Blog. 久石譲 「天空の城ラピュタ」 レコーディング スタジオメモ

Posted on 2014/10/18

1986年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『天空の城ラピュタ』

2014年7月16日「スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX」が発売されました。『風の谷のナウシカ』から2013年公開の『風立ちぬ』まで。久石譲が手掛けた宮崎駿監督映画のサウンドトラック12作品の豪華BOXセット。スタジオジブリ作品サウンドトラックCD12枚+特典CD1枚という内容です。

 

さらに詳しく紹介しますと、楽しみにしていたのが、

<ジャケット>
「風の谷ナウシカ」「天空城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」は発売当時のLPジャケットを縮小し、内封物まで完全再現した紙ジャケット仕様。

<特典CD「魔女の宅急便ミニ・ドラマCD」>
1989年徳間書店刊「月刊アニメージュ」の付録として作られた貴重な音源。

<ブックレット>
徳間書店から発売されている各作品の「ロマンアルバム」より久石譲インタビューと、宮崎駿作品CDカタログを掲載。

 

そして『天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎』もLPジャケット復刻、ライナー付き。

さらには、
●ジャケット特典/パズーとシータの複製セル画付き!

往年のジブリファン、そして久石譲ファンにはたまらない内容になっています。

 

 

そして貴重なライナーは、サントラ制作のレコーディング録音 スタジオメモです。

 

●6月20日(金)オールラッシュフィルム(セリフや音楽のない状態で編集されたフィルム)がほぼ完成。小雨が降り続く、深夜の東京・吉祥寺東映に関係スタッフを集めて映写された。映像のクオリティの高さに、一同息をのむ。

●6月23日(月)『ラピュタ』の制作をしている、スタジオジブリの近くにある喫茶店でBGMの本格的な打ちあわせ。3月に制作したイメージアルバム『空から降ってきた少女』をもとに、監督の宮崎駿さん、プロデューサーの高畑勲さん、音楽の久石譲さんが互いに意見を出し合って決めていく。1曲目からたちまち熱のこもった議論に。シータが捕らわれている飛行船に、海賊たちのフラップターが急襲するシーンに、音楽をつけるのかどうか、それはどんな曲か。熱論2時間、結局この曲は最後にもう一度話し合うことになった。午後4時から場所をジブリ第2スタジオ(実は仮眠室)に移して、深夜まで打ちあわせが行われた。

●6月24日(火)久石さんのワンダーステーション(スタジオ)にてレコーディング開始。「今回は徹底して絵の動きと音楽の流れを合わせることにこだわりたい」と久石さん。ラッシュフィルムのビデオをもとに、絵の動きのポイントの秒数を正確にチェック。『フェアライトIII』というスーパーシンセサイザーにデータを入れて、ベースとなるリズム体を作っていく。タイガーモス号の見張台にいるパズーとシータの曲からスタート。

●7月2日(水)連日徹夜の日が続く。海賊たちとスラッグ渓谷の親方との力くらべのシーンの曲を録る。絵のユーモラスな動きと完全に一致した曲に。楽しいシーンになりそう。

●7月7日(月)作品の最後に流れるテーマ曲『君をのせて』のボーカル録り。イメージアルバムの曲『シータとパズー』のメロディを生かした曲。作詩も宮崎さんとあって、作品にぴったり合ったテーマ曲に。井上杏美の澄んだ声がスタジオに響く。

●7月8日(火)日活スタジオでオーケストラ部分の録り。録るシーンごとに絵をスクリーンに映し、見て感じをつかんでもらってから、レコーディング開始。日活スタジオはじまって以来という総勢50名近くの大編成オーケストラの響きはさすが!

●7月10日(水)クライマックスで使用される児童合唱を録る。『ナウシカ』では4歳の女の子の歌った曲が話題になったが、今回は、杉並児童合唱団の30人の女の子を起用。3声にアレンジされた『シータとパズー』のメロディを歌う。

●7月12日(土)それぞれに録った音をひとつにまとめ上げる作業、トラックダウンを行う。最後まで課題として残っていた、作品の冒頭、フラップターの急襲シーンの曲を入れることに決定。あとはセリフや効果音とのダビング作業を待つばかりとなる。公開まであと1ヵ月弱、『ラピュタ』は4チャンネルドルビーサウンドで公開される。迫力あるラピュタサウンドが楽しめるはずだ。

●『ナウシカ』のサントラ盤を出した時、もう一度『ナウシカ』に、宮崎駿さんに会いたいと書いた。そして今、こうして『ラピュタ』のサントラをお届けできることを大変うれしく思う。あれから2年、自然と人間の調和の中に人間の未来を指し示した『ナウシカ』の叫びが起こした、様々な反響とは裏腹に世相はますます荒れすさんでいくように思える。「おとなから子どもまで、けなげにも非人間的なデジタル的なものにむりやり適応しようと涙ぐましい努力をしている現在、あらゆる面でアナログ的なものこそ人間的であると信じ、徹底してその復権を作品世界の中でめざす熱血漢・宮崎駿の、これは現代人全体への友愛の物語」(企画書の高畑さんの文章より)。という、『ラピュタ』のコンセプトは、このアルバムにも生かされている。そのサウンドに心安らぎ、胸ときめかせてほしい。 (渡辺)

(「天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎」 LP(復刻) ライナー より)

 

 

Related page

 

天空の城ラピュタ LP 復刻

 

Blog. 久石譲 「長野市芸術館 広報準備号 vol.2」 インタビュー

Posted on 2014/10/15

2015年開館予定の長野市芸術館。その芸術監督に就任した久石譲のインタビューです。10月12日に開催された「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」コンサート前のメッセージとなります。

このインタビュー内容をふまえて、コンサートレポートもお楽しみください。

こちら ⇒ Blog. 「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」(長野) コンサート・レポート

 

 

久石譲が考える長野市芸術館のすがた

芸術監督に就任して初めての舞台を前に、東京の事務所にて、開館プレイベント「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」公演によせる想いと、芸術館の未来について語っていただきました。

■ いま、やるにふさわしいものを。

-芸術監督に就任して初の長野でのコンサート。どんな想いで臨まれますか?

久石 長野で音楽を、とりわけクラシックを聴ける環境をたくさん作っていくことが僕の使命なので、今回のプログラムは僕がやりたいものをきっちりと選んだ。かなりおもしろいコンサートになると思っています。

-「風立ちぬ」第2組曲は、映画で使われた音楽がベースになっているのですか?

久石 そうですね。ただ映画では使われなかった曲もずいぶん入っていて、映画とはまったく別の、その時に書いた素材をもとに新たにオーケストラのための組曲として作り直したものです。初演は今年の5月に台湾。夏に東京でやって、長野は3回目ということになります。

-ベートーヴェンは久石さんにとってどのような存在?

久石 最高の作曲家です。彼の作品は非常に明快なロジックとエモーショナルな部分をあわせもっている。そしてキャッチーでわかりやすい。交響曲第5番や第7番とかは本人の中でも整理されているんだけど、この3番あたりはまだちょっと思いついちゃったから書いちゃった、みたいなところがあって。当時もっている勢いみたいなものが最も表れているし、各楽章のテーマがすごくハッキリしているからね。芸術監督になって最初に選ぶ曲は何がいいかずっと悩んでいたけど、『英雄』がふさわしいと思った。

■芸術監督として僕がやるべきこと

-今後のポイントを教えてください。

久石 とにかく良いプログラムを作ること。方針をもって5年10年の長いスパンで定着していくことをやっていくことですね。生活のなかでコンサートに行くことが日常になってほしい。ふだん聴く音楽のひとつにクラシックがきちんとあってほしい。そのためにも良いものを数多くやって、みなさんの生活のなかで芸術館が中心にあるようになったら、一番良いことですよね。

(長野市芸術館 広報誌準備号 vol.2 より)

 

 

なお、長野市芸術館のFacebookページでは、今回のコンサートのリハーサルから本番の様子まで紹介されています。公演前のコンサートプログラム冊子の作成過程なども。2015年の開館に向けて、いろいろなニュースやリポートも詳細に紹介していく予定になっているそうです。

公式Facebook 》 長野市芸術館 Facebook

長野市芸術館Facebook

 

 

2014年11月には、長野市芸術館 公式ウェブサイトもオープン予定とのことです。公式ウェブサイト 公式Facebookページふくめて、久石譲の最新情報もHOTに更新されるかもしれませんので、随時チェックですね。

