Disc. 久石譲 『家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック』

2016年3月9日 CD発売 UMCK-1538

 

2016年公開 映画「家族はつらいよ」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

国民的映画 『男はつらいよ』から『家族はつらいよ』

「男はつらいよ」シリーズは、1969年から1995年まで計48作品にわたって公開された、国民的シリーズ映画。観客動員数はのべ8000万人以上、時代が変わっても色あせない永遠の喜劇として、現在も多くの人に愛され続けています。本作は、その「男はつらいよ」の生みの親である山田洋次監督が、新たに取り組んだ喜劇作品。日本中に笑顔と感動を届け続けた”寅さん”に通じる家族の物語が、ついに到来します!

 

映画「東京家族」(2013)のキャスト8人が再結集。「この最高のアンサンブルで、今度は現代の家族を”喜劇”で描きたい」という山田洋次監督の強い想いの下に、新たに豪華キャストも加わり、このメンバーでしか紡ぎ出せない最高の喜劇が完成。

 

 

コメント

今までコミカルな場面の音楽を作曲することは多々ありましたが、本格的な喜劇は初めてでした。喜劇映画の音楽は、どうしても伴奏音楽になりがちです。テーマ曲やその他の旋律がしっかりと劇に絡み、単なる伴奏ではなくきちんと映画と融合する音楽を目指しました。ホンキートンク・ピアノ(※)を使ったところ、山田監督も気に入られ、結果、その音が本作の色にもなったのがとても嬉しかったです。喜劇というのは、ある意味、悲劇の裏返しだと思います。ドタバタの中でも人間の哀しみが滲み出るような、俯瞰で見る神のような視点も必要。その点でもうまくいったと思います。

※1930~40年代頃のジャズの前身の頃によく使われ、少しチューニングが狂ったような調子っぱずれの音色を出す。

(コメント ~映画「家族はつらいよ」劇場用パンフレット内 久石譲コメントより)

 

家族はつらいよ パンフレット

(パンフレット)

 

 

山田洋次×久石譲のタッグは、「東京家族」(2013)、「小さいおうち」(2014)に続いての3作目。山田洋次監督の20年ぶりの喜劇に対して、久石譲にとっても本格的な喜劇映画の音楽担当は初となる。

楽器編成のクレジットにもあるとおり、ホンキートンク・ピアノやパーカッションを効果的に使用した、小編成かつ短いモチーフの楽曲構成となっている。

 

 

補足

豪華俳優陣は『東京家族』(2013)と同キャストの再集結であり、久石譲の音楽担当も『東京家族』『小さいおうち』に続いて3作目となる。なお撮影は2014年9月から11月に行われている。また第28回東京国際映画祭(2015年10月開催)にて上映されている。

このことからも久石譲音楽制作は2015年前半もしくは2014年にはすでに完成していることになる。いよいよそれを聴くことができるのが2016年3月ということである。

 

 

家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック 久石譲

1. はじまり はじまり
2. 家族はつらいよ オープニング
3. なんだこれ
4. 憲子さん
5. 八つ当たり
6. ご帰宅
7. ラブ・ストーリー
8. ヒガイシャ
9. 夫婦になりたい
10. 探偵事務所
11. 心配
12. こりゃどうも
13. 哀れな父さん
14. 潜入調査
15. ま・さ・かの再会
16. 級友
17. 本気なのよ
18. やけ酒
19. 家族会議
20. 富子の告白
21. サラリーマン
22. 髪結いの亭主
23. これが目に入らぬか!
24. ためらい
25. もしものとき
26. 孫
27. 「ハーイ」
28. 空っぽの部屋
29. 義父へ
30. 周造の告白
31. 家族はつらいよ

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Yuna Okubo
Clarinet:Masashi Togame
Bassoon:Mina Higashi
Trumpet:Sho Okumura
Trombone:Kanade Shishiuchi
Percussion:Marie Oishi
Guitar:Akira Okubo
Bass & Contrabass:Jun Saito
Drums:Yuichi Togashiki
Piano & Honky Tonk Piano:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Info. 2016/03/09 久石譲「家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック」 発売

2016年3月12日~全国ロードショー公開される山田洋次監督が贈る、待望の喜劇「家族はつらいよ」のオリジナルサウンド・トラック盤。

『男はつらいよ』シリーズや『たそがれ清兵衛』などの名匠・山田洋次監督によるコメディードラマ。結婚50年を迎えた夫婦に突如として訪れた離婚の危機と、それを機にため込んできた不満が噴き上げる家族たちの姿を描く。

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Blog. 映画『小さいおうち』(2014) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/3/6

