2014年9月30日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 20 ~ラフマニノフ~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。
“Info. 2014/09/30 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 20 ~ラフマニノフ~」 久石譲エッセイ連載 発売” の続きを読む
2014年9月30日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 20 ~ラフマニノフ~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。
“Info. 2014/09/30 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 20 ~ラフマニノフ~」 久石譲エッセイ連載 発売” の続きを読む
平成21年10月23日(金)~25日(日)の期間、金沢工業大学にて「第42回 工大祭」を開催いたします。
10月23日(金)は前夜祭のため16:00~21:00
10月24日(土)・25日(日)は10:00~21:00
久石 譲 ~MUSIC is MY LIFE~
金沢工業大学公開講座 創造学
“Info. 2014/10/25 久石譲 公開講座 創造学 「MUSIC is MY LIFE」 金沢工業大学 工大祭” の続きを読む
Posted on 2014/09/27
1984年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画「風の谷のナウシカ」
映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。今では復刻版としても登場していますし、さらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても刊行されています。
今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1984年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。
「ナウシカを通して音楽を入れてみました」
-久石さんはシンセサイザーによるイメージアルバム、オーケストレーションによるシンフォニー、そしてサントラ盤のBGMと3種類の「ナウシカ」の音楽を作られていますね。
久石:
「そうです。まあ、モチーフとかメロディーは同じですけれども。最初のイメージレコードは昨年の8月から9月にかけて、原作を読んでそこから発想した音を作り上げていきました。シンセを中心にしてケーナ(笛の一種)とかターブラ(太鼓)、ダルシマ(ピアノの原型)といった民族楽器を使っています。
次のシンフォニーが11月から12月にかけての制作で、そのすぐあとにBGMのスコアを書き始めました。ぼくとしては一つのモチーフで3種類もレコードを作ったのは初めてですよ。だいたい映画のBGMまでずっと手がけるようになるとは予想していませんでしたからね。ぼくの場合はスタジオ入りの前の晩に作曲するとか、時には録音の合間に作ってしまうというやり方をしてるんで『ナウシカ』のメイン・テーマなんかもあまり苦労せずに作った感じなんですね。それが幸いにもスタッフの方たちに好評で、シンフォニーを作って、さらに映画までまかせていただいたわけで、大変幸せだと思っています」
-宮崎さんはイメージレコードが先にあったので、このシーンはこういう音楽がつくだろうというのがある程度わかっていたから、大変助かったとおっしゃっていましたね。
久石:
「いやあ、宮崎さんもそうですし特に高畑さんが音楽に大変くわしい方で、このお二人はもう異常に耳がいいみたいね(笑)。例えば最初に作った『腐海』という曲などは、後半に出てくるメロディーがドビュッシー的なので今度の映画には合わないんじゃないでしょうか──というくらいに突っこんだお話をなさるんです。曲のニュアンスがどうこうという点になると大変に熱心で、音楽の打ち合わせは毎回10時間くらい。えんえんとやっていましたよ(笑)」
-そうすると、実際に画面に流れるBGMの時が一番大変だったでしょうね(笑)。
久石:
「ええ。お二人ともメロディーはもう頭の中に入っているわけですから、じゃあこのテーマをもっと壮重な感じにして下さいとか、具体的な注文が次々に出てくるわけです。普通はある程度おまかせ的になるんですが、今回は音楽のイメージがはっきりしていますのでね」
-久石さんとしてはやりにくかった?
久石:
「ということではないんですが、大きな問題が二つあるんです。一つは、イメージが先行しテーマがたくさんありすぎるために、新しいイメージをつけ加えにくかったこと。出来上がった画面を見て、このシーンではもっとこういうふうにすればよかったとか、別のイメージが生まれてくる可能性も大きいわけですからね。それともうひとつは、作曲の段階ではオールラッシュをビデオにしたものを見ながら作っていったので、音がテレビ的に、小さな画面に合わせた感じになてしまうのではないかという危惧も生まれてきたんです」
-でも、劇場で見ると非常に映画的というか、拡がりを感じるんですが……。
久石:
「それは、そうしようと心がけましたから(笑)。でももう少しイメージを飛躍させてもよかったかなというところも、反省としてありますけどね」
-BGMとしてどこに一番注意なさいましたか?
