Blog. 「レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810」青春18ディスク 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/09/18

クラシック音楽誌「レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810」に掲載された久石譲インタビューです。巻頭カラー連載「青春18ディスク」コーナーに登場、本号前編・次号4月号後編として2回にわたっていろいろなエピソードとともに思い出のディスクが紹介されています。

 

 

青春18ディスク
私がオトナになるまでのレコード史 (3)

今月の人●久石譲 前編

こんなに不協和音だらけの音楽があるのか!
ショックを受け、前衛的な響きにのめり込むきっかけとなった黛敏郎の《涅槃交響曲》

ききて・文:飯田有抄

 

年300本以上観た映画は音楽の原点
ヴァイオリンは交響楽への入り口

「いつも”今が大事”だと思っているので、自分自身の過去を振り返ることはほとんどありません。ですから『あの音楽と出会ったのはいつだったか』という編集部からの問いかけで過去を思い返すのは、個人的に珍しい体験だった。気づけば一生懸命LPを探していました」

そう笑いながら、思い出の詰まったレコードの山を見せてくれた。買い集めてきた青春時代のLPは、ジャケットの一枚一枚にも思い入れがある。だが「レコードを聴く」行為そのものは、物心ついたころから始まっていたという。

「竹針を使う”電蓄”ですね。あれを父が持っていて、《カルメン組曲》などのクラシック、童謡、美空ひばりの歌謡曲など、ジャンル問わずいろいろな音楽が家の中で流れていました。

 当時の音楽的な経験として大きかったのは、年間300本以上映画を観たことです。長野県中野市の高校の若手教員だった父は、生徒が映画館に出入りしていないかどうか巡回に出掛けるので、僕もその度に付いて行っていたのです。街には二つの映画館があり、片方が東映・東宝で、もう片方が日活・松竹・大映。テレビが普及する直前、映画全盛の時代ですから、週に3本ずつ入れ替わる。月に最低24本。怪談、恋愛、アクション、チャンバラ……あらゆるジャンルを5年間見続けました。のちに映画音楽を書くことになった僕にとって、この経験は財産ですね」

印象に残るレコードとして最初に記憶されているのは、小学校時代の友人の家で聴いたドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》だった。

「同級生に医者の息子がいて、その子の家には立派な装置があった。そこで聴いたのがワルター指揮コロンビア響の《新世界より》。まだ自分でレコードを買うのではなく、友人宅に何度も遊びに行って聴いていました」

交響曲のレコードに魅せられたのは、ヴァイオリン・レッスンに通っていた影響もあるという。

「4、5歳くらいから小学校高学年くらいまで習っていました。練習室にはオルガンが置いてあって、それをレッスンの一時間前に行って弾くのが楽しみで。和音なんてことを習う前から、自分でドミソを鳴らしては綺麗だなぁ、と。ヴァイオリンよりも、鍵盤をたどって美しい響きを自分で発見するのが面白かった」

 

演奏することよりも作ることの方が好き

中学に入るとポップスに出会った。初めて買った45回転のドーナツ盤がザ・ロネッツの『Be My Baby』。

「中学生ともなると世間に目覚めるというか、ラジオで聞いていいなと思ったらメモをして、買えるものは買いました。60年代当時はアメリカのポップスがすごく元気だった」

一方で、中学の部活動ではブラスバンド部に所属。トランペットのソリストとしても活躍した。

「マーチだとか、コンクールの課題曲だとか、みんなで音楽をやるというのがとても楽しかった。サクソフォーンやトロンボーンもやりましたが、指揮もしましたね。というのも、ヴィレッジ・ストンパーズの《ワシントン広場の夜は更けて》なんかをブラスバンド用に一生懸命譜面に起こし、みんなに演奏してもらうのが楽しかったのです。夜中に布団をかぶって、あ、この音だ、と探しながら譜面にするのは大変でしたよ(笑)。当然ハーモニーの理論なんて知らない頃だから。でもそれで、自分は演奏することよりも、作ることの方が好きだと自覚し、作曲家になろうと決めたのです。

 音大の作曲科に進もうと、ピアノを習い始めました。そこでグレン・グールドの《インヴェンションとシンフォニア》に出会った。その頃にはうちにもステレオがあって、イ・ムジチ合奏団の録音でバッハの《管弦楽組曲第2番》などもよく聴きました」

 

現代音楽とジャズの洗礼

高校時代は音大の作曲科を目指して、3年間レッスンを受けに東京に通った。師匠は和声学の大家、島岡譲。

「島岡先生のレッスンは無駄のない厳しいものでした。和声学は古典的な理論の基本です。決められた型を学ぶ。でもそのことに抵抗を感じていた僕は、後に大学に入ってから一度先生に楯突いたことがありました。『決まりを学ぶことが、本当に人の感性を育てることになるんでしょうか?』と。先生の答えはとても明快でした。『基礎を学ぶ程度で個性が潰れるやつは、所詮作曲家にはなれない』と。そうポンと言われたときに、あ、理論はやっぱりちゃんとやったほうがいいな、と逆に思いましたね」

そんな反骨精神と素直さを併せ持った10代、夢中になって聴いたのが「現代音楽」だった。

「この頃はもういろんな音楽を聴きたくて、バーンスタインの指揮するショスタコーヴィチの5番が好きでした。メシアンの《トゥランガリラ交響曲》を小澤征爾さん指揮のトロント響で聴き、とんでもない日本人がいると知ったのもこの頃。次第に現代曲に目覚め、黛敏郎さんの《涅槃交響曲》に出会ったときは衝撃でした。日本の現代音楽にすごく勢いのあった時代で、三善晃さんの《交響三章》や《オンディーヌ》などのレコードも買いました。耳はどんどん刺激的なものを求め、クセナキスの《エオンタ》や、シュトックハウゼンの作品なども、これも音楽なんだと驚きながら聴いてましたね」

一方で、高校時代にはジャズの響きも知った。

「地方でも街に一人くらいは、ちょっとはみ出し者で、いろいろ教えてくれる大人がいたものです。10歳くらい年上で、喫茶店のようなところで、『これいいんだよ~』とジャズを教えてくれる人がいて、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーンなど、あらゆるジャズを聴かせてくれた。マル・ウォルドロンの『Left Alone』は高校時代の終わりに、耳コピしてピアノで弾いていましたね。でも、当時のレコードは回転もアバウト。僕はF#マイナーで聴き取ってコピーしたのだけれど、原曲はFマイナーだったのを後から知りました(笑)」

(レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810 より)

 

 

ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界より》
ブルーノ・ワルター指揮 コロンビアso
〈録音:1959年2月〉
[ソニークラシカルⓈ SICC2012]

「当時としては音響のいい設備をもった友人宅で、同時期にアンセルメ指揮スイス・ロマンド響によるベートーヴェンの第5番《運命》や、シューベルトの《未完成》など、交響曲の名作をたくさん聴いた。」

 

J.S.バッハ:2声のインヴェンションと3声のシンフォニア
グレン・グールド (p)
〈録音:1964年3月〉
[CBSⓈ OS425(LP)]
[ソニークラシカルⓈ SICC30352]

「音大を目指す者の通過儀礼として、自分でもピアノで弾いたバッハ。グールドが芸術作品として聴かせてくれた印象深い一枚。」

 

J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番
イ・ムジチ合奏団
〈録音:1963年8月〉
[フィリップスⓈ SFX7597(LP)]
[フィリップスⓈ PHCP9683(廃盤)]

「イ・ムジチといえばヴィヴァルディの《四季》が有名だったが、バッハを好んで聴いていた。当時はスメタナの〈モルダウ〉やチャイコフスキーの《スラヴ行進曲》など派手なオーケストラ曲もステレオで楽しんだ。」

 

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番, ストラヴィンスキー:バレエ《火の鳥》組曲*
レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨークpo
〈録音:1959年10月, 1957年1月*〉
[CBSⓈ WX7(LP)]
[ソニークラシカルⓈ SICC1791, SICC1850*]

「カップリングのストラヴィンスキーの《火の鳥》と合わせ、擦り切れるほど聴いた。同時期に知った《春の祭典》には、「こんな暴力的なリズムもやっていいのか!」と驚いた。」

 

黛敏郎:涅槃交響曲
ヴィルヘルム・シュヒター指揮 NHKso, 合唱団
〈録音1959年頃〉
[東芝(M) TA7003(LP)]
[EMI(M) TOCE9430(廃盤)]

「音楽とは綺麗なものだと思っていたのに、こんなに不協和音だらけの音楽があるのか! とショックを受けた。でも知ってしまうと、それ以外はあり得ないと思ってしまうくらい、前衛的な響きにのめり込んでいった。」

 

三善晃:音楽劇《オンディーヌ》
森正指揮 ラジオo, NHK電子音楽スタジオ, 他
〈録音:1959年〉
[東芝Ⓢ JSC1005(LP)]
[EMIⓈ TOCE9435(廃盤)]

「このあたりの音楽を聴いていたころ、自分はまだ東京で古典的なレッスンしか受けていないけれど、「現代音楽の作曲家になるのだ!」という意識が芽生えた。」

 

クセナキス:メタスタシス, エオンタ, 他
コンスタンティン・シモノヴィチ指揮 パリ現代音楽器楽ens, 高橋悠治(p) 他
〈録音:1965年〉
[コロムビアⓈ OS2914(LP)]
[シャン・デュ・モンドⓈ KKCC30(廃盤)]

「マスになった不協和音のダイナミズムで曲を構成していく音楽が、当時は最新鋭で刺激的だったが、ずっと後になってから指揮の師匠・秋山和慶さんのリハーサルに立ち会った際、時代がかった音響に聞こえたのも印象的だった。」

 

ジョン・コルトレーン / 至上の愛
〈録音:1964年12月〉
[ユニバーサル・ミュージックⓈ UCCU5606]

「大人からさまざまな名盤を教えてもらい、店で聴いた。この頃、ジャズのレコードを自分で買った記憶がないが、とにかくジャズが大好きになった。」

 

マル・ウォルドロン / Left Alone
〈録音:1959年2月〉
[Solid BethlehemⓈ CDSOL45501]

「ピアノでコピーできるくらいに聴きこんだ。当時はレコードも機械もチューニングがいい加減。ファなのかファ#なのか曖昧で、その中間くらいの音だった(笑)。後に本人の来日公演でFマイナーであることを知った。」

(レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810 より)

 

 

後編
Blog. 「レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811」久石譲インタビュー内容

 

 

 

Blog. 文藝別冊『大林宣彦 「ウソからマコト」の映画』(2017) 久石譲 寄稿内容

Posted on 2019/09/17

映画監督・大林宣彦の軌跡を辿るムック、文藝別冊『大林宣彦 「ウソからマコト」の映画』に、これまでいくつかの映画や仕事で関わってきた久石譲も寄稿しています。作品ごとにそれぞれ回想されるエピソード、この書籍のためだけの内容になっています。

 

 

大林監督江

大林監督はすなわち映画である 久石譲

大林監督の手はとても大きい。やや太めの指ではあるが、ショパンと同じくらい大きくて下のドの音からオクターヴ上のミまで約一〇度の音程を片手で押さえられるのではないかと思えるほどだ。そして温かい。相手を包み込んでしまうようなその手と初めて握手をしたのは『漂流教室』という映画の音楽を担当した時だった。

「大きいなあ」と感心している僕の向かいには優しい眼差しと少年のような笑顔があった。そして独特な語り口は多くの人がそうであるように僕を虜にし、それはその後もずっと続いた。例えば広島国体の時(監督が総合演出で僕は行進などの音楽の手伝いをした)当日は雨が降った。うらめしげに空を見上げる僕に監督はいった。「ジョー、普通はあいにくの雨ですがっていうだろ、だけどね、雨は、恵みの雨ともいうんだよ」。目から鱗のこの表現、つくづく感嘆したのだが、この言葉を聞いたのはもう数回めだった。このふつうでは捉えられない視点はもちろん物を作る人間の必須条件ではあるのだが、大林監督の捉える観点は想像をはるかに超える。それはおどろきであり、同時に危険でもあった。