2014年公開 映画「小さいおうち」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:松たか子 他

 

映画公開にあわせて販売された映画公式パンフレットより久石譲インタビューをご紹介します。

 

 

インタビュー
音楽 久石譲

この映画の真の主人公はタキ。
彼女が生き抜いてきた時代や心の中に抱えてきたこと。
タキの”目線”を中心に、音楽全体を構成しました。

-山田洋次監督作品を担当なさるのは、『東京家族』に続いて今回が2度目ですね。

久石:
『東京家族』の時は、初めての山田監督作ということで、こちらも少し緊張していた部分があったと思います。今回は打ち合わせの最初の段階から、とてもスムーズに作曲が進みました。あまりにスムーズなので、逆に心配になったくらいです(笑)。映画音楽全般について(『東京家族』公開後の2013年1月に)山田監督と国立音楽大学で対談させていただいたことも、監督とのコミュニケーションを深めるという点でプラスに働いたのではないかと思います。

 

-今回の『小さいおうち』は、前回にも増して音楽の曲数が多いと思いました。

久石:
単純に、本編の内容から出てくる違いです。『東京家族』は非常にシリアスな内容の作品でしたので、音楽を少なめにした方がよいという判断がありました。それに対し、『小さいおうち』はラブストーリー的な側面が強い作品ですから、音楽も当然増えてきます。山田監督からも「今回は音楽を多くしたい」という要望をいただきました。それと、「非常に甘みのあるメロディが欲しい」という要望も。

 

-物語の時代背景に関しては、いかがでしょう?

久石:
特定の時代色を音楽で表現するというよりは、昭和から平成までを生きる、ひとりの女性の”目線”をクリアに出す方が重要だと考えました。物語の中では、女中のタキよりも、小さいおうちの住人の方が活発に行動していますので、普通ならばおうちの住人を中心に音楽を付けたくなります。しかし、この映画の真の主人公は、倍賞千恵子さんと黒木華さんの二人一役で演じられるタキです。彼女が生き抜いてきた激動の時代。彼女が心の中にずっと抱えてきたこと。そのタキの”目線”を中心に、音楽全体を構成すべきだと。

 

-それが、冒頭の火葬場で流れてくるメインテーマですね。

久石:
本編全体を見てみると、最初はタキの葬儀の場面から始まり、ラストシーンもタキがある重要な役割を果たしています。平成から激動の昭和へ、たとえ物語の時空が自由に飛んだとしても、タキの”目線”だけは変わらない。そのタキの”目線”のテーマ、わかりやすく言えば、タキの”運命のテーマ”です。ただし、そのメインテーマだけだと音楽全体が非常に重くなってしまうので、もう1曲、別のテーマを作曲しました。

 

-アコーディオンで演奏されるワルツのテーマですね。

久石:
こういう作品にワルツが似合うかどうかはともかく、結果的には、ワルツによって”昭和という時代に対する憧れ”や、”小さいおうちの住人に対する憧れ”を表現できたのでは、と思っています。昭和ロマンに憧れるワルツ、という意味では、松たか子さん演ずる”時子のワルツ”と呼んでよいのかもしれません。その”時子のワルツ”と、メインとなるタキの”運命のテーマ”のデモ2曲を最初に作曲したところ、山田監督から早々にOKをいただきました。

 

-スコアの中では、ダルシマーのような民俗楽器が使われていたのが印象的でした。

久石:
演奏に際して”色のある”楽器が欲しいと思ったのです。というのは、山田監督の作品では、台詞が非常に重要な役割を果たしているので、台詞が聞き取りやすくなるよう、音楽もできるだけ(オーケストレーションを)厚くしないで書く必要がある。そのため、ダルシマーのような、音色に特色のある楽器を意図的に使っています。

『小さいおうち』の作曲を通じて強く感じたのは、山田監督自身がこれまでの作風から大きく変わろうとなさっているのではないか、ということです。今までの作品は、どちらかというとヒューマンな家族愛をテーマにされることが多かった。ところが今回は、もっと個人的な愛を表現するような方向に、監督が足を踏み出されているのです。ある意味で”色気”を感じさせる。そうすると、作曲する側もどんどん音楽を入れる余地が生まれてくるのです。

(映画「小さいおうち」劇場用パンフレット より)

 

小さいおうち パンフレット

 

Blog. 映画『東京家族』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/3/4

2013年公開 映画「東京家族」 山田洋次監督50周年記念作品
監督:山田洋次 音楽:久石譲

山田洋次監督と初タッグとなった作品です。

 

過去にも雑誌インタビューや山田洋次監督との対談など、さまざまな久石譲インタビュー内容があります。ここでは映画公式パンフレットに掲載された久石譲インタビュー内容をご紹介します。

 

 

インタビュー

音楽が少ないからこそ、そのなかで、効果的な変化をつける。

-これまでの久石さんの映画音楽のアプローチは音と画を拮抗させ、そのぶつかり合いのなかから某かのものを醸し出す方法論が多かったと思いますが、今回は驚くほど奥に引いています。それはある意味、挑戦だったのではないでしょうか?

