Blog. 「Free & Easy 2002年4月号 Vol.5 No.42」久石譲インタビュー内容

Posted on 2018/10/18

雑誌「Free & Easy 2002年4月号 Vol.5 No.42」に掲載された久石譲インタビュー内容です。

 

 

21世紀の匠たち

音楽家 久石譲

誰もいない小学校の校庭、晴れた日の田んぼのあぜ道、裏山に作った秘密基地…。トヨタ「NEWカローラ」のCMソングに代表される彼の音楽は聞き手にそんなデジャブにも似た幼い日の記憶を色鮮やかに呼び起こす。単に映像を説明するのではない。かといって映像から逸脱するのではない。そこからしか生まれ得ないあのメロディーの秘密を聞いた。

 

風の谷のナウシカ、天空の城ラピュタ、となりのトトロ、魔女の宅急便、紅の豚、青春デンデケデケデケ、Sonatine、HANA-BI、菊次郎の夏…。久石譲。現在の日本の映画音楽は彼なくしては語れないだろう。そんな彼は意外にも、大学時代は前衛音楽の流れの中に身を置き西洋音楽の洗礼を浴びていた。乱数表を使った偶然性の音楽などを学びながら、どうやったらギリギリの音楽が成立するかという世界で彼はオリジナリティーを模索していた。

「オリジナリティーは結果にすぎないからあまり意識したことはないですね。ただ海外で演奏していると、やっぱり誰かの借り物ではないアイデンティティが欲しくなる。そして、自分は間違いなくアングロサクソンではなく黄色人種の一人、アジア人の一人であることに気づくわけです。そうするとそういう自分が一番ストレートにできることが一番大事なんですよ。僕の持論でもあるんですけど、超ドメスティックであることがインターナショナルであるということですから。だからといって、ただ尺八使うんだとか、沖縄の音楽を持ってきて自分のコンサートに入れるとかそういう表面的なことではなく、手段はオーケストラでもやっぱりジャーマン系ではないなという個性を大事にしたいと思います」

今では映画音楽家として広く知られている彼だが、その前に前述のような音楽家であることを忘れてはならない。では、オーケストラを率いての純音楽と映像につける映画音楽。その違いとは何なのだろうか?

「映像につける音楽と、音楽だけで勝負するのは全く別モンだという捉え方をしている。人に何かを伝えるときに、音楽で100パーセント伝えられるものと、映像があって100パーセント伝えられるものとは別ですから。映像がないと成立しないような音楽は純音楽としては成立しないし、逆に映像につける音楽というのは映像が入り込む余地を創らなければいけないんです。だから、映像につける音楽というのはハリウッド的にキャラクターを説明しようとしたり、音楽や映像をなぞっては駄目なんです。映像と音楽のどちらかが一方を説明してはならないんです。例えば映画の中で誰かが泣くシーンがあるから泣いた音楽とか、走ったから速い音楽ではダメなんです。そのためにはどこか冷静に、映像に寄り添いすぎないで一歩ひいて、監督がこのシーンで何を言いたいか? を考えることが大切だと思います。感性だけに頼るのは凄く危険なんですよ。直感的な部分とそれを論理的に創る両面が要求されるんです」

天性のメロディーメーカーである彼の感性に論理が加わって、初めてあのメロディーが生まれる。しかし、それは言葉で聞くほど容易なものではない。

「自分を追いこんで追いこんでギリギリのところで自分が納得するもの。それも自分が意図しているものじゃないくらいのものに出会った時に、聞き手が納得してくれるものができると思う。絶えず良いメロディーを書きたいと思って作曲という作業をやっているわけですけど、そうしょっちゅう出会えるわけではないよね。ある意味ではラッキーに近い。ゾウキンを絞って絞って破けるくらい絞ってやっと出てくる最後の一滴。それに出会うために毎日作曲していると思うんですよ。それをポンと話せるようなコツがあるとしたらもっと大量生産してるよね。もしくは風景見たくらいでポンとメロディーが出てくるんだったらしょっちゅう旅行していますよ(笑)」

全ては最後の一滴のために。昨年映画『カルテット』を監督したのもそんな一滴のためなのだろうか?

「あくまで僕の活動の中心は音楽ですから、他のジャンルという意識はあんまりないんですよ。ただ音だけを追求してやっているとどうしても足りないものが出てくる時もあります。そういう欲求が凄く強くなって、それをやらないと次にいけないと思う時があったら何かやると思います。今の課題は日本語の解決。自分のメロディーと日本語のかみ合わせがどうしても納得できていない。ある意味で音楽と言葉の相性ってとても重要なんですよ。自分の中でそれが納得できたら将来的にはオペラとかミュージカルをやってみたと思いますね。そういう新しい自分に出会えるような仕事じゃない限りやりたくない。自分が入り込めない仕事は相手に逆に迷惑をかける気がするから。でも幸せなことに共感できる仕事をやらせてもらうことは多いですよね。誰も文句を言わないと解っていても安易な完成度に身を置くことはないんですよ。手を抜きたいと四六時中思っているんだけど、抜いてやったら後悔する自分を解っているから。だから徹底的にやります。オール・オア・ナッシングが自分の性格ですから」

今でも5、6本の仕事を抱え、これはインフルエンザで高熱が出た中でのインタビューであった。にも関わらず、ひたむきにこちらの話に耳を傾け、時折やさしそうな笑みを浮かべる彼の姿が印象に残っている。一体、いつ休まれているんですか? という問いに彼は少し自嘲気味な笑みを浮かべてこう答えた。

「でも生きていくというのはそういうことだし、モノを創っていくというのはそういうことだからね。知的な要素が強いストレスのある仕事が一番楽しいもんですよ」

(Free & Easy 2002年4月号 Vol.5 No.42 より)

 

 

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