Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『真夏の夜の悪夢』

久石譲 WDO 『真夏の夜の夢』

2006年12月20日 CD発売 UPCI-1054

 

2006年8月13日、すみだトリフォニー・ホールにて、『真夏の夜の悪夢』と題して行われた、久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラによる一夜限りの貴重なコンサートの模様を収録したライヴ・アルバム。

 

 

楽曲解説

2006年8月13日、「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」は、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホールにて一夜限りのコンサートを行った。このアルバムは、そのスペシャル・コンサート「真夏の夜の悪夢」の模様を収録したものである。

コンサートは、久石自身の手による楽曲およびマーラーの「交響曲第五番第四楽章”アダージェット”」を取り上げた第1部と、”サイコ・ホラーナイト”なるテーマを掲げた第2部とで構成。久石作曲の『男たちの大和/YAMATO』や『もののけ姫』の楽曲を組曲にしたもの、そして、『サイコ』、『エクソシスト』、『殺しのドレス』等、映画史に残る名画のスリルとサスペンスを大いに盛り上げた映画音楽や、クラシックの名曲が演奏された。総勢100人を超える混声の「栗友会合唱団」も参加しており、「カルミナ・ブラーナ」、レクイエム「怒りの日」、「アヴェ・マリア」等、合唱の醍醐味が味わえる楽曲も取り上げられている。

ちなみに久石は、サイコ・ホラー映画の音楽の魅力を、「非常に精密なスコアが多く、オーケストラ向きのいい曲がたくさんある。また西洋の映画の場合、神の問題をも扱うシリアスな作品が多い」と分析。「サイコ・ホラー映画に登場する人物はしばしば、この世で遂げられなかった思いを、あの世に行っても抱き続ける。現世へのそのような思いは、究極の愛の形ではないか」と語っている。そんな思いを踏まえてここに収録された楽曲を耳にするのもまた味わい深い。

 

1. カルミナ・ブラーナ 「おお、運命の女神よ」
20世紀ドイツの作曲家、カール・オルフの出世作にして代表作である「カルミナ・ブラーナ」は、19世紀初頭、バイエルンにあるベネディクト会ボイレン修道院で発見された中世ラテン語の詩歌集に曲をつけた世俗カンタータ。テレビ番組やコマーシャル、はたまた映画音楽としてたびたび使われているのを耳にした方も多いことだろう。全24曲から成り、プロローグ、第一部、第二部、第三部、エピローグという構成で、プロローグに置かれたNo.1「おお、運命の女神よ」では、運命の女神フォルトゥーナへの恨みの念が歌い上げられる。

2. プレリュード 映画『サイコ』より
”サスペンスの神様”、巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督作の中でもひときわ名高い『サイコ』(1960)。音楽を手がけたアメリカ人作曲家バーナード・ハーマンは、『知りすぎていた男』(1956)、『めまい』(1958)、『北北西に進路を取れ』(1959)等、数々のヒッチコック作品に楽曲を提供したほか、『市民ケーン』(1941)や『タクシー・ドライバー』(1976)等でも知られる映画音楽の巨匠である。1998年、ガス・ヴァン・サント監督により『サイコ』がリメイクされた際にも、ハーマンの音楽がベースに使われていた。

3. ジ・オーケストラ・チューブラー・ベルズ・パート1 映画『エクソシスト』より
イギリス出身のプログレッシヴ・ロックの鬼才、マイク・オールドフィールドのソロ・デビュー作である「チューブラー・ベルズ」(1973)は、パート1、パート2の2曲から成る壮大な作品。発表後、少女に取り憑いた悪魔と神父との壮絶な戦いを描いたオカルト映画の名作『エクソシスト』(1973)のテーマ曲として使用され、大ヒットを記録、オールドフィールドの名を世界に知らしめることとなった。

4. 映画『殺しのドレス』より テーマ曲
四年ぶりの新作『ブラック・ダリア』がこの秋封切られたブライアン・デ・パルマ監督が1980年に手がけた映画『殺しのドレス』は、ヒッチコック作品の影響を色濃く受けたサスペンス映画。楽曲を担当したイタリア人作曲家、ピノ・ドナジオは、『キャリー』(1976)や『ミッドナイトクロス』(1981)、『ボディ・ダブル』(1984)などでデ・パルマと組んでいるほか、『死海殺人事件』(1988)や『法王の銀行家~ロベルト・カルヴィ暗殺事件~』(2002)等、数々の映画音楽を手がけている。

5. レクイエム「怒りの日」
「椿姫」「アイーダ」等のオペラで名高い19世紀イタリアの作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディの手による「レクイエム」の第二章。ヴェルディが敬愛していたイタリアの文豪、アレッサンドロ・マンゾーニの追悼のため作曲されたこの作品は、モーツァルト、フォーレの楽曲と並んで”世界三大レクイエム”の一つに数えられる。

6. 操り人形の葬送行進曲
「アヴェ・マリア」やオペラ「ファウスト」で知られる19世紀フランスの作曲家、シャルル・フランソワ・グノーの手によるこの楽曲は、ヒッチコック本人も番組の初めと終わりに姿を見せていたテレビドラマ・シリーズ『ヒッチコック劇場』のテーマ音楽として知られる。このドラマ・シリーズは日本でも放映され、人気を博した。

7. 「もののけ姫」組曲
スタジオジブリの宮崎駿が監督を手がけた長編アニメーション映画『もののけ姫』(1997)は、生と死をテーマに、人間と、”もののけ”と呼ばれる山神や山の獣たちとの戦いを描いた作品。1420万人もの観客を動員、興行収入193億円は当時の日本映画の歴代1位となる記録だった。久石が手がけたサウンドトラック、カウンターテナーの米良美一が歌った主題歌も共に大ヒットしている。

8. カルミナ・ブラーナ 「アヴェ、この上なく姿美しい女」~「おお、運命の女神よ」
カール・オルフ作曲「カルミナ・ブラーナ」のエピローグを成す2曲。女性の美を讃えるNo.24「アヴェ、この上なく姿美しい女」では、ブランツィフロールとヘレナ、ヴィーナスの”世界三大美女”の名が挙げられる。楽曲をしめくくるNo.25「おお、運命の女神よ」は、1曲目のNo.1「おお、運命の女神よ」と同じ曲であり(全24曲構成なのにNo.25まであるのはそのためである)、物語の最後に再び運命の女神へと呼びかけるものである。

