Blog. 「キーボードスペシャル 1995年3月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/3/10

音楽雑誌「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1995年3月号 No.122」にて特集された久石譲インタビューです。

ちょうど作品時期としては「地上の楽園」や「Melody Blvd.」「ぴあの」、つまり久石譲がシンセサウンドやバンドサウンドを追求していた時期です。今となってはかなりレアな作品群なのですが、その当時のインタビュー内容もまた貴重です。

 

 

 

「映像のための音楽と独立している音楽は100%違う」

久石譲さんがLAで制作した『MELODY Blvd.』は、過去に手掛けたスクリーン・ミュージックに英詞をつけ、現地のボーカリストを迎えて新たな世界を作り上げたという、いわばプロデューサー的立場に立ったセルフ・カバー作品。映像にともなう音楽を歌モノとしてリニューアルする時の、その具体的手法とはどんなことだったのだろうか?

 

英語をつけることで、言葉よりも響きを重視

-今回ボーカルの歌詞を英語にしたのはなぜでしょうか。

久石:
「前作『地上の楽園』を作るのに2年半かかったんですよ。イギリスにずっと住みながら作ったんだけど、けっきょく思想的というかコンセプチュアルなアルバムになって、それがすごくキツかったんですね。そのあとだから、今度はすごく軽いものを作りたかった。終わった段階ですぐに「次はLAだ」というのもあったし、でもアルバム自体をまた全部オリジナルで作ろうとすると、すごくたいへんなことになる。ちょうど今作るのにいいんじゃないかということで、”セルフ・カバー”でやろうということになりました。前々からそういう話もあったので。

その段階で「久石譲スクリーン・ミュージック」みたいなベスト・メロディを集めて、今すごくボーカルに興味があるので全部ボーカルでやろうと。そこでボーカルに合う自分のメロディを選んだんだけど、あくまでインストゥルメンタル的なメロディ・ラインを聞かせたいというか…。日本語をそのままやっちゃうと、言葉の比重がすごく重くなってしまう。英語であれば日本人が聴いた段階で、言葉というよりもサウンドの一部という捉え方もできるから、ということなんです。」

-ボーカリストの人選は、久石さんがみずからなさったんでしょうか。

久石:
「すごい(量の)デモ・テープを聴きましたよ(笑)、全部で25人から30人ぐらい。『地上の楽園』で歌ってもらったイギリスのジャッキー・シェルダンの声なんかは、すごく日本人に共通するものがあったんです。でもLAのミュージシャンはとにかくパワーがあるということが大前提になるみたいなところがあって、女の人も男の人もすごく”シャウト型”が多いんだよね。だからイメージを合わせるのがたいへんだった、なかなかね。」

-今回はプロデュースもなさっていますね。もともと、久石さんのお名前はプロデューサーとしても有名なクインシー・ジョーンズに由来しているということなので、プロデューサーという立場から、このアルバムはどういうポジションにあるのかをお聞きしたいのですが。

久石:
「今回は自分のピアノをフィーチャーしていないし、自分で歌っているわけでもないでしょ?そういう意味で言うと、スタンスとしてはクインシー・ジョーンズとかデヴィッド・フォスター、アラン・パーソンズ・プロジェクトみたいな、そういうプロデュース・ワーク…つまりサウンドからコンセプトとか全部を含めたプロデュース・ワークがメインになって、なおかつそれで自分の個性をどこまで出せるんだろうかというのを、ちょっと実験したかったんです。今までの自分のソロ・アルバムの中では、とてもめずらしい形態ですよね。

要するに「久石譲とは何か?」という時、やっぱり「メロディ」だっていう部分があるわけですよね。だあら、そのメロディを1回きちんと切り取ってみて提出したらどうなるかな、みたいなところがあって…。現にLAでも、圧倒的にみんな「メロディがすごく好きだ」と言ってくれたので、僕はすごくうれしかったんですけどね。…誰も日本発売だって思っていなかったということも、笑えるんだけども(笑)。」

 

ボーカルものにする段階で原曲(映画)と切り離す

-作品的にはスクリーン・ミュージックが中心になっているわけですが、久石さんは映像と音にどんな関連づけをされているのでしょうか。

久石:
「僕の中では、映像のための音楽と、音楽だけで独立する音楽というのがまったく100%違います。映像がないと成り立たないような音楽はレコードになっちゃいけない。…もちろんサウンドトラックを除いて、でもボーカルものとかインストゥルメンタルだとか、アーティスト・アルバムには映像がついちゃいけない、というスタンスで必ず作っているんです。