久石:
「音楽のつけ方が普通の映画とは違う場所で入れているんですよね。感情の起伏につけるのではなく、状況的なものにつける。ユパが谷へ降りてくるシーンなんかで突然音楽が盛り上がっているでしょ?ああいうところで目いっぱい音楽を使って、そのかわりセリフの入るところや効果音の生きるところにはなるべくBGMを入れないというポリシーですね。
つまり、音楽をナウシカの目を通して入れているんです。ナウシカの感情につけるのではなく、ナウシカが見て感じるものに入れていったわけで、そうやってアニメの虚構の状況というものを浮き出させようとしたんです。わりと成功したんじゃないかと思いますよ」
(書籍「風の谷のナウシカ ロマンアルバム」より)
「ジブリの教科書 1 風の谷のナウシカ」(2013刊)にもオリジナル再掲載されています。

今から30年以上も前の作品です。
それにしては、ジブリ作品における音楽の在り方が、久石譲が音楽を担当したジブリ最新作 映画『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)のそれと同じところも多いですね。
間違いなく映画音楽の扱われ方を変えた革命的作品、そして宮崎駿監督との奇跡の出会いによる記念すべき第1作『風の谷のナウシカ』。
今観ても、今聴いてもまったく色褪せることのないその理由が少しわかったようなインタビュー内容でした。
Related page:


Posted on 2014/09/24
2014年9月23日(火・祝)17:20~19:20
WOWOW放送
「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA」
内容
「世界中にすばらしい曲がたくさんある。ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらおう」という想いをテーマに、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が2004年に立ち上げた「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」。ジャンルを超えた幅広い音楽性で人気を博した同楽団が、2011年8月の公演以来3年ぶりに復活。2014年8月に東京で行なわれたプレミアムな公演の模様をお届けする。
2013年には『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』という2本のジブリ作品に関わった久石譲。今回の公演ではそれらの楽曲をアレンジも新たな組曲として国内初演する(『かぐや姫~』の組曲は世界初演)ほか、2014年のベルリン国際映画祭で大きな話題を呼んだ『小さいおうち』の音楽も世界で初めて演奏。さらに「鎮魂の時」と題して、ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」、バッハの「G線上のアリア」などを演奏する。
8月9日にサントリーホールにて行われた公演初日の模様を18台のカメラによる迫力あふれる音楽でお届けします。そのほか、リハーサルでの様子や、久石によるインタビューなども盛り込まれる。
実際にWOWOW放送では、下記コンサートプログラム全11曲(アンコール含む)を完全ノーカットで、加えて久石譲のインタビューやリハーサル風景もまじえながらの永久保存版的内容でした。
[公演期間]
2014/8/9,10
[公演回数]
2公演(東京・サントリーホール / 東京・すみだトリフォニーホール)
[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バラライカ/マンドリン:青山忠
バヤン/アコーディオン:水野弘文(9日) 大田智美(10日)
ギター:千代正行
[曲目]
久石譲:交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 ※世界初演
【鎮魂の時】
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌
バッハ:G線上のアリア
久石 譲:ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
久石 譲:
バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 ※日本初演
「小さいおうち」
【My Melodies】
「水の旅人」
「Kiki’s Delivery Service for Orchestra」 ※日本初演
「World Dreams」
—アンコール—-
One Summer’s Day (ピアノ・ソロ)
風の谷のナウシカ (鳥の人)
実際にコンサート会場で聴く体感や臨場感にはもちろんかないませんが、18台のカメラという様々なアングルで、曲やフレーズごとに、指揮、ピアノ、オーケストラ楽器たちそれぞれズームでフォーカスした、オーケストラを堪能できる迫力あるカメラアングルでした。
さながらオーケストラ譜を視覚的にとらえているようなそんな贅沢な気分になります。
久石譲によるインタビューも、過去紹介してきた「W.D.O.2014」に関するものから新しい発言もあったりで。(これまでのインタビュー、久石譲が語ったWDO2014は最後に紹介しています)
なぜW.D.O.はその活動を休止して、今回3年ぶりに復活することになったのか。そのあたりのことが語られていました。要約して箇条書きで紹介します。
・世界中のいい音楽をオーケストラ作品として仕上げて発表していくことが当初コンセプトだった
・オーケストレーション(アレンジ)の作業に自分自身興味がなくなってきた
・自分の作曲やその曲のオーケストレーションはするけれど、他のものはやらなくなった
・コンセプト的に煮詰まってしまってそれでお休みしようと
