Disc. 久石譲 『ハウルの動く城 サウンドトラック』

ハウルの動く城 サウンドトラック

2004年11月19日 CD発売 TKCA-72775
2020年11月3日 LP発売 TJJA-10030

 

2004年公開 スタジオジブリ作品 映画「ハウルの動く城」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

新たに作曲されたテーマ「人生のメリーゴーランド」を中心に構成された映画本編の楽曲を収録。新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏で今回もホールで生収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2004年6月。倍賞千恵子の主題歌も収録。

 

 

制作ノート

1曲のテーマ曲が決め手となった音楽

今回の音楽制作はヨーロッパへの音楽ロケハンからはじまった。久石譲さんはアルザス地方を訪問、そこで掴んだ映画の世界観を宮崎監督からの音楽メモと照らし合わせながら創作し、東欧の名門チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、非常に完成度の高いイメージ交響組曲をまず作った。その中にはミロスラフ・ケルマン(63歳にしてチェコ・フィル現役のトランペット奏者)によるソロ演奏が印象的な「ケイヴ・オブ・マインド」という曲もあった。完成したアルバムを聴いた宮崎監督はこの曲を気に入り、劇中でも使用することにしたが、監督はここで久石さんに対しひとつの注文を出した。テーマ曲を1曲作ってほしい、というものだ。実は宮崎監督、これまでの作品では各キャラクターの感情や動き等場面に合わせた音楽をつけるという方向性で久石さんとやってきたのだが、今回は映画全体を通して常に流れる印象的なテーマを1曲欲しいと要望したのだ。久石さんの1曲のテーマ曲作りがはじまった。そうして誕生したのがあるワルツ曲。その曲を聞いた宮崎監督は大喜びし、「人生のメリーゴーランド」と命名した。その後、このテーマ曲を中心に本作の映画音楽は構成されていった。

(映画「ハウルの動く城」劇場用パンフレット より)

 

 

一つのテーマ曲で貫いた『ハウルの動く城』

で、まずは一曲め。弾き終わると宮崎さんは大きく頷いて微笑んだ。鈴木さんもまあまあの様子。ほっと胸を撫で下ろす。ちょっと勢いのついた僕は三番目に弾く予定だった曲の順番を繰り上げた。

「あのー、ちょっと違うかもしれませんが、こういう曲もあります」

宮崎さんたちの目を見ることもできず、ピアノの鍵盤に向かって弾き出した。

そのワルツは、そんなに難しくはないのだが、僕は途中でつっかえて止まってしまった。まるで受験生気分なのである。最高の緊張状態で弾き終えたとき、鈴木敏夫プロデューサーがすごい勢いで乗り出した。眼はらんらんと輝いている。「久石さん、面白い!ねえ、宮さん、面白くないですか?」宮崎さんも戸惑われた様子で「いやー」と笑うのだが、次の瞬間、「もう一度演奏してもらえますか?」と僕に言った。が、眼はもう笑ってはいなかった。

再び演奏を終えたとき、お二人から同時に、「いい、これいいよー!」「かつてないよ、こういうの!」との声をいただいた。

その後、何回かこのテーマを弾かされたが、この数か月本当に苦しんできたことが、ハッピーエンドに変わる瞬間だったので、ちっとも苦ではなかった。

Blog. 一つのテーマ曲で貫いた『ハウルの動く城』「人生のメリーゴーランド」誕生秘話 (久石譲著書より) 抜粋)

 

 

 

-それらはどんな曲だったんですか?

久石 「1曲目は、わりと誰が聴いても「いいね」と思えるオーソドックスなテーマでした。2曲目は、自分としては隠し球として用意していったワルツで。これは採用されないだろうと思って演奏したんですけど、途端に宮崎さんと鈴木さんの表情が変わって、すごく気に入ってくれたんです。それが『人生のメリーゴーランド』で、結局3曲目は演奏せずに終わりました。」

-なぜ、ワルツにしてみようと思ったんですか?

久石 「その理由はちょっと難しいんだけど、最近、個人的に音楽への要求度が高くなってきていて、映像に付けるには、自分のやっている音楽は強すぎるんですよ。でも、今自分が最も求めていることをやるのが作曲家としては正しいのだから、その落としどころをどうしようかと考えていて出てきたのが、ワルツだったんです。ワルツなら、自分がやりたい音楽と『ハウル』の映像の接点になってくれると。だから、宮崎さんに気に入ってもらえたのは、すごく嬉しかったです。」

 

-サントラのレコーディングでは、チェコフィルから一人だけトランペット奏者の方を招いたということですが?

久石 「ええ。交響組曲の中の「ケイブ・オブ・マインド」という曲のソロを吹いてくれたミロスラフ・ケイマルさんという方です。この曲は、サウンドトラックの打ち合わせの時に、試しにある重要なシーンに流してみたら、あまりにもぴたっりハマってしまったのでそのまま使おうということになったんです。でも、サウンドトラックの中に、チェコフィルの演奏を入れるわけにはいかないので、ケイマルさんをこの1曲のために呼ぼうということになりました。」

-他の方ではダメだったんですか?

久石 「ケイマルさんはこの曲を完全に自分のものにして吹いていたし、宮崎さんの心の中にも、ケイマルさんのトランペットの音が染みついていました。この曲を使うなら、ケイマルさん以外に考えられない、と。楽器というものは、他の奏者が演奏すると、全く音の表情が違ってしまうものなのですが、特にトランペットはそれが顕著なんです。」

 

-交響組曲もサウンドトラックも、完成度が高く、それぞれ違った魅力を持つ作品になったんじゃないでしょうか?

久石 「サウンドトラックは「人生のメリーゴーランド」を、これが同じ曲なのかと思えるくらい、いろいろ変奏しているので、そこを中心に楽しんでいただければ、と。交響組曲は、三管編成のフルオーケストラ作品としてかなり完成度が高いので、ぜひ聴いていただきたい。僕も、いつかコンサートで全曲まとめて演奏してみたいと思っているんです。」

Blog. 久石譲 「ハウルの動く城」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「サウンドトラックを録っている時に宮崎さんが、ある曲を僕がつけようと思っていた場面と違う所につけたいと思ったんです。宮崎さんは作業をしながらどんどん考えていく方ですから。その時、宮崎さんは悩まれたらしいですね。思っている所と別のシーンに曲を使ったら、僕が怒り狂うということを宮崎さんは知っていますから(笑)。オーケストラの音録りをしている間中、『ウ~ン』と唸っていたと聞きました。僕は離れた場所にいますから、そんなことは知らなかったんですが。それでとりあえず、宮崎さんが使いたいという場面にその曲をあててみたんです。これがキッカケの部分が音楽的にズレることも全然なくて、いいんですよ。ものを作る人間同士ですから、ぶつかり合うことや毎回いろんなことがありましたけれども、20年やれてこれて良かったと思いますね。画と音が生理的にシンクロすることも含めて、いい意味でここまで来れたんだなあと実感しました。どんな作品でも苦しみますから、最後は早く終わればいいと思うんです。でも『ハウルの動く城』に関しては、もう半年この仕事をやっていたいと思いました。」

