2014年1月22日 CD発売 UMCK-1472
2014年公開 映画「小さいおうち」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:松たか子 他
インタビュー
-今回の『小さいおうち』は、前回にも増して音楽の曲数が多いと思いました。
久石:
単純に、本編の内容から出てくる違いです。『東京家族』は非常にシリアスな内容の作品でしたので、音楽を少なめにした方がよいという判断がありました。それに対し、『小さいおうち』はラブストーリー的な側面が強い作品ですから、音楽も当然増えてきます。山田監督からも「今回は音楽を多くしたい」という要望をいただきました。それと、「非常に甘みのあるメロディが欲しい」という要望も。
-それが、冒頭の火葬場で流れてくるメインテーマですね。
久石:
本編全体を見てみると、最初はタキの葬儀の場面から始まり、ラストシーンもタキがある重要な役割を果たしています。平成から激動の昭和へ、たとえ物語の時空が自由に飛んだとしても、タキの”目線”だけは変わらない。そのタキの”目線”のテーマ、わかりやすく言えば、タキの”運命のテーマ”です。ただし、そのメインテーマだけだと音楽全体が非常に重くなってしまうので、もう1曲、別のテーマを作曲しました。
-アコーディオンで演奏されるワルツのテーマですね。
久石:
こういう作品にワルツが似合うかどうかはともかく、結果的には、ワルツによって”昭和という時代に対する憧れ”や、”小さいおうちの住人に対する憧れ”を表現できたのでは、と思っています。昭和ロマンに憧れるワルツ、という意味では、松たか子さん演ずる”時子のワルツ”と呼んでよいのかもしれません。その”時子のワルツ”と、メインとなるタキの”運命のテーマ”のデモ2曲を最初に作曲したところ、山田監督から早々にOKをいただきました。
(Blog. 映画『小さいおうち』(2014) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)
「基本的にはメーンとなるテーマ曲は2つなんです。その時代を生きてきたタキのテーマみたいなものと、もうひとつは意表をつくようなワルツ調の曲。深い根拠はないんですが、直感みたいなもので、ある種の軽やかさが出たらいいなと思ったんです。守りに入るよりは、こちらも冒険させてもらったんですが、それが結果的に良い形になればいいなと思っています。」
(Info. 2013/08/10 山田洋次監督最新作「小さいおうち」 久石譲音楽レコーディング より抜粋)
赤い屋根の小さな家で働く女中・タキの目線を通し、昭和から平成へと激動の時代を生き抜いてきたタキの自身のテーマでもある“運命のテーマ”と、アコーディオンの甘美なメロディが印象的な“ワルツのテーマ”を主軸に構成。昭和モダンのノスタルジックな雰囲気が満載のサウンドトラック。
2つのテーマにより構成されたサウンドトラックは、
”運命のテーマ” (1) (2) (3) (5) (8) (10) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21)
”時子のワルツ” (4) (6) (7) (9) (11) (12)
”運命のテーマ”はときにピアノの単音で、ときにフルートやオーボエの木管で、ときに弦楽やピッツィカートで、ギターなども加わりとてもシンプルなアコースティックサウンド。シンプルなというか極限まで削ぎ落としたメロディと言っていい。
”時子のワルツ”はアコーディオンの旋律が特徴的だが、こちらもトラックごとに、ピッツィカートや木管編成、ピアノにより構成されている。
エンドクレジットにあたる(22)は、この主要な2つのテーマが、”運命のテーマ”から”時子のワルツ”へと引き継がれ幕をとじる。その(22)を除く、すべての楽曲が1-2分程度の長さであり、サウンドトラック全体としても30分程の音楽となっている。
ここで注目すべきは、映画本編2時間として音楽が約半分以下の時間しか流れていないということ、まさに山田洋次監督がオーダーした”空気のような音楽”ということである。
久石譲はセリフを重視する山田監督の演出に配慮するため、本編用のスコアでは特徴的な音色を持つ楽器(ダルシマーなど)を効果的に用いている。ハンマー・ダルシマーは「ピアノの先祖」とも言われる楽器である。
しかしながら、主要テーマのどちらもメロディの長さは短くも、とても印象的で、記憶に残らない耳に残らないということは決してない。これこそが久石譲のメロディの強さであり、かつ効果的にモチーフを2つに絞り込んで、あらゆるバリエーションで効果的な楽器編成で配置した結果といえる。
この後、久石譲「WORKS IV」にて、フルオーケストラ用にオーケストレーション、メインテーマ(22)は、楽曲構成はほぼ同じとしながらも、ギター、アコーディオン、マンドリンが加わり、サウンドトラックにはないオーケストラの華やかさと優雅さに磨きがかかっている。ひかえめながらも力強い華麗な輪舞曲(ロンド)に仕上がっている。全体の構成は、久石のソロ・ピアノによる序奏に続き、タキが象徴する激動の昭和を表現した「運命のテーマ」、そして時子が象徴する昭和ロマンを表現した「時子のワルツ」となっている。
映画「東京家族」につづく山田洋次監督とのタッグは久石譲にも大きな変化をもたらしている。具体的には、別項にて紹介しているが、一部抜き出すと下記とおり。
- オーケストラなどで音楽が主張をすることをひかえたつくり方
- 空気のような音楽、雰囲気を邪魔しない音楽、芝居や映画と共存する音楽
- 小編成にシンプルに、おさえるけれど、ただうすいだけにならないつくり方
- 登場人物や観客の気持ちを煽るような音楽をつけない
- より映画にコミットするかたちで音楽をつける
“今まではどうしても映画音楽としても主張してしまう自分がいたけれど、その力みがなくなった”といつかのインタビューでも語っている。
今後の久石譲映画音楽制作の分岐点になるであろう作品である。
1. プロローグ
2. 僕のおばあちゃん
3. 上京
4. 赤い屋根のおうち
5. 昭和
6. タキと時子
7. 雨の日も風の日も
8. 南京陥落
9. 師走
10. 正治と恭一
11. 嵐の夜
12. タキの幸せ
13. 本当の所
14. タキの悲しみ
15. 開戦
16. 事件
17. 別れ
18. 手紙
19. B29
20. イタクラ・ショージ記念館
21. 時効
22. 小さいおうち
All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
Piano by Joe Hisaishi (Track 1,11,20)
Conducted by Joe Hisaishi
Performed by
Flute: Hideyo Takakuwa
Oboe & E.Horn: Satoshi SHoji
Clarinet: Kimio Yamane
Bassoon: Masao Osawa
Guitar: Masayoshi Furukawa
Hammered Dulcimer: Keiko Tachieda
Accordion: Hirofumi Mizuno, Patrick Nugier
Percussion: Marie Oishi
Harp: Yuko Taguchi
Piano & Celesta: Ryota Suzuki
Strings: Manabe Strings
Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Engineer: Suminobu Hamada
Manipulator: Yasuhiro Maeda(Wonder City Inc.)