Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

2016年7月13日 CD発売 UMCK-1545/6
2016年7月27日 LP発売 UMJK-9062/3(完全限定生産)

 

大迫力のコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015」を完全収録!壮大な交響詩として生まれ変わった完全版「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」も初音源化!

戦後70周年の特別な年に開催された「久石譲&W.D.O.2015」。「The End of the World」(声楽と管弦楽のための)+(久石 譲リコンポーズド「The End of the World」-ヴォーカルナンバー 「この世の果てまで」)の壮大な交響作品をはじめ、日本への想いを込めて書き下ろした「祈りのうた」(ピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版)、そして長年の時を経て壮大な交響詩として生まれ変わった「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」(映画『風の谷のナウシカ』より)の完全版が満を持して音源化。

根強いファンをもつ「il porco rosso」「Madness」(映画『紅の豚』より)、「Dream More」(サントリー ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム CMテーマ曲)、さらにアンコール曲「Your Story 2015」(映画『悪人』主題歌より)、「World Dreams」(W.D.O.テーマ曲 合唱付き)まで約2時間を超える迫力のコンサートの模様を完全収録!

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

アルバム『The End of the World』に寄せて

鎮魂の鐘で始まり、希望の鐘で終わる──。2015年8月に開催された久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)の全国ツアー(以下、W.D.O.2015)と、その演奏曲を完全収録した本盤『The End of the World』の内容を要約するならば、ズバリその一言に尽きる。戦後70周年という特別な年にふさわしい、練りに練られたプログラム。ただし、そこにたどり着くまでは、約1年にも及ぶ準備期間と、絶え間ない試行錯誤の繰り返しを必要とした。

2014年、すなわちW.D.O.結成から10年目の節目の年、久石は3年ぶりのW.D.O.のコンサートを指揮した。「ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらう」という結成当初からのコンセプトはそのままに、10年の間に飛躍を遂げたW.D.O.はポップス・オーケストラというカテゴリーの枠を大きく越え、”本物の音楽”を志向するオーケストラに成長していた。しかもW.D.O.は、日本人にとって特別な意味をもつ夏-広島・長崎の原爆投下と8月15日の終戦記念日を含む夏-という季節に限定してコンサートを開催する。そこで久石は、W.D.O.2014のテーマを「鎮魂の時」と位置づけ、クシシュトフ・ペンデレツキ作曲《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、J・Sバッハ作曲《G線上のアリア》、それに太平洋戦争に関連する久石の映画音楽作品-アルバム『WORKS IV』にも収録されている《ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」》《「風立ちぬ」第2組曲》《小さいおうち》の3曲-を演奏した。このW.D.O.2014の演奏会は大きな反響を巻き起こし、演奏終了直後、久石は聴衆の前で翌年のW.D.O.ツアー開催を宣言した。久石とW.D.O.が提示したメッセージが見事に伝わり、これまでになかったようなシリアスなプログラムでも聴衆に受け入れてもらえる、という確信が得られたからである。

その翌月、久石は30年来の夢だった「現代のすぐれた音楽を紹介する演奏会」、すなわち「Joe Hisaishi presents MUSIC FUTURE」第1回演奏会(MF Vol.1)を開催し、かねてから彼が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家、ヘンリク・グレツキとアルヴォ・ペルトの作品を演奏・紹介した。祈りに満ちた彼らの音楽は、第2次世界大戦のホロコーストの悲劇や、冷戦時代の恐怖政治の抑圧と密接な関わりを持っている。ゴレツキとペルトの演奏は、来たる2015年にやってくる戦後70周年を久石に強く意識させることになった。

MF Vol.1の演奏会が成功裏に終わったその夜、久石は早くもW.D.O.2015の実現に向けて構想を練り始め、プログラムのテーマを「祈り」とする基本方針を固めた。ツアー開催地には、久石の強い希望で広島と仙台が含まれることが決まった。言うまでもなく、2015年の原爆投下70周年と、2011年東日本大震災から立ち直りつつある東北地方を意識しての決定である(奇しくも広島公演は、8月6日の原爆の日に開催されることになった)。その際、久石が強調していたのは「単に”追悼”や”鎮魂”を掲げるのではなく、そこから先の未来に向けたメッセージも伝えなくてはならない」という点だった。それが出来なければ、W.D.O.は真の意味で「ワールド・ドリーム」を名乗る資格がない──そのような強い決意のもと、久石はW.D.O.2015のプログラミングに着手した。

プログラムの中で最初に決まったのは、《Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015》である。久石の映画音楽作品、特に宮崎駿監督作品のための音楽は、日本のみならず海外でも演奏頻度が飛躍的に高まり、ここ10年は久石以外の指揮者に演奏を委ねる機会も増えてきた。そこで久石は、宮崎作品のオーケストラ譜を完全版(Definitive Edition)の形で整え、W.D.O.で順次初演していくという計画を立てた。その先陣を切る作品としては、やはり『風の谷のナウシカ』がいちばんふさわしい。宮崎監督と久石が初めてタッグを組んだ記念すべき第1作という歴史的意義に加え、『ナウシカ』が描いている”破壊と再生”というテーマがW.D.O. 2015のプログラムにふさわしいと、久石は判断した。

では、他の曲をどうするか? どうしたら、戦後70周年にふさわしく、かつW.D.O.らしいプログラムを組み立てることが出来るか? ここから、久石の長い格闘が始まった。ある段階では、第2次世界大戦の戦没者や犠牲者のために書かれたクラシック曲、あるいはもっと広い意味で”追悼”をテーマにしたクラシック曲なども、演奏の可能性がかなり真剣に検討された。しかしながら、W.D.O.は既存の常設オーケストラと異なり、クラシックだけを演奏する団体ではあに。レクイエム(鎮魂ミサ曲)のような作品ばかり並べた”追悼演奏会”にしたのでは、W.D.O.らしさが失われてしまう。そうは言っても、W.D.O.2015はヒロシマと東北に向けたステートメントをきとんと伝えなくてはならない──。このような雁字搦めの状況の中、ありとあらゆる可能性が候補に挙がり、また破棄されていった。

そうした中から生まれてきたのが、久石が2008年に作曲した《The End of the World》を、W.D.O.2015のプログラムの中で演奏するというアイディアである。もともとこの作品は、久石が2001年同時多発テロ(9.11)に着想を得て作曲したといういきさつがある。そして、W.D.O.のテーマ曲である《World Dreams》も、久石が9.11を強く意識して作曲した作品だ。原爆投下70周年と東日本大震災、これだけでも非常に大きいテーマであるが、久石はそこに9.11を加えることで、戦後70年のあいだに我々日本人が何を体験し、何を感じてきたか、その重みを世界全体の普遍性の中で捉え、《The End of the World》に集約して表現しようと考えた。そのアイディアと軌を一にする形で、東北に向けた新作をW.D.O.2015で演奏するというプランも生まれてきた。久石が《祈りのうた》を作曲したのは、そのプランが生まれてからすぐのことである。

かくして、”祈り”をテーマにしたW.D.O.2015のプログラムは《祈りのうた》《The End of the World》《ナウシカ》の3曲を中心にして構成する、という全体の骨格が固まった。原爆投下70周年の2015年8月6日に広島で演奏しても、東日本大震災の記憶が残る仙台で演奏しても、全く恥ずかしくないプログラムである。まさに「世界の終わり」を垣間見るような重量級の内容だが、そこまで徹底的に突き詰めてこそ、W.D.O.が振り子を揺り戻すようにエンタテインメント性豊かな音楽を演奏することの意味が生まれてくる。その部分に関しては、2015年の久石の新作《Dream More》と、宮崎作品の《紅の豚》を演奏することで万全を期した。

この間、久石は2015年2月の台湾公演と4月のイタリア公演、5月の新日本フィル演奏会(ペルトの交響曲第3番など)、アルバム『Minima_Rhythm II』の準備とリリース、それらと並行して山田洋次監督作『家族はつらいよ』をはじめとする数々のエンタテインメント音楽の作曲など、凄まじいスケジュールをこなしながらW.D.O.2015の準備を進めていった。特に《The End of the World》に関しては、「祈り」というテーマにふさわしい演奏にすべく、作品の構成そのものが大幅に見直された。試行錯誤の結果、《The End of the World》はリハーサル開始まであとわずかというギリギリのタイミングで、ようやく最終的な楽章構成が確定した。

2015年8月5日の大阪公演を皮切りに、全国5都市計6回の公演がもたれたW.D.O.2015。筆者はそのうち、東京公演2回を聴いたが、プログラム第1曲の《祈りのうた》がチューブラー・ベルズで始まり、最後のアンコール曲《World Dreams》の最終和音がチューブラー・ベルズで閉じられるのを聴いて、言葉では表現しようのない感動に打ち震えた。鐘で始まり、鐘で終わるW.D.O.2015。2つの鐘は、同じではない。最初は鎮魂の鐘、最後は希望の鐘だ。この2つの鐘が象徴しているように、W.D.O.2015はプログラム全体にわたり、「鎮魂から希望へ」というトータル・コンセプトが見事に貫かれていた。これほど考え抜かれたコンサートは、久石と言えども、そうそう作り上げることが出来るものではない。だからこそ、本盤『The End of the World』のリリースに際しては、アンコールを含むW.D.O.2015の全演奏曲が1曲も割愛されることなく完全収録されることになった(収録フォーマットの関係上、CDとLPでは曲順が若干異なる)。戦後70周年にふさわしい、久石譲&W.D.O.の歴史的名盤がここに誕生した。

