Disc. ジャッキー・チェン 『Songs for Jackie Chan』

1997年10月21日 CD発売 COCA-14601 復刻盤

 

ジャッキー・チェン主演映画の主題歌を集めたアルバム。久石譲が編曲を担当した「プロジェクトA」「キャノンボール2」「デンジャー・ラブ」「マリアンヌ」の4楽曲が収録されている。こちらの作品にはセリフなどは収録されておらず、純粋な歌曲として聴くことができる。

 

補足

映画は1970年代後半に香港公開されている。オリジナル版では既成曲を多数拝借しており、日本公開に際して権利の問題が生じるため、日本公開版用に音楽を新たに制作しているという時代的経緯がある。下記日本公開日を念頭に、1980年代前半にかけて手がけた久石譲の仕事である。

映画「スネーキー・モンキー蛇拳」 日本公開日 1979年12月1日
映画「蛇鶴八拳」 日本公開日 1983年2月19日
映画「キャノンボール2」 日本公開日 1983年12月17日
映画「ドラゴン特攻隊」 日本公開日 1983年12月17日
映画「プロジェクトA」 日本公開日 1984年2月25日
映画「成龍拳」 日本公開日 1984年5月12日

 

 

 

 

Songs for Jackie Chan sc 2

(CDライナーノーツ より)

 

 

Songs for Jackie Chan sc 1

東映映画「成龍拳」オリジナル・サウンドトラック主題歌
1.成龍拳
作詞:Jim Steele 作曲:小田裕一郎 編曲:甲斐正人 歌:北原深
PROJECT A
2.プロジェクトA
作詞・作曲:Michael Rai 編曲:久石譲 スキャット:北原深
東宝東和提供「キャノンボール2」より
3.キャノンボール 2 (LIKE A CANNONBALL)
M.Brown - S.Doff - S.Garrett 編曲:久石譲 歌:北原深
東映配給 ジャッキー・チェン主演「ドラゴン特攻隊」主題歌
4.デンジャー・ラブ
作詞:吉田美奈子 作曲:もんたよしのり 編曲:久石譲 歌:北原深
東映映画「カンニング・モンキー天中拳」オリジナル・サウンドトラック主題歌
5.カンニング・モンキー (CUNNING MONKEY)
作詞:Jene Eugene 作曲:武川行秀 編曲:ミッキー吉野 歌:SHY
「キャノンボール」より
6.キャノンボールのテーマ (THE CANNONBALL)
作詞・作曲:R.Stevens 編曲:森村献 歌:藤村茶々丸
「ドラゴンロード」より
7.ドラゴンロード (DRAGON LORD)
J.Keeling - Y.Fujimura 編曲・森村献 歌:北原深
東映映画「蛇鶴八拳」オリジナル・サウンドトラックより
8.蛇鶴八拳~デンジャラス・アイズ (DANGEROUS EYES)
作詞:Gregory Starr 作曲・編曲:林哲司
9.マリアンヌ
作詞・作曲:五輪真弓 編曲:久石譲 歌:北原深
「ヤング・マスター」より
10.さすらいのカン・フー (THEME FROM THE YOUNG MASTER)
R.Uzaiki - R.Yukawa 編曲:森村献 歌:北原深
東映映画「龍拳」主題歌
11.ドラゴン・フィスト (DRAGON FIST)
作詞:Dwight Waldron 作曲・編曲:林哲司 歌:小清水ミツル
東映映画「拳精」オリジナル主題歌
12.チャイナ・ガール (CHINA GIRL)
Afric Simone - Stan Regai - Hero 歌・演奏:HERO〈英雄〉
東映映画「少林寺木人拳」主題歌
13.ミラクル・ガイ (MIRACLE GUY)
作詞:竜真知子 作曲・編曲:林哲司 歌:謝花義哲
14.ミラクル・ファイター
作詞:Francis G.Eddy 作曲:林哲司 編曲:山下正 リズムアレンジ:林哲司&山下正 歌:MOJO

 

Disc. 久石譲 『WORKS・I』

久石譲 『WORKS 1』

1997年10月15日 CD発売 POCH-1652

 

交響詩曲「ナウシカ」をはじめ、
久石譲の名曲があのロンドン・フィルとの共演で一堂に!
宮崎駿・北野武・大林宣彦監督作品より厳選。
記念すべき集大成シリーズ第1作。全曲書きおろし。

 

 

【監督コメント】

宮崎駿
「風の谷のナウシカ」のイメージアルバムから、僕はずっと久石さんと仕事をして来た。コンビだからとか、友情でとかではなく、自分達の作品に最もふさわしい才能を探したあげく、結局、いつも久石さんにたどり着くという繰り返しだったのだ。彼は本当にいい仕事をして来たと思う。映画「もののけ姫」では、もう別格の仕上がりで、おさまりの悪いシーンの断続するフィルムを、見事に音でつづりあわせ、更に全体を高い次元に引き上げてくれた。感謝、というしかない。

 

北野武
映画に音楽をつける時ってさ、結局イメージのすり合わせと言うか、ものすごく感覚的、抽象的な打ち合わせの上で作業してゆく訳だから、本当に大変なんだよね。ましてオイラは音楽的な専門知識なんてほとんど無いから、こんな感じってな言い方しかできないし…久石さんってすごい人だよね。映像のもってるニオイを生かしてくれるんだからさ。オイラの場合は『あの夏、いちばん静かな海。』からのお付き合いなんだけど、「シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんですよ」って言ったら、あんな凄いテーマが出来ちゃった。オイラが映画を作る時、削ぎ落としって事をいつも意識してるんだけど、音を付ける作曲家にも同じコンセプトで曲作りをお願いする訳だから、相当ワガママだよね。それでも、久石さんはそのワガママを受け容れてくれるし、それどころか、映像がぐっと前に出てくる様な曲を作ってくれる。そしてそのひとつひとつの曲は、久石さんのニオイも放ちながら、オイラの作品を結晶させる。感謝。

 

大林宣彦
喩えばある風景を美しいと思うのは、ぼくらが「美しい」という言葉を持つからだ。映像も音楽ももし言葉を持たなければ、もっと純粋に美しいものであるかも知れないが、残念ながらぼくらの誰もがこの言葉の呪縛から逃れることはできない。僕も譲さんも、いつも映像や音楽についてお互いの言葉で語り合うのだが、世界を美しくするのも汚すのもつまるところはぼくらの言葉自身である。
譲さんは言葉をとても大切にしてくれる音楽家の友人だ。彼の美しいメロディーは、言葉自体の持つしたたかな論理性と一つ一つの言葉の響きに寄り添うたおやかな感性とに支えられて誕生してくる。それは言葉との闘争であり共存でもある。つまりは人間的な音楽であるわけだ。
ぼくの映画の多くは独立プロの小さな自主製作だが、譲さんは度々手弁当で参加してくれた。いつも手弁当に甘えるわけにはいかないが、ここ一番という時には必ずにこにこ駆けつけてくれる。では何がここ一番かと見極めるのも言葉の覚悟であり、そんなわけでお互いの言葉への信頼がともすると危ういこの世の人の関係に、強く深い友情の絆を紡いでくれているのだろう。
ぼくらが共に創造した映画がその証しであり、だからこのアルバムはぼくの誇りでもある。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

