Blog. 「レコード芸術 2019年8月号」ベートーヴェン:交響曲全集 久石譲 FOC 最新盤レヴュー・評

Posted on 2019/07/26

クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年8月号 Vol.68 No.827」、先取り!最新盤レヴュー コーナーに『ベートーヴェン:交響曲全集/久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス』が掲載されました。全集のみ収録の第4番&第6番についての評です。

ここで紹介されるものは、次月号「新譜月報」に登場するディスクから要チェックアイテムを先行紹介するもので、来月号にも期待です。

 

 

先取り!最新盤レヴュー

完結!「ミニマリスト」による未来型ベートーヴェン全集

久石譲指揮のベートーヴェン/交響曲全集が遂に完結。初出は第4番&第6番

ベートーヴェン/交響曲全集
久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス

 

遂に全集完結。進むにつれ高まった話題性と評価

推進力とスピード感にあふれた見事な演奏として話題の久石譲とナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)のベートーヴェン・プロジェクトがついに完結した。番号順に演奏された演奏会シリーズはすでに18年に終了しているが、未発だった4番と6番を組み込んでこのたび全集録音として世に出ることとなったのだ。

16年の長野市芸術館のオープンと同時に創設されたこのオーケストラは、久石が芸術館の音楽監督を引き受けるにあたって「観客の応援の対象となるアーティスト」(ブックレット所収のインタビュー。以下同)を作るために、旧知のヴァイオリニスト近藤薫(東京フィルのコンマス)を中心としてオーケストラの首席クラスを集めて結成されたもの。残念ながらNCOは長野市の予算の関係で継続が不可能になり、今後は久石が行っている「Music Future」の中で続けることになったため、この全集での名義も「フューチャー・オーケストラ・クラシックス」に変更になっている。

全集は紙ジャケット仕様で特製のボックスに収められ、40ページのブックレットが付く。中には久石のロング・インタビューが2本掲載、このプロジェクト全体と作品それぞれに対してのコンセプトが詳細に語られている。たとえばミニマルを軸とする久石が作曲家としてベートーヴェンを見ると、第5番と第6番の方法論はミニマルに近いという。多くの指揮者には変化に乏しいと思えてテンポを変化させたがる《田園》の第1楽章も「僕はミニマリストだから全く平気」と話す。そのコンセプトがベートーヴェンの工夫と密接に結びつき、説得力のある21世紀的なベートーヴェン像を作り上げているのだ。

 

初出の第4番&第6番も桁外れのパワフルさ

今回初出の2曲も名演だ。第4番はインタビューで「もっと評価されるべき」と話している通り、密度が濃く情報量が多い演奏である。他の作品での緊密なアンサンブルのレヴェルからすると、第1楽章の序奏でわずかに甘い部分があるけれど、第1楽章主部や第4楽章ではかのクライバーの名演を越えるほどの強度を聴かせる。全集で一貫しているが、鋭いアタックと非常に重い音色を両立させたティンパニ(読響首席の岡田全弘)がすごいし、木管の鮮やかな運動性、弦の艶のある音色はどんなにテンポが速くなっても決して失われることがない。

《田園》は前述したように緊密なリズムの織物としてのアプローチ。風景描写そのものよりも、それが呼び起こす感情や、そもそも人間が持っている根源的なパワーに焦点が当たっている。確かに嵐の描写もすごい(ここに限らず、バランス操作に不自然さが感じられる部分がいくつかあるが、久石の希望だという)が、そこを抜けたあとの晴れ晴れとした清涼感は稀有なものである。

「クラシック音楽もアップ・トゥ・デイトで進化するもののはず」で「未来へ向かって演奏が変わっていくべき」という久石。「スポーツカーになり得」る室内オケでミニマル的に「風通しの良い」「きっちりした演奏によるアプローチで古典音楽を現代に蘇らせる」試みを続ける彼の活動にこれからも注目すべきであろう。

西村祐

(レコード芸術 2019年8月号 Vol.68 No.827 より)

 

 

 

全集にも収録されている、既発CD盤も発売時期に取り上げられ、とても高い評価を得ています。

 

 

2019.8 追記
そして次月号「レコード芸術 2019年9月号」にて特選盤 掲載されました。

 

 

 

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