「元々音自体に関しては、シンセサイザーとかいろんなものを使って、枠にはめない作り方をしてきたんです。『千と千尋の神隠し』ではバリ島や沖縄、アフリカのリズムを、現地の人が叩いたリズムをサンプリングしてオーケストラと融合させた。そういう音がアバンギャルドであるのは、僕にとっていいことなんです。ただ音の入れ方に関しては、これまでクリックを作ってかっちりと画にはめ込んでいたんです。ただ今はもっとファジーにやってもいいかなと。つまり多少音は伸びたとしても、そこに心がこもっていれば微妙なニュアンスが伝わるほうを選ぶ。これは自分がオーケストラの指揮をするようになって、変わったんだなと思うんです。音やリズムの正確さだけではなく、そこでもう一歩踏み込んだ表現をして次にいく。『ハウルの動く城』のレコーディングでは、そのニュアンスを大事にしました。とは言えちゃんとしたクリックも用意したんです。ただアクシデントでレコーディングの時に機械が故障して、曲の終わりを示すマーカーも無しに勘だけで3分ぐらいの曲をお尻がピッタリ合うようにしなくてはいけなくなって。それでも大体は合うものなんですよ。ちょっとしたズレが音楽的なニュアンスになって、映画の余韻にもなっている。作曲者の意図としては、画面が変わった瞬間に音がガンと入るとか、設計図を書いて組み立てていく。それでしっかりした演奏さえすれば、レコーディングはOKなんです。でも今回のように生の演奏をしていくと、自分が思ったテンポと実際にいい音楽になるテンポは違うんです。演奏者がいい気持ちになって朗々と演奏をすると長くなりますね。その長くなったことで成立するニュアンスの方を大事にして、その分をどこかで調整しようと努力する。こういうやり方をしていくと、映像が呼吸するように音楽も呼吸をしだすんです。がっちりしたものを作るよりも、音のニュアンスを活かす。これは僕にとって大きな方向転換なんです。ただ、最初からファジーでいいというのではない。きっちりと作り上げておいて、レコーディング本番で崩す。今回はそれが、いい効果を上げていると思います。僕にとっては新鮮で、凄く興奮するレコーディングでしたよ。」

Blog. 「月刊アピーリング 2004年10月号」久石譲スペシャルインタビュー “ハウルの動く城” 内容 より抜粋)

 

 

「あれは、実は宮崎さんの意図なんです。今回はソフィーというヒロインが90歳から18歳の間でどんどん表情が変わっていく。そこで一貫してこれはソフィーであるということを印象づけるために、そのときに必ず流れる音楽がほしいって要望があって。それは、宮崎さんの中でとっても重要だったんです。それで、実は劇中の全30曲中18曲がこのテーマのヴァリエーションなんです。これは作曲家にとっては、非常につらいんですよ。だって作曲の技術を駆使しなくちゃならないから(笑)。あるときは、ラブロマンス的なもの、あるときは勇壮で、あるときはユーモラスで。でも、大変ではあったけど仕上がりを観て、こういう意図を要求された宮崎さんはあらためてスゴイと思いましたね」

Blog. 「月刊ピアノ 2005年2月号」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「舞台が西洋で、フルオーケストラでやろうと決めていました。個人的には音楽的な主張が強くなって、複雑な方向にいきそうな時期でしたから、映像との調和を考え、シンプルなワルツの力を借りました。」

「僕らはそんなこと言い合いません。「最高!」と僕はいい、テレもあるのか「とんでもないものを作っちゃいましたね」と宮崎さんは毎回いわれる。僕が『ハウル』で「やったな!」と思うのは、これまでは1秒の30分の1まで計算して、映像と音楽を合わせてきました。今回はアバウトにしています。映像を見ながらオーケストラを指揮して、音楽をつけたのですから。」

「デジタルだとテンポが一定になるじゃない。そうした計算づくではなく、たとえシーンの合わせ目が微妙にズレたとしても、気分の充実を大事にしたかった。この方法は『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』以来。20年ぶりですが、後退ではなく、前進だと思っています。」

Blog. 「kamzin カムジン FEB. 2005 No.3」”ハウルの動く城” 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

「ハウルの動く城」

しばらく悩んだ後、「ハウル」のメインテーマはワツルがいいと考えた。アルバム「ETUDE」の影響もあり、自分の音楽が映像とマッチングするよりも強い主張を持ち始めていることをボクは自覚していた。この問題を解消するための方法がワルツのど導入だった。

どんなに複雑なテクスチュアを導入しても、ワルツという3拍子のリズムは行き過ぎた音楽表現を抑制してくれる。

ワールド・ドリーム・オーケストラでも演奏したショスタコーヴィチのワルツ(キューブリックの「アイズワイドシャット」のなかにも使われている)が頭のなかに残っていたこともあって、もともと4拍子で書いたものを3拍子に切り替えた。

優れたクリエイターは、自分の予想の範囲内の出来事に興味を示さない。予定調和はおもしろくない。

宮崎監督、鈴木プロデューサーの想定を裏切るのは大変だが、自分のためにも、そして映像と作品のためにも、「ハウル」のテーマをワルツにしたのは正解だった。

余談になるけれど、このとき別案として書いた曲も、完全に捨ててしまったわけではなくて、実は「ハウル」の中で使っている。どこの部分かは、読者の皆様のご想像にお任せしたい。

(「久石譲 35mm日記」(2006年刊)~「ハウルの動く城」項より 一部抜粋)

 

 

参考資料:
連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)

 

 

 

 

2020.11 Update

2020年発売LP盤には、新しく書き下ろされたライナーノーツが封入された。時間を経てとても具体的で貴重な解説になっている。

 

 

 

 

ハウルの動く城 サウンドトラック

1.-オープニング- 人生のメリーゴーランド
2.陽気な軽騎兵
3.空中散歩
4.ときめき
5.荒地の魔女
6.さすらいのソフィー
7.魔法の扉
8.消えない呪い
9.大掃除
10.星の湖 (うみ) へ
11.静かな想い
12.雨の中で
13.虚栄と友情
14.90歳の少女
15.サリマンの魔法陣~城への帰還
16.秘密の洞穴
17.引越し
18.花園
19.走れ!
20.恋だね
21.ファミリー
22.戦火の恋
23.脱出
24.ソフィーの城
25.星をのんだ少年
26. -エンディング- 世界の約束~人生のメリーゴーランド

M26.「世界の約束」 歌:倍賞千恵子
作詞:谷川俊太郎 作曲:木村弓 編曲:久石譲

作曲・編曲・指揮:久石譲
プロデュース:久石譲

演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:久石譲
トランペット:ミロスラフ・ケイマル (チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)

音楽収録:ワンダーシティ, すみだトリフォニーホール

 

Howl’ Moving Castle (Original Soundtrack)

1.Opening Song – Merry-Go-Round of Life
2.The Merry Light Cavalrymen
3.A Walk in the Skies
4.Heartbeat
5.Witch of the Waste
6.Sophie in Exile
7.The Magic Door
8.Irremovable Spell
9.Cleaning House
10.To Star Lake
11.Unspoken Love
12.In the Rain
13.Vanity and Friendship
14.A Ninety-Year-Old Girl
15.Saliman’s Spell – Return to the Castle
16.The Secret Cave
17.Moving to a New House
18.The Flower Garden
19.Run!
20.You’re in Love
21.Family
22.Love Under Fire
23.Escape
24.Sophie’s Castle
25.The Boy Who Swallowed a Star
26.Ending Song – Merry-Go-Round of Life

 

하울의 움직이는 성 Original Soundtrack
(South Korea, 2004) PCKD-20167

1.오프닝- 인생의 회전 목마
2.명랑한 경기병
3.공중 산책
4.고동
5.황무지의 마녀
6.방랑하는 소피
7.마법의 문
8.풀리지 않는 저주
9.대청소
10.별의 호수로
11조용한 상념
12빗속에서
13.허영과 우정
14.90세의 소녀
15.설리먼의 마법진~성으로의 귀환
16.비밀의 동굴
17.이사
18.꽃의 정원
19.뛰어!
20.사랑이야
21.패밀리
22.전쟁의 사랑
23.탈출
24.소피의 성
25.별을 삼킨 소년
26.엔딩- 세계의 약속 ~인생의 회전 목마

 

Disc. 久石譲 『世界の約束 / 人生のメリーゴーランド』

久石譲 『ハウルの動く城 主題歌 世界の約束』

2004年10月27日 CDS発売 TKCA-72774

 

2004年公開 スタジオジブリ作品 映画「ハウルの動く城」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲 主題歌:倍賞千恵子

 

 

本作品に収録されている「人生のメリーゴーランド」は、「ハウルの動く城 サウンドトラック」に収録のものと、尺(パート構成/繰り返し)などが異なる。サウンドトラック未収録versionとなる。

 

 