『ふたり』という映画の音楽を担当した。通常音楽打ち合わせは数時間から場合によっては数日かかるのだが、たったの五分で終わった。監督が台本をめくり「こことここと、こことはいらないね」。つまりそれ以外はぜんぶ音楽が必要ということで約ニ時間一五分くらいの映画のうち一・五時間くらいの分量の音楽を一週間か十日そこらで書き上げなければならなかった。泥沼の徹夜はいうまでもない。また『水の旅人』では一週間後にはオーケストラのレコーディングがあるというのに映像の編集が半分もできていなかった。つまり音楽を書くことができない。困り果てた僕は監督に電話をしたのだが、のっけから「そうだろうジョー、普通は編集する時期に、こっちは撮影に入ったんだから本当に大変なんだよ」。何だかはぐらかされたようで渋々電話を切った記憶がある。そして極め付きは同映画の試写会の時だった。舞台挨拶をする僕に舞台袖の関係者からチューインガムを引き延ばすような仕草が何度も送られてきた。「?」とドギマギしたのだがやっと気づいた。実はその日の朝までダビング(セリフや音楽、効果音をミックスして仕上げる最終工程)していたため、試写会場に届いたフィルムが乾いていなかった。だから時間稼ぎをするために話を長くしろ、という合図だったのだ。信じられます?そんなこと。《注:だいぶ昔の話のうえに歳をとったので勝手に自分の記憶を書き換えている節もある。間違っていたら関係者の皆さん、大目に見てやってください(笑)》

大林監督の周りではこんな逸話が多分いっぱいあるのだろうと推察する。まるで映画のように。監督のそばにいると僕たちは映画の中の登場人物のようにふつうではない体験を嫌が応でもします。そして新たな自分を発見して世界が広がった気がするわけです。

じつはこれ映画そのものです。映画はウソの世界です。だからこそリアルな現実では感じ取ることのできないものごとの本質を暴くことができる。同時に生きる希望や喜びをあたえてもくれます。

もしかしたら大林監督は、映画そのものなのかもしれない。いや、監督自身が映画なのです。

(ひさいし・じょう/作曲家)

(文藝別冊『大林宣彦 「ウソからマコト」の映画』より)

 

 

久石譲 『漂流教室 オリジナル・サウンドトラック』

今井美樹さんの歌う主題歌「野性の風」、その編曲も手がけています。

 

1996年ひろしま国体の式演出を務めた大林宣彦監督の呼びかけのもと、イメージソング「砂漠のバラ」(歌/森公美子)を作曲。またこの曲は行進曲用にアレンジされたものが開会式・閉会式の入退場にも使われました。

 

久石譲 『ふたり オリジナル・サウンドトラック』

主題歌「草の想い」は大林宣彦監督と久石譲のデュエットで話題に。この曲はインストゥルメンタル曲「Two of Us」として珠玉の名曲で愛されていくことになります。

 

久石譲 『水の旅人 オリジナル・サウンドトラック』

中山美穂さんの歌う主題歌「あなたになら…」もロンドンでレコーディングされるなど、当時久石譲はロンドン生活でした。

 

 

そのほか、映画『はるか、ノスタルジィ』(1993)、映画『女ざかり』(1995)、映画『この空の花 —長岡花火物語』(2012) があります。各作品ごとにCDライナーノーツや当時インタビュー・文献は掲載しているものも多いです。大林宣彦×久石譲、その数々のエピソードのなかから、いつか掘りさげることもあるかもしれません。

 

 

 

KAWADE夢ムック
文藝別冊『大林宣彦 「ウソからマコト」の映画』

■目次
大林映画のことばたち
写真アルバム OB’S MEMORIAL
家族座談会 大林恭子×大林千茱萸×大林宣彦 家族で映画ばかり撮ってきた
大林宣彦フィルモグラフィー
[大林監督江]
高柳良一(ニッポン放送総務部長)
のん(女優)
塚本晋也(映画監督)
久石譲(作曲家)
小林亜星(作曲家)
ロケット・マツ(パスカルズ)
石川浩司(パスカルズ)
今関あきよし(映画監督)
原將人(映画監督)
犬童一心(映画監督)
井口昇(映画監督)
本広克行(映画監督)
糸曽賢志(映像監督)
椹木野衣(美術評論家)
笹公人(歌人)
竹石研二(深谷シネマ支配人)
北沢夏音(ライター)
[インタビュー]
尾美としのり 大林映画、 悲喜こもごも
常盤貴子 いま、 大林映画に出演できる幸福
根岸季衣 大林映画の常連役者として歩んだ幾年月
南原清隆 大林監督はいつも心のなかに夕凪の風景をもっている
寺島咲 安心感と緊張感がつねに一緒にある現場
窪塚俊介 唯一無二の“純映画”をつくる人
山崎紘菜 メッセージを受け止め、伝えること
桂千穂 四〇年後の“決着”
阪本善尚 僕の撮影監督としての骨格は大林映画で築かれた
三本木久城 監督の生理にもとづいて生み出される映像
竹内公一 “絵空事”としての映画美術
KAN いつか見たミカン箱の上で
呉美保 大林組が映画と社会への入口だった
[大林宣彦エッセイ選]
やがてかなしいドラキュラ
闇──ひとりぼっちの空間
恋の相手はもうひとりの自分
ひとの想いのなかで死者も生きる
[対談再録]
泉谷しげる×大林宣彦 通りすがりのぼくたちが垣間見たのはプラスチックなお祭り騒ぎ
石上三登志×大林宣彦 ジュブナイルだからこそ語れる大人の心の痛み
宮部みゆき×大林宣彦 107人素顔の俳優の渾身の演技
[コラム]
真魚八重子 大林宣彦の明朗ホラー&ミステリー
モルモット吉田 大林映画はどう評価されてきたか
[エッセイ]
淀川長治 私のシネマ交遊 ~大林宣彦~
山中恒 その出会い
赤川次郎 崖っぷちの時代に
内藤誠 大林さんとわたしとプラス・アルファ
大森一樹 媒酌人・大林宣彦様
黒沢哲哉 “失われゆくもの”を刻み込むために 映画の言霊をひろう
[コミック]
三留まゆみ
とり・みき
森泉岳土
[論考]
草森紳一 失声の悲しい饒舌 大林宣彦の透視
金子遊 フィルム・アンデパンダンの時代
樋口尚文 あらゆる映像ハードは「大林映画」を降臨させるためにある
中川右介 大林映画と角川映画から始まった
渡辺武信 大林宣彦メモランダム 主として二〇〇〇年以降の作品について
野村正昭 私的大林映画体験=大林映画考

 

単行本(ソフトカバー): 256ページ
出版社:河出書房新社
発売日:2017年10月28日
価格:1,300円(税別)

 

 

 

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」映画『奇跡のリンゴ』久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/09/16

雑誌「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」に掲載された久石譲インタビューです。映画『奇跡のリンゴ』公開にあわせての内容になっています。

 

 

「24時間仕事バカ!」の熱狂人生 vol.48

作曲家:久石譲

『奇跡のリンゴ』から聞こえる旋律
追い詰められた先に必ずある、人の心を動かす仕事

1984年の『風の谷のナウシカ』以降、常に手がける作品のヒットを支えてきた男が、次に挑んだのは、極限状態に陥りながらも、世界で初めてリンゴの無農薬栽培を成功させた男を描く映画『奇跡のリンゴ』だ。本作の原作者である作家・石川拓治が、常に自分を追い詰めながら生みだすという久石の奇跡の旋律に迫る。

 

「だいたい映画のなかで音楽が流れるなんて嘘ですから。現実生活では、愛を語ったからって音楽は流れてくれないでしょう」

そう言って、彼は笑う。

「映画音楽は、つまり虚構中の虚構なんです。けれど、そもそも映画自体がフィクションなわけです。フィクションだからこそ真実を語れる。それが映画の面白さ。そういう意味ではもっとも映画的なのが映画音楽ともいえる。映画の構造自体が、音楽と密接に関わっている」

彼以外の人から、同じ話を聞いても、それほど納得はできなかったと思う。この人が言うからこそ、腑に落ちる。虚構なはずの彼の音楽に、幾度も、数え切れないくらい心を動かされてきたからだ。この人が音楽を担当した映画は、音楽の鳴っていない部分までが音楽的だ。

例えば今回彼が曲を書いた中村義洋監督の映画『奇跡のリンゴ』でも、阿部サダヲ演じる主人公が、悲惨な目に遭い続ける15分ほどの長い印象的な場面に、音楽がまったく入っていない。聞こえるのは登場人物の苦しげな息づかいや、慌てた足音だけ。映画である以上その足音も作りものなのだが、とてもそうとは思えない。妙な言い方だけれど、彼の美しい音楽が流れていないことが緊迫感を生み、真実と錯覚させるのだ。

そういう錯覚も、この人が音楽を担当した映画を観るひそかな喜びだ。長い息の詰まるような音楽的沈黙のあと、突然楽器が鳴る。ある時は頬を撫でる風のようにそっと、またある時は高らかなファンファーレのように誇らしげに。そして観客の感情は、激しく揺さぶられる。感動させられ、物思いに耽させられ、あるいは涙腺をゆるませられる。悔しいくらいに。

映画監督が映画の世界を創造する神だとしたら、彼はその世界に命を吹きこむ魔術師だ。

 

感動させようと思って、曲を書いたことはない

久石譲。世界にその名を知られた作曲家であり、指揮者にして、ピアニストである彼の経歴について、ここで繰り返し述べることはしない。今回のインタビューでは、どうしても聞きたいことがあった。

どうして、毎回あんなにも人の心を掴む音楽が作れるのだろう。1984年の宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』に始まり、北野武、滝田洋二郎、李相日、チアン・ウェンと、国内外の映画監督の作品のために、彼は音楽を書き続けてきた。

そのすべての音楽に感動させられた。どうしたら、そんな完璧な仕事ができるのか、人の心を動かす作品を作り続ける秘訣があるのだろうか。

「いや、感動させようなんて考えたことはありません。そこにきちんとした、本当の音楽を存在させたい、というだけの気持ちなんです。その映画に必要な音楽が、そこにきちんと存在してくれればいい。それだけを考えて曲を書いている。観客を泣かそうと思って曲を書いたことは一度もないです」

感覚や情緒で、作曲することはないという。そういうやり方では長続きしないからだ。

「ものを作る人間は、クリエイティヴであろうとすると、まず失敗するんです。自分の単純な好き嫌いとか、感情とか感性と呼ばれているような曖昧なものに頼ってはいけない。それではアイデアはすぐに枯渇してしまいます。そうではなく、できるだけ論理的に物事を考え、きちんと枠組みを捉える。今回の『奇跡のリンゴ』でも、これはどういう映画なのか、どういう音楽が必要かを、最初に徹底的に考えました」

中村義洋監督との仕事は初めてだった。打ち合わせは長時間に及んだらしい。

「驚いたことに、『どこに音楽を入れるべきか』という意見が僕と監督でほとんど完璧に一致したんです。映画音楽を深く理解している監督で、一緒に仕事をするのは楽しかった。だから僕も一所懸命にやってしまいましたよ(笑)」

そして最終的に、この映画には3つのテーマが必要だという結論に達したという。

「まず第一は、リンゴのテーマですね。人類が何千年にもわたって苦労して栽培してきた、普遍的な果物としてのリンゴのテーマ音楽。それからもうひとつはこの映画の主題である愛のテーマ。木村さんと奥さんの夫婦の愛、それを包みこむ愛のテーマが必要です。本来ならこのふたつで行きたかったんですが、映画の撮影現場を訪ねた時に、映画のモデルになった木村秋則さんというとんでもなく個性的な方に会ってしまったんです。それですぐに気づいた。この人にリンゴのテーマだけでは太刀打ちできないなと」

そして、生まれたのが木村秋則さんのテーマ音楽だった。

「たどりついたのは『津軽のラテン人』というコンセプトでした。マンドリンとウクレレと口琴というあり得ない編成で、木村さんの天真爛漫で明るい雰囲気を出せないかと考えたんです。それでちょっと奇妙でコミカルなテーマ音楽が生まれた。ただ、雰囲気で決めたわけではない。この映画にはどういう音楽が必要なのかを考え抜き、詰め将棋のように緻密に、必要な音楽を作って組み立てる作業のなかで、あのテーマもできあがっている。映画音楽は大変ですから、1本作り上げようとすると、魂を入れるような作業が必要なんです。だから、あまり本数をやるべきじゃないと思っているんですけど(笑)」

音楽とは本来、ピタゴラスを虜にしたほど論理的なのだ。にもかかわらず、映画音楽には確立した理論がないと嘆く。

「映画音楽にも、しっかりした論理を構築しなければいけないと思う。そのひとつが、状況外音楽と状況内音楽。先ほど話に出た、愛を告白すると流れる音楽は状況外音楽です。観客にしか聞こえない虚構の音楽。これに対して状況内音楽は、例えば映画の登場人物が弾くピアノの曲だったり、劇中の商店街の拡声器から流れてくる音楽だったり。登場人物にも聞こえている音楽。この両者を、映画音楽ではきちんと分けて考える必要がある。他にも対位法とか考えるべきいろんな手法がありますが、そういうことを体系的に説明した理論もなければ本も何もない。世界中のどこにもないんです。音楽は言葉では表現しづらいから、非常にムードに流されやすい。『このシーンにはこんな音楽つけたらかっこいいんじゃない?』というレベルで作っている。だから、映画音楽がジャンクフードになってしまっている。これが一番の問題ですね」

