー』のメロディを歌う。

●7月12日(土)それぞれに録った音をひとつにまとめ上げる作業、トラックダウンを行う。最後まで課題として残っていた、作品の冒頭、フラップターの急襲シーンの曲を入れることに決定。あとはセリフや効果音とのダビング作業を待つばかりとなる。公開まであと1ヵ月弱、『ラピュタ』は4チャンネルドルビーサウンドで公開される。迫力あるラピュタサウンドが楽しめるはずだ。

●『ナウシカ』のサントラ盤を出した時、もう一度『ナウシカ』に、宮崎駿さんに会いたいと書いた。そして今、こうして『ラピュタ』のサントラをお届けできることを大変うれしく思う。あれから2年、自然と人間の調和の中に人間の未来を指し示した『ナウシカ』の叫びが起こした、様々な反響とは裏腹に世相はますます荒れすさんでいくように思える。「おとなから子どもまで、けなげにも非人間的なデジタル的なものにむりやり適応しようと涙ぐましい努力をしている現在、あらゆる面でアナログ的なものこそ人間的であると信じ、徹底してその復権を作品世界の中でめざす熱血漢・宮崎駿の、これは現代人全体への友愛の物語」(企画書の高畑さんの文章より)。という、『ラピュタ』のコンセプトは、このアルバムにも生かされている。そのサウンドに心安らぎ、胸ときめかせてほしい。 (渡辺)

(ラピュタ・スタジオ・メモ ~CDライナーノーツより)

 

 

天空の城ラピュタ LP 復刻

(LPジャケット)

 

 

「君をのせて」井上あずみ

1998年3月25日 CDS発売 10ATC-162

天空の城ラピュタ 君をのせて

(CDSジャケット)

 

1.君をのせて /井上あずみ
2.合唱 君をのせて /杉並児童合唱団

 

 

以降、Track.3に「君をのせて(カラオケ)」が追加収録されている。

2000年4月26日 CDS発売 TKDA-71925

(CDSジャケット)

 

1.君をのせて /井上あずみ
2.合唱 君をのせて /杉並児童合唱団
3.君をのせて (カラオケ)

 

 

2004年にはマキシシングルとして再発売されている。

2004年10月27日 CDS発売 TKCA-72755

(CDSジャケット / CD盤)

 

1.君をのせて /井上あずみ
2.合唱 君をのせて /杉並児童合唱団
3.君をのせて (カラオケ)

 

 

 

映画「風の谷のナウシカ」から「魔女の宅急便」までの主題歌・挿入歌を集めたオムニバスCDには、歌曲版とカラオケ版が各楽曲収録されている。

Disc. V.A. 『アニメージュ・ヒットソング ヴォーカル&カラオケ』

 

 

 

「そうなんです。明るくて、しかも胸にジーンとくるような良さを持った曲というのは、なかなか作れませんからね。しかし、今回はそれにどうしても挑まなければならなかったと思います。それと、音とイメージは、あくまでもアコースティックにいこうと、はじめから考えました。『アリオン』の場合は、音のサンプルの数がひじょうに多かったわけで、この『ラピュタ』ではむしろシンプルなアコースティックの音が中心になっています」

「ただ密度そのものはかなり濃いんです。というのは、実際に映画用の音楽を書くまえに、イメージアルバム(『空から降ってきた少女』)を作っているでしょう。だから、高畑さんの頭にも、ぼくの頭にも、そのイメージアルバムのメロディが鳴っているわけです。たとえばこのシーンではあのテーマ、あのシーンには別のテーマ、というように、きわめて具体性があるんですね。おたがいにそのメロディを鳴らしながら、打ちあわせをしていくわけです。たぶんこんなことは、他の誰もやっていないでしょう。それだけレベルの高い打ちあわせなわけです。だから『ラピュタ』の音楽は、いわば二段階をへて書かれていったわけですね」

Blog. 久石譲 「天空の城ラピュタ」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「例えば敵方と味方が交互に現れても、それぞれの音楽がピタッピタッと合う。この方法は昔ディズニーもやっているんですけど、冒頭の殴り合いのシーンではボカッと殴る時にオーケストラの音が合っているんですね。かなり時間がかかりましたが、『──ラピュタ』のように映画音楽で、あくまでも音楽を画面に連動させるのは日本映画で初めてできたことだと思うんです。」

「でも、いくつか使えない音楽もあったんです。例えばフラップターという飛行機の音楽は普通に考えると、パタパタッと飛んでいかにも明るいイメージなんですけど、映画の中でフラップターが出てくるところは、ほとんど危機一髪、助かるか助からないかというシーンですからイメージアルバムのフラップターのテーマは使えなくなってしまうわけです。そうした場合はイメージアルバムと映画の音は違うんです。ただし天空の城の音楽とか根本的なところはほとんど変わりませんでした。いきなり作曲家がメロディを書くのであれば、お互い抽象的な話しかできないでしょう。それが、例えばパズーのテーマを決める時に、「この曲の頭に、もっとインパクトの強い音があった方がパズーの気持ちがもっと雄大になるんじゃないか」と、そこまで話した上で録音に入っているんで、日本映画の音楽ではかなり緻細な仕事をしたと思います。」

