Info. 2016/04/30 [雑誌] 「目の眼 2016年6月号 No.477」 久石譲連載「美の仕事」 発売

『目の眼』6月号(4月30日発売)「美の仕事」に久石が登場いたします。
第3回となる今回は、近現代の名椀を取り扱う京橋の「魯卿あん」にお邪魔しました。
ぜひご覧ください。

『目の眼』6月号
「美の仕事」魯卿あん 魯山人はベートーヴェンか? 久石譲

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Blog. 映画『おくりびと』(2008) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/4/28

2008年公開 映画「おくりびと」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲
出演:本木雅弘、広末涼子、山崎努 他

第81回アカデミー賞外国語映画賞や第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞など数々の賞を受賞した作品です。

久石譲の音楽においても、第32回日本アカデミー賞優秀音楽賞にノミネートされたのですが、最優秀賞は逃しました。実は、この年久石譲はふたつの作品でノミネートされていて、最優秀音楽賞に輝いたのは、もうひとつの作品『崖の上のポニョ』だったのです。なんとも贅沢な出来事といいますか、改めて久石譲が日本映画界、日本映画音楽の巨匠たるゆえんを垣間見た瞬間でした。

この作品の音楽は、映画の相乗効果もあり、国内のみならず、海外でも高い評価を受けて広く知られています。実際に久石譲オリジナルアルバムにも複数収録されていますし、海外公演が行われる時にはプログラムとして選曲される機会も多いです。

 

ここでは、映画「おくりびと」公開当時、映画館などで販売された公式パンフレットより、久石譲のインタビューを中心にご紹介します。

 

 

インタビュー

音楽・久石譲

チェロはこの作品のもうひとるの主役。
まずチェロありきで音づくりをしました。

-滝田監督とは『壬生義士伝』(02)以来のコンビですね。

久石:
『壬生義士伝』は幕末が舞台のスケールの大きな話でしたが、今回は「人生の旅立ちをおくる」という誰にも訪れるテーマです。最初に脚本を一読して泣きました。登場人物がとても丁寧に描かれている。「これをどうやって監督は料理するのだろう」と考えたらワクワクして、即座にお受けしました。滝田作品の特徴のひとつは非常に緻密につくられていること。ストーリーの流れに沿って、登場人物の気持ちがきっちり描かれています。それも過不足なく捉えられているので、毎回「すごいなあ」と感心しています。それから画面づくりの素晴らしさ。いろんなカットが巧みに挿入され、中には「こんな斬新なアプローチもあるのか」と思うものもあり、映画音楽を担当する者にとっては、楽しい仕事です。

 

-今回の仕事は運命的な出会いだったとか…?

久石:
ええ、僕は毎年コンサートツアーをやっていて、今年はチェロを主軸において展開しようと企画していた矢先に『おくりびと』のオファーをいただきました。主人公がチェリストであり、楽団の解散によって音楽の道をあきらめるという設定から、チェロが重要な役割を占めています。そこでチェロのアンサンブルだけで映画音楽を構成しようと考えました。ピアノや他の楽器も少しは入りますが、あくまでチェロに焦点を当て、全編を流してみよう、20曲以上のメロディーすべてをチェロで演奏しようと試みたわけです。でも、やり始めたら結構難しくて苦労しました(苦笑)。とはいえ、映画自体が良くなければ音楽的なチャレンジはできません。そうした試みができたことを監督に感謝しています。

 

-チェロという楽器が与える効果は大きいわけですね。

久石:
そうですね。チェロは人間の肉声に近く、低い音から高い音まで、広い音域が奏でられる素晴らしい楽器です。ヴァイオリンなら普通に出せる高い音域をチェロが弾くと悲鳴のように聴こえるんです。音に力が込められ、独特のニュアンスが生まれてくる。そうした特性が、この映画の雰囲気にぴったりマッチしたのです。生きている世界の向こう側には死後の世界があり、あの世は人間の感情に決して左右されることがない。また、大悟が納棺師として生きていこうとする心の揺れも大切な見どころです。それらをゆったりしたテンポでハイポジションの音を必死に出しているチェロの演奏によって伝えられたと思います。本木さんは、本当に一生懸命練習されていました。通常、役者さんが楽器を演奏するシーンでは、顔のアップ、手のアップを撮り、最後は遠く離れた場所から撮影して、弾いている姿をはっきりと観えないように撮るんですが、本木さんは実際に本人が弾いているのではないかと思わせるほど上達されました。撮影後も練習を続けているそうで、そのうち僕のコンサートにゲスト・チェリストとして参加するかもしれません(笑)。

 

では、最後の質問。ご自分が死んだら、どのようにおくられたいですか?

