Disc. 久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

2001年7月18日 CD発売 TKCA-72165
2020年11月3日 LP発売 TJJA-10028

 

2001年公開 スタジオジブリ作品 映画「千と千尋の神隠し」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

映画本編の楽曲を収録したサントラ盤。新日本フィルハーモニー交響楽団のフルオーケストラにより、サントラでは今回初めて、コンサートホールで生収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2001年5月、木村弓の主題歌も収録。

 

新日本フィルを自らのタクトで率い、
シンセサウンドとオーケストラサウンドの完璧な融合を実現
カラフルなリズムと荘厳な響きによって綴られる全21曲は必聴!

 

 

「実はこの作品のテーマを表現するためにオーケストラが必要かどうかっていうのは、よくわからないんですよ。主人公の心情だけを追っていくことを考えたらピアノ一本でも充分なわけだから。だけどあの世界観を表現するにはやはりフルオーケストラぐらいの広がりがないとダメだと思ったんです。それで宮崎さんもすごくその場の空気感を大事にされる方だから、今回はスタジオで収録するのではなくて、コンサートホールでライブで録ったんです。それはすごく成功していると思う。それでエスニックやガムラン、バリ島の音楽、沖縄民謡、中近東やアフリカのものまでいろんなものを使っているんだけど、それらは料理でいう飾りつけみたいなもので、実はそこにはあまり意味がないんです。意味があるとすれば、それは作品自体が限定した空間のリアリティを求めているものじゃないですから、いろんなものを使うことによって閉じた感じをなくしてどんどん広がりを出す。そのための手段として使った。それだけです。」

「映画の後半に千尋が海の上を走る電車に乗って銭婆のところへ向かうシーンがあるんですけど、僕はあのシーンが宮崎さんが今回一番やりたいところだったと思っているんです。それでイメージアルバムの中にある『海』という曲が、そのシーンにすごく合うんですよ。宮崎さんもイメージアルバムを作った時にその曲を真っ先に気に入ってくれたんですけどね。」

Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「湯婆婆のテーマ曲は苦労したなぁ。何度も書き直してるんです。宮崎さんのキャラクターって複雑で、善人が後ろに悪を抱えていたり、きびしい顔の裏に優しさがあったりするじゃないですか。必ず相反する両面を要求するから、単に怖いおばあさんとして書くことができないんです。でも、その分、自分でも、一、二の出来になったんじゃないかな。通常の楽器を使っているけど、その音がしないように作ったんですよ。ピアノの一番高い音と低い音が同時に鳴るような。あの曲は、気に入っている曲の1つです。」

Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。」

「毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。」

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「宮崎監督は最初、すごくミニマルっぽいものを要求したんです。もともと『となりのトトロ』などでもミニマル風の音楽を付けたことはありますが、今回、監督から『ここのシーン、普通なら(フルオケで)ジャーン!と鳴らすところをミニマルで行きませんか?』と言われてびっくりしました。いつも宮崎監督は『自分は音楽のことはよくわからないので』とエクスキューズしていますが、北野監督と同様、映像に付ける音のあり方に関しては、ものすごく鋭敏な神経をもっていますね。『千と千尋の神隠し』のサントラでは、あまり好きなやり方ではないのですが、キャラクターごとに音楽を付けていくハリウッド的な手法をとりました。あくまでも少女の話なので、彼女の心情にできるだけ寄り添いながら静かな音楽で押し通し、あとは監督の世界観に(フルオケで)合わせると。ただ、その世界観をつかむのが大変でしたね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石:
木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。

ー全部の楽器を別々に録音しておけば、そうならないわけですね。

久石:
でもそうすると、ホールの音の響きの良さが失われてしまう。今回は響きの良さを選択したわけです。なんとなく聞いているだけでは、気が付かないことですが、こうしたことの積み重ねが、最終的な音楽の仕上がりを決定するんです。

ー宮崎監督とのコンビはこれで7作目。

久石:
毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石:
どう展開していくのか息をのむような話なんですよね。ですがベースは一人の少女の成長譚みたいな話なので。そこのところの表現、いろいろな神々が出てきて異世界に入ったりするところの音楽のあり方と、あくまで一人の少女が一歩一歩成長していく過程っていうのをどうやって音楽でつくるか、そこに一番苦心したかもしれない。それともう一個、普通でいうファンタジーのあっちの世界っていうのを通り越して、結構具体的なこの世界とあっちの世界みたいな違いが、宮崎作品のなかでもだんだん強く出てくる。それはのちのポニョにつながってくると思うんですが。「6番目の駅」っていう曲があるんですけど、ちょうど海を渡っていくところ。あれはある種もう黄泉の世界にいくんじゃないかみたいな、この世界とあっちの世界その境みたいなものが行き来する、そういうのをどうやって表現するかなあというのをすごく考えましたね。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

千と千尋の神隠し Spirited Away MEMORIAL BOX

2003年4月9日 CD-BOX発売 TKCA-5

第75回 アカデミー賞 アニメーション映画部門受賞

 

 

 

2020.11 Update

2020年発売LP盤には、新しく書き下ろされたライナーノーツが封入された。時間を経てとても具体的で貴重な解説になっている。

 

 

 

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

1. あの夏へ
2. とおり道
3. 誰もいない料理店
4. 夜来る
5. 竜の少年
6. ボイラー虫
7. 神さま達
8. 湯婆婆
9. 湯屋の朝
10. あの日の川
11. 仕事はつらいぜ
12. おクサレ神
13. 千の勇気
14. 底なし穴
15. カオナシ
16. 6番目の駅
17. 湯婆婆狂乱
18. 沼の底の家
19. ふたたび
20. 帰る日
21. いつも何度でも 歌:木村弓

作曲・編曲・演奏:久石譲
プロデュース:久石譲

指揮・ピアノ:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団

オーケストレーション:久石譲 長生淳 三宅一徳

レコーディング・スタジオ:
ワンダーステーション
すみだトリフォニーホール

 

Spirited Away (Original Soundtrack)

1.One Summer’s Day
2.A Road to Somewhere
3.The Empty Restaurant
4.Nighttime Coming
5.The Dragon Boy
6.Sootballs
7.Procession of Gods
8.Yubaba
9.Bathhouse Morning
10.Day of the River
11.It’s Hard Work
12.The Stink God
13.Sen’s Courage
14.The Bottomless Pit
15.Kaonashi (No Face)
16.The Sixth Station
17.Yubaba’s Panic
18.The House at Swamp Bottom
19.Reprise
20.The Return
21.Always With Me

 

Le Voyage De Chihiro
(France, 2002) 198 732-2

1.Cet Eté La…
2.Le Chemin Où On Passe
3.Le Restaurant Où On Ne Voit Jamais Personne
4.La Nuit Tombe
5.Le Petit Dragon
6.La Punaise De La Chaudière 
7.Les Dieux 
8.Yubaba, La Vieille Du Bain Public 
9.Le Bain Public Au Matin 
10.La Rivière, Ce Jour Là 
11Le Boulot, C’est Tuant ! 
12.Une Divinité Calamiteuse 
13.Le Courage De Chi 
14.Un Trou Insondable 
15.Sans-Visage
16.Le Sixième Gite D’étape
17.La Folie Furieuse De Yubaba
18.La Maison Du Fond Du Marécage
19.De Nouveau…
20.Le Jour Du Retour 
21.Rêvons Toujours Les Memes Rêves Aimés