 

 

楽曲解説

祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-

原曲は2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGMのピアノ独奏曲として書かれた。久石がホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)の様式で初めて作曲した楽曲である。本盤に収録されているピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版はW.D.O.2015のプログラム第1番として演奏され、その際、「ヘンリク・グレツキへのオマージュ Homage to Henryk Górecki」という副題が付加された。グレツキは、アウシュヴィッツ強制収容所の悲劇-ヒロシマと共に第2次世界大戦を象徴する悲劇-をテーマにした《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》で知られるホーリー・ミニマリズムの作曲家である。冒頭、チューブラー・ベルズが弔鐘のように鳴り響くと、最初のセクションでピアノ独奏が透明感あふれる三和音のモティーフを導入し、中間部のセクションでピアノとヴァイオリンが悲しみに満ちた和音を演奏した後、嗚咽がこみ上げるような弦楽合奏が加わり、最初のセクションが再現されるという構成になっている。

 

The End of the World for Vocalists and Orchestra
 I. Collapse - II. Grace of the St. Paul -
III. D.e.a.d - IV. Beyond the World

原曲は、久石が2007年秋にニューヨークを訪れた時の印象を基に作曲された。当初《After 9.11》というタイトルが付けられていたように、2001年同時多発テロ(9.11)による世界秩序と価値観の崩壊が引き起こした「不安と混沌」をテーマにした作品である。この楽曲は2008年の初演から本盤のW.D.O.2015ヴァージョンまで、かなり複雑な変遷をたどっているので、以下にその過程を列挙する。

(A)コンサート・ツアー『Piano Stories 2008』初演ヴァージョン(12本のチェロ、コントラバス、ハープ、パーカッション、ピアノのための)
I. Collapse - II. Grace of the St. Paul - III. Beyond the World の3楽章からなる組曲。

(B)アルバム『Another Piano Stories~The End of the World』(2009年2月リリース)収録ヴァージョン
上記(A)に後述のヴォーカル・ナンバー《The End of the World》(ヴォーカルは久石)を加えた4楽章の組曲版。

(C)アルバム『Minima_Rhythm』(2009年8月リリース)収録バージョン(合唱と管弦楽のための)
3楽章版(A)を大幅に加筆してフル・オーケストラ化。併せて第3楽章〈Beyond the World〉では、(A)の構想段階で終わっていた合唱の導入が初めて実現した。

(D)本盤収録のW.D.O.2015ヴァージョン(声楽と管弦楽のための)
(C)の〈Grace of the St.Paul〉と〈Beyond the World〉の合間に、新たな楽章〈D.e.a.d〉を追加。終楽章〈Beyond the World〉の後、ヴォーカル・ナンバー《The End of the World》が続き、全5楽章の組曲のように演奏される。

I. Collapse
グラウンド・ゼロの印象を基に書かれた楽章。冒頭、チューブラー・ベルズが打ち鳴らす”警鐘”のリズム動機が、全曲を統一する循環動機もしくは固定楽想(idéefixe)として、その後も繰り返し登場する。先の見えない不安を表現したような第1主題と、より軽快な楽章を持つ第2主題から構成される。

II. Grace of the St.Paul
楽章名はグラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌が中近東風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サクソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンのドップラー効果を表現したものである。

III. D.e.a.d
原曲は、2005年に発表された4楽章の管弦楽組曲《DEAD》(曲名は”死”と、D(レ)E(ミ)A(ラ)D(レ)の音名のダブル・ミーニング)の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉。原曲の楽章名は、ニーチェの哲学書『ツァラトゥストラはかく語りき』に登場する一節「怪物と闘う者は、その過程で自分が怪物にならぬよう注意せねばならない。深淵を臨くと、深淵がこちらを臨き返してくる」に由来する。今回、新たに声楽と弦楽合奏のために再構成され、久石のアイディアを基に麻衣が歌詞を書き下ろした。声楽パートをカウンターテナーが歌うことで、歌詞が特定の事件(すなわち9.11)や世俗そのものを超越し、ある種の箴言のように響いてくる。

IV. Beyond the World
「世界の終わり」の不安と混沌が極限に達し、同時にそれがビッグバンを起こすように、「生への意思」に転じていくさまを、8分の11拍子という複雑な変拍子と、絶えず変化を続ける浮遊感に満ちたハーモニーによって表現した壮大な楽章。アルバム『Minima_Rhythm』録音時に、久石自身の作詞によるラテン語の合唱パートが付加された。楽章の終わりには、チューブラー・ベルズの”警鐘”のリズム動機が回帰する。

Recomposed by Joe Hisaishi The End of the World
原曲は、ポップス歌手スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせたヴォーカル・ナンバー(邦題は《この世の果てまで》)。歌詞の内容は、作詞者のSylvia Deeが14歳で父親と死別した時の悲しみを綴ったものとされている。このヴォーカル・ナンバーは、上述の組曲《The End of the World》の作曲にも大きなインスピレーションを与えた。本楽曲のメロディーの美しさをかねてから高く評価していた久石は、アルバム『Another Piano Stories』の時と同様にヴォーカル・ナンバーをリコンポーズし、それを組曲のエピローグとして付加している。交響曲の中に世俗曲や民謡を引用した、グスタフ・マーラーの方法論にも近いと言えるだろう。〈D.e.a.d〉とは正反対に、愛する者を失った悲しみをエモーショナルに歌うカウンターテナーと、その嘆きを暖かく包み込む崇高な合唱。その背後で静かに鳴り響くチューブラー・ベルズのリズム動機は、もはや恐ろしい”警鐘”ではなく、祈りの弔鐘”へと優しく姿を変えている。かくして9.11の悲しみは、誰もが共感し得る私たち自身の悲しみに昇華して普遍化を遂げ、戦後70周年にふさわしい世界観を獲得することに成功している。

 

紅の豚
il porco rosso - Madness

世界大恐慌のイタリアを舞台に、豚の姿に変わった伝説のパイロット、ポルコ・ロッソの活躍を描いた宮崎駿監督の冒険ロマン。物語の時代が1920年代後半に設定されていたため、久石の音楽も1920年台のジャズ・エイジを強く意識したスコアとなった。本盤収録の2曲のうち、前半の〈il porco rosso〉はイメージ・アルバムで《マルコとジーナのテーマ》と名付けられていた、《帰らざる日々》のテーマ。ジャージーなピアノが、マルコ(ポルコの本名)と美女ジーナの”ロマンス”をノスタルジックに演出する。後半の〈Madness〉は、ポルコがファシストたちの追手を逃れ、飛行艇を飛び立たせるアクション・シーンの音楽。もともとこの楽曲は、小説家フィッツジェラルドをテーマにした久石の1992年のソロ・アルバム『My Lost City』(アルバム名はフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)に収録されていたが、宮崎監督の強い要望で本編使用曲に決まった、という逸話がある。大恐慌直前のジャズ・エイジの”狂騒”と、1980年代後半のバブルの”狂騒”を重ね合わせて久石が表現した〈Madness〉。その警鐘に耳を傾けることもなく、日本のバブルは『My Lost City』リリースと『紅の豚』公開の直後、崩壊した。

 

Dream More

サントリー「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズドリーム」のCMテーマとして作曲された、2015年の久石の新作のひとつ。CM発表会見にて、久石は「ノスタルジックで感傷的なメロディー」を「いろいろな味わいのする多重奏」に仕上げたと語っている。本盤に収録されているのは、W.D.O.2015で世界初演されたフル・ヴァージョン。《Dream More》という曲名には、現状に満足せず、さらなる夢(ドリーム)を追い求めていこうとする久石とW.D.O.の飽くなきチャレンジ精神が込められているように思われる。

 

Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
(a)風の伝説 – (b)遠い日々 – (c)ナウシカ・レクイエム – (d)メーヴェとコルベットの戦い –
(e)谷への道 – (f)蘇る巨神兵 – (g)遠い日々 – (h)鳥の人 – (i)風の伝説

最終戦争「火の七日間」が勃発し、巨神兵が破壊の限りを尽くして崩壊した巨大産業文明。それから1000年後、荒廃した世界の中で暮らす少女ナウシカは、戦乱の中で自然との共生を強く訴えかけ、自ら命を投げ出すことで世界に奇跡を起こす。久石と宮崎監督がタッグを組んだ記念すべき第1作にして、久石の代表作のひとつでもある『風の谷のナウシカ』の音楽は、久石自身のコンサートに限っても、これまでさまざまな編成によって演奏されてきた。演奏会用の管弦楽曲に関しては、メインテーマ〈風の伝説〉の単独演奏ほか、すでに2つの組曲が交響詩の形で演奏されている。すなわち、アルバム『WORKS I』収録の1997年ヴァージョン(a, b, c, d, e, g, h, i)と、BD&DVD『久石譲 in 武道館』およびアルバム『The Best of Cinema Music』収録の2008年ヴァージョン(a, b, c, d, g, h, i)である。今回の演奏に際しては、久石は『ナウシカ』のために作曲した素材をすべて検討し直し、完全版となる新たなヴァージョンを作り上げた。この完全版は、近く楽譜出版が予定されている。

(a)風の伝説
本編オープニングタイトルの音楽。衝撃的なティンパニで始まる導入部の後、久石のソロ・ピアノが万感の想いを込めてメインテーマを演奏する。そのメロディーの冒頭部分は、あたかも1980年代の映画音楽のトレンドに真っ向から抵抗するかのように、コード進行をほとんど変えない形で作曲されている。ミニマル・ミュージックの作曲家ならではのストイックな音楽的姿勢と、文字通り身を削るようなナウシカの壮絶な生きざまが重なって聴こえてくるのは、筆者ひとりだけではないだろう。