久石:
愛用のグランドピアノを棺に入れて欲しいですね。あ、だけど大きくて棺に入らないなぁ。じゃあ、ピアノの方に僕を入れてください(笑)

(映画「おくりびと」劇場用パンフレット より)

 

 

チェロ奏者の芸術(アート)と納棺師の技術(アート)を結びつけた久石譲の技法(アート)

文・前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

本編冒頭、雪に覆われた庄内平野の旧家で、大悟と佐々木が納棺に臨むシーン。たった今、息を引き取ったとしか思えない美しい遺体に、粛々と、だが手際よく、ふたりが経かたびらを着せていくと、その背後からチェロ12本とハープによる美しいアンサンブルが聴こえてくる(『おくりびと』オリジナル・サウンドトラック盤 トラック[02] NOHKAN)。音楽はあくまでも静謐な響きに包まれているが、決して悲壮感を漂わせることはない。つまり、これは世間一般が想像するような”葬送音楽”ではないのである。そこに聴かれるのは宗教的な祈りにも似た”浄化”の感情であり、死者の旅立ちを厳かに祝福する”希望”の音楽のようにも思える。

このアンサンブル曲だけで、すでに久石譲は『おくりびと』という作品のエッセンスを音楽で見事に表現し切ったというべきだろう。だが、久石のスコアはそれだけにとどまらない。作曲家(アーティスト)としての久石は”単に美しい曲を書く作曲家”からさらに先に進み、ドラマの内実に見合った音楽設計に基づきながら、本作のスコアを作り上げているのだ。

別項のインタビューでも語られているように、久石がチェロ・アンサンブルに本作のスコアを演奏させているのは、主人公・大悟のキャラクター設定、すなわちリストラに遭ったチェロ奏者という設定を踏まえたものである。先の納棺のシーンに続いて登場する、ベートーヴェンの交響曲第9番~第4楽章(いわゆる《歓喜の歌》)の演奏シーンで、我々観客は実際に大悟がチェロを演奏するのを目にすることができる(蛇足だが、有名な《歓喜の歌》のメロディを《第九》の中で最初に演奏するのは、実はチェロ・パートである)。つまり、チェロは大悟という人物そのもの、いわば彼のアイデンティティを象徴している楽器なのだ。そこから、スコア全体をチェロ・アンサンブルで鳴らす必然性が導き出されてくる。

しかし、久石はそこから一歩踏み込み、チェロ・アンサンブルのスコアを通じて『おくりびと』という作品の内奥の真実に迫っていく。大悟がチェロ奏者という職業を断念し、納棺師という仕事を選んだことは、果たして本当に”挫折”なのか? いや、そうではないのではないか?

到着が5分遅れただけで怒りを露わにする喪主を前に、大悟と佐々木が喪主の妻の納棺の儀を進める本編中盤のシーン。そこで久石は、それまで抑えていた感情を一気にほとばしらせるように、チェロ・アンサンブルに切々たる”歌”を滔々と歌わせているのだ(オリジナル・サウンドトラック盤 トラック[10] beautiful dead I)。故人が愛用していた口紅を用いて佐々木が死化粧を完成させた瞬間、泣き崩れる故人の娘。その姿に重なって流れる、どこまでも昇りつめていくようなチェロ・アンサンブルの”涙の歌”。チェロ演奏の素晴らしい芸術(アート)が人の心を打つように、納棺師の素晴らしい技術(アート)もまた、人の心を動かす。久石の音楽は、実はこのふたつの”アート”が等しく高貴で美しいものである、という真実を、我々観客に訴えかけているのである。つまり、チェロ奏者の芸術(アート)も、納棺師の技術(アート)も、”死者を甦らせる”という点において、本質的には全く変わらない。このシーンで流れる大悟のナレーション「冷たくなった人間を甦らせ、永遠の美を授ける。それは冷静であり、正確であり、そして何より優しい愛情に満ちている」を思い出してみて欲しい。「冷たくなった人間」を「楽譜」に置き換えてみれば、このナレーションが演奏芸術の本質を見事に突いた言葉でもあることに気づくはずだ。「冷静であり、正確であり、そして何より優しい愛情に満ちている」久石のチェロ・アンサンブルの音楽が、そのことを何よりも雄弁に物語っている。

『おくりびと』のスコアにおいて、久石譲はチェロ奏者の芸術(アート)と納棺師の技術(アート)を同列で結びつけることに成功した。作曲家(アーティスト)としての技法(アート)を十全に開花させた、これは紛れもなく久石の代表作のひとつになるはずである。

(映画「おくりびと」劇場用パンフレット より)

 

 

プロダクションノート

久石譲の運命的音楽の挑戦

本作の音楽は、今や国内のみならず世界にその名を知られる名匠・久石譲。滝田監督とは『壬生義士伝』(02)でもコンビを組んで多大な成果を収めている彼は、今回も脚本を一読して即オファーを快諾。その内容の素晴らしさはもちろんのこと、ちょうど彼は2008年のコンサートツアーをチェロ主軸でいこうと決めて動き始めていた矢先に、チェリストを主人公に据えた映画の音楽依頼があったことに運命的なものを感じたのだ。

当然、本作の音楽もチェロを主体としたもので、久石の声かけのもと日本を代表するチェリストが集結。劇伴では、若きチェリストの代表格・古川展生をはじめ苅田雅治、諸岡由美子、海野幹雄、木越洋、渡部玄一、高橋よしの、羽川慎介、久保公人、村井將、大藤桂子、鈴木龍一、堀内茂雄ら13名の奏でる美しいチェロの音色が映画に華を添えている。レコーディング日には、彼らが所属する各オーケストラのトップチェリストが不在となるため、その日、国内でまともなクラシック・コンサートを開催するのは不可能! と断言できるほど豪華メンバーの顔合わせとなった。

チェロは弦楽器の中でも、下はコントラバスから上はヴァイオリンまでと最も音域が広く、いわば万能楽器。しかもチェロでヴァイオリンの音域を奏でることで、また違った情感が深まるのだ。ここにまたひとつ、久石譲のあらたな名曲が誕生した。