・オーケストラが一般の人にもエンターテインメントとして楽しめて、かつひとつのテーマがある。1個は皆に訴えかけるもの、そういうコーナーをつくって、ベーシックは自分の曲を中心にやっていこうと。それで今回復活ということで始まった
・今回《広島の犠牲者に捧げる哀歌》に85%くらい時間をとられた
・クラシックコンサートのときもそうだが、自分の曲そっちのけでクラシック作品ばかり勉強するから、自分の曲が一番指揮が下手(笑)
・今年はノルマンディー上陸70周年、来年は日本終戦70周年。「どう生きるか」ということを、音楽を通じて感じてもらえれば。今年と来年は「鎮魂」というテーマで、…もし来年もやるんだったら(笑)、そういうテーマでやっていきたい
5分程度の短いインタビューでしたが、とても興味深い内容でした。最後は来年の構想もすでに!?と思わせてくれる爆弾発言的内容もあったりで。
演奏プログラムの詳細はすでにたくさん紹介していますので省略します。そしてここで!同じタイミングで「WORKS IV」の収録曲が決定しました。
久石譲 「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」
1. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢中飛行)~菜穂子(出会い)
2. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~カプローニ(設計家の夢)
3. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~隼班~隼
4. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(結婚)
5. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~避難
6. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(会いたくて)~カストルプ(魔の山)
7. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(めぐりあい)
8. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢の王国)
9. Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)
10. ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
11. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~はじまり~月の不思議
12. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~生きる喜び~春のめぐり
13. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~絶望
14. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~飛翔
15. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~天人の音楽~別離~月
16. 小さいおうち
コンサートプログラムから上のような楽曲たちが選ばれたことになります。
実際にコンサートプログラムから外れている曲は、
久石譲作品ではない《広島の犠牲者に捧げる哀歌》 《G線上のアリア》と、
という名曲たちではありますが、過去たくさんコンサートで演奏もされ、CD化もされている楽曲たちです。小さいことですが、WOWOW放送時もそうでしたが、「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」では、交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 から交響幻想曲「かぐや姫の物語」 へとタイトル改訂されています。
まとめです。
WOWOW放送詳細
演奏プログラム(全11曲)および久石譲インタビュー
「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」CD収録曲決定
収録されないW.D.O.2014プログラムは?
追記
WOWOW放送は8月9日コンサート内容
「WORKS IV」収録曲は8月9日,10日両日からのベストテイク選曲
結論
今回のWOWOW放送内容は貴重な永久保存版
願望
Blu-ray/DVD化してほしい
という流れのことが言いたい、となります。
「水の旅人」も「World Dreams」も「ナウシカ」も「あの夏へ」も、コンサート定番曲ではありますが、演奏機会が多いだけに進化したかたちに発展しています。過去のCDだけにとめておくのはもったいないですよね。
過去の名曲たちも、今の久石譲によってとらえなおされ、オーケストレーションの修正、演奏方法の修正、演奏の向上、つまりは、今の久石譲によるベストテイクが披露されていることになります。
もし今回の放送を見逃した方は、
再放送:2014年10月19日(日)7:30-9:30 WOWOWライブ
公式サイト》》》
WOWOW公式サイト:「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA」
いよいよ「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」の全貌も明らかになりました。スタジオジブリの2大巨匠最新作が1枚のCDで楽しめる!「風立ちぬ」(宮﨑駿監督)「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)サウンドトラックからの発展型組曲として音楽絵巻を楽しめる!小編成によるサントラから、フルオーケストラ作品への進化!ここが「WORKS IV」最大のセールスポイントというところでしょうか。