久石:
そうですね。まず台本を読んだ段階で、今回はあまり音楽を前に出さず、包み込むようなものが良いだろうとは思ったんです。山田監督とお話させていただいた時も「空気のように、劇を邪魔しないものを」という注文がありました。現にラッシュ(撮影済みで未編集のフィルムや映像)を観ても音楽が入る余地が全然ない(笑)。これはもう劇を受け止めるような音楽を書かなければ駄目だなと。

 

-山田監督とは、これが初めてのお仕事ですね。

久石:
ええ。ですので山田監督とは何度もお話させていただいたのですが、そのなかでさりげなく、例えば僕の映画音楽の先生でもあった佐藤勝さんがおやりになった『幸福の黄色いハンカチ』(77)の音楽は良かったですね、とふると「いや、今回は違うんだよ」(笑)。つまり山田監督のなかで音楽プランは明快で、もはや『幸福の黄色いハンカチ』のクライマックスを盛り上げる音楽すらいらないんだと。僕は劇伴(映画音楽の劇中曲を指す業界用語)という言葉が大嫌いなのですが、要は劇の伴奏的に場面を盛り上げる音楽を監督は一切排除されている。だから音楽を入れる場所を探すのに時間はかかりましたけど、監督ご自身にブレが全くなかったので、とてもやりやすかったですね。

 

-冒頭のメインタイトルの後、次の音楽が流れるまで20分ほどかかります。全体の曲数の少なさにしても、久石さんの映画音楽キャリアとして記録的なのでは?

久石:
おっしゃる通りです(笑)。

 

-しかし、少ないながらも入る箇所は的確で、音楽が流れるごとにあの老夫婦の心情と呼応し支え合い、じわじわと相乗効果がもたらされていくのがわかります。

久石:
最終的にはお母さんが亡くなり、お父さんが独り残される。そのことをメインに据えて、そこに至るまでをどう行くかというのが、今回はプランとして非常に大事でした。例えば病院の屋上でお父さんが次男に「母さん、死んだぞ」と言うところまでは、ピアノを一切使ってないんですよ。逆にその後からは、ピアノを自分で弾いています。音楽が少ないからこそ、そのなかで効果的な変化をつけたかったんですね。

 

-エンドタイトルでは一転して音楽がカーテンコールのように高らかに鳴り響くのもいいですね。

久石:
エンドタイトルは山田さんが「今まで抑えてもらっていた分、ここは好きなだけ盛り上げてください」と。もっとも、ここだけそんなに盛り上げるわけにもいかないだろうと思って(笑)、ああいう感じになったんですけどね。

 

-『東京物語』(53)が「人生は無である」と説いた映画だとすれば、『東京家族』は「人生は決して無ではない」と説いている映画だと思います。だからあのお父さんが独りになって終わるラストも、厳しくはあれどこか明るい感触を受けますし、エンドタイトルの高らかな音楽はその後押しとして、観る者まで前向きな気分にさせてくれます。

久石:
そういう風に捉えていただけると嬉しいですね。僕も『東京物語』は大好きな映画なのですが、『東京家族』はそれと同じストーリーラインではありながら、やはり山田監督独自の世界観でしたので、こちらも特に意識することはなかった…と言いますか、先ほど申しましたように意識するどころではないほど大変だったわけです。今回は本当にオーケストラを薄く書いているんですけど、痩せないように書く方法とでもいいますか、その作業も難しかったし、40秒の曲を書くのに普段の3分以上の曲を書くのと同じ労働量を必要としました。でもその代わり、新しい技もいくつか開発しましたので、もう次からは何が来ても怖くない(笑)。何よりも今回は憧れの山田作品に自分の音楽を入れさせていただくことができたわけですから、本当に光栄でした。

(映画「東京家族」劇場用パンフレット より)

 

東京家族 久石譲 山田洋次

 

 

Info. 2016/03/11 [TV] 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 WOWOW再放送

2015年夏8年ぶりの全国ツアーとなった「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2015」。ツアー直後の2015年9月にWOWOWにて放送されたコンサート収録映像。その後再放送があり、2016年3月再び再放送されます。