9. アヴェ・マリア
シューベルトやグノーの有名曲をはじめ、「アヴェ・マリア」には数多くのバージョンが存在するが、ここで取り上げられているのは16世紀イタリアの作曲家、ジュリオ・カッチーニの手によるもの。最近では、世界的に活躍するカウンターテナー、スラヴァが、1995年の日本デビュー作「ave maria」で取り上げ、話題となった。

10. YAMATO組曲 第一楽章
11. YAMATO組曲 第二楽章、第三楽章
12. YAMATO組曲 第四楽章
13. YAMATO組曲 第五楽章
久石作曲の「YAMATO 組曲」は、第二次世界大戦終戦60周年を記念して制作された映画『男たちの大和/YAMATO』(2005)のために書いた楽曲を組曲にした作品。作家・辺見じゅんの原作を、『人間の証明』(1977)の佐藤純彌監督が映画化したこの作品は、世界最強の戦艦と言われながらも東シナ海に散った戦艦大和の運命と、その乗務員たちの生き様を描き出す。反町隆史、中村獅童、鈴木京香、仲代達矢、渡哲也ら、豪華出演陣も話題を呼んだ。

文 Oct. 2006 藤本真由

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

久石譲は本作品ライナーノーツにて、「サイコ・ホラー映画の音楽は非常に精密なスコアが多く、オーケストラ向きのいい曲がたくさんある。また、西洋の映画の場合、神の題材をも扱うシリアスな作品が多い。」と語っている。そこから、サイコ・ホラー映画を「究極の愛の物語」とし、名曲たちがセレクトされている。

自身の映画音楽作品からは、(2) 「もののけ姫」組曲 アシタカせっ記~タタリ神~もののけ姫 を組曲にしたもの。主題歌『もののけ姫』は、ピアノやヴァイオリンがメロディーを奏でるインストゥルメンタルとなっている。

(10)~(13) 「YAMATO組曲」第一楽章 – 第五楽章 映画「男たちの大和/YAMATO」で使用された楽曲を組曲にしたもの。もともと劇中でもコーラスがふんだん効果的に用いられた映画音楽だっただけに、今回の合唱団の編成が、この演目を可能にしたとも言える。

確かに本作品に収録されている映画音楽やクラシック音楽を聴いていると、サイコ・ホラー映画のおどろおどろしさや恐怖というよりは、まるで恋愛映画の世界にいるような、美しい旋律が多いことがわかる。

讃美歌やレクイエムといった、西洋の宗教を象徴し色濃く反映した楽曲たち。映像と音楽とのコントラスト、いい意味で対比している。格式高いオペラやミュージカルのようであり、劇舞台のドラマティックさがある。

 

 

 

久石譲 WDO 『真夏の夜の夢』

1. カルミナ・ブラーナ 「おお、運命の女神よ」
2. プレリュード 映画『サイコ』より
3. ジ・オーケストラ・チューブラー・ベルズ・パート1 映画『エクソシスト』より
4. 映画『殺しのドレス』より テーマ曲
5. レクイエム「怒りの日」
6. 操り人形の葬送行進曲
7. 「もののけ姫」組曲
8. カルミナ・ブラーナ 「アヴェ、この上なく姿美しい女」~「おお、運命の女神よ」
9. アヴェ・マリア
10. YAMATO組曲 第一楽章
11. YAMATO組曲 第二楽章、第三楽章
12. YAMATO組曲 第四楽章
13. YAMATO組曲 第五楽章

初回:デジパック仕様

except
Arranged by Kenji Ashimoto 2.
Arranged by Kousuke Yamashita 3.
Arranged by Chieko Matsunami 4.
Scoring by Kenji Ashimoto 7. 10. 11. 12. 13.

 

PSYCHO HORROR NIGHT

1.Carmina Burana “O Fortuna”
2.Prelude “Psycho”
3.The Orchestra Tubular Bells, Pt. 1 “The Exorcist”
4.”Dressed to Kill” Main Theme
5.Requiem “Dies Irae”
6.Funeral March of a Marionette
7.”PRINCESS MONONOKE” Suite (from ‘Princess Mononoke’)
8.Carmina Burana “Ave Formosissima” / “O Fortuna”
9.Ave Maria
10.YAMATO Suite: 1st Movement
11.YAMATO Suite: 2nd & 3rd Movement
12.YAMATO Suite: 4th Movement
13.YAMATO Suite: 5th Movement

 

Disc. 久石譲 『HISAISHI meets MIYAZAKI Films』

2006年9月25日 CD発売 399 055-2 (FR) ※輸入盤  (2006年7月21日)
2008年4月8日 CD発売 M2-36354 (US)
2014年12月8日 CD発売 399 613-2 (FR)

 

スタジオジブリ宮崎駿監督作品からのコンパイル。日本国内盤で既出の複数のCDアルバムからセレクトされたもの。

なお、LP盤もリリースされているが、SIDE-A「もののけ姫」より、SIDE-B「千と千尋の神隠し」より「紅の豚」よりが収録されている。(「風の谷のナウシカ」よりは未収録)

 

 

 

NAUSICAA OF THE VALLEY OF THE WINDS
Nausicaä Symphonic Poem
1. First Movement
2. Second Movement
3. Third Movement

PORCO ROSSO
4. Madness

PRINCESS MONONOKE
5. The Legend of Ashitaka
6. Princess Mononoke Theme Song
7. TA.TA.RI.GAMI
8. Ashitaka and San

SPIRITED AWAY
9. One Summer’s Day
10. The Dragon Boy / The Bottomless Pit
11. The Sixth Station
12. Reprise

All Composed, arranged and produced by Joe Hisaishi

Track 1,2,3 and 4
from WORKS I

Track 5,6,7,8
from WORKS II

Track 9,10,11,12
from SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001

 

Disc. 久石譲 『THE BEST COLLECTION presented by Wonderland Records』

久石譲 『THE BEST COLLECTION』

2006年6月7日 CD発売 UPCI-1048

 

久石譲が主宰するレーベル ワンダーランドレコードからのベスト・セレクション。レーベル・テーマ「EVERGREEN」を象徴した、本人自らの選曲、リマスタリング音源で構成されたセレクト・アルバム。

 

 

音楽の”WONDERLAND”の素晴しき城主、久石譲

日本を代表する、というより今や世界的にその名を知られている作曲家であり、ピアニストである久石譲は、その知名度と、多くの人に作品が愛されているのと対照的に意外なほど、その実像と本質が一般的には伝わっていないアーティストではないだろうか。

