Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

久石譲 『Shot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

2000年5月17日 CD発売 POCH-1928

 

久石譲アンサンブルにイギリスの弦楽四重奏団 バラネスク・カルテットを迎え、それぞれの音の融合が生み出すミニマル・ミュージックをベースにした、スピード感リズム感溢れる演奏。世紀末に向けて書き下ろした新曲を含むファースト・アルバム。※

(メーカーインフォメーションより)

 

※本作品は発表時”久石譲アンサンブル”名義となっていたためファースト・アルバムと記されている

 

 

DEAD Suite

今回このコンサートのために書いた新曲「DEAD Suite」は、僕がクラシック、現代音楽の世界から離れて19年ぶりに書き上げた楽曲だ。DEAD-英語音名で言う「レ・ミ・ラ・レ」をモティーフにして作曲された楽曲だ。いささかポップスのフィールドを逸脱したかもしれないが、20代後半にポップスの世界に転向して以来初めての本格的な現代音楽作品になる。リズムが移り変わり、不協和音ぎりぎりのところで構成されたこの楽曲は、音楽家として生きてきた、自分のアイデンティティーのための曲である。

なぜ今まで音楽をやってきたのか? を問いつめながら、今世紀末のひとつの区切りとして僕にとって通らなくてはいけない道、なくてはならない楽曲となった。最終的には4曲から成り立つ組曲を考えているが、今回のコンサートえ披露できるのはその内の2曲までになる。後は来年書き足そうと思っている。

(「久石譲 PIANO STORIES ’99 Ensemble Night with Balanescu Quartet」 コンサート・パンフレットより)

 

 

「今年に入って、イギリスのバラネスク・カルテットという弦楽四重奏団を呼んで『Shoot The Violist』というソロアルバムを出したんです。これで非常に吹っ切れましてね。ああ、自分の代表作ができたなって。20代とか大学を出るところでね、こういう作曲家になりたいって思っていたことを20年かけて完成させたっていう感じかな。「ピアニストを撃て」という映画に掛けたタイトルなんだけれど、カルテットというのはヴァイオリンやチェロと違って、ヴィオラっていちばん埋もれがちになるんですね。カルテットの中では、弱者なんです。その弱者を撃てっていう反意語で使っていたものが、現実では17歳の子供がキレて弱者をねらってる。時代の最も悪い雰囲気を警鐘のように捉えられたアルバムになったなあって。これを作ったことで、自分の中で何かが吹っ切れましたよね。去年辺りまでクラシックなアプローチを極めてたりしたんですけれど、このままこの道を走るのかどうかすごく悩んだんですね。で、結果はそうじゃない道を選んだ。つまり巨匠じゃない道を歩んでいると(笑)。それがすごくよかったな、と。」

「僕がいまいるポジションというのは、クラシックの前衛芸術家という立場ではないですね。あくまで町中の音楽、つまりポップス。自分のソロアルバムを買ってもらう、一般に映画で見てもらうというのが自分の原点だから、自分が完成されていくっていうことよりも、自分と社会の関係の方が大切なんですね。今みんなが生きていて苦しんでいることを反映できないような曲を書き出したときには終わりだなって、いつも思っているから。そういう自分の生き方を踏まえたINGで動いてるっていう自分が確認できたことがうれしいってことかな。それにスタンスに余裕ができましたよね。音楽を作る上で、あるいは映画の音楽を作る上で何が必要で、自分に何が欠けているのか、それがすごく分かるようになってきたということですね。」

Blog. 「キネマ旬報 2000年7月上旬 夏の特別号 No.1311」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

アルバムタイトルは、映画「ピアニストを撃て」からきている。今回のアルバムのジャケットに『あなたは今、ピストルを持っている。そのピストルには2発の銃弾が込められていて、あなたは撃つことができる。目の前に3人の男がいる。サダム・フセイン、アドルフ・ヒットラー、ヴィオラ奏者…。さてあなたは誰を撃てば良いでしょうか?』というメッセージがある。

なぜヴィオラなのか。アンサンブルでもオーケストラでもなかなか目立たない存在だが、とても重要な楽器で、ヴィオラがしっかりしているオーケストラは素晴らしいものになる。そんなヴィオラにも目を向けてもらいたいと”ヴィオリストを撃て”というタイトルにした、と久石譲は当時語っている。