「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」長野公演本番写真を、公式Facebookページより1枚お借りしています。

 

久石譲 ホクト文化ホール コンサート

 

Blog. 「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」(長野) コンサート・レポート

Posted on 2014/10/15

長野市芸術館 開館プレイベントとして開催された「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」 コンサート。

長野市では2015年の完成に向け、新たな文化芸術の拠点となる「長野市芸術館」の整備を進めています。それに伴い、長野市芸術館の運営の中心を担う一般財団法人長野市文化芸術復興財団が発足しました。この財団では、芸術監督・久石譲氏の監修のもと、豊かな文化に支えられた〈文化力あふれるまち 長野市〉をめざします。また、さまざまな文化芸術が身近に感じられるような機会を提供できるよう、開館に向けて準備を進めています。

(コンサートパンフレットより)

 

 

まずはセットリストから。

 

久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団

[公演期間]
2014/10/12

[公演回数]
1公演(長野・ホクト文化ホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
バラライカ/マンドリン:青山忠
バヤン/アコーディオン:水野弘文
ギター:千代正行

[曲目]
<第一部>
久石譲:弦楽オーケストラのための「螺旋」
久石譲:バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲

—アンコール—
Summer

<第二部>
ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調「英雄」作品55

—アンコール—
Kiki’s Delivery Service for Orchestra

 

 

当初予定されていたプログラムから一部変更になり、上記の演奏プログラムとなっています。

 

曲目ごとに。

  • 久石譲:弦楽オーケストラのための「螺旋」

2010年コンサート「久石譲 Classics Vol.2」にて世界初演されて以来、2011年コンサート「久石譲 Classics Vol.4」で二度目の演奏後、幻の曲として沈黙を守ってきた楽曲、14分に及ぶ大作です。

当初プログラムでは「ピアノと弦楽オーケストラのための新作」もしくは「螺旋」の披露予定、どちらを演奏されたにせよ貴重なプログラムだっただけに、これはレアな演目となりました。どういう曲か? は後述の久石譲本人による解説をご参考ください。

 

  • バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲

2014年のコンサート活動を象徴する楽曲です。曲詳細については過去コンサートレビューや、新作CD「WORKS IV」にて紹介しています。

 

  • Summer

第1部のアンコールとして。久石譲の代名詞的な名曲「Summer」をピアノ&オーケストラとの共演で。CD「メロディフォニー」が基調となるシンフォニー・バージョン。

 

  • 交響曲第3番変ホ長調「英雄」作品55

長野市芸術館のコンセプトにもあるように、さまざまな文化芸術が身近に感じてもらえるべく、久石譲作品以外から選曲されたベートーヴェンの「英雄」。第9、第5番「運命」が一般的にはポピュラーですが、「英雄」も引けをとりません。長野市芸術館の開館を前にプレイベントの演目として選ばれているだけに、「新しいなにかが始まる」、幕開け、ファンファーレのような意味合いだったかどうかは、定かではありませんが、そんな気もしています。

 

  • Kiki’s Delivery Service for Orchestra

こちらも新作「WORKS IV」に収録された、2014年今一番ホットな楽曲です。

 

 

Program Notes

久石譲:弦楽オーケストラのための「螺旋」

弦楽オーケストラのための「螺旋」は、2010年2月16日に行ったコンサート《久石譲 Classics Vol.2》のために書いた作品である。作曲は、2010年1月20日より2週間という短い期間で一気に書き上げ、その後直しを含めて時間の許す限り手を加えた。ミニマル・ミュージックの作家としてコンテンポラリーな作品を書きたいという思いが強かったのかもしれない。

曲は、8つの旋法的音列(セリー)と4つのドミナント和音の対比が全体を通して繰り返し現れる。もちろんミニマル・ミュージックの方法論で作曲したが、その素材として上記の12音的なセリーを導入しているため結果として不協和音が全体の響きを支配している。

心がけたことは、感性に頼らず決めたシステムに即して音を選んでいくことだった。もちろんそのシステムを構築する土台は(それが良いと決めたこと自体)個人的な感性である。

曲の構成は日本の序・破・急(※)の形をとり、第1部は遅めのテンポの中で様々なリズムが交差し、第2部では同じセリーのスケルツォ的躍動感を表現している。第3部の前には、もう一度基本セリーによる静かな神秘的な部分があり、その後、急としての激しい空間のうねりが展開される。

曲のタイトルとして Spiral という言葉を最初考えていたが、この急の部分を作曲したときに「螺旋」という日本語が最もふさわしいと確信した。

(※)序・破・急 = 音楽・舞踊などの形式上の三区分。序と破と急と。舞楽から出て、能その他の芸術にも用いる。

(2011年9月7日《久石譲 Classics Vol.4》 曲目解説より一部補筆し転用)

– コンサートパンフレットより –

 

 

この久石譲本人による楽曲解説を見ても、ハテナが頭に浮かぶだけですが、キーワードとしては「ミニマル」「空間のうねり」「序・破・急」、すなわち《螺旋》です。

”不協和音が全体の響きを支配している”とありますが、とはいえミニマル・ミュージック特有のリズムがそこにはあり、躍動感と神秘性をかねそなえた弦の響きがまさにスパイラルしている楽曲。

コンサートで聴いても、その渦を巻いた弦楽オーケストラの響きに圧倒されます。今回3度目の貴重なお披露目となったわけですが、久石譲の現代音楽作品として後世に残るべき重要な作品だと思います。ぜひこれからのコンサートや、またCD作品としても聴きたい大作です。

 

余談。当初予定されていた「ピアノと弦楽オーケストラのための新作」。こちらもいつか聴ける日が来ることを切望していることは、言うまでもありません。

 

長野芸術館の芸術監督を務める久石譲は、「日常の中に音楽が入ってくるための魅力的なプログラムをつくりたい」「出身県でもあり、自分の年齢も考え、少しは世の中に貢献しようと思った」「善光寺での野外コンサートを含んだコンサート週間を柱にし、長野だけでなく全国に発信したい」、自身も毎年コンサートを開催していきたいと語っていて、2015年の開館イベントやその以降、長野から発信される久石譲音楽に期待です。

 

2014年、いろいろな企画・編成・形式でのコンサート活動が行われてきましたが、その最後を飾るファイナルは、「久石譲 ジルベスターコンサート 2014 in festival hall」です。12月31日大晦日のこの日、久石譲の2014年集大成、総決算です。と同時に2015年の何かを予感させてくれるコンサートとなるのでしょうか。

 

久石譲コンサートの歴史はひとつひとつと刻まれています。
こちら ⇒ 久石譲 Concert 2010-

 

 

最後に、今コンサート終演後のメディア情報より。

指揮者久石さん躍動 長野市芸術館開館プレイベント

建設中の長野市芸術館(新市民会館)の開館記念プレイベントとして同館芸術監督の作曲家久石譲さん(63)=中野市出身=が指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団(東京)の特別公演が12日、長野市若里のホクト文化ホール(県民文化会館)であった。久石さんの県内公演は4年半ぶり。オーケストラの重厚な演奏が、大ホールを埋めた幅広い世代の約2200人を魅了した。

約2時間の公演で、ともに久石さん作の「弦楽オーケストラのための『螺旋(らせん)』」、昨夏公開の宮崎駿監督のアニメ映画「風立ちぬ」の曲を再構成した組曲のほか、ベートーベンの交響曲第3番「英雄」を演奏。久石さんは全身を躍動させて力強い指揮を披露した。「風立ちぬ」では、指揮の合間にピアノを弾く場面もあった。曲が終わるごとに笑顔で両手を広げ、聴衆の拍手に応えた。

久石さんは公演後、「話ができないほど精いっぱい出し切り、お客さんの反応もすごく良かったので、やってよかったなあと思う」と話した。

(信濃毎日新聞[信毎日web] より一部抜粋 )

 

久石譲 2014長野 コンサートレポート

 

Blog. 久石譲 「天空の城ラピュタ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/10/12

1986年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『天空の城ラピュタ』

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。

今では復刻版としても登場していますし、さらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても刊行されています。

今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1986年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「こんなに密度の濃い音楽打ちあわせは初めてです」