Blog. 「月刊 イメージフォーラム 1986年10月号 No.73」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「天空の城ラピュタ」の「君をのせて」は、最初、久石譲さんが歌われたデモテープを聴かせていただいたんですが、温かくて広がりのあるすてきな歌だと思いました。オーディションだったので、「絶対この曲を歌いたい!」って心から願いました。レコーディングのとき、宮崎駿監督に「自由に歌ってください」と言っていただいたことで気持ちが楽になったのを覚えています。完成披露試写会で作品を見たんですけど、どこで流れるのかを知らされてなくて、いつまでたっても流れてこないので、「使われなかったのかな…」って思っていたらエンディングで流れてきたんですよ。映画の感動もあって、号泣しました。

Blog. 「別冊カドカワ 総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(2008) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

久石譲の会心作

『ナウシカ』のケースと同じく、本作の音楽担当も当初は久石譲ではなかった。久石は『ナウシカ』のスコアで各界の絶賛を浴び、澤井信一郎監督の『Wの悲劇』(84年)『早春物語』(85年)、蔵原惟繕監督の『春の鐘』(85年)など多くの映画で音楽を担当していた。『ラピュタ』準備中には、86年4月公開の映画『アリオン』(安彦良和監督)を手掛けており、『ラピュタ』を担当することは実質的に不可能と思われた。しかし、宮崎はあくまで久石を希望した。久石は宮崎の信頼に応え、86年2月までに『ラピュタ』を担当することを決断した。宮崎・高畑が久石に伝えたコンセプトは「子供たちに向けて今何を残さなければならないか」。宮崎の構想に久石は、アイルランド民謡の持つ五音音階の素朴な響きを重ね見て「イメージアルバム」の作曲に臨んだ。そこには次のような決意があった。「僕にとって是が非でも素晴らしい作品を創らねばならないという無言のプレッシャーが、録音の最中、毎日襲って来ました」

「イメージアルバム」のトラック・ダウンはロンドンで行われた。模索状態であった『ナウシカ』の「イメージアルバム」には劇中で使用されない曲もあった。しかし、より高い完成度を目指した『ラピュタ』では、無駄な曲はひとつもなかった。効果音的構成の「竜の巣」を除き、全曲がアレンジされて劇中で活用された。

『ナウシカ』同様、「イメージアルバム」に続いて「シンフォニー編」 も制作された。久石の構想は当初からフルオーケストラによる演奏が主軸であった。演奏は東京シティフィルハーモニックオーケストラの総勢60名、録音は85年10月25日、26日の2日間で行われた。「イメージアルバム」の各曲はスケールアップされ、大作にふさわしい仕上がりとなっていた。

そして、本番用音楽の作成が開始された。久石はシーンと音楽の完全な一体化を心がけ、初めて0.1秒単位の緻密な音楽設計に挑戦した。この結果、鉱山町での大喧嘩、軽便鉄道の追っかけ、要塞からのシータの救出など、長いシーンに途切れることのない音楽を作り上げた。特にシータ救出のくだりは、フラップターで疾駆するパズーとドーラー家、ロボット兵とシータ、ムスカと軍という三者三様の異なるモチーフを場面毎に切り替えて作曲し、見事に作品を盛り立てている。輝く飛行石のキャラキャラ…というシンセサイザーの効果音混じりの音楽、ラピュタ崩壊時に流れる杉並児童合唱団の少女30人による「パズーとシータ」も印象深い。

一方、久石・宮崎・高畑の間で解釈が異なり、議論で衝突したシーンもあった。まず、導入部の旅客船襲撃シーンについて、高畑は音楽なしを提案したが、久石は「入れたい」と希望。結局入れることに決まり、ギリギリの7月中旬に曲が書かれた。これとは逆に、ムスカがドームから軍の兵士を落下させる残酷なシーンについては、宮崎から「音楽を」と要請があったが、久石が「残酷さが強調された方が、シータとパズーの優しさや人間愛が胸を打つ」と音楽ナシを主張し、これが通った。ラピュタ崩壊シーンで流れる少女の合唱についても、高畑は「途中で止めるべき」、宮崎は「流し続けたい」と論議があったというが、高畑案が通ったようだ。

総じて本作の音楽は、久石が「これ以上のものは出来ない」と自画自賛するほどの出来栄えであった。

本編には主題歌は使われない予定であった。しかし、高畑は、観終わった観客に「宝を求めて行ったんだけれど、宝は手に入らなかった。かわりに何を手に入れたんだろう…」と和やかな気持ちで映画を反芻してもらいたい、そのためには歌があった方がいいのではないかと提案。急遽、高畑日く「映画全体と有機的に結びついた」主題歌制作が決定した。