(b)遠い日々
「ラン・ランララ・ランランラン」の歌詞で知られるモティーフを、オーケストラのみで扱った部分。軽やかな木管がモティーフを提示した後、バロック風のフーガが続く。このフーガは、チェロとピアノのために書かれた《「風の谷のナウシカ」より組曲5つのメロディー》第4曲のフゲッタを発展させたものである(蛇足だが、曲のイメージと本編の印象から、「ラン・ランララ・ランランラン」のモティーフを〈ナウシカ・レクイエム〉と表記する解説がしばしば見受けられるが、それらはすべて誤り。正しくは〈遠い日々〉のモティーフである)。

(c)ナウシカ・レクイエム
自らの命を犠牲にして、虫たちの暴走を止めたナウシカを人々が嘆き悲しむシーンの音楽。バロックの作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルにも通じる力強い楽想が、聴く者に強い印象を与える。日本武道館で演奏された2008年ヴァージョンより、この部分の音楽には合唱パートが付加され、レクイエム(鎮魂ミサ曲)の〈怒りの日〉のラテン語歌詞を歌う。歌詞と訳は次の通り。「Dies iræ, dies illa 怒りの日が到来する時/solvet sæclum in favilla この世は灰燼に帰すだろう/teste David cum Sibylla ダビデとシビラの予言のように/Quantus tremor est futurus その恐ろしさは如何ばかりか」。

(d)メーヴェとコルベットの戦い
小型飛行機メーヴェを操るナウシカがトルメキア軍の大型戦闘機コルベットの追撃をかわすシーンの、ダイナミックな音楽。

(e)谷への道
サントラ録音に先立ち、久石が宮崎監督の絵コンテを基に作曲・録音した『イメージアルバム 鳥の人…』および『シンフォニー 風の伝説』に収録されていた楽曲。本編では未使用に終わったが、『ナウシカ』の世界観を表現するのに欠かせない重要な音楽のひとつである。当初からチェロの音色を意識して作曲されたという経緯もあり、本盤に聴かれる演奏でも、チェロがモティーフに豊かな膨らみを与えている。

(f)蘇る巨神兵
今回、初めて交響詩の中に組み込まれたモティーフ。不気味なグリッサンドを歌う合唱パートが新たに付加され、巨神兵の恐怖を強調する。

(g)遠い日々
本編のクライマックス、絶命したはずのナウシカが蘇る感動的なシーンの音楽。サントラ録音時、まだ4歳だった久石の娘・麻衣が「ラン・ランララ・ランランラン」を歌い、絶大な効果を上げた逸話はあまりにも有名である。W.D.O.2015の演奏に先立つリハーサルでは、「オペラ歌手のように朗々と歌わず、あくまでも気負わないで」と久石が指示を与えていたのが印象的だった。

(h)鳥の人
上の(g)に続き、人々がナウシカの再生と平和の到来を喜ぶラストの音楽。壮大な合唱が「ラララン・ランランラン」と歌い、音楽は歓喜の頂点に達する。

(i)風の伝説
オーボエが〈風の伝説〉のモティーフをしみじみと回想した後、本編エンドロールの音楽を凝縮したエピソードで全曲が閉じられる。

 

Your Story 2015

原曲は、第34回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀音楽賞ほか5部門に輝いた李相日監督『悪人』の主題歌。W.D.O.2015のアンコールで、テナーとカウンターテナーのための新ヴァージョンが披露された(本盤の演奏では、高橋淳が両方の声域にまたがる形で歌唱を披露している)。2011年、東日本大震災の3ヶ月後に開催されたチャリティ・コンサートでは、久石が撮影してきた被災地のスチール写真の投影と共に《Your Story》が演奏され、聴衆に深い感銘を与えた。そこには「Your Storyとはあなたたち、わたしたち日本人のストーリー」という言外の意味が込められていたように思われる。以上のような文脈を考慮し、別掲の歌詞日本語訳は、サントラ盤所収の日本語訳とは異なる形で訳出した。

 

World Dreams  for Mixed Chorus and Orchestra

2004年、久石と新日本フィルがW.D.O.を立ち上げた歳に書き下ろした、W.D.O.テーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で・・・・』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国家のような格調のあるメロディーが頭を過った」。本盤では、2011年に麻衣が作詞した歌詞を合唱が歌うヴァージョンが演奏されている。久石とW.D.O.が奏で続ける”世界の夢”(ワールド・ドリーム)を象徴した、崇高なメロディー。そこに込められた”希望の力”を、チューブラー・ベルズが心に刻みこむよういして静かに鳴り響き、W.D.O.2015の幕となる。

2016年5月27日、オバマ大統領広島訪問の日に
前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(寄稿・楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

World Dreams
作曲:久石譲 歌詞:麻衣

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の声は 希望の力
時を越え響き渡れ 愛を歌おう

哀しみにつまずけば 自由がみえる
歓びの灯が消えても 共に歩き続けよう
世界の夢よ 全ての人に
届けようこの歌声 愛を信じて

夢をみるひとすじの小さな光
千年の時を経て 明日を照らし続ける
愛を歌おう

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の夢よ すべての人よ
誇り高きこの夢に 愛を誓おう
永久(とわ)に誓おう

(「World Dreams」歌詞 ~CDライナーノーツより)

※他作品歌詞もすべてライナーノーツ掲載あり

 

 

 

「The end of the World」について

-《The End of the World》は2008年に初めて発表したものを進化させ、楽章を増やしていますね。

久石:
この曲を作った直接的なきっかけは2001年に起こったアメリカ同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ映像をずっと自分の中で引きずっていて、グラウンド・ゼロを訪れたりする中で確実に世界の有り様が変わったのを感じていました。それが今に通じているところがあると思い、今回のツアーで演奏しようと思ったわけですが、もともとの3楽章に加え、さらに深いところに入っていけるような《D.e.a.d》という楽章を加えました。以前書いた《DEAD for Strings , Perc. , Harp and Piano》という組曲が《The End of the World》と通じる部分があったので、《DEAD》の第2楽章の弦楽曲をもとに新たに楽章を加え、全体を再構築しました。

-《The End of the World》は冒頭から鳴る鐘の音が印象的です。

久石:
鐘の音はまさに警鐘を意味しています。全楽章であのフレーズを通奏していますが、象徴しているのはいわば”地上の音”。それに対して入ってくる声は、人間を俯瞰で見るような目線です。地上にいる人間の業に対し、遠くから「どうなっていくんだろう」という問いかけをしているんです。

-前半の最後にはスキータ・デイヴィスのヒット曲でもある同名曲《The End of the World》も登場します。

久石:
この曲が最後にくることによって《The End of the World》を全部で5楽章と捉えられるような構成にしたいと思いました。”あなたがいなければ世界が終わる”というラブソングですが、”あなた”を”あなたたち”と解釈することもできて、そう考えるとこれは人類に対するラブソングでもある。だからといってそこにあるのは救いじゃないかもしれない。冒頭で示した鐘の音による旋律も入ってくるし、不協和音も漂っている。それをどう感じてもらえるかがポイントになってくると思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

「実は、直前まで決定するのに苦しんでいて、やっと「The End of the World」というタイトルに決まったんです。この「The End of the World」には同名のスタンダード曲も存在して、「あなたがいないと私の世界が終わる」というような意味のラブソングです。でも、この曲のあなたを複数形でとらえ、あなたたちが存在していなければ、世界は終わってしまうといった、もっと広い意味で捉えると、たぶん今、僕が考えている世界観にとても近いんじゃないかと感じて、敢えてこの同じタイトルを用いた理由です。楽曲は、1楽章は4分の6拍子から始まり、最終楽章が8分の11拍子という、大変難しい曲。おまけに、絶えずピアノが鳴らす基本リズムがあり、それに他の楽器が絡み合う、本当に”世界のカオス”、まさに”混沌”を表現するような、アンサンブル自体がカオスになってしまうんじゃないかというくらいの難曲になってしまいました。」

Blog. 「久石譲 ~Piano Stories 2008~」 コンサート・パンフレット より

 

 

 

「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」について

久石譲インタビュー:
オーケストラでのコンサートをずいぶんやってきましたが、映画音楽を演奏しようとすると一部分になってしまうことが多かったので、大きな作品として聴いてもらえるものを作りたいという思いがずっとありました。「風の谷のナウシカ」の組曲は以前に「WORKS I」というアルバムを作った時に、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で録音したバージョンがあったのですが、それをベースに映画で使われているものを継承しながらさらにスケールアップさせようと思って取り組みました。ただ、いざやり始めてみると大変。映画自体が破壊と再生というテーマを持っていて、前半のプログラムと通じているところが多く、精神的に苦労しました。

これを機会に宮崎さんの作品を交響組曲として表現していくプロジェクトを始められたらと思っています。世界中のオーケストラから演奏したいという要望もありますし、今後続けられれば嬉しい。ただ、僕は毎回のコンサートを「これが最後」という気持ちで臨んでいるので、今回きちんと成功してやっと次が見えてくるんだと思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

 

 

 

 

The End of The World LP o

◆CD「The End of the World」
【DISC_1】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【DISC_2】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
5. Your Story 2015
6. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

※初回生産限定スペシャルパッケージ(スリーブ付仕様)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
(DISC 1 Track-6 Music Recomposed and Produced by Joe Hisaishi)