-まず「ラピュタ」の音楽を書くにあたっての、基本的な考え方がどういうものだったのか、聞かせてください。

久石:
「基本コンセプトとしては、やはり映画のイメージというものを基礎にして、愛と夢と冒険の感じられる音楽にしようということでした。具体的にいうと、メロディをキチッと聞かせるものにしよう、それも、子どもたちが聞いて、心があたたかくなるようなものにしよう、というのが基本的な考え方ですね」

-でも、それは意外に難しいことですね。

久石:
「そうなんです。明るくて、しかも胸にジーンとくるような良さを持った曲というのは、なかなか作れませんからね。しかし、今回はそれにどうしても挑まなければならなかったと思います。それと、音とイメージは、あくまでもアコースティックにいこうと、はじめから考えました。『アリオン』の場合は、音のサンプルの数がひじょうに多かったわけで、この『ラピュタ』ではむしろシンプルなアコースティックの音が中心になっています」

-実際に音を聴きますと、かなり大編成のような感じがしますが。

久石:
「ええ。オーケストラは五十人編成でした。これは日本映画の場合、最も大きい編成といえると思いますね。なにしろ録音スタジオに入りきらないぐらいの人数でしたから。それと、シンセサイザーは、フェアライトのIIとIIIという最新型を使用しています。だから、予算的にも、通常の三倍ぐらいかかっていますね」

-今回も「ナウシカ」の場合と同じように、プロデューサーの高畑勲さんと、だいぶ綿密な打ちあわせをなさったようですね。

久石:
「いや、それほどでもなかったと思います。高畑さんとは前回の『ナウシカ』のときの経験がありますから、むしろかなりラフにやっていたと思います。

ただ密度そのものはかなり濃いんです。というのは、実際に映画用の音楽を書くまえに、イメージアルバム(『空から降ってきた少女』)を作っているでしょう。だから、高畑さんの頭にも、ぼくの頭にも、そのイメージアルバムのメロディが鳴っているわけです。たとえばこのシーンではあのテーマ、あのシーンには別のテーマ、というように、きわめて具体性があるんですね。おたがいにそのメロディを鳴らしながら、打ちあわせをしていくわけです。たぶんこんなことは、他の誰もやっていないでしょう。それだけレベルの高い打ちあわせなわけです。だから『ラピュタ』の音楽は、いわば二段階をへて書かれていったわけですね」

-実際の作業は、やはりラッシュ・フィルムのビデオを観ながら進めるわけですか。

久石:
「そうですね。技術的にいうと、音楽を絵にあわせていくのは、コンピューターが発達していますから、0(ゼロ)コンマ何秒というところまで、ピッタリあわせることが可能なんです。だから僕のほうとしては、コンマ何秒単位であわせていき、それを高畑さんと宮崎さんに検討してもらうということでした。

じつは高畑さんも、ここまで音楽の方がピッタリあうことは期待していなかったみたいですね。それと、テレビアニメじゃないので三十秒、四十秒といった短い音楽はつけていないんです。やはり映画は、三分、四分という長さを持った音楽でないと、全体に堂々とした感じになりません」

-今回意外に思ったのは、パズーが早朝小屋の上でトランペットを吹いたときのメロディなんですね。あの、ルネサンス期の音楽のような明るさを持ったメロディというのは、いままでの久石さんのメロディ・ラインになかったものですね。

久石:
「たしかにそうかもしれません。でも、ぼくにとっては身近な音楽なんです。というのは、大学のときに、バロック・アンサンブルの指揮をやっていたことがあったからなんです。それ以降なぜかエスニックな音楽の方へ行ってしまったので、意外と思われるかもしれないけれど、むしろそっちの方がぼくの原点に近いんですよね。

また、ぼくのメロディ・ラインは、スコットランドやアイルランドの民謡のような感じに近いんです。だから『ラピュタ』は、かなりぼくのもともとの持っている音楽に近いところでやれた作品なんです」

-映画のために作った音楽のなかで苦労した曲、あるいは、大変だったシーンなどはありますか。

久石:
「全体にスムーズに行ったんですが、難しいのが一曲だけありましてね。M-37というやつなんですが。パズーとシータが”天空の城”についたあと、気がついて、城の内部へ入っていき、その内部の様子や大樹をあおぎ見て、お墓の前に立つ、というシーンのための音楽なんです。これは解釈がすこしちがっていましたね。ぼくは、大樹やお墓というところから、壮大なそして神秘的な感じの曲を作ってしまったんですが、あそこはむしろ、マイナーでハートにしみいるような曲のほうがよかったんです。もの悲しさが必要だったんですね。

なぜそうなったかというと、ラッシュのビデオのなかに、色のついていない未完成の部分があって、それがだいじなカットだったわけですが、それをつかめていなかったんですね。この部分が唯一難しかったところといえますね。」

-今回は4ch・ドルビーというシステムだったんですが、その点については?

久石:
「高畑さん、宮崎さんをふくめて、ダビングのときにびっくりしましてね。映画はぜったい4chにしなきゃいけないと思いますね。音質とかダイナミック・レンジなんかでも、モノラルとは格段の差があって、この作品を4chとモノラルの両方で見たら別物に見えるぐらいのちがいがあるはずです。こういう作品こそ、ぜったいに4ch・ドルビーであるべきだと思いました。音楽の世界ではあたりまえのことなんですが、映画は音の点ではまだ遅れてますね。」

とにかく、アニメーションで『ラピュタ』以上の音楽は当分書けないでしょうね。そのぐらいの自信作です」

(天空の城ラピュタ ロマンアルバムより)

 

 

スタジオジブリがその手法を築き上げたといってもいい、ひとつの映画に対する音楽のイメージアルバムからサウンドトラックへという流れ。そして当時の映画ならびに映画音楽の位置づけや技術的な環境も垣間見れる貴重なインタビュー内容です。

初期のジブリ作品、とりわけ『ラピュタ』や『トトロ』などでは、生き生きとした映像にあわせて、コンマ何秒まで絵と音楽がシンクロした、躍動感あり、そしてコミカルでもある、音楽が多くつけられています。

『ラピュタ』でいうと、ドーラ一族と鉱夫たちの愉快なケンカシーンでも、そしてあの名場面パズーがシータを救出するシーンでも。M-37のインタビューのくだりは、興味深かったですね。おそらくサウンドトラック収録の「月光の雲海」がそうなのでしょうか。メインテーマが印象的に使用されている、記憶に残る1曲です。

そして、最後のインタビューコメントをいい意味で覆すようですが、この後も『ラピュタ』に並ぶ、『ラピュタ』を超える?!、数々の名曲たちが生まれていきます。

 

 

「ジブリの教科書 2 天空の城ラピュタ」(2013刊)にもオリジナル再収録されています。

ジブリの教科書 2 天空の城ラピュタ

 

 

Related page:

 

天空の城ラピュタ ロマンアルバム

天空の城ラピュタ GUIDE BOOK 復刻版

 

Blog. 久石譲 「風の谷のナウシカ」 レコーディング スタジオメモ

Posted on 2014/10/10

1984年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『風の谷のナウシカ』

宮崎駿と久石譲の記念すべき第1作にして名作です。

2014年7月16日「スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX」が発売されました。『風の谷のナウシカ』から2013年公開の『風立ちぬ』まで。久石譲が手掛けた宮崎駿監督映画のサウンドトラック12作品の豪華BOXセット。スタジオジブリ作品サウンドトラックCD12枚+特典CD1枚という内容です。

 

さらに詳しく紹介しますと、楽しみにしていたのが、

<ジャケット>
「風の谷ナウシカ」「天空城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」は発売当時のLPジャケットを縮小し、内封物まで完全再現した紙ジャケット仕様。

<特典CD「魔女の宅急便ミニ・ドラマCD」>
1989年徳間書店刊「月刊アニメージュ」の付録として作られた貴重な音源。

<ブックレット>
徳間書店から発売されている各作品の「ロマンアルバム」より久石譲インタビューと、宮崎駿作品CDカタログを掲載。

 

 

そして『風の谷のナウシカ サントラ盤 はるかな地へ…』もLPジャケット復刻、ライナー付き。さらには、楽譜付き!