僕は久石譲がプロデュースするレーベル”Wonderland Records”からリリースされたアルバムのベスト盤『THE BEST COLLECTION』を聴いて、改めてそのことを思った。初のピアノ・ソロ・アルバムとして1988年にリリースされた『Piano Stories』でもオープニングを飾っていた「A Summer’s Day」からNHKドラマ「風の盆から」のテーマ曲「風の盆」までの見事なまでの音の連なり。”いい音楽”が時代や流行を超えて人々に愛され、存在していることは周知の事実だが、”EVERGREEN”をテーマに、久石譲の音楽観を投影させたレーベルとして、2000年に設立され、その年の12月6日に『Piano Stories』を第1弾としてリリースした”Wonderland Records”からリリースされた8枚のアルバムからの選曲に、今年リリースされる新曲3曲を加えて作られた『THE BEST COLLECTION』は単なるベスト盤というより、久石譲という稀有な才能と音楽的魅力を兼ね備えたアーティストの音楽の旅のドキュメントなのである。

それはジョエル・マイヤーウィッツという知る人ぞ知る写真家の美しい写真をカバーにした『Piano Stories』からの2曲に、久石譲の映画音楽家としての評価を決定的なものにした「あの夏、いちばん静かな海」のメインテーマ曲が続いていくあたりで明らかになる。4歳の頃からヴァイオリンを学び、国立音楽大学作曲科に入学した久石譲が最初に感化されたのが”ミニマル・ミュージック”で、出発点が現代音楽の作曲家だったということは久石譲というアーティストの本質を理解する上では非常に重要なポイントであり、「僕の作曲家としての原点はミニマルであり、一方で僕を有名にしてくれた映画音楽では叙情的なメロディー作家であることを基本にした。ただそのいずれも決して新しい方法論ではない。全く別物の両者を融合することで、本当の意味での久石独自の音楽を確立できると思う。ミニマル的なわずか数小節の短いフレーズの中で、人の心を捕らえる旋律を表現できないか…」という言葉を聞くと、「風の谷のナウシカ」から始まった宮崎アニメの一般的なファンが例外なく口にする”美しく優しいメロディー”の深みが理解できるだろうし、久石譲が作曲家としてだけでなく、アレンジャー、プロデューサーとしての才能も傑出していることがよくわかる。映像と音楽のコラボレーションの素晴しさが公開当時、評判をとった北野武監督の映画「あの夏、いちばん静かな海」から、久石譲とは何作もタッグを組んでいる大林宣彦監督の映画「ふたり」からの曲への切り返しの見事さはもはや魔術的領域にすら達している。

そう、本当にいろいろなところに連れていかれてしまうのだ。1984年の「風の谷のナウシカ」を始まりに、20年と少しの間に何と43本もの映画音楽を手がけてきた久石譲は「僕にとって、音楽は生きている上で一番好きなことで、映画は2番目に好き。その両方をいっぺんにできるのが映画音楽。映画音楽を作る場合、映像と音楽は必ず対等であるように心がけている。映画には大もとには脚本があって、そこからイマジネーションを膨らませて、片方は映像に、もう片方は音楽になる。勿論、音楽は映像に関連しているわけだけど、たいがいの場合、追随し過ぎてしまう。泣くシーンでは悲しいメロディーとかね。逆に映画のコンセプトから考えたら、音楽はそうする必要がなかったりもする。映像と音楽をもっと戦わせてもいいのではないかと…」と語っているが、その音楽のイマジネイティブな広がりとスケールの大きさは、間違いなくこのクリエイティブな視点と姿勢が反映されたものといえるのではないだろうか。

そして、Wonderland Recordsからリリースされている大林宣彦監督の映画「はるか、ノスタルジィ」のサントラ盤に添付されたブックレットに久石譲が書いた文章の一節が、映像と音楽の世界を、また音楽の多くのジャンルの世界を、自由奔放に往き来している久石譲というアーティストの思考回路の深さを僕に教えてくれた。

「この映画に音楽を付けるに当たって色々と悩み、最初はロマンティックな曲を色々考えたりしましたが、結果的にテーマ的には”過去に対面して行くサスペンス”という括りでの音楽にしようと考えました。これはある時ヒッチコックの「めまい」(1958年)をレンタルビデオでたまたま見た時に、出だしがサスペンス調に作られているという事に気がつき、「はるか、ノスタルジィ」も自分の過去に対面するサスペンスなのだという共通項の発見から考えついた事です。このようにすることで最終的に出会った所に本当のロマンがあるというような作りにすればこの映画は行けると考え、大林監督にこの話をし”それは最高にいい”という事になり、テーマのメロディーをロマンにもサスペンスにも取れるような複雑なものにして、短いモチーフ風な扱いをすると完全にサスペンス音楽になってしまうようなものに仕上げました。その後この「追憶のX.T.C.」というテーマ曲は「MY LOST CITY」の「Tango X.T.C.」という曲に発展していくことになりました」

やや長い引用になったが、久石譲の物作りに対する考え方やアプローチを知るには非常に興味深い文章であり、このアルバムの中盤からエンディングに至るまでの流れとどこかで通底しているようにも僕には思える。日本映画界に大きく貢献してきた今までの実績とその功績が評価され、久石譲は2002年淀川長治賞を受賞しているが、先にも書いたように多くの人の記憶に残っている美しいメロディーと壮麗なサウンドは驚くべき計算と準備とテクニックがあって初めて成立しているのである。

だが、それにしても、1989年に6枚目のソロ・アルバムとしてリリースされた『PRETENDER』の中から選び出された「VIEW OF SILENCE」のアレンジの見事さはどんな言葉を使って形容すればいいのだろうか。どの曲を聴いても、久石譲の楽器の鳴らし方のうまさには改めて唸らされ、今回のアルバムでいくつもの新しい発見をしたのはうれしい驚きだったが、ふるえるようなストリングスがピアノと絡み合い、ひとつずつの楽器が知的な会話をして、全体としては官能的に匂いが漂う「VIEW OF SILENCE」はアレンジャーとしてもその時代に既に久石譲が世界的レベルに達していたことの証であり、続く『SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001』から選ばれた「千と千尋の神隠し」組曲の2曲も、自身の作品をオーケストラ用にアレンジしてここまで昇華できるということに素直に脱帽させられてしまう。久石譲が、”戦友”と呼び、”Wonderland Records”に初のオリジナル・アルバム・アーティストとして迎え入れたチェリスト、近藤浩志のソロ・アルバム『Arcant』から選び出された「風の谷のナウシカ」組曲(改訂版)「風の伝説」の素晴しさも特筆すべきものがあるし、続く2曲と合わせて絶妙なレーベルのプロモーションになっている。