久石譲 『ハウルの動く城 主題歌 世界の約束』

1. 主題歌:世界の約束 歌:倍賞千恵子
2. テーマ:人生のメリーゴーランド (インストゥルメンタル)
3. 世界の約束 (オリジナルカラオケ)

「世界の約束」
作詞:谷川俊太郎 作曲:木村弓 編曲:久石譲

プロデュース:久石譲

ジャケット監修:宮崎駿

 

Disc. 『宮崎駿プロデュースの1枚のCDは、こうして生まれた。』

2004年8月6日 DVD発売 VWDZ-8066

 

ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル
『宮崎駿プロデュースの1枚のCDは、こうして生まれた。』

 

「大人が聴く歌、大人が唄える歌が欲しい」

宮崎駿監督のそんな想いから、このCDアルバム 「お母さんの写真」 製作プロジェクトは動き始めました。友人、上條恒彦の魂を揺さぶる歌声に感動し、この人に唄ってほしいという宮崎監督の強い願いは、糸井重里や久石譲など多くの人々を動かし、やがて、みんなの想いが1つの形になりました。CDの企画から出来上がるまでを収めたドキュメンタリー映像の第1部と、その完成を記念して三鷹の森ジブリ美術館で行われた上條恒彦のコンサートを収録した第2部との2部構成になっています。これは、大人が唄える歌探しに夢中になった大人たちの心温まる記録です。

 

【第1部】
大人が唄える歌をさがして。 構成・演出/浦谷年良
製作委員会のミーティングやレコーディング風景、宮崎監督や仲間達の熱い思いが伝わります。(約98分)

【第2部】
上條恒彦コンサート in 三鷹の森ジブリ美術館 構成・演出/関根聖一郎
アルバムからの6曲のほかに、「大きな古時計」、「だれかが風の中で」、「さんぽ」も唄われます。(約40分)

【映像特典】
宮崎駿監督作品
2003年夏 ハウス食品「おうちで食べよう。」シリーズ TV-CM
・ままごと篇 ・おつかい篇 ・路地裏篇 ・宣伝力一篇

 

 

久石譲も「油屋」「お母さんの写真」のレコーディング風景で登場する。宮崎駿監督や上條恒彦とのスタジオ内での録音のやりとりを収めた貴重な記録。(第1部、チャプター4,5)

 

 

【第1部】
大人が唄える歌をさがして。 構成・演出/浦谷年良
1.アルバムの発端
2.#見果てぬ夢
3.アルバムの企画会議
4.最初の録音日
5.#油屋&#お母さんの写真
6.#鞦韆(ぶらんこ)
7.#秋
8.#豚の丸焼き背中にかついで&#ひとつやくそく
9.#椅子
10.#牧場の朝&#冬の星座
11.アルバム製作委員会
12.#花あかり
13.#オルガンの丘#真夏の振り子
14.#祝祭
15.#何もいらない&#中央線

【第2部】
上條恒彦コンサート in 三鷹の森ジブリ美術館 構成・演出/関根聖一郎
1.油屋
2.お母さんの写真
3.真夏の振り子
4.中央線
5.冬の星座
6.牧場の朝
7.大きな古時計
8.だれかが風の中で
9.さんぽ

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『WORLD DREAMS』

久石譲 『WORLD DREAMS』

2004年6月16日 CD発売 UPCI-1003

 

新日本フィルハーモニー交響楽団との新しいポップス・オーケストラを目指したニュープロジェクト、それが「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」の誕生。

記念すべき第1弾。目玉は「ハードボイルド・オーケストラ」、例えるなら「夏場のラーメン」。ブラスセッションが鳴りまくる男らしいコンセプトとなっている。

 

 

World Dreams
これは、ワールド・ドリーム・オーケストラのテーマ曲。このオーケストラのアイデンティティを象徴する曲といってもいい。もともと祝典序曲のような曲を創ろうと思っていた。シンプルで朗々と唄う、メロディを主体とした曲。メジャーで、ある種、国歌のような格調あるメロディで、あまり感情に訴えるものではないもの。ストーンと潔い曲を書きたかった。

以前、『Asian Dream Song』という曲を書いた。今回は『World Dreams』だ。じゃあ、アジアの夢が世界の夢になったのかというと、そんなことはない。情報技術の飛躍的な進歩によって、世界はどんどん小さくなって、地域になってきている。同時に世界全体のシステムというものが壊れ始めている。しかし、これが世界の夢だったのか? 世界中の人々の夢は何だったのか? こんな世界を人々は望んではいなかったはずだ。音楽家としてできることは何なのか。僕は憑かれたように作曲した。

この曲が、聴く人のささくれ立った感情を少しでも和らげ、そして「まあ、いいか、明日もまた頑張ろう」と思ってくれたら…。そんな気持ちを代表しているようなのがこの曲だ。

曲ができて、3管編成のフルオーケストラのスコアにまとめるまで1週間ほど。それはちょっと「自分は何かに書かされているんじゃないか」と思うくらいの速さだった。

 

天空の城ラピュタ
これは、ティム・モリソンさんが吹くことを想定して、彼のためにアレンジした。これまで何度もやってきた曲だけれども、ティムさんという演奏家を得て、新日本フィルと共に演奏するというところで、改めてアレンジした。今までの印象とは違う曲になっている。ティムさんは本当に音楽性豊かな演奏家。大いに期待してほしい。

 

007 Rhapsody
僕にとっての007シリーズは、ショーン・コネリーに尽きる。ここでやる「007のテーマ」「ロシアより愛をこめて」「ゴールドフィンガー」は、ショーン・コネリーの一番いい時期の作品だ。また、全作を通じて音楽的にもメロディ的にも強いのはこの3作。オーケストラで演奏するということは、言葉(歌詞)がなくなるわけだから、その分メロディのしっかりした曲がいい。この3曲がベストだ。

 

The Pink Panther
ヘンリー・マンシーニのこの作品は、ワンフレーズ聴いただけで何の曲かはっきりわかる、とても個性的な曲。これほどユーモアがあって、しかもしっかり創られている曲は少ないので、これはのちのち、我々にとっても大事な曲になっていくと思う。だからぜひやりたかった。ところで、この曲はたいがい、ブラス・サウンドが中心になる。しかし今回は、「隠し味」とも言える、弦のちょっと色っぽい音がすごく重要な要素。それがたぶん、僕のアレンジの特色になるだろう。

 

風のささやき
映画「華麗なる賭け」のテーマ。これを選んだのは、映画よりもミシェル・ルグランの作品だから。彼にはクラシックの要素があり、ジャズにも精通していて、楽曲がとても機能的にできている。それでいて、変に情緒に流れない。有名な2小節のフレーズがほとんど変わらずにずっと続くこの曲は、フランス人である彼のハリウッド・デビューの曲だ。全世界を相手にしようって時に、彼は敢えて、このような機能的で情緒に流れない曲を持ってきた。これは大チャレンジだと思う。しかも、「このコード進行しかありえない」って時に、メロディは違うところにいって、不協和音になってしまう。この曲については、アレンジは10通りくらい書いたと思う。一番苦労した曲だ。木管と弦だけという非常にシンプルな形態をとったが、決して楽ではないこの曲で、CDでもオーケストラが素晴らしい演奏をしている。

 

Iron Side
テレビで部分的に使われることが多くて、そういうイメージが強いが、とてもいい曲だ。「鬼警部アイアンサイド」のテーマで、創ったのはクインシー・ジョーンズ。僕はクインシー・ジョーンズが好きでよく聴いてるけど、いつも羨ましいと思うのは、彼がソウル・ミュージックやブルースといったブラック・コンテンポラリーの原点をちゃんと持っていて、いつでもそこに帰ることができるということ。そんな彼の曲の中でも、これはとても洗練された楽曲。いろんなものが凝縮している曲だ。

 

China Town
同名の映画は1930年代を舞台にした、情ない探偵の話で、僕の大好きな映画。主演のジャック・ニコルソンも好きな俳優だ。曲はジェリー・ゴールドスミス。この曲のテーマが頭にこびりついていたので、今回、ティムさんというトランペット奏者を得て、どうしてもこの曲を入れたいと思った。ティムさんのジャジーな雰囲気も素晴らしい。その演奏からは、音楽性の幅の広さがわかる。

 

Raging Men
HANA-BI
北野武監督の映画「BROTHER」の中で使った曲。エネルギーの塊みたいな曲なので、オーケストラのパーカッションとブラスの激しさを聴いてもらいたい。『HANA-BI』は、マイ・フェイバリット・ソングのひとつ。今回はヴァイオリンをフィーチャーしている。これまでとは違った魅力を感じてほしい。

 

Mission Impossible
あまりにも有名な、「スパイ大作戦」のテーマ曲。この曲を創ったラロ・シフリンも大好きな作曲家だ。変型のはずなのに、心地いい5拍子。このリズムの凄さが、オーケストラのダイナミック・レンジを表現するのにぴったりだ。「ハードボイルド・オーケストラ」のシメの曲としてもピッタリではないか?

