Blog. 映画『壬生義士伝』(2003) 久石譲 インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/18

2003年公開 映画「壬生義士伝」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 出演:中井貴一 佐藤浩市 他

 

滝田洋二郎監督との初顔合わせ作品です。その後2008年映画『おくりびと』にて再びタッグを組むことになります。

公開当時、劇場で販売された映画『壬生義士伝』公式パンフレットより、久石譲インタビューをご紹介します。

 

 

インタビュー
音楽・久石譲

数々の映画音楽を手がけてきた久石譲だが、本格的な時代劇は初めて。
さらに監督滝田洋二郎とも初顔合わせ。
「王道をいく映画にふさわしい音楽を作りたかった」と語る笑顔の中に、
日本映画の面白さを知る久石ならではの自信がのぞいていた。

 

-本格時代劇にチャレンジしたご感想は?

久石:
滝田監督の映画が以前から好きだったので、これはいい機会だな、と思いましたね。時代劇は『福沢諭吉』(91)でやってはいますが、いわゆる本格的時代劇にチャレンジしてみたかったんです。とはいえ、時代劇だから特に何かが違うというわけではなく、あくまで内容に即するものを作りたい。今回はいい意味でオーソドックスな王道をいく作品なので、それにふさわしい音楽をつけたいという想いがありました。具体的にはオーケストラが一番向いていると思って、そこから入りましたね。

 

-オーソドックスということで、ご苦労された点は?

久石:
時代劇と言っても、現在作っているんだという点を出さなきゃいけない。そして10年後、20年後に観ても古く感じないようにしなくてはならない。それがオーソドックスということですよね。ですから、オープニング・タイトルが出るときの和太鼓にも、シンセサイザーを入れたりしています。また、この映画には非常にいろんな”情”が出てくるんですね。男と女の情だったり、家族愛や郷土愛、友情。そこにベタベタに音楽をつけてしまうと情緒に流されやすいので、ある意味、音楽はちょっと引いた感じにしました。泣かせるところに泣かす音楽をつけるのではなく、むしろそこは引いて、精神的なものを感じるように音楽をつけていく。そこが一番大変な作業でした。

 

-メロディの美しさとあわせて、今回はリズムを強く感じました。

久石:
そうですね。アクション・シーンが結構ありますからね。ただ、通常のリズムの音ではつまらないので、非常にエスニックなリズム、たとえば和太鼓とか、アフリカや中近東の太鼓も実は入っています。あくまでこの映画の独特の雰囲気を出すために、使ったんですけれど。

 

-滝田監督の作りあげた主人公像をどう思いますか?

久石:
すごく面白かったと思います。主役ってわりと類型的になりやすいんですけれど、貫一郎は非常に人間味がある。これだけ深い主人公像を造詣できたというのは、滝田監督の手腕と、もちろん中井さんの努力の賜物。他の方々も本当にみんな実力どおりというか、のびのび演技されている。前向きな姿勢というのが、やっぱり画面に出てくるんですよね。撮影現場でそういう雰囲気を作るのは難しいんですが、滝田組はすごくいい雰囲気だったんじゃないかな。

 

-『壬生義士伝』や北野武監督のような男の世界を描いた映画と、宮崎駿監督のアニメなどを、交互に手がけているのは意識されてのことですか?

久石:
あまり気にしてないですよ。あくまで作品に対して自分がどう思うか、同時に、作品からイマジネーションをどれだけ豊かにできるか、そこが一番大切。宮崎さんのアニメーションであろうと、なんであろうと、僕の中では普通にやっているんです。でも、幅はありますよね。ひとりの人間の中にもいろんな顔がありますから。心温まる作品のときは、必然的にメロディ・ラインが大事になってきますし、突き放したような映画のときには、自分の中にもそういう部分はありますから、極力音楽がでしゃばらないように作る。共通するのは、画面をなぞるような音楽は作らない、ということ。あくまで、もしかしたら絵で表現しきれなかったものを表現する、というようにしています。音楽って非常に怖いんですよ。世界観とかムードを決定してしまうところがありますから。

 