そういう理論を何も知らなくても、観客は映画を観て、その音楽が理にかなっているかどうかを無意識に感じる。久石さんの映画音楽が世界中で愛される理由も、おそらくはそこにあるはずだ。

「観客はそういう意味で非常に賢いと思います。いつの時代だって、生き残るのは本当にいい音楽です。いい音楽だけが選ばれていく。我々の仕事で必要なのは、その視点を絶対に失わないということです。その視点を失ったら、単に消費されるのみですから、いいものができない。それは映画音楽以外のものでも同じですよね」

 

クオリティを上げるには、努力し続けるしかない

平均すると、1年間に2作品の映画音楽を手がける。実際の作曲にかける期間は、ひとつの作品について1ヵ月くらい。曲を書き始めれば仕事は早い。ただし、書き始めるまでに可能な限り時間をかける。

「作曲の作業に入るまで、悩み続けます。撮影の現場に行ってみたり、本を読んだり。必ずしも映画に直接関係のある本だけとは限らない。作品について考えるのに必要だと思う本や資料を、片っ端から読みます。宮崎駿さんの映画の音楽を考えるのに、司馬遼太郎さんの本ばかり読んでいた時期もある」

周到に準備をして、考え抜いて仕事に取り組む。けれど、最終的に仕事の質を維持するのは努力の二文字しかないと語る。その言葉を、彼から聞くとは思わなかった。スマートで天才肌で、人知れず努力をしていようと、それを他人には見せないタイプだと思っていたのだが。

「結局、クオリティを上げるのは努力しかないんですよ。一にも努力、二にも努力。自分が納得するまで、これでいいと思うまでやり続けるしかない。それだけです。だから絶えず不安です。書けなくなるんじゃなうかとか、今回は本当にできるのかとか、いつも不安を抱えている。でも、そうするとどこかでアドレナリンがぶわっと出て、意欲が湧き上がってくれる。それで仕事をなんとか乗り切ってる。かっこいいことなんか何もない。いつもギリギリ。でも仕事って、そういうものじゃないですか。のた打ち回れば、のた打ち回っただけ少しはよくなるだろう。そう信じて、最後の最後まで粘り続けられるかどうか。それで作品の質は決まるのだと思う」

美しい音楽の数々が彼の苦闘の産物であると知って、身が引き締まる思いがした。

「今取りかかっているのは宮崎駿さんの新作『風立ちぬ』の音楽なんだけど、宮崎さんはよくあのプレッシャーのなかで生きているなと尊敬します。『風の谷のナウシカ』からここまで世界中の人が彼の映画を注視している。僕がその立場だったら、プレッシャーで潰されている」

そう言う久石さんも、『風の谷のナウシカ』以来完璧な音楽を作り続けている。彼こそ、プレッシャーに押し潰されそうになることはないのか。辞めたいと思ったことはないのか。

「それはあります。というかこれからの3作品の映画音楽(宮崎駿監督『風立ちぬ』、高畑勲監督『かぐや姫の物語』、2014年公開の山田洋次監督『小さいおうち』)の制作が終わったら、自分が本当にやりたいことを、もう一度見直したいと思っています。まず自分の作品を書きたい。それからクラシックの指揮。若い頃は現代音楽ばかりでクラシックは見向きもしなかった。でも指揮をするようになると、『新世界』くらい振れないとまずいと思うようになって。それで振ったら、素晴らしく奥が深いんです。今僕が一番燃えるのは、クラシックの指揮をしている時かもしれないですね。作曲の勉強にもなるし、これからは集中して取り組んでみたいと思っているんです」

 

Rules of Wisdom

常に危機感を持てばやがてアドレナリンとなって意欲に変わる

石橋を叩きすぎるくらい慎重でいい。自らが抱く危機感に追いこまれ、のた打ち回っていれば、仕事の質は上がる。

クリエイティヴであろうとするのではなく論理的に仕事を捉える

感性だけに頼っているとアイデアはすぐに枯渇する。論理的に考え、物事の枠組みを捉えようとすればイメージは広がる。

対象に寄り添いすぎず常に自分の頭で考える

音楽を担当する映像作品は基本は一度しか見ない。映像やストーリーにひっぱられることなくまず自分の頭で対象のことを考え捉える。

(ゲーテ GOETHE 2013年7月号 より)

 

 

久石さんと出会って、僕がうけた職業上のショック

映画『奇跡のリンゴ』監督・中村義洋

映画監督になって14年ですが、そのうち少しは楽できるようになるって思ってたんです。今まで毎作品、これが駄目なら次はないという危機感に追い立てられ、自分が納得するまで妥協せず何度でも脚本を書き直し、撮り直しをして映画作りをしてきました。でも、晩年まで素晴らしい映画を撮り続けた大島渚監督は一発OKで撮り直しをしなかった。クリント・イーストウッドはテストもしない。そういう名監督もいるわけで、自分も経験を重ねれば、もう少しは楽に映画が撮れる日が来るかもしれないと、淡い期待を抱いていた。でも久石さんと仕事をさせていただいて、それが甘い考えだと気づきました。久石さんの仕事があまりにも完璧なんです。例えば、音符がセリフにかからない。音楽がセリフにかぶって聞こえにくいから、セリフの音量を上げることがよくあるんだけど、久石さんの場合は1ヵ所たりともそれがない。音符のひとつもセリフにぶつからない。これは驚異です。そして、その音楽が身震いするくらい美しいんだから……。「これで完璧だと思ったら、それはもう完璧ではない。この世に完璧というものは存在しない。ただ、完璧を求める姿勢だけが存在する」という僕の好きな言葉があるんだけど、久石さんはその言葉を地で行く人でした。20歳年上の久石さんがそうなんですから。仕事が楽になることなんて、未来永劫あり得ないと悟りました。職業上のショックでしたね、これは(笑)。

(ゲーテ GOETHE 2013年7月号 より)

 

 

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

 

 

 

 

Info. 2019/06/07 映画『海獣の子供』公開決定!! 音楽:久石譲 【9/15 Update!!】

映画「海獣の子供」
2019年6月7日(金)全国ロードショー

スタッフ
原作:五十嵐大介「海獣の子供」(小学館 IKKICOMIX刊)
監督:渡辺歩 
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師「海の幽霊」
キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一
美術監督:木村真二
CGI監督:秋本賢一郎
色彩設計:伊東美由樹
音響監督:笠松広司
プロデューサー:田中栄子
アニメーション制作:STUDIO4℃ 
製作:「海獣の子供」製作委員会 
配給:東宝映像事業部

キャスト
安海琉花:芦田愛菜
海:石橋陽彩
空:浦上晟周 “Info. 2019/06/07 映画『海獣の子供』公開決定!! 音楽:久石譲 【9/15 Update!!】” の続きを読む

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート 【9/2 Update!!】

Posted on 2019/08/14

8月1日から8月12日まで国内7都市8公演で巡った「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサートツアー。

❝久石譲と新日本フィルによるワールド・ドリーム・オーケストラ、発足から15年。
これまでの集大成として組曲「World Dreams」を披露!
宮崎駿監督の楽曲を交響組曲にするプロジェクト、今年は「魔女の宅急便」!❞

キャッチコピーに胸躍りチケットは即SOLD OUT、期待と楽しみ膨らんだファンの熱気と興奮は各会場ともスタンディングオベーションと鳴り止まないカーテンコール、大きな感動につつまれました。

 

 

2019.9.2 Update!!

サントリーホール公式アカウント ツイッターに、8月公演レビューがアップされたので、そこから写真2枚お借りしました。

from サントリーホール公式アカウント
https://twitter.com/SuntoryHall_PR/status/1168355295782825984

(2019.9.2 Update ここまで)

 

 

 

まずは演奏プログラム・アンコールのセットリストから。

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2019

[公演期間]  
2019/08/01 – 2019/08/12

[公演回数]
8公演
8/1 静岡・静岡市民文化会館 大ホール A
8/2 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール A
8/5 広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ B
8/6 長崎・長崎ブリックホール B
8/8 東京・サントリーホール A
8/9 東京・サントリーホール B
8/11 京都・京都コンサートホール 大ホール B
8/12 兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
【PROGRAM A】 All Music by Joe Hisaishi
組曲「World Dreams」  *世界初演
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

ad Universum *世界初演
1.Voyage
2.Beyond the Air
3.Milky Way
4.Spacewalk
5.Darkness
6.Faraway
7.Night’s Globe
8.ad Terra

—-intermission—-

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings *改訂初演
Woman
Ponyo on the Cliff by the Sea
Les Aventuriers

Kiki’s Delivery Service Suite *世界初演

—-encore—-
Il Porco Rosso (Pf.solo)
Merry-Go-Round

【PROGRAM B】 All Music by Joe Hisaishi
組曲「World Dreams」 *世界初演
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

Deep Ocean
1.the deep ocean
2.mystic zone
3.trieste
4.radiation
5.evolution
6.accession
7.the origin of life
8.the deep ocean again
9.innumerable stars in the ocean

—-intermission—-

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings *改訂初演
Woman
Ponyo on the Cliff by the Sea
Les Aventuriers

Kiki’s Delivery Service Suite *世界初演

—-encore—-
Summer (Pf.solo)(広島・長崎・東京)
あの夏へ (Pf.solo)(京都)
Merry-Go-Round

 

About
Kiki’s Delivery Service Suite

Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

Mandolin:Tadashi Aoyama
Accordion:Tomoni Ota

[参考作品]

久石譲 千と千尋の神隠し 組曲 久石譲 『Another Piano Stories』 久石譲 『魔女の宅急便 サントラ音楽集』 久石譲 『ENCORE』

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場にて販売された公式パンフレットより紐解いていきます。

 

Program Interview

ーWORLD DREAM ORCHESTRA(W.D.O.)の活動を再開して以降、今年で6回目のツアーです。

久石:
W.D.O.は2004年から活動を始めました。最初の頃、第1期と呼べる時期は、ロックもポップスも含め、様々な世界中の音楽をオーケストラ作品として表現してきました。2年間の小休止後、第2期が始まり、自分の作品を中心に演奏してきました。今年はその第2期の区切りの年だと捉えています。

ーテーマ曲でもある「World Dreams」が組曲になりますね。

久石:
「World Dreams」は活動を始めた2004年に作った曲です。2001年に9.11(米同時多発テロ)が起きてから、世界はバラバラになって今までの価値観ではもうやっていけなくなるという感覚が自分の中で強くありました。だからこそ、世界中の人々が違いを言うのではなく、世界を一つの国として捉えるような曲、つまり国歌のような朗々としたメロディーの曲を作りたいと思ったんです。

実は「World Dreams」を組曲にしたいという構想はこれまでもありましたが、今年テレビ番組(「皇室日記」)からオファーを受けて「Diary」を書いた時に「World Dreams」の世界観と通じるものがあると感じ組曲にしました。

ーAプロでは次の曲が「ad Universum」です。

久石:
今年オープンしたプラネタリウム(コニカミノルタ プラネタリウム)のために書いた曲を組曲として構成し直しました。宇宙がテーマだったので、ミニマル・ミュージックでありながら聴きやすさを大事にして作った曲です。つまり相反する要素を一つの曲の中で表現している。そういう意味ではBプロで演奏する深海をテーマにした「Deep Ocean」の続編としての側面もあります。

ーBプロは今お話に出た「Deep Ocean」。

久石:
もともとはNHKの番組「深海」シリーズのために書いた曲です。ストイックでありながら、難しくなってしまうギリギリ手前で楽しんでもらえる曲になっていると思います。

ー後半は「Woman」から始まります。

久石:
ここ数年挑んでいるピアノと弦楽オーケストラの形です。指揮者としてオーケストラと対峙する関係と違い、演奏者として一体感が高く、とても好きなスタイルです。一方、指揮者もやらなければならないので、とてもハードなスタイルでもあります。作曲家の久石譲さんは演奏家にとても厳しいので、ピアニストとしてはいつも大変です(笑)。

今回はハープともう一台のピアノ、パーカッションを入れました。「Woman」「Ponyo on the Cliff by the Sea」「Les Aventuriers」の3曲とも「Another Piano Stories」というアルバムに入っていた曲です。12人のチェロとピアノ、ハープとパーカッションという特殊な編成のバージョンをベースにしながら、今回のツアーのために書き直ししました。

