Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」 コンサート・パンフレットより

Posted on 2015/10/17

久石譲の過去のコンサートから「PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」です。

1998年はとりわけ多種多彩なコンサートを開催しています。「PIANO STORIES ’98 Best Selection ~Piano Night」ピアノ・ヴァイオリン・チェロによるコンサート、「加藤登紀子日比谷野音コンサート」ゲスト出演にてPiano Nightでのダイジェスト版のような、「JAPAN TELECOM FESTIVAL’98 SUPER SOUND OF JOE HISAISHI」サテライト中継にて、3都市同時演奏、「第11回 JALステージスペシャル 醍醐寺音舞台」総合演出も担当、バラネスクカルテットも出演、「題名のない音楽会」もののけ姫やナウシカなどおなじみの曲をお茶の間に、そして10月から12月にかけて全国9公演にて開催されたのが「PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」です。ピアノ主体からはじまり、多彩なスタイルでコンサートを展開し、オーケストラで締めくくる、そんな1998年です。

 

 

PIANO STORIES’98 Orchestra Night

[公演期間]23 PIANO STORIES’98 Orchestra Night
1998/10/15 ~ 1998/12/16

[公演回数]
全国9公演
10/15 仙台・仙台イズミティ21
10/19 東京・東京芸術劇場ホール
10/27 大阪・ザ・シンフォニーホール
10/29 京都・宇治市文化センター
10/31 大阪・貝塚コスモスシアター
11/1 名古屋・愛知県芸術劇場コンサートホール
12/9 岡山・岡山シンフォニーホール
12/15 広島・広島厚生年金会館
12/16 広島・広島厚生年金会館

[編成]
ピアノ:久石譲
仙台フィルハーモニー管弦楽団 (仙台)
東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 (東京)
関西フィルハーモニー管弦楽団 (大阪・京都・名古屋)
広島交響楽団 (岡山・広島)
指揮:曽我大介

[曲目]
【Symphonic Poem “NAUSICAÄ”】
Part I
Part II
Part III
(風の谷~遠い日々~レクイエム~メーヴェ~谷への道~鳥の人)

【Nostalgia】
Nostalgia
Cinema Nostalgia
la pioggia
HANA-BI

【交響組曲 もののけ姫】
アシタカせっ記
TA・TA・RI・GAMI
もののけ姫
アシタカとサン

【WORKS・I】
Sonatine
Tango X.T.C
Madness

—–アンコール—–
Friends
Asian Dream Song

 

 

プログラムを見てもわかるとおり、『WORKS・I』『WORKS II』から名曲たちを網羅したような、そんなベスト選曲的プログラムになっています。実際にこのコンサートツアーでの名演を収録したのが、のちに『WORKS II』としてLive CDになりましたので、、そういうことです。

 

 

【楽曲解説】 PROGRAM

Symphonic Poem “NAUSICAÄ”
アルバム「WORKS・I」で書き下ろされた「交響詩曲ナウシカ」。「風の谷のナウシカ」から14年、音楽はこうして演奏時間約18分の大曲となり、新たなシンフォニックの響きにのって、その構想を大きく開花させる。コンサートでは今ツアーが初演となる。

Nostalgia ~Piano Stories III~ より
今秋リリースされたばかりのニューアルバム「Nostalgia」からの5曲を演奏する。「HANA-BI」がベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したときの記者会見で、イタリア人記者によって「イタリア的な音」を見出されて以来、ずっと大切にしてきた「イタリアの唄心」を存分に「唄う」曲が並ぶ。「HANA-BI」は新アレンジ、他4曲は書き下ろしの新曲で、「la pioggia」は映画「時雨の記」のテーマ曲でもある。新譜の曲をライヴで聴かせる初めての機会となる。

交響組曲 「もののけ姫」 より
宮崎駿監督のもつ空気感のようなものが、スラヴ色の強い東欧の音に相通じるのではないか。それがこのアルバムをチェコ・フィルと録音した最大の理由でもあった。今年7月に「交響組曲」としてまとめられたこのアルバムからの5曲も今コンサートが初演となる。映画冒頭でインパクトあるサウンドを聴かせた「アシタカせっ記」から「TA・TA・RI・GAMI」へ、そして広く愛唱されてもいる「もののけ姫」、「黄泉の世界」、エンディングの「アシタカとサン」まで、シンフォニックに綴るドラマが繰り広げられる。