作ったものに対して結果的にみんなが勝手に映像を思い浮かべたりするのは、それだけイマジネーションが豊富だからいいんだけど、僕のほうで「映像的に作ろう」とか、そういう感じでアルバムを作ったことは1回もない。だから今回の場合もスクリーン・ミュージックではあるんだけども、ボーカルものにする段階から原曲あるいはもとの映画というものから切り離したもの…基本的に言ったら音楽だけで独立していなければいけないと思っています。

ただ、「I Believe In You」の元になった「あなたになら…」という曲は、中山美穂さんが作詞して歌っているんですよね。そういう場合にオリジナルの詞は大切にしたいので、訳してもらう時にはできるだけそのニュアンスを汲んでください、ということで発注しました。」

 

核心部分のアイディアのネタの新鮮さが何より大切

-メロディを作る時は、やはりピアノを前にして考えていくのですか。

久石:
「最終的にはピアノです。でもそれまでに、考えるともなく考えている”発酵”する時期をきちんととっていますからね。実際は、朝ベッドの中とかシャワー浴びながらとか、そういう時に浮かぶケースのほうが圧倒的に多い。要するに、1フレーズでもいいからいちばんキャッチーな部分、「これだ」という核心のフレーズなりサウンドの感じとかね、そのアイディアが浮かんじゃえば、もうそこからイモヅル式に組み立てはできます。そのネタが新鮮でないと何やってもダメですから、それをつかむまでにすごく時間がかかりますよ。

それは、映画の時もCMでもこういうアルバムでもみんな同じです。たとえば『ぴあの』なんかは、3ヵ月ぐらいそれで悩んだ。アルバムを作る時はそれぞれ条件があるんですよね。『ぴあの』に関していうと、これはあくまで1日3回で月~土の半年間、膨大な量がテレビで流れるわけですよ。そんな時に飽きないメロディ、シングル・ヒットをねらうだけなら簡単だけど、そうじゃなくて日本のスタンダード曲になるくらいに、飽きないメロディを書こうというのが前提にあるでしょ。その条件の中で作ろうとするから、すごく時間がかかりましたね。」

-最初の2分音符が、たったひとつの音なのに深いですよね。

久石:
「日本語の歌詞でも確か「Dream」だったよね。けっきょく言えるのは、僕のメロディには英語がすごく乗りやすいこと。音数がそれほど多くなくて動きがあるから、英語のように単語で入ってくる言葉のほうがいいんだよね。「I love you」でも音が3つあれば言えてしまうんだけど、日本語だと「わたし」しかいかないじゃない?(笑)」

-これから、さらに挑戦したいのはどんなことですか。

久石:
「『風の谷のナウシカ』から『地上の楽園』までのサウンドが全部入っているような、前向きなアルバムを作りたいですね。それには”エスニック”ということをもう一度きちんとやって、自分なりに消化させて出せたらいいなと思っています。」

(雑誌「KBスペシャル 1995年3月号 No.122」より)

 

 

久石譲 『MELODY Blvd.』

久石譲 『MELODY BLVD』

まさにこのCDジャケットを象徴するかのようなサウンドになっています。

1. I Believe In You (映画「水の旅人」より / あたなになら)
2. Hush (映画「魔女の宅急便」より / 木洩れ陽の路地)
3. Lonely Dreamer (映画「この愛の物語」より / 鳥のように)
4. Two of Us (映画「ふたり」より / 草の想い)
5. I Stand Alone (映画「はるか、ノスタルジィ」より / 追憶のX.T.C.)
6. Girl (CX系ドラマ「時をかける少女」より / メインテーマ)
7. Rosso Adriatico (映画「紅の豚」より / 真紅の翼)
8. Piano(Re-Mix) (NHK連続テレビ小説「ぴあの」より / ぴあの)
9. Here We Are (映画「青春デンデケデケデケ」より / 青春のモニュメント)

 

 

おまけ。

本誌インタビューはカラーインタビューとなっていました。インタビュー記事中に、どんな写真が提供されていたかというと…

 

久石譲 KB 3

これはたしかCDの写真にも当時使われていたような。ジャケット裏写真だったかな、なんの作品だったか。。

 

久石譲 KB 1

久石譲 KB 2

コンサートというよりは、LIVE写真ですね!こんなとんがった(サウンド的にも)時代もあったということです。今はタキシートやジャケットにタクト(指揮棒)が定着していますが、当時のこういう時代も懐かしく新鮮ですね。

いや、それはこういった昔の写真だけでなく、この時代の久石譲音楽も今聴いても完成度高く、かつ新鮮です。『MELODY Blvd.』はよくドライブのおともに聴いていました。青空に吹き抜ける風、これから春の季節にピッタリです。

 

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