ー最後は「Kiki’s Delivery Service Suite」。

久石:
W.D.O.の第2期では宮崎駿監督作品を交響組曲にするシリーズを続けてきました。今年は「魔女の宅急便」です。

映画用に書いた曲というのは、台詞や物語の流れを踏まえ、音楽があえて語り過ぎないようになっています。さらにもともとこの作品は軽めのヨーロピアンサウンドを目指して作った曲です。それをシンフォニックな曲にしてしまうのは違うと思い、ずいぶん悩みました。今から30年前に書いた曲で、譜面もまともに残っていなかったのにも苦労しました(笑)。今回のツアーではアコーディオンとマンドリンの奏者を加え、映画の世界観を追体験しながら、音楽を存分に楽しんでもらえたら嬉しいですね。

ー今後のW.D.O.については。

久石:
最初にお話しした通り、今回が第2期の区切りです。オーケストラのコンサートで一人の作曲家が自作品だけで様々なプログラムを提示し、続けてこられたことは奇跡で、それが実現できたのはお客様の期待あってのこと。本当に感謝しています。第3期をどうしていくか。大事なことはお客様だけでなく、自分もオーケストラも心からエキサイティングな気持ちで臨めることだと思います。そのことを今年のツアーを通じて考えていきたいですね。

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・パンフレット より)

 

 

 

さて、久石譲本人による楽曲解説で充分にコンサートの雰囲気は伝わると思います。補足程度に感想や参考作品、アンコールもまじえてご紹介していきます。

 

組曲「World Dreams」 【AB】
15周年を華やかに飾る組曲化で壮大に。2004年発足時にW.D.O.テーマ曲として書き下ろされた「World Dreams」が第1曲に。『Spirited Away Suite』(2019CD)にも収録されている永遠の定番です。近年はアンコールで披露されることも多かったなか、今年は堂々とコンサートの幕開けに響きわたります。

第2曲に書き下ろされた「Driving to Future」は本邦初披露。ミニマルベースの明るい曲で、木管楽器や打楽器が弾むようにキラキラと飛び交い、ストリングスの大きなフレーズが流れるように広がります。精巧に散りばめられた管楽器・打楽器の短いモチーフのズレと、ゆったりと大きく歌うフレーズが後から追っかけてくる弦楽器の旋律のズレ。今最も旬な久石譲のアプローチがつまっています。メロディのはっきりした性格をもつ第1曲と第3曲にはさまれたこの曲は、絶妙な立ち位置でこの組曲の世界観を広げているように思います。イメージを狭める先入観は避けたいですが、TV番組『シリーズ ディープオーシャン』や映画『海獣の子供』とりわけ「10.ジンベエザメ」「9.出航」「11.嵐の中のふたり」あたりを彷彿とさせる(アプローチ・楽想・ハーモニーなど)と聴きながら思っていました。

第3曲「Diary」はTV番組『皇室日記』の新テーマ曲として2019年5月から使用されている楽曲。TV版は約3分の楽曲として一度だけO.A.されたことがありますが、それとは異なる組曲用の再構成、大幅にドラマティックに加筆されていました。第1曲のキメのフレーズが再循環で登場したりと、組曲を統一するにふさわしい壮大なオーケストレーション。

楽章間の拍手をなくすためか、コンサートでは3つの曲がなめらかにつながって披露されました。クロスフェードのように、曲の終音のフェードアウトとクロスして次の曲の始音が立ち上がってくる。素晴らしい集中力と演奏技術です。もしCD化される際には、このあたりがひと呼吸おくのか、同じようにつながるのか。僕はたっぷりひと呼吸おきたい派です。

15周年にして壮大に組曲化された「World Dreams」。これにて完全版でしょうか? また新しいひとつの期待をしています。それは、節目ごとにもっと巨大な作品になっていくのではないか。単純計算ですが、各5分の楽曲として約15分の作品になりました。”組曲”とうたいながら3曲構成?  世界観的にも時間的にもまだまだ大きなスペースを潜在的に秘めているように思えてきます。久石さんが音楽活動をしていくなかで、現代社会と呼応していくなかで、これからも作られていく曲。そこで生まれた曲と「World Dreams」との共鳴。もしくは、すでになんらかのかたちで発表されている作品だけれども、未音源化惜しまれる名曲たち「Mt.Fuji」とか。20周年・25周年のメモリアルに組曲「World Dreams」はまた大きく進化するのかもしれない。そんな楽しみと希望がまたひとつ芽生えました。

 

ad Universum 【A】
コニカミノルタプラネタリアTOKYO『To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲』のために書き下ろされた曲たちが『ad Universum』というタイトルで組曲化されました。この作品についてはとても曖昧な印象、な話になってしまいます。現在もロングラン上映中かつ未CD化のオリジナル楽曲たちだからです。

おそらくほとんどの曲が組曲化で盛り込まれているような気はします。小さい編成のオーケストラ+シンセサイザーで組み立てられたオリジナル版は、ミニマル手法を貫いた楽曲たちです。コンサートの印象では、やや編成を大きくし、アクセントやパンチの効いたダイナミックなオーケストレーションも施され、あくまでも管弦楽をベースとして必要最小限のキーボードによる電子音使用、まさに演奏会用の音楽作品に再構成されているんだろうと思います。静かな曲での電子音はエッセンスとしてとても効果的で、オーケストラも厚すぎず、散りばめられた星たちが適度な距離感でまたたくように、音たちもそれぞれの距離感で奏であい、、やっぱり曖昧な印象になってしまう。

エンディングに流れる曲はオリジナル版では合唱編成あり、この楽曲だけラジオO.A.音源として聴くことができます。コーラスの厚みが金管楽器などに置き換わっていました。さすが演奏会用に昇華されたダイナミックなエンディング曲です。ということで、、プラネタリウム鑑賞時のレビューのほうが各楽曲について細かく記しているかもしれません。

 

さて、今回この作品を聴かせてもらえたことで、次の夢も浮かんできてしまいます。『Deep Ocean』『ad Universum』という進化つづける久石譲がつまった作品たち、きちんとした音楽作品としての組曲化。次の候補は? 『Children of the Sea』!そう映画『海獣の子供』音楽の組曲化!きっと素晴らしいものになるとわかってしまう確信してしまう空想してしまう、今回この『ad Universum』を聴けたことで。

 

Deep Ocean 【B】
2017年コンサートでも披露された作品。ピアノ2台をオーケストラが囲むというなかなかお目にかかれない編成の魅力。音階をもったカウベル(チューンドカウベル)や珍しいパーカッション群、いつもの楽器が特殊奏法で効果音のようだったりと、生楽器だけで多彩な音世界を魅せてくれる作品です。今回編成が少し大きくなっていました。弦14型(14.12. ~ 7.)と通常オーケストラサイズ、音やフレーズが追加されていたり、厚みが増していたり。……でもこれは、もしかすると編成が変わったことでのバランスの変化、今まで聴こえなかった音が聴こえてきた……気のせいかもしれません……内心気のせいだとは思っていない自分がいますけれども。テレビサントラはまだかな、コンサート音源はまだかな、とずっと追っかけている作品です。楽曲について、追いかけ記録はこちら。

 

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings 【AB】
『Another Piano Stories ~The End of the World~』(2009)収録曲から3曲セレクト。CD版は12人のチェロとピアノ、ハープとパーカッションという編成、コンサートでは弦楽オーケストラへと拡大しています。久石譲のミニマル音楽に欠かせないハープは、一般的な流麗な演奏とは対照的なリズミックで時に鋭い音が求めらます。そんな奏法や音色の違いを生で感じることができて感動です。

「Woman」は、モダンな旋律とハーモニー、軽やかな疾走感で、現代女性の象徴のような美しくかっこいい曲です。編成のPercussionというのがポイントで、いくつの打楽器が縦横無尽に使われていたのか(マリンバ、ヴィブラフォン、グロッケンシュピールetc…)、奏者は何人だったか。CD版は2台のハープ、コンサートは1台のハープ、打楽器へ少なくとも1台分のパートが置き替わっている、複数に振り分けられているだろうからです。[Woman]コーナー全体をとおして、ぜひ映像で確認したいところです!

「Ponyo on the Cliff by the Sea」は、おなじみ「崖の上のポニョ」のメロディを、すべての楽器が同じ奏で方で一曲とおす魅力です。弦楽器はピッツィカートで弦をはじき、打楽器は鍵盤を打ち、音符の粒たちがコロコロとかわいく跳ねあいます。マリンバ系のパートが増えていたりと、弦楽の拡大に合わせて打楽器もバランスを合わせているのだろうと思います。

「Les Aventuriers」は、『Piano Stories II』(1996)にも収録されている久石さんお気に入り曲(ライナーノーツ公言)。と言いながら、コンサートで聴けるのは何年ぶりだろう?何十年ぶりだろう? ファンのあいだでもとても人気のある楽曲です。ズバリしびれました。弦楽オーケストラに拡大した真骨頂を垣間見ました。サビ(Another CD盤1:38~)のところでこれまでにはなかったフレーズが聴こえてきます。ヴィオラが低音から一音一音駆け上がってくるんですね、相当な圧で。あまりにも強烈な印象すぎて釘づけになってしまいました。ヴィオラが歌ってる歌ってる、サビのメロディに堂々と対峙して圧巻でした。後半のくり返しでも登場します。ABプロと2公演聴くことができたので、1日目終わってCD聴きなおし、やっぱりないよね…、2日目再確認してノックアウト、もう頭から離れません。ほんとかっこよかった。5拍子のグルーヴ感が魅力なこの曲、そこへさらにうねりができたような、改訂という言葉以上の進化を感じてゾクゾクしました。

 

Kiki’s Delivery Service Suite 【AB】
ジブリ交響組曲第5弾は映画『魔女の宅急便』。構成楽曲は次のとおりです(サントラTrack.No・曲名)。「1. 晴れた日に…」「3. 海の見える街」「5. パン屋の手伝い」「6. 仕事はじめ」「7. 身代わりジジ」「8. ジェフ」(前半部) 「9. 大忙しのキキ」「10. パーティーに間に合わない」「12. プロペラ自転車」「13. とべない!」「14. 傷心のキキ」「16. 神秘なる絵」「17. 暴飛行の自由の冒険号」「18. おじいさんのデッキブラシ」「19. デッキブラシでランデブー」「11. オソノさんのたのみ事…」。サウンドトラック全21曲中、主題歌2曲とTrack.2,4,15を除くほぼすべての曲が組曲化されていました。Track.2,4,15 も同じメロディで他曲にあるので、”All Music for KIKI” 完全版です!

弦14型(14.12.~ 7.)の対向配置による弦楽編成と、3管編成の木管楽器(フルート、オーボエ、クラリネットなど)、フルパワーの金管楽器4本(トランペット、ホルン)、3本のトロンボーン、さらには2奏者による鍵盤楽器(ピアノ、チェレスタ、キーボード)の弾き分け、マリンバ、ヴィブラフォン、シロフォン、グロッケンシュピール、ハープ、カスタネットも、そしてマンドリンとアコーディオンまで編成された、『魔女の宅急便』のためのフルスペック・フルオーケストラです。

「晴れた日に…」オーケストレーションもパワーアップして冒頭からマンドリン、アコーディオンも登場し一気に世界に誘われます。このふたつの楽器は、メロディに伴奏にと全編とおして大活躍でとても大切な組曲エッセンスになっていてニンマリしてしまいます。「海の見える街」『久石譲 in 武道館』『久石譲 in パリ』『Works IV CD』『WDO2018版』これらのすべてを踏襲していない、あくまでもサウンドトラックを基調にしたヴァージョンにはびっくりしました。「身代わりジジ」クラリネット、トランペット、バストロンボーンがフィーチャーされかけ合い絡み合う独奏をスタンディング披露、イベント感あるとても楽しい演出です。ホンキートンク・ピアノ(少しチューニングが狂ったような音色を出す)がポイントのこの曲はキーボードでしっかり聴くことができます。「ジェフ」チューバの愛くるしいメロディはじめ金管楽器メインの前半部分を抜粋。「大忙しのキキ」『久石譲 in 武道館』での「海の見える街」後半部分の6/8拍子スイングはここでたっぷり登場します。「プロペラ自転車」冒頭からキーボードであの伴奏リズムがしっかり聴かれ、後半は管楽器のフレーズも追加されていたような。「神秘なる絵」オカリナによる美しいソロとそのあと広がる三和音の神秘ハーモニーにはうっとり。オカリナは音程を合わせるのがとても難しい楽器、完璧を超えて身を委ねてしまうほどの美音に包まれます。「 暴飛行の自由の冒険号」「おじいさんのデッキブラシ」「デッキブラシでランデブー」息つくひまもないスリリングとスペクタクルで圧巻。音楽だけだからこそできる怒涛のたたみかけ。「オソノさんのたのみ事…」WDOコンサートマスター豊嶋泰嗣さんのヴァイオリンソロと久石譲ピアノも華を添えます。『久石譲 in 武道館』では「かあさんのホウキ」となっているあの曲です。組曲での曲名もこちらでしょう。永久保存版映像で親しまれている武道館演奏も、もちろん豊嶋泰嗣さんです。エバーグリーンなパフォーマンス、涙モノです。