Conducted:Joe Hisaishi
Performed:New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Concert Master:Yasushi Toyoshima

Piano:Joe Hisaishi (DISC 1 Track-1 / DISC 2 Track-1,2,4,5)
Countertenor / Tenor:Jun Takahashi (DISC 1 Track-4,6 / DISC 2 Track-5)
Chorus:Ritsuyukai Choir (DISC 1 Track-5,6 / DISC 2 Track-4,6)
Chorus Master:Takuya Yokoyama (Ritsuyukai Choir)

Live Recorded at The
Symphony Hall, Osaka (5th August, 2015)
Suntory Hall, Tokyo (8th August, 2015)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (9th August, 2015)

Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)

Photograph:Ryoichi Saito

and more…

 

 

◆LP「The End of the World」
【Side_A】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
【Side_B】
The End of the World for Vocalists and Orchestra
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【Side_C】
1. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
【Side_D】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Your Story 2015
5. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

 

Disc. 久石譲 『家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック』

2016年3月9日 CD発売 UMCK-1538

 

2016年公開 映画「家族はつらいよ」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

国民的映画 『男はつらいよ』から『家族はつらいよ』

「男はつらいよ」シリーズは、1969年から1995年まで計48作品にわたって公開された、国民的シリーズ映画。観客動員数はのべ8000万人以上、時代が変わっても色あせない永遠の喜劇として、現在も多くの人に愛され続けています。本作は、その「男はつらいよ」の生みの親である山田洋次監督が、新たに取り組んだ喜劇作品。日本中に笑顔と感動を届け続けた”寅さん”に通じる家族の物語が、ついに到来します!

 

映画「東京家族」(2013)のキャスト8人が再結集。「この最高のアンサンブルで、今度は現代の家族を”喜劇”で描きたい」という山田洋次監督の強い想いの下に、新たに豪華キャストも加わり、このメンバーでしか紡ぎ出せない最高の喜劇が完成。

 

 

コメント

今までコミカルな場面の音楽を作曲することは多々ありましたが、本格的な喜劇は初めてでした。喜劇映画の音楽は、どうしても伴奏音楽になりがちです。テーマ曲やその他の旋律がしっかりと劇に絡み、単なる伴奏ではなくきちんと映画と融合する音楽を目指しました。ホンキートンク・ピアノ(※)を使ったところ、山田監督も気に入られ、結果、その音が本作の色にもなったのがとても嬉しかったです。喜劇というのは、ある意味、悲劇の裏返しだと思います。ドタバタの中でも人間の哀しみが滲み出るような、俯瞰で見る神のような視点も必要。その点でもうまくいったと思います。

※1930~40年代頃のジャズの前身の頃によく使われ、少しチューニングが狂ったような調子っぱずれの音色を出す。

(コメント ~映画「家族はつらいよ」劇場用パンフレット内 久石譲コメントより)

 

家族はつらいよ パンフレット

(パンフレット)

 

 

山田洋次×久石譲のタッグは、「東京家族」(2013)、「小さいおうち」(2014)に続いての3作目。山田洋次監督の20年ぶりの喜劇に対して、久石譲にとっても本格的な喜劇映画の音楽担当は初となる。

楽器編成のクレジットにもあるとおり、ホンキートンク・ピアノやパーカッションを効果的に使用した、小編成かつ短いモチーフの楽曲構成となっている。

 

 

補足

豪華俳優陣は『東京家族』(2013)と同キャストの再集結であり、久石譲の音楽担当も『東京家族』『小さいおうち』に続いて3作目となる。なお撮影は2014年9月から11月に行われている。また第28回東京国際映画祭(2015年10月開催)にて上映されている。

このことからも久石譲音楽制作は2015年前半もしくは2014年にはすでに完成していることになる。いよいよそれを聴くことができるのが2016年3月ということである。

 

 

家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック 久石譲

1. はじまり はじまり
2. 家族はつらいよ オープニング
3. なんだこれ
4. 憲子さん
5. 八つ当たり
6. ご帰宅
7. ラブ・ストーリー
8. ヒガイシャ
9. 夫婦になりたい
10. 探偵事務所
11. 心配
12. こりゃどうも
13. 哀れな父さん
14. 潜入調査
15. ま・さ・かの再会
16. 級友
17. 本気なのよ
18. やけ酒
19. 家族会議
20. 富子の告白
21. サラリーマン
22. 髪結いの亭主
23. これが目に入らぬか!
24. ためらい
25. もしものとき
26. 孫
27. 「ハーイ」
28. 空っぽの部屋
29. 義父へ
30. 周造の告白
31. 家族はつらいよ

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Yuna Okubo
Clarinet:Masashi Togame
Bassoon:Mina Higashi
Trumpet:Sho Okumura
Trombone:Kanade Shishiuchi
Percussion:Marie Oishi
Guitar:Akira Okubo
Bass & Contrabass:Jun Saito
Drums:Yuichi Togashiki
Piano & Honky Tonk Piano:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 『柘榴坂の仇討 特装限定版』

2015年4月3日 DVD/Blu-ray発売 BCBJ-4659

 

2014公開 映画『柘榴坂の仇討』
監督:若松節朗 音楽:久石譲 出演:中井貴一・阿部寛 他

 

 

通常版と特装限定版、それぞれDVD/Blu-rayと計4形態にて発売された「特装限定版」の映像特典に、「監督 若松節朗×音楽 久石譲 対談」が収録されている。約30分にも及ぶスペシャル対談で、本映画の音楽について、随所にそして具体的に語られている。

 

 

【「雪」を音楽にする】

若松:
最初にオーダーしたのは、「雪」を音楽にするということ。いろいろな雪がイメージできるが、久石さんがどのような雪の音楽を作ってくるのか楽しみだった。

最初に聴いた本編冒頭のM1で驚いた。夢の中で起こる事件の話だったが、サスペンス的な音楽かなと想像していたら、久石さんの楽曲は、とても温かい音楽でまさに雪の音楽だった。

久石:
メインテーマは別にもあるが、この映画ではM1がすごく重要だったかもしれない。

いわゆる時代劇のような音楽ではないほうがこの映画にはいいと思った。時代劇とするよりは、たまたま設定が時代劇で、現在の自分たちととても近いものとしたほうが。

 

【秋元邸で金吾が涙を流すシーン】

若松:
音楽の止める場所とかものすごく学ぶことが多かった。

久石:
構成の問題もあって、あのあと最後の決闘シーンが控えている。登場人物たちの心情を表現するとしても、音楽はそこにとっておく必要がある。なのでこの場面はあえて突き放して音がないほうがいいと思った。

 

【映画音楽の作り方】

久石:
今ハリウッドでやっている映画音楽は「効果音楽」。そのシーンごとに切り取ったらぴたっとはまるけれど、全体としては残らない。そこには全体の構成がないから。

これはあまりにもデジタル技術が発達したため、つまりシュミレーションが簡単にできるようになったために起こっている現象だと思っている。

 

【俯瞰した音楽をつくる】

久石:
映画音楽は一般的に「状況に音楽をつける」「登場人物の心情に音楽をつける」という大きく二つの方法がある。最近はそのどちらでもなく、もう一歩引いたところから、「俯瞰して音楽をつける」ということをしている。そうすることによって作品が言いたいことがより伝わりやすくなったり、より立体的になるように思っている。

(インタビュー内容一部抜粋書き起こし)

 

 

<本編盤>
本編119分+映像特典3分(特報/予告編/TVスポット集)
<特典収録盤>
監督 若松節朗×音楽 久石 譲 対談
メイキング映像
イベント映像(完成報告会見/プレミア試写会舞台挨拶/豪徳寺大ヒット祈願/初日舞台挨拶)
<特製小冊子(21p)> 封入特典
キャストインタビュー集
原作・浅田次郎インタビュー
撮影地&緑の地 紹介
歴史年表
用語集

 

Disc. 久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』

2014年10月8日 CD発売 UMCK-1495

 

約9年ぶりのWORKSシリーズ第4弾

3年ぶりに復活したW.D.O.とのコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014」から初音源化となる楽曲のみを収録したアルバム。リハーサルと2公演の本番すべての演奏を収録し、ベスト・テイクのみを収めている。豪華なサウンドで奏でられる久石の映画音楽のオーケストラ作品が、コンサートならでは臨場感と共に味わえるハイクオリティな一枚。

2013年の久石のワークスから「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」「小さいおうち」と3巨匠の作品をメインに据え、未だ音源化されていなかった「私は貝になりたい」と「Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)」を収録。いずれも音楽的な「作品」として新たにオーケストレーションし直した魅力あふれる楽曲たちがラインナップ。

演奏は新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)との、今年8月9日・10日に行われたコンサートをレコーディングし、チーム久石によって最高のクオリティを追求した作品として仕上げる。

また吉岡徳仁氏の”The Gate”に一目惚れした久石譲が、メインデザインに熱望したジャケットも必見。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

【収録曲 解説】

バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲

宮崎駿監督と久石がタッグを組んだ10本目の長編映画『風立ちぬ』は、ゼロ戦開発に従事した実在の設計者・堀越二郎の半生と、小説『風立ちぬ』の作者・堀辰雄の世界観を融合させ、「美しい風のような飛行機を造りたいと夢見る」主人公・二郎の夢と狂気、そして肺結核に冒された妻・菜穂子と二郎の夫婦愛を描いた作品。本盤に収録された《第2組曲》は、2013年12月に東京と大阪で世界初演された《小組曲》と異なり、本編のストーリーの流れに縛られることなく主要曲を音楽的に再構成している。『風立ちぬ』は、宮崎監督の意向で音声がモノラル制作されたこともあり、本編用のスコアは慎ましい小編成で演奏されていたが、《第2組曲》では原曲の持つ室内楽的な味わいを残しつつも、音響上の制約を一切受けることなく、壮大なオーケストラ・サウンドが展開している。

