Blog. 「kamzin カムジン FEB. 2005 No.3」”ハウルの動く城” 久石譲インタビュー内容

Posted on 2018/10/27

雑誌「kamzin カムジン 第3号 FEB. 2005 No.3」に掲載された久石譲インタビューです。

映画『ハウルの動く城』について、メインテーマのワルツの効用からオーケストラレコーディング方法の変化まで、とても興味深い内容になっています。

 

 

編集長インタビュー

「宮崎作品」の”音”作り20年 音楽家 久石譲さん

音楽家・久石譲さんは、宮崎駿監督作品の音楽を20年以上も担当。上映中の最新作『ハウルの動く城』(東宝洋画系)は、年明けで観客動員千万人を超える大ヒットとなっている。スクリーンを飛び出し、観る人の心にからむ”久石メロディー”。その制作秘話に迫った。

(湯浅 明)

 

映像との調和を考え、シンプルなワルツの力を借りました。

-手応えはあったのですか?

久石:
「評価は音楽家のいうことではないからお任せします。一昨年の初め、「戦時下の恋愛、メロドラマを作りたい」と宮崎さんから聞かされ、「得意分野です」と言っておきましたけれどね(笑)。」

-この2年の世界情勢の変化は著しく、メッセージ性の強い宮崎作品にも影響したのでしょうね。

久石:
「どう反応されるのか、個人的興味はありました。映画にAからEのパートがあるとすると、最後のE部分が30分はかかると予想していたのに、10分程度でまとめたのにはビックリしました。」

-物足りなかった?

久石:
「いいえ、見事ですよ。作家として、この時代ならいろいろといいたいことがあるだろうに、実生活で皆がくたびれ果てているのだから、ああだのこうだのと自分の認識を出さず、メロドラマのコンセプトを貫いた。作家の勇気を見ましたね。これは本当にスゴイことですよ。」

-音楽への注文はありました?

久石:
「今回の主人公は十代から九十歳まで年齢幅があるけれど、宮崎さんには、同じテーマ曲で統一したいという強い意志がありました。僕がいきついたのはワルツ。曲を決めるとき、今まではシンセサイザーなどでデモテープを作りました。今回は3曲を用意して宮崎さんの前でピアノを弾いてみました。証拠が残らないように…。というのは冗談ですが。最初弾いた曲は合格点の予想がつくもの。2曲目がワルツ。」

-そうしたら?

久石:
「すごい反応。宮崎さんは「これはやってない。驚くよね。もう一回弾いて!」」

-3曲目は?

久石:
「弾かなかったし、去年の2月6日のことなので、もう忘れちゃいました。映像に音楽を合わせるサウンドトラックは6月ごろ。全編30曲のうち17曲がテーマがらみで、あるときは物悲しく、あるときは勇壮であったり、優雅になったり。新しい扉を開けた最上の仕事ができたと思っています。まあ『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』も、新しいことをやっているつもりでしたけれど。」

-ワルツを選んだ理由は?

久石:
「舞台が西洋で、フルオーケストラでやろうと決めていました。個人的には音楽的な主張が強くなって、複雑な方向にいきそうな時期でしたから、映像との調和を考え、シンプルなワルツの力を借りました。」

-昭和の不安な時代にも、なぜかワルツが流行しました。

久石:
「そうね。歩くリズムを考えれば二拍子や四拍子の偶数系は安定し、三拍子はズレます。それが立ち止まって音楽を聴きやすくなるのかな。そこに日本人が好む、哀愁が入りやすくなるんでしょうか。でも、三拍の中身はアバウトで「ズンチャッチャ」もあれば、「ズン チャチャ」もある。」

-すき間をを作れる!

久石:
「そう。余韻を楽しめるし、民族の差もそこにでます。でもね、ものを創造する環境として今はよくないですよ。今日食べるパンが大切という現実を前に「音楽を聴いて心を和ませて」とはいい難いでしょう。CDが売れるとかいう問題ではなく、メディアとしての音楽の本質の話です。世界でも日本でも、カリスマが次々と表舞台から消え、確実に時代は動いています。人の気持ちは変化する。「祇園精舎の鐘の声…」という句がありますが、「鐘の声」は十年前も、30年前もあまり変わっていない。聴く僕らの価値観が変化しています。いま起こっている戦争と、『ハウル』が描く戦争を引っ掛けたら、納得しやすいですよね。『もののけ姫』のときなら宮崎さんは思いっきり突っ込んだでしょう。しないのは、理屈をこねるよりも作家として勇気が必要。ただ、将来の人と人のつながりや家族のあり方についてのメッセージが『ハウル』は込められている気がします。」

-宮崎さんとの話から推測?

久石:
「僕らはそんなこと言い合いません。「最高!」と僕はいい、テレもあるのか「とんでもないものを作っちゃいましたね」と宮崎さんは毎回いわれる。僕が『ハウル』で「やったな!」と思うのは、これまでは1秒の30分の1まで計算して、映像と音楽を合わせてきました。今回はアバウトにしています。映像を見ながらオーケストラを指揮して、音楽をつけたのですから。」

-気分を大事にしたから?

久石:
「デジタルだとテンポが一定になるじゃない。そうした計算づくではなく、たとえシーンの合わせ目が微妙にズレたとしても、気分の充実を大事にしたかった。この方法は『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』以来。20年ぶりですが、後退ではなく、前進だと思っています。」

-時代や社会情勢は、文化にも大きな影響をおよぼしますよね。

久石:
「この時代に生きていますからね。昨年『ワールド・ドリーム』という曲を書きました。国歌のように朗々としたメロディーを考え、明るくおおらかなものを作っているはずなのに頭に浮かぶのは、『9.11』だったり、イラクで子供が逃げ惑っている姿。平成10年の長野パラリンピックの音楽をやったとき、『エイジアン・ドリーム・ソング(アジアの夢の歌)』を書きました。「世界の夢」だから、大きくなったはずなのに地域紛争多発で、世界の夢がなくなった。そうした現実に音楽の無力さを感じ、こんな中途半端ではいけないと悩み、発言や主張を盛り込もうとしたら書けなくなりました。また、先月発売したアルバム『FREEDOM PIANO STORIES 4』の制作でも、タイトルにひっかかりました。これは政治体制の自由ではなく、心の自由と解釈して乗り切りました。」

-作曲のほかイベント、演奏、指揮…。多忙ですが今年は?

久石:
「そろそろ仕事をセーブしなければと思っています。『ワールド・ドリーム・オーケストラ』の夏ツアーなどの予定はありますが、自分で作った枠を壊していく作業を一番やりたい。そういう年齢になったのですかね。素朴な感動ではなく、技術力でこなすことは減らしたい。仕事の速度に気持ちが追いつかず、忙しいからこの程度でとか、求められるものに迎合する、作家にあるまじきことはせず、一曲一曲、なぜ書きたいのかを考えていきます。実験精神が薄くなっているのが反省で、守りに回らず、自分が驚くものをキッチリやっていきたいですね。」

-期待しています。

(kamzin カムジン 第3号 FEB. 2005 No.3 より)

 

 

ハウルの動く城 サウンドトラック

 

 

 

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