Posted on 2021/03/20
ふらいすとーんです。
映画音楽のレジェンド、ジョン・ウィリアムズです。わりと新しいCD作品から、ジョン・ウィリアムズが到達した偉業の集大成であり、かつ現在進行系でもある、そんなホットなアルバムを紹介します。4回にわたる予定、前回につづいてその2回目になります。
前回まで
ジョン・ウィリアムズ傑作集といえる収録曲たちは、2CDのボリュームです。若手人気指揮者ドゥダメルによって、ゴージャスなサウンドに心躍ります。本盤は、2019年1月コンサートのライヴ録音で、アンコールまで収録した完全盤でのリリース。ジョン・ウィリアムズの代表作を網羅した作品集になっています。
ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション
ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルハーモニック(2019)
CELEBRATING JOHN WILLIAMS
LOS ANGELES PHILHARMONIC・GUSTAVO DUDAMEL
CD 1
1. オリンピック・ファンファーレとテーマ
2.『未知との遭遇』から抜粋
3.『ジョーズ』から 鮫狩り/檻の用意!
4.『ハリー・ポッターと賢者の石』から ヘドウィグのテーマ
5.『ハリー・ポッターと秘密の部屋』から 不死鳥フォークス
6.『ハリー・ポッターと賢者の石』から ハリーの不思議な世界
7.『シンドラーのリスト』から テーマ
8.『E.T.』から 地上の冒険
9.『フック』から ネヴァーランドへの旅立ち
CD 2
1.『ジュラシック・パーク』から テーマ
2.『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』から オートバイとオーケストラのスケルツォ
3.『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から マリオンのテーマ
4.『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から レイダース・マーチ
5.『SAYURI』から さゆりのテーマ
6.『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』から 帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)
7.『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』から ヨーダのテーマ
8.『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』から 王座の間とエンドタイトル
9.『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』から アダージョ
10.『スーパーマン』から マーチ
グスターボ・ドゥダメル 指揮
ロサンゼルス・フィルハーモニック
録音:2019年1月24-27日 ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール〈ライヴ〉
曲名を見ただけで、いくつかはメロディが自然に浮かんでくる。いろいろなオススメポイントを書いていきたいところです。でも、その必要はないかもしれません。本盤は、クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年5月号」で、堂々とクラシックCD盤たちと並んで紹介されていただけでなく、なんと特選盤にも選ばれました。クラシック音楽界やクラシック音楽専門家から見ても、熱い視線で話題となり太鼓判な一枚として選ばれた、そんな王道作品です。
特選盤
ドゥダメルは、「ジョン・ウィリアムズは現代のモーツァルトだ」というほど、彼の大ファンなのだという。そのドゥダメルが、ロサンゼルス・フィルとともに、今年87歳を迎えたこの大作曲家の名曲の数々を演奏したアルバムだ。今年1月のライヴ録音だが、3月には東京でも同様のプログラムによる演奏会が行われたので、聴かれた方も多いだろう。ドゥダメルは、ウィリアムズの作品をしばしば取り上げており、2015年末に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、オープニング及びエンディング・テーマの指揮も担当していた。なお、ドゥダメルは2014年にも同様のコンサートを行なっていて、これはブルーレイ/DVDが出ている。作曲者本人やパールマンの出演したそちらも良かったが、曲目の豪華さでは今回の方が上だ。とにかく、スピルバーグ作品を中心に、誰もが知っている名作の、誰もが聴いたことのある名旋律がずらりと並ぶ。あらためて、ジョン・ウィリアムズの業績の桁外れの大きさを実感させられる。近現代のクラシック音楽のさまざまな語法を自由自在に使い、それでいて誰の心も揺さぶる力のある彼の音楽には、どこか魔術的な魅力がある。演奏は非の打ちどころがない。輝かしく澄んだサウンド、シャープで生き生きとしたリズム、そして迫力とスピード感。いわゆるクラシックの指揮者とオーケストラが映画音楽を演奏したアルバムは結構あるが、これはその究極の形だろう。