 

(1) 「Symphonic Poem “NAUSICAÄ”」

映画『風の谷のナウシカ』を組曲化した17分33秒にも及ぶ大作である。映画本編のみならず、イメージアルバム、サウンドトラック、シンフォニー編という3作品から、映画本編では使用されなかった楽曲も含めたナウシカの壮大な世界を表現している。

パート1 ~ ティンパニの冒頭の力強い響きで一気にナウシカの世界へ引き込まれる。「風の伝説」からはじまり「ナウシカ・レクイエム」へと引き継がれる。フーガ調のメロディーの展開が奥行きと深みをましている。その後重厚な管弦楽にてレクイエムが響きわたる。

パート2 ~ 「メーヴェとコルヴェットの戦い」スリリングで高揚感のある見せ場である。その後、劇中には使用されなかったが風の谷の風景を見事に描いた「谷への道」が心地よい風を感じる悠々としたストリングスで奏でられる。再度「ナウシカ・レクイエム/遠い日々」の登場である。ここでは澄んだボーイ・ソプラノの歌声によって、劇中とはまたひと味違った格式高い品格へと昇華している。サントラ盤「王蟲との交流」をベースとしたアレンジである。

パート3 ~ 「鳥の人 ~エンディング」フルオーケストラによる壮大なクライマックス。コンサートの演目やアンコールとしても人気が高く、このパートのみ演奏されることも多い。

 

(2) 「FOR YOU」

映画『水の旅人 -侍KIDS』より主題歌「あなたになら…」フルオーケストラによるインストゥルメンタル。メインテーマ「水の旅人」とならんで人気のある楽曲である。メロディーメーカーとしての久石譲の実力が結晶した作品ともいえる。

フルートやヴァイオリンなど、ソロ楽器が優美に旋律をうたい、その楽曲のもつ透明感をひきたてた上品なアレンジが施されている。後半の転調によりより華やかに壮大な愛を奏でている。サントラ盤でも「夢を叶えて」というタイトルにて近いアレンジで収録されている。

 

(3) 「SONATINE」

映画『ソナチネ』よりメインテーマ。オリジナル版は、ピアノの短いモチーフによる繰り返しとシンセサイザー、パーカッションが絡み合うなんともエキゾチックな楽曲である。これを8分にも及ぶ大作に仕立ててしまう。オーケストラを駆使し、緊張感あるドラマティックなオーケストレーション。短い旋律の繰り返しからここまでの世界観を築き上げる手腕に唸ってしまう。本作品において、いい意味で裏切られた意欲的な力作である。

 

(4) 「TANGO X.T.C.」

映画『はるか、ノスタルジィ』にて「出会い ~追憶のX.T.C.~」という原曲にて誕生。その後自身のオリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて「TANGO X.T.C.」という楽曲へと完成版をみた作品。オリジナル版では久石譲がこだわったというバンドネオンによるノスタルジックな響きが印象的であった。

ここではバンドネオンを排除しフルオーケストラ作品へと試みている。テンポもややゆっくりになり艶やかさがましている。後半にはドラムやウッドベースも加わり、実験的なオーケストレーションのなか大人なJAZZYな世界を漂わせている。

 

(5) 「TWO OF US」

映画『ふたり』の主題歌として大林宣彦監督×久石譲によるデュエットソングという伝説的楽曲。「草の想い -ふたり・愛のテーマ」というタイトルにてシングル化もされている。また「TANGO X.T.C.」同様にオリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて自身のレパートリーとなるインストゥルメンタル作品へと昇華させている。

 

(6) 「MADNESS」

映画『紅の豚』本編にも使用され、コンサートやアンコールでも定番曲。この作品実はオリジナル・アルバム『MY LOST CITY』に収録されるものとして先につくられている。映画製作中であった宮崎駿監督が先に完成していた『MY LOST CITY』を聴いて気に入り使用されることになった。その逸話は有名である。

 

(7) 「SILENT LOVE」

映画『あの夏、いちばん静かな海。』にて印象的なメインテーマ曲。シンプルなメロディーの繰り返し。寄せては返す波のような冒頭の旋律から静かにそして煌めくようなオーケストレーション。オリジナル版のコーラスとシンセサイザーによる切なさを、ひときわ彩り豊かにドラマティックに昇華している。後半の転調もあいまって感情の高まりはおさえることができない。繊細で美しいメロディー、涙腺を刺激する。

久石譲の巧みなオーケストレーションによって、シンプルなモチーフであっても聴き飽きさせることのない技はさすがだが、「SONATINE」しかり、そのカギとなる数小節のシンプルなメロディーの力があってこそでもある。本作品のクライマックスにふさわしい、至極の名曲である。

 

 

本作品「WORKS I」は、久石譲が満を持して過去の映画作品として送り出した名曲たちをフルオーケストラへと昇華させた「WORKS」シリーズの記念すべき第1作目である。この作品の前に、フルオーケストラ作品をつくりあげるという新境地に挑み、久石譲音楽活動における大きな分岐点となった映画『もののけ姫』。この作品を経て1年後に実ったのがこの『WORKS I』である。

「WORKS」シリーズはこの後つづいていく。その時折の映画作品やCM音楽などを、オーケストラを主体とした音楽作品に再構築したものとして。大衆性(エンターテイメント)と芸術性(アーティスト)を両立させた久石譲の真骨頂として。「WORKS」シリーズは、久石譲によるシンフォニーの結晶である。

 

 

 

 

 

久石譲 『WOKKS1』

『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督 1984)より
1. Symphonic Poem “NAUSICAÄ”
-1 Part I
-2 Part II
-3 Part III
『水の旅人-侍Kids』(大林宣彦監督 1993)より
2. FOR YOU
『Sonatine』(北野武監督 1993)より
3. SONATINE
『はるか、ノスタルジィ』(大林宣彦監督 1992)より
4. TANGO X.T.C.
『ふたり』(大林宣彦監督 1992)より
5. TWO OF US
『紅の豚』(宮崎駿監督 1992)より
6. MADNESS
『あの夏、いちばん静かな海。』(北野武監督 1991)より
7. SILENT LOVE

久石譲 (ピアノ)
ニック・イングマン指揮
ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
リアム・オッケーン(ボーイ・ソプラノ) - 1.