さらに劇中、大悟が所属していたオーケストラの演奏シーンで指揮を執っているのは、東京交響楽団正指揮者であり山形交響楽団常任指揮者でもある飯森範親。本木のチェロ指導には、チェリストとして幅広く活躍する柏木広樹が就くなど、華やかな音楽人の参加も、特筆すべき楽しみのひとつだ。

 

[memo]
チェロは女性のボディを模して作られた楽器らしい。だからチェロを抱くことがご遺体を抱くということと物理的にリンクするんです。またチェロの音色は、弦楽器の中で一番人間の肉声に近い音域だそうで、人の心に共鳴しやすい。

(本木雅弘 インタビュー談より)

(映画「おくりびと」劇場用パンフレット より)

 

おくりびと パンフレット

 

Info. 2016/04/21 [雑誌] 「週刊文春 2016年4月28号」 久石譲インタビュー掲載 【4/27 UPDATE】

今月21日発売の「週刊文春」(4月28日号)Close Upに
久石のインタビュー記事が掲載されます。
1ヶ月の期間限定ではあるようですが、WEBからも閲覧出来るようです。
ぜひご覧ください。
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Blog. ラジオ J-WAVE「ANA WORLD AIR CURRENT」(2005) 葉加瀬太郎×久石譲 出演内容

Posted on 2016/4/25

ラジオ J-WAVE 「ANA WORLD AIR CURRENT」

ヴァイオリニスト葉加瀬太郎さんがパーソナリティを務める同番組。2005年久石譲が出演した回での対談内容および楽曲オンエアリストです。

 

 

London 2005/02/26

トラブルを抱えてそれをクリアしていくっていうのは、人生そのものだと思う。

ラーメン屋の光景が出る度に、25歳の時の気持ちを思い出します。(久石)
海外で見るラーメン屋の威力ってすごいですよね(笑)。(葉加瀬)

葉加瀬:
久石さんが初めて海外を訪れたのはいつですか?

久石:
25歳の時にロンドンでした。

葉加瀬:
25歳でロンドンに向かうというのはどういう理由だったんですか?

久石:
たまたまある会社でレコードで20数枚の“映画音楽集”を作るという事で、1枚あたり何の曲を選ぶかっていうのを手伝った事があったのね。それが全部ロンドンレコーディングだったんですよ。それで「せっかくだから連いて行っちゃおう」って見に行ったのが最初でした。

葉加瀬:
なるほど。

久石:
後に「スーパーマン2」の音楽をやったケン・ソーンとかいろんな人たちがアレンジをしていました。だから1ヶ月半くらい、毎日彼らの世界レベルのアレンジ譜を見ていたんです。

葉加瀬:
スコアを現場でそのまま手にしてね。

久石:
そう、「ここの音が違う」とか言っている訳じゃないですか。あれはとても貴重だった。ブラスのかけ方なんかも、ほとんどフルオーケストラの編成ですから。リズムの入ったフルオケなんですけど。弦の密集でワーッとメロディにいったり、ブラスが入った時の弦の配置だとかが「なるほどな」って。あれはとてもいい勉強になったな。

葉加瀬:
初めて憬れのロンドンに行った時というのは、街の雰囲気などはどう映りました?

久石:
最初に歩いたのはケンジントンだったんですよ。「おー」って思って、きょろきょろと3回くらいしたらすぐ目の前にラーメン屋があって、いきなり入っちゃいました(笑)。「わー、懐かしい」って。「まだ4日だろ!」みたいなね。

葉加瀬:
分かる、気持ちが! 海外で見たときのラーメン屋の威力はすごいですよね。

久石:
そのラーメン屋は、その後自分のソロアルバムを録りに行ったりしてもずーっとあったんですよ。今度行ったらあるかどうか分からないけど、見る度に25歳の時にここを歩きながら、「ロンドンだ、世界だ」って思った事を思い出します。だから“世界だ”って思うとロンドンの街が真っ先に思い浮かぶんです。

葉加瀬:
初めてのっていうのは、やっぱりそれほど大きな印象になりますものね。

久石:
そのラーメン屋の光景が出る度に、何度もソロアルバムを録りに行っても25歳の時の気持ちを思い出します。だからロンドンに行ったら必ずそこを1人で歩くんですよ。

葉加瀬:
でもそれがテムズ川とかビックベンじゃなくて、ラーメン屋っていうのがいいですね(笑)。本当にリアルを感じるな。

 

イギリスって見事なくらい階級社会なんです。(久石)

葉加瀬:
海外にお住まいになったことはあるんですか?

久石:
今から11~2年くらい前かな。ロンドンに2年くらいいました。

葉加瀬:
それは拠点を移されるという気持ちですか?

久石:
その時はどうだったでしょうね。半々くらいか、出来たら移りたいなと思っていたんですね。ただ年間10数回東京と往復してました。

葉加瀬:
お住まいになられていたのはどの辺りですか?

