Blog. 「久石譲 ~Piano Stories 2008~」 コンサート・パンフレット より

Posted on 2015/5/1

2008年開催コンサート・ツアー「Joe Hisaishi Concert Tour ~Piano Stories 2008~」全国全11公演にて、久石譲のピアノと12人のチェリストという斬新的な編成で、パーカッションなどもまじえたアコースティック・コンサートです。

どういう時代の楽曲たちがプログラムに並んでいるかというと、映画「崖の上のポニョ」や映画「おくりびと」から、このツアー後の翌年に発売されたオリジナル・アルバム、『Another Piano Stories ~The End of the World~』に収録されることになる、まさに発売に先駆けてのコンサートお披露目となった楽曲たちです。実際にインタビューにもあるとおり、このツアー中にレコーディングされている、熱量そのままの作品です。

 

久石譲 『Another Piano Stories』

 

Joe Hisaishi Concert Tour 〜Piano Stories 2008〜
Presented by AIGエジソン生命

[公演期間]43 Joe Hisaishi Concert Tour
2008/10/13 – 2008/10/29

[公演回数]
11公演
10/13 長野・まつもと市民芸術館
10/15 東京・サントリーホール
10/17 東京・東京芸術劇場 大ホール
10/18 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
10/19 神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール
10/22 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
10/24 大阪・ザ・シンフォニーホール
10/25 奈良・マルベリーホール 新庄町文化会館
10/27 兵庫・アワーズホール 明石市立市民会館
10/28 広島・広島厚生年金会館
10/29 福岡・福岡シンフォニーホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
12人のチェロ:
ルドヴィート・カンタ、古川展生(10/13以外)、諸岡由美子、唐沢安岐奈、海野幹雄、ロバン・デュプイ、三森未來子、小貫詠子、大藤桂子、堀内茂雄、中田英一郎、櫻井慶喜、羽川真介(10/13のみ)
マリンバ:神谷百子
パーカッション:小松玲子(10/24,27以外)、服部恵(10/24,27のみ)
ハープ:ミコル・ピッチョーニ、田口裕子
コントラバス:イゴール・スパラッティ

[曲目]
第1部
Oriental Wind

[ETUDEより]
Moonlight Serenade ~ Silence
Bolero
a Wish to the Moon

[V.Cello Ensemble]
Musée Imaginaire

Departures

第2部
[Piano solo]
夢の星空
Spring
Zai-Jian

The End of the World
Movement 1
Movement 2
Movement 3

[Woman of the Era]
Woman
la pioggia
崖の上のポニョ
Les Aventuriers
Tango X.T.C.

—–アンコール—–
Summer
Madness
スジニのテーマ (大阪・兵庫・福岡)
あの夏へ (奈良・福岡)

 

 

コンサート会場で販売されたツアー・パンフレットに、このコンサートにかける久石譲の想いが綴られています。それをご紹介します。

 

 

久石譲 コンサートを語る

-まず、今回のコンサートの大きな特徴であるチェロアンサンブルを起用した理由、チェロ12人を選んだわけとは?

久石:
5年前に、ピアノとチェロ9人の編成で[ETUDE ~a Wish to the Moon~]というツアーを行ったんですが、とてもうまくいったので、いつかまたやりたいと思っていたんです。それで、2008年のコンサートはチェロ主軸でいこうかと考えていたときに、今公開中の「おくりびと」という映画のお話をいただいて、偶然にも主人公がチェロ奏者という設定だった。そこで、思い切ってこの映画の音楽は、チェロ12人+ソリストを主体にしたサウンドトラックをつくったんです。通常、映画の場合にはたくさんの曲が必要とされ多くの楽器を用いることが多いのですが、敢えてチェロをメインに据えたことが効果を奏し、監督をはじめ関係者の皆さんも非常に喜んでくれましたし、自分の中でも満足できる出来ばえだった。尚かつ、映画自体も数々の賞をいただいて、大勢の皆さんが観てくれている。そういうきっかけもあって、自分の中では、そろそろチェロを主体にした、チェロ × ピアノのツアーを行う時期ではないかと思っていたんです。

 

-[ETUDE]ツアーのときはチェロ9人でしたが、今回は12人に増えてさらにパワーアップしていますね、それは何か意図的なものが?