 

すべての曲について感想書けるほど覚えていませんので印象に残ったポイントだけになりました。それでも、ぜひサウンドトラックから構成楽曲でプレイリストをつくってみてください。これがフルオーケストラで組曲になったのかあ!イメージふくらませるたびに感動します。

サウンドトラックから16曲も!と思いながら聴きかえすと、たしかに原曲は短い曲が多い。たとえば、『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』などは映画音楽を越えてシンフォニー音楽作品としてもCD化されてきました。だから組曲を構成する1楽曲が長いものもあります。一方で、『魔女の宅急便』は映画の世界観をそこなわない忠実なアップデートとしたときに、この方法が一番良いとなったんだと思います。イメージアルバムもシンセサイザーで組み立てられていたので、今回のオーケストラベースの組曲化は相当に大変だったと思います。当時と感覚も違うでしょうし、だからといって今の手法やスタイルを持ちこんでもうまく合わないでしょうし。

大満足しています。『魔女の宅急便』音楽ってこんなにもメロディの宝庫だったんだなって思えるほど、ひとつひとつの曲がはっきりしていて、とにかく楽しいです。イベント感やフェスティバル感といった華やかさもあって、にぎやかなヨーロッパの街にいるよう。これは海外公演でも人気出るだろうなあ。野外フェスとかで聴いてみたい。よく海外で行われているオーケストラの屋外フェスティバル、自然のなかで芝生に腰おろしてリラックスして楽しんでいる光景、そんなのいいなあ。

 

Il Porco Rosso 【Encore A】
『久石譲 in 武道館 2008』や海外開催『Joe Hisaishi Symphonic Concert:Music from the Studio Ghibli of Hayao Miyazaki』でプログラムされている『紅の豚』コーナーから。コンサートでは久石譲ピアノ+管楽器約7奏者によるジャジーなアンサンブルですが、それをベースにピアノパートだけを抜き出したソロバージョン。日本公演初お披露目。これがえも言われぬほどいいのですよ。常に演奏候補曲として持ち歩いてほしい逸品です。

 

Summer / あの夏へ【Encore B】
会場によってセレクトのちがう久石譲ピアノソロ。やっぱり久石さんのコンサートに行ったら、久石さんのピアノを少しでも多く聴きたいよね、と思ってしまうのです。特に若い人や新しいファン層も多いW.D.O.コンサートでは、CDやTVから聴こえていた久石譲の曲が、ピアノの音色が、目の前で今、生で聴いてる!ご本人の演奏で!!となってしまうのです。聴いた公演では、「Summer」のイントロ左手が3音くらい鳴り出すだけで大きなどよめきが起こる。こんなことってあります?! このリアクションこそが言葉での説明を必要としません。すごいです。

 

Merry-Go-Round 【Encore AB】
映画『ハウルの動く城』から「人生のメリーゴーランド」です。2018年NCO公演で初演されたヴァージョンで、それ以降海外公演でも披露されています。オリジナル版は言えばすぐ浮かぶ、ピアノの切ないイントロに始まり、ピアノの美しいメロディがつづきます。タイトル「Merry-Go-Round」となっているこのヴァージョンは、ピアノがありません。イントロをハープで、出だしのメロディをグロッケンシュピールとチェレスタで、というようにピアノパートがオーケストラ楽器に置き替わっています。楽曲構成は同じですが印象は変わります。よりヨーロッパになったかなあ、というか、これなら久石譲以外のコンサートでもっと爆発的に演奏されるんじゃないかな、そんな新しい魅力も。アメリカやヨーロッパをはじめ海外指揮者・海外オケによる純粋な管弦楽作品として披露できる。

おっと、これは言っておかないといけない。本公演はマンドリンとアコーディオンが編成されていたこともあって、この曲にも特別に参加しているスペシャルヴァージョンです。よりサントラ版に近い印象で、すごくよかったです。いや、すごく得した気分です。

 

 

今後の久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラについて。

久石さんはパンフレットで「第2期の区切り」と語っています。2004年~2011年の第1期、2014年~2019年の第2期。ここからは個人の推測です。来年はTOKYO2020オリンピック開催です。交通機関や宿泊施設などの影響も大きく都心でのイベント規制などもあるのかもしれません。ちょうど例年のW.D.O.開催時期とも重なります。2022年公開目指して製作が進められている宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』。(同年には愛知県『ジブリパーク』開業予定もある。)そんな外的要因と、久石さんのこれから先に向けて思うところ、、来年はおそらく、数年の小休止になるのかもしれませんね。

W.D.O.第2期の大きな柱のひとつとなったジブリ交響組曲化プロジェクトは、『Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015』(2015/『The End of the World』収録)、『Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE』(2016/未CD化)、『Symphonic Suite “Castle in the Sky”』(2017/『交響組曲「天空の城ラピュタ」』収録)、『Spirited Away Suite』(2018/『Spirited Away Suite』収録)、『Kiki’s Delivery Service Suite』(2019)と現在5作品で、そのほとんどがハイクオリティな演奏と録音でCD化されています。

もし第3期が再始動するときがあれば、きっとこの交響組曲化プロジェクトも再開してくれると願っています。第2期に象徴されるオール久石譲プログラムなW.D.O.コンサートになるのかはわかりません。おそらく久石譲さんという人は予定調和やマンネリは嫌う人だと勝手に思っているのですが、だからこそ一度リセットして、当たり前をなくしたい、もっと新しい刺激的なもの魅力的なものを提示し観客と共有したい、そんな勝手な思い巡らせたインタビュー内容でした。

今は、久石さんと新日本フィルが盤にのこしてくれているCDたちを、ゆっくり何回も聴き楽しむとき。聴いて聴いてW.D.O.第2期の感動をあらためてかみしめ、絶対なんてないW.D.O.第3期の再始動を強く熱望し想い届け!と願います。

 

 

 

久石譲コンサート公式ツイッターでは、ツアー期間中会場ごとのコンサート風景やリハーサル風景がリアルタイムに写真付き公開されていました。毎日楽しみにしていた人も多いと思います。

久石譲コンサート 2019-2020 公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

コンサート期間中チェックしていた新日本フィルハーモニー交響楽団の関連ツイッターです。奏者の方たちがリアルタイムにツイートした内容は、舞台裏を垣間見れたり楽器や人を身近に感じるきっけかにも。それに対してコメントするファンの人、返信くれる楽団とのやりとり。コンサート会場での感動がもっともっとふくらみます。久石譲コンサートをきっかけに、好きな楽器や奏者のファンにもなっていく。

新日本フィルハーモニー交響楽団
https://twitter.com/newjapanphil

東珠子(ヴァイオリン)
https://twitter.com/tamako_azuma

佐々木絵理子(ヴァイオリン)
https://twitter.com/Erillante

甲斐涼太郎(ヴァイオリン)
https://twitter.com/RyotaroViolin

醍醐のり子(ヴィオラ)
https://twitter.com/sKKtfyp9sR0OS3L

藤井将矢(コントラバス)
https://twitter.com/SHOYA1213

荒川洋(フルート)
https://twitter.com/nekoranpa2

中舘壮志(クラリネット)
https://twitter.com/soushi_clar

石川晃(ファゴット)
https://twitter.com/fg_akira

佐藤和彦(チューバ)
https://twitter.com/kazuhiko_tuba

柴原誠(打楽器)
https://twitter.com/shiba_da

高橋ドレミ(ピアノ/チェレスタ)
https://twitter.com/si_doremi21

青山忠(マンドリン)※客演
https://twitter.com/aoyamandolin

 

インスタグラムで発信されている方もいるでしょうし、ここにご紹介できていない方もたくさんSNSされているかもしれませんね。

 

 

ファンサイトではコンサート・レポートも募集し掲載させてもらいました。コンサートでもらった感動を!コンサートのありがとう!を。久石さんや新日本フィルのみなさんへめぐりめぐって届きますように。

 

 

東京公演ではマイクをはじめたくさんのカメラもありました。次の朗報も待ち遠しいところです!

久石譲さん、新日本フィルの皆さん、演奏者の皆さん、今年のW.D.O.もほんと最高でした!幸せな時間をありがとうございます!

 

 

Related Page:

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Blog. 「レコード芸術 2019年9月号」ベートーヴェン:交響曲全集 久石譲 FOC 特選盤・評

Posted on 2019/08/25

クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年9月号 Vol.68 No.828」、新譜月報コーナーに『ベートーヴェン:交響曲全集 / 久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス』が掲載されました。特選盤、全集で初収録となった第4番・第6番の評になっています。

 

 

新譜月評

THE RECORD GEIJUTSU 特選盤
ベートーヴェン:交響曲全集/久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス(旧ナガノ・チェンバー・オーケストラ) 他

〔初出音源の第4,6番のみについて批評しています〕

 

推薦 金子建志
演奏が尖っているのは第4番のほう。両端楽章のスピード感と切れの良さは予想どおりだが、小編成モダン・オーケストラの先例、P・ヤルヴィ=ドイツ・カンマーフィルと較べると第1楽章のアレグロ主部(39小節~)はヤルヴィ [8分11秒]、久石 [8分18秒] 、第4楽章がヤルヴィ [6分08秒]、久石 [6分35秒] と、いずれも少し遅い。しかし、弦の刻みを引き締まった筋肉のように躍動させる久石のほうが室内楽的。そのぶん相対的にティンパニの強打が炸裂する。第3楽章で久石がタイムで上回るのは、トリオが速いから。隠れ変拍子のスケルツォ主部は、ヘミオラが喧嘩腰でロック風。第2楽章 [6分09秒~] のポリリズムの強調は作曲家らしい。

《田園》は、予想外にカンタービレ優先の叙情的な解釈。第1楽章は、立ち止まって景色を眺める [5分54秒~] の呼吸感はワルターを思わせるが、テンポの戻しかたは微妙に室内楽的だ。第2楽章は全ミュートの弦に木管が柔軟に絡み、歌うべき個所では存分に主張する。この心象絵画の域に達した自然描写と、フィナーレを聴くと、天性のメロディ・メイカーならではの感性が感じ取れる。弱音器付きのホルンが日没を表すコーダの余情も、たっぷり。ナガノ・チェンバー・オーケストラという名称で開始したこのツィクルス、何曲が聴いて拒絶・退避を決め込んでいた向きが、改めて暖簾をくぐる切っかけになるかもしれない。

 

推薦 諸石幸生
2016年7月にスタートした、久石譲率いる旧ナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェンの交響曲が全集として完成された。2016年に開館した長野市芸術館の音楽監督となった久石譲が、1300名収容のホールに相応しいオーケストラとして創設したのである。この間にフューチャー・オーケストラ・クラシックスに変わることになったのは、市の予算の問題などがあり、久石譲が行っている「MUSIC FUTURE」の中で続けることになったからという。本誌では、それぞれ発売の度に演奏評を掲載してきたが、今回の全集登場で初めてCDリリースとなった第4番と第6番について記すことにしたい。演奏はいずれも、揺るぎない安定感をベースにした活力があり、とても完成度が高い。まず第4番だが久石は次のように語っている。「第4番はもっと評価されるべき作品。第3番と第5番の間に隠れ、両曲ほど強い個性もないので埋没されているが、優れた作品である。特に第4楽章は単独で頻繁に演奏されてもよいと思う」と。事実ここで久石は、大好きな作品を演奏するという喜びが溢れ出た指揮を見せているのである。第6番について「『田園』というタイトルがついた段階で文学的である」「第1楽章は、変化が乏しく感じて多くの指揮者はクレッシェンドをしたりするが、僕はミニマリストだから、そこで作為的なこと一切除いて演奏した」と言うように、久石譲の作品に対する信頼感をベースとした熱い演奏が聴かれる。

 

[録音評] 常磐清
演奏・録音ともにこのベートーヴェンは特殊な一例と捉えるべきだと思う。”これ見よがし”的に誇張された低音楽器やティンパニは”ベートーヴェンはロックだ!”との広告コピーに通じる。第6番では劇的な演奏スタイルが頭の中に映像描写をイメージしやすくしている感がある。全集として統一された録音ではないしポップス的で残響音量は総じて大きい。