久石:
最初はアビーロードのすぐ側。で、その次がケンジントンの方でした。こんな事言ったらまずいのかもしれないけど、日本のミュージシャンって皆勘違いしてロンドンに住むんですよ。第2の天地を求めてアパート借りたりするんですよね。僕もすぐ勘違いしたんだけど…。

葉加瀬:
はい。

久石:
向こうで家を借りたら、3日後にキング・クリムゾンのドラマーが傘を持ちながら「ハロー」って来た。次のレコーディングでオファーを出してたんですけど、すぐに来ちゃうんですよ。それで自分のデモテープとかを渡すんですよ。そうすると自分がすごく有名になったような気がするんです。あそこを見ていると、きっかけさえあったらチャートに入れることも出来るだろうし、いろんなことが出来そうな気がする。で、皆“ロンドンをベースに世界に羽ばたく”と思って行くの。

葉加瀬:
うん。

久石:
ところがこれは大きな間違い。イギリスって見事なくらい階級社会なんです。そうすると、例えば“ミック・ジャガーのツアーをやりました”。3ヶ月とか半年のツアーをやったギターの人はン千万円くらい入るんですよ。それで大きな家も建てて、ビックネームになったんだけど、普通はビックネームって上に突出したら裾野の仕事もあるじゃない。ところが無いんですよ、それだけなの。ここが一番問題なんです。

葉加瀬:
なるほど。

久石:
日本だとミック・ジャガークラスの人のツアーをやるという事は、裾野に一流人としていっぱい仕事があるわけじゃない。そうすると当然食べていける状況になるはず。ところが向こうでは棒グラフのように、“ミック・ジャガーのはやれた、でも後はない”んですよ。この現状に気付くのに住んで1、2年かかるんです(笑)。

葉加瀬:
はははは(笑)。

久石:
それで何となく日本に戻ってくるという、そういうケースが圧倒的に多くて。僕は幸か不幸か最初にそれが分かっちゃったんで、そういう欲望は抱かないことにした。でもとにかく日本にいる時より徹底的に集中出来るんですね。それからミュージシャン達の視野が広い。ロンドンのミュージシャンの人たちも、全く譜面を読めないけどすごい仕事をする人、耳で覚えちゃう人から譜面バッチリの人からいっぱいいますね。

葉加瀬:
はい。

久石:
そういう中で動いてるという事が、僕はとても気持ちよかったんで、その後もずっとロンドンでレコーディングをやってるという感じですね。

葉加瀬:
その2年間は楽しかったですか?

久石:
ロンドンにいる間はレコーディングしないで、暇だった(笑)。だって何にもないから公園散歩したり、そういうことばっかり。マネージャーが向こうにいるわけじゃないからね。東京からFAX来るのを見て、「嫌だ」とか言ってるだけで(笑)、自分の時間はたっぷり持てました。

葉加瀬:
はい。

久石:
それはすごい良かったんだと思う。きっと物を作る人たちっていうのは孤独でなきゃいけないと思うんですよ。皆嫌いですよね、孤独なんて。嫌いなんだけど1人になっている時間の中でのた打ち回ってないと、たぶんダメなんだろうなって思います。

葉加瀬:
その通りだと思います。

 

オーケストラってダンプカーだから、急には曲がれない。(久石)

葉加瀬:
昨年はカンヌで指揮をしたとか?

久石:
それはね、バスター・キートンというチャップリンと並んでトーキー映画(無声映画)の有名な映画人がいるんだけど、彼の作品をあるフランスの会社が買ったんです。キートンの『ザ・ジェネラル』、日本では『キートン将軍』って題なんですけど、その音楽を書いたんですよ。それで去年のカンヌ映画祭で“上映しながら生のオーケストラでやってくれ”っていうのがあったんですよ。

葉加瀬:
スクリーンの前でオーケストラ! かっこいいなぁ。

久石:
コートダジュール・カンヌオーケストラという、ちょっと小ぶりのオーケストラがあって、フランスではすごく有名なんです。そのオケでなんと僕は指揮をしちゃったんですよ。これが大変なの! 自分で言うのも何だけど、絶対に生で演奏できないんですよ(笑)。簡単に言っちゃうと、ピストルとか大砲のシーンがありますよね。それもフレーム単位で、30分の1秒まで合わせて「ドーン」とか、そういったきっかけが異常にあるわけよ。

葉加瀬:
全部入れたんですか?

久石:
入れた。75分くらいの映画で全編音楽なんですよ。それを22曲に分けたんだけども、1曲の中で予備カウントもなくテンポがガンガン変わってくわけ。で、ちょっとトリッキーに譜面を作っちゃったの。「生でやれるわけないだろ」って所まで書いちゃって。そうしたら、それを自らやらなくちゃいけなくなって、もう真っ青。しかもオケの指揮なんてたまに振った事しかない自分が、フランス人のオーケストラを相手に!

葉加瀬:
格好いい!

久石:
東京でレコーディングしている時でも1曲でヒーヒー言って録った曲を、ぶっ通しで75分をスクリーンを見ながらやるんですよ。

葉加瀬:
当然、テンポを維持する為のクリック音も一緒に走っているという事ですか?

久石:
例のカンヌのメインの会場でやるわけですから、装置が良いのが無いんですよ。

葉加瀬:
なるほど。状況としては良くないですね。

久石:
一応僕がクリックを聞く、そしてバイオリンのそれぞれのセクションだとか木管などのトップの人もイヤホンをつけるということでやったんですよ。ところが、リハーサルが始まると1人抜け2人抜けで、皆が外してるんですよ。

葉加瀬:
オケの人にありがちな(笑)。

久石:
オケの中で合わなくなるから。やっぱりオケってダンプカーだから、急には曲がれないじゃない。そうすると音楽的にならないからと皆が外しだして、2日目にはコンサートマスターも外しちゃったんです。気付いたら僕1人なんですよ! 打点がいくら明確に振ったって、インテンポで始まったものって微妙にずれ出したら軌道修正効かないじゃない?