久石:
12という数字に特別な思い入れがあった訳ではないんですが、最近のチェロアンサンブルというと、”ベルリン・フィル12人のチェリストたち”に代表されるように、12人で組む形態が主流になってきている。例えば、”弦楽四重奏”や、”木管五重奏”と同じように、”チェロ12人”というのがクラシックの一つの形態として定着しています。そこで、このチェロ12人の編成を採用したんですが、そのために非常に苦しむ大変な目に遭いました。

というのも、通常の弦楽器セクションの書き方では、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ(+コントラバス)と4部のパートがあって、例えばド/ミ/ソ/ド/という風に4つの音による和音を演奏します。そして音の数を増やしたいときにはそれぞれのパートを更に二手に分け、計8つの音による和音を演奏するんです。もちろん色々な場合がありますが、全体のバランスを考えるとそれが基本です。

ですから、今回のツアーのように12人いる場合、弦4部と捉えて4パートに分けると1パートが3人ずつ。でも、この3人というのが鬼門で、8つの和音を各パートに2音ずつ振り分けると、どうしても1人ずつ余ってしまうんです。この通常の書き方が通用せずに、やはり難しくて、どうしよう!困った!……と(笑)。これでは、あまりにも難しい書き方になってしまうので、悩んだ挙句、自分の解決策として、4人1組のチェロ”カルテット”が3組あるという考え方に辿り着いたんです。要するに、第1カルテット、第2カルテット、第3カルテットという発想で書くことによって、全く違う動きをもたせることが出来るようになった。その上で、一人一人の奏者が更に独立したり共同したりという様々な動きを見せることによって、タペストリーのように非常に細かい動きを出していこうと思ったんです。

 

-3人のトリオ×4組と、4人のカルテット×3組といった組み替えが起こることで、緻密な動きと様々な表情が楽しめるということですね。

久石:
そうなんです。でもそのアレンジには大きな難点があって、細かな動きを一人一人指定していく、それも12人のチェリストに指定するのには莫大な時間がかかってしまって……。こんなにもこの編成で書くのが大変なことで、オーケストラの作品を1曲書くのと同じくらいの時間がかかってしまうとは、当初は予想していませんでしたね。

実は、この秋ツアーの直前には、200名のオーケストラをはじめ総勢1200人近い大規模編成のアレンジをしたんですが、そのときに費やした労力と同じくらい時間を要してしまったんです。確かに、大きい編成の方が複雑で難しいと思われがちだけれども、実は、今回のように少人数の編成でも、優れたチェロ奏者がそれぞれ独立して、あるいは共同しながら音楽をつくっていくような譜面を書くのは、非常に複雑な作業で……。

一見、小さい世界なんだけれども、その中にはそういう巨大な編成と同じくらいの世界があると。だから、それぞれのパートをしっかり書くことで、緊張感がさらに増してオーケストラのフル編成に負けないぐらいのスケールの大きい曲が書けたと思っています。

 

-12人のチェロとピアノに加えて、今回のコンサートではパーカッション、ハープ、コントラバスという新しい要素が取り入れられていますね。

久石:
やはり、前回よりも更に進化している必要がありますよね。普通、大規模なオーケストラでないとハープ2台は使わないと思うんですが、そこを敢えてこの小さい編成で取り入れ、マリンバ、ティンパニまで入ったパーカッションが2人と、そしてコントラバスを付け加え、全く新しい編成で、世界にもないスタイルでの挑戦です。

 