あとは全16曲の収録曲のうち、唯一のヴォーカル・ナンバーである「さくらが咲いたよ」と、久石譲を”楽界の魔王”と形容して讃えている脚本家、市川森一の依頼による仕事となったNHKドラマ「風の盆から」のサントラ盤から選び出された2曲について書いておけばいい。

久石譲が坂口安吾の名作「桜の森の満開の下」にインスピレーションを受けて書き下ろし、1994年のソロ・アルバム『地上の楽園』に収録した曲を、久石譲の愛娘、麻衣が全く新しい楽曲としてリメイクした「さくらが咲いたよ」は、ただ桜の表面的な美しさだけではなく、桜が持つ妖しさや狂おしさ、儚さが見事なまでに表現されているところが実に久石譲らしいし、続く「彷徨」は本人がニヤリと笑いながら原点回帰をしているようなところにある種の凄みすら感じられる。

でも、それが久石譲というアーティストの唯一無二なところだろう。例えば「ポップスの分野に入ったけれど、音楽の可能性を追求する精神は前衛音楽と同じ。常に新たな音楽につながるものをと考えながら作曲している」という言葉ひとつとっても、久石譲がかつて”ニューエイジ・ミュージック”という言葉つきで紹介され、ちょっと耳ざわりのいい音楽を聴かせたものの気がついたら姿を消してしまったような人たちとは全く違うレベルのところに存在していることがわかるだろうし、しばらく前に久々に久石譲本人と会話を交わした時に、僕は彼がアメリカのフィリップ・グラス、イギリスのマイケル・ナイマンときて、日本の久石譲というような関係性をみてとったのである。

そして、この『THE BEST COLLECTION』を聴いて、それを確信した。また、こうして自分自身の音楽作品をきちんと整理し、世に送り出していこうという姿勢に心からの拍手を贈りたい。映画音楽から自身のソロ・アルバム、さまざまなアプローチによるコンサート活動、はたまたイベント・プロデュースに至るまで、久石譲の旺盛なまでの創作意欲は全くとどまるところを知らないが、「ピアノは、僕にとってはとても大事な楽器。以前は作曲の道具でしたが、コンサートを行うようになって、表現の道具にもなりました。ピアノとの対話が、自分の別の可能性を引き出してくれる。作曲においては極めて理性的である自分がピアノを通してメンタルな面で人に訴えかけることができる」と語る純粋さが僕はまた好きだ。

立川直樹

(CDライナーノーツより)

 

 

誰もが耳にしたことのある、久石譲の旋律が集約されてはいるが、同レーベルから発表された8枚のアルバムの中からセレクトという趣向のため、オールタイムベストではない。

1980年代後半~1990年代前半の廃盤作品を自身レーベルより再発売した作品から、そして2000年以降の作品からという構成になっている。そういった意味では時代や流行を超えた色褪せることのない、音楽の旅。

それでも、(2)はアニメ「アリオン」からの美しい叙情的なピアノ曲だし、(3)~(7)は北野武監督作品や大林宣彦監督作品から、(9)~(10)は宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」より、コンサートライブ音源から、(14)は1994年CD作品「地上の楽園」に収録されていた同曲を、麻衣のヴォーカルによって新しくリメイク、本作だけに収録された楽曲となっている。

 

以下のオリジナル収録作品のリストもご参考。

 

「Piano Stories」(1988年) ・・ (1) (2)
「あの夏、いちばん静かな海」(1991年) ・・ (3) (4)
「ふたり」(1991年) ・・ (5) (6)
「はるか、ノスタルジィ」(1993年) ・・ (7)
「PRETENDER」(1989年) ・・ (8)
「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」(2002年) ・・ (9) (10)
「Arcant / 近藤浩志」(2003年) ・・ (11)
「Winter Garden / 鈴木理恵子」(2006年) ・・ (12)
「FREEDOM PIANO STORIES 4」(2005年) ・・ (13)
※本作品初収録 ・・ (14)
「風の盆」(2002年) ・・ (15) (16)

 

 

 

久石譲 『THE BEST COLLECTION』

1.A Summer’s Day
2.Resphoina
3.Silent Love
4.Clifside Waltz
5.風の時間
6.少女のままで
7.出会い ~追憶のX.T.C.~
8.VIEW OF SILENCE
9.あの夏へ
10.6番目の駅
11.風の伝説 「風の谷のナウシカ」組曲 (改訂版)から
12.For You
13.Fragile Dream
14.さくらが咲いたよ Vocal:麻衣
15.彷徨
16.風の盆

 

Disc. 近藤浩志 『ARCANTO』

近藤浩志 ARCANTO

2003年12月3日 CD発売 WRCT-1008

 

久石譲プロデュースによる、チェリスト・近藤浩志のデビューアルバム。

 

 

~曲目について~

久石さんから僕のソロアルバムを創ろうよ、とのお話を頂き当初、全曲久石さんの曲でと思っていた僕にとって、選曲はとても困難な作業でした。しかし久石さんの助言のもと、練りに練られたこの選曲は、今、録音を終えてみると、どの曲も最初から決まっていたかの様な愛しい気持ちを持てる物になりました。

久石さんの曲、「風の谷のナウシカ組曲」……。
この曲との出会いは当時学生だった僕と、今のこの時をつなぐかけがえのないものになりました。その20年の軌跡の中で幾度となくこの曲に触れてきましたが、作曲者である久石さんと10年ほど前から一緒に音楽をさせて頂けるようになり、少しずつ本当の歌を教わってきたことが今ここに、僕が出来ること全てを懸けたナウシカ組曲となったことを幸せに思います。共に成長してきたこの組曲は僕の音楽の原点であり続けると思います。光と影。光が強ければ強いほど影は色濃くなり、また、影が深ければ深いほど、僅かな光に優しさや暖かさを感じる。そんなことを感じながらこの曲を弾きました。

静かな湖面に輝く曲線を浮かべてたたずむ「白鳥」。清らかな魂への救いを神に祈るタイスの姿を描いた「タイスの瞑想曲」。2曲とも微細ながらも生命の源を感じる力強さや厳しさがあるような気がします。力強く、厳しく、そして優しく歌うことを教えていただいたのは他でもない久石さんになのです。