さらに、今月、来月と久石譲のコンサートはつづき(新しいプログラム!)、2014年は大晦日のジルベスター・コンサートで締めくくり予定です。
「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」CDジャケットも更新しています。今回書いた内容をもっと知りたい方、深く掘り下げたい方は、下記ピックアップページなどを参考にしてください。
Related page:



Posted on 2014/09/23
CD付 隔週刊マガジン「クラシックプレミアム」
久石譲による連載エッセイ「久石譲の音楽的日乗」も掲載された全50巻にもおよぶラインナップ(最終巻2015年11月予定)です。毎号ごとに久石譲のエッセイ内容は抜粋紹介しています。
そんななか「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」では、久石譲の筆休め、編集部によるコンサートレポートでした。Blog. 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(CDマガジン) レビューではすべてを紹介しきれませんでしたので、ここに完全版です。
リハーサルから本番まで、貴重な舞台裏とコンサートレポート、2014年夏復活した久石譲&W.D.O.の記録です。
ルポルタージュ 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014を聴く」
3年ぶりに久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団とによる「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が復活。8月9日・10日に東京でコンサートが行われ、リハーサルから本番まで編集部が取材した。
【8月6日 13時30分 会場入り】
リハーサルの初日。今回のプログラムは、冒頭に久石さんの交響ファンタジー《かぐや姫の物語》(世界初演)が置かれ、第1部が「鎮魂の時」というタイトルの下、ペンデレツキ《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、バッハ《G線上のアリア》、あとはすべて久石作品でヴァイオリンとオーケストラのための《私は貝になりたい》、《風立ちぬ》第2組曲(日本初演)、《小さいおうち》(世界初演)。第2部は「Melodies」として、久石作品の《水の旅人》、《Kiki’s Delivery Service for Orchestra》、《World Dreams》という構成である。
第1部の「鎮魂の時」という言葉に込めた特別な想いを感じる。世界初演、日本初演を含む久石作品の中で、《広島の犠牲者に捧げる哀歌》という表題が異彩を放つが、これはポーランドの作曲家ペンデレツキによる1960年の作品だ。8月6日は広島に原爆が投下されて69年目のまさにその日に当たる。13時55分、久石さんが大きな楽譜を抱えて登場。
【14時 リハーサル開始】
本番のプログラム順に練習するのかと思っていると、最初は《水の旅人》。久石さんが、団員たちに丁寧な言葉ながら、てきぱきと指示を与えていく。リズムの細部のニュアンスや、「このメゾ・フォルテなもっと弱く」のような強弱の微妙な調整、メロディーとハーモニーのバランスについては「ここはメロディーを立てて」、ティンパニには「もっとクリアな音を」など、どれも譜面だけでは読みとれないことばかりだ。それをひとつひとつ伝えていく作業の積み重ねで、指揮者のしごとはこんなにも大変なのかと実感。その後、第2部の作品を演奏していくが、あっという間に時間が過ぎる。14時52分から休憩。このあとほぼ1時間おきに休憩をはさんでリハーサルは進んでいく。
15時10分にリハーサル再開。《私は貝になりたい》から始まる。これはもうヴァイオリン協奏曲だ。ソロ・ヴァイオリンに聴き入る。途中、久石さんが弦楽器のクレッシェンド(だんだん弱く)の個所について話す。「これは第2次世界大戦の時、四国のある床屋さんのお話で、徴兵され時代に翻弄され……」。これまで、ずっと演奏の具体的な指示をしていた久石さんがこの音楽がつけられた映画のストーリーを語る。「ここでのクレッシェンド、デクレッシェンドは、時代の大きな波です……」。話の後、オーケストラの音は、確信をもってうねるような波を描き出し、久石さんは身体全体でOKの合図を送ったように見えた。こうやって音楽は伝わるのだ。
最後の休憩の後、《広島の犠牲者に捧げる哀歌》。強烈な不協和音に満ちたこの難曲は、通常の拍子と音符による楽譜ではないので、久石さんは1、2、3……と指で数字を示していく。曲の始まりから、団員たちのあいだに驚きと動揺が広がるが、久石さんはもつれそうになった糸を解きほぐすように冷静に指示していく。団員から次々に質問が発せられ、久石さんはそれぞれに即答。すでに久石さんの頭の中には、音楽は鳴り響いているのだ。最後に《G線上のアリア》を1回通してこの日のリハーサルは終了。18時59分。
【19時20分 楽屋へ】
楽屋を訪ねてみる。
「こんなプログラムをするって、チャレンジャーでしょ。エンターテインメントとみえるけど、かなり過激なことを試みているよね」
と久石さん。7日も同じ時間にリハーサルがあり、9日にゲネプロ(通し稽古)ののち、その日と翌10日の17時に本番だ。
【8月10日 本番を聴く】