全曲の中心となるのは、バラライカ、バヤン(ロシアのアコーディオン)、ギターの3つの特殊楽器で主人公の遙かなる旅情を表現した「旅路のテーマ」と、久石らしい叙情的なピアノが凛としたヒロイン像を表現した「菜穂子のテーマ」の2つのテーマ。最初の〈旅路(夢中飛行)〉で3つの特殊楽器とノスタルジックなジンタ(軍楽)が「旅路のテーマ」を導入し、続く〈菜穂子(出会い)〉では久石のソロ・ピアノが「菜穂子のテーマ」をしっとりと演奏する。

次の3つの音楽、すなわち勇壮な行進曲の〈カプローニ(設計家の夢)〉、ミニマル的な推進力に溢れた〈隼班〉と〈隼〉は、いずれも二郎の飛行機への憧れと情熱を表現したセクションと見ることが出来るだろう。

3つの特殊楽器がしみじみと「旅路のテーマ」を演奏する〈旅路(結婚)〉が間奏曲的に登場した後、関東大震災の被災シーンのために書かれた〈避難〉では、オーケストラが凶暴なミニマルの牙を剥く。

続く3つの音楽、すなわち吐血した菜穂子の許に二郎が駆けつける場面の〈菜穂子(会いたくて)〉、二郎の許に菜穂子発熱の報が届く場面の〈カストルプ(魔の山)〉、療養所を飛び出した菜穂子が二郎と再会する場面の〈菜穂子(めぐりあい)〉は、「菜穂子のテーマ」を中心とした夫婦愛の音楽のセクションと捉えることも可能である。

フィナーレは、ラストシーンの〈旅路(夢の王国)〉。3つの特殊楽器と久石のピアノも加わり、万感の想いを込めて「旅路のテーマ」を演奏する。

 

Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)

魔女の見習い・キキが宅急便で生計を立てながら、逞しく成長していく姿を描いた宮崎駿監督『魔女の宅急便』から、キキが大都会コリコを初めて訪れるシーンの音楽〈海の見える街〉を演奏会用に作品化したもの。今回の2014年版では、スパニッシュ・ミュージックの要素が印象的だった後半部のセクションもすべてオーケストラの楽器で音色が統一され、よりクラシカルな味わいを深めたオーケストレーションを施すことで、ふくよかで温かみのあるヨーロッパ的な世界観を描き出している。

 

ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」

太平洋戦争に従軍した心優しい理髪師・清水豊松が米軍捕虜殺害の容疑で逮捕され、BC級戦犯として死刑に処せられる不条理の悲劇を描いた『私は貝になりたい』は、日本のテレビドラマ史を語る上で欠かせない橋本忍脚本の反戦ドラマ。橋本自身が脚本をリライトした2008年の映画版では、物語後半、豊松の妻・房江が夫の助命嘆願の署名を集めるために奔走する”道行き”のシークエンスが大変に印象的だったが、上映時間にして実に15分近くを占める”道行き”のシークエンスのために、久石は格調高い独奏ヴァイオリンを用いたワルツを作曲し、四季折々の美しい風景の中でじっくり描かれる夫婦愛を見事に表現していた。本盤では、そのシークエンスの音楽〈汐見岬~愛しさ~〉と〈メインテーマ〉を中心に、ヴァイオリンとオーケストラのためのコンチェルティーノ(小協奏曲)として発展させたもの。ヴァイオリンがワルツ主題を導入する主部と、ヴァイオリンが重音奏法を駆使する〈判決〉の激しい中間部、そしてワルツ主題が回帰する再現部の三部形式で構成されている。

 

交響幻想曲「かぐや姫の物語」

『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』で音楽演出を務めた高畑勲監督が、久石に初めてスコアを依頼した『かぐや姫の物語』は、実に12年もの製作期間を費やした高畑監督のライフワークというべき大作。言わずと知れた日本最古の文学『竹取物語』を高畑監督独自の解釈で映画化しているが、久石は五音音階を基調とする音楽をはじめ、前衛的なクラスター音、西洋の楽器で東洋的な世界観を表現するマーラー流の方法論、さらには久石の真骨頂というべき、エスニック・サウンドまで多種多様な音楽語法を投入し、高畑監督の世界観を見事に表現してみせた。古来より”赫映姫”とも”輝夜姫”とも記されてきたヒロインの光り輝く姿を表現するため、チェレスタやグロッケンシュピールといった金属系の楽器を多用しているのも本作の大きな特長のひとつで、今回の組曲版ではそうした楽器のメタリカルな響きが、よりいっそう有機的な形でオーケストラの中に溶け込んでいる。組曲としての音楽性を優先させるため、本編のストーリーの順序に縛られない構成となっているのは、『風立ちぬ』の《第2組曲》と同様である。

最初の〈はじまり〉ではピッコロが「なよたけのテーマ」を、チェレスタが高畑監督作曲の「わらべ唄」をそれぞれ導入し、きらびやかな〈月の不思議〉のセクションをはさんだ後、マーラー風の〈生きる喜び〉が東洋的な生命賛歌を歌い上げる。その後、〈春のめぐり〉の8分の6拍子の音楽となり、永遠に繰り返しを続けるようなピアノの三和音の上で、チェロが心に沁み入る旋律を歌う。

曲想が一転すると、怒りと悲しみを込めた衝撃的な不協和音が響き渡る〈絶望〉となるが、今回の組曲版ではミニマル的な展開部分が新たに加わり、重厚かつエモーショナルなオーケストラが壮大なクライマックスを築き上げる。

〈絶望〉の激しい感情が鎮まると、かぐや姫と捨丸が手を携えて飛行する場面の〈飛翔〉となり、幸福感に満ち溢れたオーケストラが〈生きる喜び〉のテーマを美しく展開する。そしてサンバを元に発想したという〈天人の音楽〉となるが、ここで久石はケルト、アジア、アフリカなど様々な民族音楽の要素を掛け合わせ、いわば”究極のエスニック”と呼ぶべき彼岸の音楽を書き上げているが、それをスタンダードなオーケストラで見事に表現している。

最後の〈月〉では「なよたけのテーマ」や「わらべ唄」など主要テーマが再現され、後ろ髪を引かれるようにコーダで全曲が閉じられる。

 

小さいおうち

『東京家族』に続き、久石が山田洋次監督作のスコアを担当した第2作。激動の昭和を生き抜いた元女中・タキの回想録に綴られた、中流家庭の奥方・時子の道ならぬ恋。その彼女たちが暮らした”小さいおうち”の人間模様と迫り来る戦争の足音、そして彼女たちを襲った東京大空襲の悲劇を描いた作品である。久石は、セリフを重視する山田監督の演出に配慮するため、本編用のスコアでは特徴的な音色を持つ楽器(ダルシマーなど)を効果的に用いていたが、本盤に聴かれる演奏はギター、アコーディオン、マンドリンを用いた新しいオーケストレーションを施し、同じ昭和という時代を描いた『風立ちぬ』と世界観の統一を図っている。

全体の構成は、久石のソロ・ピアノによる序奏に続き、タキが象徴する激動の昭和を表現した「運命のテーマ」、そして時子が象徴する昭和ロマンを表現した「時子のワルツ」となっている。

(解説 「WORKS IV」ライナーノーツより 筆:前島秀国)

 

 

「実は昨年の暮れ、東京と大阪で行った第9コンサートでも《風立ちぬ》は演奏している。それなのに何故もう一度書き直しをするのかというと、今ひとつ気に入らなかった、しっくりこない、など要は腑に落ちなかったからだ。これは演奏の問題ではなく(演奏者は素晴らしかった)あくまで作品の構成あるいはオーケストレーションの問題だ。」

「昨年のときには映画のストーリーに即し、できるだけオリジナルスコアに忠実に約16分の組曲にしたのだが、やはり映画音楽はセリフや効果音との兼ね合いもあって、かなり薄いオーケストレーションになっている。まあ清涼な響きと言えなくもないけど、なんだかこじんまりしている。そこで今回、もう一度演奏するならストーリーの流れに関係なく音楽的に構成し、必要な音は総て書くと決めて改訂版を作る作業を始めたのだが、なんと23分の楽曲になって別曲状態になってしまった。そこで後に混乱しないようにタイトルも第2組曲とした。」

Blog. 「クラシック プレミアム 9 ~ベートーヴェン2~」(CDマガジン) レビュー より抜粋)

 

 

 

Related page: 《WORKS IV》 Special

 

 

 

久石譲 WORKS IV -Dream of W.D.O.-

バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲
1. 旅路(夢中飛行)~菜穂子(出会い)
2. カプローニ(設計家の夢)
3. 隼班~隼
4. 旅路(結婚)
5. 避難
6. 菜穂子(会いたくて)~カストルプ(魔の山)
7. 菜穂子(めぐりあい)
8. 旅路(夢の王国)
9. Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)
10. ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
交響幻想曲「かぐや姫の物語」
11. はじまり~月の不思議
12. 生きる喜び~春のめぐり
13. 絶望
14. 飛翔
15. 天人の音楽~別離~月
16. 小さいおうち

※初回プレス限定 スペシャルパッケージ スリーブケース仕様

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted:Joe Hisaishi
Performed:New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Concert Master:Yasushi Toyoshima

Solo Violin:Yasushi Toyoshima (Track 10)
Piano:Joe Hisahisi (Track 1-8 ,16)

Balalaika & Mandlin:Tadashi Aoyama (Track 1-8 ,16)
Bayan & Accordion:Hirofumi Mizuno , Tomomi Ota (Track1-8 ,16)
Guitar:Masayuki Chiyo (Track 1-8 ,16)

Recorded at Suntory Hall , Tokyo (9th August , 2014)
Sumida Triphony Hall , Tokyo (10th August , 2014)

Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada

 

WORKS IV: Dream of W.D.O.