高畑は宮崎に作詞を要請。曲は、「イメージアルバム」収録の「パズーとシータ」を元に中盤のサビを加えるよう久石に依頼した。高畑は久石と共に、メロディに合わせて助詞を添削してこれを補作し、主題歌「君をのせて」が出来上がった。レコーディングは86年7月7日であった。余りにもギリギリに完成したため、公開時にはシングルレコード発売は間に合わず、「サウンドトラック」に収録される形となった。

 

(書籍「宮崎駿全書」より 抜粋)

*以後のUSA盤サウンドトラックについての記述は省略

 

 

 

久石:
「ナウシカ」をやった直後に同じ徳間で「アリオン」ってアニメーション大作やったんですよ。その音楽を担当してたから、「ラピュラ」を作ってるのは知ってたけど、まあ自分はないなあと100%諦めてました。

鈴木:
当時宮崎駿には久石譲という考えはなかったですね。それはラピュタによって決定づけられるんですよ。いろんな人の作品をもう一度聴き直して、結果久石さんしかいないと。高畑さんがおもしろいこと言ったんですよ、「宮崎駿と久石譲は似てる」って。「二人とも熱血漢、すごい率直、すごい無邪気ですよ」って。意外にいなんですよ、謳いあげてくれる人って。それはいろいろ聴いてよくわかりました。

久石:
「ラピュラ」の時すごく考えてたのは、音楽的にまとめたオーケストラベースのものをできたらいいなあと。ただあの曲がメインテーマになるとは思わなかった。一応もうちょっと違ったやつを作ったはずなんですが、こういうのもあっていいやと夜の23時半ぐらいから20分ぐらいで作った曲。それで渡したら、これをメインテーマにしましょうと。あれぇ、全部ひっくり返ったぞと、そういう記憶があります。だからその「君をのせて」はメロディが先にあった曲。それに宮崎さんの言葉を当てはめていく作業。そこに足りない言葉を補っていく、これは僕と高畑さんとでやった。あの作業はとても楽しかったですよね。

鈴木:
これが主題歌になるとは思ってなかったですよね。とはいえね、宮崎のメモは大きいんですよ。あの地平線~ でしょ。高畑さんに言われてなるほどと思ったのはね、「わかります?鈴木さん。あの地平線、要するに目線がもう空にいる」って。多くの人は地上から空を見上げる。ところが宮さんの詩は、もう自分が空の上にいてそれで語ってる、それを中心にすれば歌になりますよって。なるほどおと思ってね。

久石:
「たくさんの灯が」っていうのが、まあ普通は言わないんですよね。プロの作詞家では絶対に書けない言葉。宮崎さんの言葉にはいつもそういうのがいっぱいあって、それが曲をかたちづくってる原点にはなってます。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック』

1.空から降ってきた少女
2.スラッグ溪谷の朝
3.愉快なケンカ(~追跡)
4.ゴンドアの思い出
5.失意のパズー
6.ロボット兵(復活~救出)
7.合唱 君をのせて (合唱/杉並児童合唱団)
8.シータの決意
9.タイガーモス号にて
10.破滅への予兆
11.月光の雲海
12.天空の城ラピュタ
13.ラピュタの崩壊 (合唱/杉並児童合唱団)
14.君をのせて (歌/井上あずみ)

サウンドプロデュース・作曲・編曲・演奏:久石譲

レコーディングスタジオ:ワンダーステーション、日活スタジオセンター

 

Castle in the Sky (Original Soundtrack)

1.The Girl Who Fell From the Sky
2.Morning in the Slag Ravine
3.A Rowdy Brawl (- Pursuit) 
4.Memories of Gondoa
5.Discouraged Pazu
6.Robot Soldier (Resurrection – Rescue) 
7.Carrying You – Chorus Version
8.Sheeta’s Decision
9.On The Tiger Moth
10.An Omen to Ruin
11.A Sea of Clouds in the Moonlight
12.Castle in the Sky
13.Destruction of Laputa
14.Carrying You

 

Le Chateau Dans Le Ciel
(France, 2003) 9102424

1.La Jeune Fille Tombée du Ciel
2.Un Matin Dans la Mine
3.Poursuite
4.Mémoires De Gondoa
5.Pazu Découragé
6.Le Robot-Soldat (Résurrection & Sauvetage) 
7.Tandis Qu’elle T’emporte  (par le Choeur des Enfants de Suginami)
8.La Décision De Sheeta
9.A Bord Du “Tigre Papillon”
10.Le Présage Des Ruines
11.La Mer Des Nuages Eclairée Par La Lune
12.Le Château Dans Le Ciel
13.L’Effondrement de Laputa  (par le Choeur des Enfants de Suginami)
14.Tandis Qu’elle T’emporte  (par Azumi Inoue)

 

