Blog. 久石譲 × アルヴォ・ペルト ~ミニマル・ミュージック~

Posted on 2014/09/14

2014年秋、久石譲による新しいコンサート企画が始動します。「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー」です。9月29日に記念すべき第1回が東京・よみうり大手町ホールにて開催予定です。

 

久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世 他

[曲目] (予定)
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡 (1978)
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための (1977/1991)
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム (1993)
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing (2007)

 

 

久石譲によるオリジナル曲の世界初演もひかえています。いずれもすでに発表された曲を再構成したもので、ミニマル・ミュージックが基調、つまり現代音楽の世界です。

そして世界的な現代作曲家の作品が取り上げられています。この演奏プログラム予定を知ってから興味をもっていくつか聴いてみました。ニコ・ミューリーとアルヴォ・ペルトです。今回はアルヴォ・ペルトを掘り下げます。

 

〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉をひかえて、
すでに久石譲は今企画のこと、そしてアルヴォ・ペルトなどの現代音楽について語っています。

 

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現代音楽の今を伝えるコンサートを始める作曲家・久石譲

「現代音楽は難解というイメージが先行し、日本では演奏される機会が少ない。でも本当に難解なのか。最先端の作曲家の魅力的な作品を紹介することで、先入観を打ち破るきっかけにしたい」

9月29日によみうり大手町ホールで開く「ミュージック・フューチャー」はそんな思いから企画された。巨匠ヘンリク・グレツキから30代の俊英のニコ・ミューリーまで。アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」では、久石がピアノを演奏する。

「柱となっているのはミニマル音楽。現代音楽が生んだスタイルの中では、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えた。今回の演目で、そのことが雄弁に伝わるはずだ」

久石自身、国立音大在学中に、最小限の音型を繰り返すこの様式に感化された。宮崎駿監督作品をはじめ、オーケストラによる壮麗な映画音楽で成功してからも、折に触れミニマルの作品を生み出してきた。今回、その様式を踏襲した自作の弦楽四重奏第1番「Escher」を初演する。「一回限りの公演ではなく、現代音楽に触れられる場としてシリーズ化する」と語る。

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また、

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「ちょっと大げさだが、僕の考えでは、まずクラシック音楽は古典芸能であってはならない。過去から現代に繋がって、未来に続いていく形が望ましい。そのためにはオーケストラをはじめ演奏家は「現代の音楽」をもっと積極的に取り上げたほうがいい。作曲家兼指揮者は特にこの問題に対しては最前線にいるのだから、誰よりも積極的に取り組むべきだと考える。未来に繋がる曲を見つけ、育てることが必要だと僕は考える。」

「例えばクラスター奏法のペンデレツキ(《広島の犠牲者に捧げる哀歌》が有名)はその後、新古典主義のスタイルになるショスタコーヴィチの後継者のような音楽を書く。東欧の作曲家、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキなどはセリエル(12音技法)の書法を捨て、教会音楽や、中世の音楽をベースに調性のあるホーリーミニマリズム(聖なるミニマリズム)とカテゴライズされるスタイルに変わっていった。ただし彼らはミニマルにこだわってはいなかったのだが。」

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詳しい掲載内容は
こちら ⇒Blog. 久石譲が2014年、現代音楽のコンサートに挑む理由
こちら ⇒Blog. 「クラシック プレミアム 8 ~バッハ1~」(CDマガジン) レビュー

 

 

俄然興味をもって、CDを探してみました。

アルヴォ・ペルト(1935-)はエストニア出身の現代作曲家です。ミニマル・ミュージック、そして宗教音楽のような心洗われる世界です。コンサートでも取り上げる『鏡の中の鏡』 『弦楽四重奏のためのスンマ』この2曲が収録されていた2枚組ベスト盤(輸入盤)を聴いてみまいた。

アルヴォ・ペルト

<CD1>
1) スンマ(合唱のための) 2) 7つのマニフィカト 3) フラトレス(ヴァイオリンとピアノのための) 4) フェスティーナ・レンテ(弦楽オーケストラとハープのための) 5) 鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための) 6) マニフィカト 7) 至福 8) スンマ(弦楽オーケストラのための) 9) フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための) 10) カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に
<CD2>
11) タブラ・ラサ(2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアード・ピアノのための) 12) スンマ(弦楽四重奏のための) 13) フラトレス(弦楽四重奏のための) 14) デ・プロフンディス(深き淵より) 15) カンターテ・ドミノ 16) ベアトゥス・ペトロニウス 17) ソルフェッジョ 18) ミサ・シラビカ

 

 

まずは『鏡の中の鏡』について。

1978年作品です。このCDアルバム以外にもいろいろ調べていて知ったのですが、3バージョンあります。ヴァイオリン&ピアノ版、ヴィオラ&ピアノ版、チェロ&ピアノ版です。