  • シンフォニー版「遠い日々」より、「鳥の人」のメロディー部分 久石譲自筆スコア
  • サウンドトラックに使用された「風の伝説」(メインテーマ)、「ナウシカのテーマ」、「鳥の人」の主題メロ譜

往年のジブリファン、そして久石譲ファンにはたまらない内容になっています。

 

 

このサントラ制作に使用された楽器も掲載されています。

フェアライトCMI・プロフェット5・ヤマハDX7・ローランドSH・ハモンドオルガン
ヤマハグランドピアノ・サウンドドラムマシン・ローランドTR・ローランドMC ほか

ほかにも掲載楽器あったのですが、いかんせん字が小さすぎてメガネをかけても厳しい粒でした。

 

 

そして貴重なライナーは、サントラ制作のレコーディング録音 スタジオメモです。

 

●2月7日、TAMCOスタジオ入り。17日間、全60曲以上にのぼるサントラのレコーディングの始まりだ。映画公開は3月11日だからギリギリのスケジュール。ディレクターの荒川さんの顔もヒキつろうというもの。

●すでに監督の宮崎駿さん、プロデューサーの高畑勲さんとの打ちあわせは終了。基本コンセプトは、前作のイメージアルバム「鳥の人…」でいこうと決定している。このレコードに付属している楽譜をはじめとする、いくつかの主題を、シーンごとに割りふっていく。

●作業はビデオになったラッシュフィルムを観ながら行なわれる。まず曲を入れるシーンの長さをはかり、曲の秒数を決定。これをMC-4というコンピューターに入力すると、秒数にあわせて、「キッコッコッ、カッコッコッ」というリズムガイドが打ち出される。これに合わせて、シーンのイメージを曲にしていくという手順。久石さんの演奏が24チャンネルのマルチレコーダーによって、ひとつずつ重ねられていく。仕上がったところで、ビデオを再生しながら曲のチェック、スタッフどうしで意見を出し、手なおしを加えて完成。

●「たとえ、ラッシュフィルムでも、画面があると、曲作りにすごくプラスになるね」と久石さん。アニメに限らず、現在のサントラの曲づくりでは、画面なしで、シナリオと秒数だけで作曲してしまうケースが多い。ラッシュフィルムのおかげで、メーヴェの飛翔にあわせて曲想を換えていくといった、きめ細かい作業を行うことができた。

●B面の「王蟲との交流」「ナウシカ・レクイエム」に聞かれる女の子の声は、久石さんのお嬢さん、麻衣ちゃん(4歳)。幼年時代のナウシカと王蟲との交流あたたかく表現しようというわけ。電子楽器を中心とした、とかく無機質になりがちなスタジオワークでの曲作りに、ライブな響きが加わった。

●2月15日、C・A・Cスタジオにて、フェアライトCMIを使ってレコーディング。これはコンピューターをフルに活用した万能電子楽器とでもいうべきもの。価格1200万円ナリ。「王蟲との交流」での、コーラスとストリングス系の音がこれ。ウクツシイ!

●2月20日、久石さんの演奏による録音はすべて終了し、にっかつスタジオにてオーケストラ録り。ビデオの画面に合わせて、久石さんから指揮者に細かい指示が送られる。シンフォニー編アルバム「風の伝説」とは、また違った生の迫力をもった曲が仕上がった。

●2月21日から24日まで、一口坂スタジオでミックスダウン。24チャンネルの音を2チャンネルの音に組み上げていく。そして完成!

●久石さんは語る。「ナウシカとは、イメージアルバムから数えると3枚のLP、約8か月間にわたる長いつき合いでした。一つの作品に対して、ここまでじっくり取り組めたことは大変満足しています。しかも、「ナウシカ」という作品のすばらしさ!これは映画を観ていただければ充分に分かっていただけるでしょう。本当に充実した仕事でした」。

●すべての作業を終えて今、我々、音楽スタッフが想うことは、もう一度「ナウシカ」に出会いたいということ。宮崎駿さんが、ふたたび絵コンテ用紙にとりくむ日を夢見つつ…。

(「風の谷のナウシカ サントラ盤 はるかな地へ…」 LP(復刻) ライナー より)

 

 

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風の谷のナウシカ LP復刻

 

Blog. 「クラシック プレミアム 20 ~ラフマニノフ~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/10/06

「クラシックプレミアム」第20巻はラフマニノフです。

最近でいうとフィギュア・スケートの浅田真央選手の演技でも使われ、その他いろいろなシーンで誰しも聴いたことのあるピアノ協奏曲 第2番。そしてこちらも有名な《ヴォカリーズ》は、今号ではピアノをメインとした編曲となっています。いずれの曲も名盤です。

 

【収録曲】
ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
ベルナルト・ハイティンク指揮
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音/1984年

パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
ペーテル・ヤブロンスキー(ピアノ)
ヴラディーミル・アシュケナージ指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1991年

《ヴォカリーズ》 作品34の14
編曲:ゾルターン・コチシュ
ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
録音/2004年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第20回は、音楽と視覚と聴覚の問題

指揮者や演奏家の場合の、譜面を読み取り(視覚)、演奏する(聴覚)ことや、譜面を読んで頭の中で音を鳴らすということなどが、自身の指揮者としての体験やコンサート活動の話も交えながら綴られています。

聴覚を失ったベートーヴェンがどのようにその後も作曲活動をしてきたのか、頭で組み立てる、頭で鳴らすことの可能性とその大変さ。あとは映画音楽作曲家ならではの例も紹介されていました。視覚と聴覚、映像と音楽、について。

一部抜粋してご紹介します。

 

「とにかく想像を絶することだが、頭で音楽を組み立てることができる可能性はある。もちろん多くの作曲家や僕などは頭で組み立てはするが実際ピアノで音を確かめるか、コンピューターでシミュレーションしたりする。それなのに実際のオーケストラでレコーディング、あるいはコンサートのとき、考えたのとは違う音がする場合もある。つまり考えたとおりではないのだ。ちょっと情けないのだが、だからこそ面白いのである。」

「それにマーラーをはじめ多くの作曲家が初演時にかなり手を入れて修正している事実を考えれば、それほど悲観することではないのかもしれない。またベートーヴェン自身も耳が聞こえないながらもピアノに向かって作曲していたらしいので、実際は弦を打つハンマーの振動や微かに水中で聞こえるようなくぐもった音として聞こえていた可能性はある。いずれにせよ、今日のクラシック音楽の世界では譜面を読む視覚的なことと聴覚の連携は欠かせないのだが、ピアニストの辻井伸行さんのように聴覚が視覚をも補って余りある、素晴らしい音楽家もいる。まさに天才と言うしかない。」

「要は、耳、あるいは眼から入った情報をいかに脳で変換するかということだが、実はこの耳からと眼からの情報は微妙な違いを脳にもたらす。場合によってはまったく別の情報を脳にもたらすこともある。」

「一つ例を挙げよう。映画の音楽を作っているとき、1秒24コマあるのだが、その24分の1秒までぴったり映像に音楽を合わせたとしよう。こういう場合は室内から屋外に画面が切り替わるとき、あるいは突然泥棒に襲われたとき、フーテンの寅さんがいきなりお店に帰ってきたときなど多々考えられるのだが、そのときに音楽も変えるか、衝撃を与えようとしたとする。すると必ず音楽が先に鳴ったと感じる。つまり画面と同時に音楽を、物理的には(24分の1秒まで)ぴったり合わせたはずなのに音楽が先行して聞こえる。どうです?面白いでしょう。これは眼から入る情報と耳から入る情報が脳に伝わるときに生じる時間的なずれからきているのだが、紙面が尽きた。続きは次回に。」

 

 

そうなんですね。まったく知りませんでした、というか意識していませんでした。それではジブリ作品、とりわけ「ラピュタ」「トトロ」などで聴かれる、映像シーンと完全にシンクロさせた久石譲の音作り。あれってどんぴしゃ合っているように聴こえていたつもりでしたが。これもまた音楽が先行して聞こえるのでしょうか。

それとも、上のような”視覚と聴覚の時間的ずれ”を熟知したうえで、さらに緻密にずらして、”合っている”ように聴かせているのでしょうか。

映像音楽といってもほんとに奥が深いんですね。それこそこういう作曲家自身から語られない限り、受け手としては純粋にそういうものだと受け入れてしまうことも、水面下のいろいろな制作過程があるという。

今後またお気に入りのジブリ作品でも見て、映像と音楽のシンクロを確認してみようと思います。

 

クラシックプレミアム 20 ラフマニノフ

 