久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA 2015
2016年3月11日(金) 10:00- WOWOW ※再放送

同番組は2015年9月23日WOWOWライブ「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA 2015」と同内容です。

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Info. 2016/03/01 [雑誌] 「目の眼 2016年4月号 No.475」 久石譲連載「美の仕事」 発売

骨董や古美術を通して日本の美意識を紹介する月刊誌『目の眼』。2015年8月号からリレー連載「美の仕事」の担当がはじまった久石譲。第2回が3月1日発売「目の眼 2016年4月号 No.475」に掲載されます。

久石譲は1年間で計3回の連載担当を予定していますが、今回はその2回目にあたります。他のリレー執筆陣は脳科学者の茂木健一郎さん、作家の曽野綾子さん、 デザイナーの原研哉さんと個性豊かなラインナップで、毎号「美の仕事」をテーマに連載されています。

 

月刊 目の眼 2016年4月号 No.476

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Blog. 映画『奇跡のリンゴ』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/28

2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他

 

映画公開にあわせて、映画館等で販売された公式パンフレットより、久石譲インタビューをご紹介します。

 

 

コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。

-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。

久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。

 

-中村監督とのお仕事はいかがでしたか。

久石:
ノー・ストレスでした。最初に話し合いをさせていただいたときに、音楽の考え方の基本ラインがほぼ同じだったので、監督がどう音楽を扱おうとしているかについて悩むことはありませんでした。中村監督はご自身で脚本を書かれますから、全体の設計が明快なんです。多くの映画の場合、導入部でキャラクターや映画のトーンを語るのに30分くらいかかるものなんですけど、中村監督は十数分でやってしまわれる。そういう歯切れの良さ、語り口の潔さは台本の段階から感じましたね。これは見事だなぁと。ですから、これはいける、という手応えが最初から感じられましたし、音楽的にも入りやすかったですね。

 

-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。

久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。

(映画「奇跡のリンゴ」劇場用パンフレット より)

 

奇跡のリンゴ パンフレット

 

Blog. 映画『悪人』(2010) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/26

2010年公開 映画「悪人」
監督:李相日 音楽:久石譲 出演:妻夫木聡、深津絵里 他

第34回 日本アカデミー賞 最優秀音楽賞も受賞した作品です。

 

映画公開時、劇場で販売された公式パンフレットより久石譲インタビューをご紹介します。

 

 

INTERVIEW

事前に手の内を明かさないように、
ニュートラルな位置から映画を推進していきたかった。

-久石さんの音楽が、映画を観る手助けをしてくれていると感じました。特に、祐一に対して。なぜか、やさしい気持ちで祐一を見つめていられる。でも、簡単に救いを与えているわけではなくて。負担を軽減してくれるというか、高度な音楽作用だと思いました。

久石:
祐一は殺人者だけど、誰もがなりえてしまう。若くて、思い通りに生きられない、大勢いる人たちのなかのひとりでもある、でも、それを音楽が肯定してもいけない。やっぱり罪を犯しているわけですから。距離はとる。けれども、彼が持っている孤独感や共感できる部分は、この映画のメインテーマになるだろうと思いました。あまり饒舌にもならず、たえず揺れる祐一の気持ちとシンクロしていくために、同じ音階を繰り返すミニマルな曲調を選びました。

 

-映画と音楽の距離感が絶妙です。

久石:
気持ちを煽ってしまうと、すごく安っぽくなってしまうから。あと、難しかったのが、この映画は後半、群像劇になる。房枝にしても、佳男にしても、それぞれがシチュエーションのなかで自分を乗り越えていく。一方、(祐一と光代の)ふたりの主人公は、逃避行がはじまってから、ドラマがなくなる。でも、最後には、祐一のテーマをメインにした、少しメロディアスなふたりの愛のほうに焦点を絞っていったほうが結果、観る側はこの映画にストレートに入れる。あの夕陽を見て終わっていく瞬間に、「これはふたりのラブストーリーだったんだ」ということが明確になってくれれば、観やすくなるんじゃないかと。そこに神経を使いました。

 

-だから、あのラストが効くのだと思います。

久石:
ラストの曲は、救い、じゃないんです。レクイエムでもない。ある種の救済的なぬくもりはある-でも、あったかいわけじゃない-それがあることで音楽的な構造は非常に明確になるんじゃないかと思いました。

 

-あのラストが、いわば「到着」の感慨をもたらすのは、序盤で流れる音楽が、それこそ山道の急カーブを祐一が駆る車の走りのように、どこに連れて行かれるかわからない、あらゆる「予感」だけが乱れ絡み合うドライブ、つまり多様なファクターの集積になっているからだと思います。