“The Wind Rises” Suite No. 2 (for Balalaika, Bayan, Guitar and Small Orchestra)
1.A Journey (A Dream of Flight) ~ Nahoko (The Encounter)
2.Caproni (An Aeronautical Designer’s Dream)
3.The Falcon Project ~ The Falcon
4.A Journey (The Wedding)
5.The Refuge
6.Nahoko (I Miss You) ~ Castorp (The Magic Mountain)
7.Nahoko (An Unexpected Meeting)
8. A Journey (A Kingdom of Dreams)

9.Kiki’s Delivery Service for Orchestra

10.I’d Rather Be a Shellfish (For Violin and Orchestra)

Symphonic Fantasy “The Tale of the Princess Kaguya”
11.Overture ~ Mystery of the Moon
12.The Joy of Living ~ The Coming of Spring
13.Despair
14.Flying
15.The Procession of Celestial Beings ~ The Parting ~ Moon 

16.The Little House

 

Disc. 久石譲 『柘榴坂の仇討 オリジナル・サウンドトラック』

2014年9月17日 CD発売 UMCK-1493

 

2014公開 映画『柘榴坂の仇討』
監督:若松節朗 音楽:久石譲 出演:中井貴一・阿部寛 他

 

 

『柘榴坂の仇討』への想い

脚本を読んで最も心に残ったのは”武士としての矜持”、即ち、何があっても揺るぐことのない武士の魂でした。「メインテーマ」ではその”潔さ”を音楽でも表現しようと心を砕きました。そして仇討を表す「宿命のテーマ」と金吾とセツの「夫婦のテーマ」を含めた三つのテーマをできるだけ立体的に、観る人に広がりを感じてもらえるように構成しました。若松監督は登場人物の心の流れを丁寧に撮られていたので、音楽は芝居から一歩引いて、それぞれの気持ちに寄り添うような形で組み立てたつもりです。映像と距離をとろうと心がけたことが、ささやかな”音楽家としての矜持”だったと言えるかもしれません。冒頭の曲が書けたときに、今までにない時代劇の音楽の形を作れるのではないかという予感がありました。映像と音楽が一体となって、観客の皆さんの心に届いてくれるならば、とても嬉しく思います。

(久石譲インタビュー CDライナーノーツより)

 

 

上記インタビューにもあるとおり、一言で言えば”押しころした”音楽となっている。”寄り添う音楽” ”立体的な広がり” ”映像と距離をとる” という言葉のとおり、決してインパクトのある旋律たちではないけれども、その分観る人、聴く人の受け止め方や感じ方に委ねる音楽といえる。

小編成なオーケストラサウンドを基調とし、ひかえめながらも、そこには緊迫感や緊張感という糸がぴんと張っている。一定に刻むストリングスをはじめとして、そこには脈を打つ鼓動のような、息をころす、気配をころすといった、そして激動の瞬間を生きた登場人物たちの宿命や覚悟のようなものが感じられる。

時代の脈打ちともいえるこの一定のリズムが、ただならぬ物語の、そして歴史の1ページを浮き上がらせているよう。”今までにない時代劇の音楽” という言葉にあるとおり、まさにその時代を生きた、それぞれの武士たちの、それぞれの信念や正義、全体をとおして聴いてみると、その鎮魂曲のような響きがしてくる。

 

 

 

2015年4月3日発売DVD 『柘榴坂の仇討 -特装限定版-』

特典DISCにて「監督・若松節朗×音楽・久石 譲 対談」が収録されている。約30分にも及ぶスペシャル対談において、本映画の音楽について、随所にそして具体的に語られている。

 

【「雪」を音楽にする】

若松:
最初にオーダーしたのは、「雪」を音楽にするということ。いろいろな雪がイメージできるが、久石さんがどのような雪の音楽を作ってくるのか楽しみだった。

最初に聴いた本編冒頭のM1で驚いた。夢の中で起こる事件の話だったが、サスペンス的な音楽かなと想像していたら、久石さんの楽曲は、とても温かい音楽でまさに雪の音楽だった。

久石:
メインテーマは別にもあるが、この映画ではM1がすごく重要だったかもしれない。

いわゆる時代劇のような音楽ではないほうがこの映画にはいいと思った。時代劇とするよりは、たまたま設定が時代劇で、現在の自分たちととても近いものとしたほうが。

 

【秋元邸で金吾が涙を流すシーン】

若松:
音楽の止める場所とかものすごく学ぶことが多かった。

久石:
構成の問題もあって、あのあと最後の決闘シーンが控えている。登場人物たちの心情を表現するとしても、音楽はそこにとっておく必要がある。なのでこの場面はあえて突き放して音がないほうがいいと思った。

 

【映画音楽の作り方】

久石:
今ハリウッドでやっている映画音楽は「効果音楽」。そのシーンごとに切り取ったらぴたっとはまるけれど、全体としては残らない。そこには全体の構成がないから。

これはあまりにもデジタル技術が発達したため、つまりシュミレーションが簡単にできるようになったために起こっている現象だと思っている。

 

【俯瞰した音楽をつくる】

久石:
映画音楽は一般的に「状況に音楽をつける」「登場人物の心情に音楽をつける」という大きく二つの方法がある。最近はそのどちらでもなく、もう一歩引いたところから、「俯瞰して音楽をつける」ということをしている。そうすることによって作品が言いたいことがより伝わりやすくなったり、より立体的になるように思っている。

 

以上、インタビュー内容を一部抜粋書き起こし。

 

 

柘榴坂の仇討 サウンドトラック

1. 悪夢
2. 夫婦
3. 敬愛
4. 予兆
5. 宿命
6. 悲愴
7. 決意
8. 本懐
9. 呵責
10. 本分
11. 安息
12. 時代
13. 前夜
14. 永遠
15. 悔恨
16. 寒椿
17. 邂逅
18. 逡巡
19. 覚悟
20. 出発

指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『小さいおうち オリジナル・サウンドトラック』

小さいおうち 久石譲

2014年1月22日 CD発売 UMCK-1472

 

2014年公開 映画「小さいおうち」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:松たか子 他

 

 

インタビュー

-今回の『小さいおうち』は、前回にも増して音楽の曲数が多いと思いました。

久石:
単純に、本編の内容から出てくる違いです。『東京家族』は非常にシリアスな内容の作品でしたので、音楽を少なめにした方がよいという判断がありました。それに対し、『小さいおうち』はラブストーリー的な側面が強い作品ですから、音楽も当然増えてきます。山田監督からも「今回は音楽を多くしたい」という要望をいただきました。それと、「非常に甘みのあるメロディが欲しい」という要望も。

-それが、冒頭の火葬場で流れてくるメインテーマですね。

久石:
本編全体を見てみると、最初はタキの葬儀の場面から始まり、ラストシーンもタキがある重要な役割を果たしています。平成から激動の昭和へ、たとえ物語の時空が自由に飛んだとしても、タキの”目線”だけは変わらない。そのタキの”目線”のテーマ、わかりやすく言えば、タキの”運命のテーマ”です。ただし、そのメインテーマだけだと音楽全体が非常に重くなってしまうので、もう1曲、別のテーマを作曲しました。

-アコーディオンで演奏されるワルツのテーマですね。

久石:
こういう作品にワルツが似合うかどうかはともかく、結果的には、ワルツによって”昭和という時代に対する憧れ”や、”小さいおうちの住人に対する憧れ”を表現できたのでは、と思っています。昭和ロマンに憧れるワルツ、という意味では、松たか子さん演ずる”時子のワルツ”と呼んでよいのかもしれません。その”時子のワルツ”と、メインとなるタキの”運命のテーマ”のデモ2曲を最初に作曲したところ、山田監督から早々にOKをいただきました。

Blog. 映画『小さいおうち』(2014) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「基本的にはメーンとなるテーマ曲は2つなんです。その時代を生きてきたタキのテーマみたいなものと、もうひとつは意表をつくようなワルツ調の曲。深い根拠はないんですが、直感みたいなもので、ある種の軽やかさが出たらいいなと思ったんです。守りに入るよりは、こちらも冒険させてもらったんですが、それが結果的に良い形になればいいなと思っています。」

Info. 2013/08/10 山田洋次監督最新作「小さいおうち」 久石譲音楽レコーディング より抜粋)

 

 

赤い屋根の小さな家で働く女中・タキの目線を通し、昭和から平成へと激動の時代を生き抜いてきたタキの自身のテーマでもある“運命のテーマ”と、アコーディオンの甘美なメロディが印象的な“ワルツのテーマ”を主軸に構成。昭和モダンのノスタルジックな雰囲気が満載のサウンドトラック。

2つのテーマにより構成されたサウンドトラックは、
”運命のテーマ” (1) (2) (3) (5) (8) (10) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21)
”時子のワルツ” (4) (6) (7) (9) (11) (12)