最初の《かぐや姫の物語》では、6人の打楽器奏者が作り出す響きが衝撃的だった。リハーサルで久石さんが「ここはかぐや姫の狂乱の場。ここでかぐや姫が都を飛び出す」と言っていたところだ。次の《広島の犠牲者に捧げる哀歌》では今でも斬新なこの作品を、みな集中して聴いている。それが終わろうとして、一瞬の静寂が訪れると、そのまま《G線上のアリア》が静かに始まった。まさに混沌の中から、清冽な光が差してきたかのような瞬間だ。そして、変化に富んだシンフォニックな久石作品が続く……。
今回のプログラム全体が、壮大な交響曲のようだった。万雷の拍手。アンコールの《風の谷のナウシカ》が終わり、オーケストラの全員が舞台を降りても拍手は鳴りやまず、最後に久石さんが一人で舞台に登場し喝采に応えていた。

(「クラシックプレミアム 第19巻」より)
Posted on 2014/09/20
「クラシックプレミアム」第19巻は、チャイコフスキー3です。
第7巻ではチャイコフスキー1として3大バレエ音楽、第11巻ではチャイコフスキー2としてピアノ協奏曲第2番 他、今号第19巻ではチャイコフスキー3として、交響曲 第6番 《悲愴》 幻想序曲 《ロメオとジュリエット》が収録されています。
チャイコフスキーの「後期3大交響曲」(第4番・第5番・第6番)のなかでも第6番《悲愴》はチャイコフスキーの最高傑作とされています。そしてチャイコフスキー生涯最後の交響曲です。
《悲愴》という副題は、ロシア語では”パテティーチェスカヤ”。これは曲が完成・初演されたのちに、チャイコフスキー自身と弟のモデストのふたりが話し合って決めたそうです。
”パテティーチェスカヤ”は、従来から多くのロシア音楽学者やロシア語の専門家が繰り返し指摘しているように、ロシア語では「情熱」「魂を揺さぶる」などを意味する言葉で、「悲しい」の意味は含まれない。その点で英語の「パセティック」や日本語の「悲愴」とはややニュアンスが異なる。
こうしたクラシック音楽の副題における言葉の表現や解釈の問題は、他の作曲家やポピュラーなクラシック音楽にもたくさんあります。
今号に収録されている《悲愴》はカラヤン指揮によるものです。カラヤンは同じ作品であっても何度も録音することでも有名ですが、そんななかでも録音回数が群を抜いているのがこの《悲愴》。チャイコフスキーの《悲愴》交響曲は、その生涯に7回も録音されていて、何か特別なこだわりを感じます。今号に収録されているのは最後の録音でウィーン・フィルとのもの。解説ではこう述べられています。
「こうして録音された《悲愴》の世界は、従来の名演の世界を超えたものであり、カラヤンが自身の信仰の告白をしているかのようですらある。息遣いがまったく異なり、カラヤンがまさに《悲愴》の世界に同化し、一言一句を自身の言葉として歌い上げている。しかもそれは、驚くべき空気感の中で行われており、その完成度の高さは、もはや名演と呼ぶのも似つかわしくない、凄みを感じさせる演奏なのである。」
「それは冒頭の低弦の響き、そこに姿を現すファゴットの旋律の重い表情といったものから容易に感じられる。それは魂の告白とでも言えるものであり、ここにいたってカラヤンは一指揮者から脱皮し、音楽の心と結ばれた本当の表現者になったとも考えられる。」
【収録曲】
交響曲 第6番 ロ短調 作品74 《悲愴》
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1984年
幻想序曲 《ロメオとジュリエット》
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1982年
「久石譲の音楽的日乗」第19回は、
ルポルタージュ 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014を聴く」
今回は久石譲によるエッセイの筆休め。
なんと編集部による「W.D.O2014」コンサートのリハーサルから本番までの取材内容となっています。
3年ぶりに久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団とによる「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が復活。8月9日・10日に東京でコンサートが行われ、リハーサルから本番まで編集部が取材した。
という書き出しになっています。
【8月6日 13時30分 会場入り】
リハーサルの初日。
~省略~
13時55分、久石さんが大きな楽譜を抱えて登場。
【14時 リハーサル開始】
本番のプログラム順に練習するのかと思っていると、最初は《水の旅人》。久石さんが、団員たちに丁寧な言葉ながら、てきぱきと指示を与えていく。
~省略~
【19時20分 楽屋へ】
楽屋を訪ねてみる。
「こんなプログラムするって、チャレンジャーでしょ。エンターテインメントとみえるけど、かなり過激なことを試みているよね」
と久石さん。7日も同じ時間にリハーサルがあり、9日にゲネプロ(通し稽古)ののち、その日と翌10日の17時に本番だ。
【8月10日 本番を聴く】
最初の《かぐや姫の物語》では、6人の打楽器奏者が作り出す響きが衝撃的だった。リハーサルで久石さんが「ここはかぐや姫の狂乱の場。ここでかぐや姫が都を飛び出す」と言っていたところだ。
~省略~
こんな感じでぎっしり1ページ分レポートされています。”~省略~”が多いですが、どこを抜粋するか、どこまで書くかで模索中。せっかくの貴重な舞台裏とコンサートレポートということなので、ここから離れて単独でアップしたいと思います。書き起こしに時間がかかるかもしれませんが、これもまた久石譲の大切な記録と足跡になりますので。
⇒ Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

2014年9月20日公開予定 映画「柘榴坂の仇討」
原作:浅田次郎 監督:若松節朗 音楽:久石譲 出演:中井貴一 阿部寛 広末涼子 他
『柘榴坂の仇討 オリジナル・サウンドトラック』