천공의 성 라퓨타 Original Soundtrack
(South Korea, 2004) PCKD 20162

1.하늘에서 떨어진 소녀 
2.슬래그 계곡의 아침 
3.유쾌한 소동 (~추적) 
4.곤도아의 추억 
5.실의에 빠진 파즈 
6.로봇 병사(부활~구출) 
7.합창 너를 태우고 (합창/스기나미 아동합창단) 
8.시터의 결의 
9.타이거모스호에서 
10.파멸의 조짐 
11.월광의 운해 
12.천공의 성 라퓨타 
13.라퓨터의 붕괴 (합창/스기나미 아동합창단) 
14.너를 태우고 (노래/이노우에 아즈미)

 

Disc. 久石譲 『天空の城ラピュタ イメージアルバム 空から降ってきた少女』

久石譲 『天空の城ラピュタ イメージアルバム 空から降ってきた少女』

1986年5月25日 LP発売 25AGL-3024
1986年5月25日 CT発売 25AGC-2024
1986年5月25日 CD発売 32ATC-113
1993年12月21日 CD発売 TKCA-70226
2004年8月25日 CD発売 TKCA-72720
2018年11月3日 LP発売 TJJA-10011

 

1986年公開 スタジオジブリ作品 映画「天空の城ラピュタ」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

監督・宮崎駿、プロデューサー・高畑勲の伝えるイメージをもとに、サントラにさきがけて録音されたイメージアルバム。1986年3月に制作され、久石は最終仕上げをロンドンで行っている。サントラとはまた一味違う楽しさが感じられるアルバム。

このアルバムは、LPと共にCDも同時発売されたが、CDのジャケットは異なっている。 ※下部ジャケット写真はCDデザイン

 

 

再会

「天空の城ラピュタ」映画化にさきがけてのイメージアルバムを制作するにあたり、宮崎・高畑両氏から、この作品のトータルコンセプトは、私達おとながこれからの子供達に向けて、”今何を残さなければならないか”という事でした。

この壮大な宮崎氏のイメージに対して、僕なりにイメージをさらに拡げる為に、最終仕上げをロンドンのスタジオで行いました。その結果それぞれの曲が、明るく生き生きとしたものになったと思います。

「風の谷のナウシカ」で宮崎・高畑両氏と出会い今回この作品で両氏と再会できた嬉しい反面、僕にとって是が非でも素晴らしい作品を創らねばならないという無言のプレッシャーが、録音の最中毎日、襲ってきました。

それらは、録音当初毎日のように襲ってきたのですが、日を追うごとに曲想がはっきりしてきだし、それぞれのキャラクターに音楽で色を付けるという作業が、スムーズに運び出しました。

素朴さ、壮大なひろがり、激しく、または優しさを持った、ハッキリとしたメロディラインを組み上げていき、僕の代表作品になるものが、出来たと思っています。

このアルバムのマスターテープを聞きながら、録音作業を振返ってみると、苦しかった分だけ、充実感に満たされて、今回の仕事を通じて、何かを得たような気がしています。

久石譲

(再会 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

天空の城ラピュタ イメージアルバム LP

(LPジャケット)

 

久石譲 『天空の城ラピュタ イメージアルバム 空から降ってきた少女』

1. 天空の城ラピュタ
2. ハトと少年
3. 鉱夫
4. 飛行石
5. ドーラ
6. シータとパズー
7. 大樹
8. フラップター
9. 竜の穴
10. ティディスの要塞
11. シータとパズー
12. 失われた楽園

Produced by Joe Hisaishi

All Song Written & Played by Joe Hisaishi

Recorded at Wonder Station, Nikkatsu Studio Center

Mixed at #1 Air Studio London

Mixed Engineers
Steve Jackson
Masayoshi Ohkawa

Recording Engineer
Atsushi Kaji

Assisted Engineer
Suminobu Hamada (Wonder Station)
Richard Moakes (Air Studio)

Synthesizer Operation
Yasuko Fukuoka

Addition/Musicians
Nakanishi Strings
Takashi Tsunoda
Shin Kazuhara
Takafumi Suzuki
Asuka Kaneko

 

Laputa: Castle in the Sky Image Album -The Girl Who Fell from the Sky-

1.Castle in the Sky
2.Doves and the Boy
3.The Miners
4.The Levitation Crystal
5.Dola
6.Sheeta and Pazu (Part.1)
7.The Eternal Tree of Life
8.Flapter
9.The Dragon’s Den
10.Titus’ Fort
11.Sheeta and Pazu (Part.2)
12.The Lost Paradise

 

Disc. 東海林修 『DIGITAL TRIP 1800 アリオン』

1986年5月21日 LP発売 CX-7276
1986年5月21日 CT発売 CAY-786
1993年10月21日 CD発売 COCC-11077
2001年10月21日 CD発売 COR-11077

 

1986年公開 映画「アリオン」
監督:安彦良和 音楽:久石譲

 

 

楽曲解説

1.地底王ハデス
アリオンをだましゼウス転覆を計るが、アリオンに気付かれ殺される王のテーマで、何度も現われますが、ドラマの展開を期待させるいい出だしです。シンセのたのしみのシーケンサーでかっこよくスタートです。はじめにきかれる笛のような響はデジタル・サンプリングしたものです。