-ご自身の監督経験は、音楽にも影響がありましたか。

久石:
簡単に言えば、功罪半ばって感じです(笑)。『カルテット』(01)を撮った直後は、監督の気持ちがわかってしまい、「ここはきっと大事にしているな」なんて思うと、音楽をやたら抑えちゃったんですよ。気づいたら、絵に音楽が近づき過ぎている。でも本来、音楽が鳴るなんて異質なんですよ。だって、日常では鳴るわけないんですから。やっぱり距離をとっておいたほうがいい、と反省しました。だから多少、監督が大事にしているシーンだろうがなんだろうが、無視しようと(笑)。お互いの軋轢から、相乗効果が生まれるようにしないといけない。どちらかが寄り添っちゃうと、そのダイナミズムは出ないな、と気づきましたね。今回は、音楽がでしゃばりもせず、けれど主張するところでは主張する、という点はうまくいった気がします。

 

-滝田監督との共同作業はいかがでしたか?

久石:
滝田監督とはコミュニケーションが非常にうまくとれました。いわゆる本当に大人の監督なんです。全ての部署にものすごいプロの方を配して、技術の方々の意見をきちんと聞く。監督というのはある意味、調整役なんですが、監督は「こういう方向で」という指示が大変明確な方で、さらにそれぞれのスタッフをすごく大事にしてくれる。その辺りのスタンスが、滝田監督らしいな、と。世の中にはもっとわがままな監督はいますからね(笑)。でも、ものを創る人はみんなわがままなものですけど。滝田監督もこだわりはありますけれど、非常に明快で悩まれることがない。とてもやりやすかったですね。

 

-最後に観客の方へ一言お願いします。

久石:
メインテーマも含めて、映画音楽の王道をいく音楽をつけたと自分では思っていますので、映像と音楽が一緒になったときのダイナミズム、あるいはサウンドトラックCDで音楽だけを聞いて、両方の楽しさを味わっていただければと思います。

(聞き手・構成 石津文子)

(映画「壬生義士伝」劇場用パンフレット より)

 

壬生義士伝 パンフレット

 

Info. 2016/02/16 映画「スイートハート・チョコレート」 支援プロジェクト and more

篠原哲雄監督リン・チーリン主演の日中合作映画「スイートハート・チョコレート」の日本全国拡大公開の為の支援を募るクラウドファンディングがNextwaves(https://nextwaves.jp/project/home/599)でスタートしました。

(2016/2/12 アイ・エム・シー株式会社)

 

◆要約◆

本作は2013年に日中合作映画として製作され、夕張国際映画祭や東京国際映画祭で上映、お蔵出し映画祭2014グでグランプリを受賞。そして第13回光州国際映画祭で最高賞にあたる審査員大賞を受賞し、アジアでスマッシュヒットを飛ばした『スイートハート・チョコレート』が、遂に2016年3月26日(土)よりシネ・リーブル池袋他全国順次公開されることが決定。

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Blog. 映画『パラサイト・イヴ』(1997) 久石譲 インタビュー 劇場用パンフレットより

posted on 2016/2/14

1997年公開 映画「パラサイト・イヴ」
監督:落合正幸 音楽:久石譲 出演:三上博史 他

 

ベストセラー原作の映画化作品。シンセサイザーを基調としたスリリングかつダイナミックな楽曲とピアノと弦による美しい旋律の対比が印象的な作品です。

公開当時、劇場で販売された映画パンフレットより、久石譲の貴重なインタビューをご紹介します。

 

 

「映像で表現しきれなかった登場人物の気持ちや背景を、音できちんと語ったつもりです」

-この映画の音楽を担当されることになったきっかけから伺いたいのですが。

久石:
落合監督とは何度か仕事を一緒にやらせてもらってまして、監督が僕の音楽が好きらしくて、コンサートに来て頂いたりとかした時に、いつかホラーをやりたいねという話をしたんですよ。それからしばらくしたら、実はということで、この話を頂いたんですよ。

 

-久石さんご自身はホラーはお好き。

久石:
映画の分野として自分の音楽がすごく生かされる分野だと思ってます。

 

-この原作はあらかじめ御存知でしたか。

久石:
すでに読んでましたので、この話を聞いた時はしめたと思いました(笑)

 

-脚本についてですが。

久石:
僕はもっとホラーに徹するべきだと思いました。ただ、たまたま他の仕事で大林監督にお会いした時に「実は今、ホラーをやってるんです」っていう話をしたら、大林さん曰く「ホラーは究極のラブロマンスだよね」って仰ったんですよね。要するに、現実の世界では何らかの理由でうまくいかなくて、片方があの世に逝っちゃたりして、そこから来る怨念のような物がいろいろ絡まってくる話だから、根底は究極のラブロマンスだと。その話を聞いてなるほどなって思いましたね。

