Posted on 2018/10/17
映画情報誌「ROADSHOW ロードショー 2002年4月号」に掲載された久石譲インタビューです。200年淀川長治賞受賞記念のスペシャル・インタビューとなっています。
2002年淀川長治賞発表!!
淀川長治賞とは
日本の映画文化の発展に長年にわたり多大な貢献をされてきた故淀川長治氏の業績をたたえ、これを記念して1992年に設立されました。この賞は、映画文化の発展に功績のあった人物(または団体)を毎年1名程度選考し、表彰するものです。
2002年の同賞受賞者として、選考を重ねました結果、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など宮崎駿監督のヒット作や、『HANA-BI』『BROTHER』など北野武監督の話題作を中心に斬新な映画音楽を手がけ、映画界に比類のない存在となった久石譲氏を選出いたしました。2002年4月12日に行われる「淀川長治賞授賞式」にて正賞を授与します。
●授賞理由
久石譲さんは、『風の谷のナウシカ』を皮切りに、40数本の話題作の映画音楽を手がけてこられました。特に、超ヒット作『千と千尋の神隠し』に至るまでの宮崎駿監督作品、『あの夏、いちばん静かな海。』から『BROTHER』に至る北野武監督の問題作において、きわめて現代的な映画音楽作りに取り組んでこられました。さらに昨年は、初監督作『カルテット』を発表、またフランス映画『リトル・トム』(仮題)で国際舞台にも進出され、日本の映画音楽の水準の高さを証明されました。
こうした業績をたたえて、ここに2002年淀川長治賞を授与いたします。
●受賞のことば
一緒に仕事をしてきた北野武監督も宮崎駿監督も、過去に淀川長治賞を受賞していますね。そういう素晴らしい賞をいただけると聞きまして、名誉だと思いますし素直に喜んでいます。思い出しますと、北野監督との初の作品『あの夏、いちばん静かな海。』は、淀川先生にほめていただいたことが世間の評価につながりました。おかげで名作として見直してもらえたという点で、淀川さんの発言力もすごく大きかったと思います。(久石譲・談)
[選考委員]
品田雄吉(映画評論家)、渡辺祥子(映画評論家)、髙澤瑛一(映画評論家)、ROADSHOW編集長
久石譲さん〈受賞記念 SPECIAL INTERVIEW〉
いま自分がやっている仕事は、世界でも先端をいくものだとわかりました!
北野監督や宮崎監督のように正反対な世界観を持つ人のほうがやりやすいですね
-久石さんは、北野武監督や宮崎駿監督らの、異なったジャンルの映画の音楽を同時に担当されたりして、違和感はありませんでしたか?
久石:
「海外で取材を受けると”ハートウォーミングな宮崎作品と、バイオレンスの北野作品を同じ作曲家が手がけるようなことは、ヨーロッパやアメリカにも例がない”と言われるんですよ。なぜ、できるのかと必ず聞かれる。でも、中途半端に似た監督の音楽を手がけるほうがつらい。正反対な世界観を持つ監督のほうが、逆にやりやすいですね。北野作品では、できるだけ感情を伴わない、同じパターンを繰り返すようなタッチで。宮崎作品ではメロディが主体。はじめから、はっきり区別してやってきたので苦労はしなかったです。でも最近、北野監督からはエモーショナルな音楽を要求されるケースが多くなった。逆に宮崎監督のほうは、『千と千尋の神隠し』などでは、冒頭から感動を押しつけるのではなくて、シンプルな音がいいねと言われるようになったかなあ(笑)」
-映画音楽というのは、どういう手順で作られていくのですか。
久石:
「それは監督によって違います。でも、まずは脚本を読むことから始まる。そして、どんな世界にしたらいいかを考える。具体的に言うと、オーケストラでいくのか、シンセサイザーでいくのかとか。それから、北野監督の場合は、余り多くのことを語られないかたですから、相当な部分を任されていると思って、音楽を作った上で提示するケースが多い。宮崎監督とは、絵コンテを見ながら、徹底的に話し合ってやっていきます」
-2001年は、おふたりの『BROTHER』と『千と千尋の神隠し』があり、久石さんの初監督作『カルテット』が公開されて、いそがしい年でしたね。
久石:
「『カルテット』では、過去に40本余りの映画に音楽をつけてきた作業の末に、こういう音楽映画も日本にあっていいのではないかと考えたことが、監督をするきっかけになりました」
-監督業は大変でしたか?
久石:
「多くの監督さんたちが苦しんでいる姿をそばで見てきましたから、そう簡単に監督業に手をつけるものではないと思って、断り続けてきたんですよ。やってみたら、思っていた以上に大変でした」
海外作品での初仕事、フランス映画『リトル・トム』で自信を持ちました!
-さらに、海外での初仕事になるフランス映画『リトル・トム』(仮題)の音楽も手がけられたのですね。
久石:
「シャルル・ペローのおとぎ話”親指トム”を下敷きにした、幻想的で、けっこう怖い大作です。監督は、30代のオリビエ・ダアン。この作品に音楽をつけていくうちに、ぼくたちは世界中の映画音楽のレベルでいっても、相当進んだ位置にいることがわかりました。ハリウッドのメジャーでやってきたエンジニアとケンカして、自分のやりかたを通しました。日本でいい音を作ろうとして、ドルビー5.1チャンネル・デジタル・ミックスその他の技術的な面のノウハウを追求してきた末に、いまぼくたちは世界でも先端にいると実感しました。現場での経験を積み重ねた結果、外国人スタッフと仕事をしてみたら、ぜんぜんイケテルじゃないかという気分になりました」
-ところで、外国映画で好きな作品とか、影響を受けた作品はありますか。
久石:
「好きな作品は、『ブレードランナー』と『セブン』ですね。それに、一緒にやってきた監督すべてに影響を受けています。でも、仕事が煮つまったり、疲れたりすると、スタンリー・キューブリックか黒澤明監督の作品を見ます。そして見るたびに、いろいろな発見をします。なんで、ここでこういう音楽を使ったのだろうとか、映像のもっていきかたを考えると、すごいんですよ。キューブリックなどの場合は、『シャイニング』にしても『フルメタル・ジャケット』にしても、長いシーンで緊張感を持続させる。何が映像的なのかを、とことんまで追いつめたのが、このふたりの監督です。彼らの映画は、バイブルみたいなものだと思います」
-2002年のお仕事の予定は?
久石:
「まずは北野武監督の新作、そのほかに何本かの作品のオファーがあります。今年も映画音楽家としてがんばります」
(ROADSHOW ロードショー 2002年4月号 より)