久石:
ある種のサスペンス。どうなっていくの? というニュアンスは絶対必要。でも、メロディアスに「これはラブロマンスですよ」と伝えるのもまったくの嘘。悲劇性が強すぎても駄目。つまり、事前に手の内を明かすような真似をしたらいけない。たえず、何かが繰り返されている。気持ちが増幅されていくかもしれないし、不安も増強されていくかもしれない。どちらにもいない、ニュートラルな位置から映画を推進していきたかったんです。

 

-あの雑多な「予感」は、全体に流れていますね。

久石:
李(相日)監督も(あの曲を)すごく気に入ってくれて。結果、今回は、ギリギリまで無駄をはぶいた構成になりました。

 

-徹底された?

久石:
そうですね。日本映画でここまで(曲のトーンを)抑えて作ったのは久しぶりですね。自分としても、「いつもだったら、こうしてしまうな」というところも全部、抑えて抑えて作った。結果的に、いままでやったことのないかたちにチャレンジができました。たいていの場合、音楽は、ある部分の感情だけを刺激するのはものすごく得意。でも、(それが何か)はっきりとは言わないで、押し上げていくようなことは難しい。音楽はどうしても、色を決めてしまうのが速い。でも今回はそこを極力避けるようにしましたね。あとは、音楽が映像と共存しつつも、映像から一歩退いたところで支えていく。たぶん、映像と音楽が(ドンピシャと)ハマってる箇所は一個もない。唯一の笑顔であるラストカットへのアプローチもやはりそうです。

 

-音楽そのものの可能性を追求された結果、日本映画というより世界映画と呼ぶべき作品が完成したと思います。

久石:
最も重要なのはクリエイティヴィティ。とにかく徹底的に「ほんもの」を作る。それだけです。我々はもっと危機感を持つべき。たえず挑戦するべき。この映画は間違いなく、世界に向かって放つことができるレベルの作品になったと思います。

 

-最後に。『悪人』というタイトルをどう捉えましたか。

久石:
人間。そう解釈しました。

 

(取材・文/相田冬二)

(映画「悪人」劇場用パンフレット より)

 

悪人 パンフレット

 

Blog. 映画『マリと子犬の物語』(2007) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/22

2007年公開 映画「マリと子犬の物語」
監督:猪俣隆一 音楽:久石譲

2004年の新潟県中越地震、実話を描いた絵本「山古志村のマリと三匹の子犬」をもとに映画化。

公開時映画館で販売された公式パンフレット内久石譲インタビューです。地震から数週間後に控えていた自身のコンサート新潟公演、そのエピソードまでを紹介しています。

 

 

INTERVIEW

文章でいえば、最後に句読点をつける役割が、映画音楽だと思います。英語で言うところの”アトモスフィア”、つまり、そのときの空気感や状況を表現していくこと。さらに人間の心理も表現する。映画の伝えたい事をピリオドで明確にして際立たせる。それが映画音楽だと僕は考えています。

この映画の導入は難しいんです。実際に山古志で地震が起こっているわけですから。出だしから災害がある、と予感させる手法もあるわけですよね。でも、最終的に監督が伝えたいことは希望。力強く、人々を励ます導入を目指しました。ストリングス(弦楽器)でさり気なく入っていくのが常套ではあるけれど、ここではいきなりブラス(管楽器)で始まるんです。

説明的な音楽にしたくありませんでした。たとえば、親が包み込む愛情は説明できるものはありませんからね。それに意外に長尺の映画なので、甘口の音楽をつけていくと、画面が流れてしまう。激しいところは激しく、明快に打ち出し、ダイナミックレンジをなるべく拡げるという作業を意識的にしましたね。予定調和に流れすぎると、観る側のインパクトはどんどんなくなっていきますから。

音楽の最も多い分、全体をどう構成していくか正直、作曲するときは苦しみました。通常よりも時間はかかったし、なかなか大変でしたね。メロディとメロディのひき出し方、その兼ね合いにいちばん悩みました。

この映画には悪役がいません。全員善い人なんです。だからこそ音楽的にあまり平和になりすぎると単調になってしまうので、それをお客さんがハラハラしながら見ていけるようにどう立体的にするのか考えました。

王道を往くオーケストラで、正統な映画音楽をこの映画にはつけたいと思いました。まず王道がしっかりあるからトリッキーなものが作れる。今、少なくなってきているこの王道を往く方法できちんとしたものを作っておかなければ、と思いましたね。この映画に関しては、スケール感のある音楽で包み込むということ。それができた手ごたえはあります。音楽が映像に寄り添っていくようにしたいと思っていました。