 

센과 치히로의 행방불명 Original Soundtrack
(South Korea, 2004) PCKD-20160

1.어느 여름날
2.통로
3.아무도 없는 음식점
4.밤이 다가온다
5.용의 소년
6.보일러 벌레 
7.신들 
8.유바바
9.온천장의 아침 
10.그날의 강 
11.일은 힘든 법이야 
12.오물의 신 
13.센의 용기 
14.밑빠진 구멍 
15.카오나시(얼굴없는 요괴) 
16.6번재 역 
17.유바바의 광란 
18.연못 아래의 집 
19.또 다시 
20.돌아가는 날

 

Disc. 久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

2001年6月21日 CD発売 UPCH-1086

 

北野映画全6作のサウンドトラックより、久石自ら選りすぐられたベストアルバム。トヨタ・カローラCM曲”Summer”収録。北野武監督寄稿+森昌行プロデューサーによるライナーノーツなど、数々の特典を盛り込んだ力作。オフィス北野作品サウンドロゴを初収録。

 

 

” joe hisaishi meets kitano films ” に寄せて

このアルバムを聴いていると、それぞれの作品に取り組んでいた時の自分自身の気持ちの流れみたいなものが蘇ってくる。それぞれ違う曲なんだけど、何か一貫した匂いを発しているし、今までの作品の映像を再編集して、ここにある曲を全部使って一本の映画を作ってしまうってえのはどうだい?・・(笑) そのくらいトータルな世界がここには存在している。それにしても、いずれ劣らぬ名曲揃いだね。お見事!です。

北野武

(CDライナーノーツより)

 

 

北野映画のプロデューサー森昌行氏(オフィス北野社長)が語る、久石音楽と北野作品の接点と相関関係

北野監督という人は、もともと映画を撮りたくて撮り始めたわけではないといういきさつを含めて、基本的に映画の文法にのっとってものを考えるところがなかったんですね。だから映画音楽に関しても、正直言ってあまり深く考えていなかったと思うし、どちらかといえば既にあるものの中から使っていこうという意識が強かったと思う。

「その男、凶暴につき」はエリック・サティですしね。「3-4×10月」の時も、ジャン・リュック・ポンティだったりエリック・ドルフィだったり。著作権の問題で使えなかったという事情もあり、それなら逆に音楽を全部やめてしまおうという経緯もあって、あの作品では映画音楽というものをまったく使っていないんですよ。

映画音楽のいろはを知らないわけではないんですけど、自分の作品のイメージを意識にて曲を作ってもらうという発想がなかったんですね。ですから、映画音楽というものと正面から向き合ったのは「あの夏、いちばん静かな海。」での久石さんが初めてでした。

武さん自身、いろんなコンポーザーの方々を知っているわけではなかったし、スタッフの間でふと久石さんの名前が挙がったのが発端で…。久石さんといえば、宮崎(駿)作品とのコラボレーションの印象のせいか、どうしてもアニメーション映像のキャラクターに命を吹き込むような、素朴でセンシティヴな音楽のイメージが強いので、一見、武さんとは接点がなさそうに思えますよね。ですが、映画制作において常套手段を持たず、文法を外して考える武さんのやり方には、久石さんが持っているテイストのほうが合うかも知れないと思えたんですね。

久石さんには、世界観についてあれこれディスカッションして音楽をつけてもらうというよりも、映画そのものが持つキャラクターのようなものを客観的に見ていただけるんじゃないか、なおかつ的確な音楽をつけていただけるんじゃないかという思惑もそれなりにありましたし。武さんが描いている世界には、久石さんの素朴ふうなエッセンスのほうが与しやすいんじゃないか、それがミスマッチであればあるほど、ひょっとしたらハマるんじゃないか、と。だから、動機としてはきわめて不純でしたね(笑)。

初めてご一緒させていただいた作品の「あの夏~」の主人公には台詞がないという特殊なケースでしたけど、台詞の代わりにあのキャラクターに世界観を持たせたり肉づけしていくのは音楽なのかなあという気もしてましたし、そこでこそ久石さんの手腕が生きるかなという期待もあって、お願いしたわけなんですけどね。

われわれの中では、北野武 VS 久石譲という組み合わせは、かなりセンセーショナルでスリリングなコラボレーションだったわけですよ。

ただ、久石さん自身は相当難儀をされたと思います。なぜなら、武さんは本来音楽がつかないような場面に音楽をつけようと言いだしたり、ありきたりな発想を排除した観点でリクエストしますから。しかも打合せの段階で、どのシーンにどんな音楽をつけてほしいというリクエストをしておきながらも、武さんはダビングの段階でそれを根底から覆したりもしますし(笑)。そもそも、何度も何度もディスカッションを重ねて、映像にマッチする音楽を決めていくやり方は、武さん的ではないわけです。ある程度任せられながら、久石さんが北野ワールドの当たらずとも遠からずのヒントを見つけていくという方法が主流なんですが、いざ任せられる立場の久石さんの心中を察すると、かなりの苦労を抱え込んでいるんじゃないんでしょうか。任せられたとはいえ、まったく違った世界を示すわけにもいきませんからね。

つまり、共通言語を持ちえない者同士がなんとか共通言語を模索するような難しさが潜んでいるわけです。でも久石さんは、武さんのそういうわがままに近いこだわりを許すだけじゃなくきちんと認めてくれて、なおかつ理解と納得もしていただいてる。

それに久石さんは、北野映画の”削ぎ落とし”の手法をよく理解して下さってますね。あれこれフルにスタンバイさせながらいろんなカットを撮っても、どんどん削ぎ落としてシンプルにしていく。音楽でも同じようなことをしているんです。贅沢なスコアを書き上げてもらうんですが、武さんはそれをどんどん削ろうとする。でも久石さんはそれを客観的に見つめながら、最終的にもうこれしかないというところまでもっていく作業を楽しんでいただいているみたいです。おそらく、二人とも同じようなテーマを抱えているからこそ理解し合えるんだと思うんですが…。

つまり武さんは、台詞がないシーンや一見演出が何もないようなシーンに何を感じさせるかということを大切にして、そのために必要な絵を撮る。久石さんも同様に、必要な場面に必要な音楽をつけるという映画音楽の基本をふまえつつも、音楽のないシーンにいかに音楽を感じさせるかということのために音楽をつけるという考え方を持っている。そのスタイルやスタンスの近さが、二人をより強固に結びつけていつ部分でもあるような気がします。

