Posted on 2025/06/20
日本センチュリー響、久石譲体制が始動 現代的・機動的なオケ目指す

6月定期公演が久石の就任披露公演となった(13日、大阪市)©s.yamamoto
日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任した久石譲による新体制がスタートした。高い知名度と集客力に目が向きがちだが、音楽面での今後の進化を予感させる演奏を見せた。
13日、音楽監督就任披露としての定期演奏会がザ・シンフォニーホール(大阪市)で開かれた。1曲目のベートーベン交響曲第6番「田園」は小気味よいリズムを刻みつつ、クレシェンドごとに推進力をつけていく。テンポが速くせわしない印象もあるが、打楽器のとどろきや木管の鋭い音に独特のリズム感が宿る。
リズムが重要
後半の久石自身の交響曲第2番は、フレーズを繰り返しながら微細に旋律やリズムを変化させていくミニマル音楽の真骨頂。つんのめるような変拍子がさえわたり、童歌の旋律が色彩感を変えながら繰り返される。アンコールでは舞踊曲を披露し、終始リズミカルな音楽にあふれた演奏会となり、満員に近い客席は惜しみない拍手を送った。
就任1年目となる25年度のプログラムは、全ての定期演奏会でベートーベンの交響曲と20世紀中盤以降に作曲された現代作品を並べる。組み合わせだけでも十分に狙いが見て取れるが、この日の演奏からは、古典作品でも現代的なリズム感覚で解釈しようとする久石らしい意図が感じられる。せわしなさが目立った感も否めない「田園」だったが、斬新なアプローチで楽しんだ聴衆も多かっただろう。
「現代音楽の演奏で重要なのはリズム。このオーケストラが持つ機動性をさらに高めて、スタイルがしっかりできれば、古典作品もリクリエイト(再創造)できるようになる」と久石。スタジオジブリをはじめ数々の映画音楽を手掛け、メロディーメーカーとして知られるが、もとはクラシックの現代作曲家としてミニマル音楽の作品に取り組んできた。変幻自在のリズムは本来の久石の得意とするところだ。
より強い個性を
「僕は指揮者になるのが遅かったので、普通のアプローチじゃ他のいい指揮者に太刀打ちできない。だからこそ、作曲家の目線で新たに読み直し、未来のクラシックはこうあるべきなんじゃないかというのを提示する。『え、この作品でここまでやっちゃうんだ』『すげえ、まるでフリージャズじゃん』なんて言われたいね」(久石)
コンサートマスターの松浦奈々は、久石について「リハーサル中に『この作曲家は本当は何を考えてたのかな』と投げかけてくる。常にオケと対話する指揮者」だと明かす。その上で「既存作品でも監督自身の作品でも、いい響きが出てきたらそこから、もっとああしようこうしようと提案して、思わぬ方向に導いてくれる」。
茨木・高槻・箕面3市での北摂定期も新たに始め、地域密着でファン開拓を図る。8月には戦後80年に合わせた公演「祈りのうた2025」を4都市で開く。「ただ反戦を訴えるより、きな臭い今の世界で自分を見失わず強く生きていこうというメッセージを伝えたい」。その思いはセンチュリーと自身が、より強い個性を発揮していこうとする野心と重なる。
センチュリーは飯森範親・前首席指揮者のもとで「ハイドンマラソン」を敢行。交響曲の父とも呼ばれ、古典派を代表するハイドンの交響曲全曲を10年かけて走破した。ここで培われたアンサンブルの精度やオケ全体の機動性を礎に、新しく始動した久石体制が今後どう花開かせるか、注目したい。
(安芸悟)
出典:日本センチュリー交響楽団、久石譲体制が始動 現代的・機動的なオーケストラ目指す – 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOIH141BW0U5A610C2000000/