Blog. 「久石譲 presents ミュージック・フューチャー Vol.1」 コンサート・パンフレットより

Posted 2014/10/02

先日久石譲が新しいコンサート・シリーズ企画として始動した「ミュージック・フューチャー Vol.1」 が開催されました。これまでの久石譲作品コンサートとも、クラシック企画コンサートとも一線を画した新しい試みのコンサート企画です。ズバリ、現代音楽中心の構成です。

 

 

まずはセットリストから。

久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」

[公演期間]
2014/9/29

[公演回数]
1公演(東京・よみうり大手町ホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世
Future Orchestra 他

[曲目]
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
第1楽章「Encounter」
第2楽章「Phosphorescent Sea」
第3楽章「Metamorphosis」
第4楽章「Other World」
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム

– interval – (休憩)

久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing

 

 

今回のコンサートではアンコールはなかったようですが、それでも通常のコンサートとは一味違うとても贅沢な空間だったようです。なによりもアンサンブルのレベルが高く、500席という小規模ホールにて至福の音楽を堪能できる内容。

久石譲作品である「弦楽四重奏 第1番 “Escher”」「Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas」久石譲ピアノ参加はなく、アンサンブル演奏となっています。アルヴォ・ペルト「鏡の中の鏡」はピアノ&チェロ版での演奏、こちらは久石譲によるピアノです。

Future Orchestra(14名)と名づけられたこのためだけの楽器編成もあり、弦楽四重奏やマリンバだけでなく、小編成でありながらも、フルートやクラリネットなど管楽器も加わった大所帯なアコースティック・コンサート。

 

コンサート・プログラムには作曲家ニコ・ミューリーからのコメントも寄せられ、今回のコンサートとシリーズ化への期待が高まります。なによりも、世界初演となった久石譲作品の2曲、今後ますますお披露目の機会が増えるのか、CD作品として発表されるのか、期待しながら目が離せません。

今回のコンサートレポートは、当日コンサートに行かれた方からの貴重な情報をもとにまとめさせていただきました。至福の音楽空間、うやらましい限りです。ありがとうございました。

 

 

【曲目解説】

久石譲(1950-)
弦楽四重奏曲第1番「Escher」(世界初演)
2012年に東京で開催された「フェルメール 光の王国展」のために久石が書き下ろした室内楽曲《Vermeer & Escher》から4曲を選び、弦楽四重奏曲として新たに構成・再作曲した作品。久石は作曲活動の初期から、画家マウリッツ・エッシャーのだまし絵〈錯視絵〉がもたらす錯視効果と、ミニマル特有のズレがもたらす錯聴効果の類似性に強い感心をいだき、「だまし絵」をタイトルとする楽曲を発表している。エッシャーの版画さながらに線的なラインで構成された弦楽四重奏が、久石ミニマルのエッセンスを凝縮して表現した作品。

第1楽章「Encounter」
冒頭のユニゾンで提示される主題を基にした、ユーモアにあふれるズレの遊戯。

第2楽章「Phosphorescent Sea」
グリッサンドの弦の波、それに夜のミステリアスな音楽で表現された「燐光を発する海」の情景。

第3楽章「Metamorphosis」
厳格かつ対位法的な音楽で表現される、ズレの「変容」の過程。

第4楽章「Other World」
13/8拍子という珍しい拍子を持ち、オクターヴを特徴とする反復音形が中心となる終楽章。オリジナル版では、全音階の人懐こいモティーフが静かに登場した後に、コーダを迎えるが、今回の弦楽四重奏版ではそのモティーフを中心とする新たなクライマックスが築き上げられるなど、大幅な改訂が加えられている。

 

Shaking Anxiety and Dreamy Globe  for 2 Marimbas (世界初演)
原曲は2台のギターのために書かれたHakujiギターフェスタ委嘱作《Shaking Anxiety and Dreamy Globe》(2012年8月19日、荘村清志と福田進一により初演)。曲名は、アメリカの詩人ラッセル・エドソン(1935-2014)が生命の宿る瞬間を表現した一節に由来する。躍動感あふれるミニマルの反復と複雑な変拍子を用いた原曲の構成を踏襲しながら、今回の新版ではマリンバの第1奏者がグロッケンシュピールを、第2奏者がヴィブラフォンを兼ねることで、より多彩な音色を獲得している。「dolente(悲しみを込めて)」と記された第208小節からのセクションでは、繊細かつ清麗な響きを奏でるグロッケンとヴィブラフォンがききどころ。

 

ヘンリク・グレツキ(1933-2010)
あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクエイム(1993)
《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》の大ヒット後にグレツキが発表した作品だが、具体的に誰を追悼したレクイエム(鎮魂歌)なのか、作曲者はいかなる解説も残していない。ドイツ語の原題《Kleines Requiem Für eine Polka》に含まれる”eine Polka”は、民俗舞曲”ポルカ”とも、あるいは”1人のポーランド女性”とも解釈できるので、おそらくダブルミーニングを狙ったものと推測される。1993年6月12日、ラインベルト・デ・レーヴ指揮シェーンベルク・アンサンブルによりアムステルダムで初演。

第1楽章「Tranquillo」
弔鐘が厳かに響く中、ピアノとヴァイオリンが慰めに満ちた主題を導入する。突如として悲しみが絶頂に達し、再びピアノとヴァイオリンの静かな音楽に回帰する。

第2楽章「Allegro impetuoso-marcatissimo」
ピアノが打楽器的にリズムを刻む中、管弦楽が強迫的な主題を反復する。トランペットが悲痛な叫びをあげた後、クラリネット、ホルン、ピアノによる葬送音楽と弦楽のコーダが続く。

第3楽章「Allegro-deciso assai」
ブラックユーモアにあふれたポルカ風の舞曲。管弦楽が、何かにとり憑かれたように舞曲を踊り続ける。

第4楽章「Adagio cantabile」
弔鐘が再び鳴り、安堵の満ちた祈りの音楽で全曲が閉じられる。

 

アルヴォ・ペルト(1935-)
スンマ、弦楽四重奏のために(1977/1991)
「スンマ」とは”大全”の意。もともとはラテン語の信仰宣言(クレド)を歌詞に用いた無伴奏混声四部合唱曲として作曲された。本日演奏されるのは、ペルトがクロノス・クァルテットのために編曲した弦楽四重奏版。参考までに、原曲の歌詞の冒頭部分の大意を掲載する。
「我は唯一の神を信ず/全能の父にして、天と地の創造主、見えるものと見えざるものすべての創造主を/我は唯一の主、イエス・キリストをを信ず/神のひとり子にして、世に先駆けて父よりお生まれになった主を/神の中の神、光の中の光、まことの神の中のまことの神/作られずしてお生まれになり、父なる神と一体となり/すべては主によりて作られた」(訳:前島秀国)

 

鏡の中の鏡(1978)
ペルトが故国エストニアから西側に亡命する直前に書いた作品。それまでの西洋音楽の調性システムと機能和声に頼らず、鏡の響きを思わせる三和音からメロディとハーモニーを定義し直したティンティナブリ様式(鈴鳴り様式、鐘鳴り様式)と呼ばれる作曲技法で作曲されている。原曲はヴァイオリンとピアノのための二重奏で、指揮者/ヴァイオリニストのウラディーミル・スピヴァコフに献呈された。聴く者の心を安らかにする三和音が微妙に色合いを変えながら、合わせ鏡のような無限のイメージを生み出していく。今回の演奏ではチェロとピアノの二重奏版を使用。

 

ニコ・ミューリー(1981-)
Seeing Is Believing(2007) (日本初演)
曲名は「百聞は一見に如かず」の意。通常の4弦ヴァイオリンより2弦多い、6弦エレクトリック・ヴァイオリンがループペダル(ループマシーン、ルーパー)をを使って自己の演奏音を反復再生するという特殊なテクニックが用いられている。作曲者自身の解説によれば、空に点々と浮かぶ星々を線をつないで星図を描いていくように、エレクトリック・ヴァイオリンがオーケストラという”空”の中で”星図”を描いていく作品で、1980年代に制作された科学教育ビデオの伴奏音楽を意識しながら作曲したという。2008年1月7日、トーマス・グールド(独奏ヴァイオリン)とニコラス・コロン指揮オーロラ・オーケストラによりロンドンにて初演。

TEXT:前島秀国 (サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(【曲目解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