2014年9月17日 発売
柘榴坂の仇討 オリジナル・サウンドトラック
音楽:久石譲
発売日:2014年9月17日
定価:3,000円+税
品番:UMCK-1493
制作:ユニバーサル シグマ
発売・販売元:ユニバーサル ミュージック合同会社
2014年9月17日 CD発売 UMCK-1493
2014公開 映画『柘榴坂の仇討』
監督:若松節朗 音楽:久石譲 出演:中井貴一・阿部寛 他
『柘榴坂の仇討』への想い
脚本を読んで最も心に残ったのは”武士としての矜持”、即ち、何があっても揺るぐことのない武士の魂でした。「メインテーマ」ではその”潔さ”を音楽でも表現しようと心を砕きました。そして仇討を表す「宿命のテーマ」と金吾とセツの「夫婦のテーマ」を含めた三つのテーマをできるだけ立体的に、観る人に広がりを感じてもらえるように構成しました。若松監督は登場人物の心の流れを丁寧に撮られていたので、音楽は芝居から一歩引いて、それぞれの気持ちに寄り添うような形で組み立てたつもりです。映像と距離をとろうと心がけたことが、ささやかな”音楽家としての矜持”だったと言えるかもしれません。冒頭の曲が書けたときに、今までにない時代劇の音楽の形を作れるのではないかという予感がありました。映像と音楽が一体となって、観客の皆さんの心に届いてくれるならば、とても嬉しく思います。
(久石譲インタビュー CDライナーノーツより)
上記インタビューにもあるとおり、一言で言えば”押しころした”音楽となっている。”寄り添う音楽” ”立体的な広がり” ”映像と距離をとる” という言葉のとおり、決してインパクトのある旋律たちではないけれども、その分観る人、聴く人の受け止め方や感じ方に委ねる音楽といえる。
小編成なオーケストラサウンドを基調とし、ひかえめながらも、そこには緊迫感や緊張感という糸がぴんと張っている。一定に刻むストリングスをはじめとして、そこには脈を打つ鼓動のような、息をころす、気配をころすといった、そして激動の瞬間を生きた登場人物たちの宿命や覚悟のようなものが感じられる。
時代の脈打ちともいえるこの一定のリズムが、ただならぬ物語の、そして歴史の1ページを浮き上がらせているよう。”今までにない時代劇の音楽” という言葉にあるとおり、まさにその時代を生きた、それぞれの武士たちの、それぞれの信念や正義、全体をとおして聴いてみると、その鎮魂曲のような響きがしてくる。
2015年4月3日発売DVD 『柘榴坂の仇討 -特装限定版-』
特典DISCにて「監督・若松節朗×音楽・久石 譲 対談」が収録されている。約30分にも及ぶスペシャル対談において、本映画の音楽について、随所にそして具体的に語られている。
【「雪」を音楽にする】
若松:
最初にオーダーしたのは、「雪」を音楽にするということ。いろいろな雪がイメージできるが、久石さんがどのような雪の音楽を作ってくるのか楽しみだった。
最初に聴いた本編冒頭のM1で驚いた。夢の中で起こる事件の話だったが、サスペンス的な音楽かなと想像していたら、久石さんの楽曲は、とても温かい音楽でまさに雪の音楽だった。
久石:
メインテーマは別にもあるが、この映画ではM1がすごく重要だったかもしれない。
いわゆる時代劇のような音楽ではないほうがこの映画にはいいと思った。時代劇とするよりは、たまたま設定が時代劇で、現在の自分たちととても近いものとしたほうが。
【秋元邸で金吾が涙を流すシーン】
若松:
音楽の止める場所とかものすごく学ぶことが多かった。
久石:
構成の問題もあって、あのあと最後の決闘シーンが控えている。登場人物たちの心情を表現するとしても、音楽はそこにとっておく必要がある。なのでこの場面はあえて突き放して音がないほうがいいと思った。
【映画音楽の作り方】
久石:
今ハリウッドでやっている映画音楽は「効果音楽」。そのシーンごとに切り取ったらぴたっとはまるけれど、全体としては残らない。そこには全体の構成がないから。
これはあまりにもデジタル技術が発達したため、つまりシュミレーションが簡単にできるようになったために起こっている現象だと思っている。
【俯瞰した音楽をつくる】
久石:
映画音楽は一般的に「状況に音楽をつける」「登場人物の心情に音楽をつける」という大きく二つの方法がある。最近はそのどちらでもなく、もう一歩引いたところから、「俯瞰して音楽をつける」ということをしている。そうすることによって作品が言いたいことがより伝わりやすくなったり、より立体的になるように思っている。
以上、インタビュー内容を一部抜粋書き起こし。

1. 悪夢
2. 夫婦
3. 敬愛
4. 予兆
5. 宿命
6. 悲愴
7. 決意
8. 本懐
9. 呵責
10. 本分
11. 安息
12. 時代
13. 前夜
14. 永遠
15. 悔恨
16. 寒椿
17. 邂逅
18. 逡巡
19. 覚悟
20. 出発
指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio
2014年9月16日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。
“Info. 2014/09/16 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」 久石譲エッセイ連載 発売” の続きを読む
Posted on 2014/09/14
2014年秋、久石譲による新しいコンサート企画が始動します。「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー」です。9月29日に記念すべき第1回が東京・よみうり大手町ホールにて開催予定です。
久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」
[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世 他