2.セネカ
アリオンを慕う先住民の子セネカのテーマですが、思いきってテレビ・ゲームの音を使ってみました。大いに論の分かれるところかもしれません。じつは私の機材でもオリジナルとそっくり同じことが出来ます。また作り方も手に取るようにわかりますが、コピーを作っても全く無意味なので、こんな手段をとったわけで、このアルバムで最も苦労した点のひとつです。

3.アリオン
刺客として育てられたティターン族の少年のテーマらしく、大変スリルに満ちた感じを久しぶりにホワイト・ノイズのパーカッションでいきいきと描いてみました。フランジャーなど暫く使わなかったエフェクターも新鮮に響きました。

4.メインテーマ
大変詩的な美しいテーマです。アルペジオを左右に配し立体感をだしました。さらに、デジタルのドラムでリズムをつくれば当たり前で面白みに欠けるので、シンセサイザーらしいリズムセクションで飾ることにしました。

5.戦闘
ほんの少し、私なりの解釈でテーマの品位を傷つけないよう注意をしながら長めにしました。すさまじい争いの表現が見事な曲です。

6.レスフィーナ
私はこの曲がたいへん気にいってますし、オリジナルの音色演奏とも立派ですが、ここでは私なりの音選びをしました。これからはマニピュレーター評価の重要なポイントになっていくと考えられますのでとても神経をつかう場面が多いのが実情です。ともあれ、ゼウスによって秘力を封じられたレスフィーナの美しさが伝わると嬉しいと思います。

7.想い
アカペラで歌われたテーマですが、ここでもシンセサイザーアルバムらしくいまは少しばかり懐かしい感じのテクノ・ポップ風に仕立て直しをしてみましたが、少し高域を抑え賛美歌調の雰囲気を大切にしました。

8.プロメテウス~海蝕洞
黒の獅子王ながらアリオンを助け導く謎の味方らしく、抑えた感じにミステリアスな気分も加わった旋律。シンセサイザーで表現すると、なにやらエスニックな感じが強調され不思議な気分です。

9.ポセイドン
七つの海を制す王、ポセイドンらしくスケールの大きな曲です。もっとも電子楽器の得意とする分野でしょうか。

10.初陣
オリジナルは勇ましい戦場の様子がいきいきと表現されていて、ティンパニが轟き、ブラスが輝かしく響いています。ここではシンセサイザー・パーカッションですから、大いに頑張ってみました。それぞれの個性が楽しめると思います。

11.ハデス
サントラもこの辺りになると、オケも良く鳴りだし、立派な演奏になっています。ティターン三兄弟の長兄で、暗い地底の王らしく響かせるよう、懸命の努力を重ねました。

12.ポセイドンの死
最もシンセサイザーでの表現が楽しみな感じの曲で、このような曲ばかりだといいのですが。ともあれこの中で使ったドラムはとても満足しています。

13.オリンポスへ
スケールの大きなテーマで、よく扱われる題材ですが、見事に描かれています。そこで私も、二つのタイプを作り慎重に比較した結果、少し控え目のほうを採用しました。

14.テュポーン
古世代の巨大な翼龍テュポーン。アソス山に住むこの怪獣、素材としてとても興味深く音楽表現も楽しみで、ひびきもいきいきしています。オリジナルにはスネア・ドラムは聞けませんでしたが、ここではよりポップにリズミックに変えてあります。

15.アポロン
野望に燃えるアポロンにしては控え目な曲ですが、たいへん奥の深い民族色豊かな表現がなされています。ここではアップル・コンピュータでつくりだした、ギターにもハープにも聴ける音色を左に、シンセサイズしたリバーブを右に配して全く別の世界を作ってみました。リズム・セクションは慎重を期しましたが、カーツウェルのベースは、なかなか味わいがあって、びっくりしました。

16.ペガサスの少女
作家の異なる作品で少しばかり雰囲気が変わります。型通りのしっかりしたポップス調。テクノの感じが使って、私なりの衣変えを施しておきました。

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

(LPジャケット)

 

 

Digital Trip 1800 アリオン

1. 地底王ハデス
2. セネカ
3. アリオン
4. メインテーマ
5. 戦闘
6. レスフィーナ
7. 想い
8. プロメテウス~海触洞
9. ポセイドン
10. 初陣
11. ハデス
12. ポセイドンの死
13. オリンポスへ
14. テュポーン
15. アポロン
16. ペガサスの少女

作曲:久石譲 (1-15) 林哲司 (16)
編曲:東海林修

シンセサイザー:東海林修

 

Disc. 久石譲 『交響組曲 「アリオン」』

久石譲 『交響組曲「アリオン」』

1986年4月25日 CD発売 32ATC-112
1986年4月25日 LP発売 25AGL-3023
1986年4月25日 CT発売 25AGC-2023
1996年1月25日 CD発売 TKCA-70800

 

1986年公開 映画「アリオン」
監督:安彦良和 音楽:久石譲

 

シンフォニーで奏でる壮大な「アリオン」ワールド!
80’Sアニメブームの人気キャラクターたちを描いた人気アニメーター安彦良和
初監督作品「アリオン」を久石譲が壮大な交響組曲で再現!