オリジナル作品「Vermeer & Escher」
久石譲 『フェルメール&エッシャー』

「Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas」
和訳「揺れ動く感情と夢の形態」
※コンサート内での久石譲コメントより

 

 

2014年夏に開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」そのパンフレットに収められた久石譲インタビューを紹介します。

 

ABOUT
MUSIC FUTURE

日本を代表する作曲家、久石譲が最先端の現代の音楽を紹介するコンサートを仕掛ける。

「欧米に比べ、日本では現代の音楽が演奏される機会が極めて限られている。難解、取っつきにくいというイメージでとらえられてしまうのがネックとなっているようだが、本当にそうなのだろうか。現代に書かれた優れた音楽を紹介することで、そういった先入観を変えるきっっかけにしたい」

そんな思いが発端となった。「1回限りの公演ではなく、現代の音楽に触れられる場としてシリーズ化したい」と構想が膨らみ、その第1弾がついに実現する。

初回は久石自身のルーツと言えるミニマル音楽に焦点を合わせる。国立音楽大学時代、テリー・ライリーやスティーヴ・ライヒらが作り出した最小限の音楽を繰り返すミニマル音楽に、「何だこれは」と衝撃を受けた。1981年のデビュー・アルバム「MKWAJU」はこのスタイルを踏襲している。壮麗な映画音楽で大成功を収めた後も、「Shoot The Violist」(2000)や「Minima_Rhythm」(2009)など、ミニマル色の強いアルバムを出してきた。「折に触れて自分の原点を突き詰めたいという欲求が湧いてくる」のだという。

「現代音楽が生んだスタイルの中で、ミニマル音楽は、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えてきたと言えるんじゃないでしょうか。今回取り上げる作曲家にもはっきりその痕跡が刻まれている」

エストニアのアルヴォ・ペルトやポーランドのヘンリク・グレツキはミニマルとともに教会音楽からの影響が色濃い。「戻るべき伝統と精神的よりどころを持つ彼らヨーロッパの作曲家には羨望を覚える」と語る。ペルト作《鏡の中の鏡》では、久石がピアノを演奏する。両巨匠に加え、30代のニコ・ミューリーも取り上げる。「映画音楽もオペラも、ビョークと共演するなど、ジャンルの壁を感じさせない活動は共感できる。まさにポスト・クラシカルの新星だ」と評する。

自作曲も披露する。オランダの画家、マウリッツ・エッシャーのだまし絵をイメージした《弦楽四重奏曲 第1番「Escher」》と、「エモーショナルなミニマル音楽」だという《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas》で、いずれも世界初演となる。「この2曲を収録したアルバムも作りたい」と意欲を見せている。

(コンサートパンフレットより)

 

 

PROFILE of COMPOSERS
作曲家 プロフィール

ヘンリク・グレツキ(1933-2010)
ポーランド・チェルニツァ生まれ。小学校教師を勤めながらカトヴィツェ音楽院で作曲を学び、パリでシュトックハウゼンやブーレーズらの前衛音楽の影響を受ける。その後、ペンデレツキと並ぶポーランドきっての現代作曲家として頭角を現すが、1970年代に入ると伝統的な調性音楽に回帰し、反復語法を用いた宗教色の強い作品を作曲するようになった。15世紀ポーランドの哀歌とゲシュタポ収容所に書き残された言葉を歌詞に用いた《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》(1976)は、作曲から16年を経た1992年に突如として大ブレイク。全英ポップスチャート第6位、ビルボード・クラシック・チャート38週連続第1位にランクインし、数百万枚とも言われる現代音楽史上空前のCDセールスを記録した。ペルト、ジョン・タヴナーらと共にホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)を代表する作曲家のひとり。遺作は今年4月ロンドンで初演された、グレツキの反復音楽の集大成というべき《交響曲第4番「タンスマンのエピソード」》(2010)。

アルヴォ・ペルト(1935-)
エストニア・パイデ生まれ。エストニア放送のサウンド・プロデューサーを努めるかたわら、先鋭的な現代音楽を禁じられていた旧ソ連支配下のエストニアで前衛作品を発表。70年代に入ると作曲に行き詰まりを感じ、創作活動を中断してロシア正教に改宗。中世・ルネサンス期の聖歌や古楽を学びながら伝統に回帰し、70年代後半からティンティナブリ様式と呼ばれる作曲技法で西洋音楽のあり方を問い直す。80年代に入ると、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスらのアメリカン・ミニマル・ミュージックと共通する反復語法が注目を集めるようになり、現在ではホーリー・ミニマリズムを代表する作曲家とみなされている。クラシック、オペラ、バレエ演奏のデータベースサイト「Backtrack.com」の統計によれば、ペルトは2013年に最も多く演奏された現役作曲家第1位(現役第2位はジェームズ・マクミラン、現役第3位はジョン・ウィリアムズ)にランクイン。過去の作曲家も含めた演奏回数ランキング(第1位モーツァルト、第2位ベートーヴェン、第3位バッハ)では、ペルトは第38位にランクインしている。

ニコ・ミューリー(1981-)
バーモント州生まれ。コロンビア大学とジュリアード音楽院で学び、ジョン・コリリアーノに作曲を師事した後、フィリップ・グラスのアシスタントを務める。2006年にはビョークから直接の依頼を受け、DVDシングル『Oceania』のピアノ・アレンジを担当。翌年には名プロデューサー、ヴァルケイル・シグルズソン率いるBedroom Communityレーベルからデビューアルバム『Speaks Volumes』を発表し、ポスト・クラシカルの新しい才能として一躍脚光を浴びる。2011年にはメトロポリタン・オペラから作曲委嘱を受けたオペラ《Two Boys》を初演するなど、いまアメリカで最も注目を集めている若手作曲家のひとり。映画音楽での代表作に『愛を読むひと』(2008)や『キル・ユア・ダーリン』(2013、DVD公開)など。ザ・ナショナル、オーラヴル・アルナイズ、ヒラリー・ハーンなど、同世代のアーティストとのコラボも多い。

(作曲家プロフィール ~コンサート・パンフレットより)

 

 

上記紹介した久石譲インタビューにもあるように、長い歴史の久石譲音楽活動において原点とも言えるミニマル・ミュージックは、年代ごとにその代表作を発表してきていることがわかります。

エンターテイメント音楽としての映画音楽やCM音楽のかたわら、自身のルーツや音楽性、そのバランスをとるかのように、芸術性の高いオリジナル作品(とりわけミニマル音楽も色濃く反映)を発表しています。

2015年の久石譲の音楽活動、その方向性を導くかのうような今企画。このミュージック・フューチャーが布石となるのでしょうか。新しい幕開けへと、確証はないですが勝手に胸踊っています。

 

最後に、YOMIURI ONLINEが掲載したコンサートレポートのご紹介と、コンサートの模様をおさめた貴重な写真です。

こちら ⇒ 久石譲がコンサート…“現代の音楽”ナビゲート 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

「ミュージック・フューチャー Vol.1」に関する久石譲関連ページや、アルヴォ・ペルト作品を動画視聴で紹介したページなどは、下記ご参照ください。

 

久石譲 ミュージック・フューチャー Vol.1

 

Related page:

 

Blog. 久石譲 「風の谷のナウシカ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/09/27

1984年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画「風の谷のナウシカ」

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。今では復刻版としても登場していますし、さらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても刊行されています。

今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1984年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「ナウシカを通して音楽を入れてみました」

-久石さんはシンセサイザーによるイメージアルバム、オーケストレーションによるシンフォニー、そしてサントラ盤のBGMと3種類の「ナウシカ」の音楽を作られていますね。

久石:
「そうです。まあ、モチーフとかメロディーは同じですけれども。最初のイメージレコードは昨年の8月から9月にかけて、原作を読んでそこから発想した音を作り上げていきました。シンセを中心にしてケーナ(笛の一種)とかターブラ(太鼓)、ダルシマ(ピアノの原型)といった民族楽器を使っています。

次のシンフォニーが11月から12月にかけての制作で、そのすぐあとにBGMのスコアを書き始めました。ぼくとしては一つのモチーフで3種類もレコードを作ったのは初めてですよ。だいたい映画のBGMまでずっと手がけるようになるとは予想していませんでしたからね。ぼくの場合はスタジオ入りの前の晩に作曲するとか、時には録音の合間に作ってしまうというやり方をしてるんで『ナウシカ』のメイン・テーマなんかもあまり苦労せずに作った感じなんですね。それが幸いにもスタッフの方たちに好評で、シンフォニーを作って、さらに映画までまかせていただいたわけで、大変幸せだと思っています」

