Posted on 2015/6/13
雑誌 週刊文春 2015年4月30日号にて「時はカネなり」のコーナーに久石譲が登場しました。巻末カラーということで、愛用の腕時計や財布がエピソードとともに写真紹介されています。
時はカネなり 22
久石譲(作曲家・指揮者)
日本アカデミー賞の副賞で八度目に巡り合った時計
このジャガー・ルクルトは昨年、『風立ちぬ』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した際、副賞で頂いたものです。これまでは時計は重くて腕が縛られる感覚が嫌で、ほとんどつけませんでした。でもこれは軽くてシンプル、フェイスもすっきりしていて邪魔にならないので、とても気に入っています。
私は同賞を過去にも受賞していて、この時計は八本目。ほとんどは自宅の机の引き出しなどに入れて保管していたのですが……ある時とてもショックなことが起きました。自宅に泥棒が入り、この副賞の時計が三本も盗まれたんです。さらに腹立たしいことに、僕のCDを一枚も盗んでいかなかった!嘘でもいいから、一枚くらい持っていけよ、と思いました(笑)。
作曲家の時計感覚は独特かもしれません。音楽というものは時間の中に構築する建造物です。例えば、映画音楽は一秒の二十四分の一単位で画面に合わせる。プロなら当たり前にできることではありますが、時間感覚は自然に鋭くなると思います。そのせいか、目覚まし時計が鳴る三分前にはパッと目が覚めます。海外に行っても、時差ボケはほとんどありません。あまり時計を必要としない体なんです。
財布はアイグナーを長く愛用していました。滑らかな革が気に入ってね。それがだいぶ傷んできたなと感じていたところ、ロンドンのヒースロー空港でフライトの待ち時間にふと目に留まったのが、このヴェルサーチの財布です。アイグナーを敢えて買い直そうとは思わなかった。物は”縁”ですから。
そもそも、買いに行く時間がありません(笑)。毎日、昼の一時から二時にスタジオに来て、夜中の十一時まで作曲をします。クラシックコンサートが近い場合は指揮者として、帰宅するとスコアの研究を朝までやる。そんな生活だから、財布を一週間、開かないこともあります。もともと同じ鞄を二十年も使うほど、非常に物持ちがいい。この財布も結局十年も使っていますね。
●ジャガー・ルクルト
購入時の価格
日本アカデミー賞 最優秀音楽賞の副賞
(定価は450,000円+税)
愛用年数
約1年
本来ポロプレーヤーのために開発された時計で、ガラスの破損を防ぐためフェイスが反転する。クラシックコンサートのスコア研究のため、自らも手で書き写した楽譜とともに
●ヴェルサーチ
購入時の価格
覚えていない
愛用年数
10年くらい
平均所持金
7万円
銀行カードはほぼ使わず、奥さまが適宜、現金を補充する。アメックスのブラックカードと、体力作りのために通うジムの会員カード(白)
(「週刊文春 2015年4月30日号」より)
上の写真にあるとおり久石譲による直筆譜も写りこんでいます。これは5月5日に開催されたコンサート「新・クラシックへの扉・特別編 久石譲 「現代の音楽への扉」」の演目からシェーンベルクの《浄夜》を自ら書き起こした楽譜です。
そしてこの手書き譜面を書き起こす奮闘記は、クラシックプレミアム内連載中エッセイにて語られています。
「それで今猛勉強中なのだが、とにかく各声部が入り組んでいるため、スコアと睨めっこしても頭に入ってこない。いろいろ考えたあげく、リハーサルの始め頃は連弾のピアノで行うので、そのための譜面を自分で書くことにした。やはり僕は作曲家なので自分の手で音符を書くことが覚える一番の近道だと考えたのだが、それが地獄の一丁目、大変なことになってしまった。」
「《浄められた夜》は室内楽なので、音符が細かい。例えば4/4拍子でヴィオラに6連符が続くと4×6=24、他の声部もぐちゃぐちゃ動いているので一小節書くのになんと40~50のオタマジャクシを書かなければならない(もちろん薄いところもある)。それが全部で418小節あるのである! そのうえ、4手用なので、弾けるように同時に編曲しなければならない。全部の音をただ書き写しても音の量が多過ぎて弾けないので、どの声部をカットするか? もう無理なのだが、どうしてもこの音は省けないからオクターヴ上げて(下げて)なんとか入れ込もうとかで、とにかく時間がかかる。実はこの作業は頭の中で音を組み立てているのだから、最も手堅い、大変だが確実に曲を理解する最善の方法なのだ。」
「年が明けてから、映画やCMの仕事をずっと作ってきて、台湾のコンサートが終わってからこの作業に入ったのだが、昼間は作曲、夜帰ってから明け方まで譜面作りと格闘した。それでも一晩に2~3ページ、小節にして20~30くらいが限度だった。毎日演奏者に定期便のように送っているのだが、他にもすることが多く、実はまだ終わっていない、やれやれ。」
(Blog. 「クラシック プレミアム 35 ~モーツァルト5~」(CDマガジン) レビュー より抜粋)