あの地震のときは、僕の実家がある長野もかなり揺れたようです。ですから他人事ではありませんでした。ちょうどコンサートツアーの直前でもあり、リハーサルをしているときでした。新潟公演も控えていたのですがそのような状況下で、はたしてコンサートをやっていいものかどうか、僕自身、かなり悩みましたね。コンサートは中止しようかという話もあったんです。そうしたら長岡のファンの方から一通の手紙をもらいました。そこには「いまは希望がないけれど、コンサートは何が何でも行きます。それが希望です」と書かれていて。それでやる決心がついたんです。その結果、新潟のコンサートは僕自身、燃焼することができましたし、パーフェクトな出来だったと思います。あの日は観客との素晴らしい一体感がありましたね。

久石譲

(映画「マリと子犬の物語」劇場用パンフレット より)

 

 

Production Notes

音楽

久石譲は、東宝の実写映画に久々の登板。近年は、宮崎駿監督や北野武監督の作品、中国・韓国の作品などでおなじみの巨匠だが、かつては『タスマニア物語』など、国民映画と呼ばれる作品も手がけていた。製作サイドは、”東宝のファミリームービーは実は久石さん向きなのではないか?”と考え、依頼。快諾していただいた。なお、猪俣隆一監督は大の久石ファン。冒頭、タイトルが出るまで延々音楽が流れる想定で撮影。久石自ら「音楽映画」と呼ぶほど、その楽曲を存分に鳴らしまくった。また、久石が作曲を手がけた主題歌「今、風の中で」を歌うのは平原綾香。実は平原は、中越地震とは縁が深い。震災後、FM長岡へのリクエストが相次いだことからデビュー曲「Jupiter」が”復興ソング”のように親しまれることとなり、2005年の長岡花火大会では、同曲を現地で熱唱しているのだ。今回の「今、風の中で」は被災者の方々に捧げられた1曲である。

(映画「マリと子犬の物語」劇場用パンフレット より)

 

 

久石譲インタビューにもあったように、地震が起こった2004年10月23日、その直後に行われたコンサートツアーは以下のとおり。

Joe Hisaishi Freedom Piano Stories 2004

[公演期間]32 Joe Hisaishi Freedom Piano Stories 2004
2004/11/3 ~ 2004/11/29

[公演回数]
全国14公演
11/3 相模原・グリーンホール相模大野
11/5 横浜・横浜みなとみらいホール大ホール
11/6 新潟・新潟市民芸術文化会館コンサートホール
11/9 名古屋・愛知県立芸術劇場コンサートホール
11/10 長野・長野県県民文化会館
11/12 広島・広島厚生年金会館
11/13 滋賀・びわ湖ホール
11/16 札幌・札幌コンサートホールKitara
11/18 埼玉・川口リリアメインホール
11/19 大阪・ザ・シンフォニーホ-ル
11/22 宮城・宮城県民会館
11/23 東京・Bunkamuraオーチャードホール
11/26 福岡・福岡シンフォニーホール
11/29 東京・東京オペラシティ

[編成]
ピアノ:久石譲
弦楽:アンジェル・デュボー&ラ・ピエタ
パーカッション:安江佐和子/二ツ木千由紀

[曲目]
【My Lost City】
1920~Madness
Two of Us
Tango X.T.C.

Quartet

【ETUDE2004 (for Pf,Vn,V Cell,Perc)】
夢の星空
Silence
a Wish to the Moon

【Freedom】
人生のメリーゴランド
Ikaros
Spring
Fragile Dream
Oriental Wind

【My Favorites】
Cave of Mind (弦楽合奏)
(候補曲)鳥の人 風のとおり道 もののけ姫
Asian Dream Song

—–アンコール—–
a Wish to the Moon
Summer
Kids Return
アシタカとサン (新潟)

 

新潟県中越地震からちょうど2週間後に日程が組まれていた新潟公演。公演前の経緯や公演の様子は上のインタビューにあるとおりで、実際に新潟公演のみアンコール曲が1曲多く演奏されています。

最終公演日でもない、新潟公演にて「アシタカとサン」が、久石譲によるピアノソロにて新潟の人たちに届けられた記録です。

 

マリと子犬の物語 パンフレット

 

Blog. 映画『トンマッコルへようこそ』(2005) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/20

2005年公開 映画「トンマッコルへようこそ」
(原題:Welcome to Dongmakgol)
監督:PARK Kwang-hyun パク・クァンヒョン 音楽:久石譲

 