既に久石さんも北野組の一員といいますか、北野作品には欠かせない存在になっていることは確かですが、二人の関係は求め合って寄り添い合う粘着型の関係性ではなく、適度な距離感を持った関係といえるんじゃないでしょうか。お互いの才能をリスペクトし合いつつも、一方ではライバル意識に近い気持ちを持って接している。そこでの摩擦熱のようなものが、北野作品のクォリティを高めているんだと思いますね。

その摩擦熱が一気にヒートアップしたのが最新作の「BROTHER」でした。武さんはここまでの映画人としての総括だと言い、われわれは北野監督によるエンタテインメント作品のスタート地点と位置づけ、久石さんはその狭間でなんとかよりよい着地点を見つけ出そうと苦悶していたように思います。その結果として、まずメインテーマを奏でるリード楽器を決めあぐねることになり、しかも旋律を疑問視する意見も出てきたことも事実です。

特に英国側のプロデューサーでもあるジェレミー・トーマス氏からは、音楽が作品を難しくしていないかという意見が投げかけられ、それに対してこちら側の生理としては、これまでの流れの中に位置づけられることだけは拒否しなければいけないという気持ちもあって、猛反発したんです。仮に心地好いピアノの旋律が流れてそこに武さんが登場してくるなら、これまでの作品と何ら代わりばえしないと思うんです。

そうじゃなく、「BROTHER」は新しい環境の中で新しく作られたエンタテインメント作品なんだという部分を主張するためにも、音楽はこれじゃないとダメなんだ、とジェレミーにも納得していただきました。そういったやりとりを経てこの作品を公開できたことで、武さんと久石さんの関係は更に密になったような気がします。武さんが久石さんに要求するレベルは高くなり、同様に、久石さんの北野映画を掘り下げる眼力もより高くなったでしょうから。

ただ、総じて言えるのは、要は久石さんが醸すメロディラインが、シンプルな中に非常に美しい旋律と音色を秘めているということ、そしてそういう久石さんのセンスと才能をきちんと理解したうえで、しかもそれが大好きだから北野映画の音楽監督をお願いしているという点は、過去も現在も揺るぎがないところです。表現は陳腐ですが”シンプル・イズ・ベスト”とでも言いますか…。

そういう久石さんの音楽作品がセレクトされた作品集を聞かせてもらうと、そこには一つの確かな流れが存在していて、間違いなく久石さんの世界ではあるんですが、同時に北野武の世界でもあることを感じるんです。つまりは、久石さんが武さんの映像からインスパイアされて築きあげる世界には、その独特の匂いを知らず知らずのうちに共有していて、しかも同じ匂いを久石さん自ら発しているということだと思うんですよ。そういう意味では、久石譲、北野武の両者の世界観を堪能できる、他にはちょっと見当たらない価値あるサウンドトラック集なんじゃないでしょうか。

 

あの夏、いちばん静かな海。
A Scene at the Sea
1991.10.12 公開
出演:真木蔵人、大島弘子

〈episode 1〉
この作品に関しては、監督自身も認めているように、もともと主人公の2人(生まれながらの聴覚障害者)に台詞がないところへもってきて、後半は台詞も何もなく、この作品そのものをふり返るように、主人公たちの思い出が日記帳のごとく滔々と連ねられているわけですが、あそこはどう考えても音楽がないと成立しない部分といいますか、音楽にあれこれ語ってもらったカットなんですね。

つまり最初から音楽を入れ込むことを想定して意識的に撮ったシーンなんです。武さんが自らの映像にあれほど音楽を求めたことは珍しいんじゃないですかね。久石さんとのコラボレーションはこの作品が最初だったわけですけど、登場人物の台詞が極端に少ないぶん、音楽がもたらす効用への期待感は、ほかのどの作品よりも高かったと思いますし、それだけに久石さんは苦労されたんじゃないでしょうか。結果的に、言葉(台詞)以上に主人公の感情や作品自体の情感を雄弁に物語るかのような音楽をつけていただいて、作品のクォリティや価値を随分高めていただいたような気がします。

 

ソナチネ
Sonatine
1993.6.5 公開
出演:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、勝村政信、寺島進、大杉漣、逗子とんぼ、矢島健一、南方英二

〈episode 2〉
これは久石さんと武さんの間で”ミニマル”というテーマ性で見事なコンセンサスがとれた作品じゃないでしょうか。「あの夏~」ってミニマル的要素はありながらも、決してミニマルな作品じゃありませんでしたけど、この「ソナチネ」は徹底的に”ミニマル”ですよね。

そういう意味では久石さんにとって本領発揮の場だったと思いますし、2人が真剣に勝負をし合った作品という印象が強いですね。武さんは音楽の専門家ではありませんから”ミニマル”という言葉をどこまで把握していたかはわかりませんが、基本的にシンプルなものの繰り返しという手法は、彼自身すごく好きですからね。例えば「あの夏~」の、主人公たちが歩いた同じ道を、次は違う登場人物が同じように歩いていくシーンとか。繰り返しながら、ちょっとずつ変化させる手法。そこに関しては、久石さんの得意とするミニマル・ミュージックがピッタリ合ったという印象でした。お互いが、本質的に好きな世界なんだと思います。

ただ、武さん自身も言っているように、この作品は、平均点でいえばたいした点ではないというか、国立大学は無理だねというような(笑)点だけど、勝負に出ている場面がある。本人曰く、目茶苦茶凄いシーンと、ありゃりゃ?というシーンが混在している。ゴルフに例えるなら、OBもあるんだけど、バーディどころかイーグルも幾つかある感じ。ホールによっては大勝負をかけたりもしている、ある意味とても実験的な試みをしている作品ですから、それに対して久石さんも自身の本領をミニマルでしっかりぶつけてきましたし、その結果としてあの独特の世界観が醸し出されたんだと思います。サンプリングも駆使されてますし、北野作品の中ではいちばん実験的な音楽といってもいいでしょうね。映画の中身以外の部分ではかなりの火花を散らしている作品といいますか…。そこが、多くの人に名作と言わしめたゆえんでしょうし、イギリスのBBC放送による「映画・世界の100本」に選出された要因なんじゃないでしょうか。ただ、世界中(公開された国の中)で日本人がいちばん見ていない作品で、興行的にはやや不幸な作品ではありましたが…(笑)。

 

キッズ・リターン
Kids Return
1996.7.27 公開
出演:金子賢、安藤政信

〈episode 3〉
特にこの作品のエンディングは、かなり印象的なシーンに仕上がりましたね。主人公の2人が「もう俺たち終ったのかな」「まだ始まってもいねぇよ」と言った瞬間にドーンとテーマ音楽とエンド・ロールが入ってくる。普通ロール・チャンスというと、映画の本編が終わり、ポツポツと立ち上がるお客さんに向けた”どうぞお帰り下さい”の合図みたいになりがちですが、でも「まだ始まってもいねぇよ」の台詞のあとにきわめて激しく飛び込んでくるこの作品の音楽は、ロール・チャンスをも作品の一部として取り込んでしまうほどの迫力があるし、それがあるから直前のシーンもより生きてくるという相乗効果をもたらしていると思うんです。メインテーマのキャッチーさでいえば、「菊次郎~」とともに、メロディメイカーとしての久石さんの力量を再認識させられます。