 

 

音楽解説

この交響組曲「アリオン」のきき方はふたつある。ひとつはここでの久石譲の音楽のうちに「アリオン」のドラマを感じとりながらきくきき方である。もうひとつは、映画「アリオン」のことを考えずに、独立した音楽としてきくきき方である。もし、映画「アリオン」を見ている人にしか、この音楽が楽しめないということであれば、交響組曲「アリオン」は、音楽作品として自立していない、映画「アリオン」に従属したものということになる。しかし、ここできける音楽は、たとえ映画を見ていない人にも、充分に楽しめる。それというのも、この音楽が音楽として、奥行きの深い、しかも魅力にみちたものだからである。

交響曲の多くは4楽章で構成されるが、交響組曲の楽章数は、ここでのように4楽章をこえるものも少なくない。交響組曲「アリオン」は、それぞれの楽章がすこぶる個性的な音楽による6つの楽章でなりたっている。

第1楽章をきいたききては、この音楽の作曲者である久石譲が、その若き日に、フィリップ・グラス、テリー・ライリー、あるいはスティーブ・ライヒといったような作曲家によるミニマル・ミュージックに強い影響を受けたことを思い出すかもしれない。そして、同時に、ここで久石譲は、シンフォニー・オーケストラならではの、まさにシンフォニックな表現力を十全にいかして、スケールの大きい音楽を展開している。

つづく第2楽章では、打楽器を積極的に用いて、リズム的な楽しさを充分に味わわせてくれる主部と、フルートの響きを有効にいかして、抒情的な音楽をきかせる中間部との対比が、効果的である。

第3楽章は、ミステリアスな雰囲気をたたえながら、しかも推進力にとんだ音楽によって、開始されている。この音楽のあきらかにしている緊迫感は、ききてをひきつけずにはおかないものである。つづく中間部では、ほの暗い抒情性が示された後に、さらに冒頭の部分が再現して、第3楽章はしめくくられている。

第4楽章では、静かなピアノのモノローグをきくことができる。この交響組曲「アリオン」のなかで、久石譲のメロディー・メイカーとしての本領がもっともストレートに発揮された部分ともいえるであろう。

第5楽章では、ブラスの力強い吹奏がフィーチャーされていて、勇壮な音楽が展開されている。しかし、ここでは、ブラスの力にみちた響きを弦楽器が支えているために音楽としての厚みがましていることに、注意するべきであろう。

しめくくりの第6楽章は、さまざまな性格の音楽を巧みに構成して、変化にとんだ音楽となっている。この壮大な交響組曲にふさわしい華やかさにみちた、フィナーレらしい音楽によっていて、とりわけ最後のもりあがりは素晴らしい。

黒田恭一

(’86年リリース オリジナル・ライナーノーツより転載)

(CDライナーノーツより)

 

 

(LPジャケット)

 

 

久石譲 『交響組曲「アリオン」』

1. 第一章
2. 第二章
3. 第三章
4. 第四章〈レスフィーナの唄〉
5. 第五章
6. 第六章

プロデューサー:久石譲

作曲:久石譲
指揮:中谷勝昭
演奏:久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団

録音スタジオ:アバコクリエイティヴスタジオ

 

Disc. CHAGE and ASKA 『TURNING POINT』

1986年4月21日 CD発売 YCCR-00026

 

チャゲ&飛鳥(CHAGE and ASKA)7枚目のオリジナルアルバム。

久石譲が編曲を担当した2楽曲「キューピッドはタップ・ダンス」「ショート・ショート」が収録されている。なお同楽曲はKeybordsとしても参加している。

 

chage and aska turning point

1.モーニングムーン
作詞・作曲:飛鳥涼 編曲:佐藤準
2.砂漠のイリュージョン
作詞・作曲:飛鳥涼 編曲:瀬尾一三
3.キャンディー・ラブになり過ぎて
作詞:澤地隆 作曲:CHAGE 編曲:瀬尾一三
4.キューピッドはタップ・ダンス
作詞:澤地隆 作曲:CHAGE 編曲:久石譲
5.Key word
作詞・作曲:飛鳥涼 編曲:栗原正己
6.ロンリー・ガール
作詞・作曲:飛鳥涼 編曲:栗原正己
7.ショート・ショート
作詞:澤地隆 作曲:CHAGE 編曲:久石譲
8.HIDARIMEが感じてる
作詞:澤地隆 作曲:CHAGE 編曲:村上啓介
9.くぐりぬけて見れば
作詞・作曲:飛鳥涼 編曲:瀬尾一三
10.TURNING POINT
作詞・作曲:飛鳥涼 編曲:飛鳥涼・村上啓介・矢賀部竜成

 

Disc. 久石譲 『アリオン サウンドトラック -青春の彷徨-』

久石譲 『アリオン サウンドトラック』

1986年3月25日 CD発売 32ATC-111
1986年3月25日 LP発売 25AGL-3020
1986年3月25日 CT発売 25AGC-2020
1996年1月25日 CD発売 TKCA-70799