All composed and arranged by JOE  HISAISHI

Produced by JOE HISAISHI

recorded at Air Studios (LONDON) and Wonder Station (TOKYO)
recorded at August 1997

 

WORKS I

1.Symphonic Poem“NAUSICAÄ” (from “NAUSICAÄ of the Valley of the Wind”)
2.FOR YOU (from “Water Traveler – Samurai Kids”)
3.SONATINE (from “Sonatine”)
4.TANGO X.T.C. (from “Haruka, Nostalgia”)
5.TWO OF US (from “Futari”)
6.MADNESS (from “Porco Rosso”)
7.SILENT LOVE (from “A Scene at the Sea”)

 

Disc. 宮沢和史 with 久石譲 『旅立ちの時 ~Asian Dream Song~』

旅立ちの時 久石譲

1997年9月10日 CDS発売 TODT-5042

 

長野パラリンピック冬季大会テーマ・ソング
作詞:ドリアン助川 作曲/編曲:久石譲 歌:宮沢和史

 

 

“雄大なるアジアの中の日本”

「滔々と流れる黄河 人を寄せつけないヒマラヤの山々 砂漠の民ベドウィン インドの 過去から未来に連なる永遠の流れ モダンで ほんとうはヨーロッパよりも深い歴史と近代性をもっていた日本 僕はアジアの一員で しかも日本人であって ほんとうによかった」
(久石譲 Asian Dream Song メモより)

 

 

旅立ちの時 ~Asian Dream Song~
作詞:ドリアン助川 作曲・編曲:久石譲 歌:宮沢和史

君の瞳に 花開く
夢をかなでる 心
風に吹かれるこの道さえも
星明りに照らされ
今 ただ一人歩こう

胸を震わせるときめきを
空と大地に歌おう
哀しみも笑顔もぬくもりも
熱い思いに揺れて
今 抱きしめて歩こう

旅立ちの勇気を
地平線の光りと分かち合うこの時
微笑みながら ふりむかずに

夢をつかむ者たちよ
君だけの花を咲かせよう

争いの日々を乗り越えて
青空に歌う時
かけがえのない命のはてに
名もない花を咲かそう
今 地球(ここ)に生きる者よ

旅立ちの勇気を
虹色の彼方に語りかけるこの時
微笑みながら ふりむかずに

夢をつかむ者たちよ
君だけの花を咲かせよう

夢をつかむ者たちよ
君だけの花を咲かせよう

(歌詞:シングルCD掲載オリジナル 書き起こし)

 

 

「曲を書いた後、ドリアンさんと何度か打ち合わせを重ねて、詞が生まれました。歌は宮沢君の『島唄』を聴いて、アジアを表現できる人だと思いお願いしました。そしたら、パラリンピックなら是非やりたいという返事もらって。すごく嬉しかったですね」

Blog. 「週刊ポスト 1997年9月19日号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

2. Asian Dream Song -Instrumental-
『Piano Stories II』に収録されたピアノ&弦楽によるオリジナル版インストゥルメンタル・ヴァージョンではない。このシングルにのみ収録された貴重な音源である。構成は歌曲化された1.で新たに加えられた大サビは除かれている。つまり、楽曲構成はオリジナル版のかたちをとりながら、音はシンセサイザーのみで作られている。アレンジは1.に近いが、生楽器や生ドラムからをもすべてシンセサイザー音源に変更されている。また民族音楽のようなコーラスやサンプリングも多様されている。同時期に「Kids Return」や「パラサイト・イヴ」といったデジタル楽器を駆使した作品を作っているが、その大きな流れのなかのひとつにあった時代の作品とみることもできる。

 

 

 

 

旅立ちの時 久石譲

1.旅立ちの時 ~Asian Dream Song~ 歌:宮沢和史
2.Asian Dream Song -Instrumental-
3.旅立ちの時 ~Asian Dream Song~ (オリジナル・カラオケ)

 

Disc. 久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

1997年7月2日 CD発売 TKCA-71168
2020年7月22日 LP発売 TJJA-10025

 

1997年公開 スタジオジブリ作品 映画「もののけ姫」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のフルオーケストラによるサントラ盤。録音は1997年5月。映画本編の楽曲を米良美一の主題歌も含め完全収録。本作の主題歌で久石は日本レコード大賞作曲賞を受賞、アルバム自体も企画賞を受賞している。

 

 

寄稿

雑誌の編集者という自分の仕事のテリトリーに則した比喩で恐縮であるが、エディトリアル・デザインと久石さんが仕事の中心にしているサウンド・トラックは似ているような気がしている。日本には優秀なデザイナーがたくさん居るが、エディトリアル・デザイン、つまり本や雑誌などの編集デザインをする人は少ない。理由は簡単で、報われる事の少ない仕事だからだ。広告デザインをやれば大きなお金になるし評価をする賞もたくさんある。しかしエディトリアル・デザインはお金にならないし、評価される場もない。仕事が簡単ならばいいが、ある意味で広告よりも才能と労力を要求される場合が多い。サウンド・トラックも同じだ。大きな才能と労力を要求されながら、報われる事の少ない仕事である。それこそ久石さんほどの才能があれば、それをお金に変える方法はポップ・ミュージックのフィールドにたくさんある。しかし久石譲はサウンド・トラックの仕事にこだわり続け、僕達はそのおかげで数多くの幸福な映像体験を持つことができた。

サウンド・トラックとエディトリアル・デザインの似ているところは他にもある。欧米における地位の高さだ。ジョン・ウィリアムズやエンニオ・モリコーネ、あるいはヘンリー・マンシーニなど巨人として知られている人は無論の事、若手にも優秀な才能が続々と現れている。そして、そういう才能はすぐに引っぱりダコになる。エディトリアル・デザインの世界もそうだ。例えば、イタリアン・ヴォーグやローリング・ストーンといった雑誌のAD(アート・ディレクター)が変わったりすると、編集長交替以上に話題になる。実際、ADが交替して売り上げが激減なんて事もあったりするのだから、当然だろう。同じ事がサウンド・トラックにも言える。ジョン・ウィリアムズの音楽なしの”スター・ウォーズ”は考えられないし、久石譲のない”風の谷のナウシカ”は考えられない。だから、もっともっと久石譲は評価されていい。僕も音楽評論家なんだから、余り客観的な事ばかり言っていてはいけないのだけれど。