WORKS・I より
宮崎駿、北野武、大林宣彦各監督との作品を厳選し、「JOE meets 3 DIRECTORS」として新たに書き下ろし、ロンドン・フィルと録音したアルバム「WORKS・I」からの3曲。「Sonatine」は北野監督の同名映画(1993)のメインテーマ、「Tango X.T.C.」は大林監督の『はるか、ノスタルジィ』(1992)より、そして大胆なアレンジを聴かせる「Madness」は宮崎監督『紅の豚』(1992)より。それぞれに、この新アレンジでの演奏は、今回のツアーが初演となる。

(【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

※掲載されていた「Casanova」「黄泉の世界」は、プログラムの都合上演奏されていない

 

久石譲 98 コンサート インタビュー

 

ツアー直前インタビュー
煌くとき Brilliant Time

今回のツアーは2年ぶりのオーケストラ・コンサートとなる。「HANA-BI」(ベネチア国際映画祭金獅子賞)以来の”イタリア的な音へのこだわり”が存分に盛り込まれた、「Nostalgia」(今秋リリースのニューアルバム)からも、もちろん何曲か演奏される。なぜ今イタリアなのか。ソロアルバム「Nostalgia」にカヴァー曲を入れたのはどうしてなのだろうか。

 

日本からイタリアに録音に行くってまれなことですよね

久石:
「Nostalgia」は、イタリアで現地のオーケストラとレコーディングしましたけど、オケには機能性よりも『唄』を望みました。多少荒っぽくても、そこには『唄』があるというアルバムを作りたかった。だからイタリアにしたんです。

この2年間で、ロンドン・フィルと「WORKS・I」を作り、それから「もののけ姫」のシンフォニック・ヴァージョンではチェコ・フィルとやりました。ソロアルバムのカッチリした世界を表現できるのは、技術的にもかなり高いものをもっているロンドン・フィルでなければならなかったし、「もののけ姫」ではスラヴ色の強い、朗々として少し暗く重い、土臭さみたいなものがどうしても欲しかったのです。

そして次に自分のソロアルバムを、と考えたとき、根底に『唄』を表現したいということがありました。それは、去年「HANA-BI」でベネチアへ行って、公式記者会見で外国人記者から「音楽がすごくイタリア的なメロディだ」と指摘されて、「ああ、そうなのかな」と思ったのがきっかけです。確かにベネチアで「HANA-BI」を観たとき、自分でも「この音楽、イタリア的に聴こえるなあ」と思いました。そのあたりですね。イタリア的な『唄』を表現しようと思ったのは。

それと、今回のアルバムでは、イタリアというテーマの中でカヴァーをやってみたいと思って、サン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」の有名なアリア(アルバムでは「バビロンの丘」)とニノ・ロータの「太陽がいっぱい」を、最もイタリア的な香りのするメロディということで選びました。アレンジという部分も自分の中の大事な要素ですから、人のメロディを借りてきても自分の世界が作れるというところにチャレンジしてみたかったのです。

このようなイタリアで録りたいという発想は、「交響組曲もののけ姫」をスラヴの音でやりたいと思ったのと同じように、すごく大切なことでした。日本で録れば簡単ですし、イギリスのオケならもっとうまい。それは十分わかっているけれど、今度の音楽には何としてもイタリアが必要だったんです。

技術的な面でも現時点で可能な限りの最先端の技術で録るという、徹底的にハードディスク・レコーディングを行いました。ここが大事なところなんだけど、古臭いやりかたでノスタルジックな音を録ったら、本当に古臭くなってしまう。それは僕の欲してる音ではないんですよ。それで、オケがそのレコーディング方式に不慣れだったってこともあって、レコーディングの2日目からは予定外に僕がピアノを弾いて、オケをひっぱるという、同時録音に切り替えざる得なかったんです。でも、そのうちに現場の雰囲気が一変して、オケがピタッとついてくるのがわかりました。そういう意味では柔軟性のある若いオーケストラでよかったですね。