 

1986年公開 映画「アリオン」
監督:安彦良和 音楽:久石譲

80’アニメブームの人気キャラクターたちを数多く生み出した人気アニメーター安彦良和初監督作品・劇場用アニメーション映画「アリオン」(1986年公開)オリジナルサウンドトラック盤。主題歌「ペガサスの少女」を含むオリジナルBGM全14曲収録。

 

絵と音楽のせめぎあい

「アリオン」の音楽制作の作業で一番印象的だったのは、トラックダウン(別々に録った音をまとめあげていく作業)に初めて立ち合ったことでした。今まで全く知らなかった部分での、いわば「専門家のノリ」というものをみて、「ああ、こんな感じで音をつくっているのか」と新鮮でした。単なる音の出し入れ以上に「音のコラージュ」というか、まぎれもなく「音を創っている」という感じがしました。

こうして出来上がってくる音と、ラッシュフィルムのビデオを合わせてみると「ムムムッ」という感じ。絵と音のなわばりのせめぎあい。ある部分「負けるもんか!」と思わず張りあってしまいような迫力があるのです。そんなスリリングな気分を感じて、絵と音のどちらかがまずあって、というのではなく、セリフ、音楽、効果音と絵が混然一体となってせめぎあったところに作品がある。それを間のあたりにして「映像を創る」ということを改めて認識したものです。

そんな意味で、久石譲さんという方は非常に良いパートナーでした。音楽作家としてこんなに密度の高いコミュニケーションができるとは思いませんでした。こちらの音楽への要求を聞いてくれた上で、さらに「こんな音は?」という新たな提案をしてくれる。出来てきた音楽は、しっかり「アリオン」を支えてくれながら、まぎれもなく久石さんの音になっているのです。いい仕事ができるってこういうこと、とそんな気がします。

実は、商品製作の都合から音楽を少々カットせざるをえなかったところがあります。大変残念なのですが、このレコードでそれを少しでも補って鑑賞していただければと思っています。

(昭和61年1月23日 日本サンライズにてインタビュー)

原作・監督 安彦良和

(CDライナーノーツ より)

 

 

風音のロマン

昨年の12月20日からレコーディングがスタート、お正月の3が日以外はほとんど録音という、超ハードスケジュール。でもこれほど充実した1か月もなかった。

12月31日の大みそか!に届いたラッシュフィルムをもとに、安彦監督の映像の持つダイナミズムには、エスニックなリズムをベースに置くと不思議な効果があるのではないかと感じ、フェアライトCMIという最先端?のサウンド(主にエスニックな打楽器として)と、フルオーケストラのダイナミックなサウンド、ブラス、民族音楽の演奏家をかなり動員して、音楽を組みあげていった。

よく読むと非常にハードな内容を秘めている作品なので、以前の「ナウシカ」の時とくらべて、甘さをできるだけ押さえた、カラクチなおとなの鑑賞に耐える作品に仕上げたつもりだけど……。イメージアルバムでは「レスフィーナ」が評判が良かったらしいのですが、そんなわけで、サントラでは2か所ほどメロディが出るだけになったけれど、その分、印象的に使われていると思います。

最後に、このアルバムは、映画を離れても充分に鑑賞に耐えるようつくったつもりなので、ぜひ御愛聴ください。

(昭和61年1月29日 ワンダーステーションスタジオにてインタビュー)

音楽 久石譲

(CDライナーノーツ より)

 

 

久石譲 『アリオン サウンドトラック』

1. 地底王ハデス〜メインテーマ
2. アテナとアポロン〜セネカ
3. アリオン・メインテーマ
4. 戦闘
5. レスフィーナ〜想い(歌/高橋美紀)
6. プロメテウス〜海蝕洞
7. ポセイドン
8. 初陣
9. 宿命・ハデス〜ポセイドンの死
10. オリンポスへ
11. テュポーン
12. 大母神ガイア〜アポロン
13. レスフィーナとアリオン
14. ペガサスの少女(歌/後藤恭子)

※CDバージョンとして、「ポセイドン」を追加。「テュポーン」の冒頭部も追加されています。

「ペガサスの少女」
作詞:松本隆 作曲:林哲司 編曲:萩田光雄

 

プロデューサー:久石譲
音楽・演奏:久石譲

(アディショナル・プレイヤー)
シタール, 龍笛, ダルシマ, ブズーキ, 歌唱, ケーナ

ゲストプレイヤー:YAS-KAZ

録音スタジオ:
WONDER STATION, INC
にっかつスタジオ
一口坂スタジオ

 

Disc. 甲斐バンド 『REPEAT & FADE』

1986年3月5日 LP・CD発売
1995年12月6日 CD発売 TOCT9309
2004年10月20日 CD発売 TOCT-10965

 

甲斐バンドの12枚目のオリジナル・アルバム。4人のメンバーが、各々のプロジェクト(1人4曲ずつ)を組み構成されたアルバムで、アナログ盤12インチシングル4枚組という変則的な形態でリリースされた。