では、何故にそういう貧しいエディトリアル・デザイン状況と、サウンド・トラック状況が生まれてしまったのか。理由は簡単だ。編集者と演出家が駄目だからだ。金がないの、余裕がないの、といった言い訳はいくらでもできるが、結局はそういう事だと思う。そんな中でも久石譲が存在する事ができたのは、宮崎駿を筆頭に優れた演出家が彼の仕事を理解したからだ。澤井信一郎、北野武、という日本映画のトップとの仕事がほとんどなのは、偶然ではなく、必然である。ゲーム業界の広井王子から宮崎駿まで、久石譲がいかにコラボレーションの対象を慎重に選んでいるかがよく分かる。

久石譲と宮崎駿の最新作は”もののけ姫”である。まだ作品は観ていないが、サウンド・トラックの出来は素晴らしい。いつも久石さんの仕事で感心するのは、テーマに相当するメロディーの許容量の大きさだ。サウンド・トラックの場合、ただ単にメロディーがポップ・ミュージックとしてキャッチーであればいい、というものではない。このCDを聞いても分かるように、このテーマのメロディーはいろいろなシチュエーションで反復される。ある一定の情緒しか呼び起こさないメロディーだと、状況変化の反復に耐えられないのだ。悲しいだけのメロディー、楽しいだけのメロディー、といったものでは駄目なのである。その点、この”もののけ姫”のテーマは、実に広いレンジの情緒に対応する力を持っている。まさにサウンド・トラックとして理想的だ。こうした点だけを考えても、いかにサウンド・トラックを作りあげていく作業が大変であるか分かると思う。

僕は演出家、宮崎駿も大好きだし、音楽家、久石譲も大好きである。この2人の共同作業を体験できる限り、日本映画も捨てたもんではないという気がして来る。そして僕も編集者としていい仕事をしなくちゃ、と改めて襟を正す気持ちになってくる。

渋谷陽一

(CDライナーノーツより)

 

 

「この映画の件で、初めて宮崎さんとお話した時に、直感的に今回、一番ベースになるのはオーケストラだろうと感じました。ですから二管編成の、六十六人によるオーケストラに、ほとんど全ての曲に入ってもらい、そこにエスニックな民族楽器と、隠し味的な電気楽器系をプラスするという形で作っていきました。こんなに大編成でやったのは、宮崎作品では初めてですよ。つまり非常に骨太の世界を望んだんです」

「自分にとって日本は非常に大切な要素だったので、もちろん積極的に取り入れました。ただ琵琶や尺八のように、その音がした瞬間に侍が出てきそうな音は極力引っ込めて、本当に音楽の骨格の中での日本的なものを相当意識して、五音音階と言いますか、西洋的なコード進行よりは、むしろアイルランド民謡に近い感じのものをベースに置きました」

「極力『これが戦闘シーンだ』というようなものは避けましたね。戦闘シーンの後で、そうならざるを得ないんだというような心境を歌うというような方向に考えて、レクイエムのように心情を表現するために音楽があるという考えを基本に作りました」

「イメージアルバムの1曲目の『アシタカせっ記』という曲です。『幸せは来ないかもしれないけど、自分から生きろ』というような、のたうちまわっている登場人物たちを俯瞰して見ているような音楽として、映画の冒頭とラストに流れています。そうなると、この曲の方が本当のメインテーマとしての重みを持っていると僕は思いますね」

Blog. 久石譲 「もののけ姫」 インタビュー 劇場用パンフレット(1997)より 抜粋)

 

 

「今までの作品は、イメージアルバムの段階で既に、作品のテーマが出ていたと思うんです。でも、今回は全然別ですね。イメージアルバムから残っている曲は、重要なやつを数曲…メインテーマの『もののけ姫』と『アシタカせっ記』、エンディングシーンに使う『アシタカとサン』。それ以外はほとんど変わりました。イメージアルバムというのは、絵がない状態で作品の世界を表現しようとしますよね。『もののけ姫』は、ストーリーがあまりにも劇的で強烈じゃないですか。だから、それを音楽で表現してしまったところがある。大作映画の力感のようなものを主眼において作ったわけです。ところが、実際に映画のなかで使う音楽を作ろうとしたときに、そういう部分は映像で十分表現されているから、登場人物の気持ちや宮崎さんの精神世界を表現しようと思ったんです」

Blog. 久石譲 「もののけ姫」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「すごいでしょ? あれね、映画館だともっとすごいですよ。椅子とかビリビリいってますから。こんなにいい音で録れるとは思わなかったというのが、正直なところなんですけど。

あの音は、自分のサンプリングで持っている、すごいいちばん重低音の出る「グランカッサ」という西洋的な大太鼓、それからエスニックのモノと、それから実際の東京シティ・フィルの大太鼓と、ティンパニなどをミックスして作った音なんです。でも、結局ティンパニは、芯が出ちゃうから極力抜きました。生の音とサンプリングと全部混ぜた音ですね。大太鼓を録る時にも相当苦労した。叩く場所なども、「この辺を叩いて、それをこっちから録って」とか、相当細かくやって録った音ですからね。出だしで「ドーン、ドーン」って二発鳴った時に、「あ、勝った」って思いましたね。」

 

「最後の部分のメロディーでしょ。あれを考案した段階で「勝った」と思いましたね。「いただき!」という感じです(笑)。結局歌の曲のメロディーをそのまま1コーラス使ってアルバムの中に歩かせると、すごくダサイんですよ。「いかにもテーマ曲ですね」みたいな感じというか。だから、いちばん最後のリフレインのところを使って、インスト・バージョンをもう1個作った。それを映画の旅立ちの場面のところから、順番に要所要所、サン(もののけ姫)と出会うシーンなどにその曲をつけていって、それがだんだんメロディーが伸びてきたら、「もののけ姫」の歌になるという。その設計が自分でも相当気に入ってます。」

 

「”間”というのか、わりと沈黙をどう作るかというか、それは、いちばん気を使った部分ですね。なにか、沈黙を作るって、音楽家は恐いんですよ。次々とメロディーを出したくなるから。だけど、あえてそういうのをずいぶん作っている。『レクイエム』なんかはそうですよね。だから、その作りが相当うまく、自分の中では新しく、「こういう表現も成り立つんだよな」って。その辺は自分でもすごく嬉しいところですね。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1997年9月号 No.152」『もののけ姫』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「もののけ姫」に関しては、宮崎監督から「覚悟を決めた映画を作るから」ということを聞いていました。「人がたくさん死ぬような映画だけど、この時代はこういうものを作らなくてはならない」という決意表明があったんです。そんな話をしていて、今回はフル・オーケストラで行こうということになりました。