 

 

 

久石譲 『Shoot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

1. 794BDH
2. KIDS RETURN (映画「キッズ・リターン」より)
3. DA・MA・SHI・絵
4. DEAD Suite [d.e.a.d.]
5. DEAD Suite [愛の歌]
6. TWO OF US (映画「ふたり」より)
7. MKWAJU
8. LEMORE
9. TIRA-RIN
10. Summer (映画「菊次郎の夏」より)

Produced by JOE HISAISHI

All Composed and arranged by JOE HISAISHI

Joe Hisaishi Ensemble members:
Joe Hisaishi:Piano
Balanescu Quartet
Jun Sato:Bass
Hirofumi Kinjo:Woodwind
Masamiki Takano:Woodwind
Momoko Kamiya:Marimba
Marie Ohishi:Marimba & Percussion

Recorded at Sound City , Wonder Station

Recording & Mixing engineer: Masayoshi Okawa
Assistant engineers: Nobushige Mashiko (Sound City)
Hiroyuki Akita (Wonder Station Inc.)
Technical engineer: Suminobu Hamada (Wonder Station Inc.)
Editor: Hiroya Ishihara (Wonder Station Inc.)
Mastering engineer: Shigeki Fujino (Universal Music K.K.)

 

Shoot the Violist

1.794BDH
2.KIDS RETURN
3.DA-MA-SHI-E
4.DEAD Suite (d.e.a.d.)
5.DEAD Suite (Love Song)
6.TWO OF US
7.MKWAJU
8.LEMORE
9.TIRA-RIN
10.Summer

 

Disc. 久石譲 『川の流れのように オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『川の流れのように』

2000年4月29日 CD発売 COCP-30887
2000年4月29日 CT発売

 

2000年公開 映画「川の流れのように」
監督:秋元康 音楽:久石譲 出演:森光子 田中邦衛 他

 

 

「川の流れのように 2000」美空ひばり

2000年3月1日 CDS発売 CODA-1816
2000年3月1日 CTS発売 COSA-1434

川の流れのように 2000

1. 川の流れのように 2000
作詩:秋元康 作曲:見岳章 編曲:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団 ピアノ:久石譲
2. 川の流れのように
作詩:秋元康 作曲:見岳章 編曲:宇崎孝路
3. 川の流れのように 2000 (オリジナル・カラオケ)
4. 川の流れのように (オリジナル・カラオケ)

封入特典:「川の流れのように」オリジナル版メロディー譜

 

シングル発売されたこちらの楽曲では、オリジナル・サウンドトラック収録盤とは異なるアレンジで、プログラミングされたリズムパートがある。本編エンドクレジットで流れた劇場版(サントラ盤)は、このリズムパーカッションを抜いたものであり、その他オーケストラによる伴奏は同一である。なおカップリングには、原曲オリジナル版が収録されている。

 

 

映画「川の流れのように」音楽制作を終えて

この映画音楽では制作にあたって注意したことが2つあります。美空ひばりさんというたいへんな天才と共演すること。もうひとつは秋元康監督が表現したいであろう老人達の世界観をどうだすか、この2つの点に最も注意をはらいました。最初の点については、すでにお亡くなりになった人と自分がどう関わるのか、それが大きなポイントでした。その時に閃いたのは、10年くらい前だとマルチ録音をしているはずだと、美空ひばりさんのボーカル・パートを抜き出して、それとこの映画の世界観に合う新しいアレンジをする。現在、美空ひばりさんと共演する新しい美空ひばりの「川の流れのように」を作ることが浮かんだわけです。もうひとつは、秋元監督が表現しようとした老人達の世界観について。海辺の小さな漁港で、もう必要とされない老人達が、実は最も知恵をもっていて生き生きと生きている。年齢が若い、あるいは年をとっているというところに問題があるのではない。長い間生きてきて、そこにはいつでも青春があるわけで、その時空を越えて人々は生きていく。そんな人間の根元的な声にしたいという思いをこめて、ブルガリアン・ボイスを起用しました。青春の時間というのが一瞬ではなく永遠であるということを音楽的に表現しようと思いました。

