Disc. 久石譲 『ハウルの動く城 サウンドトラック』

2004年11月19日 CD発売

2004年公開 スタジオジブリ作品 映画「ハウルの動く城」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

新たに作曲されたテーマ「人生のメリーゴーランド」を中心に構成された映画本編の楽曲を収録。新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏で今回もホールで生収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2004年6月。倍賞千恵子の主題歌も収録。

 

制作ノート

1曲のテーマ曲が決め手となった音楽

今回の音楽制作はヨーロッパへの音楽ロケハンからはじまった。久石譲さんはアルザス地方を訪問、そこで掴んだ映画の世界観を宮崎監督からの音楽メモと照らし合わせながら創作し、東欧の名門チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、非常に完成度の高いイメージ交響組曲をまず作った。その中にはミロスラフ・ケルマン(63歳にしてチェコ・フィル現役のトランペット奏者)によるソロ演奏が印象的な「ケイヴ・オブ・マインド」という曲もあった。完成したアルバムを聴いた宮崎監督はこの曲を気に入り、劇中でも使用することにしたが、監督はここで久石さんに対しひとつの注文を出した。テーマ曲を1曲作ってほしい、というものだ。実は宮崎監督、これまでの作品では各キャラクターの感情や動き等場面に合わせた音楽をつけるという方向性で久石さんとやってきたのだが、今回は映画全体を通して常に流れる印象的なテーマを1曲欲しいと要望したのだ。久石さんの1曲のテーマ曲作りがはじまった。そうして誕生したのがあるワルツ曲。その曲を聞いた宮崎監督は大喜びし、「人生のメリーゴーランド」と命名した。その後、このテーマ曲を中心に本作の映画音楽は構成されていった。

(映画「ハウルの動く城」劇場用パンフレット より)

 

 

一つのテーマ曲で貫いた『ハウルの動く城』

で、まずは一曲め。弾き終わると宮崎さんは大きく頷いて微笑んだ。鈴木さんもまあまあの様子。ほっと胸を撫で下ろす。ちょっと勢いのついた僕は三番目に弾く予定だった曲の順番を繰り上げた。

「あのー、ちょっと違うかもしれませんが、こういう曲もあります」

宮崎さんたちの目を見ることもできず、ピアノの鍵盤に向かって弾き出した。

そのワルツは、そんなに難しくはないのだが、僕は途中でつっかえて止まってしまった。まるで受験生気分なのである。最高の緊張状態で弾き終えたとき、鈴木敏夫プロデューサーがすごい勢いで乗り出した。眼はらんらんと輝いている。「久石さん、面白い!ねえ、宮さん、面白くないですか?」宮崎さんも戸惑われた様子で「いやー」と笑うのだが、次の瞬間、「もう一度演奏してもらえますか?」と僕に言った。が、眼はもう笑ってはいなかった。

再び演奏を終えたとき、お二人から同時に、「いい、これいいよー!」「かつてないよ、こういうの!」との声をいただいた。

その後、何回かこのテーマを弾かされたが、この数か月本当に苦しんできたことが、ハッピーエンドに変わる瞬間だったので、ちっとも苦ではなかった。

Blog. 一つのテーマ曲で貫いた『ハウルの動く城』「人生のメリーゴーランド」誕生秘話 (久石譲著書より) 抜粋)

 

 

 

-それらはどんな曲だったんですか?

久石 「1曲目は、わりと誰が聴いても「いいね」と思えるオーソドックスなテーマでした。2曲目は、自分としては隠し球として用意していったワルツで。これは採用されないだろうと思って演奏したんですけど、途端に宮崎さんと鈴木さんの表情が変わって、すごく気に入ってくれたんです。それが『人生のメリーゴーランド』で、結局3曲目は演奏せずに終わりました。」

-なぜ、ワルツにしてみようと思ったんですか?

久石 「その理由はちょっと難しいんだけど、最近、個人的に音楽への要求度が高くなってきていて、映像に付けるには、自分のやっている音楽は強すぎるんですよ。でも、今自分が最も求めていることをやるのが作曲家としては正しいのだから、その落としどころをどうしようかと考えていて出てきたのが、ワルツだったんです。ワルツなら、自分がやりたい音楽と『ハウル』の映像の接点になってくれると。だから、宮崎さんに気に入ってもらえたのは、すごく嬉しかったです。」

 

-サントラのレコーディングでは、チェコフィルから一人だけトランペット奏者の方を招いたということですが?