歌うと言うことは僕の音楽の原点です。歌のように弾きたい。ずっとそう思ってきました。このアルバムにも原曲が歌の曲が3曲あります。夢にまであらわれる、愛する人への思いを歌った「夢のあとに」。愛してしまったことを悔やみながらも忘れ得ぬ思いをうちあける「花の歌」。そして、張り裂けそうな切ない旋律が終わりなく満ち引きする波のように歌いうねる「ヴォカリーズ」。

もうひとつ、歌曲ではないですが僕の中では歌になった曲。死者への問いかけ。鎮魂。そして思い出。凛とした流れの中に胸が裂ける様な慟哭の溢れている「ノクターン 第20番 嬰ハ短調」。演奏中涙がとまりませんでした。

心の一番深い場所に咲く一輪の花のような曲達です。そしてその場所へはとても一人では行けませんでした。このアルバム制作に関わって下さったスタッフ誰一人欠けてもこの演奏は出来なかったと思います。久石さんの大きな愛情は勿論ですが、是認の優しい気持ちが僕の音楽の道標になりました。

沢山の優しさと思いやりで創られたこのアルバム。
聴いて頂ける全ての方々にその心が伝わればと思っています。

2003年10月 近藤浩志

(CDライナーノーツ より)

 

 

近藤さんとのこと

近藤さんは、僕の文字通りの戦友である。数々の修羅場をふたりでくぐり抜けて来て、今や「あうん」の呼吸で演奏できる数少ない演奏家である。

近藤さんとは、彼が新日本フィルでチェロのトップをやっている頃に知り合った。だからもう10年以上の付き合いになる。その後、久石譲アンサンブルのコンサートにソリストとして参加してもらい、ミニマルミュージック系のやや先鋭な音楽をずっと一緒にやってきた。今年春先の9人のチェリストとピアノのコンサートツアーでは、コンサートマスターとして、僕の音楽を再現するのに最大の力を発揮して頂いた。近藤さん抜きでは、あのコンサートの成功はあり得なかった。そしてその感動の模様をDVDとして世に出す決心までつけさせたのも近藤さんの力だと思っている。

今回ワンダーランドレコード初のオリジナルアルバムアーティストとして近藤さんを迎えられたことは、僕個人としてもワンダーランドレコードとしても最大の喜びである。

ナウシカ組曲は、藤原真理さんによる素晴らしい名演が残されているが、今回、近藤さんの力強い演奏で、新たな「ナウシカ」として蘇った(一部編曲の手直しも行った)。

近藤さんはその大柄の体型から、優しくおおらかな人柄を想像しがちであるが(事実その通りでもあるのだが)、実に神経の細やかな、芸術家としての資質を十二分に持っている人である。そのあたりはこのアルバムにも十分に反映されている。アルバムアーティストは点であってはならない。線として次回作、そのまた次回作と作っていくべきだと僕は思っている。今後とも近藤さんの次回作、そして僕のコンサートと、一緒にやっていけることを心から愉しみにしている。

2003年10月 久石譲

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

名曲「風の谷のナウシカ組曲」[改訂版]、2003年4月オペラシティで行われた久石譲コンサートツアーのライブ音源「la pioggia」(久石譲ピアノ)、その他にもフォーレやショパンなどクラシックの名曲を収録。

タイトルの「ARCANTO」(アルカント)とは…Arco(弓)、とCanto(歌う)をかけあわせた造語である。

 

 

近藤浩志 ARCANTO

「風の谷のナウシカ」組曲[改訂版] / 久石譲
1. 風の伝説
2. レクイエム
3. 遠い日々
4. 谷への道
5. はるかな地へ

6. 夢のあとに / フォーレ
7. 白鳥 / サン=サーンス
8. ヴォカリーズ / ラフマニノフ
9. 花の歌~歌劇「カラメン」より~ / ビゼー
10. ノクターン 第20番 嬰ハ短調 / ショパン
11. タイスの瞑想曲 / マスネ
12. La Pioggia / 久石譲 (映画「時雨の記」より)

近藤浩志(チェロ)
吉澤友里絵(ピアノ) except M-12

久石譲(ピアノ) M-12

 

1 ~ 5 are labeled “Nausicaa of the Valley of Wind” Musical Suite (Revised Edition)
12 is a live version of “la pioggia” from “Diary of Early Winter Shower”

Produced by Joe Hisaishi

Violoncello: Hiroshi Kondo
Piano: Yurie Yoshizawa (Except M-12)
Joe Hisaishi (M-12)

Violoncello (M-12): Takashi Kondo, Susumu Miyake, Makoto Osawa
Haruki Matsuba, Yoshihiko Maeda, Masanori Taniguchi
Hiromi Uekusa, Seiko Ishida

Recording & Mixing Engineer: Suminobu Hamada
Assistant Engineer: Toshiyuki Takahashi
Recorded & Mixed at Wonder Station
Mastered at Wonder Station

 

Disc. 久石譲 『空想美術館 ~2003 LIVE BEST~』

久石譲 『空想美術館』 2003 LIVE BEST

2003年10月22日 CD発売 UPCH-1299
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9073/4

 

 

~空想美術館紀行~

久石譲さんの演奏には必ず光景が伴う。オーケストラや観客、或いは久石さん本人の向う側に、かつて旅で出会った人々やその時々の風のようなものが立ち上がるのだ。たとえ有名な映画曲であろうと、目をつぶれば私には独自のシーンが浮かんでくる。見事、としか言い様がない魔法である。

 

Musée imaginaire (Orchestra Ver.)
エクアドルの首都キトからバスでアンデス山脈を越えた時、高度四千メートルで突然もやが晴れ、笑顔で手を振るインディオの子供たちが現れた。この曲をあの峠でもう一度聴いてみたい。

Summer
米国オレゴン州のキャノンビーチには日本の風鈴八百個と暮らす老人がいた。彼は東京を空襲したパイロットで、海風に鳴りやまぬ風鈴を聴きながら静かに枯れ枝と化していくのだった。風鈴はまだ揺れているだろうか。

MIBU
展開とともにまったく新しいイメージが湧きあがるこの曲は、アンコールワットの日の出を思い出させた。たとえ大地が戦乱の荒廃にあったとしても、日輪は何万もの色彩をもって新たな一日を祝福しようとしたのだ。

Silence
トルコのエフェス遺跡のイメージ。エーゲ文明の遥か昔に愛しあった男女の吐息が、今もなお朽ちた柱に絡み付いているようだった。風は時の向う側から情念と音楽を運んでくるらしい。