 

HANA-BI
1998.1.24 公開
出演:ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進

〈episode 4〉
この作品の、例えばタクシーをパトカーに作り変えていくシーンには、組曲のようなものすごく長い音楽がついていますが、久石さんがかなり悩まれた証のようにも思えますね。そのシーン以外にも、武さん自身が描いた絵を、映像の中に巧みにインサートしている場面があって…。「キッズ・リターン」でも自分で描いた絵をポスターに使ってましたけど、ここではかなりの数の絵をカットの一つとして使っている。あの世界と対決するのは大変だったと思いますよ。当然あそこには音をつけてくれというカットですからね。無音でしかも動きのない絵を、いろんなカメラワークを駆使して撮っていますから、それときっちり向き合える音楽をつけるとなると、結構思案しますよね。われわれ自身も両者のイメージをすり合わせるために、かなり大変な思いをした記憶があります。ただどんなに陰惨な場面でも、そこに流れる久石メロディの美しさがインパクトにつながっている気がします。

 

菊次郎の夏
Kikujiro
1999.6.5 公開
出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

 

BROTHER
2001.1.27 公開
出演:ビートたけし、オマー・エプス、真木蔵人

〈episode 6〉
この作品では、メインテーマのリード楽器を何にするか、かなり苦労しました。武さんはリード楽器にことのほか強い拘りを持っていて、しかも自分自身がピアノをやっていることもあって、ピアノという楽器が好きなんですね。だけど久石さんのセンスとして、こっちの楽器を使ったほうがこんな広がりが出ますよという主張を返してくる。そこはある意味闘いでした。結果的に、リード楽器としてフリューゲルホルンを選択したわけですが、これは非常に大きなチャレンジだったと思います。監督自身、フリューゲルホルンという楽器は全然予想もしてなかったでしょうし。

予定調和的にピアノで奏でておけば、これといった苦労もせずに済んだとは思いますけど、この作品自体が持つ意味合いといいますか、日英合作という国際的なプロジェクトによる映画であること、ハリウッドの撮影システムを導入したことなど、新しい映画作りの結果として新しい映画が生まれるという流れに見合う試みが、音楽にも必要だったわけですね。ご覧いただいてわかるとおり、主役ビートたけしのビジュアルといいますかファッション・センスは、この「BROTHER」も「HANA-BI」も「ソナチネ」も一様なんです。別に何部作といわれるような関連した作品ではないんですけど、開襟のシャツにダークカラーのスーツ、そしてサングラスというスタイルは共通している。しかし、だから音楽もピアノで、という考えはそぐわない。内容に対する音づけという意味ではなく、新しいやり方で新しい作品が生まれるという意味合いを音楽でどう表現するかという点は、われわれにとってもそうでしたけど、久石さんにとっても大きなテーマだったと思うんです。その部分では、久石さん自身、相当悩まれたんじゃないかと思います。現に、ロスの撮影現場までお見えになって、時間が許す限り監督と話し合って、もっとも相応しい接点を探していましたから。メロディとか旋律の問題ではなく、新しさをどういった世界観で示すかということにおいて。といいつつメロディに関しても、絵面との整合性においてはかなり難しかったと思いますよ。ジャジーな要素や、半音が結構使われていることが、そのことを雄弁に語っているような気がします。

デニー役のオマー・エプスのモノローグによるこの作品のエンディングは、音楽を入れ込んだ「あの夏~」のエンディングの対極にあるといってもいいくらいのシーンで、音楽をまったくはずしてしまっている。本来は武さんのリクエストで久石さんに饒舌で分厚い情感豊かな音楽をつけていただいたんですけど、最終段階で音楽をとってしまった。もちろん音楽が気に入らなかったわけではなく、音楽は音楽として成立したんでしょうけど、作品のテーマを示す流れのうえでは、饒舌すぎたのかもしれないですね。ただそのあとエンドロールで再びメインテーマが呼び込んでいることを考えると、あの音楽のないエンディングこそ、音楽を削ぎ落としたシーンでいかに音楽を感じさせるかの典型と言えるんじゃないでしょうか。

(解説・各作品エピソード/森昌行 ~CDライナーノーツより)

 

 

〈サウンドトラック制作進行ノート〉

あの夏、いちばん静かな海。 発売日:1991年10月9日
1991年7月 ワンダーステーション六本木にてレコーディング。

ソナチネ 発売日:1993年6月9日
1992年6月1日 北野監督の次回作の音楽の依頼がある。出演者等詳細は未定。11月辺りの音楽制作の予定。
1992年7月31日 北野監督とロケ前に顔合わせ。音楽の方向性の打ち合わせをする。今回は石垣島がテーマになる模様。
1992年9月17-19日 久石氏石垣島のロケに同行。
1992年10月26日 当初11月頭から音楽制作に入る予定であったが、編集作業の進行の影響で中旬に変更となる。
1992年11月13日 ワンダーステーションにて音楽作業開始。
1992年11月19日 18時半に北野監督来訪、テーマ曲を決定。
1992年11月20-24日 ワンダーステーションにてダビング作業。
1992年11月25日 Dolby 4chのT/D。この日北野監督が再編集に入り、M14のシーンが全カットになり、M15に変更が入ったとの知らせあり。21時に監督がワンダーシティに確認のため来訪。
1992年11月26日 映画音楽作業終了。
1993年3月21-22日 ロンドンにあるTHE TOWN HOUSEにてCD用のMIXを行う。
1993年3月23日 Abbey Road Studiosにてマスタリング。

Kids Return 発売日:1996年6月26日
1995年10月27日 調布にっかつ撮影所にて前半部のラッシュを見る。その後打ち合わせ。
1996年2月16日 にっかつ撮影所にてオールラッシュ。監督を交え最終打ち合わせ。
1996年2月29日 代々木にあるワンダーステーション2st.にて音楽制作開始。
1996年3月13日 音楽制作日程終了。

HANA-BI 発売日:1998年1月1日
1997年6月9日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1997年6月11日 調布にっかつ撮影所にて監督と打ち合わせ。
1997年6月12-19日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング。
1997年6月22日 ポリグラムスタジオAst.にて弦のレコーディング。
1997年6月23-24日 ワンダーステーション代々木スタジオにて映画用のT/D。
1997年7月10-11日 ワンダーステーション六本木スタジオにてCD用のT/D。

菊次郎の夏 発売日:1999年5月26日
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

BROTHER 発売日2001年1月17日
2000年3月29日 にっかつスタジオにてオールラッシュ。
2000年4月3-14日 音楽制作プリプロ~レコーディング。
2000年4月8日 監督とテーマ曲について打ち合わせ。
2000年4月14日 監督とサントラについて打ち合わせ。
2000年4月22日 墨田区トリフォニーホールにて新日本フィルの演奏で録音。
2000年4月23-25日 映画用のT/D。
2000年5月15-17日 CD用のT/D。
2000年9月27-28日 マスタリング。