 

-それで音楽的には。

久石:
音楽的に言うと、非常に綺麗なメインテーマをワンテーマ。後は完全なホラーサウンド。そのホラーサウンドも怖いタイプと、宗教がかった運命的な物とか、そういう使い分けで全体を構成しました。

 

-今回の音楽でのドラマ作りというのは。

久石:
落合監督の画は、波が寄せては返し、寄せては返しっていうある種の繰り返しのようにしてジワジワと来る感じなんですよ。それは僕が得意なミニマルミュージックにすごく近いんですね。だから監督が意図されたことと、僕が音楽的に設計図を引いたことがすごくいい形にドッキングしていると思います。

 

-今回の音的な部分についてですが。

久石:
恐怖を煽っていくシーンは、基本的に非常に不思議なエスニックな音とか、とんでもない生楽器ではない物を主体にしました。メインテーマに関しては、生の僕のピアノとか、クラシックのソプラノの歌手だとか、ストリングスだとか、非常に空気感のある人間的な物にして、思いっきり対比をつけました。

 

-今回の音楽のポイントは。

久石:
画面が進行していながら呼吸するように、音楽もやっぱり呼吸しているわけですよね。そうすると、これはもう僕のポリシーなんだけど、単に画面をなぞるような劇伴は一切、書いたつもりはないんです。むしろ映像で表現しきれなかった登場人物の気持ちとか背景、そういう事をきちんと語れるようにしたいと思っていて、もちろん映画にはいろんな要素があるし、映像あっての物ですから、完璧に出来たとは思ってないですけど、うまくいけたなっていう気はしています。

(映画「パラサイト・イヴ」劇場用パンフレット より)

 

パラサイト・イヴ パンフレット

 

Blog. 映画『水の旅人 -侍KIDS』(1993) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/12

1993年公開 映画「水の旅人」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:山崎努 他

一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦と小学生・悟の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督のSFX大作。サントラ演奏を担当したロンドン交響楽団を意識して作曲した大編成の勇壮なテーマ曲は、大河の如く滔々と溢れる数々のメロディと相まって、その後の久石譲の演奏会に欠かせない人気曲のひとつに。

 

 

音楽=久石譲インタビュー
「水の旅人」 音と映像のアンサンブル

-今回の『水の旅人』の映画音楽づくりは、どんなところから始められたんですか?

久石:
今回はまずふたつのポイントがありましてね。ひとつは『タスマニア物語』に続いて手掛けるフジテレビの大作ということで、その風格というか、そういう感覚、スタンスがまずある。もうひとつは、大林さんの映画の音楽をずっとやってきているということ。ここには、はっきりとした大林宣彦の世界があるわけです。フジテレビに大林さん、両方とも自分が関わってきて、それがここで一緒になっちゃったわけですよね。ですから、大作としての風格と大林作品が持っているヒューマンな部分とが、全部生かされるような音楽を一番意図したわけです。

 

-結果としてはいかがでしたか?

久石:
まずメインテーマですが、これはロンドン・シンフォニーオーケストラ85人を使って実に壮大なシンフォニーを作りました。

 

-ロンドン・シンフォニーというと『スター・ウォーズ』などを手掛けたジョン・ウィリアムズもよく使うところですね。

久石:
そうです。ですからメインテーマは男性的なメロディというか、力強いテーマですね。圧倒するぞって感じです(笑)。ロンドン・シンフォニーのメンバーも興奮してたし、喜んでましたよ。ただこうしたスケール感の大きいメロディに対して、やはりみんな久石メロディといったものを望むでしょうから、主題歌のヴォーカルの方は極力心の優しさといったものを出したつもりです。

 

-主題歌は今回中山美穂さんですね。

久石:
ええ。ヴォーカルのレコーディングもロンドンでやりました。これは映画の最後のエンディングロールで流れるんですが、メインテーマと主題歌と、共に映画音楽の顔に当たる曲を自分なりにかなりの完成度で、思い通りに仕上げることができて僕自身は非常に満足しています。

 

 

監督と音楽家の”覚悟”のデュエット

-全編にわたる音づくりの方はどうでしたでしょうか?

