Posted on 2016/2/18
2003年公開 映画「壬生義士伝」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 出演:中井貴一 佐藤浩市 他
滝田洋二郎監督との初顔合わせ作品です。その後2008年映画『おくりびと』にて再びタッグを組むことになります。
公開当時、劇場で販売された映画『壬生義士伝』公式パンフレットより、久石譲インタビューをご紹介します。
インタビュー
音楽・久石譲
数々の映画音楽を手がけてきた久石譲だが、本格的な時代劇は初めて。
さらに監督滝田洋二郎とも初顔合わせ。
「王道をいく映画にふさわしい音楽を作りたかった」と語る笑顔の中に、
日本映画の面白さを知る久石ならではの自信がのぞいていた。
-本格時代劇にチャレンジしたご感想は?
久石:
滝田監督の映画が以前から好きだったので、これはいい機会だな、と思いましたね。時代劇は『福沢諭吉』(91)でやってはいますが、いわゆる本格的時代劇にチャレンジしてみたかったんです。とはいえ、時代劇だから特に何かが違うというわけではなく、あくまで内容に即するものを作りたい。今回はいい意味でオーソドックスな王道をいく作品なので、それにふさわしい音楽をつけたいという想いがありました。具体的にはオーケストラが一番向いていると思って、そこから入りましたね。
-オーソドックスということで、ご苦労された点は?
久石:
時代劇と言っても、現在作っているんだという点を出さなきゃいけない。そして10年後、20年後に観ても古く感じないようにしなくてはならない。それがオーソドックスということですよね。ですから、オープニング・タイトルが出るときの和太鼓にも、シンセサイザーを入れたりしています。また、この映画には非常にいろんな”情”が出てくるんですね。男と女の情だったり、家族愛や郷土愛、友情。そこにベタベタに音楽をつけてしまうと情緒に流されやすいので、ある意味、音楽はちょっと引いた感じにしました。泣かせるところに泣かす音楽をつけるのではなく、むしろそこは引いて、精神的なものを感じるように音楽をつけていく。そこが一番大変な作業でした。
-メロディの美しさとあわせて、今回はリズムを強く感じました。
久石:
そうですね。アクション・シーンが結構ありますからね。ただ、通常のリズムの音ではつまらないので、非常にエスニックなリズム、たとえば和太鼓とか、アフリカや中近東の太鼓も実は入っています。あくまでこの映画の独特の雰囲気を出すために、使ったんですけれど。
-滝田監督の作りあげた主人公像をどう思いますか?
久石:
すごく面白かったと思います。主役ってわりと類型的になりやすいんですけれど、貫一郎は非常に人間味がある。これだけ深い主人公像を造詣できたというのは、滝田監督の手腕と、もちろん中井さんの努力の賜物。他の方々も本当にみんな実力どおりというか、のびのび演技されている。前向きな姿勢というのが、やっぱり画面に出てくるんですよね。撮影現場でそういう雰囲気を作るのは難しいんですが、滝田組はすごくいい雰囲気だったんじゃないかな。
-『壬生義士伝』や北野武監督のような男の世界を描いた映画と、宮崎駿監督のアニメなどを、交互に手がけているのは意識されてのことですか?
久石:
あまり気にしてないですよ。あくまで作品に対して自分がどう思うか、同時に、作品からイマジネーションをどれだけ豊かにできるか、そこが一番大切。宮崎さんのアニメーションであろうと、なんであろうと、僕の中では普通にやっているんです。でも、幅はありますよね。ひとりの人間の中にもいろんな顔がありますから。心温まる作品のときは、必然的にメロディ・ラインが大事になってきますし、突き放したような映画のときには、自分の中にもそういう部分はありますから、極力音楽がでしゃばらないように作る。共通するのは、画面をなぞるような音楽は作らない、ということ。あくまで、もしかしたら絵で表現しきれなかったものを表現する、というようにしています。音楽って非常に怖いんですよ。世界観とかムードを決定してしまうところがありますから。
-ご自身の監督経験は、音楽にも影響がありましたか。
久石:
簡単に言えば、功罪半ばって感じです(笑)。『カルテット』(01)を撮った直後は、監督の気持ちがわかってしまい、「ここはきっと大事にしているな」なんて思うと、音楽をやたら抑えちゃったんですよ。気づいたら、絵に音楽が近づき過ぎている。でも本来、音楽が鳴るなんて異質なんですよ。だって、日常では鳴るわけないんですから。やっぱり距離をとっておいたほうがいい、と反省しました。だから多少、監督が大事にしているシーンだろうがなんだろうが、無視しようと(笑)。お互いの軋轢から、相乗効果が生まれるようにしないといけない。どちらかが寄り添っちゃうと、そのダイナミズムは出ないな、と気づきましたね。今回は、音楽がでしゃばりもせず、けれど主張するところでは主張する、という点はうまくいった気がします。
-滝田監督との共同作業はいかがでしたか?
久石:
滝田監督とはコミュニケーションが非常にうまくとれました。いわゆる本当に大人の監督なんです。全ての部署にものすごいプロの方を配して、技術の方々の意見をきちんと聞く。監督というのはある意味、調整役なんですが、監督は「こういう方向で」という指示が大変明確な方で、さらにそれぞれのスタッフをすごく大事にしてくれる。その辺りのスタンスが、滝田監督らしいな、と。世の中にはもっとわがままな監督はいますからね(笑)。でも、ものを創る人はみんなわがままなものですけど。滝田監督もこだわりはありますけれど、非常に明快で悩まれることがない。とてもやりやすかったですね。
-最後に観客の方へ一言お願いします。
久石:
メインテーマも含めて、映画音楽の王道をいく音楽をつけたと自分では思っていますので、映像と音楽が一緒になったときのダイナミズム、あるいはサウンドトラックCDで音楽だけを聞いて、両方の楽しさを味わっていただければと思います。
(聞き手・構成 石津文子)
(映画「壬生義士伝」劇場用パンフレット より)