Blog. 「音楽の友 2022年8月号」久石譲×宮田大 対談内容

Posted on 2022/08/11

クラシック音楽誌「音楽の友 2022年8月号」(7月15日発売)に掲載された久石譲と宮田大の対談です。[連載] 宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう コーナーの第3回ゲストとして久石譲が登場しました。

 

 

連載
宮田大 Dai-alogue~音楽を語ろう
Vol.3 ゲスト:久石譲

今回のゲストは作曲家・指揮者として世界的に活躍の久石譲さん。久石作品に大きな影響を受けてきたという宮田と、チェリスト宮田を高く評価する久石で、話しは大いに盛り上がった。それぞれが受けてきた音楽教育では共通点もあった。作曲家、演奏家それぞれの視点で、「作曲家、演奏家の音の個性とは?」などについて語る。

 

名演は作曲家と演奏家によって生み出される

二人の意外な共通点

宮田:
自分は久石さんの音楽が大好きなんです。たぶん最初に触れたのは、映画『天空の城ラピュタ』。1986年公開なので、自分と同い年なんです。学生時代には、監督もされた『Quartet カルテット』(2001年)を観て、その影響で仲間と弦楽四重奏を組みました。

クラシックの作品も聴いています。《DA・MA・SHI・絵》が大好きで、ずっと聴いているんですよ。だから今日はちょっとドキドキしています(笑)。

久石:
ほんとう!? それは嬉しい。娘の麻衣が宮田さんと親しくさせてもらっていて、宮田さんは現代音楽にも興味があると聞いたから、ああいうのを書いて、一緒に演奏したいと思っているんですよ。チェロは、いくつから始められたんですか。

宮田:
3歳からです。母がヴァイオリン、父がチェロの指導者だったので。

久石:
すごいですね。うちは親が化学の先生だから、音楽はまったく無縁でしたよ。地元が長野県だったので4歳から鈴木鎮一ヴァイオリン教室やスズキメソードで学びましたが、小さいころは耳から音楽を学ぶことが多かったので、楽譜を読むのに苦労しました。

宮田:
スズキで習われたんですか。うちは両親がスズキの先生なので、やっぱりまず耳から。

久石:
まず耳からなので、覚えるのは早くなったんだけど、譜面を見て弾くっていうのは、なかなかうまくいかなかった。

宮田:
自分は、今でも譜読みするときは指番号をぜんぶ自分で書いて、暗号のようにその番号を見て、あとはピアノとかクレッシェンドとかを確認しながら弾くスタイルになっていますね。自分のスタイルができたので、初見は苦手でも楽譜に書いてあることを時間をかけてしっかりと理解でき、今では私にとって最高のスタイルです。

久石:
仲間だな。スズキ・メソードは、海外での評価が圧倒的に高いんですよね。

宮田:
大人数で演奏する楽しさは、そこで学びました。だから今でも、いろいろなかたとアンサンブルするのが楽しいんです。

 

自分ではわからない「自分の音」

久石:
自分はチェロの音色がとても好きなんですよ。オーケストレーションをしているときにも、決めどころでチェロを使ったりします。

宮田:
いいところでチェロが鳴るので、嬉しいです(笑)。

ところで、いつも本番前に聴く久石さんの曲があるんです。『紅の豚』の《ポルコ・ロッソ》。あれを毎回聴くんです。そうするとすごく視野が狭まってくるというか、あれこれ頭が働いていたのが落ちついてきて、今からお客さんにこんな演奏をしたいとか、そうしたエゴがなくなってきて、今音楽を楽しみたいという気持ちにしてくれる曲なんです。

久石:
なるほど。

宮田:
いろいろな作品を聴かせていただいて思うのですが、ぜんぶ、”久石さんの音楽”じゃないですか。私もよく、お客さんや先生がたから、「宮田さんの音は宮田さんの音だってとてもよくわかるね」と言っていただけて、すごく嬉しいんですけど、どういうものが自分の音なのかは、自分ではわからない。久石さんご自身ではどう感じていらっしゃいますか。

久石:
やっぱり自分ではわからないですよね。もちろん、自分の曲は聴いたらわかる。昼間作った曲は夜にはもう完全に忘れていますけれどね。作り続けるためには忘れるのがいちばん大事で、空っぽにしないといけないから。そういう意味では忘れちゃうんだけど、どこかで鳴っていたら、僕の曲だってわかります。

それから、僕の曲を誰かがアレンジしたものもわかるんだけど、下手だなと思うことがあります(笑)。僕をメロディ作家だと思っている人は、メロディがあれば成立すると考えがちですが、シンプルなメロディにするためには、ほんのちょっとしたコードの差、ちょっとしたリズムの差などでアクセントをつけているんです。だから、メロディだけを抽出してアレンジしても、うまくいかないんです。