久石譲にとって初めて手がけた韓国映画となる本作で日本人として初となる第四回大韓民国映画大賞最優秀音楽賞を受賞。もちろん日本人としては史上初の快挙。さらに、韓国のアカデミー賞ともいわれている権威ある映画賞である大鐘賞でも最優秀音楽賞にノミネートされました。

映画「トンマッコルへようこそ」劇場用パンフレットに掲載されたパク・クァンヒョン監督と久石譲の貴重な対談です。

 

 

対談:パク・クァンヒョン監督 × 久石譲

2005年の韓国映画界で最大の収穫になった『トンマッコルへようこそ』。神に祝福されたような成功ぶりだが、実は製作時点では問題が山積し、公開されるまでは”呪われたプロジェクト”とさえ陰で呼ばれていたという。監督自身、3年におよぶ製作のどの段階でも苦労が絶えず、何度も「もうあきらめたい」と思った、と語る。だが、それほどの難産だったデビュー作で、音楽監督を久石譲が引き受けてくれたことは、何よりの奇跡だった。2人のコラボレーションの成果は、完成作品が何よりも証明している。久しぶりに再会する2人の嬉しそうな笑顔、つきない話に、周囲の空気まで温かで穏やかなオーラに満たされた。

 

パク・クァンヒョン:
大学時代から久石先生の音楽の大ファンでした。『菊次郎の夏』の美しい旋律も、『ソナチネ』のエネルギーに満ちた音楽も、もちろん宮崎駿作品の音楽も、本当に心酔しています。最初にお会いしたときはファン丸出しで、持っているCDすべてにサインしてもらいました(笑)。すごく緊張して行ったのですが、とても優しい笑顔で迎えてくださって、そのことにまた感動しました。一瞬、目の前にいる人が本当の巨匠であることを忘れてしまうほど、心優しい笑顔だったんです。

久石譲:
僕がまず思ったのは、「俳優になってもいいぐらいかっこよくて若い人だ」でした(笑)。でも、いざこの作品のビジョンを話し出すと、止まらない。細部にいたるまで明快なアイディアを持っている。これぐらい強い思いを持っている作品なら絶対にいい映画になると確信しました。それに、監督も新人だし、スタッフもみんな若いと聞いて、それなら予定調和な作業ではなく、エネルギーに溢れた現場になるだろうというワクワクする期待感も持ちました。

パク・クァンヒョン:
今回一緒に作業してわかったんですが、どうやら私たちはどちらもビジネス感覚に欠けていて(笑)、確か事前の打ち合わせでは、「だいたい17曲ぐらいでしょう」ということだったはずですが、やっていくうちに曲数がどんどん増えていきました。久石先生が「ここにも曲をつけようか」とおっしゃって、私も「いいですね」と答える、そんなやりとりをしていくうち、結果的に34曲になりました。最初はオーケストラも小規模なものを考えていましたが、先生が70人編成にしたいと提案してくださったんです。以前に宮崎作品のDVDの特典映像で、久石先生がオーケストラを指揮していて、それを宮崎監督が後ろに座って見ている場面がありました。それを見て以来、「宮崎監督みたいに後ろに座って久石先生が僕の映画のために指揮するところを見る」というのが夢の一つになったんです。目の前で久石先生が汗をかかれて何度もTシャツを着替えながら指揮しているところを眺めていたら、「ああ自分の夢が今かなっているんだ」と思って、鳥肌が立つほど感激しました。

久石譲:
映画は、どこに音楽を入れて、どこには入れないか、それを判断することも大事な作業です。この作品の場合、戦争の話ではありながらファンタジーの要素があるわけで、場面場面を引き立てたり雰囲気を伝えるために音楽を入れる場所を考えていったら、結果的に34曲になりました。オーケストラの規模にしても、作品の内容が要求したからですよ。これだけの話になるとスケール感も必要だし、より深い感情を表現するために二管編成は必然でした。重厚さ、弦の優しさがほしかったし、特殊な楽器を使うことで不思議感を出すことも狙いました。この作品の曲は、沖縄のスタジオに10日間ぐらいこもって集中してつくりました。毎日、海を眺めながら、真冬の戦闘シーンに曲をつけていたわけです(笑)。例えばチョウチョのシーンの旋律は、実は沖縄の音階を取り入れているんです。不思議な感じが出せて、いい効果になったと思います。

パク・クァンヒョン:
一方で、例えばイノシシのシーンは、原始的なリズムで力強いエネルギーを感じるとともに、胸が高鳴るような喜びの気持ちも表現されています。どの曲も大好きですが、どしゃ降りの雨の中ヨイルが自分の汚い靴下を脱いで少年兵の顔を拭う場面がひときわ好きです。胸に響くと同時に、気持ちがよくなります。本当に、音楽のおかげで作品全体に神秘性と深みが増しました。