(サウンドトラック制作進行ノート ~CDライナーノーツより)

 

 

joe hisaishi meets kitano films ジャケット 裏

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「北野さんはね、さあ、映像を撮ったぞと、ポーンと僕のほうに預けて、さあ、音楽つけてみやがれ、っていうかんじですね、いつも。生易しいものじゃない。できたら音楽抜きで映画を撮れたら最高だな、と思ってると思いますよ。志ある監督はみんなそうです。また今回も(音楽に)助けられちゃったなあ、ってたまにいいますからね。それはお互いさまで、「Kids Return」にしても「HANA-BI」にしても、核になっている部分は、北野さんのアイディア。北野さんの映像に出会わなければ、ああいうメロディーは書かなかったわけですから、半分は北野さんの作曲だと思ってますよ」

Blog. 「月刊ピアノ 2000年4月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「編集し終えて嬉しい発見だったのは『あの夏~』から『BROTHER』まで、実に各々の底辺が共通性を持っていた、ということ。頭では常に北野監督の映画のために音楽を提供することを第一に作ってきたつもりだったけれど、気がつけば自分のソロアルバムを作るような気持ちで携わってきたんだ、という明快な結論に達した。時には、ソロから一歩踏み出した表現もしていたりするこの一枚には、僕自身のここ数年の姿勢が見事に反映されていた。そしてこの一、二年の中で、僕自身にとっても、まさにベストな一枚と言える仕上がりだと思う」

「省略の人、だね。引き算の映像美。従来の映画の概念にとらわれずに独自の世界観を展開するのは並大抵ではない。北野監督はそういう登場をして見せて、今もそう在り続けている。一〇秒間のシーンだけで彼の作品だと分かる、というのは、やはり尊敬に値する。

北野監督とは、やりとりとか詳しく話したりすることなんてほとんどない。ヒントのような一言、二言だけ。『あの夏、いちばん静かな海』の時は、『シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんです』って。『HANA-BI』では『暴力シーンが多いんだけど音は綺麗なのがほしいな』で、『菊次郎の夏』は『さわやかなのがいいな』とか毎回そんな感じ。『BROTHER』に至っては『おまかせ』でしたから。他にその時手掛けている作品の事で、顔を合わせる際に二人で話すことといえば、決まって次回作のアイデア。こんな具合で互いのスタンスが明確に保たれている。とてもシビアだけど、だからこそ信頼感や、やり甲斐も非常に大きいと言える。

北野作品はどれも好きだけど、手掛けた音楽で一番好きなのは『Sonatine』。この作品から確信犯としてミニマル・ミュージックを前面に押し出した。僕自身、当時ロンドンに住み始めたこともあってハイテンションだったので、実験的要素も結構盛り込んでいる。録音したドラムのフレーズを逆回転させて、楽曲の後ろ全体にうっすらと敷いてみたり。映像としてもあの微熱に犯されながら進行していくようなクールさが好きだな」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今回のベスト盤は僕にとって重要な作品です。北野監督のために書いてきた音楽が、実は自分のソロアルバムのための音楽と呼べるものでもあった、という面を含んでいます」

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

久石:
北野監督って映画の撮り方を変えたんですよね。世界的にも結構影響を与えた。それはどういうことかというと、しゃべっている台詞のある人以外の人たちが、いかにもそこにいるような演出を一切しなかったんですね。みんな家族写真のようにただそこにいるだけにさせた。普通演出の人は、いかにも自然のように演出して動かす。それをしなかった。そのやり方っていうのはその後世界中の若い監督に影響を与えて。要するに、無理やりに演技らしいことはしないんでいいんだと。それをつくった画期的な監督でしたね。

久石:
どちらかというと、引き算の映画。どんどん加えていくんじゃなくて、結果無駄なものを全部外していった。そういう意味では非常にミニマルな映画ですよね。

久石:
個人的な区分けでいうと、初期のほうは宮崎さんの映画は基本的にメロディ中心だったんですよ。北野さんのほうはミニマルをベースにしたんです。ですからやり方をすごく変えて臨んでた。途中からちょっとメロディを増やしましたけれども。フランスとかでインタビュー受けていると必ず聞かれるんですよね。まずあり得ないと。映画音楽で宮崎さんのような作品をやっている人が、どうしてバイオレンスの映画を担当しているのかが、同じ人間がやってるのが想像できないと。インタビュー受けるたびにそういう質問ばっかりだったんですよね。僕のほうからすると、なんにも不自然じゃないんですよ。なんでかっていうと、片側にミリマリストとしてやってきたこと、もう一方にメロディメーカーとしてやってきたこと、それを実はちょっと使い分けてやっていた。そういうやり方だけだったんですよ。あれ風これ風でやるのは本物にはならないからね。だから自分がいいと思うことしかやらない、ということですかね。

久石:
北野さんの映画は、表面上ではバイオレンスとかいろいろあるんですが、根底には人間の儚さとか哀しさがあったんですね。その辺で僕もすごく共感して作っていたところがあります。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

1. INTRO:OFFICE KITANO SOUND LOGO
2. Summer (菊次郎の夏)
3. The Rain (菊次郎の夏)
4. Drifter…in LAX (BROTHER)
5. Raging Men (BROTHER)
6. Ballade (BROTHER)
7. BROTHER (BROTHER)
8. Silent Love (Main Theme) (あの夏、いちばん静かな海。)
9. Clifside Waltz III (あの夏、いちばん静かな海。)
10. Bus Stop (あの夏、いちばん静かな海。)
11. Sonatine I ~act of violence~ (Sonatine)
12. Play on the sands (Sonatine)
13. KIDS RETURN (KIDS RETURN)
14. NO WAY OUT (KIDS RETURN)
15. Thank you,…for Everything (HANA-BI)
16. HANA-BI (HANA-BI)

All songs composed, arranged and produced by JOE HISAISHI

 

Disc. 久石譲 『BROTHER オリジナル・サウンドトラック』

BROTHER

2001年1月17日 CD発売 UPCH-1033
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9008

 

2001年公開 映画「BROTHER」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし 他

 

 

コメント

久石譲さんとのお付き合いは、自分の9作目にあたるこの『BROTHER』で、もう6作になる。考えてみれば、「音楽は久石さんに全部お任せしますよ。」なんて言っておきながら、久石さんに了解を取らずに勝手に音楽を編集してしまったり、打ち合わせと全く違うところに頂いた音楽を使ってしまったりと、随分と失礼な作業をしてしまった事もあったけれど、そんな時でも久石さんは「監督の判断は正しいですよ。」と苦笑いしながらもこれだけの作品に参加して頂いたわけで、感謝の一言に尽きる。

彼の音楽のすばらしさは、そのメロディー・ラインと構成の美しさであることは言うまでもなく、〈音楽の入っていないシーンに音楽を感じさせてくれる音像の世界〉を実現させていることであろう。

それは、自分がシーンとシーンの間を省略して、そこに観客がそれぞれ自分にとって最もふさわしいシーンをイメージしてもらえばいいといった編集上の演出を駆使して実現させている映像の世界と相まって、自分の作品のもつ〈匂い〉を、よりきわだたせることに大きく貢献して頂いていると思っている。

今回の『BROTHER』でも、その才能はいかんなく発揮され、私の〈第9作目〉というよりも、〈最新作〉にふさわしい音楽の世界がここに実現された。

ARIGATOUGOZAIMASU!