 

Cave of Mind
ここでもティムさんの豊かな音楽性が充分に発揮される。こうして一緒にツアーを回れることは大きな喜びだ。

 

Blog. 「World Dream Orchestra 2004」 コンサート・パンフレットより

 

 

 

ワールド・ドリーム・オーケストラ 久石譲

新日本フィルハーモニー交響楽団とのこのニュープロジェクトは、色々考えて「ワールド・ドリーム・オーケストラ」と命名した。そして、まずこのCDの制作を決めた。

目玉は「ハードボイルド・オーケストラ」という組曲だ。例えるなら「夏場のラーメン」。暑い夏に熱いラーメンを食べて汗を掻き切ると清々しくなる。それと同じで暑い夏に暑苦しいブラスセクションが大汗を掻いて鳴りまくって!という男らしいコンセプトなのだ。

そして、あまり今までやった事のなかった自分の楽曲でないもののアレンジに取り掛かった。「Mission Impossible」とか「007」とか、しかし、何か物足りなかった。

何をやりたいんだろう、このオーケストラと?
何のために……。

そんな中でこのオーケストラの為に曲を書き下ろした。もともと祝典序曲のようなものを、と思っていた。作曲している時、僕の頭を過ぎっていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。「何で……」そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調のあるメロディーが頭を過ぎった。「こんなことをするために我々は生きてきたのか?我々の夢はこんなことじゃない!」まるで憑かれたように僕は作曲し、3管フル編成のスコアは異様な早さで完成した。タイトルは「World Dreams」以外なかった。漠然と付けた名前、「ワールド・ドリーム・オーケストラ」ということ事体がコンセプトそのものだった。

レコーディングの当日、まさにこれから録る!という時に僕は指揮台からオーケストラの団員にこれを伝えた。「感情的な昂りは音楽事体には良くない」といつも心がけていたが、込み上げてくるものを押さえることが出来ないまま僕は腕を振り続けた…。そしてホールに響いたその演奏は、今まで聞いたことがないくらいすばらしいものだった。

その瞬間、僕らは「ワールド・ドリーム・オーケストラ」として1つになった。

久石譲

 

 

 

最後のレコーディング・セッションが終わった瞬間、久石さんは僕と笑顔で固い握手を交わしました。しかしこれは単に久石さんとコンサートマスターである僕との握手ではなく、このオーケストラ全員と久石さんとの握手の象徴なのだという実感が沸き起こりました。

初日のリハーサルで一曲目に演奏した「World Dreams」を弾き終えた時に「これは素晴らしいアルバムになる」という直感を得ましたが、レコーディングが進むにつれ僕のそれは確信へと変わっていきました。何より僕にそう思わせたのは、プレイバックの度に全員が集まりそれを聴き、終わればまたディスカッションし、最高の演奏を残そうというオーケストラの結束力と久石さんとの一体感が増しているのが感じられたからです。

僕達が残した最高のテイクを今はトラックダウンするという作業を久石さんと僕は行っていますが、時間をおいてスタジオで今聴いても、最大のエネルギーと繊細さで紡ぎ出された全ての作品は永久に生き続けていける強い生命力を吹きこまれたものとして響いています。

皆さんにそれらを、CD、あるいはコンサートでお届けできることを嬉しく思っています。

ソロ・コンサートマスター 崔文洙

 

 

今回、久石譲さんと新日本フィルハーモニー交響楽団とのレコーディングプロジェクトに参加出来た事を心から光栄に思います。久石さんの音楽は全ての人々の心を包み込み、そして素晴らしいオーケストラのメンバーによって演奏されました。また、この音楽を再び一緒に出来る事を楽しみにしています。

トランペット・ソリスト ティム・モリソン

(コメント ~CDライナーノーツより)

 

 

 

(1) 『WORLD DREAMS』は、もともと祝典序曲のようなものを、とこのプロジェクトのために制作。久石譲本人が、「国歌のような格調あるメロディーが頭を過った」と語っているとおり、壮大であり品格ある美しいメロディー、3管フル編成のスコアとなっている。まさに、このプロジェクトを象徴する曲であり、類まれな名曲の誕生だと思う。

また自身の映画音楽作品からは、以下のとおり。

(2) 『天空の城ラピュタ』では、トランペット奏者ティム・モリソンさん迎えたことにより、なんとあのパズーの印象的なトランペットから幕を明ける。トランペットのメロディーとオーケストラがだんだんと躍動感を増すなか、あのメインテーマへ。ここでもトランペットがフィーチャーされている。後半は冒頭のパズーのトランペットメロディーとメインテーマが絡みあうなか、一気にダイナミックなクライマックスを迎える。おそらくパズー(=男らしい)を主役としたアレンジの妙を体感できる、高揚感いっぱいの最高傑作、もうひとつのラピュタの世界を体験できる。

(8) 『Raging Men』では、北野武監督 映画「BROTHER」の本編さながら、パーカッションとブラスセッションがこれでもかというくらいかき鳴らし響きわたる。

(9) 『HANA-BI』では、このプロジェクトのためと思われるが、あえてピアノを編成から外し、原曲ではピアノが印象的だった叙情的なメロディーを、ヴァイオリンやイングリッシュ・ホルンが官能的に奏で、ストリングのクライマックスと、ひと味ちがう、より感情の揺れが表現されたようなアレンジとなっている。

(11) 『Cave of Mind』は、映画「ハウルの動く城」イメージ・アルバムにて同曲名で発表され、サウンドトラックでは『星をのんだ少年』という曲名になり、本編でも印象的なシーンに流れていた名曲。もともとトランペットの美しい響きが堪能できるこの曲は、もちろん本作では、ソリストのティム・モリソンさんのトランペットが華を添えている。

 

その他、幅広い作曲家の映画音楽を編曲し、演奏している。

(3) 『007 Rhapsody』では、ハードボイルドでダンディなジェームズ・ボンドの世界を、時に激しくドラマチックに、時にセクシーでムード感いっぱいに、表現している。

(10) 『Mission Impossible』でも、まさに「スパイ大作戦」の臨場感、興奮、スリリングさが凝縮された、ブラスセッション&パーカッションも大活躍な楽曲となっている。

他の楽曲もふくめ、本作に収められたすべての楽曲、その編曲、その演奏と、ポップスオーケストラの本領や持ち味をフルに堪能できる、そんな贅沢なアルバムである。

補足ではあるが、トランペットのソリストとして迎えられたティム・モリソンさんは、元ボストンポップス首席奏者も務めている。

このニュープロジェクト「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」では、数多くのコンサートも開催されている。

 

 

 

久石譲 『WORLD DREAMS』

1. World Dreams (書き下ろし新曲)
2. 天空の城ラピュタ (映画「天空の城ラピュタ」より)
3. 007 Rhapsody (映画「007 James Bond」より)
4. The Pink Panther (映画「ピンクパンサー」より)
5. 風のささやき (映画「華麗なる賭け」より)
6. Ironside (ドラマ「鬼警部アイアンサイド」より)
7. China Town (映画「チャイナタウン」より)
8. Raging Men (映画「BROTHER」より)
9. HANA-BI (映画「HANA-BI」より)
10. Mission Impossible (映画「スパイ大作戦」より)
11. Cave Of Mind (映画「ハウルの動く城」より)

Trumpet Solo:Tim Morrison 2. 4. 6. 7. 11.