”運命のテーマ”はときにピアノの単音で、ときにフルートやオーボエの木管で、ときに弦楽やピッツィカートで、ギターなども加わりとてもシンプルなアコースティックサウンド。シンプルなというか極限まで削ぎ落としたメロディと言っていい。

”時子のワルツ”はアコーディオンの旋律が特徴的だが、こちらもトラックごとに、ピッツィカートや木管編成、ピアノにより構成されている。

エンドクレジットにあたる(22)は、この主要な2つのテーマが、”運命のテーマ”から”時子のワルツ”へと引き継がれ幕をとじる。その(22)を除く、すべての楽曲が1-2分程度の長さであり、サウンドトラック全体としても30分程の音楽となっている。

ここで注目すべきは、映画本編2時間として音楽が約半分以下の時間しか流れていないということ、まさに山田洋次監督がオーダーした”空気のような音楽”ということである。

久石譲はセリフを重視する山田監督の演出に配慮するため、本編用のスコアでは特徴的な音色を持つ楽器(ダルシマーなど)を効果的に用いている。ハンマー・ダルシマーは「ピアノの先祖」とも言われる楽器である。

しかしながら、主要テーマのどちらもメロディの長さは短くも、とても印象的で、記憶に残らない耳に残らないということは決してない。これこそが久石譲のメロディの強さであり、かつ効果的にモチーフを2つに絞り込んで、あらゆるバリエーションで効果的な楽器編成で配置した結果といえる。

 

この後、久石譲「WORKS IV」にて、フルオーケストラ用にオーケストレーション、メインテーマ(22)は、楽曲構成はほぼ同じとしながらも、ギター、アコーディオン、マンドリンが加わり、サウンドトラックにはないオーケストラの華やかさと優雅さに磨きがかかっている。ひかえめながらも力強い華麗な輪舞曲(ロンド)に仕上がっている。全体の構成は、久石のソロ・ピアノによる序奏に続き、タキが象徴する激動の昭和を表現した「運命のテーマ」、そして時子が象徴する昭和ロマンを表現した「時子のワルツ」となっている。

 

 

映画「東京家族」につづく山田洋次監督とのタッグは久石譲にも大きな変化をもたらしている。具体的には、別項にて紹介しているが、一部抜き出すと下記とおり。

 

  • オーケストラなどで音楽が主張をすることをひかえたつくり方
  • 空気のような音楽、雰囲気を邪魔しない音楽、芝居や映画と共存する音楽
  • 小編成にシンプルに、おさえるけれど、ただうすいだけにならないつくり方
  • 登場人物や観客の気持ちを煽るような音楽をつけない
  • より映画にコミットするかたちで音楽をつける

“今まではどうしても映画音楽としても主張してしまう自分がいたけれど、その力みがなくなった”といつかのインタビューでも語っている。

 

 

 

 

今後の久石譲映画音楽制作の分岐点になるであろう作品である。

 

 

小さいおうち 久石譲

1. プロローグ
2. 僕のおばあちゃん
3. 上京
4. 赤い屋根のおうち
5. 昭和
6. タキと時子
7. 雨の日も風の日も
8. 南京陥落
9. 師走
10. 正治と恭一
11. 嵐の夜
12. タキの幸せ
13. 本当の所
14. タキの悲しみ
15. 開戦
16. 事件
17. 別れ
18. 手紙
19. B29
20. イタクラ・ショージ記念館
21. 時効
22. 小さいおうち

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi (Track 1,11,20)
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute: Hideyo Takakuwa
Oboe & E.Horn: Satoshi SHoji
Clarinet: Kimio Yamane
Bassoon: Masao Osawa
Guitar: Masayoshi Furukawa
Hammered Dulcimer: Keiko Tachieda
Accordion: Hirofumi Mizuno, Patrick Nugier
Percussion: Marie Oishi
Harp: Yuko Taguchi
Piano & Celesta: Ryota Suzuki
Strings: Manabe Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Engineer: Suminobu Hamada
Manipulator: Yasuhiro Maeda(Wonder City Inc.)

 

Disc. 久石譲 『スイートハート・チョコレート』 *Unreleased

2013年 中国公開

 

2013年 映画「スイートハート・チョコレート」(原題:甜心巧克力)
監督:篠原哲雄 音楽:久石譲 出演:リン・チーリン 他

2012年制作、日中合作映画である本作品は、日本では2012年10月20日-28日に行われた「第25回東京国際映画祭」にて期間上映された。2013年11月2日、第13回韓国光州国際映画祭で最高賞の審査員大賞を受賞し、中国国内でもメディアの注目度が急上昇している。そんななか中国国内で11月08日から上映開始されることが決定。

 

 

メインテーマは切ないピアノの旋律。1音1音丁寧に、お互いの愛を確かめあうような美しいメロディー。チェロによる主曲もまた悠々としっとりと歌い上げている。哀愁漂う叙情的なメロディーが印象的。他にもギターやピチカートによる軽快でリズミカルな曲も含まれている。

全体的にはシンプルなアコースティックサウンド。隠し味的に使用されているシンセサイザーのバックグラウンドもちょうどいい。映画のとおりハートウォーミングな音楽となっている。いろいろな曲想のあるエンターテインメント音楽であり実写映画クラスの曲数はある。

 

日本公開日:2016年3月26日

 

 

 

 

甜心巧克力 スイートハートチョコレート

 

 

Disc. 久石譲 『ふるさとのメロディー』 *Unreleased

ラーメンよりも大切なもの

2013年6月8日 映画公開

 

ドキュメンタリー映画「ラーメンより大切なもの ~東池袋 大勝軒 50年の秘密~」
監督:印南貴史 音楽:高田耕至
エンディングテーマ:久石譲

 

 

エンディングテーマ 『ふるさとのメロディー』を作曲。ピアノトリオというピアノ、ヴァイオリン、チェロからなるアコースティックなシンプルな構成。

久石譲本人もこう語っている。「あえてクラシカルなスタイルにした。包み込むようなメロディー。」

ひとりの男の人生の背後に流れるドラマや歴史、そして希望。4分弱の楽曲に人生が凝縮されている。温かくもあり、力強くもあり。ヴァイオリン、チェロ、ピアノがそれぞれ絡み合い、メロディーを織りなし、それはまさに歩んできた足跡や道標のよう。クラシカルな構成ながら、「古き良き時代の昭和」「古風な昭和の男」を感じされるのもメロディーの巧みさだと思う。

サウンドトラック未発売楽曲。

 

 

ラーメンよりも大切なもの

 

Disc. 久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月5日 CD発売 UMCK-1449

 

2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他

 

 

コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。

-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。

久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。

 

-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。

久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。

Blog. 映画『奇跡のリンゴ』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「それはいちばん重要なところです。映画を2時間で構成するとなると、どこに音楽を入れ、どこに音楽を入れない箇所を作るかが重要になります。今回は、冒頭はエンターティメントでいかなければいけません。中盤は、(主人公の状況が悪い方向に)落ちていく。ただ、落ちたときに悲しげな音楽を入れてしまうと、その音が救いになってしまいます。だから音楽は抜くことにしました。普通なら「ここに音楽が入るな」という箇所もありましたが、あえて「抜きましょう」という話になって。そういう設計的な部分の考え方に関しては、中村義洋監督とも一致しました。だから、とてもやりやすかったですね。」

Blog. 「東洋経済オンライン」 久石譲 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

「驚いたことに、『どこに音楽を入れるべきか』という意見が僕と監督でほとんど完璧に一致したんです。映画音楽を深く理解している監督で、一緒に仕事をするのは楽しかった。だから僕も一所懸命にやってしまいましたよ(笑)」

「まず第一は、リンゴのテーマですね。人類が何千年にもわたって苦労して栽培してきた、普遍的な果物としてのリンゴのテーマ音楽。それからもうひとつはこの映画の主題である愛のテーマ。木村さんと奥さんの夫婦の愛、それを包みこむ愛のテーマが必要です。本来ならこのふたつで行きたかったんですが、映画の撮影現場を訪ねた時に、映画のモデルになった木村秋則さんというとんでもなく個性的な方に会ってしまったんです。それですぐに気づいた。この人にリンゴのテーマだけでは太刀打ちできないなと」

「たどりついたのは『津軽のラテン人』というコンセプトでした。マンドリンとウクレレと口琴というあり得ない編成で、木村さんの天真爛漫で明るい雰囲気を出せないかと考えたんです。それでちょっと奇妙でコミカルなテーマ音楽が生まれた。ただ、雰囲気で決めたわけではない。この映画にはどういう音楽が必要なのかを考え抜き、詰め将棋のように緻密に、必要な音楽を作って組み立てる作業のなかで、あのテーマもできあがっている。映画音楽は大変ですから、1本作り上げようとすると、魂を入れるような作業が必要なんです。だから、あまり本数をやるべきじゃないと思っているんですけど(笑)」

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

全編において特徴的なのが、その軽快なタッチ。主要な2つのテーマを作曲しながらも、主人公になっている実在の方にお会いしてから、その陽気なキャラクターを表現するために別のテーマ曲も作曲。

コンセプトは「津軽のラテン人」という能天気な明るいイメージから、マンドリン、ウクレレ、口琴などの楽器をオーケストラと合わせる構成になっている。本来ならば「日本 津軽」という舞台にも関わらず、その音楽世界が「異国 南国 ラテン」の香りがするのはそのためだろう。そのギャップが結果として見事に功を奏していると思う。