-宮崎さんはイメージレコードが先にあったので、このシーンはこういう音楽がつくだろうというのがある程度わかっていたから、大変助かったとおっしゃっていましたね。

久石:
「いやあ、宮崎さんもそうですし特に高畑さんが音楽に大変くわしい方で、このお二人はもう異常に耳がいいみたいね(笑)。例えば最初に作った『腐海』という曲などは、後半に出てくるメロディーがドビュッシー的なので今度の映画には合わないんじゃないでしょうか──というくらいに突っこんだお話をなさるんです。曲のニュアンスがどうこうという点になると大変に熱心で、音楽の打ち合わせは毎回10時間くらい。えんえんとやっていましたよ(笑)」

-そうすると、実際に画面に流れるBGMの時が一番大変だったでしょうね(笑)。

久石:
「ええ。お二人ともメロディーはもう頭の中に入っているわけですから、じゃあこのテーマをもっと壮重な感じにして下さいとか、具体的な注文が次々に出てくるわけです。普通はある程度おまかせ的になるんですが、今回は音楽のイメージがはっきりしていますのでね」

-久石さんとしてはやりにくかった?

久石:
「ということではないんですが、大きな問題が二つあるんです。一つは、イメージが先行しテーマがたくさんありすぎるために、新しいイメージをつけ加えにくかったこと。出来上がった画面を見て、このシーンではもっとこういうふうにすればよかったとか、別のイメージが生まれてくる可能性も大きいわけですからね。それともうひとつは、作曲の段階ではオールラッシュをビデオにしたものを見ながら作っていったので、音がテレビ的に、小さな画面に合わせた感じになてしまうのではないかという危惧も生まれてきたんです」

-でも、劇場で見ると非常に映画的というか、拡がりを感じるんですが……。

久石:
「それは、そうしようと心がけましたから(笑)。でももう少しイメージを飛躍させてもよかったかなというところも、反省としてありますけどね」

-BGMとしてどこに一番注意なさいましたか?

久石:
「音楽のつけ方が普通の映画とは違う場所で入れているんですよね。感情の起伏につけるのではなく、状況的なものにつける。ユパが谷へ降りてくるシーンなんかで突然音楽が盛り上がっているでしょ?ああいうところで目いっぱい音楽を使って、そのかわりセリフの入るところや効果音の生きるところにはなるべくBGMを入れないというポリシーですね。

つまり、音楽をナウシカの目を通して入れているんです。ナウシカの感情につけるのではなく、ナウシカが見て感じるものに入れていったわけで、そうやってアニメの虚構の状況というものを浮き出させようとしたんです。わりと成功したんじゃないかと思いますよ」

(書籍「風の谷のナウシカ ロマンアルバム」より)

 

「ジブリの教科書 1 風の谷のナウシカ」(2013刊)にもオリジナル再掲載されています。

 

 

 

今から30年以上も前の作品です。

それにしては、ジブリ作品における音楽の在り方が、久石譲が音楽を担当したジブリ最新作 映画『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)のそれと同じところも多いですね。

間違いなく映画音楽の扱われ方を変えた革命的作品、そして宮崎駿監督との奇跡の出会いによる記念すべき第1作『風の谷のナウシカ』。

今観ても、今聴いてもまったく色褪せることのないその理由が少しわかったようなインタビュー内容でした。

 

 

Related page:

 

風の谷のナウシカ ロマンアルバム

風の谷のナウシカ GUIDEBOOK 復刻版

 

Blog. 「久石譲&W.D.O. 2014」WOWOW放送内容 & CD「WORKS IV」詳細比較

Posted on 2014/09/24

2014年9月23日(火・祝)17:20~19:20
WOWOW放送

「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA」

内容

「世界中にすばらしい曲がたくさんある。ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらおう」という想いをテーマに、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が2004年に立ち上げた「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」。ジャンルを超えた幅広い音楽性で人気を博した同楽団が、2011年8月の公演以来3年ぶりに復活。2014年8月に東京で行なわれたプレミアムな公演の模様をお届けする。
2013年には『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』という2本のジブリ作品に関わった久石譲。今回の公演ではそれらの楽曲をアレンジも新たな組曲として国内初演する(『かぐや姫~』の組曲は世界初演)ほか、2014年のベルリン国際映画祭で大きな話題を呼んだ『小さいおうち』の音楽も世界で初めて演奏。さらに「鎮魂の時」と題して、ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」、バッハの「G線上のアリア」などを演奏する。

8月9日にサントリーホールにて行われた公演初日の模様を18台のカメラによる迫力あふれる音楽でお届けします。そのほか、リハーサルでの様子や、久石によるインタビューなども盛り込まれる。

 

 

実際にWOWOW放送では、下記コンサートプログラム全11曲(アンコール含む)を完全ノーカットで、加えて久石譲のインタビューやリハーサル風景もまじえながらの永久保存版的内容でした。

[公演期間]
2014/8/9,10

[公演回数]
2公演(東京・サントリーホール / 東京・すみだトリフォニーホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バラライカ/マンドリン:青山忠
バヤン/アコーディオン:水野弘文(9日) 大田智美(10日)
ギター:千代正行

[曲目]
久石譲:交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 ※世界初演
【鎮魂の時】
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌
バッハ:G線上のアリア
久石 譲:ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」

久石 譲:
バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 ※日本初演
「小さいおうち」

【My Melodies】
「水の旅人」
「Kiki’s Delivery Service for Orchestra」 ※日本初演
「World Dreams」

—アンコール—-
One Summer’s Day (ピアノ・ソロ)
風の谷のナウシカ (鳥の人)

 

実際にコンサート会場で聴く体感や臨場感にはもちろんかないませんが、18台のカメラという様々なアングルで、曲やフレーズごとに、指揮、ピアノ、オーケストラ楽器たちそれぞれズームでフォーカスした、オーケストラを堪能できる迫力あるカメラアングルでした。

  • どんな表情で指揮しているんだろう
  • この曲のこのフレーズはこんな楽器が演奏していたのか
  • こういう楽器がこんな音を出すんだ
  • こんな演奏方法や指使いがあるんだ
  • 聴こえていないけれどこんな楽器もしっかり鳴っているんだ

さながらオーケストラ譜を視覚的にとらえているようなそんな贅沢な気分になります。

久石譲によるインタビューも、過去紹介してきた「W.D.O.2014」に関するものから新しい発言もあったりで。(これまでのインタビュー、久石譲が語ったWDO2014は最後に紹介しています)

なぜW.D.O.はその活動を休止して、今回3年ぶりに復活することになったのか。そのあたりのことが語られていました。要約して箇条書きで紹介します。

 

・世界中のいい音楽をオーケストラ作品として仕上げて発表していくことが当初コンセプトだった

・オーケストレーション(アレンジ)の作業に自分自身興味がなくなってきた

・自分の作曲やその曲のオーケストレーションはするけれど、他のものはやらなくなった

・コンセプト的に煮詰まってしまってそれでお休みしようと

・オーケストラが一般の人にもエンターテインメントとして楽しめて、かつひとつのテーマがある。1個は皆に訴えかけるもの、そういうコーナーをつくって、ベーシックは自分の曲を中心にやっていこうと。それで今回復活ということで始まった

・今回《広島の犠牲者に捧げる哀歌》に85%くらい時間をとられた

・クラシックコンサートのときもそうだが、自分の曲そっちのけでクラシック作品ばかり勉強するから、自分の曲が一番指揮が下手(笑)

・今年はノルマンディー上陸70周年、来年は日本終戦70周年。「どう生きるか」ということを、音楽を通じて感じてもらえれば。今年と来年は「鎮魂」というテーマで、…もし来年もやるんだったら(笑)、そういうテーマでやっていきたい

 

5分程度の短いインタビューでしたが、とても興味深い内容でした。最後は来年の構想もすでに!?と思わせてくれる爆弾発言的内容もあったりで。

演奏プログラムの詳細はすでにたくさん紹介していますので省略します。そしてここで!同じタイミングで「WORKS IV」の収録曲が決定しました。

 

久石譲 「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」

1. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢中飛行)~菜穂子(出会い)
2. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~カプローニ(設計家の夢)
3. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~隼班~隼
4. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(結婚)
5. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~避難
6. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(会いたくて)~カストルプ(魔の山)
7. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(めぐりあい)
8. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢の王国)
9. Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)
10. ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
11. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~はじまり~月の不思議
12. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~生きる喜び~春のめぐり
13. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~絶望
14. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~飛翔
15. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~天人の音楽~別離~月
16. 小さいおうち

コンサートプログラムから上のような楽曲たちが選ばれたことになります。

 

実際にコンサートプログラムから外れている曲は、
久石譲作品ではない《広島の犠牲者に捧げる哀歌》 《G線上のアリア》と、

  • 「水の旅人」
  • 「World Dreams」
  • 「One Summer’s Day」
  • 「風の谷のナウシカ」(鳥の人)

という名曲たちではありますが、過去たくさんコンサートで演奏もされ、CD化もされている楽曲たちです。小さいことですが、WOWOW放送時もそうでしたが、「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」では、交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 から交響幻想曲「かぐや姫の物語」 へとタイトル改訂されています。

 

まとめです。

WOWOW放送詳細
演奏プログラム(全11曲)および久石譲インタビュー

「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」CD収録曲決定
収録されないW.D.O.2014プログラムは?

