連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)
インタビュー:「ベスト盤」では納得できなかった新アルバム
作曲家でピアニストの久石譲が新アルバム「WORKSIII」を、7月27日に発売する。節目ごとに代表曲を集めたシリーズで、3枚目となる今作は、映画「ハウルの動く城」のテーマ曲の変奏曲や、5年かけて作ったという組曲「DEAD」などをオーケストラで録音した。アルバムを完成させたばかりの久石に聞いた。(依田謙一)
「いつか実現しなかった『DEAD』の映画を作りたいね」語る久石
—ベスト盤かと思いきや、実は新曲「DEAD」のためのアルバムではありませんか。
久石 結果的にそうなったんだ。というのも、最初は過去2作と同じように、現時点でのベスト盤を作ろうと思っていた。「ハウル」があって、「Oriental Wind」(サントリー緑茶「伊右衛門」CM曲)があってというようにね。でも、いざ始めてみたら、それだけじゃ納得できなくなってしまった。やっぱり、自分は演奏家じゃなくて作曲家。新しいものがほしくなるんだよね。
—「DEAD」が生まれたきっかけは。
久石 僕には未完の曲がいくつかあって、「DEAD」はその一つだった。第1楽章と第4楽章は、初監督した「カルテット」の前に撮影予定だったサスペンス映画のために作った曲なんだ。映画は実現しなかったけど、弦楽四重奏とピアノのアレンジで「Shoot The Violist」というアルバムに収録した。以来、何度か残りの部分を作ろうと試みたけど、なかなかうまくいかなかった。それが、今年の春にスタジオに入った時に、第2楽章と第3楽章ができたんだ。
—タイトルにこめた思いは。
久石 いつか死ぬと決まっているからこそ、生きている間に感じる愛を大切にしたい。実は「DEAD」というのは、そのまま音階名(レ、ミ、ラ、レ)でもある。この音階を繰り返し提示することで、「人間はどこからきてどこに行くのか」を考えたかった。
—前アルバム「FREEDOM」は、「過渡期のもの」だということでしたが、「DEAD」はそういう悩みから抜け出し、作曲家としてある到達点に達した作品では?
久石 オーケストラが古典ばかり演奏している現状に対して、自分なりに答えを出したかった。かつてやっていたミニマル・ミュージックや現代音楽に、もう一度真正面から取り組むことができたのは嬉しいね。去年は一言で言えば「ハウル」のテーマ曲「人生のメリーゴーランド」を作った年だけど、今年は、同じ意味で「DEAD」を作った年になると思う。それだけ大事な曲になった。
—今後もこの方向を極めていく?
久石 「この方向だけ」という意味ならノーだね。確かにここ最近、指揮を本格的に始めたこともあって、オーケストラや現代音楽的なものに力を入れてきたけど、シンセサイザーや民族音楽など、様々なジャンルのものも積極的に取り入れていきたい。実際、今作っているある映画の音楽には、その傾向が出ているよ。
—8月3日からは全国ツアーですね。
久石 会場によって違う2種類のプログラムを用意した。Aプログラムでは、昨年1月に出したアルバム「イメージ交響組曲 ハウルの動く城」を全曲演奏する。宮崎駿監督のメッセージをもとに作った組曲で、サウンドトラックでは難しい音楽の完成度を追求した作品。Bプログラムでは、アルバムに収録した「ハウル」のテーマ曲の変奏曲と、オリジナル音楽を付けたバスター・キートンの無声映画「The General」(邦題「キートン将軍」)を、映像に合わせてライブ演奏する。共通でやるのは「DEAD」だけなので、ぜひ両方に足を運んでほしいね。
—「The General」をライブ演奏するのは、大胆なアイデアですね。
久石 昨年のカンヌ映画祭で一度だけ挑戦した際には、「成功したのが奇跡的」というくらい苦労した。キートンは動きがせわしないから、合わせていくのは至難の業なんだ。でも、共演する新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラには、画面を見ず演奏に専念してもらおうと思っている。そうじゃないとライブの醍醐味がないからね。代わりに、責任はすべて指揮棒を握った自分が背負うことになる。どんなことになるか楽しみだよ。大変だけど(笑)。
(2005年7月5日 読売新聞)