[曲目] (予定)
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡 (1978)
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための (1977/1991)
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム (1993)
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing (2007)
他
久石譲によるオリジナル曲の世界初演もひかえています。いずれもすでに発表された曲を再構成したもので、ミニマル・ミュージックが基調、つまり現代音楽の世界です。
そして世界的な現代作曲家の作品が取り上げられています。この演奏プログラム予定を知ってから興味をもっていくつか聴いてみました。ニコ・ミューリーとアルヴォ・ペルトです。今回はアルヴォ・ペルトを掘り下げます。
〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉をひかえて、
すでに久石譲は今企画のこと、そしてアルヴォ・ペルトなどの現代音楽について語っています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
現代音楽の今を伝えるコンサートを始める作曲家・久石譲
「現代音楽は難解というイメージが先行し、日本では演奏される機会が少ない。でも本当に難解なのか。最先端の作曲家の魅力的な作品を紹介することで、先入観を打ち破るきっかけにしたい」
9月29日によみうり大手町ホールで開く「ミュージック・フューチャー」はそんな思いから企画された。巨匠ヘンリク・グレツキから30代の俊英のニコ・ミューリーまで。アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」では、久石がピアノを演奏する。
「柱となっているのはミニマル音楽。現代音楽が生んだスタイルの中では、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えた。今回の演目で、そのことが雄弁に伝わるはずだ」
久石自身、国立音大在学中に、最小限の音型を繰り返すこの様式に感化された。宮崎駿監督作品をはじめ、オーケストラによる壮麗な映画音楽で成功してからも、折に触れミニマルの作品を生み出してきた。今回、その様式を踏襲した自作の弦楽四重奏第1番「Escher」を初演する。「一回限りの公演ではなく、現代音楽に触れられる場としてシリーズ化する」と語る。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
また、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ちょっと大げさだが、僕の考えでは、まずクラシック音楽は古典芸能であってはならない。過去から現代に繋がって、未来に続いていく形が望ましい。そのためにはオーケストラをはじめ演奏家は「現代の音楽」をもっと積極的に取り上げたほうがいい。作曲家兼指揮者は特にこの問題に対しては最前線にいるのだから、誰よりも積極的に取り組むべきだと考える。未来に繋がる曲を見つけ、育てることが必要だと僕は考える。」
「例えばクラスター奏法のペンデレツキ(《広島の犠牲者に捧げる哀歌》が有名)はその後、新古典主義のスタイルになるショスタコーヴィチの後継者のような音楽を書く。東欧の作曲家、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキなどはセリエル(12音技法)の書法を捨て、教会音楽や、中世の音楽をベースに調性のあるホーリーミニマリズム(聖なるミニマリズム)とカテゴライズされるスタイルに変わっていった。ただし彼らはミニマルにこだわってはいなかったのだが。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
詳しい掲載内容は
こちら ⇒Blog. 久石譲が2014年、現代音楽のコンサートに挑む理由
こちら ⇒Blog. 「クラシック プレミアム 8 ~バッハ1~」(CDマガジン) レビュー
俄然興味をもって、CDを探してみました。
アルヴォ・ペルト(1935-)はエストニア出身の現代作曲家です。ミニマル・ミュージック、そして宗教音楽のような心洗われる世界です。コンサートでも取り上げる『鏡の中の鏡』 『弦楽四重奏のためのスンマ』この2曲が収録されていた2枚組ベスト盤(輸入盤)を聴いてみまいた。

<CD1>
1) スンマ(合唱のための) 2) 7つのマニフィカト 3) フラトレス(ヴァイオリンとピアノのための) 4) フェスティーナ・レンテ(弦楽オーケストラとハープのための) 5) 鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための) 6) マニフィカト 7) 至福 8) スンマ(弦楽オーケストラのための) 9) フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための) 10) カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に
<CD2>
11) タブラ・ラサ(2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアード・ピアノのための) 12) スンマ(弦楽四重奏のための) 13) フラトレス(弦楽四重奏のための) 14) デ・プロフンディス(深き淵より) 15) カンターテ・ドミノ 16) ベアトゥス・ペトロニウス 17) ソルフェッジョ 18) ミサ・シラビカ