久石:
ふつうだとオールラッシュを見て、全体の設計図を引いてから音楽を作り出すんですけど、今回は合成シーンも多いので映像が少しずつしか来ないんです。監督のラブレター付きで(笑)。その点では全体像づくりにちょっと苦労しました。でもその代わりフィルム一巻ずつ音楽を付けていくということは、映画の流れと一緒に作っているわけです。これはまた珍しいやり方で、全編に音楽がぴったりとついている感じになるんです。今回はカット数もたいへん多いけど、同じように音楽もふつうここまで合わせるかという所まで合わせてます。そういう意味えは実にくたびれる作業をしてます(笑)。

 

-時間の制約もありますしね。

久石:
それはもうかかわっている全員が思い切り苦しい状況でしたね。監督とも何本か一緒にやってくると、できるだけ違うことをやろうとするから大変なんですね。でも今回はハナから大変ということで始めてますから、むしろお互い不思議な一致を見ることのほうが多いんです。いろんなところで考え方が一致しちゃうというか、それはすごくうれしいことだと思ってます。また、監督と以前に「才能と覚悟」という話をしたんです。才能だけあってもいいものは作れない。これからの映画づくりや芸術活動には覚悟が必要だと。で、後からまた大林さんから手紙がきまして…。

 

-それには何と?

久石:
「今回は覚悟でいきます」と決意表明があったからこれは困ったなと(笑)。というわけで、もう今回はプロの技術の極致をお互いやろうと決めたんです。大林さんもそういった要求をするし、それならば僕も絶対にそれに応えるしかないんです。だから実際すごい合わせ方ですよ。もうディズニーもメじゃないってくらいです。

 

 

2度3度見て楽しめる『水の旅人』

-久石さんから観客のみなさんに何かメッセージがあればお願いします。

久石:
パワフルで内容も濃く、たいへん実験的な映画にも仕上がっていると思います。音づくりも自分の思い通りやれましたから、是非じっくりと聴いてほしいと思います。それからどうしても『水の旅人』は、2、3回見てほしい。1回目はどうしてもストーリーを追ってしまうけど、2回目以降は映像と音楽の絡み方も含めて、きっと細かい点で別の楽しみ方もできる映画だと思うんです。そうやって見てもらえれば、僕はたいへん幸せですね。

(「水の旅人-侍KIDS」劇場用パンフレットより)

 

 

水の旅人 パンフレット

 

Blog. 映画『タスマニア物語』(1990) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/10

1990年公開 映画「タスマニア物語」
監督:降旗康男 音楽:久石譲 出演:田中邦衛 薬師丸ひろ子 他

タスマニアの大自然を舞台にしたファミリー映画。その雄大な大自然と久石譲による壮大なオーケストラによるメインテーマが印象的な作品です。

映画「タスマニア物語」パンフレットより、貴重な制作秘話や映画音楽についてのことなど。今から25年以上前の作品ではありますが、なるほどと唸る箇所もあります。久石譲の一貫した映画音楽に対する姿勢もそうですし、こわだりや論理・技法なども。

「ワンテーマ」で押しとおすことのでき得る、映画音楽メインテーマ曲について。興味深いです。差し引いて見てほしいのですが、ここで語っているのは1990年です。今ならそんなこと当然な手法や、映画音楽の正統な扱いやポジションも、まだ当時はかなり邪険に扱われていた時代です。

いい映画とは?
いい映画音楽とは?

そういった視点で読んでみてもおもしろい内容だと思います。

 

 

これぞ、正統的な映画音楽の王道です。

いろいろと調べてみましたが、バリ島だったらガムラン、インドだったらシタールのように地域差を出すためのエスニックな楽器というものが、オーストラリアにも、タスマニアにもない。オーストラリア民謡ってないんですよ。この音を聞いたら、それだけで、オーストラリアのイメージがパッと浮かんでくるような音がなかったので、ひたすら広大な大陸を連想させる、スケールの大きなシンフォニー・サウンドに徹した方がいいと思いました。

今回の音楽は、とんでもなく手間暇をかけているんですよ。1曲が4分近くあって、長い。本当に画面と、どこまで密接して作るか考えて、洋画に近い作り方をしたなあという気がします。例えばセリフが一言あるとすると、そのセリフによって、音楽が反応する。コンピュータを駆使して、5秒間に14フレーム、ピシッと入れて、4分間連続して音楽が入る。それが全部で20数曲あるという。これ以上はないほど、正統的な映画音楽の王道をゆくものになったと思いますよ。今まで僕が手がけた映画音楽の中では最大規模でやらせてもらいました。