監督・北野武

(コメント ~CDライナーノートより)

 

 

〈episode 6〉
この作品では、メインテーマのリード楽器を何にするか、かなり苦労しました。武さんはリード楽器にことのほか強い拘りを持っていて、しかも自分自身がピアノをやっていることもあって、ピアノという楽器が好きなんですね。だけど久石さんのセンスとして、こっちの楽器を使ったほうがこんな広がりが出ますよという主張を返してくる。そこはある意味闘いでした。結果的に、リード楽器としてフリューゲルホルンを選択したわけですが、これは非常に大きなチャレンジだったと思います。監督自身、フリューゲルホルンという楽器は全然予想もしてなかったでしょうし。

予定調和的にピアノで奏でておけば、これといった苦労もせずに済んだとは思いますけど、この作品自体が持つ意味合いといいますか、日英合作という国際的なプロジェクトによる映画であること、ハリウッドの撮影システムを導入したことなど、新しい映画作りの結果として新しい映画が生まれるという流れに見合う試みが、音楽にも必要だったわけですね。ご覧いただいてわかるとおり、主役ビートたけしのビジュアルといいますかファッション・センスは、この「BROTHER」も「HANA-BI」も「ソナチネ」も一様なんです。別に何部作といわれるような関連した作品ではないんですけど、開襟のシャツにダークカラーのスーツ、そしてサングラスというスタイルは共通している。しかし、だから音楽もピアノで、という考えはそぐわない。内容に対する音づけという意味ではなく、新しいやり方で新しい作品が生まれるという意味合いを音楽でどう表現するかという点は、われわれにとってもそうでしたけど、久石さんにとっても大きなテーマだったと思うんです。その部分では、久石さん自身、相当悩まれたんじゃないかと思います。現に、ロスの撮影現場までお見えになって、時間が許す限り監督と話し合って、もっとも相応しい接点を探していましたから。メロディとか旋律の問題ではなく、新しさをどういった世界観で示すかということにおいて。といいつつメロディに関しても、絵面との整合性においてはかなり難しかったと思いますよ。ジャジーな要素や、半音が結構使われていることが、そのことを雄弁に語っているような気がします。

デニー役のオマー・エプスのモノローグによるこの作品のエンディングは、音楽を入れ込んだ「あの夏~」のエンディングの対極にあるといってもいいくらいのシーンで、音楽をまったくはずしてしまっている。本来は武さんのリクエストで久石さんに饒舌で分厚い情感豊かな音楽をつけていただいたんですけど、最終段階で音楽をとってしまった。もちろん音楽が気に入らなかったわけではなく、音楽は音楽として成立したんでしょうけど、作品のテーマを示す流れのうえでは、饒舌すぎたのかもしれないですね。ただそのあとエンドロールで再びメインテーマが呼び込んでいることを考えると、あの音楽のないエンディングこそ、音楽を削ぎ落としたシーンでいかに音楽を感じさせるかの典型と言えるんじゃないでしょうか。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
2000年3月29日 にっかつスタジオにてオールラッシュ。
2000年4月3-14日 音楽制作プリプロ~レコーディング。
2000年4月8日 監督とテーマ曲について打ち合わせ。
2000年4月14日 監督とサントラについて打ち合わせ。
2000年4月22日 墨田区トリフォニーホールにて新日本フィルの演奏で録音。
2000年4月23-25日 映画用のT/D。
2000年5月15-17日 CD用のT/D。
2000年9月27-28日 マスタリング。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

ロサンゼルスやメキシコの砂漠といった多国籍ムードを味わえるエキゾチックであり哀愁的なメロディーが印象的な作品。随所に聴かれるメインテーマの旋律は、フリューゲルホルンによって奏でられ世界観を際立たせている。また全編にわたってこのメインテーマのモチーフがピアノやオーケストラによって様々な表情で登場する。

本作品はほぼメインテーマ曲で成り立っているといっても過言ではないが、にも関わらず聴き通して飽きがくることがない。構成や編曲の妙もさることながら、メロディーが秀逸だからこそ。

(8)はスリリングな緊張感ある楽曲であり、コンサートでもよく演奏されている。そんな臨場感あるオーケストラ+パーカッションによる演奏は、「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」によるライブ音源や、「WORLD DREAMS」によるW.D.O.の迫力ある演奏でも聴くことができる。

(13)も本作品では短い楽曲となっているが、より完成された音楽作品として、「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」によるライブ音源や、「ENCORE」によるピアノソロとして大人な哀愁感たっぷりに聴かせてくれる。

(15)は映画では未使用のメインテーマ リミックス・ヴァージョンでありリズムの打ち込みがふんだんに盛り込まれている。

 

 

BROTHER

1. Drifter…in LAX
2. Solitude
3. Tattoo
4. Death Spiral
5. Party ~ one year later ~
6. On the shore
7. Blood brother
8. Raging men
9. Beyond the control
10. Wipe out
11. Liberation from the death
12. I love you…Aniki
13. Ballade
14. BROTHER
15. BROTHER – remix version –

Score Performed by New Japan Philharmonic
Conducted by Joe Hisaishi

Flugel Horn:Tomonao Hara
Bass:Chiharu Mikuzuki
Guitar:Jun Sumida
Percussion:Ikuo Kakehash

 

Disc. 久石譲 『川の流れのように オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『川の流れのように』

2000年4月29日 CD発売 COCP-30887
2000年4月29日 CT発売

 

2000年公開 映画「川の流れのように」
監督:秋元康 音楽:久石譲 出演:森光子 田中邦衛 他

 

 

「川の流れのように 2000」美空ひばり

2000年3月1日 CDS発売 CODA-1816
2000年3月1日 CTS発売 COSA-1434

川の流れのように 2000

1. 川の流れのように 2000
作詩:秋元康 作曲:見岳章 編曲:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団 ピアノ:久石譲
2. 川の流れのように
作詩:秋元康 作曲:見岳章 編曲:宇崎孝路
3. 川の流れのように 2000 (オリジナル・カラオケ)
4. 川の流れのように (オリジナル・カラオケ)

封入特典:「川の流れのように」オリジナル版メロディー譜

 

シングル発売されたこちらの楽曲では、オリジナル・サウンドトラック収録盤とは異なるアレンジで、プログラミングされたリズムパートがある。本編エンドクレジットで流れた劇場版(サントラ盤)は、このリズムパーカッションを抜いたものであり、その他オーケストラによる伴奏は同一である。なおカップリングには、原曲オリジナル版が収録されている。

 

 