イタリアにはやっぱり、日本のオーケストラにも、またイギリスのオーケストラにもない、独特のおおらかなメロディーの唄い方がありました。結果をみても、これはイタリアに行かなかったら成立しないアルバムだったと、今、改めて思っています。

 

作曲家・久石譲の書いた曲に、ピアニストとして自分がどう追いつくのか。
その繰り返しは決して終わることはない。

作曲、オーケストラアレンジ、レコーディング。連日のスコア書きで、手の疲労が限界に達した頃、ピアノのレコーディングはやってくる。書くことから弾くことへ、その役割は替わっても、過酷なまでの手の酷使は続く。それでも、作曲家として、演奏者である自分に何かを課すかのように、久石さんはピアノに向かう。

 

今回のツアーはオーケストラとの仕事の集大成なんです

久石:
何十人ものオーケストラと一緒に演奏するというのは、自分のピアノとオケとが瞬間、瞬間にどういうふうに格闘するかという、そういう意味での楽しみがあります。しかし一方、技量を試されるという意味では苦しみでもあるわけです。そもそも人前でピアノを弾くということ自体、一般的にとてもしんどいことでしょう。僕自身どこかに、できればやりたくないな、という気持ちがあるんだけれども、でもそれを自分に課すことによって乗り越えられることがあるんです。だから敢えてやっている。避けて通れないから弾いている、というのが正直なところですね。

しかも、弾くときの条件がいつも過酷ですからね。まず作曲で譜面を書き、続いてオーケストラ・スコアをガーッと書くと、手がもうボロボロなんですよ。腱鞘炎寸前になっている。悪いことに、そのころにピアノをレコーディングしなければいけなくなるんです。書くことは、なんとか早め早めにやろうとは思うんですが、どうしてもなぜかそういうタイミングになってしまいますね。もうほとんど体力勝負です。

そんな状況にあって、曲の創りとしては以前に比べ、確実にピアノパートが難しくなってきています。自分でどんどんハードルをあげて、それにチャレンジするというのを、ずっと続けてることになりますね。今回のアルバム「Nostalgia」にしても、ここまで上げなくてもよかったんじゃないかってくらい、ピアノが難しくなっている。演奏テクニック上のハードルは相当高くなってます。

じゃあ久石譲の根底は何なんだと問われたとき、その答えはあくまで作曲家なんです。曲を創るとき、今度の曲ではオケはこうあるべきで、弦はこうあるべきで、自分のピアノもこうあるべきだろうと、そういう視点で創るわけで、演奏する段階になったら、そのハードルの高さに自分がついていかなければならなくなるんです。久石譲というピアニストにあわせて曲は書いていませんから、あくまで作曲家・久石譲が書いた曲に、ピアニストとしての自分がどう追いついていくかという、その繰り返しです。そういう意味で、僕は根本的にあくまで作曲家なんです。

しかし同時に、久石譲という作曲家の曲は自分が弾くのが一番いいと思っていますから、大変だけどピアノに向かう。コンサート前の、あと10分でステージに上がるというときには毎回、”この曲を弾けるのは自分だけなんだ”ということを、自分に言い聞かせていますよ。

今度のコンサートで僕自身が最大の楽しみにしているのは、まだライヴでやってない曲ばかりのプログラムだということです。中には新しいアレンジをした曲もありますが、いずれにしてもまだ、コンサートでオーケストラとやってない。曲を書いて、またはアレンジして、録音して、それをコンサートで聴いてもらう。そこで、はじめて曲が完結すると思っているのですが、今回のツアーでは全国で9回の、いろいろなオケとの共演という形でそれができるのですから、とてもやりがいを感じています。

この2年間にやってきたオーケストラとの仕事の集大成ともいえるこのコンサートを、じっくり聴いていただきたいと思っています。

(久石譲インタビュー 同コンサート・パンフレットより)

 

この公式コンサート・パンフレットは、ほかにも「交響組曲もののけ姫」「Nostalgia ~Piano Stories III」のレコーディング日誌もそれぞれ特集掲載されていました。

 

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