基本的には、メインのワンテーマだけは前面に押し出して作りました。いい映画って、1曲だけで充分なんですよ。だって「ティファニーで朝食を」で、”ムーン・リバー”以外覚えていますか? 「E.T」で、あのメインテーマ以外に覚えてますか? この映画の参考のために、昔の映画を何本か見てみたんですが、みんな緻密に作ってあるんですよ。やはり、お金と時間をかけてキッチリと作っている。「E.T」にしても、あのメインテーマは、映画の3分の1以上進行しないと、出てこないんです。本当に少ない。最初に出てくるのは、自転車が空を飛ぶ場面ですからね。あのテーマは、あれだけみんな覚えているけど、そんなにひんぱんには出てこない。それほど大事に使っている。インパクトのある場面だけに、ちゃんと流すんですよ。メロディが一寸だけずつ流れる。メロディを全部キチンと流しているのは、そんなに多くない。ああいう音楽の設計の仕方、緻密さは最も大事なことです。あそこまでやらないと、映画音楽とはいえない。この映画でも、メインテーマは最初から出てこないんですよ。随所にモチーフが表れるんですが、メロディが有機的にだんだんと展開していく。それを初めて試みることができました。だから、ワンテーマで十分なんです。現在の日本の映画音楽は、みんなそうですが、メロディを4つか5つ用意すれば、3日か4日で映画音楽を作ることはできる。ワンテーマだと、よほど緻密に設計しないと飽きられちゃうんです。

画面を見ていると、これは非常に正統的な映画だと思います。田中邦衛さんの演技は、見ていても泣かせるし、全体的にも決して奇をてらっていない。特にそういう場面を用意することもなく、降旗監督は本当に大人の眼差しで、手堅く作られたという感じで、僕はすごく好きです。音楽も、それに合わせて正統的に、堂々とやりたかった。時間がなくて徹夜続きでしたが。

ただ僕自身のスタイルは全然変わらないし、監督が映画の中で何をやろうとしているのか、それに対して自分の考えを述べるのが、映画音楽のあり方でしょ。この映画の前に「ペエスケ・ガタピシ物語」をやったんですけど、あれは、わらべうたのような単純なメロディに、超アヴァンギャルド・サウンドを乗せました。それはそれで、映画へのひとつのメリハリのつけ方なんです。そういう意味では、今度はジャズ風にとか、ロック風にとか、クラシック風に作ろうとか、あんまり思わないんですよ。自分のスタイルを守りつつ、その中で、この映画だと、今回はベースドラムを入れて、ポップスっぽい扱いを全くするべきじゃない、スタイルとしては完全にフル・オーケストラで、最先端のサンプリング楽器を使って、どっちがどっちか分からないくらいに作るんです。その混ぜ具合が、作品ごとに違う。いいメロディさえ書けば、それで全て用が足りるかというと、それはそうなんですが、やっぱり同時に表現方法として、時代のテクノロジーがあるわけです。それに対して、新しい表現はどんどん出てくるわけですから、ただミュージシャンを大勢集めて、一斉に演奏してもらって、映画音楽を作るやり方には、あまり興味がありません。

(映画「タスマニア物語」 劇場用パンフレットより)

 

タスマニア物語 パンフレット

 

Blog. 映画『ふたり』(1991) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/8

1991年公開 映画「ふたり」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:石田ひかり 他

 

曲名「Two of Us」

久石譲の往年の名曲であり、コンサートでも演奏されることの多い楽曲。時にピアノ・ソロで、時にアンサンブルで、時にオーケストラでと、いろいろなバリエーションがあり、CDとしても複数のヴァージョンが残っています。

その原曲にあたるのが、映画『ふたり』主題歌として使用された「草の想い」という楽曲です。なんとも逸話の多い楽曲なのです。

  • デモ制作時点では「愛と哀しみのバラード」という曲名であった。
  • 主題歌を大林宣彦監督と久石譲のデュエット・ソングとして発表した。
  • NHKにて抜粋版放送時、音楽について、だれが歌っているのか、譜面が欲しい、テープが欲しいと、800通もの問い合わせがあった。
  • オリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて「Two of Us」というインストゥルメンタル・バージョンが完成した。
  • 90年代某人気TV番組の「ご対面/再会シーン」で流れる音楽として印象的に使用され続け、その番組のためのオリジナル作品と勘違いする人も多かったほど。