(レコード芸術 2019年9月号 Vol.68 No.828)

 

 

なお前号「レコード芸術 2019年8月号」でも、「先取り!最新盤レヴュー」コーナーにて紹介されています。下記ご参照ください。

 

 

 

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『映画 二ノ国 オリジナル・サウンドトラック』

2019年8月21日 CD発売 UMCK-1637

 

2019年公開映画『二ノ国』
製作総指揮/原案・脚本:日野晃博
監督:百瀬義行
音楽:久石譲
主演:山﨑賢人
主題歌:須田景凪「MOIL」

 

人気RPG『二ノ国』シリーズを長編アニメーション映画化!製作総指揮/原案・脚本:日野晃博(『レイトン』シリーズ )×監督:百瀬義行(『おもひでぽろぽろ』原画 )×音楽:久石譲という日本を代表するドリームメーカーが集結!オリジナルストーリーで描かれる劇場版の本作では、主人公“ユウ”の声を演じる山﨑賢人をはじめ、宮野真守、津田健次郎、坂本真綾、梶裕貴、山寺宏一といった声優ドリームチームの参加も決定!全世界が待望するアニメーション映画『二ノ国』が誕生する。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

ー久石さんはゲーム『二ノ国』から楽曲を担当されていますが、今回映画『二ノ国』の音楽をつくるにあたって、最初にどんなことを考えましたか。

久石:
多くの映画音楽は基本的には状況か、あるいは登場人物の心情に音楽をつけるのですが、僕はあまりそういう方法は取っていないんですよ。それよりも、観客側から客観的に見て、観客の心情を表現する音楽を作っている。だけど映画『二ノ国』はエンターテインメントな映画。こういう映画は、やはり物語の状況や心情に寄り添わないといけない。僕としては久しぶりに、物語に沿った音楽を書きましたね。

ー一ノ国で流れる曲と、二ノ国で流れる曲。具体的にはどのような違いがありますか。

久石:
一ノ国というのは私たちが暮らすのと同じような、現実世界。そこで流れる音楽は、室内楽のような小編成での演奏にしています。一方、二ノ国はファンタジーな異世界。ベーシックに、フルオーケストラでの演奏です。一ノ国と二ノ国で流れる音楽をきっぱりと分けるというのが基本。一ノ国と二ノ国で同じメロディを使っている場合もありますが、その場合も違うアレンジをしています。

ー映画だからこそできたこと、チャレンジされたことはありますか。

久石:
見ている方がワクワクするようにできたらいいなと思って、全体的にはパーカッションを使ってリズミックにしています。そこは僕にとってのチャレンジでしたね。ゲーム版のテーマ曲もさりげなく出していますから、ゲームファンの方にも楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

ーレコーディングはいかがでしたか。

久石:
僕のレコーディングに参加する人たちは、オーケストラでは首席奏者クラスの人たちばかり。ミニマル・ミュージックに慣れている人たちもいて、非常に助かりました。日本のミュージシャンは本当にすばらしいですよ。ちゃんと音楽上でコミュニケーションを取れる人たちと取り組んだので、その場で生み出されたものもあった。楽しくレコーディングができました。

ー久石さんにとって映画音楽をつくるお仕事は、どういう意味合いがありますか。

久石:
エンターテインメントな作品に関わるとたくさんの人とコミュニケーションを取るので、新しい表現が生まれてくる。自分だけではやらないようなこともできたりする。そういう新しい発見があるから楽しいし、やめられないんですよね。映画音楽もコンサートもそれは一緒。僕にとって生きることと同じなんです。

ー久石さんの音楽を楽しみにしている方々にメッセージを音楽します。

久石:
今年の2月にパリでコンサートを行った時、フランスメディアのインタビューを受けましたが、みんな『二ノ国』のことを知っていました。「今度映画化されるんですよね。音楽を担当するんでしょう」と質問された。日本国内のみではなく、海外でも認知されているタイトルが、『二ノ国』。それが映画化されるということで、みんな期待を持っているんだなと感じています。

日本のみならず海外にも、この音楽が映画とともにみんなに聞いてもらえたら、僕にとっては何よりの喜びです。

Blog. 「映画「二ノ国」公式アートブック」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今の自分のやり方ってどちらかと言うと非常にミニマル・ミュージック的なアプローチがすごく多いんです。ミニマル・ミュージックというのは、同じ音型を繰り返す。そういうやり方をしているから、今の自分のやり方だと、エンターテインメントの映画にはあまり合わないんですよね。普通ではお断りしちゃう仕事のひとつなんです。ですが、過去にゲームでいっぱい作ってきた音楽があったので、それとうまくバランスを取れれば、今までとは全く違う切り口・やり方の映画音楽になるかなと思って。その辺はちょっと意識しましたね」

本作の題材となったゲーム「二ノ国」シリーズの音楽も担当していた。その時々の楽曲制作に精一杯で過去のことはあまり考えないという久石は、10年前のゲーム音楽について聞くと「あの頃はこうやったんだなというのがわかります。今は同じやり方は全くしていないからね。頑張ってよく書いたなと思ったぐらいの感じですかね」とコメント。「(ゲーム版の)テーマはさりげなく出したりしています。そういうところは楽しんでもらえるのかなと思います」とゲームファンに向けて明かした。

Info. 2019/07/26 久石譲、音楽は「生きること」 映画『二ノ国』収録現場で語る (Webニュース2種より)より抜粋)

 

 

「まずゲームと映画はまったく違うものなので、やり方は変えています。ただ今回の映画はエンターテインメントな映画だったので、音楽のあり方も変えました。通常、映画音楽は映像を説明するような音楽、状況や登場人物の心情に音楽をつけるんですけど、僕は普段そういう方法を取ってないんです。観客側から客観的に見る方法を取ってるんですが、エンターテインメントな映画になればなるほど、状況や心情に寄り添わなければならないので、その意味で久しぶりに、そういう音楽を書きました。ただ、映画の製作側から、ゲームとはまったく違う音楽をつくってほしいと言われたんですが、それは根本的に間違っていると思ったのでそう答えました。ゲームであれ映画であれ『二ノ国』という世界観がひとたび出来上がると、ストーリーがどうであろうと、ベーシックな部分は一緒なんですよ。ある意味では、同じ曲を使ったほうがいいということもあります。だからこそ、そこは客観的に分析して、どこをどういう手法でやるか、それを考えました」

Blog. 「Men’s PREPPY 2019年9月号」映画『二ノ国』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

【百瀬監督、製作総指揮/原案・脚本の日野氏からのコメント】

■監督 百瀬義行
壮大なオーケストレーションの中に、登場人物が揺れ動く繊細な心を汲み取った久石さんの音楽は、映画に新しい彩りを添えてくださいました。

■製作総指揮/原案・脚本 日野晃博
久石譲さんの音楽は、二ノ国の世界観を形成する最重要の要素です。
今回の音楽も、原作のゲームからさらに飛躍し、映画独自の世界観をカタチづくることに成功しています。二ノ国にいるときと一ノ国にいるときの、音楽性の違いなどにも注目ポイントです。
今回の映画二ノ国でもそうですが、久石さんのつくられる、感情に寄り添った音楽の流れは、映画音楽の神髄と言えると思います。

出典:映画『二ノ国』オフィシャルサイト|ニュース

 

 

 

予告編・特報・PV動画などに使用されていた楽曲は、「2. おだやかな日常」「4. 二ノ国へ」「13. 空のランデブー」「15. 姫の心」「16. 仕組まれた入場」「24. 命をかけた戦闘」「25. 届かぬ思い」「33. 決着の時」「34. 別れ」 *特報のみゲーム版サウンドトラックから使用

 

録音は2019年5月23、24日アバコスタジオにて。おそらくフルオーケストラ編成楽曲を中心に行われいると推測する。Bunkamuraスタジオでは、小編成楽曲が録音されたのか、部分録り(楽器ごと)に使われたのか、日付ふくめて不明。

CDライナーノーツ・クレジットより、フルオーケストラ編成と室内楽の編成表がはっきりとわかることもうれしい。既存のオーケストラ楽団ではなく招集型であり、久石譲の音楽活動の線でいうと、FOC(フューチャー・オーケストラ・クラシックス)の流れをくむ方法になっている。FOCメンバーとの重複割合は細かく照合していないけれど、もちろん周知のメンバーも参加している。

フルオーケストラ編成と室内楽の奏者は一致していない(ピアノ除く)。室内楽ヴァイオリンは、FOCコンサートマスターの近藤薫さん。このあたりは、奏者が違うことで演奏の質をも分離したかったというよりも、どのリーダーを起点として招集をかけたかではないかと推測している。

 

 

2019.8.27 update

映画観てサントラ聴いてレビュー。

全体をとおして。

「全体的にパーカッションを使ってリズミックにしている」(久石)とある、それは生楽器だけではなく打ち込みも含めた多彩なもの。新曲はもちろん、ゲーム版から使用された曲たちもパーカッションが強調・足されたもの多く、全体のトーンとしてうなずける。

CDクレジットでは室内楽のほうにシンセサイザーが明記されているけれど、フルオーケストラ楽曲でも使用されている。生楽器を基調としたなかで電子音のアクセントというつくり方になっている。また小編成は薄い、フルオーケストラは厚い、という凹凸感をあまり感じないことも特筆できる。小編成のカラフルな音色と、フルオーケストラの引き締まったソリッドな響きが、ふたつの対照的な編成をうまく均衡にしている。

映画本編106分、サウンドトラック盤52分とあるなか、実際には上映時間の2/3以上音楽が流れる印象がある。これは《収録曲のいくつかが複数回使用されている》《サントラ未収録の楽曲がある(新曲/既発ゲームサントラ)》がその理由。

「久しぶりに状況や心情に寄り添った音楽を書いた」(久石)とある、それは曲はもちろん音楽の当て込み方としても顕著で、この場面では・この状況では・この登場人物では・この組み合わせでは、というように、明快な音楽配置になっている。そのため、複数回登場する曲も多くなってくる。それが曲の一部を切り取った部分的なものであっても。

ゲーム版からの使用曲は、一曲のなかで2つ以上の原曲がつながったトラックも多い。映画の終わりエンドロールでメインテーマや主要テーマをメドレーのように組み立てて構成することは、久石譲の映画音楽にもあるけれど、本編のなかでここまで多用することは極めて珍しい。それゆえ『二ノ国』音楽にゲームから親しんできたファンにとっては、この曲もこの曲もとてんこ盛りなうれしさある、サービス旺盛な音楽構成になっている。

まとめると、エンターテインメント映画のためのエンターテインメント音楽、そんなアプローチに集約されている。

 

 

楽曲ごとに。

全35曲を細かくレビューはできないので、ピックアップして紹介していく。ゲーム版音楽から本作映画に使用されたものもあわせて紹介していく。理由はふたつ。映画版音楽を聴いて興味をもった人がゲーム版音楽にもふれて『二ノ国』音楽の世界を広げてほしいこと。もうひとつは、どのサウンドトラックから持ち出した曲が多いかを整理したかったこと。結果的には、『二ノ国 II レヴァナントキングダム オリジナル・サウンドトラック』が最も多く、それは映画とゲームの共通性というよりも、久石譲の作曲手法やスタンスが近しいため(2018年作品)違和感なく並べやすかったのかもしれない。

ゲーム版から使用された曲は、すべて新アレンジ・新録音になっている。下記【○○と同曲/○○と○○をつなげた曲】としか書いていないものもある。もちろん既出音源をそのまま使用したのではなく、この映画のために新アレンジ・新録音されたもの。また、同じメロディをもった曲でもサウンドトラックにはタイトル違いアレンジ違いで複数収録されていることがある。気に入った曲があったら、もっとほかのバージョンもあるのかもしれないと、ゲームサントラにも手をのばしてみてほしい。

ゲームをしていない人が書いているので、ゲーム版から持ち出された音楽が、映画で使用されたシーンと関連性があるのか、もしくは裏設定があるのか、などはわからない。そんななかでも曲名や使用場所からうっすら推察できるものもある。ゲーム版から『二ノ国』を楽しんでいる人には、おっ!という新しい発見もあるのかもしれない。

 

 

[ゲーム版]

 

 