宮田:
そこに秘訣があるわけですね。

 

演奏家が補うことで作品が活かされる

久石:
ただ、その一方で、技術的にいちばん初歩の段階で素朴に歌う田舎のおばあちゃんに勝てるかって言ったら、僕は絶対勝つとは言えないんだよね。そこに音楽の怖さがあって、自分の歌いかた、自分の音で勝負できるという強い自信を持たないと、本当には勝負できないよね。

宮田:
日本人が今のコンクールになかなか優勝できないのは、そういうところかもしれません。

久石:
コンクールまでは勝てるんじゃないの?

宮田:
以前は上手であれば評価されたんですが、最近のコンクールは、個性もすごく評価される流れになっているんです。チェロでも、上手なのは当たり前で、さらに個性がある人が強い。今はYouTubeのような動画共有サイトで往年の巨匠の演奏を見て、真似をすることはできる。技術があるから真似はできるんです。でも自分がない。借り物ではなくて、本当のあなたはどんな音楽をしたいのかということを、これからは問われますね。

久石:
作曲をする立場で言うとね、最後、楽譜に表情記号を書くときには、じつはもう頭がクタクタになっているんです。そこまでの段階で、モティーフの構成に心身ともに全力を尽くしちゃっているから、もう譜面を見たくない状態なんです。クレッシェンドがどこから始まるかなんて、どっちだっていいよと言いたいぐらい。

演奏家は、基本的に作曲家が書いたものを大事にする。それは正しい。大事なんだけど、同時に作曲家の側が限界を感じながら書いているところもあるんです。そうすると、演奏家に補ってもらわないとできない部分が相当あるわけです。それをわかってくれて、一緒に演奏してくれる、作品を活かしてくれる演奏家と出会うことが、作曲家はいちばん嬉しいんです。

クラシックの過去の名曲だって、演奏の視点を変えれば、まだまだできることはあるし、そうしなきゃいけない。同じことの繰り返しでは古典芸能になってしまうけれど、身のまわりのことや現代の世界のことなどを反映させることは十分可能だと思います。宮田さんとは新曲だけでなく、クラシックの曲でもぜひ共演してみたいですね。

宮田:
喜んで。ドヴォルジャークの「チェロ協奏曲」など、ご一緒したいです!

取材・文=山崎浩太郎 写真=ヒダキトモコ

 

 

Column 3
映画を観て、聴いて感じてきたこと

私の好きなことの一つが、映画を観る&聴くことです。観るという表現に聴くという表現をなぜ加えたかというと、映画に使われる音楽が大好きで、観ていると同時に音楽も楽しんでいるからです。映画は、クラシック音楽、ジャズ、タンゴ、などのいろいろなジャンルの音楽が使われたり、映画のために作曲された新作が使われたりと、音楽の時代とジャンルを超えて一つの作品の中で表現されます。垣根をつくらず、良いと思った音楽を取り入れている映画の世界は、私にたくさんの刺激を与えてくれました。

私はいつも演奏する際に、どの作品にも物語を感じ、喜怒哀楽の感情表現や、世界中の景色をイメージするようにしています。映画を観て聴くことにより、頭の中のイメージの図書館がたくさん増えていきます。

特に久石譲さんは、私にたくさんの感情を与えてくださったかたです。映画のなかの人物が「どう悲しいのか、どのように嬉しいのか、なぜそのような感情が生まれたのか」を久石さんの音楽から感じた経験は、私の音楽人生の大切なコアになる部分を形成しています。

これからの演奏会でも、クラシック音楽だけではなく、いろいろなジャンルの中に生き続けているすばらしい作品をたくさん取り上げていきたいと思います。

(文=宮田大)

 

(「音楽の友 2022年8月号」より)

 

 

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

 

音楽の友 2022年8月号

特集
NIPPON・オーケストラ譚―過去から現在、そして未来へ

(奥田佳道/池田卓夫/佐渡 裕/片桐卓也/岡部真一郎/水谷川優子/山崎浩太郎/井形健児/西濱秀樹/桑原 浩/小倉多美子/セバスティアン・ヴァイグレ/山田治生/山本祐ノ介/三光 洋/下野竜也/堀江昭朗)
現在活動している日本のオーケストラは、第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて創設されたものがほとんどだ。2022年、そのオーケストラのいくつかが創立50周年等の記念年を迎えた。この機会に日本のオーケストラの創設期から現在までをたどり、今後の行くべき方向性を考えてみようと思う。

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