久石譲が編曲を担当した6楽曲が収録されている。

 

甲斐バンド REPEAT&FADE LP 1

甲斐バンド REPEAT&FADE LP 2

甲斐バンド REPEAT&FADE LP 3

甲斐バンド REPEAT&FADE LP 4

甲斐バンド REPEAT&FADE LP 5

(LPジャケット / LP盤 / 封入ポストカード等)

 

甲斐バンド REPEAT&FADE CD 1986盤 1

甲斐バンド REPEAT&FADE CD 1986盤 2

(CDジャケット 2枚組)

 

 

2004年には完全デジタルリマスタリング盤がCD発売されている。

 

Repeat & Fade 甲斐バンド

DISC-1
PROJECT I (N.OMORI) Guitars:大森信和
1.25時の追跡 (instrumental)
作曲:大森信和 編曲:久石 譲
2.エコーズ・オブ・ラヴ
作曲:大森信和 編曲:久石 譲
3.JOUJOOKA(ジョジョカ)
作曲:大森信和 編曲:久石 譲
4.ロマン・ホリデー
作曲:大森信和 編曲:久石 譲
PROJECT II (H.MATSUFUJI) Vocals & Guitar:松藤英男
5.O’l Night Long Cruising
作詞:辻 仁成 作曲:松藤英男 編曲:大村憲司
6.サタニック・ウーマン
作詞:松尾清憲 作曲:松藤英男 編曲:大村憲司
7.レイニー・ドライブ
作詞:松尾清憲 作曲:松藤英男 編曲:新川 博
8.メガロポリス・ノクターン
作詞:松山 猛 作曲:松藤英男 編曲:大村憲司

DISC-2
PROJECT III (I.TANAKA) Guitars & Vocal:田中一郎
1.Funky New Year
作詞:ちあき哲也 作曲:田中一郎 編曲:大村雅朗
2.ジェシー (摩天楼パッション)
作詞:ちあき哲也 作曲:田中一郎 編曲:チト河内
3.Run To Zero
作詞:トシ・スミカワ 作曲:田中一郎 編曲:チト河内
4.悪魔と踊れ
作詞:トシ・スミカワ 作曲:田中一郎 編曲:大村雅朗
PROJECT IV (Y.KAI) Vocals:甲斐よしひろ
5.ハート
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:椎名和夫
6.オクトーバー・ムーン
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:久石 譲
7.天使 (エンジェル)
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:後藤次利、西平 彰(ストリングス&コーラス)
8.ALL DOWN THE LINE—25時の追跡
作詞:甲斐よしひろ 作曲:大森信和 編曲:久石 譲

 

Disc. V.A. 『’86 グランプリ! オールスター・オン・ステージ ~アニメトピア歌謡音楽祭~』

1986年3月5日 LP発売 JBX-25086
1986年3月5日 CT発売 VCK-6170
1986年4月21日 CD発売 VDR-1178

 

’86 GRAND PRIX! ALL STAR ON STAGE
ANIMETOPIA SONG FESTIVAL

 

久石譲が作曲を手がけた「ウエディングドレス」「OSAKA キッド」の2楽曲が収録されている。

 

(LPジャケット/ LP盤)

 

(CDジャケット)

 

SIDE ONE
1.H・O・L・I・D・A・Y
作詩:古田喜昭・詩織 作曲:古田喜昭 編曲:渡辺敬之 歌:川村万梨阿・冨永みーな・小粥よう子
2.渚のリトル・ラブ・ストーリー
作詩・作曲:古田喜昭 編曲:渡辺敬之 歌:冨永みーな
3.ウエディングドレス
作詩:跡道漣 作曲:久石譲 編曲:渡辺敬之 歌:吉田理保子・坂本千夏
4.結婚
作詩:阿佐茜 作曲:羽田健太郎 編曲:渡辺敬之 歌:麻上洋子・田中真弓
5.Rouge
作詩:阿佐茜 作曲:羽田健太郎 編曲:渡辺敬之 歌:川村万梨阿

SIDE TWO
1.ウキウキ・サマービーチ
作詩:相馬和枝・古田喜昭 作曲:古田喜昭 編曲:渡辺敬之 歌:島津冴子・高橋美紀
2.OSAKA キッド
作詩:跡道漣 作曲:久石譲 編曲:渡辺敬之 歌:小粥よう子
3.あんた なんで 僕のタイプやねん
作詩:響敏也 作曲:大野正雄 編曲:渡辺敬之 歌:オービー・c・横山
4.明日に乾杯
作詩:阿佐茜 作曲・編曲:渡辺敬之 歌:トピア・シンガーズ
Special Vocal guest:小野寺脩一・小野寺亜紀・小野寺千春
5.おまけ~出演者ひと言葉~
出演者・スタッフ一同

録音:1986年1月18~22日
ビクター青山スタジオ
ディスコメイト・スタジオ
スタジオ・シャングリラ