などなど、数々の逸話を残している名曲です。

 

 

映画公開当時、劇場で販売されていた映画パンフレットより、久石譲インタビューを中心にご紹介します。

 

 

音楽監督から 久石譲

ちょっと優しく

大林監督の声はとても魅力的だ。優しくて暖かで、モダンで、そう、男が男らしくいられた時代のカッコ良さがある。大林監督の手はとても大きい。その手でピアノも弾くし作曲もされる。そして驚くほど音楽が好きで信じられないほど音楽について詳しい。

大林監督にお会いしていると本当に楽しい。僕たちはこの都会の大人の社会で生活しているわけで、嫌なことや悲しいことが日々襲ってくる。でもそんなささくれだった心も、大林監督にお会いするとスッと身体の力が抜けて行き、少年の日の心が戻ってくる様な気がする。だから実は毎日でもお会いしたい。そうすればちょっと人に優しくなれるかも知れないから。

ある日、僕達はピアノの前に座っていた。すでにその映画のなかで使用するシューマンとモーツァルトの楽曲は録音を終えていた。そして僕が書いたメインテーマ用のデモテープを1~2回聞いた。ピアノで弾きだそうとした時には、すでに監督は歌い出されていた。それも音程一つ間違えないで。翌日、その歌詞が送られてきた。「昔人の心に、言葉、一つ生まれて……」映画『ふたり』の主題歌『草の想い』が誕生したのだ。

そして僕には歌手、大林宣彦さんのデビューが当然のことに思えた。でもシャイな監督は一人で歌うのを「ウーン…」と首をひねり、問わず語りの眼差しで、僕の方を振り向いたので僕も「ウーン…」と答えた。そこで奥様でありプロデューサーである恭子さんが「ふたり」なのだから「ふたり」で歌えば、という画期的な裁定を下した。大林宣彦&フレンズが歌う『草の想い』はこうして巷間に流れることになった。

映画『ふたり』との出会いはとても幸せだった。すばらしい作品を担当できるなんて音楽家にとって最高の喜びだ。中には8分台の長さの音楽が幾つかあって難しかったのだけれども、そのハードルを越えることにかえって燃えた。

クライマックスの後で、母親が父親に語りかけるシーンがある。「あなた…」「風呂はまだ…」変ロ長調のストリングスの和音が妻であり、母親である一人の女性の台詞と絡みながら徹かに聞こえてくる。静けさと優しさと愛に満ちたシーンだ。

人が人を許しあい、あるいは認めあい、喜びも悲しみも寂しさもすべてそのまま受け入れて生きていく。ほとんど宗教的とも言えるその深さは、この映画が真の傑作であることを決定的なものとしている。

僕はこの映画を3回見る事をお薦めする。1回目は友達と、そうすれば友情の有り難さが分かり、2回目は恋人と、そうすればかけがいのないものが分かり、3回目は父親と、そうすれば誰よりもあなたを愛している人が分かる。

大林監督とお会いしていると本当に楽しい。でも、忙しい監督に毎日お会いするわけにも行かないので僕は大林さんの映画を沢山見ることにした。そうすればちょっと、人に優しくなれるかも知れないから。

(映画「ふたり」劇場用パンフレット より)

 

 

イントロダクション
「ふたり」、映画、この指とまれ。

大林ムービーに欠かせないクラシック音楽の調べ。加えて、今回全編に流れる主題歌”草の想い”は、劇中、石田ひかり、中嶋朋子、島崎和歌子によって唄われ、映画を見終わった後も思わず口ずさんでしまう、美しく、せつないメロディーだが、これが監督自らの歌詞であり、映画のエンディングでも自らメロディーに乗せたナレーションとして唄われているのも話題である。昨秋、テレビヴァージョンがオンエアされるや、この主題歌についてのただならぬ反響が沸き上がり、とうとう映画公開に合わせて大林監督版、中嶋朋子版がそれぞれCDで発売された。本来がアイドル歌手でもある石田ひかり版が無いのは、彼女がこの『ふたり』において女優誕生の責務をきちんと果たしたので、『ふたり』をアイドル映画になどしないという、いわばご褒美として、女優石田ひかりは唄わないことになった。その結果、監督自らが”父親代わり”にこの物語の心の想いを伝える言葉を、語り、唄うことになった。

