1998年10月14日 CD発売 POCH-1731
1988年から続くピアノ・ストーリーズ・シリーズ第3弾
北イタリアの情景をモチーフに作られた作品
イタリアには唄がある。
伸びやかなメロディーは人生の哀歓や、ユーモアをおりまぜひらすら唄う。
ふと、幸せという名前の思い出を数えてみた。
そのすきまからこぼれおちる哀しみの時間(とき)。
イタリアっ子は言うだろうな「Quel che sara sara -なるようになるさ」。
そして今日もまた唄っている。たぶん・・・・
久石譲
(CDライナーノーツより)
久石:
「Nostalgia」は、イタリアで現地のオーケストラとレコーディングしましたけど、オケには機能性よりも『唄』を望みました。多少荒っぽくても、そこには『唄』があるというアルバムを作りたかった。だからイタリアにしたんです。
次に自分のソロアルバムを、と考えたとき、根底に『唄』を表現したいということがありました。それは、去年「HANA-BI」でベネチアへ行って、公式記者会見で外国人記者から「音楽がすごくイタリア的なメロディだ」と指摘されて、「ああ、そうなのかな」と思ったのがきっかけです。確かにベネチアで「HANA-BI」を観たとき、自分でも「この音楽、イタリア的に聴こえるなあ」と思いました。そのあたりですね。イタリア的な『唄』を表現しようと思ったのは。
それと、今回のアルバムでは、イタリアというテーマの中でカヴァーをやってみたいと思って、サン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」の有名なアリア(アルバムでは「バビロンの丘」)とニノ・ロータの「太陽がいっぱい」を、最もイタリア的な香りのするメロディということで選びました。アレンジという部分も自分の中の大事な要素ですから、人のメロディを借りてきても自分の世界が作れるというところにチャレンジしてみたかったのです。
技術的な面でも現時点で可能な限りの最先端の技術で録るという、徹底的にハードディスク・レコーディングを行いました。ここが大事なところなんだけど、古臭いやりかたでノスタルジックな音を録ったら、本当に古臭くなってしまう。それは僕の欲してる音ではないんですよ。それで、オケがそのレコーディング方式に不慣れだったってこともあって、レコーディングの2日目からは予定外に僕がピアノを弾いて、オケをひっぱるという、同時録音に切り替えざる得なかったんです。でも、そのうちに現場の雰囲気が一変して、オケがピタッとついてくるのがわかりました。そういう意味では柔軟性のある若いオーケストラでよかったですね。
イタリアにはやっぱり、日本のオーケストラにも、またイギリスのオーケストラにもない、独特のおおらかなメロディーの唄い方がありました。結果をみても、これはイタリアに行かなかったら成立しないアルバムだったと、今、改めて思っています。
(久石譲インタビュー ~「久石譲 PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」 コンサートパンフレット より)
「サウンドはガッチリと構築するスタイルなのですが、このスタイルを一回壊してみたい。メロディに集約し直してみたい。僕の場合、作曲もアレンジも演奏も自分でやってしまいますから、少し荒っぽくてもいいから原質が出るような、そういうアルバムを作ってみたいなというのが一番根底にありました。で、北野武監督『HANA-BI』ベネチア映画祭出品の間などでイタリアへ行って、イタリア的ニュアンスなんだというのが自分なりに分かりましてね。イタリアというとカンツォーネだとかオペラだとか、歌という感じがありますね。何かそういうところのアプローチをしたいなという……。
タイトルが『ノスタルジア』だからといって、郷愁といったニュアンスでは作っていないんです。われわれふだんレコーディングしていると、どうしてもドンカマで作っていく傾向がすごく多い。そればっかりだと、揺らぎのある音楽から遠ざかっちゃうんですね。歌のエスプリみたいなものが最近の音楽では、ほとんど聴くことが出来ませんよね。今、忘れがちになっているそういう重要な要素に、もう1回スポットを当ててみたい。それが最も新鮮なんじゃないか。そういうのが大まかなコンセプトです」
(Blog. 「FM fan 1998 No.25 11.16-11.29」 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』久石譲インタビュー内容 より抜粋)
サウンドもアコーディオンやハーモニカがフィーチャーされイタリアンテイストたっぷりに仕上がっている。イタリア的な「唄」をコンセプトに、自身の作曲作品のみならず、イタリア名作映画からの映画音楽も選曲。
1998年、イタリアの古都モデナにて。「時代の波に流されずにひたむきに生き、個々それぞれの世界を築き上げた人々を描きたい」という久石譲はアルバムのイメージとしてこう語っている。
時代設定は「1930年台のイタリアを中心とするヨーロッパ」。そこでレコーディングはイタリアで行われることになった。「音楽の原点の”歌”に戻って」制作したというこのアルバムでは、ピアノが1930年イタリアという時空で交錯する人々の思いを、雄弁に語っている。
1. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
2. 旅情
3. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
4. il porco rosso (映画「紅の豚」より)
5. Cassanova
6. 太陽がいっぱい
7. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
8. Nocturne
9. バビロンの丘
10. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)
指揮:レナート・セリオ 演奏:フェラーラ管弦楽団
Composed by JOE HISAISHI , except 6. 9.
Piano:JOE HISAISHI
Orchestra:ORCHESTRA CITTA DI FERRARA
Conductor:RENATO SERIO
Piano,Rhodes:MASAHIRO SAYAMA 4.
(アコーディオン 2. / バンドネオン 6.)
Musicians
ORCHESTRA CITTA DI FERRARA
RENATO SERIO(Conductor)
Nobuo Yagi(Harmonica)
Fumihiko Kazama(Accordion)
Chuei Yoshikawa(Guitar)
Hideo Yamaki(Drum)
Kunimitsu Inaba(W.Bass)
Masahiro Sayama(Piano Rhodes)
Tomonao Hara(Flugel Horn)
Ryota Komatsu(Bandoneon)
etc.
Recorded at:
TEATRO STORCHI DI MODENA,KIOI HALL,Wonder Station
August-September, 1998
NOSTALGIA – PIANO STORIES III
1.Nostalgia
2.Sentimenti di Viaggio
3.Cinema Nostalgia
4.il porco rosso
5.Casanova
6.Plein Soleil
7.HANA-BI
8.Nocturne
9.A Hill of Babylon
10.la pioggia