宮崎さんの仕事は、とにかく丁寧さが別格です。この作品でも、最初にイメージ・アルバムを作って、そのアルバムを元にして綿密な打ち合わせを行った上でサウンドトラックを作っていったんです。映像を見て、映像のために本当に細かく作っている、まさにサウンドトラックといえる音楽ですよ。どれくらい細かい作業をしているかというと、例えば2分半とか3分程度の曲の中でも、その中で20箇所くらい絵と音楽をシンクロさせたりしているんです。それも1/30秒などの単位で。ですから、曲中でテンポもどんどん変わりますし、そのテンポも80,28とか、そこまで細かく設定しています。

ただし、あとで編集して合わせ込むなんてことは絶対にしません。テンポ・チェンジがプログラムされたクリックに合わせて生で演奏するんです。もちろん、演奏する人間にテクニックと能力がないと合いません。こういう手法に関しては「もののけ姫」がひとつのピークと言えるんじゃないでしょうか。

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

下記インタビュー記事でも、抜粋できないほどたっぷりと語られている。

 

 

書籍「折り返し点 1997~2008」/宮崎駿・著に、詩が収載されている。これは監督から久石譲へ作品イメージを伝えるために書いた音楽メモのようなもの。「もののけ姫」「アシタカせっ記」「失われた民」「タタリ神」「犬神モロの君」「エボシ御前」「コダマ達」「ヤックル」「シシ神の森」。イメージアルバムのほとんどの曲がそろっていることがわかる。

*初出:『THE ART OF The Princess MONONOKE もののけ姫』徳間書店

 

 

 

 

音楽は今回も久石譲が担当した。久石の作業は、恒例のイメージ アルバム作りから始まった。まずは、いつもの宮崎のキーワードとそれにまつわる詩が手渡された。宮崎は「ひとつのメロディで、 猛々しくもあり、優しくもあり、象徴的なメロディを」と困難な注文を出し、しかも自身も物語に頭を痛めていたためか、「早く音を聞きたい」と要請した。

96年7月、異例の早さで全10曲で構成されたイメージアルバムが発売された。久石はこのアルバムで、大作にふさわしいスケール感を追求し、同時に琵琶・二胡・能管・龍笛などを駆使し、雅楽や中国音楽を意識した音作りを試みている。

しかし、本番で採用された楽曲はヴォーカル曲「もののけ姫」、メインテーマ「アシタカせっ記」、ラストのピアノ曲「アシタカとサン」 の3曲だけで、残り7曲はほとんど使われなかった。久石が映像の凄まじいまでの緊張感にそぐわないと判断し、もっと深い精神性を重視した楽曲がふさわしいと判断したためである。久石は一から新譜をおこし、66人・二管編成のフルオーケストラを使用、そこに篳篥・龍笛・和太鼓などをさり気なく挿入させ、シンセサイザーも併用した。前二曲は様々に変奏され、全編で使用されている。

当初挿入歌の予定はなかったが、モロの棲む洞窟の静かなシーンに歌が入ることになり、イメージアルバムの「もののけ姫」が採用となった。歌手は、宮崎がラジオで歌声を聞いて惚れ込んだというカウンター・テナーの米良美一に決定。特異の澄んだ声量で圧倒的な存在感を示し、主題歌としてラストのタイトルロールで再使用されることとなった。宮崎が久石に渡した短い詩がそのまま歌詞となっているため、歌は一番しかなく、二番はスキャットのみの変わった構成。レコーディングの際、米良は「感憤を抑制して」との指示により、誰の立場の歌か分からずに困惑したが、宮崎の「この歌は、アシタカがサンへの気持ちを歌ったもの」というアドバイスを基に歌い上げ、OKとなった。また、タタラ場の女たちが踏み糖を踏むシーンにもヴォーカル曲「エボシタタラうた」が作られた。こちら も宮崎の詩に久石が曲をつけたものだ。

主題歌のシングルCDは60万枚の大ヒット、「サウンドトラック」も過去最高の50万枚を売り上げた。97年11月に発表された「第39回日本レコード大賞」では、久石譲が「もののけ姫」で作曲賞を受賞。また、アルバム企画賞も「もののけ姫サウンドトラック」が受賞した。

大ヒットが一段落すると、「「アシタカせっ記」をスラブ色の強い一流オーケストラで聴いてみたい」という久石の発案で、交響組曲に仕立て直した楽曲が作られた。演奏は、歴史あるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団、指揮はマリオ・クレメンスが担当した。録音は 98年6月6日から8日まで、プラハのドヴオルザーク・ホールで行われ、アルバムは「交響組曲もののけ姫」として98年7月に発売された。これも前例のない快挙であった。

(書籍「宮崎駿全書」より 抜粋)

 

 

 

2020.07 Update

2020年発売LP盤には、新しく書き下ろされたライナーノーツが封入された。時を経てとても具体的で貴重な解説になっている。

 

 

 

 

久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

1.アシタカせっ記
2.タタリ神
3.旅立ち -西へ-
4.呪われた力
5.穢士(えど)
6.出会い
7.コダマ達
8.神の森
9.夕暮れのタタラ場
10.タタリ神 II -うばわれた山-
11.エボシ御前
12.タタラ踏む女達 -エボシ タタラうた-
13.修羅(しゅら)
14.東から来た少年
15.レクイエム
16.生きろ
17.シシ神の森の二人
18.もののけ姫 インストゥルメンタルバージョン
19.レクイエム II
20.もののけ姫 ヴォーカル
21.戦いの太鼓
22.タタラ場前の戦い
23.呪われた力 II
24.レクイエム III
25.敗走
26.タタリ神 III
27.死と生のアダージョ
28.黄泉の世界
29.黄泉の世界 II
30.死と生のアダージョ II
31.アシタカとサン
32.もののけ姫 ヴォーカル エンディング
33.アシタカせっ記 エンディング

映画「もののけ姫」主題歌
もののけ姫
歌:米良美一 作詞:宮崎駿 作編曲:久石譲

エボシ タタラうた
作詞:宮崎駿 作編曲:久石譲

 

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
指揮:熊谷 弘

作曲・編曲・演奏:久石譲
プロデュース:久石譲

録音:1997年5月17日、18日
アバコクリエイティブスタジオ (早稲田)
ワンダーステーション

ミュージシャン:
ヴォーカル:新倉芳美/木村真紀/下成佐登子
ケーナ:旭孝
和太鼓:梯郁夫
龍笛:竹井誠
篳篥:西原祐二

 

Princess Mononoke (Original Soundtrack)