この一度聴いたら忘れられない魅力的なメロディーの生みの親は、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』などの映画音楽で多くのファンの心を掴んだ久石譲。大林監督の前作『北京的西瓜』(89)を映画館で見、その手づくり映画のあり方に感動し「今度、ぜひ大林さんの手づくり映画に手弁当で参加したい」とラブコールを送り、それに監督がさっそく応え、久石氏はそのまま尾道に直行、二百人に及ぶ尾道の女学生の出演者たちのオーディションの審査席に座ってしまった。そして海や山のロケハンに参加、その感動がそのままメロディーとなったもの。こうしてクラインク・イン前にすでに主題曲がつくられていたので、映画本編中いわば唄うダイアローグとして効果的に使用されることになった。全編に渡る映画音楽は、これほど映像と音楽とが幸福に出会えたことはないと思われるほどの出来栄えであるが、これも尾道の空気を共に吸い、味わったことの成果ともいえるだろう。さらに言えば監督版CDでFRIENDとして監督とふたり、陰の声で唄っているのは久石氏である。

中嶋朋子版のCD製作は、この地道に女優の道を歩む一少女への、石田ひかりとは逆の形でのご褒美である。監督はさらに映画では唄われなかった”わたし、いないの”を新たに千津子のイメージ・ソングとして作詞、久石譲のメロディーを添えて中嶋へ『ふたり』の想い出として贈った。

(映画「ふたり」劇場用パンフレット イントロダクションより 抜粋)

 

映画 ふたり パンフレット

 

Info. 2016/03/26-04/02 「久石譲&五嶋龍 シンフォニー・コンサート in 北京/上海」開催

2016年、今年の久石譲コンサートの幕開けは中国公演にてスタート。ここ数年海外公演でコンサート活動を開始している久石譲。過去2年は台北公演、今年選ばれた地は中国。北京は5年ぶり(「久石 譲 3.11 チャリティーコンサート ~ザ ベスト オブ シネマミュージック~」)、上海は6年ぶり(「アジアツアー 2010」)の開催になります。

そんな待望のコンサートに華を添えるのが、ソリストにヴァイオリニスト:五嶋龍を迎えての贅沢なシンフォニー・コンサート。待ちに待った中国ファン、スペシャルなコンサートに期待が高まります。

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Info. 2016/01/30 「久石譲 長野市芸術館グランドオープニング・コンサート」 チケット発売開始

久石譲が芸術監督を務める長野市芸術館(Nagano City Arts Center)が今年5月に開館。5月8日の杮落し公演は、久石譲指揮、読売日本交響楽団演奏による「長野市芸術館 グランドオープニング・コンサート」開催。新作「祝典序曲」の世界初演も予定。

 

長野市芸術館グランドオープニング・コンサート

日時:2016年5月8日(日)17:00開演 (16:15開場)
会場:長野市芸術館メインホール

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Info. 2016/05/08 『長野市芸術館 久石譲 グランド・オープニング・コンサート』 開催決定!

長野市文化芸術振興財団は1月18日、5月に開館する市芸術館の公演日程を発表した。芸術監督を務める作曲家久石譲さんが会見に出席し、「多くの市民が、日常で音楽に親しめる場所にしたい」と意気込みを述べた。

来年度の演目は、オーケストラやジャズ、合唱、演劇など180以上を見込んでいる。同市出身のピアニスト山本貴志さんや、ウィーン少年合唱団などの公演を予定する。 “Info. 2016/05/08 『長野市芸術館 久石譲 グランド・オープニング・コンサート』 開催決定!” の続きを読む

Info. 2016/01/24 [TV] 「題名のない音楽会」 五嶋龍特集 久石譲登場回 放送

2016年1月24日(日) 9:00-9:30 テレビ朝日系
「題名のない音楽会 -五嶋龍の音楽会-」

2015年10月ヴァイオリニスト 五嶋龍が司会を務め、リニューアルした「題名のない音楽会」。毎回様々なジャンルの音楽をアップデートして4か月経ちますが、ここで改めて五嶋龍とは、どんなヴァイオリニストなのかをこれまで五嶋が演奏してきた音楽と共に紹介します。 “Info. 2016/01/24 [TV] 「題名のない音楽会」 五嶋龍特集 久石譲登場回 放送” の続きを読む