Blog. 久石譲「ジブリ・ベスト ストーリーズ」はもうひとつのジブリ史

Posted on 2014/05/30

久石譲名義での初のジブリ・ベストアルバム「ジブリ・ベスト ストーリズ」が今年の3月に発売されました。

もちろん購入し何回も聴いていたのですが、そこはベスト、選曲の妙こそあれ、新鮮味にはやはり欠けるわけで。それはこれまでリアルタイムでそのジブリ映画やジブリ音楽を聴いてきたので懐かしさと改めてゆっくり聴く、といった感じでしょうか。

そういう楽しみ方や、手元においておきたいファン心理ももちろんあります。ただ、今回は本作に収められているライナーノーツの話題を。

 

久石譲本人も、この「ジブリ・ベスト ストーリーズ」発売に期して、コメントを寄せています。

『風の谷のナウシカ』の公開(1984年3月11日)から30年の節目にどういう経緯と思いでこのベストアルバムが企画され、久石譲がそれをどう受け止めているのか。

『風の谷のナウシカ』から『崖の上のポニョ』まで、宮崎駿監督作品のなかからそれぞれの映画の印象的な楽曲が選曲され、さらにはそれはサウンドトラック盤ではなく、久石譲ソロアルバムの音源から。つまりはピアノメインの楽曲たちになっています。

そのあたりのこの「ジブリ・ベスト ストーリーズ」にあたる選曲と考察については以前のブログにまとめていますので興味のある方は。

こちら ⇒ Blog. 久石譲 初ジブリベスト 宮﨑駿×久石譲 30周年 CD発売決定!

 

 

そんな個人レベルの解説と考察ではとうていおよびもしない(当たり前…)前島 秀国さんによる久石譲解説と楽曲解説が読み応え満点です!「なるほどー!」「言われてみれば!」「そういう背景だったのか!」などなど驚嘆と納得の連続でした。

  • 宮崎駿監督ジブリ映画におけるピアノ・メロディとヒロインの関係性とは?
  • 印象的な音楽を生み出す、根本的な音楽制作の出発点とは?
  • 久石譲がサウンドトラックから離れて宮崎作品をソロアルバムでリアレンジする意味とは?

このあたりのことが鋭い洞察力と説得力で記されています。

 

楽曲解説も端的に要点をずばっと書かれています。そこに発表年順(収録曲順ではなく、ソロ・アルバム発表年順)でまとめられているため、時系列で久石譲の変遷が垣間見れておもしろいです。

たとえば…

『宮崎作品のサントラ録音で初めて常設の交響楽団(東京シティ・フィル)を起用した『もののけ姫』以後、久石は大編成を用いた演奏に意欲を燃やし始める(その論理的な帰結が、2000年から始める彼の指揮活動だ)。』

『久石初の全曲ピアノソロアルバム『ENCORE』は、マイクの設置場所にミリ単位までこだわった入魂作。”破壊された世界の再生”を描く、『もののけ姫』の重要なラストにおいて、久石はそれまで鳴り続けていたオーケストラを止め、シンプルなピアノだけで希望のメロディを奏でてみせた。その意味では《風の伝説》と対をなす楽曲と言えるかもしれない。』

『~略~ 表現の奥深さを示した例のひとつが、飛行船の上でシータがパズーに不安を打ち明ける場面の《Confessions in the Moonlight》(月光の雲海)だ。空間の響きを活かした久石のピアノソロが、オリジナル版以上に《君をのせて》の旋律をしっとりと浮かび上がらせている。』

『『崖の上のポニョ』公開後にピアノ、チェロ12本、コントラバス、マリンバ、打楽器、ハープ2本という編成によるツアーと連動して録音されたアルバムから。伝統的な管弦楽法からは絶対に思いつかない発想だが、チェロのピツィカートとマリンバの倍音が生み出すユーモラスな響きは、不思議とポニョのイメージに合う。』

『2009年のアルバム『Minima_Rhythm』に続き、久石がロンドン交響楽団を指揮したアルバム、メロディフォニーから。《One Summer’s Day》(あの夏へ)と《Kiki’s Delivery Service》(海の見える街)は、それまでの日常と異なる世界──『千と千尋の神隠し』の場合は湯屋の町、『魔女の宅急便』の場合は大都会コリコ──に足を踏み入れようとするヒロインが、そこはかとなく感じる期待と不安を表現しているという点で、対をなす2曲と言えるかもしれない。しかも、《Kiki’s Delivery Service》のリアレンジでは久石のピアノソロがメロディをくっきりと演奏しており、《One Summer’s Day》のニュアンスに富んだピアノソロと見事な対照を生み出している。』

などなど

これを読んでいるだけでも、ジブリ映画ファン、ジブリ音楽ファン、久石譲ファンとしては、あのシーンが、あの音楽が、鮮やかに甦ってきてニンマリしてしまいます。そして、冒頭にも書いたように、もう何回も聴いたことのあったこの楽曲たちを、もう1回注意深く熟聴したくなってしまいます。そういう経緯もあって、最近改めてこの「ジブリ・ベスト ストーリーズ」のリピート・リピートです。

こんな洞察力と考察力があったらなーと思います。ということで、「なるほどー!」「言われてみれば!」「そういう背景だったのか!」などなど驚嘆と納得の連続だったわけです。

 

ぜひCDを手にとってみてください。レンタルや音楽配信もありますが、ライナーノーツはCDを買わないと見れません。そこがいいところだとも思っています。

また上の前島 秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)さんの解説や、久石譲のコメントなど、ライナーノーツの内容は、もう少しだけ詳しく紹介していますので、気になった方はぜひご覧ください。あくまでも抜粋ですので、最終的には…買わないと。 笑

こちら ⇒ Disc. 久石譲 『ジブリ・ベスト ストーリーズ』

 

特にファンとして個人的に思うことですが、久石譲はあまりメディアもふくめ露出も少なく、作品ごとに多くを語っていないですし、「久石譲論」のような専門家・評論家による資料や書籍もほぼないなか、とても貴重な内容でした。

どなたかこういう視点で「久石譲」を書籍としてまとめてくれたらいいのに。「宮崎駿」論や「ジブリ」論はたくさんありますしね。

 

さて、そんなこんなで、久石譲「ジブリ・ベスト ストーリーズ」は『もうひとつの30年のジブリ史』を紡いでいます。もちろん音楽で。

さて、そんなこんなで、この作品の久石譲監修 ピアノ楽譜も5月に発売されています。CDとの完全タイアップ楽譜、オリジナル・エディションです。

こちら ⇒ Score. 久石譲 「ジブリ・ベスト ストーリーズ -オリジナル・エディション-」 [ピアノ譜]

 

さて、そうこうしていたら、7月には「スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX」が発売されます。『風の谷のナウシカ』から2013年公開の『風立ちぬ』まで。久石譲が手掛けた宮崎駿監督映画のサウンドトラック12作品を収めた豪華BOXセットです。

こちらは正真正銘のサウンドトラック盤ですね。そして音質もオリジナル盤発売当時よりもよくなっているようです。(高音質HQCD)もちろん既発作品たちのBOXセットにはなるのですが、特典CDもついてきます。

また今回の内容と関連しますが、封入ブックレットも楽しみです。

<ブックレット>
徳間書店から発売されている各作品の「ロマンアルバム」より久石譲イタビューと、宮崎駿作品CDカタログを掲載。

とあります。「スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX」の詳細は

こちら ⇒ Info. 2014/07/16 「スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX」 発売決定!

今年の夏もジブリの夏、の予感です。

 

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ジブリ・ベスト ストーリーズ 久石譲 収録曲

 

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