1.The Legend of Ashitaka
2.The Demon God
3.The Journey to the West
4.The Demon Power
5.The Land of the Impure
6.The Encounter
7.Kodamas
8.The Forest of the Gods
9.Evening at the Ironworks
10.The Demon God II – The Lost Mountains
11.Lady Eboshi
12.Tatara Women’s Song
13.The Furies
14.The Young Man from the East
15.Requiem
16.Will to Live
17.San and Ashitaka in the Forest of the Deer God
18.Princess Mononoke (Instrumental Version)
19.Requiem II
20.Princess Mononoke (With Vocal)
21.The Battle Drums
22.The Battle in front of the Ironworks
23.The Demon Power II
24.Requiem III
25.The Retreat
26.The Demon God III
27.Adagio of Life and Death
28.The World of the Dead
29.The World of the Dead II
30.Adagio of Life and Death II
31.Ashitaka and San
32.Princess Mononoke – Ending Theme Song with Vocal
33.The Legend of Ashitaka – Ending

 

Disc. 久石譲 『もののけ姫』

久石譲 もののけ姫 シングル

1997年6月25日 CDS発売 TKDA-71167

 

1997年公開 スタジオジブリ作品 映画「もののけ姫」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

サウンドトラック盤に先がけて主題歌が先行リリースされた。

なお、カップリング(c/w)に収録された「もののけ姫 インストゥルメンタル」は、いわゆるメロディの旋律を除いたものが1番、笛によるメロディや旋律を加えた2番で構成されている。また使われている楽器も聴き分けるとイントロから異なっており、オリジナル・カラオケと明記していない、すなわち単独のインストゥルメンタル版。

サウンドトラックには未収録ヴァージョンとなることから、このシングルでしか聴くことのできない貴重な音源である。

 

シングル盤には歌詞とメロディ譜(一段譜/コード)も掲載されている。

 

 

2004年10月27日 CDS発売 TKCA-72759

なお、2004年にマキシシングル盤として再発売されている。収録内容同一。

(CDジャケット / CD盤)

 

 

久石譲 もののけ姫 シングル

1.もののけ姫 歌:米良美一
2.もののけ姫 インストゥルメンタル

 

Disc. 久石譲 『パラサイト・イヴ』

久石譲  『パラサイト・イヴ』

1997年2月1日 CD発売 POCH-1621
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9004

 

1997年公開 映画「パラサイト・イヴ」
監督:落合正幸 音楽:久石譲 出演:三上博史 他

 

 

「映像で表現しきれなかった登場人物の気持ちや背景を、音できちんと語ったつもりです」

-脚本についてですが。

久石:
僕はもっとホラーに徹するべきだと思いました。ただ、たまたま他の仕事で大林監督にお会いした時に「実は今、ホラーをやってるんです」っていう話をしたら、大林さん曰く「ホラーは究極のラブロマンスだよね」って仰ったんですよね。要するに、現実の世界では何らかの理由でうまくいかなくて、片方があの世に逝っちゃたりして、そこから来る怨念のような物がいろいろ絡まってくる話だから、根底は究極のラブロマンスだと。その話を聞いてなるほどなって思いましたね。

-それで音楽的には。

久石:
音楽的に言うと、非常に綺麗なメインテーマをワンテーマ。後は完全なホラーサウンド。そのホラーサウンドも怖いタイプと、宗教がかった運命的な物とか、そういう使い分けで全体を構成しました。

-今回の音楽でのドラマ作りというのは。

久石:
落合監督の画は、波が寄せては返し、寄せては返しっていうある種の繰り返しのようにしてジワジワと来る感じなんですよ。それは僕が得意なミニマルミュージックにすごく近いんですね。だから監督が意図されたことと、僕が音楽的に設計図を引いたことがすごくいい形にドッキングしていると思います。

-今回の音的な部分についてですが。

久石:
恐怖を煽っていくシーンは、基本的に非常に不思議なエスニックな音とか、とんでもない生楽器ではない物を主体にしました。メインテーマに関しては、生の僕のピアノとか、クラシックのソプラノの歌手だとか、ストリングスだとか、非常に空気感のある人間的な物にして、思いっきり対比をつけました。

-今回の音楽のポイントは。

久石:
画面が進行していながら呼吸するように、音楽もやっぱり呼吸しているわけですよね。そうすると、これはもう僕のポリシーなんだけど、単に画面をなぞるような劇伴は一切、書いたつもりはないんです。むしろ映像で表現しきれなかった登場人物の気持ちとか背景、そういう事をきちんと語れるようにしたいと思っていて、もちろん映画にはいろんな要素があるし、映像あっての物ですから、完璧に出来たとは思ってないですけど、うまくいけたなっていう気はしています。

Blog. 映画『パラサイト・イヴ』(1997) 久石譲 インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

 

極端な言い方をすれば、本編音楽とサウンドトラック盤は別もの。CDに収録されたバージョンがそのまま使われているものはほとんど皆無と言ってもいい。映画シーンに合わせて少しアレンジが加えられているもの、ニュアンスの異なるCD未収録バージョン、また短い尺に当てこまれた未収録楽曲など。ここまで映画に使用された音楽と、サウンドトラックに収録された楽曲が一致しないというのも珍しい作品だと思う。世界観や楽曲の核はどちらも失っていない。それだけ、いかなるバリエーションに料理したとしても性格のはっきりした楽曲が書き下ろされているということ。メインテーマ「Eve」もおそらく3~4バージョンは聴くことができる。映画の世界を越えてエバーグリーンな名曲。

言い換えれば、このサウンドトラック盤は、通常手掛ける映画音楽のなかで、音楽作品としてきっちり仕上げた作品とも言える。本編音楽をつけたあとに、CD制作作業に入っているはずだから。

 

 

「EVE -パラサイト・イヴのテーマ」

1997年1月25日 CDS発売 PODH-1339

EVE パラサイト・イヴのテーマ 久石譲 シングル 1

 

1. EVE (パラサイト・イヴのテーマ) Vocal Version
2. EVE (パラサイト・イヴのテーマ) Piano Version

 

 

 

久石譲  『パラサイト・イヴ』

1. EVE-Vocal Version
2. Choral
3. Cell
4. Darkness
5. Explosion
6. EVE-Piano Version

All songs composed , arranged and performed by Joe Hisaishi

ゲスト・ミュージシャン
ヴォーカル:佐藤ひさら(藤原歌劇団)
アコースティック・ギター:古川昌義
ストリングス:後藤勇一郎グループ

 

Disc. 久石譲 『EVE -パラサイト・イヴのテーマ』

1997年1月25日 CDS発売 PODH-1339

 

1997年公開 映画「パラサイト・イヴ」
監督:落合正幸 音楽:久石譲 出演:三上博史 他

 

メインテーマ曲のシングル盤である。同2楽曲(Vocal version / Piano version)ともに、サウンドトラック盤にも同音源が収録されている。

 

 

