Blog. 「ピアノ音楽誌 CHOPIN ショパン 2011年6月号」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2017/05/14

「ピアノ音楽誌 CHOPIN ショパン 2011年6月号 No.329」に掲載された久石譲インタビューです。

日常の創作活動のリズムから、作曲するうえでの方法論や姿勢、またちょっとした質問コーナーなど久石譲の音楽論を深く紐解ける内容です。

 

 

「音楽が生まれるまで……」 作曲家、久石譲

日本の音楽界をリードしつづける作曲家、久石譲。CMや映画、ドラマと、彼の音楽を耳にしない日がないほど、その音楽はさまざまなシーンで愛されている。「人を癒したいという気持ちで曲を書いているわけではない」と語る久石さん。しかし、次々と生み出される旋律は、私たちの心に安らぎを与え、明日への希望を持たせてくれる。

天才作曲家は、日々をどのように過ごし、どんなことを感じながら曲を作っているのだろうか? 久石譲の音楽の秘密に迫った。

 

久石譲の1日

1日のスタートは、いつも朝の10時半から11時の間。ベッドから抜け出すと、まずはお湯を沸かしてピアノに向かいます。そして、お湯が沸くまでの5分ほど、指をほぐすために自作の一番難しい曲を弾くんです。その後、ゆっくりコーヒーを飲んで、ごはんを食べてから会社に行きます。仕事を終えて自宅に帰るのが23時ごろ。会社ではもっぱら曲作りに専念しているので、コンサートで指揮する曲を勉強するのは、この後です。

7月に『展覧会の絵』とラヴェルのピアノ協奏曲、8月には『トリスタンとイゾルデ』、9月にマーラーの交響曲5番を指揮することになっているのですが、どれも大曲ばかりでしょう(笑)?

とくにマーラーは複雑でくせがありますから、そういったくせをなんとか解消して、お客さんが聴きやすくしたいなぁなんて考えると、他の交響曲まですべて勉強しなくてはならない。ですから、家に帰るとまずはクラシックのCDをかけて、ビールを飲みながらオンとオフのスイッチを切り替えるんです。最近は、オペラのアリア(とくにソプラノ系)を聴くと、すごく安らぎを感じますね。そうして、朝4時頃まで勉強すると、やっと1日が終わります。

ちなみに、朝会社に向かうときは、いっさい音楽は聴きません。これから音を生み出さなくてはいけないわけですから、何も頭に入れたくないんです。

日曜日は、毎週ジムで汗を流します。最近では空手も始めました。「毒をもって毒を制す」というわけでもありませんが、体を動かすことが僕にとっては一番のリラックス。一生懸命体を使うと、その間は何も考えなくていいですから。

20年間、ほぼ毎日変わらない生活。案外平凡でしょう!?

 

メロディーメーカーがひらめく瞬間

人によって癒しを感じる音楽のジャンルは違うと思いますが、メロディーの奥に、本来の孤独に裏打ちされた前向きな姿勢や、希望が持てるような何かを感じることで、人間は安らぎを感じるのではないでしょうか。

僕は、人を癒したいと思って曲を書いたことは1度もありません。曲を作るときには、どんなものを書こうかを頭の中で組み立てていくのですが、この作業はひたすら自分と向きあっていくしかない。映画音楽のようなメロディー主体の曲は、お風呂に入っているときや打ち合わせの最中に思い浮かぶことが多いです。逆に、しっかりとした構造のオケの曲を書くときは、考えたり組み立てたりする作業もすさまじく膨大なので、かなり時間がかかりますね。

まずモチーフがひらめいたとして、そのひらめきをひとつの曲にしようとしたとき、音と音を連ねて音型を作っていくのですが、どう連ねていくかによってまったく違う曲になってしまうので、非常に気を遣うところです。すごく地味で生みの苦しみを伴う作業ですから、癒しがどうとか、夕日がきれいなんて考えている余裕はありません(笑)。