久石 「ええ。交響組曲の中の「ケイブ・オブ・マインド」という曲のソロを吹いてくれたミロスラフ・ケイマルさんという方です。この曲は、サウンドトラックの打ち合わせの時に、試しにある重要なシーンに流してみたら、あまりにもぴたっりハマってしまったのでそのまま使おうということになったんです。でも、サウンドトラックの中に、チェコフィルの演奏を入れるわけにはいかないので、ケイマルさんをこの1曲のために呼ぼうということになりました。」

-他の方ではダメだったんですか?

久石 「ケイマルさんはこの曲を完全に自分のものにして吹いていたし、宮崎さんの心の中にも、ケイマルさんのトランペットの音が染みついていました。この曲を使うなら、ケイマルさん以外に考えられない、と。楽器というものは、他の奏者が演奏すると、全く音の表情が違ってしまうものなのですが、特にトランペットはそれが顕著なんです。」

-交響組曲もサウンドトラックも、完成度が高く、それぞれ違った魅力を持つ作品になったんじゃないでしょうか?

久石 「サウンドトラックは「人生のメリーゴーランド」を、これが同じ曲なのかと思えるくらい、いろいろ変奏しているので、そこを中心に楽しんでいただければ、と。交響組曲は、三管編成のフルオーケストラ作品としてかなり完成度が高いので、ぜひ聴いていただきたい。僕も、いつかコンサートで全曲まとめて演奏してみたいと思っているんです。」

Blog. 久石譲 「ハウルの動く城」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「舞台が西洋で、フルオーケストラでやろうと決めていました。個人的には音楽的な主張が強くなって、複雑な方向にいきそうな時期でしたから、映像との調和を考え、シンプルなワルツの力を借りました。」

「僕らはそんなこと言い合いません。「最高!」と僕はいい、テレもあるのか「とんでもないものを作っちゃいましたね」と宮崎さんは毎回いわれる。僕が『ハウル』で「やったな!」と思うのは、これまでは1秒の30分の1まで計算して、映像と音楽を合わせてきました。今回はアバウトにしています。映像を見ながらオーケストラを指揮して、音楽をつけたのですから。」

「デジタルだとテンポが一定になるじゃない。そうした計算づくではなく、たとえシーンの合わせ目が微妙にズレたとしても、気分の充実を大事にしたかった。この方法は『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』以来。20年ぶりですが、後退ではなく、前進だと思っています。」

Blog. 「kamzin カムジン FEB. 2005 No.3」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「ハウルの動く城」

しばらく悩んだ後、「ハウル」のメインテーマはワツルがいいと考えた。アルバム「ETUDE」の影響もあり、自分の音楽が映像とマッチングするよりも強い主張を持ち始めていることをボクは自覚していた。この問題を解消するための方法がワルツのど導入だった。

どんなに複雑なテクスチュアを導入しても、ワルツという3拍子のリズムは行き過ぎた音楽表現を抑制してくれる。

ワールド・ドリーム・オーケストラでも演奏したショスタコーヴィチのワルツ(キューブリックの「アイズワイドシャット」のなかにも使われている)が頭のなかに残っていたこともあって、もともと4拍子で書いたものを3拍子に切り替えた。

優れたクリエイターは、自分の予想の範囲内の出来事に興味を示さない。予定調和はおもしろくない。

宮崎監督、鈴木プロデューサーの想定を裏切るのは大変だが、自分のためにも、そして映像と作品のためにも、「ハウル」のテーマをワルツにしたのは正解だった。

余談になるけれど、このとき別案として書いた曲も、完全に捨ててしまったわけではなくて、実は「ハウル」の中で使っている。どこの部分かは、読者の皆様のご想像にお任せしたい。

(「久石譲 35mm日記」(2006年刊)~「ハウルの動く城」項より 一部抜粋)

 

 

参考資料:
連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)

 

ハウルの動く城 サウンドトラック

1.-オープニング- 人生のメリーゴーランド
2.陽気な軽騎兵
3.空中散歩
4.ときめき
5.荒地の魔女
6.さすらいのソフィー
7.魔法の扉
8.消えない呪い
9.大掃除
10.星の湖 (うみ) へ
11.静かな想い
12.雨の中で
13.虚栄と友情
14.90歳の少女
15.サリマンの魔法陣~城への帰還
16.秘密の洞穴
17.引越し
18.花園
19.走れ!
20.恋だね
21.ファミリー
22.戦火の恋
23.脱出
24.ソフィーの城
25.星をのんだ少年
26. -エンディング- 世界の約束~人生のメリーゴーランド

M26.「世界の約束」 歌:倍賞千恵子
作詞:谷川俊太郎 作曲:木村弓 編曲:久石譲

作曲・編曲・指揮:久石譲
プロデュース:久石譲

演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:久石譲
トランペット:ミロスラフ・ケイマル (チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)

音楽収録:ワンダーシティ, すみだトリフォニーホール

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