映画「川の流れのように」音楽制作を終えて

この映画音楽では制作にあたって注意したことが2つあります。美空ひばりさんというたいへんな天才と共演すること。もうひとつは秋元康監督が表現したいであろう老人達の世界観をどうだすか、この2つの点に最も注意をはらいました。最初の点については、すでにお亡くなりになった人と自分がどう関わるのか、それが大きなポイントでした。その時に閃いたのは、10年くらい前だとマルチ録音をしているはずだと、美空ひばりさんのボーカル・パートを抜き出して、それとこの映画の世界観に合う新しいアレンジをする。現在、美空ひばりさんと共演する新しい美空ひばりの「川の流れのように」を作ることが浮かんだわけです。もうひとつは、秋元監督が表現しようとした老人達の世界観について。海辺の小さな漁港で、もう必要とされない老人達が、実は最も知恵をもっていて生き生きと生きている。年齢が若い、あるいは年をとっているというところに問題があるのではない。長い間生きてきて、そこにはいつでも青春があるわけで、その時空を越えて人々は生きていく。そんな人間の根元的な声にしたいという思いをこめて、ブルガリアン・ボイスを起用しました。青春の時間というのが一瞬ではなく永遠であるということを音楽的に表現しようと思いました。

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

久石さんを見ててプロだなと思うのは、音のこぼし方ですね。カットが変わった時の音のこぼし方。普通は、一つのシーンで音楽を入れるとすると、そのシーンとともに音楽は終わるじゃないですか。例えば次は外に出て車に乗るシーンだとしたら、そこには別の音楽が、あるいは車の騒音を入れるとか。でも久石さんはそこへ微妙に前の音楽を落とす。そうすることによって、絵がなめらかになるし、言葉は終わっているんだけど音楽が続いているから余韻が残るんですよね。またはせつなさが残ったり。(秋元康)

例えば秋元監督と『川の流れのように』という映画をやる。これは確かにいい話で、老人たちももっと元気が出る。そこでいい話だからいい音楽を書こうと普通は思いますよね。いいメロディーを書いて心温まる音楽を作ろうと。でもそうすると監督の視線と一緒になりすぎてしまって、単になぞるだけじゃないかと考えてしまうんです。例えば映画の冒頭のシーン、主人公が伊豆に何十年ぶりかに帰ってきた。そこに、いかにも帰ってきましたという美しくせつない音楽をつけてしまうと、全体のトーンがベタベタになってしまうんじゃないかと思うんです。台本を読んだ時から考えていたんですが、ブルガリアン・ヴォイスを使ってみたらどうだろうかというアイデアが浮かんだ。いったいどこの国の音楽だろうと観た人が不思議に思うような。ただそのまま使うと、よくありがちな奇を衒ったものになってしまう。それでオーケストラとブルガリアン・ヴォイスをミックスした。ある種のミスマッチなものは絶対ダイナミックに広がっていくし、もう一カ所ポイントになるものを使えば全体の音楽的な筋は通るんじゃないかと思った。まあ秋元さんとやらせてもらってるからこそ、そういうアイデアが出てくるんですけどね。(久石譲)

いや、それはプロの技ですよ。ブルガリアン・ヴォイスから嵐のシーンのオーケストレーションまで幅が広い。ブルガリアン・ヴォイスだけのアイデアを出せる人はブルガリアン・ヴォイスのテイストで最後までいっちゃうんですね。そうすると今度は映像と音楽が分離してしまう。それにしてもラッシュの音がない時に比べて数百倍良かったです。(秋元康)

日本映画としては本当にお金を出してもらったんですよ。ホールでオーケストラをきっちり録れるなんてまずないですから。これだけの規模でできたからこそなんです。(久石譲)

オーケストラというと、それだけの人数と楽器を集めて、ホールまで借りるのは、すごくお金がかかる。だから大抵みんな打ち込みでやるんですけど、久石さんがホールでモニータに映像を流して同時に録ろうとおっしゃった。すごく贅沢ですよ。アメリカではそういうシステムが整っているけど、日本ではなかなかできない。(秋元康)

設備が整ったところで録るわけではないので、レコーディング機材を全部運び込まなくてはいけなくて、ものすごく大変なんです。しかもいろいろトラブルがあるし。(久石譲)

我々も、いつもああいうことができると思ってはいけないんですね。(秋元康)

でもこの先デジタルになったら、もっとああいうやり方の重要性が出てきますよ。ホールのアンビエントがそのまま再現されるから、とても奥行きが深くなる。(久石譲)

迷ってたのは、ラストまで「川の流れのように」の曲を出していないんですよね。途中で一回インストで流して前振りを作ったほうがいいのかとずっと考えていた。でも結局やめた理由は、曲が始まった瞬間に観客が「川の流れのように」だと気づいて予定調和になってしまうから。ラッシュを観た時、出さなくて良かったと思いました。その分、森光子さんのツーハーフ、そしてラストのひばりさんの歌が生きた。(久石譲)

Blog. 「秋元康大全 97%」(SWITCH/2000)秋元康×久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

 

久石譲 『川の流れのように』

1. Village Song(ブルガリアン・ソング)
2. Memories
3. ふれあい・I
4. 記憶の扉
5. ときめき
6. Old Fishermans
7. グラフィティ
8. ふれあい・II
9. 残された時間
10. Memories ~refrain~
11. The River
12. A Storm
13. Voice of the Sea(ブルガリアン・ソング)
14. 時は流れて
15. The River ~別れ~
16. 川の流れのように2000 (エンディング) 歌:美空ひばり

音楽:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
収録ホール:大田区民ホール・アプリコ 大ホール

ゲスト・ミュージシャン
Vocal:おおたか静流 Ikuko

 

Disc. 久石譲 『はつ恋 オリジナル・サウンドトラック』

はつ恋 オリジナル・サウンドトラック

2000年3月23日 CD発売 POCH-1918
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9007

 

2000年公開 映画「はつ恋」
監督:篠原哲雄 音楽:久石譲 出演:田中麗奈 他

 

 

「はい。でも、いろいろ話をお聞きしているうちにとてもいい内容だったので、楽曲一曲だけ提供するより、スタンスとして映画全体に関わりたいと思うようになった。僕は仕事を音楽監督という立場でお引き受けするようにしてるんです。どうしても、このご時世だと、いろいろなタイアップがついたりして、なぜかわからないけれどエンディングになると変な歌が流れたりする(笑)。でも、それはテレビに任せておけばいい。映画を作品として完成させるためには僕はそういうことは望まない。だから、『はつ恋』でも映画の中で流れる音楽は全て責任を持つという音楽監督という立場でお引き受けしました。」

「主人公が17~18歳という設定だと2つの方向性が考えられるんです。一つは北野(武)監督の『キッズ・リターン』のような動的な感じ。そういう映画だとリズムを強調する。もう一つは『はつ恋』のような優しいイメージ。17~18歳の女の子の揺れる気持ちを出したかった。それで篠原(哲雄)監督と話し合ってシンプルな感じで行こうと。『はつ恋』って小粒だけどキラリとしたいい映画ですから、最初からピアノと分厚くない弦の世界で作るのが一番いいなと思ったんです。そういったイメージはとても作りやすい映画でした。」