たとえばベートーヴェンの『運命』も、「だだだだーん」とうメロディーを極限まで使い切っていますよね? ひとつのアイデアがひらめいたところで、そのアイデアをどういう形にすれば説得力がある形で聴かせられるだろうかと考える。そこからは、本当に純粋な作業です。

できるだけ無駄なくきちんと作れれば作れるほど、聴いてくださる方々が癒しを感じたり、イマジネーションが広がる曲になります。そのためには、こちらの変な思い入れを極力なくして、自分がいいなと思った素材や音型に見合うように、フォームを作っていく。そして、音楽的な機能美を追求していくこと。これが一番大事ではないでしょうか。

もうひとつ重要なのは、作家がその作品にどのような想いを込めたいかということ。それは、感情的なものの場合もあれば、非常に理想的で純粋な音楽的自然要求かもしれません。いずれにしても「こういうものを作りたい」という強い意志があるかどうかで、楽曲というものはすごく変わってしまうんです。

 

音楽が湧き出る秘訣!?

「こんなにたくさん曲を作っていて、イメージは枯渇しないのか?」とよく聞かれます。僕は恵まれていることに、〈忘れ方〉がうまいのかもしれません。常に先のことを見ているし、後ろを振り向くこともあまりない。いつもリフレッシュして切り替えることができます。もしかしたら、自分の作品に対しての愛着が薄いのかな!?(笑)作曲をするときはものすごく細かいくせに、作品が手を離れると意外にすこーんと自分の中から抜けちゃう。

一生同じ曲を見ていたって、いつまでも完成しないじゃないですか。今日はこれでいいと思っても、自身の成長に伴って手を加えたり、直したくなってしまうものです。それは仕方のないことですから、どこで見切るかを決めないと難しいですよね。

 

久石譲のいま、そしてこれから

これまでオーケストラ曲の楽譜は出していませんでしたが、今回初めてふたつのCDアルバム『ミニマリズム』と『メロディフォニー』の完全オリジナル楽譜を出すことになりました。4月に発売された『ミニマリズム』は、ミニマル・ミュージックのオーケストラ作品を集めたスタディスコア、そして5月に発売される『メロディフォニー』は、『となりのトトロ』や『おくりびと』などの映画音楽をフル・オーケストラ版にアレンジしたものです。6月からは『ミニマリズム』の楽譜レンタルもできるようになりますので、ぜひたくさんの方に僕の音楽を楽しんでいただければと思います。

また、5月からはポーランドのクラクフ映画音楽祭を皮切りに、東京・大阪で東日本大震災復興支援のチャリティーコンサートをおこないます。また現在、海外でも計画中です。

日々、被災された方々の生き様に勇気をもらっています。皆さんの姿勢を心から尊敬し、いま僕にできることを”一生懸命”努力したいと思います。

 

 

◇久石譲に聞く4つの質問

Q.作曲中に幸せを感じるときは?

A.1日中部屋にこもって曲を書いて、夜になると何がしかの曲が生まれているとき。その瞬間が一番幸せですね。もしかしたらこの曲を、日本中の人がいつか歌ってくれるかもしれない、あるいはずっと語り継がれる曲になるかもしれない。もちろん、認められるまでに思ったより時間がかかる可能性もありますが(笑)。その瞬間の感動に勝るものはありません。

Q.逆に、へこむことはありますか?

A.そんなの1日中です。だめだ、俺才能ないなって(笑)。1日のほとんどがそういう時間。そんな中で、ごくたまに、10回に1度くらい「俺って天才!」と思いますね(笑)。

Q.自作の中で一番気に入っている作品は?

A.ナウシカでおなじみの『風の伝説』ですね。僕の中でエポックになっていて、いつも初心に戻らなくてはと思う曲です。

Q.一番「よくできた!」と思う作品は?

A.それは、次回作でしょう。つねに、今作っているものが一番いい曲だと思いながら作っています。

(「ピアノ音楽誌 CHOPIN ショパン 2011年6月号 No.329」 より)

 

 

 

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