葉加瀬:
そうですね。気がついたら1拍2拍ですものね。

久石:
それで次のきっかけが来るでしょ。これで生演奏だったんですよ。頭の中は大変で「1小節半遅れた」「走った」とか、「どこかでその分かせがなきゃ、後3ページいったら崖がある」みたいなね。でも結果は、奇跡的にね…。

葉加瀬:
“奇跡的”って(笑)。

久石:
はっきり言ってあの成功は奇跡的でしたね。ところが今の話題で問題になってるのは音楽的な話でしょ。ところがここに“フランス人”っていうフィルターが入るわけよ。

葉加瀬:
はははは!

久石:
このバイアスがすごいんですよ(笑)。「OK」って言ってるけど「どこがOKだ」って言いたくなるくらい、きっちりしてないんですよ。全部話が食い違ってるし。その状況が全てに覆い被さるから「Oh, My God!」みたいな。本番まで1回もまともに通ってないんですから。

葉加瀬:
はー。

久石:
でもオケの人は素晴らしかった。日本人よりも几帳面。僕なんか「疲れたからもう止めます」なんて言ってると「ダメだ。時間が無いからもう1回」なんて言ってくれるくらい本気なんですよ。まあ、貴重な経験になりました。

葉加瀬:
なるほどね。

 

スペインはあまりにも文化が違って、曲が書けなくなった。(久石)

葉加瀬:
2002年にスペインへ行ったのは、お仕事ですか?

久石:
これはね、トマティートというギタリストにとても惚れ込んだんですよ。

葉加瀬:
トマティート! 素晴らしいですよね。

久石:
「どうしてもこの人とアルバムを作りたい」って叫んでたら、彼がちょうど日本に来ている時に会ったんですよ。それで意気投合して、僕はスペインに会いに行ったんです。そしてギターとピアノのためのコンチェルトを書く予定だったの。タイトルまで全部決めて、頭の中ではがっちり音楽構造も出来てた。ところが、そこで“フラメンコ”というものに出会っちゃったんですよ。彼はフラメンコギタリストだからね。

葉加瀬:
そうですね。

久石:
フラメンコギタリストっていうのは、まず譜面が読めない。一応僕も少しはフラメンコを知らなきゃいけないと思って、マドリードとかアンダルシア地方を周ったんだけど、調べいくうちに「ヤバイ」と思いました。何でかと言うと、あまりにもカルチャーが違うから。「これはダメだ」と思ったのが、「リズムの中にフラメンコというリズムがある」んじゃないんですよ。彼らは「リズム」のことを「フラメンコ」って言うんですよ。

葉加瀬:
はい。

久石:
僕が例えば向こうの図書館とかフラメンコ博物館だとかいろんな所へ行って、「フラメンコのギターのリズムの種類は何パターンあるか、書いてある本を見せてくれ」って言うわけ。すると「そんなものは無い」と。「無い」って言われてもねぇ…。僕は頭で考えちゃうから、「タンタンタタ」ってフラメンコ特有のリズムがいくつかあるじゃない?

葉加瀬:
「“タンタンタタ”ってやっていればフラメンコになるのかな」って思いますよね。

久石:
それをもうちょっと踏み込んで考えても、「そんな物は無い。フラメンコを知りたかったら、ここではワインを飲んでハモンを食べて、この光を浴びなさい」って皆言うんですよ。「いや、俺そんな暇ないから」って言うんだけどね(笑)。

葉加瀬:
はははは。

久石:
どこへ行ってもそれを言われちゃって。でも「俺はクラッシックの現代音楽を学ぶようなつもりでフラメンコというリズム構造を頭に入れようとしている。だけど、そんなものではフラメンコは分からないし、トマティートとやってもベーシックな部分の共通項は絶対に見つからない」と思っちゃったんです。その瞬間から、パツンとシャッターが下りて書けなくなっちゃった。

葉加瀬:
はー…。

久石:
たぶんアンダルシア地方とか行かないで、ミシェル・カミロとやったデュオCDなどを聞いて「あっ、この人とやりたい」って、自分のフィールドで作曲してたら出来てたんですよ。ところが踏み込んじゃった。

葉加瀬:
フラメンコのイメージだけを切り取ったらいけない、と思ったんですね。

久石:
あの時は学んだな。男と女もそうだけど、踏み込みすぎちゃダメだよね。適度に知らない方が上手くいくよね(笑)。

葉加瀬:
いや、本当に納得します。全然ジョークに聞こえない(笑)。でもそこで踏み込んでも久石さんだったら書けたと思うんですけど、「書いちゃいけない」と思ったんでしょうね。

久石:
うん。まだ自分がやる時期じゃなかったんだと思う。今でもその企画は持ってるし、やらなきゃいけないと思っているんだけど、それをやるためにはピアノ弾きとしてどうしてもクリアしないといけないものがあと3つくらいあるんですよ。これって“が熟してくるといろんな事がスパッとはまって出来る”っていうのあるじゃない?