月に憑かれた男
三年間暮らしたニューヨークで、やるせない気持ちになる度にブルックリン橋を歩き、そこから見える窓灯りを数えていた。どの窓にも命があり、苦悩があり、歓喜がある。その痛いような感覚を思い出させる曲。

夢の星空
ベトナムの漁村を夜明けに訪れたら、歩き始めたばかりの漁民の子が丸太の上に乗って用を足し始めた。あっけらかんとした笑い声、世界で一番幸せそうだったあの子の笑顔に、いつまでも美しい星空とこの曲を捧げたい。

Bolero
チェコの田舎街道はひまわり畑に埋もれているため、夏になると地平線までの黄色で覆われる。しかしその横を走る線路はかつてアウシュビッツまで続いていたのだ。無数の魂が風にそよいでいたようなあの夏空。黄色。

a Wish to the Moon
沖縄から台湾までは貨物船の旅がお薦め。島をひとつ経る度に珊瑚礁の色は濃くなり、五線譜から飛び出す音符のようにイルカたちがジャンプを繰り返していた。

KIKI
洞窟ホタルを見るためにオーストラリアのアウトバックを踏破した夜。気がつけば横をカンガルーの群れが並走していた。この曲のように心が舞い続けた夜。

谷への道
ヨルダン砂漠のロレンス砦に行った時、どこまでも続く赤い砂漠の果てに、三千年前の落書きがあることを知った。どうしてこの曲はあの時のジープの荷台を思い出させるのだろう。歴史なんて一瞬で、それよりも大切なのは今生きているこの鼓動なのだと曲が伝えているようである。

Musée imaginaire (9 Cellos Ver.)
バージョンが変われば曲がイメージさせる疾走感も異なる。世界で一番好きな列車、ハンブルグ発ブダペスト行のハムレット号だ。エルベ川沿いの小鹿飛び出す列車の旅を、この曲を聴いたすべての人に体験してもらえたらと思う。

TETSUYA (ex. ドリアン助川)

(空想美術館紀行 ~CDライナーノートより)

 

 

2003年春のチェリストとのツアーと、同年夏の新日本フィルとのツアー、この2つのツアーからベスト・テイクを選りすぐったライヴ・ベスト盤。ピアノ・ソロアルバム『ETUDE』の名曲たちをシンフォニック・アレンジで聴くことができる。

 

 

2018年4月25日 LP発売 UMJK-9073/4
完全生産限定盤/重量盤レコード/初LP化

 

 

 

久石譲 『空想美術館』 2003 LIVE BEST

1.Musée imaginaire (Orchestra Ver.) (NHK「世界美術館紀行」より)
2.Summer (映画「菊次郎の夏」/トヨタ カローラ CM より)
3.MIBU (映画「壬生義士伝」より)
4.Moonlight Serenade
5.Silence (ダンロップ VEURO CMより)
6.月に憑かれた男
7.夢の星空
8.Bolero
9.a Wish to the Moon (キリン一番搾り生ビール CMより)
10.KIKI (映画「魔女の宅急便」より)
11.谷への道 (映画「風の谷のナウシカ」より)
12.Musée imaginaire (9 Cellos Ver.) (NHK「世界美術館紀行」より)

Recorded at Tokyo Metropolitan Art Space , Tokyo Opera City Concert Hall , Niigata-City Performing Arts Center

Conducted by Kim Hongje (except M10-12) , Joe Hisaishi (M10-12)

Orchestra:New Japan Philharmonic

 

Disc. 久石譲 『a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos 2003 ETUDE & ENCORE TOUR-』

久石譲 『a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos  2003 ETUDE&ENCORE TOUR-』

2003年6月25日 DVD発売 UPBH-1094

 

2003年3月から行われた久石譲のコンサート・ツアーの中から4月16日に東京オペラシティーにて行われたコンサートの模様を収録。オリジナルアルバム「ENCORE」「ETUDE~a Wish to the Moon」からの曲を中心に披露したベストライブ。

 

 

長い音楽活動とコンサート活動のなかで、意外にもコンサートDVDとしては初作品化である。公演プログラムの曲間に、リハーサル風景やピアノ練習風景などが、ドキュメンタリータッチで記録されている。

 

 

 

a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos  2003 ETUDE&ENCORE TOUR

– Encore & Others –
KIKI
谷への道
View of Silence
風のとおり道
Asian Dream Song
Friends
Summer
One Summer’s Day
HANA-BI

– Etude –
Moonlight Serenade 〜 Silence
月に憑かれた男
impossible Dream
夢の星空
Bolero
a Wish to the Moon

Musée Imaginaire
la pioggia
Tango X.T.C.

ToToRo
Madness
君だけを見ていた

本編111分

Recorded at Tokyo Opera City Concert Hall on April 16,2003

Composed (except “Moonlight Serenade”),
Arranged and Produced,
Conducted and Piano
by
Joe Hisaishi

Violoncello
1st
Hiroshi Kondo ~Concert Master,Solist
Takashi Kondo
Susumu Miyake
2nd
Makoto Osawa
Haruki Matsuba
3rd
Yoshihiko Maeda
Masanori Taniguchi
4th
Hiromi Uekusa
Seiko Ishida

 

Disc. 久石譲 『SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001』

久石譲 『SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001』

2002年7月26日 CD発売 WRCT-1005
2002年11月23日 CD発売 WRCT-1005 ※新パッケージ

 

2001年12月7日東京芸術劇場で行われた公演のCD化
指揮:金洪才 演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団

アカデミー賞受賞作品「千と千尋の神隠し」組曲
北野武監督映画「Kids Return」、久石譲監督映画「Quartet」他収録

 

 

解説

本作は2001年10月30日から始まったツアー「久石譲・SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」の最終日、2001年12月7日の東京芸術劇場におけるコンサートのCD化である。

収録された楽曲は全曲が初演であり、久石自身がコンサートの数ヶ月前から少しずつアイデアを固め、全ての関連スコアをチェックした後、オーケストラ演奏用にリ・アレンジし、演目の最終決定というプロセスをたどっている。これは映画音楽が映像とのマッチングを前提として作曲されているため、コンサートの演目として演奏するためには全く異なるアレンジアプローチが必要となったからである。どの作品にも意欲的に思い切ったアレンジを施しているが、特に「BROTHER」は1度作ったアレンジから徹底して離れて新しく作り直しており、非常に聴き応えのある作品に仕上がっている。また「千と千尋の神隠し」は、映画の中の印象深い楽曲をセレクトして組曲形式で構成し、独立した完成度の高い作品となった。