Recorded at Sumida Triphony Hall

except
Ironside Arranged:Kousuke Yamashita

 

WORLD DREAMS

1.World Dreams
2.Castle in the Sky
3.007 Rhapsody
4.The Pink Panther
5.The Windmills of Your Mind
6.Ironside
7.China Town
8.Raging Men
9.HANA-BI
10.Mission Impossible
11.Cave Of Mind

 

Disc. 久石譲 『イメージ交響組曲 ハウルの動く城』

久石譲 『イメージ交響組曲 ハウルの動く城』

2004年1月21日 CD発売 TKCA-72620
2020年11月3日 LP発売 TJJA-10029

 

2004年公開 スタジオジブリ作品 映画「ハウルの動く城」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

ヨーロッパをイメージして久石が作曲した交響組曲をチェコ・フィルハーモニー管弦楽団が演奏。プラハのドヴォルザークホール~芸術家の家で2003年10月に録音、ロンドンのアビーロード・スタジオで仕上げた。イメージアルバムの枠を超えた野心作。

 

 

エキサイティングな『ハウル』の旅/久石譲

宮崎監督の作品の場合、いつもイメージアルバムを作ることから始めていたのですが、『ハウルの動く城』は舞台がヨーロッパということもあって、最初からオーケストラの音というイメージがあったんです。個人的にも、最近、オーケストラとともにコンサートを行うケースが多くなっていて、頭の中でオーケストラが響きやすかったのかもしれません。それで、『もののけ姫』の時に一緒にやったチェコ・フィルハーモニーという世界的にも素晴らしいオーケストラでいこうと思いました。

目指したものは、映画で使われる音楽をある程度想定しながらも、楽曲としての完成度を高めること。サウンドトラックというものは、どうしても映像に縛られてしまうものです。シーンの長さによって曲の長さも決まるし、セリフや効果音のために音の隙間を作ったり、テンポを調整したりしなければならない。

今回は、映像と一緒になることで初めて成立する音楽ではなく、100%音楽だけで世界観を作り上げることを念頭に置きました。

もう一つは、スタンダードなオーケストラ作品を作りたかったということです。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』では、バリ島や中近東の楽器、あるいは日本の太鼓を使って、エスニックな雰囲気を出したんですけど、今回はそういう特徴的な音を極力排除しました。クラシック音楽が使う普通の楽器だけを思いっきり使って、なおかつ、いかに個性的な音楽にできるか、ということにチャレンジしたのが、一番の特徴です。実は、クラシックの現代音楽を除いて、日本でそういう音を作っている人はほとんどいないのです。僕が弾くピアノも排除しました。従来は、重要なメロディはピアノが受け持つことが多かったんですけど、今回はプレイヤーとしての久石譲には登場願いませんでした。サウンドトラックを作る時は、ピアノがまた入ってくると思いますが。

作曲は難産でした。まったく書けない状況が続いて困っていたんですけど、八ヶ岳のふもとのリゾートスタジオにこもったら、いきなり書けたんです。オーケストラ用の曲を8日間で8曲という奇跡に近いペースでした。それを持ってプラハに乗り込んで録音。そして、ミックスダウンとマスタリングはロンドンのアビー・ロードスタジオで行いました。

僕がアビー・ロードスタジオを使ったのは10年振りなんです。親友のチーフエンジニアが突然亡くなってから、足が遠くなってしまって。10年前にはアシスタントだったサイモン氏という人が、今回エンジニアを務めてくれました。10年の間に彼は、『ハリー・ポッターと賢者の石』の音楽などを手がける、世界的なエンジニアに成長していたのです。彼と一緒に仕事できたのは、大きな喜びでした。チェコ・フィル、アビー・ロードスタジオによって、世界の第一線の音が出来上がったと思います。八ヶ岳からプラハ、ロンドンへ…。『ハウル』の旅はかなりエキサイティングなものになりました。

そして、旅の始まりは宮崎さんの考えている『ハウル』の世界観です。今回は舞台がヨーロッパということで、全世界の共通語で表すことができる世界だと思うんです。世界中の誰もが楽しめる物語の中に、普遍的な人間の気持ちが散りばめられている。それを音楽でも表現できたらいいなという思いが、「イメージ交響組曲『ハウルの動く城』」の根底にありました。やっぱり宮崎さんの考えがあったからこそ、このアルバムは成立したのです。

(CDライナーノーツより)

 

 

「現地の空気感みたいなものが自分で分かったから、直接的な影響はなかったんだけど、『ハウル』の世界観を掴むのには、役に立ちましたね。とてもきれいなことろで、これはちょっと音楽的に奇をてらったことをするのはやめようと。オーソドックスに作ってみようと思いました。」

「ここ数年、個人的にもオーケストラとコンサートで回る機会が多くなっているので、頭の中でオーケストラが響きやすくなっているんだと思います。サウンドトラックというのは、シーンの長さやタイミングにどうしてもしばられてしまう、映像のための音楽なんですけど、交響組曲『ハウルの動く城』は、音楽だけで100%イメージできる世界を目指しました。特徴としては、普通サウンドトラックではセリフの邪魔をしてしまうためにあまり使わないブラスを、かなりフィーチャーしています。それぞれの楽器を、テクニカルな面で限界近くまで引き出すことができたので、自分としても満足がいく作品になりました。」

「オーケストラ作品に徹したので、なるべくピアノは排除しました。逆に、サウンドトラックは主人公ソフィーの世界に寄り添って、もっと個人的な語り口になるので、そちらではピアノの出番が多くなるだろうと考えていました。」

Blog. 久石譲 「ハウルの動く城」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「今回の映画で面白いことがあったんです。『ハウルの動く城』のイメージアルバム用に作った曲を、『ちょっと、画に当ててみますか?』と宮崎さんに言ってみたんです。映画の中では顔のカットやシーンが変わったりしますね。僕の曲にもリズムが変わる部分が当然ある。でもその画と曲タイミングが、全部合っていたんです。これには非常に驚きました。その時、『20年も一緒にやっているから合うんだね』と言った人がいます。僕もそうかなと最初は思ったんですが、実は逆なんですよん。何年一緒にやっていても合わない人とは合わない。つまり宮崎さんとは、最初から生理的なテンポ感がどこかで一致していたから、20年続いた。そういう気がするんです。ですから宮崎さんとは大変幸運な出会いだったと思いますし。その出会い自体が嬉しいことですね。」

「このところ、自分の仕事の中でオーケストラとの仕事が多いこともあって、表現として一番それがフィットしていると思ったんです。映画音楽を書く場合に自分が音楽家として、その時にいいと思っているものは何かが一番大事なんです。その時に自分が興味を持っていて、絶対に琴線に触れるものがありますよね。僕はそれを、極力映画の方へ持ち込むようにするんです。音楽は文章のように、論理的に組み立てるだけではできない部分がある。そこで本人が、これがいいんだと強く思うことが大事だと僕は思っているんです。今回ではそれが、オーケストラを使うことだったんですね。」

「基本的には音楽の内容の説明なんですが、宮崎さんから『今回はこんな風に行きたい』といった説明があるんです。他にソフィーやハウルといった登場するキャラクターのイメージなどですね。そこから曲のテーマとなる題材をもらって、考えていくんです。またこの映画は、舞台設定がヨーロッパと明確に出ている。これは『魔女の宅急便』以来のことです。ただそのヨーロッパにしても、実在の世界ではなく宮崎さんの作り出したヨーロッパなんです。それだけに、どこか場所柄を限定する音楽ではありたくはない。あくまで宮崎さんがやろうとしている世界観を持って如何に音楽で表現するか。それを考えるんです。そこで今回はヨーロッパにもエスニック音楽はあるんですが、そういうローカルカラーはあまり出す必要がないと。色の強い特殊な楽器も使わないで、出来るだけストレートなオーケストラの音にしようと思いました。」