葉加瀬:
はい。

久石:
あの時にある種の挫折も味わったけれども、やろうとした時の思いはあれから2年経っているけど全然消えてないんですよ。という事は、色褪せてないからあれは必ずいつかやるな。そういうことのほうが大切ですね。

葉加瀬:
そうですね。

 

音楽家人生を賭けたアルバムを出す時期が、必ず来る。(久石)
明るいメロディのほうがよっぽど救われるさ!(葉加瀬)

葉加瀬:
最新アルバムのお話を伺いたいと思いますが、リリースされたのは先月ですね。『Freedom-Piano Stories 4』。今回はどういった感じですか?

久石:
「心の自由を求めて」という事で、自分の心の垣根を取り払いたいと思って作りました。僕自身もそうなんだけど、「とても生きづらいな」って最近思う。ちょっと閉塞的な社会状況の中で、皆が苦しい。その時に、実は「生きづらいという思いを作っている一番大きな要因は自分の中にあるよね」っていうことに気付いた。でも「もうちょっとやるだけやってみようよ」とか、「そんなにネガティブに捉えないで、毎日楽しいことを考えることも必要なんじゃないか」というような気持ちがあって、『Freedom』って付けたんです。

葉加瀬:
なるほど。

久石:
アルバムで言うと『ハウルの動く城』のメインテーマだったり、テレビで流れているコマーシャルだったり。そういう耳馴染みの曲をちゃんと1曲にしてあるので、とにかく聴きやすいです。

葉加瀬:
僕も聴かせていただきました。“あのメロディーも久石だったのか”というコピーがついていますが、まさしくそうでした! 「これもそうだったの!?」の連続ですね。

久石:
世の中がこういう状況の時、物を作る人間ってどうしても重い発言をしたくなるんですよ。だけどね、結局「言うべきじゃないんだ」って気がしたんです。

葉加瀬:
僕は生意気ながらすごい賛成するな。それより明るいメロディのほうがよっぽど救われるさ!

久石:
そうなの。ここまで現実が暗い時に、覆い被せるような物は「聴きたくないよ、そんな言葉」って。何年後になるかわからないけど、自分たちの音楽家人生を賭けたようなアルバムを出さなきゃいけない時期が必ず来るのよ。だけどこの時期はやるべきではないと思います。むしろ皆が重いんだから、せめてこのアルバムを聞いている間は気持ちが救われて欲しい。それが今、僕ら音楽家として一番大事なことかなと思っちゃう。

葉加瀬:
なるほど。では久石さんにとっての「旅」とは?

久石:
音楽を作っている行為自体が「旅」みたいなものじゃないですか。だから実際の旅ってあまり好きじゃなかったんですよ。ところがこの数年で分かったんだけど、旅に行くっていうのは、“自分のホームが良い事を確認しに行く”ようなものですよね。

葉加瀬:
そうかもしれませんね。

久石:
旅に行くと、いろいろと思い通りに行かなかったり、物を失くしたり盗られたりとか、「一流ホテルだ」って言われてるのに2階がうるさかったとかさ。

葉加瀬:
お湯が熱すぎるとか、お湯にならないとか(笑)。

久石:
「こんな“わらじ”みたいなステーキ食えないぞ」とか、トラブルが絶えずあるでしょ。いろんなトラブルを抱えてそれをクリアしていくっていうのは、人生そのものだと思うんですね。行って帰ってくると、一個ずつ視野が広がってるっていうか、変わるでしょ? だから今年は出来るだけ旅したいと思います。

葉加瀬:
そうしたら、またすごい作品がいっぱい出来ちゃうんでしょうね。待ってます! どうもありがとうございました。

久石:
こちらこそ。

 

ON AIR LIST
海の見える街 / 久石譲
ORIENTAL WIND / 久石譲
もののけ姫 / 米良美一
WILD STALLIONS / 葉加瀬太郎
EN CASA DEL HERRERO / TOMATITO
人生のメリーゴーランド / 久石譲

久石譲 葉加瀬太郎 2

久石譲 葉加瀬太郎 1

出典元:J-WAVE:ANA WORLD AIR CURRENT アーカイブ

 

Info. 2016/04/20 [雑誌] 「Nagano ARTOlé -長野市芸術館開館記念BOOK-」発売

長野市芸術館の記念ブック「Nagno ARTOlé(アトレ)」が、4月20日より発売されます。
芸術館がオープンするまでの軌跡など、久石も取材等で協力させて頂きました。
独自の切り口で長野市芸術館の魅力に迫る必読の一冊となっています。

「別冊KURA《Nagano ARTOlé》長野市芸術館開館記念BOOK」
価格:1,000円(税込)
※長野県を中心に、隣県・東名阪・北陸方面の書店やコンビニエンスストア、
サービスエリア、パーキングエリア等で販売されるそうです。

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Disc. 航空自衛隊航空中央音楽隊 『究極の吹奏楽 ~ジブリ編 vol.2』

2016年4月20日 CD発売 POCS-1421

 

世界に発信できる高い音楽性と高品質な録音が特徴な『究極の吹奏楽シリーズ』第7作目は好評を博したジブリ編の続編。

 

 

1.ジブリ・メドレー【空編】
ハトと少年(天空の城ラピュタ)~ふたたび(千と千尋の神隠し)~旅路(風立ちぬ)~時代の風(紅の豚)~月夜の飛行(となりのトトロ)~鳥の人(風の谷のナウシカ)