EVE パラサイト・イヴのテーマ 久石譲 シングル 1

1. EVE (パラサイト・イヴのテーマ) Vocal Version
2. EVE (パラサイト・イヴのテーマ) Piano Version

All songs composed , arranged and performed by Joe Hisaishi

ゲスト・ミュージシャン
ヴォーカル:佐藤ひさら(藤原歌劇団)
アコースティック・ギター:古川昌義
ストリングス:後藤勇一郎グループ

 

Disc. V.A. 『第51回国民体育大会開・閉会式 式典音楽記録集』 ※非売品 *Unreleased

1996年 CD 非売品

 

1996年ひろしま国体、会場を実況録音したものから音楽集として集めたものである。

 

ひろしま国体の式演出を務めていた映画監督大林宣彦氏の声かけのもと、久石譲も大会イメージソング「砂漠のバラ」を作曲し提供している。(補作詞:大林宣彦)

 

 

 

このCDにも「砂漠のバラ」の行進曲が複数収録されているが、編曲者は異なる。

 

(CDライナーノーツより)

 

(CDジャケット)

 

 

Disc.1
夏季大会開会式
1.音楽隊紹介
2.競技役員団入場
3.開式通告
4.役員・選手団入場
5.開会宣言
6.国旗掲揚
7.大会旗・日本体育協会旗・競技団体旗掲揚
8.広島県旗・都道府県旗・会場地市町村旗掲揚
9.大会会長トロフィー返還
10.大会会長・文部大臣あいさつ・歓迎のことば
11.皇族のおことば
12.選手代表宣誓
13.閉式通告
14.役員・選手団退場

夏季大会閉会式
15.音楽隊紹介
16.競技役員団入場
17.開式通告
18.役員・選手団入場
19.表彰状授与
20.国旗降納
21.大会旗・日本体育協会旗・競技団体旗降納
22.広島県旗・都道府県旗・会場地市町村旗降納
23.大阪府旗掲揚
24.閉会宣言
25.閉式通告
26.役員・選手団退場

秋季大会閉会式
27.日体協旗・競技団体旗・競技役員団入場
28.開式通告
29.役員・選手団入場
30.成績発表・表彰状授与
31.炬火納火
32.大阪府旗掲揚
33.閉会宣言
34.閉式通告

Disc.2
秋季大会開会式
1.音楽隊紹介
2.式典前
3.日体協旗・競技団体旗・競技役員団入場
4.天皇陛下・皇后陛下御着席
5.開式通告
6.役員・選手団入場
7.開会宣言
8.国体旗引継
9.大会旗・炬火入場
10.炬火点火
11.国旗掲揚
12.大会旗・日本体育協会旗・競技団体旗掲揚
13.広島県旗・都道府県旗・会場地市町村旗掲揚
14.大会会長・文部大臣あいさつ・歓迎のことば
15.天皇陛下のおことば
16.選手代表宣誓
17.閉式通告
18役員・選手団退場

夏季大会開会式:平成8年(1996年)9月8日(日)
夏季大会閉会式:平成8年(1996年)9月11日(水)
(福山市緑町公演屋内競技場)

秋季大会開会式:平成8年(1996年)10月12日(土)
秋季大会閉会式:平成8年(1996年)10月17日(木)
(広島広域公演陸上競技場)

録音:夏季大会/財団法人ヤマハ音楽復興会 秋季大会/ティーオーエー株式会社
(録音は、会場での実況録音のため、雑音や音の乱れがあります。また、時間の関係で部分的にカットしております。)

企画・制作:第51回国民体育大会広島県実行委員会

 

Disc. V.A. 『スタジオジブリ サントラ全集』

1996年12月21日 CD発売 TKCA-71100

 

ジブリがいっぱい
―スタジオジブリ作品 サントラ全集―

 

スタジオジブリ作品のスペシャルBOX
●「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」「おもひでぽろぽろ」「紅の豚」「海がきこえる」「平成狸合戦ぽんぽこ」「耳をすませば」のサウンドトラック10枚
●24金ゴールドディスクCD
●24bitリマスタリング
●ポスター原画コレクション(A4サイズ)
●スタッフリスト・作品データ
●新柄オリジナル・ジャケット
●ボーナスCDS

 

スタジオジブリ サントラ全集

Disc 1
「風の谷のナウシカ サウンドトラック ~はるかな地へ~」
Disc 2
「天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎」
Disc 3
「となりのトトロ サウンドトラック集」
Disc 4
「火垂るの墓 サウンドトラック集」
Disc 5
「魔女の宅急便 サントラ音楽集」
Disc 6
「おもひでぽろぽろ オリジナル・サウンド・トラック」
Disc 7
「紅の豚 サウンドトラック」
Disc 8
「海がきこえる」
Disc 9
「平成狸合戦ぽんぽこ サウンドトラック」
Disc 10
「耳をすませば サウンドトラック」

Disc 11 -Bonus CDS-
1.LE TEMPS DES CERISES
2.「魔女の宅急便」より ドラマ元気になれたら
3.なんだろう
4.そらいろのたね

 

Disc. 久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』

久石譲 『PIANO STORIES 2』

1996年10月25日 CD発売 POCH-1604

 

 

【MEMORANDUM】

Friends
子供の頃思った。「お酒飲んでたばこ吸って、それにカウンターに座って寿司だっていつか食べてやる」気づいたらバーの片隅に一人座っていた。

Sunday
日曜日の午後、ふらっと画廊を訪れるのもよい。スコーンととびきり上等のアフターヌーンティーを飲みながら眺めるワッツの絵画は、本物の英国の香りがする。

Asian Dream Song
滔々と流れる黄河、人を寄せ付けないヒマラヤの山々、砂漠の民ベドウィン、インドの過去から未来に連なる永遠の時間の流れ、モダンでほんとうはヨーロッパよりも深い歴史と近代性をもっていた日本。僕はアジアの一員でしかも日本人であってほんとうによかった。

Angel Springs
6年間もあるウイスキーのコマーシャルにつき合った。何も足さない、何も引かない、このコンセプトは美しい。人が手を加えないことは現代では極めて難しい。例えばひとりの少年がいる。手を加えて型にはめるより、ほうっておいて発酵するのを待つ。もしかして天才が生まれるかも知れませんよ。

Kids Return
ミニマルミュージックの香りのする青春音楽。クールでどこか切なげ、ワイルドで繊細、淡々としているのに衝撃的、二律背反の世界、それが僕だ。僕の白は限りなく黒を連想させ、優しさは限りなく毒を含んでいる。見せかけのヒューマンは独裁者の心を隠し、愛と感動のメロディーは限りなく前衛の心の鎧となる。