「どちらかと言えば、僕のイマジネーションを羽ばたかせて作る感じですね。イメージアルバムは、あまり作品と整合性のあるものをやってはいけない。むしろ、ちょっと離れた方がいい場合もあると思っているんです。言い方は変ですが、いい加減なほうがいい(笑)。全曲をサウンドトラックで使うわけではないですから。その中で宮崎さんのイメージにフィットした曲があれば、そこから次の段階のサウンドトラックを考えていけばいいんです。ところが今回はオーケストラを使ったことで、精神的には少しサウンドトラックの方へ入り込んでいた部分がある。『もののけ姫』でも一緒に仕事をしたチェコ・フィルハーモニーに演奏してもらうということもあって、チェコ・フィルまでいってあんまりみっともないスコアでは演奏をしたくなかったし。ですからアルバム自体に完成度を求めたところがあるんです。そういう意味で、イメージアルバムとしてはいいやり方ではなかったのかなと思っているんです。」

「あのイメージアルバムは、オーケストラ作品として凄いと思うんです。かつてプロコフィエフが書いた『ロミオとジュリエット』というバレエ曲がありました。あの曲は最初、注文主のバレエ団から『こんな曲は最低だ』と評価されて、まったく上演できなかった。その曲を組曲にしたものがアメリカで上演され、楽曲が評判になったことからバレエ上演へと繋がったんです。今や『ロミオとジュリエット』はバレエの名曲になっています。それと似たような意味で、このイメージアルバムに収められた交響組曲はこのままイメージアルバムだけで終わらせるのはマズイと思っています。自分なりに集中力を持って作った世界なので、実際の映画『ハウルの動く城』のサウンドトラックとは別かもしれないけれども、ひとつのオーケストラ作品として今後もアピールしていきたい。個人的にそう思っていますよ。」

Blog. 「月刊アピーリング 2004年10月号」久石譲スペシャルインタビュー “ハウルの動く城” 内容 より抜粋)

 

 

 

久石譲 『イメージ交響組曲 ハウルの動く城』

1. ミステリアス・ワールド
2. 動く城の魔法使い
3. ソフィーの明日
4. ボーイ
5. 動く城
6. ウォー・ウォー・ウォー (War War War)
7. 魔法使いのワルツ
8. シークレット・ガーデン
9. 暁の誘惑
10. ケイヴ・オブ・マインド

作曲・編曲・プロデュース:久石譲

プラハ(チェコ) 2003年10月18~20日
指揮:Mario Klemens
演奏:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
録音ホール:芸術家の家 (ドヴォルザーク・ホール)

ロンドン (U.K.) 2003年10月22~24日
ミキシング&マスタリングスタジオ:アビー・ロードスタジオ

 

Image Symphonic Suite Howl’s Moving Castle

1.Mysterious World
2.The Wizard of the Moving Castle
3.Sophie’s Tomorrow
4.Boy
5.The Moving Castle
6.War War War (War War War)
7.The Wizard’s Waltz
8.Secret Garden
9.Dawn’s Allure
10.Cave of Mind

 

Disc. 久石譲 『PRIVATE プライベート』

久石譲 『PRIVATE プライベート』

2004年1月21日 CD発売 WRCT-1007

 

久石譲はボーカリストだった!~本人セレクトによる初のボーカルベスト~

 

 

寄稿

映画を見ていると、ひとつやふたつ必ずや印象的なシーンがあります。特に一流の映画ともなれば、人間の視覚だけではなく、聴覚をも刺激して、音楽や効果音を含めた、ひとつのシーンを鮮明に心に刻み込むものです。また、逆に映像と音楽がミックスされることで、より印象に残るシーンが生まれます。たとえばホラー映画の代表作『エクソシスト』は、あの名曲「チューブラー・ベルズ」がなければ、怖さも半減してしまうでしょう。

日本映画を見ていて、あの名曲と言えば必ず”久石譲”という名前が浮かぶようになったのは、いつ頃からでしょうか?彼は誰もが知っている『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』などの宮崎駿作品、『ソナチネ』『菊次郎の夏』『BROTHER』などの北野武作品、『ふたり』『はるか、ノスタルジィ』などの大林宣彦作品の音楽を担当し、日本アカデミー賞最優秀音楽賞を5回も受賞している、日本映画音楽の”ヒットメーカー”です。久石譲作品はなぜたくさんの人たちのハートを捕らえて離さないんでしょうか?それは彼の作るメロディーが聴き手の心のひだにまで染み込んできて”心の琴線”を震わせる力があるからだ、と思います。

地震のエネルギーの大きさは”マグニチュード”で表します。だとしたら、名曲のエネルギーの大きさは”曲力”で表せるのではないでしょうか?すなわち、この曲は”曲力10”のすごい名曲である、云々。おそらく久石譲の作る曲は全て”曲力10以上”のすごい”名曲”に違いありません。だからこそ、たくさんの人たちのハートを侵食して、気づかないうちに心を奪ってしまっているのです。

ニューアルバム「プライベート」は、1987年『となりのトトロ・イメージソング集』から1993年のNHKスペシャル『人体II・脳と心』までのカタログから選りすぐられた久石譲本人によるボーカル曲のみで構成されています。今となってはピアニストのイメージが強い彼の作品の中でも、貴重な一枚になる事は間違いないでしょう。

このアルバムを聴いていると、自分の”脳裏のスクリーン”に自然と映像が浮かんできます。そして、いつしか心のひだから素直な感情が溶け出して、心が癒やされます。久石譲の作る曲はまさに”名曲”という”良薬”なのです。

宮澤一誠

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

This album made by selection old following albums
M-3:NHKスペシャル 驚異の小宇宙「人体II 脳と心」サウンドトラック Vol.1 (1993)
M-12:「となりのトトロ」イメージソング集 (1987)
M-11:「ふたり」オリジナルサウンドトラック (1990)
M-4,5,6,9,10:illusion (1988)
M-2,7,8:PRETENDER (1989)

 

 

久石譲 『PRIVATE プライベート』

1.Nightmoves
2.MEET ME TONIGHT
3.Brain & Mind
4.風のHighway
5.Night City
6.冬の旅人
7.MARIA
8.WONDER CITY
9.ブレードランナーの彷徨
10. 少年の日の夕暮れ
11.草の想い
12.小さな写真

All Composed, Arranged, Produced and SUng by Joe Hisaishi

Original Tracks Recorded at Roppongi, Kannonzaki, New York and London

Remixed by Suminobu Hamada (M-7), Teruaki Ise (M-9)
Remixed at WonderStation
Mastering at WonderStation

 

1.Nightmoves
Lyric:Michael Franks
Composition:Michael Lewis Small
Arrangement:久石譲
Volcal:久石譲

2.MEET ME TONIGHT
Lyric:宇多田照實
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

3.Brain & Mind
Lyric:久石譲
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲・Jackie Sheridan

4.風のHighway
Lyric:松本一起
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

5.Night City
Lyric:三浦徳子
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

6.冬の旅人
Lyric:松本一起
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

7.MARIA
Lyric:BANDIT・KYSIA BOSTICK
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

8.WONDER CITY
Lyric:宇多田照實
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

9.ブレードランナーの彷徨
Lyric:松本一起
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

10.少年の日の夕暮れ
Lyric:松本一起
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲・藤澤麻衣

11.草の想い
Lyric:大林宣彦
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:大林宣彦・久石譲

12.小さな写真
Lyric:宮崎駿
Composition&Arrangement:久石譲
Vocal:久石譲

 

Disc. 近藤浩志 『ARCANTO』

近藤浩志 ARCANTO

2003年12月3日 CD発売 WRCT-1008

 

久石譲プロデュースによる、チェリスト・近藤浩志のデビューアルバム。

 

 