追記
WOWOW放送は8月9日コンサート内容
「WORKS IV」収録曲は8月9日,10日両日からのベストテイク選曲

結論
今回のWOWOW放送内容は貴重な永久保存版

願望
Blu-ray/DVD化してほしい

 

という流れのことが言いたい、となります。

「水の旅人」も「World Dreams」も「ナウシカ」も「あの夏へ」も、コンサート定番曲ではありますが、演奏機会が多いだけに進化したかたちに発展しています。過去のCDだけにとめておくのはもったいないですよね。

過去の名曲たちも、今の久石譲によってとらえなおされ、オーケストレーションの修正、演奏方法の修正、演奏の向上、つまりは、今の久石譲によるベストテイクが披露されていることになります。

 

もし今回の放送を見逃した方は、

再放送:2014年10月19日(日)7:30-9:30 WOWOWライブ

公式サイト》》》
WOWOW公式サイト:「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA」

 

いよいよ「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」の全貌も明らかになりました。スタジオジブリの2大巨匠最新作が1枚のCDで楽しめる!「風立ちぬ」(宮﨑駿監督)「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)サウンドトラックからの発展型組曲として音楽絵巻を楽しめる!小編成によるサントラから、フルオーケストラ作品への進化!ここが「WORKS IV」最大のセールスポイントというところでしょうか。

さらに、今月、来月と久石譲のコンサートはつづき(新しいプログラム!)、2014年は大晦日のジルベスター・コンサートで締めくくり予定です。

「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」CDジャケットも更新しています。今回書いた内容をもっと知りたい方、深く掘り下げたい方は、下記ピックアップページなどを参考にしてください。

 

Related page:

 

久石譲 WDO2014 WOWOW

久石譲 WORKS IV

久石譲 WDO 2

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

Posted on 2014/09/23

CD付 隔週刊マガジン「クラシックプレミアム」

久石譲による連載エッセイ「久石譲の音楽的日乗」も掲載された全50巻にもおよぶラインナップ(最終巻2015年11月予定)です。毎号ごとに久石譲のエッセイ内容は抜粋紹介しています。

そんななか「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」では、久石譲の筆休め、編集部によるコンサートレポートでした。Blog. 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(CDマガジン) レビューではすべてを紹介しきれませんでしたので、ここに完全版です。

リハーサルから本番まで、貴重な舞台裏とコンサートレポート、2014年夏復活した久石譲&W.D.O.の記録です。

 

 

ルポルタージュ 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014を聴く

3年ぶりに久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団とによる「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が復活。8月9日・10日に東京でコンサートが行われ、リハーサルから本番まで編集部が取材した。

【8月6日 13時30分 会場入り】

リハーサルの初日。今回のプログラムは、冒頭に久石さんの交響ファンタジー《かぐや姫の物語》(世界初演)が置かれ、第1部が「鎮魂の時」というタイトルの下、ペンデレツキ《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、バッハ《G線上のアリア》、あとはすべて久石作品でヴァイオリンとオーケストラのための《私は貝になりたい》、《風立ちぬ》第2組曲(日本初演)、《小さいおうち》(世界初演)。第2部は「Melodies」として、久石作品の《水の旅人》、《Kiki’s Delivery Service for Orchestra》、《World Dreams》という構成である。

第1部の「鎮魂の時」という言葉に込めた特別な想いを感じる。世界初演、日本初演を含む久石作品の中で、《広島の犠牲者に捧げる哀歌》という表題が異彩を放つが、これはポーランドの作曲家ペンデレツキによる1960年の作品だ。8月6日は広島に原爆が投下されて69年目のまさにその日に当たる。13時55分、久石さんが大きな楽譜を抱えて登場。

【14時 リハーサル開始】

本番のプログラム順に練習するのかと思っていると、最初は《水の旅人》。久石さんが、団員たちに丁寧な言葉ながら、てきぱきと指示を与えていく。リズムの細部のニュアンスや、「このメゾ・フォルテなもっと弱く」のような強弱の微妙な調整、メロディーとハーモニーのバランスについては「ここはメロディーを立てて」、ティンパニには「もっとクリアな音を」など、どれも譜面だけでは読みとれないことばかりだ。それをひとつひとつ伝えていく作業の積み重ねで、指揮者のしごとはこんなにも大変なのかと実感。その後、第2部の作品を演奏していくが、あっという間に時間が過ぎる。14時52分から休憩。このあとほぼ1時間おきに休憩をはさんでリハーサルは進んでいく。

15時10分にリハーサル再開。《私は貝になりたい》から始まる。これはもうヴァイオリン協奏曲だ。ソロ・ヴァイオリンに聴き入る。途中、久石さんが弦楽器のクレッシェンド(だんだん弱く)の個所について話す。「これは第2次世界大戦の時、四国のある床屋さんのお話で、徴兵され時代に翻弄され……」。これまで、ずっと演奏の具体的な指示をしていた久石さんがこの音楽がつけられた映画のストーリーを語る。「ここでのクレッシェンド、デクレッシェンドは、時代の大きな波です……」。話の後、オーケストラの音は、確信をもってうねるような波を描き出し、久石さんは身体全体でOKの合図を送ったように見えた。こうやって音楽は伝わるのだ。

最後の休憩の後、《広島の犠牲者に捧げる哀歌》。強烈な不協和音に満ちたこの難曲は、通常の拍子と音符による楽譜ではないので、久石さんは1、2、3……と指で数字を示していく。曲の始まりから、団員たちのあいだに驚きと動揺が広がるが、久石さんはもつれそうになった糸を解きほぐすように冷静に指示していく。団員から次々に質問が発せられ、久石さんはそれぞれに即答。すでに久石さんの頭の中には、音楽は鳴り響いているのだ。最後に《G線上のアリア》を1回通してこの日のリハーサルは終了。18時59分。

【19時20分 楽屋へ】

楽屋を訪ねてみる。
「こんなプログラムをするって、チャレンジャーでしょ。エンターテインメントとみえるけど、かなり過激なことを試みているよね」
と久石さん。7日も同じ時間にリハーサルがあり、9日にゲネプロ(通し稽古)ののち、その日と翌10日の17時に本番だ。

【8月10日 本番を聴く】

最初の《かぐや姫の物語》では、6人の打楽器奏者が作り出す響きが衝撃的だった。リハーサルで久石さんが「ここはかぐや姫の狂乱の場。ここでかぐや姫が都を飛び出す」と言っていたところだ。次の《広島の犠牲者に捧げる哀歌》では今でも斬新なこの作品を、みな集中して聴いている。それが終わろうとして、一瞬の静寂が訪れると、そのまま《G線上のアリア》が静かに始まった。まさに混沌の中から、清冽な光が差してきたかのような瞬間だ。そして、変化に富んだシンフォニックな久石作品が続く……。

今回のプログラム全体が、壮大な交響曲のようだった。万雷の拍手。アンコールの《風の谷のナウシカ》が終わり、オーケストラの全員が舞台を降りても拍手は鳴りやまず、最後に久石さんが一人で舞台に登場し喝采に応えていた。

 

久石譲 WDO 4

(「クラシックプレミアム 第19巻」より)