ちなみに口琴という楽器にだけ触れる。口琴は、原始的な楽器で古くから世界各地に分布。日本では古くから北海道や津軽などでアイヌ民族が好んで用いていた。そのビヨ~ンという独特の音色は、飛び跳ねる動き等を表現する効果音としてもよく使われる。アニメ『ど根性ガエル』の主題歌といえば、一番想像しやすい。

というわけで、マンドリンやウクレレといった「ラテン」を意識しながらもそこに口琴を組み合わせることによって「ラテン+津軽」を、そして「陽気さ 明るい」空気感を演出している妙。いつもの久石メロディーが、よりパッと明るくなっている作品である。

メインテーマ、そしてそれをモチーフとした(1) (6) (9) (13) (21) (23) (25)はまさに自然の音楽。壮大というよりは、空気も水も透きとおるような音楽。日本だけでなくヨーロッパの田園、畑、山脈なども連想できる、心地のよい曲。

モチーフによって、フルート、ホルン、ストリングスなどの楽器が旋律を奏でることからも、そういった連想や世界が広がるのかもしれない。

主人公のテーマ、そしてそれをモチーフとした(2) (4) (10) (12) (14) (27)などは、冒頭に書いた「津軽のラテン人」をコンセプトに、その楽器たちをうまく組み合わせた軽快な曲。マンドリン、ウクレレ、口琴、オーケストラが、モチーフごとにその旋律を軽やかに彩っている。いろんなCMにも使用できそうな、短いメロディーながらもインパクト十分な、陽気な明るい曲。

ラブテーマ、そしてそれをモチーフとした(5) (20) (22)は、ピアノをメインにしたシンプルな旋律。少しメインテーマを垣間みるような音階が特徴的。

そして、最後の(28)にて、ラブテーマ~主人公のテーマ~メインテーマと上の3つのテーマを1曲として繋いで聴くことができる。映画のエンドクレジットに華を添えている、そして余韻が香る。

 

 

 

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

1.奇跡のリンゴ
2.運命の始まり
3.母親の言葉
4.東京の空
5.祝言の夜
6.津軽の風物詩
7.安全の代償
8.幸福の訪れ
9.答えへの入口
10.挑戦の始まり
11.試練の訪れ
12.挑戦の決意
13.ラバウルの記憶
14.挑戦の日々
15.悪夢
16.三等分の想い
17.約束の光
18.現実の地獄
19.雛子倒れる
20.薄暮の背中
21.暗闇の出口
22.人間の証
23.挑戦の再開
24.困窮の果て
25.ありがとうの言葉
26.小さな希望
27.挑戦の続き
28.リンゴの軌跡

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Madolin:Tadashi Aoyama
Guitar & Ukulele:Mikihiko Matsumiya
Jew’s Harp:Ikuo Kakehashi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

2013年1月16日 CD発売 UMCK-1442

 

2013年公開 映画「東京家族」
山田洋次監督50周年記念作品
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

インタビュー

-これまでの久石さんの映画音楽のアプローチは音と画を拮抗させ、そのぶつかり合いのなかから某かのものを醸し出す方法論が多かったと思いますが、今回は驚くほど奥に引いています。それはある意味、挑戦だったのではないでしょうか?

久石:
そうですね。まず台本を読んだ段階で、今回はあまり音楽を前に出さず、包み込むようなものが良いだろうとは思ったんです。山田監督とお話させていただいた時も「空気のように、劇を邪魔しないものを」という注文がありました。現にラッシュ(撮影済みで未編集のフィルムや映像)を観ても音楽が入る余地が全然ない(笑)。これはもう劇を受け止めるような音楽を書かなければ駄目だなと。

-しかし、少ないながらも入る箇所は的確で、音楽が流れるごとにあの老夫婦の心情と呼応し支え合い、じわじわと相乗効果がもたらされていくのがわかります。

久石:
最終的にはお母さんが亡くなり、お父さんが独り残される。そのことをメインに据えて、そこに至るまでをどう行くかというのが、今回はプランとして非常に大事でした。例えば病院の屋上でお父さんが次男に「母さん、死んだぞ」と言うところまでは、ピアノを一切使ってないんですよ。逆にその後からは、ピアノを自分で弾いています。音楽が少ないからこそ、そのなかで効果的な変化をつけたかったんですね。

-『東京物語』(53)が「人生は無である」と説いた映画だとすれば、『東京家族』は「人生は決して無ではない」と説いている映画だと思います。だからあのお父さんが独りになって終わるラストも、厳しくはあれどこか明るい感触を受けますし、エンドタイトルの高らかな音楽はその後押しとして、観る者まで前向きな気分にさせてくれます。

久石:
そういう風に捉えていただけると嬉しいですね。僕も『東京物語』は大好きな映画なのですが、『東京家族』はそれと同じストーリーラインではありながら、やはり山田監督独自の世界観でしたので、こちらも特に意識することはなかった…と言いますか、先ほど申しましたように意識するどころではないほど大変だったわけです。今回は本当にオーケストラを薄く書いているんですけど、痩せないように書く方法とでもいいますか、その作業も難しかったし、40秒の曲を書くのに普段の3分以上の曲を書くのと同じ労働量を必要としました。でもその代わり、新しい技もいくつか開発しましたので、もう次からは何が来ても怖くない(笑)。何よりも今回は憧れの山田作品に自分の音楽を入れさせていただくことができたわけですから、本当に光栄でした。

Blog. 映画『東京家族』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

今回、監督作品81作目にして初めて久石譲に音楽を依頼したが「もちろん(久石が担当した)作品は拝見していましたし、ぜひ一度、お仕事させていただきたいと思ってました。映画音楽は映画が好きな人じゃないとダメなんです」と念願かなってのタッグ実現を嬉しそうに振り返った。だが映画監督にとっては音楽家との仕事はなかなか気疲れするもののようで「最終的なイメージは作曲家の中にあるんでね。とても気を使うんです。お見合いのようにドキドキします」と語る。

一方の久石譲は今回の仕事について「苦労しましたよ!」と告白。「普通、2時間の映画にだいたい50分から60分くらい音楽が付くんですが、今回は2時間半くらいの映画で音楽は25分くらい。平均して40秒から50秒くらいの曲が多いんです。短い音楽を書くのは難しいんです」と述懐する。しかも監督からは「空気のような音楽」というリクエストがあったとか。「芝居の邪魔にならずにそれでもどこかで共存するものとして考えました。いかに薄く書くか? でも痩せちゃいけない…。工夫する中で新たな発見がありました」と明かす。

Info. 2013/01/25 山田洋次監督 × 久石譲 スペシャルトークセッション より抜粋)

 

 

「空気のような音楽、雰囲気を邪魔しないような音楽と言われていました。今回はあまりたくさんの音楽を必要としない、芝居を邪魔しないで共存出来る音楽なんだと思いました。」

「今回は2時間半ぐらいの映画なんだけど、曲は全部で25分ぐらいしかないんです。いかにうすく書くか、でもやせすぎちゃいけない…そんな色々な工夫をしていくうちに、こんな技があるんだと、3つぐらい新しい技を発見しました。」

Blog. 映画「東京家族」 山田洋次監督 × 久石譲 スペシャルトークセッション より抜粋)

 

 

 

シンプルで素朴なメロディーのメインテーマ。オーケストレーションも小編成。曲も1-3分程度の短いものが多く、そっと映像に寄り添うような音楽。

メインテーマ(15)、メインテーマをモチーフに編曲した(1) (2) (3) (7) (10) (13)、メインテーマ以外だと(4) (5) (11)など、管楽器、とりわけオーボエやファゴットをうまくメロディーラインに取り込み、それにより、素朴な、温かみのある、空気感を演出している。

特に邦画作品を手がけるときにはよく見られる。音をつめすぎない、余白のある音楽。これにより映像やストーリー、風景、俳優さんの感情や観る人の感情に寄り添うかたちで、かつ、印象的に際立つのかもしれない。

また近年の作品に多いが、変拍子のメロディが増えている。でも、なぜか不思議と変拍子としての違和感がない。そのままきれいにメロディとしてリズムとして流れているので不思議。曲構成として映像のいわゆる細かい尺に合わせるために、タイミングやタイムを要所要所で合わせることはあってもメロディラインとしてここまで変拍子がきれいに成立しているのはすごい。特に今作品のようなシンプルな主題曲だと、シンプル=簡単のように思ってしまうが、いざ譜面を見たら、おそらく聴いた印象よりも標記の多い楽譜になっているはず。

メインテーマをピアノにメロディラインを配置しているあたりがこの作品を象徴しているのかもしれない。しかも、メロディの冒頭は、まさに片手で、数本の指で弾けるくらいの、メロディ旋律のみを大胆にもってきているアレンジ。メロディが凛と立っているからこそ、できる業なのかもしれない。

春に聴けば桜が舞い、夏は木漏れ日、秋は紅葉と秋桜、冬は暖を囲む居間、そんな四季折々の日本家族や日常生活を表現した音楽。

 

 

久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

1. プロローグ
2. 初めての東京
3. 夫婦
4. 丘の公園
5. 東京観光
6. うなぎ屋の親子
7. ホテル
8. 観覧車
9. 孤独
10. 若者たちへ
11. 約束
12. 母さんの死
13. 病院の屋上で
14. 紀子へ
15. 東京家族

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio, ABS Recording

Recording & Mixing Engineer: Hiroyuki Akita
Manipulator: Yasuhiro Maeda (Wonder City Inc.)

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