まずは『鏡の中の鏡』について。
1978年作品です。このCDアルバム以外にもいろいろ調べていて知ったのですが、3バージョンあります。ヴァイオリン&ピアノ版、ヴィオラ&ピアノ版、チェロ&ピアノ版です。
上記CDには、ヴァイオリン&ピアノ版が収録されています。ヴィオラ版、チェロ版も、それぞれ趣と響きが違って好みもあると思います。
単純な和音を分解したシンプルなピアノの旋律が繰り返され、そこへ弦楽器が行きつ戻りつのゆったりとした響きを奏でます。劇的な展開をするわけでもなく、ずっと一定な響きです。そこが心地よさや安心感、癒やしや静寂をもらたしてくれます。
アルヴォペルト自身が語った言葉がすべてを表しています。
私の音楽は、あらゆる色を含む白色光に喩えることができよう。プリズムのみが、その光を分光し、多彩な色を現出させることができる。私の音楽におけるプリズムとは、聴く人の精神に他ならない。/ アルヴォ・ペルト
聴く人の環境、聴く人の心情、に委ねられた音楽。どういう情景が広がるかは聴く人のイメージによる無限の世界。
コンサートでは久石譲がピアノを弾くというこの作品。果たして、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、どの楽器とのデュエットになるのでしょうか。
ぜひ3バージョンを聴いて聴き比べて堪能してください。高音(ヴァイオリン)、中音(ヴィオラ)、低音(チェロ)、それぞれいい響きです。
ヴァイオリン版は一定のテンポとピアノのソフトタッチ、ヴィオラ版は一番テンポがスローでピアノタッチがやや強め、チェロ版はヴァイオリン版のテンポに近いですが少し抑揚があり呼吸しているようなタメのある旋律。
何回も聴き比べてみたのですが、このようなささやかな違いがありました。どのバージョンも曲全体としての印象は同じような世界観です。お好みのバージョンを見つけてみてください。
※CD含め原曲自体ボリュームが小さく聴こえづらいです。ご了承ください。
『鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための)』 Arvo Pärt – Spiegel im Spiegel
『鏡の中の鏡(ヴィオラとピアノのための)』 Arvo Pärt- Spiegel im Spiegel
『鏡の中の鏡(チェロとピアノのための)』 Arvo Part – Spiegel Im Spiegel
次に『スンマ』について。
1977年作品です。CDには3バージョンが収録されていました。
『スンマ(合唱のための)』
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』
『スンマ(弦楽四重奏のための)』
久石譲がコンサートでプログラム予定としているのは、『スンマ(弦楽四重奏のための)』です。(CD-2収録)どのバージョンも聴いた印象が全く異なる不思議な曲です。
合唱は、教会のミサのような、弦楽オーケストラは、重厚で流れるようなレガートで、弦楽四重奏は、カルテットらしくシャープに。
調べていたらもうひとつ上の3つと異なるバージョンも見つけました。弦楽オーケストラと同じ編成だとは思いますが、レガードではなく刻む奏法。
Youtubeで全4バージョンをピックアップしましたので、こちらもぜひ聴き比べてみてください。『鏡の中の鏡』よりもより鮮明に各アレンジの違いがわかると思います。
『スンマ(弦楽四重奏のための)』 Arvo Pärt – Summa, performed by Endymion
『スンマ(合唱のための)』 Arvo Pärt / Summa
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 Summa for Strings | Arvo Pärt
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 ?? Arvo Pärt Summa for strings
個人的には、重厚で感情の波が引いては押し寄せるような、『スンマ(弦楽オーケストラのための)』(3番目)が今気に入っています。
CD収録曲ではほかにも、おそらく代表的な作品だとは思うのですが、CD-1の『フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための)』あたりもよかったです。ミニマル・ミュージックのなかでも、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーとはまた違った、ゆっくりと聴ける宗教音楽、クラシックでいうところのバッハなどの古典音楽に近いです。
時に重厚で湧き上がるようなストリングスの展開は、チャイコフスキーの交響曲《悲愴》を思わせるようでもあります。
久石譲作品にも多くのミニマル・ミュージックがありますが、アルヴォ・ペルトの作品に近い響きのするものとしては、『悪人 オリジナル・サウンドトラック』や『かぐや姫の物語 サウンドトラック』が心が清く浄化されるような透明感のある音楽を聴くことができます。
ただただ静かで美しい音楽。
いつ聴きたいか?
聴いてどんな気持ちになるか?
すべてが聴く人に委ねられた、深く心に染み入るアルヴォ・ペルトの音楽。
このアルヴォ・ペルトの作品を知ることができたのも、久石譲が新たに始動させたコンサート企画のおかげです。やはり好きなアーティストが取り上げる、別の作曲家による作品も気になってしまいます。
〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉コンサート当日は、どんな楽器で、どのバージョンで、どんなアレンジで、アルヴォ・ペルトの曲を演奏するのか楽しみですね。
芸術の秋、音楽の秋、今までの自分の引き出しにはなかった、新しい音楽への扉、そんな出会いもまた素敵だと思います。