演奏は「千と千尋の神隠し」「BROTHER」「Quartet」のサウンドトラックのレコーディングを行った新日本フィルハーモニー交響楽団で、レコーディング時のオリジナルに近いメンバーによるコンサート音源であることも興味深い。

録音は、クラシック・レコーディング界における日本屈指のエンジニア、江崎友淑氏による。演奏収録場所は東京芸術劇場。指揮は金洪才氏、ピアノ演奏は久石譲。また今回は1曲だけ「Student Quartet」を久石自身が指揮している。

(宮崎至朗)

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

ほとばしる魂の音楽

わたしがアナウンサーを志したのは、NHKのある番組がきっかけだった。

それは大学の頃に偶然見た「胃の粘膜が…」とか、「人の遺伝子とは…」といった科学番組だった。優しく包み込むような音楽とナレーションが心に染み入り、気がつくとポロポロ涙がこぼれていた。衝撃だった。耳から受ける刺激は、これほどまでに人の心を揺さぶるものなのか、と。同時に何かを伝えたい、表現したい、いつかこんな仕事に関わりたい、そう強く望むようになった。これが久石譲さんの音楽との出会いだった。

昨年、雑誌の対談で初めてお目にかかる機会に恵まれた。黒のスーツをさり気なく身にまとい、颯爽と登場された久石さんは、わたしの想像とは全く違っていた。

正直、驚いた。失礼ながら『サンタクロースの様なおじいさん』を思い描いていたからだ。穏やかな語り口にかい間見える鋭さ。「学生時代は尖っていましたからね」と微笑まれたのが印象的だった。

当時、久石さんは前衛的な音楽に傾倒されていたと聞いた。だからこそ、創造力果てしなく、あまたの作品が生み出されてきたのだろうか。

”SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001”。今回もまた心が震え、喚起された。ほとばしる魂を感じさせる久石さんの音楽。これからもわたしたちを新たな世界へ導いて下さることだろう。

進藤晶子 (キャスター)

(CDライナーノーツより)

 

 

【楽曲解説】

「千と千尋の神隠し」組曲
1.あの夏へ 2.竜の少年~底なし穴 3.6番目の駅 4.ふたたび
日本における映画記録をことごとく塗り替えた、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」。宮崎監督とのコンビも「風の谷のナウシカ」以来7作目となるこのファンタジー映画の中で、久石譲の音楽は観客の感情の振幅を見事に広げてみせた。今回、ステージで初めて演奏されたのは、スクリーンで耳に馴染んだ数々のメロディを、コンサートのために4曲からなる組曲として書き下ろしたものである。

「Quartet」より
5.Black Wall 6.Student Quartet 7.Quartet Main Theme
2001年秋、久石譲がはじめて監督・脚本・音楽を手掛けた作品「Quartet」が公開された。音楽学校を卒業した後、社会でそれぞれの挫折を味わった4人の仲間が出会い、再びカルテットを組んでコンテストに挑戦するという物語で、日本では珍しい本格的な音楽映画に仕上がっている。全ての音楽を、久石譲はこの映画のために新たに作曲した。CDではその中から3曲を選んでいるが、「Black Wall」は現代音楽風に、「Student Quartet」はモーツァルト風に、そして「Quartet Main Theme」はフランス印象派風にと、久石譲の音楽的センスの多彩さが溢れでている。

「BROTHER」より
8.Drifter…in LAX 9.Wipe Out 10.Raging Men 11.Ballade
久石譲は「BROTHER」の音楽を、自分自身、非常に気に入っているものの1つだと言う。それを今回、コンサートホールでの演奏用に書き換えた。リ・アレンジというより、ほとんど作り替えてしまったと言ってもいい。そのくらい迫力と存在感のある楽曲となった。哀しみを含んだメロディライン、対比する息も詰まるようなパーカッション・リズムの躍動感が聴く者の心を揺さぶり、否応なくハードボイルドともいえるその世界に引きずり込んでいく。

「Le Petit Poucet」より
12.Le petit Poucet Main Theme
久石譲が、監督オリビエ・ダアンの「プチ・プセ」(原作シャルル・ペロー、日本語原題「親指トム」)でフランス映画に進出した。映画は2001年10月17日に公開されたが、色彩の美しさを際立たせた映像美と緩急自在の語り口、そして特別出演のカトリーヌ・ドヌーブを初めとする豪華なキャスティングが話題となり、公開初日にはパリとその近郊だけで1万3千人を動員した。「久石節」とでもいうべき美しい旋律と和声は映像美と見事に絡み合い、本来「子供向け」にカテゴライズされるこの作品のクオリティを、1ランク引き上げることに成功している。日本での公開が待たれる作品である。

「Kids Return」より
13.Kids Return 2001
メインテーマとなったこの曲は、素晴らしい速力と緊張感をもっている。それは物理的な速力というに止まらず、人間の内面に鋭く切り込んでくるかのような疾走感である。聴くたびに新しい感動を呼ぶこの曲を、久石はフルオーケストラとピアノのためにリ・アレンジした。その驚くべき華やかさの裏に、ある秘めた切なさを感じさせるのは、さすがに久石譲である。

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

(新パッケージ ジャケット)

*新パッケージはジャケット表面背面、CD帯、円盤デザイン、ライナーノーツ、すべてのデザインが異なる

 

 

久石譲 『SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001』

「千と千尋の神隠し組」組曲
1. あの夏へ
2. 竜の少年〜底なし穴
3. 6番目の駅
4. ふたたび
「Quartet」より
5. Black Wall
6. Student Quartet
7. Quartet Main Theme
「Brother」より
8. Drifter… in LAX
9. Wipe Out
10. Raging Men
11. Ballade
「La Petit Poucet」より
12. La Petit Poucet Main Theme
「Kids Return」より
13. Kids Return 2001

All composed, arranged and Produced by Joe Hisaishi

ピアノ:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:金洪才

2001年12月7日 東京芸術劇場にて収録

 

Disc. 久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』

久石譲 『WORKS2』

1999年9月22日 CD発売 POCH-1830

 

コンサートツアー「Piano Stories ’98 Orchestra Night」での名演を収録した7年振りの貴重なオーケストラ・ライブ録音

24bitデジタル・レコーディングによるナチュラルなサウンドで臨場感を余さず収録

 

 