1. 不思議なお爺さん
19. 異世界への旅立ち
31. 受け継がれるもの
ガラス玉のような神秘的な音色と、3つの音符をつなげた短いモチーフが、楽器を替えながらゆっくりと交錯する曲。19. 31.も同じモチーフを使って展開していて、その上にたゆたうストリングスの調べが誘ってくれる。本作のなかでは客観的・俯瞰的な一歩引いた曲想、しっかりと今のスタンスも顔を出す。漂うようにずっと聴いていたい、主張しない音楽の好例といえる。映画では、数回使われていたり(どのトラックかの選別は難しい)、ループして長めに流れてもいたり。一ノ国と二ノ国の両方で使われていることからも、世界観を有機的につなぐ主要テーマ曲のひとつになっている。

 

2. おだやかな日常
ギターの弦をおさえて音程の出ないようにかき鳴らす、パーカッションのような使い方が風通しよい。後半は乾いた音色で小気味よく。この曲に限らず、ギターは一ノ国のコントラストや空気感を表現する大切な役割を果たしている。(この曲はこのあともう一度ふれている)

 

4. 二ノ国へ
26. 襲撃
4. 後半に聴くことができるのが、おなじみ『二ノ国』メインテーマ。(漆)(白)(レ) また26.でも聴かれる弦楽器とクラリネットのソリッドなかけ合いが、一種サクソフォーンの音色のようにも聴こえて新鮮。こういった組み合わせは、これまであまりなかったように思う。映画では、4.の前にサントラにはないバージョンが3-5分流れていた。かっこいいバージョンだったので収録されていないのがもったいない。

 

6. 酒場
アイルランドやケルトを思わせる賑わう街や人の光景。ティンホイッスル、ヴァイオリン、ギターにパーカッションと、まるで即興セッションのような躍動感と陽気さとちょっぴりの哀愁。とりわけベースがないことが素晴らしい。ベースがあることで曲としてきちっとした型ができあがる、土台のしっかりとした一曲ができあがる。だからここは、酒場の世界観につけたとも言えるし、酒場でたまたま演奏されていた状況内音楽、即興演奏のようなものをかたちにしたともとれる。もちろんそういった演奏シーンはない。音楽の位置づけ意味づけをふくらませることができる。ベースがないことがポイント。映画では、もっと長くループしていた。また、酒場のシーンではこの曲が流れるという設定、数回聴くことができる。

もうひとつ、「9. ネコ王国の城下町」(漆)でもティンホイッスルやパーカッションをベースにした曲があり、「25. ネズミ王国の城下町」(レ)はその変奏になっている。そして、「酒場」もまた同じメロディから派生、大きく変奏したバリエーションとみるととてもおもしろい。

”『二ノ国 レヴァナントキングダム』の主人公・エバンがエスタバニアをつくり、二ノ国にあった様々な国を統一する。それから数百年経過したのが映画『二ノ国』の世界、という裏設定がある”(公式情報より)…らしい。

 

7. 侵食する呪い
「5. The Horror of Manna」(白)と同曲。ゲーム版のほうが重厚にドラマティックに展開している。”昔とはやり方も違う”という久石譲の言葉を、音楽というかたちでしっかり体感できるかもしれない。使用される楽器、奏法やアクセントなど聴きくらべると、たとえそれが微細な違いであったとしても、言葉では抽象的になってしまうものをたしかに感じとれる。数回使われている。また、サントラ未収録ではあるが、「5. The Horror of Manna」(白)中盤の展開部を新アレンジしたものも映画には使われている。

 

8. エスタバニア城
16. 仕組まれた入場
今回、映画のために書き下ろされた新曲たちは、意外にもミニマル手法の曲がとても多い。そして、このような勇壮なミニマルを久石譲オリジナル作品として、1分や30秒ではなくたっぷりと聴いてみたい。これがもっと変化していったら、転調していったら、展開していったら、と想像するだけで高揚感が湧いてくる。

 

9. 疑惑
27. 悲しき過去
29. ガバラスとの戦い
33. 決着の時
同じモチーフで展開している。ここに記すのは33. 、冒頭に「7. 強大な魔法」(漆)が使われ、このモチーフが流れ、後半は『二ノ国』メインテーマ(漆)(白)(レ)をほぼ1コーラス聴くことができる。アレンジは(レ)をベースにしているけれど、合唱編成はないフルオーケストラ版、オーケストレーションも細かく異なる。数あるメインテーマのバリエーションがゲーム版からあるなか、新たなひとつ。

実は映画では、33. の『二ノ国』メインテーマはイントロ部分までしか流れない!映画には登場しないメインテーマ1コーラス。音楽収録ではフルサイズではないけれどメインテーマ単曲で録音されているはず。完成した映画の前後シーンからみたとき、当初通して使われる予定だったものがカットされたとは考えにくい。もしくは別の箇所で使う予定だったのか。いろいろ推察はできる…けれどここは! 『二ノ国』音楽ファンへ、しっかりメインテーマも収録してますよ、うれしいボーナストラック的ギフトとして楽しもう。(映画予告編で使用されたメインテーマは、この映画サントラバージョン)

 

10. 険悪なムード
この曲と「3. 忍び寄る危機」は同じ曲を基調としているのではないかと思っている。10.に聴かれるメロディを3. 頭のなかで当てはめるとぴたっとはまる。もちろん同じ一ノ国の世界につけられた曲ということもある。映画では、部分的ふくめて数回聴くことができる。

 

11. 募る思い
12. 思いがけない出会い
15. 姫の心
34. 別れ
今もってしてなお、こんなメロディを生みだしてしまうのか感嘆、と新旧すべての久石譲ファンうれしい一曲。メロディを奏でる楽器たち 11. ピアノ/12. フルート/15. 34. ヴァイオリン がスポットライトを浴びている。15. 34. サビのメロディと対旋律の流れも美しい。34.の終部には、「心のかけら」(漆)(白)のメロディが登場しゲームファンくすぐる演出になっている。映画では、11. 15. の1コーラスなども数回聴くことができる。

またこの曲の出だしメロディ2小節は、「2.おだやかな日常」のモチーフとしても使われている…と思っている。つまり、映画『二ノ国』にとっての主要テーマ曲であり、かつ、それは一ノ国(2.)と二ノ国(11. 12. 15. 34.)を有機的に結びつけている、かたちを変えてどちらの世界にも登場する曲。

 

13. 空のランデブー
「24. 果てしない空」(レ)と同曲。木管楽器の戯れが追加されただけでも気分はさらに飛躍する。テンポも違う、ピアノや打楽器の配置加減も違う。

 

14. 清めの舞
とりわけドビュッシーのような印象派的音楽を、ここまで大胆に自曲で表現したことはなかったかもしれない。映画というフィールドだからこそできた曲だと思うと、ついつい舞いのつづきを想像してしまう希少な一曲。

 

17. コロシアムの戦い
「8. 苦闘」(レ)「20. 命運をかけた戦い」(レ)をつなげた曲。

 

18. 決死の賭け
「2. クーデター」(レ)と同曲。重低感のあるパーカッションは映画版のほうがパンチ効いて、曲全体にあたえる重心も深い。

 

20. ふたつの道
25. 届かぬ思い
緊迫感や緊張感といったものを、オーケストラで表現するとこうなる、パーカッションを主体にするとこうなる、短いながらとても綿密に計算されている。間違ってもただパーカッションを追加したということにはなっていない。

 

21. 命のゆくえ
「21. 切ない思い出」(レ)と同曲。 映画終盤にも部分的に使われている。

 

22. 黒の侵攻
「11. ボスバトル」(レ)と「5. 別れ」(レ)をつなげた曲。 

 

23. 激しい攻防
「20. 命運をかけた戦い」(レ)と「9. The Zodiarchs」(白)をつなげた曲。

 

24. 命をかけた戦闘
「11. 帝国行進曲」(漆)と同曲。

 

28. マリオネット
作品から飛び出すけれど、「2 Pieces for Strange Ensemble 1. Fast Moving Opposition」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE II』2017・CD収録)を思い出してしまったほど、久石譲の旬がつまったスタイル。あと5分でも7分でも、ズレながら変化しながらどっぷりと堪能したい、そんな一曲。映画では、フレーズが鋭く飛び交う部分と、リズム刻みだけになる部分が、シーンの切り替わりとリンクしていて、そのあまりにおさまりいいスムーズさに、ただただ脱帽。あっ、映像とのこういうシンクロの仕方、マッチングの仕方もあるんだな、と新たな一面を目撃した瞬間だった。

 

30. 守る覚悟
「5. アリー ~追憶~」(漆)「20. 奇跡 ~再会~」(漆)と同曲。映画版は曲の途中で終わっている。優麗にドラマティックに展開し、きれいに着地しているゲーム版もぜひ。

 

32. 伝説の勇者
「26. 守護神」(レ)と「19. 最後の戦い」(漆)をつなげた曲。

 

35. 似た者同士
旋律が追っかけてくるような手法、歌い出しが小節頭か裏拍かという変化。幹があって枝葉が豊かなように、源流とたくさんの小川があるように、大きな時間と小さな時間があるように。すべてのもののつながり。近年の久石譲にみられる新しいたしかな手法。『NHKスペシャル シリーズ ディープ オーシャン』や『プラネタリアTOKYO To the Grand Universe 大宇宙へ』(未音源・2019年8月現在)、そして2019年映画『海獣の子供』サウンドトラックでも、いろいろ趣向を凝らし存分に楽しむことができる。映画では、部分的に使わている箇所がもうひとつある。

 

 

映画使用曲
「10. 砂漠の王国の町」(漆)の一部、既発音源をもとにしながらも一風変わったかたちで使われている。ゲームを楽しんだ人なら、あの曲!とわかるほどのアラビア風な曲。映画サントラ未収録。

「15. 漆黒の魔導士ジャボー」(漆)の新アレンジ版が使われている。映画サントラ未収録。

ほかにもあるが、上の各楽曲説明と重複するので割愛する。

 

 

このように、映画版音楽はゲーム版からも多くの音楽が使用され、『二ノ国』ファンにとってはてんこ盛りのうれしい充実となっている。一曲ごとの分数が短く、もっと先を聴きたい、このまま続いてほしい、と思ってしまうのは映画サウンドトラックのジレンマ。

ゲーム版は映像や時間の尺に左右されない音楽作品として構成されているものも多い。とりわけ、『二ノ国 漆黒の魔導士 オリジナル・サウンドトラック』『Ni No Kuni: Wrath of the White Witch - Original Soundtrack』は、曲ごとにしっかり起承転結で展開する作曲方法をとっている。映画サウンドトラックからゲームサウンドトラックへ好奇心を広げると、お気に入り曲との楽しい出会いもきっとある。

また、楽曲をフラットに並べてみたことで、映画のための新曲が決してエンターテインメントに寄りすぎていない、今の久石譲のスタイルを貫いたものも多い、そんなこともわかった。音楽制作にあたりすべてのゲーム版音楽を聴きなおし、映画への可能性を吟味し、10年前に書いたものと今書くものが並列する。『二ノ国』の世界観を継承し、新たな一面もみせる。

『二ノ国』という作品、2010年ゲームから2019年映画まで、それぞれに新しい世界観で音楽をつけている、あわせて4枚のCDリリースは、久石譲の音楽活動のなかでも稀なほど長期的に携わっている作品。いつかコンサートでも壮大な組曲を聴いてみたい。第2組曲、第3組曲、、夢は果てしない。

 

 

 

 

2020.1.8 追記

『二ノ国』ブルーレイ プレミアム・エディション、映像特典に「Making of Soundtrack by 久石譲」インタビューとレコーディング風景をまじえた約11分の映像が収録されている。

 

 

 

 

1. 不思議なお爺さん
2. おだやかな日常
3. 忍び寄る危機
4. 二ノ国へ
5. 未知なる異世界
6. 酒場
7. 侵食する呪い
8. エスタバニア城
9. 疑惑
10. 険悪なムード
11. 募る思い
12. 思いがけない出会い
13. 空のランデブー
14. 清めの舞
15. 姫の心
16. 仕組まれた入場
17. コロシアムの戦い
18. 決死の賭け
19. 異世界への旅立ち
20. ふたつの道
21. 命のゆくえ
22. 黒の侵攻
23. 激しい攻防
24. 命をかけた戦闘
25. 届かぬ思い
26. 襲撃
27. 悲しき過去
28. マリオネット
29. ガバラスとの戦い
30. 守る覚悟
31. 受け継がれるもの
32. 伝説の勇者
33. 決着の時
34. 別れ
35. 似た者同士

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Orchestration by Chad Cannon, Joe Hisaishi