上記CDには、ヴァイオリン&ピアノ版が収録されています。ヴィオラ版、チェロ版も、それぞれ趣と響きが違って好みもあると思います。

単純な和音を分解したシンプルなピアノの旋律が繰り返され、そこへ弦楽器が行きつ戻りつのゆったりとした響きを奏でます。劇的な展開をするわけでもなく、ずっと一定な響きです。そこが心地よさや安心感、癒やしや静寂をもらたしてくれます。

 

アルヴォペルト自身が語った言葉がすべてを表しています。

私の音楽は、あらゆる色を含む白色光に喩えることができよう。プリズムのみが、その光を分光し、多彩な色を現出させることができる。私の音楽におけるプリズムとは、聴く人の精神に他ならない。/ アルヴォ・ペルト

 

聴く人の環境、聴く人の心情、に委ねられた音楽。どういう情景が広がるかは聴く人のイメージによる無限の世界。

コンサートでは久石譲がピアノを弾くというこの作品。果たして、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、どの楽器とのデュエットになるのでしょうか。

ぜひ3バージョンを聴いて聴き比べて堪能してください。高音(ヴァイオリン)、中音(ヴィオラ)、低音(チェロ)、それぞれいい響きです。

ヴァイオリン版は一定のテンポとピアノのソフトタッチ、ヴィオラ版は一番テンポがスローでピアノタッチがやや強め、チェロ版はヴァイオリン版のテンポに近いですが少し抑揚があり呼吸しているようなタメのある旋律。

何回も聴き比べてみたのですが、このようなささやかな違いがありました。どのバージョンも曲全体としての印象は同じような世界観です。お好みのバージョンを見つけてみてください。

※CD含め原曲自体ボリュームが小さく聴こえづらいです。ご了承ください。

 

『鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための)』 Arvo Pärt – Spiegel im Spiegel

『鏡の中の鏡(ヴィオラとピアノのための)』 Arvo Pärt- Spiegel im Spiegel

『鏡の中の鏡(チェロとピアノのための)』 Arvo Part – Spiegel Im Spiegel

 

 

 

次に『スンマ』について。

1977年作品です。CDには3バージョンが収録されていました。

『スンマ(合唱のための)』
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』
『スンマ(弦楽四重奏のための)』

久石譲がコンサートでプログラム予定としているのは、『スンマ(弦楽四重奏のための)』です。(CD-2収録)どのバージョンも聴いた印象が全く異なる不思議な曲です。

合唱は、教会のミサのような、弦楽オーケストラは、重厚で流れるようなレガートで、弦楽四重奏は、カルテットらしくシャープに。

調べていたらもうひとつ上の3つと異なるバージョンも見つけました。弦楽オーケストラと同じ編成だとは思いますが、レガードではなく刻む奏法。

Youtubeで全4バージョンをピックアップしましたので、こちらもぜひ聴き比べてみてください。『鏡の中の鏡』よりもより鮮明に各アレンジの違いがわかると思います。

 

『スンマ(弦楽四重奏のための)』 Arvo Pärt – Summa, performed by Endymion

 

『スンマ(合唱のための)』 Arvo Pärt / Summa

 

『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 Summa for Strings | Arvo Pärt

 

『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 ?? Arvo Pärt Summa for strings

 

 

個人的には、重厚で感情の波が引いては押し寄せるような、『スンマ(弦楽オーケストラのための)』(3番目)が今気に入っています。

CD収録曲ではほかにも、おそらく代表的な作品だとは思うのですが、CD-1の『フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための)』あたりもよかったです。ミニマル・ミュージックのなかでも、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーとはまた違った、ゆっくりと聴ける宗教音楽、クラシックでいうところのバッハなどの古典音楽に近いです。

時に重厚で湧き上がるようなストリングスの展開は、チャイコフスキーの交響曲《悲愴》を思わせるようでもあります。

 

 

久石譲作品にも多くのミニマル・ミュージックがありますが、アルヴォ・ペルトの作品に近い響きのするものとしては、『悪人 オリジナル・サウンドトラック』『かぐや姫の物語 サウンドトラック』が心が清く浄化されるような透明感のある音楽を聴くことができます。

 

久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

かぐや姫の物語 サウンドトラック

 

 

ただただ静かで美しい音楽。

いつ聴きたいか?
聴いてどんな気持ちになるか?

すべてが聴く人に委ねられた、深く心に染み入るアルヴォ・ペルトの音楽。

 

このアルヴォ・ペルトの作品を知ることができたのも、久石譲が新たに始動させたコンサート企画のおかげです。やはり好きなアーティストが取り上げる、別の作曲家による作品も気になってしまいます。

〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉コンサート当日は、どんな楽器で、どのバージョンで、どんなアレンジで、アルヴォ・ペルトの曲を演奏するのか楽しみですね。

芸術の秋、音楽の秋、今までの自分の引き出しにはなかった、新しい音楽への扉、そんな出会いもまた素敵だと思います。

 

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