[録音評]
かなりの大編成による演奏のようであるが、聴こえて来る感じは広いステージのイメージではなく、むしろサウンドトラックのようなスタジオ収録風である。ロス五輪をはじめ、懐かしい名画からの聞き憶えのある曲ばかりだから、自然と頭の中に映像が浮かんでくる。映画館で聞いた迫力ある効果音的な打楽器の重低音や金属音がここでも同じように再現されている。
(「レコード芸術 2019.5月号 Vol.68 No.824」より)
レコード芸術評をもとに補足です。
2019年1月ロサンゼルス・フィルハーモニック創立100周年記念シーズンのハイライト(2018/2019)としてコンサート開催されました。3月21日、オーケストラもプログラムもそのままに日本公演を果たしています。そのときの「シンドラーのリスト」ヴァイオリン・ソリストは三浦文彰さん。日本公演の模様は、5月5日にTV放送(NHKEテレ)され反響を呼び、時期をおいて再放送もされました。
21世紀のクラシック ~指揮者~
グスターボ・ドゥダメルは、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督も務め、「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート2017」の指揮も務めるなど、今最も注目されている指揮者の一人です。また、ジョン・アダムズがドゥダメルのために作品を書き下ろしたりと、古典作品だけでなく現代作品にも鋭い感覚をもっています。
ジョン・ウィリアムズとの交流も深く、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でのOP/ED曲の指揮はジョン・ウィリアムズたっての希望だったというエピソードもあります。そのほか、ディズニー映画『くるみ割り人形と秘密の王国』(作曲:ジェームズ・ニュートン・ハワード)のサウンドトラック録音指揮を務めていたり、エンターテインメントでも活躍の場は広いです。
クラシック音楽も現代作品もこなせる感覚の新しさ。複雑な構成やリズムも得意とするソリッドなアプローチも特徴です。ジョン・ウィリアムズへのリスペクトも強く、本盤でも決してポップスな指揮はしていません。ドゥダメルが選曲したというプログラムは、まるでジョン・ウィリアムズの作品群をひとつの大きな交響曲として構成しているような、そんな意気込みや気概をひしひしと感じます。
久石譲がドゥダメルについて語ったこと。
『音楽する日乗』の「ドゥダメルの演奏会を聴いて」「指揮者のような生活」項にてたっぷり語られています。演奏会で聴いたプログラム感想(マーラー:交響曲第6番、ドヴォルザーク《新世界》ほか)、オーケストラのアプローチ特徴や対向配置のこと、ほか。久石譲指揮や久石譲コンサートにも通じる反映されている、久石譲の指向性がとてもよく伝わってきます。ぜひ手にとってみてください。
21世紀のクラシック ~オーケストラ~
ロサンゼルス・フィルハーモニックは、映画『スター・ウォーズ』シリーズ(1980’s)のサウンドトラック録音を担当するなど、古くから映画音楽やジョン・ウィリアムズ作品ともゆかりのあるオーケストラです。
本盤も、大編成オーケストラです。3管編成、ホルン8、トランペット5など、マーラー作品にも負けないほどの大きさで、ダイナミックに迫ってきます。また、ドゥダメルは対向配置をとっているのも特徴で、ほとんどのクラシック公演でも録音でも、オーケストラは対向配置です。久石譲も対向配置です。
映画音楽名曲集コンサートのような、ポップス・コンサートには決してなっていない。ポップス・オーケストラのように、ドラム・ギター・ベースがリズムを刻むこともありません。純粋なオーケストラの編成で、クラシック音楽と同じように至極の音楽空間が広がっています。
本公演から1曲だけコンサート動画がアップロードされていました。圧巻の大編成!対向配置!パフォーマンス!ぜひ堪能してください。
LA Phil & Gustavo Dudamel – Williams: Theme from “Jurassic Park” (Live at Walt Disney Concert Hall)
from ドイツ・グラモフォン公式YouTube
対向配置の特徴やその魅力については、ここでも少し語っています。もし興味あったらどうぞ。
21世紀のクラシック ~プログラム I~