久石譲:
イノシシのシーンは、実をいうとね、送られてきた映像を見たとき、てっきり未編集バージョンだろうって思ってたんですよ(笑)。スローモーションがずっと続く長いシーンだったから、きっと途中でノーマルスピードに変えて編集するんだろう、と。だけど、待てども待てども送られてこない。「送ったものが最終バージョンです」って言われて、正直なところぞっとしましたよ。これは大変だって。あそこが一番苦労しましたね。ところが、完成作品を見ると、監督の狙いがぴったり当たって、ものすごく力強いシーンになっていた。おかしかったのは、韓国での完成披露試写会で質問がイノシシのシーンに集中してしまって、俳優さんが「俺のことも聞いてくれよ」って(笑)。

パク・クァンヒョン:
チョン・ジェヨンさんですね。「自分は主役だと聞いていたのに、出来上がってみたら自分の場面は少なくて、イノシシやチョウチョのほうが目立ってるじゃないか」って、最初はちょっとスネてました(笑)。私が最後まで編集の判断に迷ったシーンが3つあって、イントロの部分とイノシシのシーン、それからラストの戦闘シーンでした。ずっと悩みつづけて、久石先生にもスケジュール的にずいぶんご迷惑をおかけしてしまいました。

久石譲:
確かに時間的にはきつかったけど、逆にいうと今回はそれ以外の部分での葛藤や摩擦がまったくなくて、心から気持ちよくできました。僕自身、韓国映画という初めての場にチャレンジして、自分の可能性を広げられたと思っています。監督やスタッフから、作る情熱がものすごく伝わってきて、気持ちが燃えました。

(取材・文 片岡真由美)

(映画「トンマッコルへようこそ」劇場用パンフレットより)

 

 

プロダクション・ノート

久石譲を動かした監督の熱い思い
撮影準備中、パク監督の胸にあったのは「この映画には久石譲の音楽以外は考えられない」という思いだった。それを聞いたラインプロデューサーのイ・ウナは、「ぜひあなたが必要だ」と真心をこめて手紙を書き、翻訳した脚本と共に久石に送った。久石から打ち合わせを要請するメールが来たとき、パク監督は全製作期間を通して最大の歓声をあげたという。その後、仮編集のフィルムを見た久石は、「70人編成のオーケストラで作りたい」と表明。さらに、ファイナル・カット以外の映像は見ないという原則を破り、公開の5ヵ月前に韓国を訪れ、第2次編集の映像を見てパク監督と感覚を共有する作業を行った。

「音楽のテーマは人と人の和合。深刻な場面とユーモラスな場面が交差する中、純粋なトンマッコルの村人と戦争で心に傷を負った人たちがひとつの村で暮らすことで、次第に癒やされていくという物語が非常に感動的だった」と語る久石は、当初の契約では17曲のところ、倍の34曲を完成させるなど、並々ならぬ情熱を示し、パク監督を感激させた。

2005年韓国興行成績No.1を記録
『トンマッコルへようこそ』が韓国で封切られたのは、2005年8月4日。初日に20万人を動員し、『親切なクムジャさん』を抜いて週末の興収トップに躍り出た後、口コミによって人気が広がり、公開7日目で動員200万人を突破。24日目で、『マラソン』が8週で打ち立てた500万人の動員記録を塗り替え、翌日には2005年最高の興収記録を樹立。9月初旬まで5週連続興収第1位をキープした。大ヒットを記念して、9月1日には入場無料のサービスを行い、さらに広い観客にアピール。最終的には公開89日目で800万2000人の動員を記録した。この数字は、国民の6人に1人が観た計算になり、韓国歴代動員記録で第5位にランク・インした。

賞レースでは、9月にアカデミー外国語映画賞の韓国代表に選ばれたのに続き、11月29日に授賞式が行われた第26回青龍賞で、カン・ヘジョンが助演女優賞、イム・ハリョンが助演男優賞を受賞。12月4日には、アン・ソンギの司会で授賞式が行われた第4回大韓民国映画大賞で、作品賞、監督賞、助演女優賞、新人監督賞、脚本賞、音楽賞の6部門を制覇した。さらに、2006年7月21日に授賞式が行われた韓国のアカデミー賞と言われる大鐘賞では、9部門ノミネートのうち、カン・ヘジョンが3つ目の助演女優賞を獲得した。

(プロダクション・ノート ~映画「トンマッコルへようこそ」劇場用パンフレットより)

 

トンマッコルへようこそ パンフレット