2.「崖の上のポニョ」Highlights
深海牧場~ポニョの飛行~母の愛~いもうと達の活躍~母と海の讃歌~崖の上のポニョ

10.「紅の豚」Highlights
セピア色の写真~セリビア行進曲~ピッコロの女たち~遠き時代を求めて~荒野の一目惚れ~時代の風-人が人でいられた時-~Porco e Bella~Ending~

12.ジブリ・メドレー【森編】
あの夏へ(千と千尋の神隠し)~Arrietty’s Song(借りぐらしのアリエッティ)~ねこバス(となりのトトロ)~テルーの唄(ゲド戦記)~アシタカせっ記(もののけ姫)

 

 

 

1.ジブリ・メドレー【空編】
2.「崖の上のポニョ」Highlights
3.人生のメリーゴーランド (「ハウルの動く城」より)
4.「ルージュの伝言」 (「魔女の宅急便」より)
5. 「やさしさに包まれたなら」 (「魔女の宅急便」より)
6.「アシタカとサン」 (「もののけ姫」より)
7.「アシタカとせっき」 (「もののけ姫」より)
8.「ハトと少年」 (「天空の城ラピュタ」より)
9.「平成狸合戦ポンポコ」Highlights
10.「紅の豚」Highlights
11. 「風になる」 (「猫の恩返し」より)
12.ジブリ・メドレー【森編】
13.「カリオストロの城」Highlights  (Bonus Track)

Composed by:
Joe Hisaishi (01~03, 06~08, 10)
Yumi Arai (04, 05)
Yoko Ino, Kouryuu, Manto Watanobe (09)
Ayano Tsuji (11)
Joe Hisaishi , Simon Caby, Cecile Corbel, Hiroko Taniyama (12)
Yuji Ohno (13)

Arranged by:
Hideaki Miura (01, 10)
Hiroki Takahashi (02)
Masahiko Yamada [山田 雅彦] (03, 08)
Tsutomu Tajima [田嶋 勉] (04, 05, 11)
Takamasa Sakai (06, 07)
Tohru Kanayama (09)
Takashi Hoshide (12)
Naohiko Hatano [波田野 直彦] (13)

Performed by:
Japan Air Self-Defense Force Central Band

Conducted by:
Katsuo Mizushina [水科 克夫]

 

Info. 2016/04/16 [CM] 三井ホームCM「TOP OF DESIGN」 久石譲音楽担当

三井ホームのCM音楽を久石が担当いたしました。
4月16日からオンエアースタート。

CMは三井ホームの公式サイト内の
「広告ライブラリー」からもご覧いただけますので
どうぞご覧ください。久石のコメントも必見です。

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Disc. 久石譲 『三井ホーム』 *Unreleased

2016年4月16日 TVCM放送

 

三井ホーム「TOP OF DESING」
音楽:久石譲 曲名:三井ホーム

 

・「TOP OF DESIGN」 美しさが育つ家篇 (京都) 15秒
・「TOP OF DESIGN」 美しさが育つ家篇 (仙台) 15秒
・「TOP OF DESIGN」 人生を築く家篇 (15秒)
・「TOP OF DESIGN」 人生を築く家篇 (30秒)

CMは、三井ホーム公式サイト内「広告ライブラリー」にて閲覧可能
(※2016年4月現在)

三井ホーム「広告ライブラリー」

 

同ホームページにて視聴できるのは、上の4本すべてである。

また久石譲コメントも一緒に掲載されている。

「三井ホーム、およびCM制作のみなさまの厚い理解により、恐らく日本初の本格的なミニマル音楽でのCMが完成しました。アート性と高級感、それに親しみやすさが感じられるように作曲しました。楽しんで頂けると幸いです。」

(三井ホーム 広告ライブラリーより)

 

 

久石譲本人のコメントにもあるとおり、ミニマル・ミュージックによる刺激的で鮮烈な印象が残る音楽になっている。

麻衣のヴォイスと、弦楽、マリンバ、木管など小編成のアンサンブルにて、小刻みに弾けるようなアコースティック・グルーヴを堪能することができる。

CD作品でいうならば「ミニマリズム2 Minima_Rhythm 2」(2015)、さらに言うなれば2014年から新たなコンサート企画として始動した「ミュージック・フューチャー シリーズ」(毎年1回開催)。これらの活動の延長線上、はたまたその進化系として新たに生まれた久石譲の”今旬な”カタチでのミニマル・ミュージックとなっている。

上質で心地よい、ミニマル・ミュージックだからこそ、15秒や30秒ではもちろん足らず、エンドレスで聴き浸りたい音楽であり、転調やズレなど、さらなる楽想としての発展も興味深い作品である。

 

未発売曲、CD化が期待される上質な作品である。

 

 

 

2016.10追記
三井ホーム「広告ライブラリー」(上記紹介)にて、WEB限定動画が配信される。そのなかでCMでは15秒版・30秒版でしか聴くことができなかった同曲が、約1分間視聴可能となった。楽曲の展開の先が少し垣間見れる貴重な動画である。

「震度7に60回耐えた家。」研究員篇 (15秒)
「震度7に60回耐えた家。」インタビュー篇 (15秒)
「震度7に60回耐えた家。」WEB限定動画 (約2分)
菅野美穂 WEB限定インタビュー動画 (約1分)

CMテーマ音楽を約1分間視聴できた動画は、「菅野美穂 WEB限定インタビュー動画 (約1分)」である。

 

 

 

もうひとつが2016年一番新しいCM音楽として発表された『三井ホームCM音楽』。ソリッドに研ぎ澄まされたミニマル・ミュージック全開で、CM音楽におけるインパクトとしては抜群ですが、キャッチーさを求めるならば真逆な作品といえます。

最初聴いたときに「えらく(ミニマルサイドに)振り切った作品だな」とびっくりしたのを覚えています。ただ、これまた考察をもとにすると違う発見があります。マリンバ・ピアノのミニマル伴奏にコーラスが旋律として構成されたこの作品。随所にピッコロとグロッケンシュピールによる装飾が出てくると思います。そしてピッコロはとてもシャープな強く息を吹きかける奏法になっています。

…これがなかったとしたときに?

