Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/05/31

音楽雑誌「キーボード・マガジン Keyboard Magazine 1992年10月号」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

不特定多数の聴ける音楽が出来ればいいなあと思います

5月に東京芸術劇場で行われた久石譲のコンサートが、ライヴ・アルバムとなって発売された。ソロ活動、映画音楽から、プロデュース活動まで幅広く活動を続けるキーボーディストの彼に、今作について等、いろいろと話を聞いてみた。

 

ーライヴをこういった形でアルバムにするというのは、ライヴを行った段階で決定していたんですか?

久石:
「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

 

ーもしかしたら、CD化されなかったかもしれないわけですね?

久石:
「そういうふうに言ってて、東芝の人もみんな真っ青になってました。上がりの悪いのは外に出せないというのもあったし、みんな戦々恐々としてましたね。」

 

ー無事作品になったわけですが、率直なところ出来に関してはどのくらい満足されていますか?

久石:
「従来のソロ・アルバムとはまったく違うタイプですから、まったく違うものとして満足しています。中にはミス・タッチもあれば、オケとずれたりとか、いろんな部分があるんですが、その時、お客さんがいてオーケストラがいて僕がいてという独特の熱気、そういうのはスタジオ作品ではちょっと味わえないものがあるんですね。それが出てる部分で僕は凄く満足しています。特に本当にその場でテンポが揺れて気合で行くような時が多いライヴは、その時のエモーショナルな部分っていうのがそのまま演奏に出てくるから、そういう意味で作品がうまく再現されているということです。」

 

ー録音しているのと、していないのでは緊張感が違いますか?

久石:
「出だしは意識しました。(ライヴは2日間なので)チャンスは2回しかありませんから。ところが意識すると優等生の発表会みたいになってしまって、無理をしなくなりますでしょ。だから、途中から意識しなくなりましたね、まあいいやって。」

 

ー今回のアルバムでは宮崎駿さんの作品のためにお書きになった曲がかなり演奏されていますが、久石さんが映画音楽を多く手掛けている理由は、映像に曲を付けるという行為自体に魅力があるからですか。それとも宮崎さんの作品に惹かれる部分が大きいからですか?

久石:
「映画という表現に惹かれていることの方がやはり大きいですね。映画自体が僕は大好きですから。元々インストゥルメンタル・ミュージックをやっているという性格上、映像とは非常に結び付きやすくなる可能性があるんですね。そういう意味でも、映像で表現したいというのが自分の中の半分ぐらいありますよ。もちろん宮崎さんだからというのもありますけど、そういう意味で言うと、大林さんだから、北野たけしさんだからというのもありますから。」

 

ー少女の繊細な心理を描く大林さんと、割と激しいものを描かれるたけしさんの作品用に音楽を使い分けるというのは難しくないですか?

久石:
「難しいよね。たけしさんが本の中で書いているんだよね。”おいら、女を肯定的に捉えたようなあんな「ふたり」みたいな映画は絶対認めない。女は恐いもんなのに、あんな映画撮る人の気持ちがわからない。きっと育ちがいいんだろう。ついでに言うと、ああいう映画をやりながらおいらの映画をやるなんて信じられない”って(笑)。あっ、僕のこと言ってるって、まずいなって思ったんですけどね。確かに正反対ですもんね。彼らからすると理解できないのかもしれないけれど。ただ、大林さんって非常に音楽的な教養が高い人で、僕のメロディ・ラインを欲しがる人なんですよ。映画全体を包みこむような音楽が欲しいという、思考がハリウッド映画の人ですから。かたや、たけしさんっていうのは、非常に尖った人ですから。今回の映画でもはっきり出てるんですが、大林さんの方は非常にメロディ作家で押して、たけしさんとやる時は、元ミニマル・ミュージック作家の顔で作ってます。たけしさんは感情移入の曲を嫌ってらしたし。」

 

ーリスナーには自分のどういった部分を聴いて欲しいと思いますか?

久石:
「基本的にクオリティの高い音楽をやっているから、音楽性を求める人に聴いて欲しいですよね。でももっと大事なのは、そういう音楽性の高い人にしかわからない音楽をやってるつもりはなくて、「あら、きれいなメロディだわ、ちょっとバックに流しながらお風呂に入っちゃおう」みたいなノリでもいいんですよ。それからその人がいろんな音楽を聴いて自分の音楽的レベルが上がると「このレコードこんなこともやってるんだ」というように、なおさら楽しいレコードが自分の理想なんですよ。不特定多数の聴ける音楽ができればいいなあと思います。」

(キーボード・マガジン 1992年10月号より)

 

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

 

 

 

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