~曲目について~

久石さんから僕のソロアルバムを創ろうよ、とのお話を頂き当初、全曲久石さんの曲でと思っていた僕にとって、選曲はとても困難な作業でした。しかし久石さんの助言のもと、練りに練られたこの選曲は、今、録音を終えてみると、どの曲も最初から決まっていたかの様な愛しい気持ちを持てる物になりました。

久石さんの曲、「風の谷のナウシカ組曲」……。
この曲との出会いは当時学生だった僕と、今のこの時をつなぐかけがえのないものになりました。その20年の軌跡の中で幾度となくこの曲に触れてきましたが、作曲者である久石さんと10年ほど前から一緒に音楽をさせて頂けるようになり、少しずつ本当の歌を教わってきたことが今ここに、僕が出来ること全てを懸けたナウシカ組曲となったことを幸せに思います。共に成長してきたこの組曲は僕の音楽の原点であり続けると思います。光と影。光が強ければ強いほど影は色濃くなり、また、影が深ければ深いほど、僅かな光に優しさや暖かさを感じる。そんなことを感じながらこの曲を弾きました。

静かな湖面に輝く曲線を浮かべてたたずむ「白鳥」。清らかな魂への救いを神に祈るタイスの姿を描いた「タイスの瞑想曲」。2曲とも微細ながらも生命の源を感じる力強さや厳しさがあるような気がします。力強く、厳しく、そして優しく歌うことを教えていただいたのは他でもない久石さんになのです。

歌うと言うことは僕の音楽の原点です。歌のように弾きたい。ずっとそう思ってきました。このアルバムにも原曲が歌の曲が3曲あります。夢にまであらわれる、愛する人への思いを歌った「夢のあとに」。愛してしまったことを悔やみながらも忘れ得ぬ思いをうちあける「花の歌」。そして、張り裂けそうな切ない旋律が終わりなく満ち引きする波のように歌いうねる「ヴォカリーズ」。

もうひとつ、歌曲ではないですが僕の中では歌になった曲。死者への問いかけ。鎮魂。そして思い出。凛とした流れの中に胸が裂ける様な慟哭の溢れている「ノクターン 第20番 嬰ハ短調」。演奏中涙がとまりませんでした。

心の一番深い場所に咲く一輪の花のような曲達です。そしてその場所へはとても一人では行けませんでした。このアルバム制作に関わって下さったスタッフ誰一人欠けてもこの演奏は出来なかったと思います。久石さんの大きな愛情は勿論ですが、是認の優しい気持ちが僕の音楽の道標になりました。

沢山の優しさと思いやりで創られたこのアルバム。
聴いて頂ける全ての方々にその心が伝わればと思っています。

2003年10月 近藤浩志

(CDライナーノーツ より)

 

 

近藤さんとのこと

近藤さんは、僕の文字通りの戦友である。数々の修羅場をふたりでくぐり抜けて来て、今や「あうん」の呼吸で演奏できる数少ない演奏家である。

近藤さんとは、彼が新日本フィルでチェロのトップをやっている頃に知り合った。だからもう10年以上の付き合いになる。その後、久石譲アンサンブルのコンサートにソリストとして参加してもらい、ミニマルミュージック系のやや先鋭な音楽をずっと一緒にやってきた。今年春先の9人のチェリストとピアノのコンサートツアーでは、コンサートマスターとして、僕の音楽を再現するのに最大の力を発揮して頂いた。近藤さん抜きでは、あのコンサートの成功はあり得なかった。そしてその感動の模様をDVDとして世に出す決心までつけさせたのも近藤さんの力だと思っている。

今回ワンダーランドレコード初のオリジナルアルバムアーティストとして近藤さんを迎えられたことは、僕個人としてもワンダーランドレコードとしても最大の喜びである。

ナウシカ組曲は、藤原真理さんによる素晴らしい名演が残されているが、今回、近藤さんの力強い演奏で、新たな「ナウシカ」として蘇った(一部編曲の手直しも行った)。

近藤さんはその大柄の体型から、優しくおおらかな人柄を想像しがちであるが(事実その通りでもあるのだが)、実に神経の細やかな、芸術家としての資質を十二分に持っている人である。そのあたりはこのアルバムにも十分に反映されている。アルバムアーティストは点であってはならない。線として次回作、そのまた次回作と作っていくべきだと僕は思っている。今後とも近藤さんの次回作、そして僕のコンサートと、一緒にやっていけることを心から愉しみにしている。

2003年10月 久石譲

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

名曲「風の谷のナウシカ組曲」[改訂版]、2003年4月オペラシティで行われた久石譲コンサートツアーのライブ音源「la pioggia」(久石譲ピアノ)、その他にもフォーレやショパンなどクラシックの名曲を収録。

タイトルの「ARCANTO」(アルカント)とは…Arco(弓)、とCanto(歌う)をかけあわせた造語である。

 

 

近藤浩志 ARCANTO

「風の谷のナウシカ」組曲[改訂版] / 久石譲
1. 風の伝説
2. レクイエム
3. 遠い日々
4. 谷への道
5. はるかな地へ

6. 夢のあとに / フォーレ
7. 白鳥 / サン=サーンス
8. ヴォカリーズ / ラフマニノフ
9. 花の歌~歌劇「カラメン」より~ / ビゼー
10. ノクターン 第20番 嬰ハ短調 / ショパン
11. タイスの瞑想曲 / マスネ
12. La Pioggia / 久石譲 (映画「時雨の記」より)

近藤浩志(チェロ)
吉澤友里絵(ピアノ) except M-12

久石譲(ピアノ) M-12

 

1 ~ 5 are labeled “Nausicaa of the Valley of Wind” Musical Suite (Revised Edition)
12 is a live version of “la pioggia” from “Diary of Early Winter Shower”

Produced by Joe Hisaishi

Violoncello: Hiroshi Kondo
Piano: Yurie Yoshizawa (Except M-12)
Joe Hisaishi (M-12)

Violoncello (M-12): Takashi Kondo, Susumu Miyake, Makoto Osawa
Haruki Matsuba, Yoshihiko Maeda, Masanori Taniguchi
Hiromi Uekusa, Seiko Ishida

Recording & Mixing Engineer: Suminobu Hamada
Assistant Engineer: Toshiyuki Takahashi
Recorded & Mixed at Wonder Station
Mastered at Wonder Station

 

Disc. 久石譲 『空想美術館 ~2003 LIVE BEST~』

久石譲 『空想美術館』 2003 LIVE BEST

2003年10月22日 CD発売 UPCH-1299
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9073/4

 

 

~空想美術館紀行~

久石譲さんの演奏には必ず光景が伴う。オーケストラや観客、或いは久石さん本人の向う側に、かつて旅で出会った人々やその時々の風のようなものが立ち上がるのだ。たとえ有名な映画曲であろうと、目をつぶれば私には独自のシーンが浮かんでくる。見事、としか言い様がない魔法である。

 

Musée imaginaire (Orchestra Ver.)
エクアドルの首都キトからバスでアンデス山脈を越えた時、高度四千メートルで突然もやが晴れ、笑顔で手を振るインディオの子供たちが現れた。この曲をあの峠でもう一度聴いてみたい。

Summer
米国オレゴン州のキャノンビーチには日本の風鈴八百個と暮らす老人がいた。彼は東京を空襲したパイロットで、海風に鳴りやまぬ風鈴を聴きながら静かに枯れ枝と化していくのだった。風鈴はまだ揺れているだろうか。

MIBU
展開とともにまったく新しいイメージが湧きあがるこの曲は、アンコールワットの日の出を思い出させた。たとえ大地が戦乱の荒廃にあったとしても、日輪は何万もの色彩をもって新たな一日を祝福しようとしたのだ。

Silence
トルコのエフェス遺跡のイメージ。エーゲ文明の遥か昔に愛しあった男女の吐息が、今もなお朽ちた柱に絡み付いているようだった。風は時の向う側から情念と音楽を運んでくるらしい。

月に憑かれた男
三年間暮らしたニューヨークで、やるせない気持ちになる度にブルックリン橋を歩き、そこから見える窓灯りを数えていた。どの窓にも命があり、苦悩があり、歓喜がある。その痛いような感覚を思い出させる曲。