寄稿

いい音楽には永遠の生命力がある。

時代とか流行、様式とか国籍…そうしたものすべてを超えて存在する音楽。「WORKS」と名づけられたシリーズは久石譲という稀有な才能を持った音楽家の”仕事”を数々の映画音楽の曲を中心にオーケストラとの共演という形で再構築していくものだが、新たに録音された曲を聞くと、改めてその音楽性の高さとオリジンルな魅力を実感することができる。一度聞いただけで記憶の奥底に刻みつけられてしまう美しいメロディと卓抜したアレンジ、それにピアニストとしての力量。今回の「WORKS II」は7年ぶりのオーケストラ・コンサートのライブ録音という形になっているが、ひとつひとつの音符の鳴り方、そこから紡ぎ出されたハーモニーの美しさは、驚くほどに完成度が高い。

だから、僕は出来ることなら可能な限りの音量でこのアルバムを聞いて欲しいと思う。収録された13曲は、インストゥルメンタルでありながら大量生産、大量遺棄されるヒット曲とは一線を画す本物の”唄”というのはどんなものかを教えてくれるし、ロマンティシズムとダイナミズムが完璧な形で同居し、輝ける結晶体になっていることがわかる。

そして、次にはそこに自分自身の記憶や思いを重ね合わせていくといい。映像は形になって残っているが、いい音楽というのはそこから離れて空間の中で旋回し始めるのである。「WORKS」はいい仕事の理屈抜きの証拠品である。

立川直樹

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

久石譲 『WORKS2』

交響組曲「もののけ姫」より
1. アシタカせっ記
2. もののけ姫
3. TA・TA・RI・GAMI
4. アシタカとサン
5. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
6. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
7. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)
8. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
9. Sonatine (映画「Sonatine」より)
10. Tango X.T.C (映画「はるか、ノスタルジィ」より)
11. Madness (映画「紅の豚」より)
12. Friends
13. Asian Dream Song (長野パラリンピック冬季競技大会テーマ曲)

ピアノ:久石譲
指揮:曽我大介
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 (東京)
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団 (大阪)
録音:1998年10月19日 東京芸術劇場
録音:1998年10月27日 ザ・シンフォニーホール

 

WORKS II Orchestra Nights

1.The Legend of Ashitaka (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
2.Princess Mononoke (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
3.TA-TA-RI-GAMI (The Demon God) (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
4.Ashitaka and San (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
5.Nostalgia
6.Cinema Nostalgia
7.la pioggia
8.HANA-BI
9.Sonatine
10.Tango X.T.C.
11.Madness
12.Friends
13.Asian Dream Song

 

Disc. 久石譲 『Symphonic Best Selection』

久石譲『Symphonic Best Selection』

1992年9月9日 CD発売 TOCT-6675
1992年12月2日 MD発売 TOYT-5018
2003年7月30日 CD発売 TOCT-25123

 

東京芸術劇場にて公演されたシンフォニックコンサートのライブ音源

 

 

寄稿

それまではスクリーンやブラウン管の向こう側に見え隠れしていた姿をかなりはっきりさせた形で一般の音楽ファンに見せたのが『I AM』だとしたら、久石譲は『MY LOST CITY』という力作を通過していよいよその巨大な姿を見せてしまった。

僕は今、完成したライブ・アルバムを聞いてはっきりとそう思う。5月20日と21日の両日、東京芸術劇場大ホールのステージで金洪才の指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団をバックにピアノを弾く姿を見ながらもそのことは十分過ぎるほど予感はしていたが、CDというひとつの形になった時に、作曲家としても、編曲家としても、ピアニストとしても久石譲が稀有な魅力と才能の持主であることをこの最新作は理屈抜きで示している。

そして『MY LOST CITY』のオープニング・ナンバー「プロローグ」について、彼自身が書いた「僕にとってのピアノとストリングス、それは永遠に彷徨う旅人の心を歌うには最も相応した形態だ。新しい旅の始まり。」というコメントを引き合いに出せば、この最新作は彼が映像と音楽という無限の荒野を歩んできた長い旅のひとつの集大成でもある。演奏されているどの曲にも例外なく永遠の生命力がみなぎっているのも”いい音楽”が流行や傾向といったものに関係なく存在し続けることの証しと言えるだろうし、スケールの大きさと繊細さ、オーソドックスと前衛がうまく同居したストリングスの編曲の巧みさについては、リスナーに聞くたびに新たな発見の喜びをもたらしてくれるだろう。

立川直樹

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

「従来のソロ・アルバムとはまったく違うタイプですから、まったく違うものとして満足しています。中にはミス・タッチもあれば、オケとずれたりとか、いろんな部分があるんですが、その時、お客さんがいてオーケストラがいて僕がいてという独特の熱気、そういうのはスタジオ作品ではちょっと味わえないものがあるんですね。それが出てる部分で僕は凄く満足しています。特に本当にその場でテンポが揺れて気合で行くような時が多いライヴは、その時のエモーショナルな部分っていうのがそのまま演奏に出てくるから、そういう意味で作品がうまく再現されているということです。」

「基本的にクオリティの高い音楽をやっているから、音楽性を求める人に聴いて欲しいですよね。でももっと大事なのは、そういう音楽性の高い人にしかわからない音楽をやってるつもりはなくて、「あら、きれいなメロディだわ、ちょっとバックに流しながらお風呂に入っちゃおう」みたいなノリでもいいんですよ。それからその人がいろんな音楽を聴いて自分の音楽的レベルが上がると「このレコードこんなこともやってるんだ」というように、なおさら楽しいレコードが自分の理想なんですよ。不特定多数の聴ける音楽ができればいいなあと思います。」

Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

(MDパッケージ)

 

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

「ナウシカ組曲」
1. 風の伝説
2. 谷への道
3. 鳥の人
「I am」より
4. DREAM
「MY LOST CITY」
5. PROLOGUE〜DRIFTING IN THE CITY
6. 1920〜AGE OF ILLUSION
7. SOLITUDE〜IN HER…
8. CAPE HOTEL〜MADNESS
9. 冬の夢
10. TANGO X.T.C.
「MELODY FAIR」
11. 魔女の宅急便
12. レスフィーナ
13. 天空の城ラピュタ
14. タスマニア物語

All Composed & Arranged by Joe Hisaishi

Produced by Naoki Tachikawa
Recording & Mixing Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)
Mixed at Wonder Station, Tokyo

Musicians are:
Joe Hisaishi / Piano
Kim Hang Je / Strings, Conductor
Yasushi Toyoshima / Violin Solo (N.J.P)
Mitsuo Ikeda / Bandonéon
New Japan Philharmonic

ピアノ:久石譲
指揮:金洪才
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
録音:1992年5月21,22日 東京芸術劇場