Rain Garden
ふと、ラヴェルが弾きたくなった。その響きが心に微かな波紋となって広がっていく。フランス印象派は空ろいゆく時の陽炎(かげろう)。

Highlander
地図で見る英国は左の上の端にある。そのまた上の方にHighlanderがある。寒くて荒涼とした土地、手が届きそうに低く垂れ下がった天空。ケルトの里は何処か毅然としていて生きる厳しさと尊さを教えてくれる。

White Night
夕暮れ、密やかに闇が訪れ、家々の窓には灯がともる。空からは軽やかなダンスを踊っているかのような温かい(心の)雪が舞い降りている。もしかしたらマッチ売りの少女は幸せだったんだ。

Les Aventuriers
「冒険者たち」という映画があった。男はこの言葉が好きだ。冒険に乗りだす時の昂揚感、細心の注意と計画。大胆にも繊細な神経、思いがけない緊張感。でも実際の映画はふたりの男と一人の女の友情と愛情の物語り。はしゃぐ大人たちは幼稚な子供心を引きずったピノキオ。でもリノバンチュラだったら良いか?
PS.演奏が難しすぎた。プロのミュージシャンがほとんど弾けなかった。5拍子なんて人間の生理に合わないのか?でも「Take 5」や「Mission impossible」はとても心地良いのに…。ええい!一気の緊張、極限のスイードもありなんだよ。

The Wind of Life
日々の積み重ねの上に人の一生は成り立つ。淡々と繰り返される日々、でもその日々が大変だ。泣いたり怒ったり絶望したり歓喜の涙をこぼしたり誠に忙しい。でも同じ日は二度と来ないのだから日々を受け入れ真摯な精神で生きる事が肝心だ。生命の風、人の一生を一塵の風に託す。陽は昇り、やがて沈む。花は咲き、そして散る。風のように生きたいと思った。

(【メモランダム】 久石譲)

 

 

 

「難しかったんだよね。それまでガッチリとコンセプトを組んできたんだけれど、最後の最後で自分を信じた感覚的な決断をしたということです。あの弦の書き方って異常に特殊なんです。普通は例えば8・6・4・4・2とだんだん小さくなりますね。それを8・6・6・6・2と低域が大きい形にしてある。なおかつディヴィージで全部デパートに分けたりして……。チェロなんかまともにユニゾンしているところなんて一箇所もないですよ。ここまで徹底的に書いたことは今までない。結果として想像以上のものになってしまって、ピアノより弦が主張してる……ヤバイ……と(笑)。」

「僕は戻りって性格的にできないし、オール・オア・ナッシングなんですね。時代って円運動しながら前へ進んでいると思うんですが、自分にとってのミニマルとか弦とか、原点に立ち返るというのは前に戻るのではなく、そのスタイルをとりながら全く新しいところへ行くことだと。そうでなければ意味がない。単なる懐古趣味に終わってしまうでしょう。ピアノというコンセプトでソロアルバムを作るということに変わりはなかったけれども、思い切りターボエンジンに切り替える必要があったわけです。」

Blog. 「キネマ旬報 1996年11月上旬特別号 No.1205」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「8年前に出した時は、打ち込みを多用して音楽を作っていた時期だった。その時に、あえて「今自分ひとりで何ができるか」と立ち返ったのがピアノだったんです。つまり、いちばんピュアな音楽をやろうと思って作ったのが『Piano Stories』だった。そしてもう1度今、自分にとっていちばん原点になるべきものはなんだろうと考えたら、「ピアノとストリングスをメインにしたアルバム」だろう、ということになった。この1~2年ずっと考えていたことです。タイトルを『Piano Stories II』にしたのは、これが精神的に前作とつながるからです。」

「たとえば、クロノス・カルテットでジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をやってますよね。僕もいろいろとリズムを作ってレコーディングをするからよくわかるんだけど、(リズムを)キープする楽器がない時って、実はすごく大変なわけ。でも、ドラムを入れてしまえばリズムがまとまるというものでもなくて、(そのドラムに)寄りかかってしまうわけだから、逆にそこからは細かいニュアンスって出てこない。弦楽カルテットとか今回のような編成の時は、そうとうしっかりしないとリズム・キープもまともにできない。だからみんな避けてしまうけど、あえて大変なところに今回は挑みました。ポップスの人がよく思い浮かべる弦楽カルテットは、ビートルズの「Yesterday」のバックとか(笑)そういう清らかなイメージかもしれない。でも、実は「Kids Return」のようにゴリゴリしていてすごく大変なリズムもある。中途半端にリズムが入っているものよりずっとワイルドな感じが出るんです。そういう方向でやってみたんですよ。」

「「Les Aventuriers」ですね。先日のリサイタルではやりませんでしたが、11月の赤坂Blitzではやりますよ。そうとう(演奏が)厳しいから(笑)。ソロ・アルバムの弦の音はずっとロンドンで録ってきていたので、日本で作ったのは本当に久しぶりなんです。それで、ちょっと”浦島太郎状態”になっちゃった曲です(笑)。つまり言い方はへんなんだけど、日本の(弦の)人たちはうまいけど、リズムが違うんですよ。僕が弦に託しているのは、打楽器扱いの弦みたいなリズミックな部分が大きいんです。そういうニュアンスが当たり前と思っていたんですが、それなりの訓練をしないと無理なわけで…。そのあたり、思いのままにはできなかったのでちょっと残念でしたけどね。」

「「Rain Gaeden」ですね。クラシックですよね。意外なんだけど、フランス印象派みたいなピアノ、ドビュッシーとかラベルとか、あのへんのラインを今まであまり自分の作品に取り入れていなかったんです。好きなんだけど、なぜかなかった。ただこのところ個人的に、練習のためにラベルとかクラシックをよく弾いているんです。ラベルのソナチネなんか弾いていると、自分がすごく好きだということがよくわかる。その中で出てきたアイディアで、たまたまこういう曲ができたんです。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

The Wind of Lifeは、「JOE HISAISHI PIANO STORIES 2000 Pf solo & Quintet」コンサートなどにおいて、原曲とは少し異なるアレンジ(和音)にて演奏されている。

 

 

 

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

1. Friends (トヨタクラウンマジェスタCMより)
2. Sunday (NHK「日曜美術館」テーマ曲)
3. Asian Dream Song (TOTATAカローラCMより / 1998年長野パラリンピックテーマ曲)
4. Angel Springs (サントリーウイスキー 山崎CMより)
5. Kids Return (映画「キッズ・リターン」より)
6. Rain Garden
7. Highlander
8. White Night
9. Les Aventuriers
10. The Wind of Life

Musicians
Pan Strings
Yuichiro Goto String Quartet
Daisuke Mogi(Oboe)
Takashi Asahi(Flute)
Masayoshi FUrukawa(Guitar)
etc.

Recorded at:
Wonder Station
Victor Studio
Sound City