夢の星空
ベトナムの漁村を夜明けに訪れたら、歩き始めたばかりの漁民の子が丸太の上に乗って用を足し始めた。あっけらかんとした笑い声、世界で一番幸せそうだったあの子の笑顔に、いつまでも美しい星空とこの曲を捧げたい。

Bolero
チェコの田舎街道はひまわり畑に埋もれているため、夏になると地平線までの黄色で覆われる。しかしその横を走る線路はかつてアウシュビッツまで続いていたのだ。無数の魂が風にそよいでいたようなあの夏空。黄色。

a Wish to the Moon
沖縄から台湾までは貨物船の旅がお薦め。島をひとつ経る度に珊瑚礁の色は濃くなり、五線譜から飛び出す音符のようにイルカたちがジャンプを繰り返していた。

KIKI
洞窟ホタルを見るためにオーストラリアのアウトバックを踏破した夜。気がつけば横をカンガルーの群れが並走していた。この曲のように心が舞い続けた夜。

谷への道
ヨルダン砂漠のロレンス砦に行った時、どこまでも続く赤い砂漠の果てに、三千年前の落書きがあることを知った。どうしてこの曲はあの時のジープの荷台を思い出させるのだろう。歴史なんて一瞬で、それよりも大切なのは今生きているこの鼓動なのだと曲が伝えているようである。

Musée imaginaire (9 Cellos Ver.)
バージョンが変われば曲がイメージさせる疾走感も異なる。世界で一番好きな列車、ハンブルグ発ブダペスト行のハムレット号だ。エルベ川沿いの小鹿飛び出す列車の旅を、この曲を聴いたすべての人に体験してもらえたらと思う。

TETSUYA (ex. ドリアン助川)

(空想美術館紀行 ~CDライナーノートより)

 

 

2003年春のチェリストとのツアーと、同年夏の新日本フィルとのツアー、この2つのツアーからベスト・テイクを選りすぐったライヴ・ベスト盤。ピアノ・ソロアルバム『ETUDE』の名曲たちをシンフォニック・アレンジで聴くことができる。

 

 

2018年4月25日 LP発売 UMJK-9073/4
完全生産限定盤/重量盤レコード/初LP化

 

 

 

久石譲 『空想美術館』 2003 LIVE BEST

1.Musée imaginaire (Orchestra Ver.) (NHK「世界美術館紀行」より)
2.Summer (映画「菊次郎の夏」/トヨタ カローラ CM より)
3.MIBU (映画「壬生義士伝」より)
4.Moonlight Serenade
5.Silence (ダンロップ VEURO CMより)
6.月に憑かれた男
7.夢の星空
8.Bolero
9.a Wish to the Moon (キリン一番搾り生ビール CMより)
10.KIKI (映画「魔女の宅急便」より)
11.谷への道 (映画「風の谷のナウシカ」より)
12.Musée imaginaire (9 Cellos Ver.) (NHK「世界美術館紀行」より)

Recorded at Tokyo Metropolitan Art Space , Tokyo Opera City Concert Hall , Niigata-City Performing Arts Center

Conducted by Kim Hongje (except M10-12) , Joe Hisaishi (M10-12)

Orchestra:New Japan Philharmonic

 

Disc. 上條恒彦 『お母さんの写真』

お母さんの写真 久石譲

2003年7月30日 CD発売 TOCT-25120
2013年6月5日 CD発売 TKCA-73918

 

「おとなが歌える歌」をテーマに、宮崎駿のプロデュースで上條恒彦が歌ったアルバム

 

 

作家陣にはジブリ映画でおなじみの宮崎駿(作詞)、覚和歌子(作詞)、糸井重里(作詞)、久石譲(作曲)、矢野顕子(作曲)に加えて、上條恒彦本人、クニ河内、井上鑑などが参加。

年輪を重ねてきた者でなければ出せない、大地に根を下ろした大樹のような、野太くどっしりとした力強い歌声。演奏の方も、ストリングスやアコースティック・ギターを多用したやわらかく重厚なアレンジが、彼の歌を盛り立てている。

ハウス食品「おうちで食べようシリーズ」CMソングの「お母さんの写真」は、『となりのトトロ イメージ・ソング集』に収録されていた楽曲である。オリジナル版は久石譲本人による歌唱である(曲名「小さな写真」)。

また本作品のドキュメンタリーDVD『宮崎駿プロデュースの1枚のCDは、こうして生まれた。』も発売されている。企画から制作、久石譲参加のレコーディング風景も記録されている。

 

 

お母さんの写真 久石譲

1. お母さんの写真(ハウス食品『おうちで食べよう。』CMソング)
作詞/宮崎駿 作曲・編曲/久石譲 
2. オルガンの丘
作詞/覚和歌子 作曲/丸尾めぐみ 編曲:斎藤ネコ
3. 中央線
作詞・作曲/宮沢和史 編曲/高野寛
4. 牧場の朝
文部省唱歌 作曲/船橋栄吉 編曲/美野春樹
5. 鞦韆(ぶらんこ)
作詞/覚和歌子 作曲/上野洋子 編曲/斎藤ネコ
6. 真夏の振り子
作詞/覚和歌子 作曲/丸尾めぐみ 編曲/斎藤ネコ
7. 油屋
作詞/宮崎駿 作曲・編曲/久石譲
8. 豚の丸焼き背中にかついで
作詞/糸井重里 作曲/クニ河内 編曲/井上鑑
9. ひとつ やくそく
作詞/糸井重里 作曲/クニ河内 編曲/井上鑑
10. 椅子
作詞/伊藤アキラ 作曲・編曲/井上鑑
11. 秋
作詞/矢川澄子 作曲/矢野顕子 編曲/井上鑑
12. 花あかり
作詞・作曲/上條恒彦 編曲/井上鑑
13. 冬の星座
日本語詞/堀内敬三 作曲/William Shakespeare Hays 編曲/美野春樹
14. 何もいらない
作詞・作曲/宮沢和史 編曲/高野寛
15. 祝祭
作詞/覚和歌子 作曲/上野洋子 編曲/井上鑑
16. 見果てぬ夢 (ライブ・レコーディング)
日本語詞/福井峻 作曲/Mitch Leigh

 

Disc. 久石譲 『a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos 2003 ETUDE & ENCORE TOUR-』

久石譲 『a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos  2003 ETUDE&ENCORE TOUR-』

2003年6月25日 DVD発売 UPBH-1094

 

2003年3月から行われた久石譲のコンサート・ツアーの中から4月16日に東京オペラシティーにて行われたコンサートの模様を収録。オリジナルアルバム「ENCORE」「ETUDE~a Wish to the Moon」からの曲を中心に披露したベストライブ。

 

 

長い音楽活動とコンサート活動のなかで、意外にもコンサートDVDとしては初作品化である。公演プログラムの曲間に、リハーサル風景やピアノ練習風景などが、ドキュメンタリータッチで記録されている。

 

 

 

a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos  2003 ETUDE&ENCORE TOUR

– Encore & Others –
KIKI
谷への道
View of Silence
風のとおり道
Asian Dream Song
Friends
Summer
One Summer’s Day
HANA-BI

– Etude –
Moonlight Serenade 〜 Silence
月に憑かれた男
impossible Dream
夢の星空
Bolero
a Wish to the Moon

Musée Imaginaire
la pioggia
Tango X.T.C.

ToToRo
Madness
君だけを見ていた

本編111分

Recorded at Tokyo Opera City Concert Hall on April 16,2003

Composed (except “Moonlight Serenade”),
Arranged and Produced,
Conducted and Piano
by
Joe Hisaishi

Violoncello
1st
Hiroshi Kondo ~Concert Master,Solist
Takashi Kondo
Susumu Miyake
2nd
Makoto Osawa
Haruki Matsuba
3rd
Yoshihiko Maeda
Masanori Taniguchi
4th
Hiromi Uekusa
Seiko Ishida