-新曲「The End of the World」について、強いメッセージ性が感じられます。

久石:
この曲は、もう本当に一言で表わせば、「After 9.11」ということなんです。「9.11(アメリカ同時多発テロ)」以降の世界の価値観の変遷と、その中で、政治も経済もそこで生きている人々も、今の時代は、どこを向いてどう頑張っていけばいいのか分からなくなってしまっているんじゃないかと、最近とみに考えるようになって。

今年はたくさんの作品や映画音楽を書かせていただき、監督たちとコラボレーションすることで自分を発見する楽しい作業に数多く恵まれましたが、それとは対極の、ミニマル作曲家である本来の人という立場から、自身を見つめる時期も必要であると。そして、今回の限られたわずかな時間しかない中でも、どうしてもつくらなければならないと、個人的な使命感にも似た感覚を強く感じて、書いた作品なんです。

今回は優れたチェリスト12人とハープとパーカッション、コントラバスという特別な編成で、せっかく演奏できる機会でもある。ならば、単に書きためたものを発表するだけではなくて、今どうしても聴いてもらいたい作品をつくりたかった。それで、書いた曲です。

 

-「世界の終わり」という非常にインパクトあるタイトルも目を引きます。

久石:
実は、直前まで決定するのに苦しんでいて、やっと「The End of the World」というタイトルに決まったんです。この「The End of the World」には同名のスタンダード曲も存在して、「あなたがいないと私の世界が終わる」というような意味のラブソングです。でも、この曲のあなたを複数形でとらえ、あなたたちが存在していなければ、世界は終わってしまうといった、もっと広い意味で捉えると、たぶん今、僕が考えている世界観にとても近いんじゃないかと感じて、敢えてこの同じタイトルを用いた理由です。

楽曲は、1楽章は4分の6拍子から始まり、最終楽章が8分の11拍子という、大変難しい曲。おまけに、絶えずピアノが鳴らす基本リズムがあり、それに他の楽器が絡み合う、本当に”世界のカオス”、まさに”混沌”を表現するような、アンサンブル自体がカオスになってしまうんじゃないかというくらいの難曲になってしまいました。

 

-対して、もう一つの新曲「Departures」は、非常に柔らかなイメージが湧いてくるのですが。

久石:
これは、映画「おくりびと」のために書いた楽曲を、今回、約14分の組曲風に仕立て上げました。どちらかというとこちらの新作は、精神的な癒し、あるいは究極の安らぎをテーマにした楽曲でもあるんです。

 

-世界中に拡がる不安な時代を象徴した「The End of the World」と、精神世界の柔和と安寧を印象づける「Departures」、そこに「Woman of the Era」というコーナーが加わることにも注目できますね。

久石:
「Era」という言葉は、ある特定の時期を表す言葉なんだけど、タイトルをそのまま直訳すると「時代の女」。もっと言うと「オンナの時代」(笑)。今の時代は、男性よりもやはり女性が強いということなんですよね。基本的に社会を含めた世の中の構造は、男社会の構造になっていると思うのですが、結局今の時代、それでは機能しなくなってきてしまった。特に、「9.11」以降、機能自体が崩壊したというか……、やはりこの世界をきっちり生き抜いていくには、そして不安な時代の中でもちゃんと力を発揮しているのは女性特有の強さなんだなと思うんです。

で、このコーナーに「崖の上のポニョ」が入っているのは意外かと思われるかもしれませんが、ポニョは5歳といえども立派なレディ、あるいは”Woman予備軍”。そう位置づけると、ひたすら自分が思った行動に忠実に生きているポニョも、力強く生きる女性像として、男性も見習わなきゃいけない原動力を持っているんだよ、という。その意味でいうと「ポニョ」も、この「Woman of the Era」の括りの中に入ってくるんですよね。

このツアー中にレコーディングを予定しているのですが、来年初頭に発表する予定の次回作のアルバムタイトルには「Woman of the Era」でいければいいなぁと、今は思っているんです。

(久石譲 コンサート・ツアー ~Piano Stories 2008~ コンサート・パンフレットより)

 

ピアノ・ストーリーズ コンサート2008 P

 

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