Performed by
Except Track-1, 2, 3, 6, 9, 10, 11, 19, 26
Flute:Hirioshi Arakawa
    Misao Shimomura
Oboe:Ami Kaneko
    Masato Satake
Clarinet:Soushi Nakadate
      Kei Kusunoki
Bassoon:Mariko Fukushi
       Masashi Maeda
Horn:Yoshiyuki Uema
    Hirofumi Wada
    Kazune Fukae
Trumpet:Takaya Hattori
       Homare Onuki
Trombone:Shinsuke Torizuka
Bass Trombone:Koichi Nonoshita
Tuba:Nana Ishimaru
Timpani:Tadayuki Hisaichi
Percussion:Mitsuyo Wada
      Keiko Nishikawa
      Nanae Uehara
Harp:Yuko Taguchi
Piano/Celesta:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings

Track-1, 2, 3, 6, 9, 10, 11, 19, 26
Clarinet:Hidehito Naka
Percussion:Akihiro Oba
Piano:Febian Reza Pane
Synthesizer:Naoko Imamura
Guitar:Go Tsukada
Violin:Kaoru Kondo
Cello:Sin-ichi Eguchi
Tin Whistle:Akio Noguchi (Track-6)

Recorded at Avaco Studio, Bunkamura Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Enginner:Suminobu Hamada
Derector & Manipulator:Yasuhiro Maeda

and more…

 

 

Ni No Kuni The Movie (Original Motion Picture Soundtrack)

1.The Mysterious Old Man
2.Carefree Days
3.A Darkness Draws Near
4.The Other World
5.An Unknown Land
6.At the Tavern
7.The Curse
8.Evermore Castle
9.Shadows of Doubt
10.A Somber Mood
11.Falling Deeper
12.An Unexpected Encounter
13.The Boundless Skies
14.Purification
15.From the Heart
16.No Turning Back
17.To Arms!
18.A Leap of Faith
19.Memories of Youth
20.Separate Ways
21.A Solemn Vow
22.The Invasion Begins
23.All Out War
24.To the Death
25.On Deaf Ears
26.In Danger
27.A Painful Past
28.Marionette
29.Facing Galeroth
30.Always by Your Side
31.Passing on the Torch
32.Hero of Legend
33.End of the Line
34.Farewell
35.Soul Mates

 

Blog. 「映画「二ノ国」公式アートブック」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/08/20

2019年夏公開映画『二ノ国』関連書籍、映画「二ノ国」公式アートブックより久石譲インタビューです。

 

 

インタビュー 音楽 久石譲

ゲーム版のテーマ曲もさりげなく出しています。ゲームファンの方にも楽しんでほしい。

ゲーム「二ノ国」から引き続いて、映画『二ノ国』でも音楽を担当する久石氏。音楽を通して並々ならぬ想いを本作に込める。

 

ー久石さんはゲーム『二ノ国』から楽曲を担当されていますが、今回映画『二ノ国』の音楽をつくるにあたって、最初にどんなことを考えましたか。

久石:
多くの映画音楽は基本的には状況か、あるいは登場人物の心情に音楽をつけるのですが、僕はあまりそういう方法は取っていないんですよ。それよりも、観客側から客観的に見て、観客の心情を表現する音楽を作っている。だけど映画『二ノ国』はエンターテインメントな映画。こういう映画は、やはり物語の状況や心情に寄り添わないといけない。僕としては久しぶりに、物語に沿った音楽を書きましたね。

 

ーどのようなプロセスでつくっていったのでしょうか。

久石:
つくるにあたって考えたのは、『二ノ国』の世界観。一ノ国と二ノ国の人間は、命がつながっているというのがこの作品のポイントです。ストーリーにかかわらず、一ノ国と二ノ国で流れる音楽の根っこは一緒。時には同じ曲を両方で使ったほうがいいケースもあるわけですね。まずはできるだけ客観的に分析して、どのシーンにどんな曲を使うかとても考えました。

 

ー一ノ国で流れる曲と、二ノ国で流れる曲。具体的にはどのような違いがありますか。

久石:
一ノ国というのは私たちが暮らすのと同じような、現実世界。そこで流れる音楽は、室内楽のような小編成での演奏にしています。一方、二ノ国はファンタジーな異世界。ベーシックに、フルオーケストラでの演奏です。一ノ国と二ノ国で流れる音楽をきっぱりと分けるというのが基本。一ノ国と二ノ国で同じメロディを使っている場合もありますが、その場合も違うアレンジをしています。

 

ー映画だからこそできたこと、チャレンジされたことはありますか。

久石:
見ている方がワクワクするようにできたらいいなと思って、全体的にはパーカッションを使ってリズミックにしています。そこは僕にとってのチャレンジでしたね。ゲーム版のテーマ曲もさりげなく出していますから、ゲームファンの方にも楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

 

ーレコーディングはいかがでしたか。

久石:
僕のレコーディングに参加する人たちは、オーケストラでは首席奏者クラスの人たちばかり。ミニマル・ミュージックに慣れている人たちもいて、非常に助かりました。日本のミュージシャンは本当にすばらしいですよ。ちゃんと音楽上でコミュニケーションを取れる人たちと取り組んだので、その場で生み出されたものもあった。楽しくレコーディングができました。

 

ー久石さんにとって映画音楽をつくるお仕事は、どういう意味合いがありますか。

久石:
エンターテインメントな作品に関わるとたくさんの人とコミュニケーションを取るので、新しい表現が生まれてくる。自分だけではやらないようなこともできたりする。そういう新しい発見があるから楽しいし、やめられないんですよね。映画音楽もコンサートもそれは一緒。僕にとって生きることと同じなんです。

 

ー久石さんの音楽を楽しみにしている方々にメッセージを音楽します。

久石:
今年の2月にパリでコンサートを行った時、フランスメディアのインタビューを受けましたが、みんな『二ノ国』のことを知っていました。「今度映画化されるんですよね。音楽を担当するんでしょう」と質問された。日本国内のみではなく、海外でも認知されているタイトルが、『二ノ国』。それが映画化されるということで、みんな期待を持っているんだなと感じています。

日本のみならず海外にも、この音楽が映画とともにみんなに聞いてもらえたら、僕にとっては何よりの喜びです。

(映画「二ノ国」公式アートブック より)

 

 

補足)

映画『二ノ国』の久石譲インタビューは、雑誌・Webなどいくつかの媒体で発信されています。大枠は同じです。おそらくは、音楽レコーディング時の同一取材をベースにしています。どこを取り上げるか、どういった構成で書くか、という違いによる詳細やニュアンスの差異はあります。ぜひ読み比べてみてください。

 

追記
「劇場用パンフレット」も久石譲インタビュー掲載。内容はこれらと同旨。「オリジナル・サウンドトラック」CDライナーノーツには掲載なし。

 

 

 

また映画制作エピソードとして久石譲に関連するものを抜粋してご紹介します。

 

インタビュー 製作総指揮/原案・脚本 日野晃博

二ノ国はあたたかみがあって柔らかいひなたぼっこみたいで癒やされる世界であってほしいと思っています。

ゲーム『二ノ国』から、本作をけん引し続けてきた日野氏。当初から想定していたという本作品の映画化に何を思うのか。

ゲームとアニメーションによるストーリーテリングの違い

~中略~

久石譲氏のアドバイスによって大幅に変更されたシナリオ

ー映画用のストーリーをつくるうえでは、どのような点にこだわりましたか?

日野:
最初に書いたシナリオは、いまとはかなり違ったものでした。

ーそれはどういった内容でしたか?

日野:
ほとんど二ノ国だけでストーリーが展開していました。ゲームの「1」(『漆黒の魔道士』『白き聖灰の女王』)のときは一ノ国と二ノ国を行ったり来たりする話を書いたんですけど、「2」の『レヴァナントキングダム』では二ノ国だけのストーリーになっていて、最初はこの映画用のシナリオも同様に、一ノ国がなくてもいいくらいの内容でした。

ー二ノ国のにの、完全なファンタジー作品ですか?

日野:
そうです。僕はファンタジーが大好きで、ジブリ作品にしてもほかの映画作品にしても、もちろんゲームも、架空の世界のお話ならなんでも好きですから、無意識にファンタジーに寄っていったんでしょうね。もちろん、そのシナリオの段階でもワーナー・ブラザーズさんの各部門からはOKをもらっていたんですけど、久石譲さんにお見せしたときに、「一ノ国と二ノ国を行き来するのが『二ノ国』の楽しさなのに、それがなくていいの?」と、ちょっとした挑戦状を突きつけられたんですよ(笑)。

でも、たしかにそのとおりだったのでショックを受けました。『二ノ国』で最初につくったコンセプトのおもしろみは、2つの世界があって、それがつながっているということなんです。いくらファンタジーが好きだからといっても、この企画の本質的な部分が欠落していてはいけない。久石さんからの指摘を受けて、脚本をイチから書き直しました。

ー久石さんからは音楽面のみならず、そういった関わり方もあったんですね。

日野:
そういう大事なことを、いつも最初に久石さんが気づかせてくれるんです。だから久石さんの言うことは聞かなきゃ……と思わされますね(笑)。特に今回の映画のストーリーでは、命のやりとりがあって、2人の男の子が親友同士なのに戦うことになります。「自分の愛する人のために他人を殺せますか?」とか「大切なものを守るためになんでもできますか?」といったショッキングなメッセージを含んでいるので、脚本にも殺伐としたセリフが多かったんです。久石さんはあたたかい作品をつくりたい人だから、あんまり物騒な言葉は使ってほしくない、といった趣旨のことも言われました。だからセリフもだいぶ変更しましたよ(笑)。

『二ノ国』の世界観だからこそ生まれた独自のストーリー展開

~中略~

あたたかくて柔らかい二ノ国

~中略~

ファンタジーとして楽しんでもらいたい『二ノ国』

~中略~

(映画「二ノ国」公式アートブックより 一部抜粋)

 

 

補足)

日野氏はセリフの変更についてのエピソードをこのようにも語っています。

 

―リテイクして出来上がったものは久石さんもいいねと言っていただけたんですか?

日野:はい、新しいコンセプトで作ったものに関しては。ただ、そのあともいろいろとアドバイスを受けました。

今回のテーマ上、命のやり取りがあるので、殺伐とした言葉も多かったんです。久石さんは温かい作品を作りたかったこともあって、「“殺す”っていう言葉が多すぎる!」と言われ、「うーん……」と悩みましたね。

言葉を極力シナリオから減らしていったりと、そういうところを久石さんには気づかせてもらえました。久石さんの言うことは聞かなきゃいけないかなって思っています(笑)。

出典:アニメイトタイムズ|映画『二ノ国』製作総指揮/原案・脚本日野晃博さんインタビュー|夢の『二ノ国』映画化には様々な試練が……! 梶裕貴さんのキャスティング秘話も!? より抜粋

 

同旨インタビュー

出典:ライブドアニュース|重要なのは「原動力」と「子供心」。『二ノ国』誕生秘話から紐解く、日野晃博の思考術

 

 

 

映画「二ノ国」公式アートブック
映画「二ノ国」製作委員会

【目次】

イントロダクション
映画『二ノ国』ビジュアルストーリー
美術ボード&設定画
キャラクター設定
百瀬義行アートワークス
インタビュー 製作総指揮/原案・脚本 日野晃博
インタビュー 監督 百瀬義行
インタビュー 魔法宰相・ヨキ役 宮野真守
インタビュー 音楽 久石譲
絵コンテ集
映画『二ノ国』を読み解く8つの視点
ゲーム「二ノ国」の世界

定価:本体2,700円+税
発売日:2019年08月16日
ページ数:160ページ
判型・造本・装丁:A4判 軽装 並製カバー装

 

 

 

 

Info. 2018/03/16 [CM] 「サントリー緑茶 伊右衛門 こころの茶屋 篇」「Oriental Wind -2018 New Version」CM O.A.スタート 【8/20 Update!!】

Posted on 2018/03/16

3月16日より、サントリー緑茶 伊右衛門『こころの茶屋 ティザー』篇がWEB限定公開しました。「Oriental Wind」の新しいヴァージョンを聴くことができます。 “Info. 2018/03/16 [CM] 「サントリー緑茶 伊右衛門 こころの茶屋 篇」「Oriental Wind -2018 New Version」CM O.A.スタート 【8/20 Update!!】” の続きを読む

Info. 2019/11/13,14,16 「Joe Hisaishi Concert」(台北・高雄)開催決定!! 【8/19 Update!!】

Posted on 2019/06/30

2019年11月、久石譲コンサートが台湾の台北・高雄で開催されます。昨年は映画「となりのトトロ」公開30周年記念として「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」などを同楽団と共演しています。今年は「千と千尋の神隠し 組曲」です。 “Info. 2019/11/13,14,16 「Joe Hisaishi Concert」(台北・高雄)開催決定!! 【8/19 Update!!】” の続きを読む