ミニマル・ミュージックの躍動感は維持されますが、一見すごく耳あたりのいいサウンドともなります。心地よいグルーヴ感と優美なコーラス・メロディ。本来ならば、これだけのミニマル音楽がテレビから流れてきただけでもひっかかりは強いですね。普段聴き慣れない音楽としてインパクト充分です。がしかし、やはりあの高音域装飾(ピッコロ・グロッケン)が、強烈すぎるアクセントになっている。あのフレースがあった時点で、久石譲の勝ちだな、と思ってしまうくらいの凄み。

従来の久石譲アンサンブル手法からだった場合、おそらくあのパートはピアノ、サックス、ハープなどの楽器で別の装飾モチーフとして奏でられていた、かもしれません。それが、今の久石譲の手にかかるとあの完成形となるわけで。ない場合、従来手法の場合、そしてお茶の間に響いた楽曲。イメージするだけでも響きの違いは雲泥の差。15秒・30秒の音楽を聴いて、久石譲という作曲家の感性と論理性をまざまざと魅せつけられた思いです。

もっとマニアックな見解をさせてください。

弦楽器や管楽器は持続音です。弾いている・吹いている間、一定の音が鳴り続けます。一方で、ピアノやマリンバ・シロフォン(木琴の種)・グロッケンシュピール(鉄琴の種)などは減衰音です。叩いたときに音が発せられそのあとは減衰していきます。

さて、ここで減衰音のグロッケンと、持続音のピッコロをブレンドして編成する。かつピッコロの奏法を息を強く吹きかける、つまりは音の立ち上がりを強くすることで、フッと息をするようにシャープになり減衰音と同じような音の減衰を期待できます。そうすることで、メロディという主旋律の邪魔をすることなく、もちろんナレーションやセリフの邪魔をすることもなく、かつ瞬間的に強烈なインパクトを印象づけることができる。ほんと久石譲という人が末恐ろしくなってくる数十秒間です。

一連のピッコロ、シロフォン、グロッケンシュピール、トライアングルという高音域楽器をブレンドした妙技は、『コントラバス協奏曲』でもいかんなく発揮されています。またこのことは、”余白のある音楽・そぎ落とした構成”と表現した同作品にもつながります。持続音を減らすことで音厚になりすぎず、減衰音と同じ効果を期待できるパーカッションをふくめ巧みにオーケストレーションしているからです。

Blog. 次のステージを展開する久石譲 -2013年からの傾向と対策- 2 より抜粋)

 

 

2019.1.9追記
三井ホーム「広告ライブラリー」(上記紹介)にて新しい動画公開。同じ曲が使用されている。

「TOP OF DESIGN」 人生を築く家 湖畔篇 (30秒)
「TOP OF DESIGN」 人生を築く家 湖畔篇 (15秒)

 

 

 

 

 

Info. 2016/06/10 五嶋みどり IECP報告コンサート 久石譲「MIDORI SONG」初演予定

ミュージック・シェアリング理事長五嶋みどりと、ICEP(インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム)メンバーの若手演奏家による弦楽四重奏をお楽しみいただけるコンサートです。今年のICEP報告コンサートは、現在、全国に参加を広めている「楽器指導支援プログラム」を中心に活動をご紹介します。

久石譲氏が当法人と五嶋みどりの夢の実現に想いを込めて作曲された『Midori Song』をICEPメンバーで初演します。

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Info. 2016/Jul. Aug. Oct. 久石譲2大コンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」「ミュージック・フューチャーVol.3」開催決定!!

久石譲のふたつの異ったタイプのコンサート、『ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016』と『ミュージック・フューチャー Vol.3』が今年も開催される。

『ワールド・ドリーム・オーケストラ』は2004年に久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が始めたプロジェクトで、今年で10回目を迎える。2014年以来続けて来た同コンサートでのテーマ、「鎮魂」と「祈り」の最終章として、久石が書き下ろす壮大なシンフォニーを世界初披露。しかも今年はAとBのふたつのプログラムを用意。Aプロは宮崎駿監督作品の楽曲を交響組曲にするプロジェクトから第2弾「もののけ姫」を初披露、Bプロでは「天空の城ラピュタ」と「ハウルの動く城」を演奏。会場によって演奏プログラムが違っており、東京はAとBのプログラムが2日間に渡って演奏される。『ワールド・ドリーム・オーケストラ』ツアーは7月29日の長野を皮切りにWDO過去最多となる国内9都市で10公演行われる。 “Info. 2016/Jul. Aug. Oct. 久石譲2大コンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」「ミュージック・フューチャーVol.3」開催決定!!” の続きを読む