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

久石さんを見ててプロだなと思うのは、音のこぼし方ですね。カットが変わった時の音のこぼし方。普通は、一つのシーンで音楽を入れるとすると、そのシーンとともに音楽は終わるじゃないですか。例えば次は外に出て車に乗るシーンだとしたら、そこには別の音楽が、あるいは車の騒音を入れるとか。でも久石さんはそこへ微妙に前の音楽を落とす。そうすることによって、絵がなめらかになるし、言葉は終わっているんだけど音楽が続いているから余韻が残るんですよね。またはせつなさが残ったり。(秋元康)

例えば秋元監督と『川の流れのように』という映画をやる。これは確かにいい話で、老人たちももっと元気が出る。そこでいい話だからいい音楽を書こうと普通は思いますよね。いいメロディーを書いて心温まる音楽を作ろうと。でもそうすると監督の視線と一緒になりすぎてしまって、単になぞるだけじゃないかと考えてしまうんです。例えば映画の冒頭のシーン、主人公が伊豆に何十年ぶりかに帰ってきた。そこに、いかにも帰ってきましたという美しくせつない音楽をつけてしまうと、全体のトーンがベタベタになってしまうんじゃないかと思うんです。台本を読んだ時から考えていたんですが、ブルガリアン・ヴォイスを使ってみたらどうだろうかというアイデアが浮かんだ。いったいどこの国の音楽だろうと観た人が不思議に思うような。ただそのまま使うと、よくありがちな奇を衒ったものになってしまう。それでオーケストラとブルガリアン・ヴォイスをミックスした。ある種のミスマッチなものは絶対ダイナミックに広がっていくし、もう一カ所ポイントになるものを使えば全体の音楽的な筋は通るんじゃないかと思った。まあ秋元さんとやらせてもらってるからこそ、そういうアイデアが出てくるんですけどね。(久石譲)

いや、それはプロの技ですよ。ブルガリアン・ヴォイスから嵐のシーンのオーケストレーションまで幅が広い。ブルガリアン・ヴォイスだけのアイデアを出せる人はブルガリアン・ヴォイスのテイストで最後までいっちゃうんですね。そうすると今度は映像と音楽が分離してしまう。それにしてもラッシュの音がない時に比べて数百倍良かったです。(秋元康)

日本映画としては本当にお金を出してもらったんですよ。ホールでオーケストラをきっちり録れるなんてまずないですから。これだけの規模でできたからこそなんです。(久石譲)

オーケストラというと、それだけの人数と楽器を集めて、ホールまで借りるのは、すごくお金がかかる。だから大抵みんな打ち込みでやるんですけど、久石さんがホールでモニータに映像を流して同時に録ろうとおっしゃった。すごく贅沢ですよ。アメリカではそういうシステムが整っているけど、日本ではなかなかできない。(秋元康)

設備が整ったところで録るわけではないので、レコーディング機材を全部運び込まなくてはいけなくて、ものすごく大変なんです。しかもいろいろトラブルがあるし。(久石譲)

我々も、いつもああいうことができると思ってはいけないんですね。(秋元康)

でもこの先デジタルになったら、もっとああいうやり方の重要性が出てきますよ。ホールのアンビエントがそのまま再現されるから、とても奥行きが深くなる。(久石譲)

迷ってたのは、ラストまで「川の流れのように」の曲を出していないんですよね。途中で一回インストで流して前振りを作ったほうがいいのかとずっと考えていた。でも結局やめた理由は、曲が始まった瞬間に観客が「川の流れのように」だと気づいて予定調和になってしまうから。ラッシュを観た時、出さなくて良かったと思いました。その分、森光子さんのツーハーフ、そしてラストのひばりさんの歌が生きた。(久石譲)

Blog. 「秋元康大全 97%」(SWITCH/2000)秋元康×久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

 

久石譲 『川の流れのように』

1. Village Song(ブルガリアン・ソング)
2. Memories
3. ふれあい・I
4. 記憶の扉
5. ときめき
6. Old Fishermans
7. グラフィティ
8. ふれあい・II
9. 残された時間
10. Memories ~refrain~
11. The River
12. A Storm
13. Voice of the Sea(ブルガリアン・ソング)
14. 時は流れて
15. The River ~別れ~
16. 川の流れのように2000 (エンディング) 歌:美空ひばり

音楽:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
収録ホール:大田区民ホール・アプリコ 大ホール

ゲスト・ミュージシャン
Vocal:おおたか静流 Ikuko

 

