Blog. 「レコード芸術 2020年8月号」ブラームス:交響曲第1番 久石譲 FOC 最新盤レヴュー・評

Posted on 2020/07/27

クラシック音楽雑誌「レコード芸術 2020年8月号 Vol.69 No.839」、先取り!最新盤レヴュー コーナーに『ブラームス:交響曲第1番/久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス』が掲載されました。

ここで紹介されるものは、次月号「新譜月報」に登場するディスクから要チェックアイテムを先行紹介するもの、来月号にも期待です。

 

 

先取り!最新盤レヴュー

一騎当千の手練たちがバンドのように燃焼する

久石譲とフューチャー・オーケストラ・クラシックスのブラームス:交響曲第1番が登場

 

ベートーヴェンをきっかけに風向きは変わり始めた

久石譲は、宮崎駿監督のアニメなど映画音楽の作曲家として名高いが、近年はクラシック音楽の指揮者としても活躍している。

国立音楽大学作曲科の学生時代に影響を受けたミニマル・ミュージックの紹介と、自作の新作初演にも力を入れているが、それと並行して、19世紀の交響曲の指揮でも着実に経験を重ねて、成果をあげつつある。

10年ほど前、東京フィルや新日本フィルを指揮した演奏会やそのライヴ録音のCDが出はじめたころは、博物館行きではない、生き生きとした音楽を聴かせたいという思い自体はよくわかったものの、楽員たちとの意思疎通にもどかしさが残り、十分な結果につながらないうらみがあった。

しかし、評価は変わりつつある。転機となったのは、2016年に開館した長野市芸術館の芸術監督として、新たに結成したナガノ・チェンバー・オーケストラ(CDではフューチャー・オーケストラ・クラシックスと改称)を18年まで毎年夏に指揮して、ライヴ録音によるベートーヴェンの交響曲全集を完成させたことだ。

本格派を自負するようなクラシック好きはどうしても、その活動を「アニメで儲けた作曲家の余技」と、よく聴きもしないうちに軽侮しがちだが、それだけで片づけてしまうにはもったいない演奏を、このベートーヴェンでは聴くことができた。

現在は、ベートーヴェンの交響曲はヨーロッパを中心に、第1ヴァイオリン12人以下の編成で演奏するものが主流となっている。久石もその傾向に則り、室内オーケストラのサイズで、快速で弾力に富んだ演奏を展開していた。

 

一気呵成に進行するダイナミックな音楽

今回のブラームスの交響曲第1番も、同様の方式によっている。弦楽器は10~10~8~6~5という編成で、ヴァイオリンは舞台の左右に分かれる対向配置。チェロとコントラバスは第1ヴァイオリンの後ろにいる。

ヴィブラートは少なめに、音の減衰を早めにして弾ませ、第1楽章の序奏から速いテンポで、音楽を一気呵成に進行させる。チェロとコントラバス、打楽器とハープ以外の全員が立奏しているのも、音楽のダイナミックな動きにつながっている。

現代のブラームス演奏は、前期と後期のロマン派様式の境目に位置して、どちらもさかんなだけでなく、双方に利点と説得力がある。久石の演奏はもちろん前者だ。

ナガノ・チェンバー・オーケストラから新たに東京を活動の中心に移し、フューチャー・オーケストラ・クラシックスと名を変えたアンサンブルには、国内の交響楽団の首席奏者など俊英がつどって、まことにイキがいい。久石の指揮のもと、思いきりやってやろうという意欲が伝わってくる。

顔の見えない巨大集団ではなく、個性を持った演奏家たちがバンドのように合奏する。近年のヨーロッパのありかたが、ようやく日本にも伝わってきているようで、嬉しい。コンサートマスターの近藤薫、ホルンの福川伸陽などのソロの鮮やかさも際だっている。

来年7月までにブラームスの残りの交響曲を演奏する計画は、コロナ禍のために中止となってしまったが、再起と実現を待ちたい。

山崎浩太郎

(レコード芸術 2020年8月号 Vol.69 No.839 より)

 

 

 

 

 

カテゴリーBlog

コメントする/To Comment