ジョン・ウィリアムズの作品を集めるということは、アメリカ音楽史プログラムです。ハリウッド映画=アメリカ(たとえ映画がアメリカを描いていなくても、映画産業の象徴としてのハリウッド)。映画を巡る旅は、音楽を巡る旅であり、アメリカ音楽史を巡る旅にもなります。これまでに、ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」や、バーンスタイン「ウエスト・サイド物語」が演奏会でプログラム定番曲となってきたように、これからは、同じアメリカ人作曲家のジョン・ウィリアムズ作品が、新しいレパートリーとなっていきそうな予感です。
あまりにもキャッチーなメロディは、あまりにもエンターテインメントな盛り上がりかたは、クラシック音楽と並列にはできない、そぐわない。そんな傾向もまだまだ根強い昨今です。でも、モーツァルトだって、誰でも口ずさめるキャッチーなメロディもあれば、清らかで純粋なハーモニーで直球いってる作品もたくさんあります。
本盤の収録曲はすべて、映画公開終了後にジョン・ウィリアムズ自ら演奏会用に編曲したものです。サウンドトラックからそのまま引っ張り出すと、曲の一部しか聴けないとか、フェードアウトして終わるとか、演奏会では披露できない曲もあります。それらを、もっと音楽的に発展させたり、音楽作品として独立できるよう再構成したものです。ジョン・ウィリアムズ作品は、公式スコアが普及しているおかげもあってか、多くの演奏機会に恵まれ定着してきた曲たちです。
21世紀のクラシック ~プログラム II~
ドゥダメルは、ジョン・ウィリアムズの数ある名曲たちから、ベストアルバム的にプログラムしているわけではありません。《フライング・テーマ》《空への憧れ》《自由への夢》をテーマにおき、『ハリー・ポッター』『E.T.』『フック』『スーパーマン』の飛翔テーマを含めた大きなプログラム構成になっています。
久石譲に置き換えたら。演奏会用に再構成すること、公式スコアとしてかたちに残すことは、並行して行われています。これまでに手がけてきた数多くの映画・TV音楽から、《海》をテーマにプログラムを組むこともできるようになるかもしれません。スタジオジブリ映画・ジブリ交響作品から《フライング・テーマ》を象徴する楽曲たちを選んで、作品を超えてプログラムすることもできるようになるかもしれません。
音楽作品(再構成・スコア)としてきちんと残すということは、未来のクラシックになるためにとても大切なことです。それを今かたちにしている、そんななかに僕らは聴衆として一緒に歩んでいる。そんな気もしてきませんか?
Out To Sea / The Shark Cage Fugue (From “Jaws” / Live At Walt Disney Concert Hall, Los Angeles / 2019) · Los Angeles Philharmonic · Gustavo Dudamel
from ロサンゼルス・フィルハーモニック LA Phil 公式YouTube
ドゥダメルの指揮は、きっちり縦のラインのそろった、ソリッドなリズム表現です。ジョン・ウィリアムズ本人の指揮のほうが横揺れしているかもしれません。それほどに、律儀に正確に忠実に、スコアと向き合い具現化しているアプローチです。
映画『ジョーズ』の音楽といえば、あの恐怖がじわじわと迫ってくるような曲がポピュラーですが、こんな音楽もあったんだと新鮮さのある曲です。バロック音楽のフーガのような精緻な声部が折り重なり、まるで陽気で軽やかな海賊映画のようです。
ロサンゼルス・フィルハーモニック公式YouTubeには、本盤全19曲の公式音源が公開されています。ライブ音源ながら、スタジオ収録のような引き締まった音像です。CD2枚組のボリュームと練られたプログラム構成は、聴きごたえたっぷりです。
Celebrating John Williams (Official Audio) playlist 19 songs
https://www.youtube.com/watch?v=uHWIbM2NGOE&list=OLAK5uy_ll6sgiqDqqf99gUOws2nl–OF3RMPF8nI
また、CDライナーノーツのほうは、一曲ごとに充実した楽曲解説になっています。久石譲CD作品でもおなじみ前島秀国さんによる音楽的解説と、映画シーンから見た視点なども盛り込まれ、とても深く紐解いた分析になっています。ぜひ手にとってみてください。
「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」このアルバムの最大の功績は、ジョン・ウィリアムズ音楽を、21世紀のクラシック作品として花開かせたことだと思います。この第一歩は、やがて未来への大きな布石となっていくだろう、大きな分岐点となっていきそうです。
それではまた。
reverb.
昔ジョン・ウィリアムズ ファンクラブにも入会していました♪
*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number]
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