Disc. 久石譲 『小さな駅で降りる』 *Unreleased

2000年4月12日 TV放送

 

テレビ東京開局記念番組 山田太一ドラマスペシャル「小さな駅で降りる」
音楽:久石譲 上田聡 出演:中村雅俊 樋口可南子 堤真一 他

 

 

単発放送ドラマで、その後TV再放送された機会はあったが、DVD化およびサウンドトラック盤などは発売されていない。また久石譲作品においても、どのアルバムにもオリジナル版およびリアレンジ版含め収録されていない幻の作品となっている。

 

以下は、音楽制作当時の久石譲オフィシャルサイト日記より、参照することができる貴重な情報である。

 

 

  • メインテーマはアコースティックピアノのシンプルなメロディが基本になり、オーボエやリズムが入ることによりバリエーションが創られる。
  • 「小さな駅で降りる」制作2日目。今日はサスペンス風のテーマとそのバリエーションが創られる。
  • 「小さな駅で降りる」トラックダウン。テレビ東京のスタッフも駆けつけ、26曲に及ぶトラックダウンが行われる。基本的にはテーマとバリエーションなので、テーマのバランスがとれれば後はスムーズにいくはずだったのだが…。気が付けば夜中の2時になっていた。

(2000.3月)

 

 

山田太一 小さな駅で降りる

 

Disc. 久石譲 『はつ恋 オリジナル・サウンドトラック』

はつ恋 オリジナル・サウンドトラック

2000年3月23日 CD発売 POCH-1918
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9007

 

2000年公開 映画「はつ恋」
監督:篠原哲雄 音楽:久石譲 出演:田中麗奈 他

 

 

「はい。でも、いろいろ話をお聞きしているうちにとてもいい内容だったので、楽曲一曲だけ提供するより、スタンスとして映画全体に関わりたいと思うようになった。僕は仕事を音楽監督という立場でお引き受けするようにしてるんです。どうしても、このご時世だと、いろいろなタイアップがついたりして、なぜかわからないけれどエンディングになると変な歌が流れたりする(笑)。でも、それはテレビに任せておけばいい。映画を作品として完成させるためには僕はそういうことは望まない。だから、『はつ恋』でも映画の中で流れる音楽は全て責任を持つという音楽監督という立場でお引き受けしました。」

「主人公が17~18歳という設定だと2つの方向性が考えられるんです。一つは北野(武)監督の『キッズ・リターン』のような動的な感じ。そういう映画だとリズムを強調する。もう一つは『はつ恋』のような優しいイメージ。17~18歳の女の子の揺れる気持ちを出したかった。それで篠原(哲雄)監督と話し合ってシンプルな感じで行こうと。『はつ恋』って小粒だけどキラリとしたいい映画ですから、最初からピアノと分厚くない弦の世界で作るのが一番いいなと思ったんです。そういったイメージはとても作りやすい映画でした。」

「あのシーン、トータルで6分あるんです。「ここは全部音楽入れて下さい」っていわれた時はちょっとめげましたが、あそこはもう、一番力をいれました。もちろん全部力いれてるんですけどね(笑)。あの6分の中で麗奈さんが真田さんの部屋から外に出て、ふっと見上げるシーン。あの麗奈さんの顔はベストショットだと思います。僕は女優さんの演技を見ていて、一番気になるのが目の強さなんです。俳優の存在感ってつまるところ目じゃないかなと思う。あのシーンの麗奈さんの目、存在感がとても強い。」

Blog. 「Title タイトル 創刊 2000年5月号」 久石譲 × 田中麗奈 対談内容 より抜粋)

 

 

 

はつ恋 オリジナル・サウンドトラック

1. Prologue〜Spring Rain
2. 手紙
3. Challenge
4. 桜の木の下で
5. 時は流れて
6. Spring Rain
7. 秘密
8. Mother’s love
9. おもいで
10. 時は流れて II
11. はつ恋
12. 再会
13. 願い桜
14. Portrait of Family
15. Epilogue〜はつ恋

All Music composed, arranged and produced by Joe Hisaishi

Pf:Joe Hisaishi
Strings:Yuichiro Goto Group
Fl:Takashi Asahi
Ob:Masakazu Ishibashi
Cla:Masashi Togame
Fag:Johsuke Ohata

Recording Studios:Kawaguchiko Studio , Wonder City