「あのシーン、トータルで6分あるんです。「ここは全部音楽入れて下さい」っていわれた時はちょっとめげましたが、あそこはもう、一番力をいれました。もちろん全部力いれてるんですけどね(笑)。あの6分の中で麗奈さんが真田さんの部屋から外に出て、ふっと見上げるシーン。あの麗奈さんの顔はベストショットだと思います。僕は女優さんの演技を見ていて、一番気になるのが目の強さなんです。俳優の存在感ってつまるところ目じゃないかなと思う。あのシーンの麗奈さんの目、存在感がとても強い。」

Blog. 「Title タイトル 創刊 2000年5月号」 久石譲 × 田中麗奈 対談内容 より抜粋)

 

 

 

はつ恋 オリジナル・サウンドトラック

1. Prologue〜Spring Rain
2. 手紙
3. Challenge
4. 桜の木の下で
5. 時は流れて
6. Spring Rain
7. 秘密
8. Mother’s love
9. おもいで
10. 時は流れて II
11. はつ恋
12. 再会
13. 願い桜
14. Portrait of Family
15. Epilogue〜はつ恋

All Music composed, arranged and produced by Joe Hisaishi

Pf:Joe Hisaishi
Strings:Yuichiro Goto Group
Fl:Takashi Asahi
Ob:Masakazu Ishibashi
Cla:Masashi Togame
Fag:Johsuke Ohata

Recording Studios:Kawaguchiko Studio , Wonder City

 

Disc. 久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』

久石譲 『WORKS2』

1999年9月22日 CD発売 POCH-1830

 

コンサートツアー「Piano Stories ’98 Orchestra Night」での名演を収録した7年振りの貴重なオーケストラ・ライブ録音

24bitデジタル・レコーディングによるナチュラルなサウンドで臨場感を余さず収録

 

 

寄稿

いい音楽には永遠の生命力がある。

時代とか流行、様式とか国籍…そうしたものすべてを超えて存在する音楽。「WORKS」と名づけられたシリーズは久石譲という稀有な才能を持った音楽家の”仕事”を数々の映画音楽の曲を中心にオーケストラとの共演という形で再構築していくものだが、新たに録音された曲を聞くと、改めてその音楽性の高さとオリジンルな魅力を実感することができる。一度聞いただけで記憶の奥底に刻みつけられてしまう美しいメロディと卓抜したアレンジ、それにピアニストとしての力量。今回の「WORKS II」は7年ぶりのオーケストラ・コンサートのライブ録音という形になっているが、ひとつひとつの音符の鳴り方、そこから紡ぎ出されたハーモニーの美しさは、驚くほどに完成度が高い。

だから、僕は出来ることなら可能な限りの音量でこのアルバムを聞いて欲しいと思う。収録された13曲は、インストゥルメンタルでありながら大量生産、大量遺棄されるヒット曲とは一線を画す本物の”唄”というのはどんなものかを教えてくれるし、ロマンティシズムとダイナミズムが完璧な形で同居し、輝ける結晶体になっていることがわかる。

そして、次にはそこに自分自身の記憶や思いを重ね合わせていくといい。映像は形になって残っているが、いい音楽というのはそこから離れて空間の中で旋回し始めるのである。「WORKS」はいい仕事の理屈抜きの証拠品である。

立川直樹

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

久石譲 『WORKS2』

交響組曲「もののけ姫」より
1. アシタカせっ記
2. もののけ姫
3. TA・TA・RI・GAMI
4. アシタカとサン
5. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
6. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
7. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)
8. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
9. Sonatine (映画「Sonatine」より)
10. Tango X.T.C (映画「はるか、ノスタルジィ」より)
11. Madness (映画「紅の豚」より)
12. Friends
13. Asian Dream Song (長野パラリンピック冬季競技大会テーマ曲)

ピアノ:久石譲
指揮:曽我大介
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 (東京)
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団 (大阪)
録音:1998年10月19日 東京芸術劇場
録音:1998年10月27日 ザ・シンフォニーホール

 

WORKS II Orchestra Nights

1.The Legend of Ashitaka (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
2.Princess Mononoke (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
3.TA-TA-RI-GAMI (The Demon God) (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
4.Ashitaka and San (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
5.Nostalgia
6.Cinema Nostalgia
7.la pioggia
8.HANA-BI
9.Sonatine
10.Tango X.T.C.
11.Madness
12.Friends
13.Asian Dream Song

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体III~遺伝子・DNA サウンドトラック Vol.2 Gene-遺伝子-』

1999年8月4日 CD発売 PCCR-00308

 

1999年放送 NHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体III 遺伝子DNA」
音楽:久石譲

 

 

コメント

3シリーズ目になる驚異の小宇宙・人体「遺伝子」はミクロの世界に入りこんでいった。遺伝子はこれからの我々の日常にはとても大事なものになると思うが、遺伝子というのは実態が非常につかみづらい。それがこの作品を作曲するときにたいへん苦しんだところだ。

ある時、遺伝子に関するいろいろな本を読んでいて「Selfsih Gene(利己的な遺伝子)」という言葉を見つけた。それから遺伝子に関してとても強い興味を持つようになった。

この本では、”人間は遺伝子の乗り物でしかない。”という大胆な発想をもとに書かれたものだったが僕にはそれが非常に新鮮に映った。

例えば神が人間を創造するとき、実はあらかじめなにかがプログラムされていたとすると、それが遺伝子だったのえはないかと。そのあたりからイメージを広げて曲を書いた。この考えでは太古からそして未来へ永遠と続くであろう、そのすべてをじっと見つめているのが遺伝子であると。

そんな観点から遺伝子を見たときにたいへんロマンを感じ、それを表現したいと強く思った。

久石譲

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III ~遺伝子・DNA サウンドトラック Vol.2 Gene 2

1. History (Remix)
2. Gene
3. Eternal Mind
4. Desire
5. Gene (Wood Winds)
6. Choral For Gene (Another Version)
7. Pandora’s Box
8. Ophelia
9. Gene (Piano)
10. Telomere
11. 遥かなる時を超えて (Another Version)
12. Gene (Violin+Cello)
13. A Gift From Parents (Remix)

Producer:Joe Hisaishi
Compose & Arrangement:Joe Hisaishi

Recording Studio:Wonder Station, AVACO CREATIVE STUDIO

 

Gene – Idenshi, Vol.2

1.History (Remix)
2.Gene
3.Eternal Mind
4.Desire
5.Gene (Wood Winds)
6.Choral For Gene (Another Version)
7.Pandora’s Box
8.Ophelia
9.Gene (Piano Ver.)
10.Telomere
11.Harukanaru Toki wo Koete (Another Version)
12. Gene (Violin + Cello Ver.)
13. A Gift From Parents (Remix)

 

Disc. 久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』

1999年5月26日 CD発売 POCH-1788
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9006
2017年3月29日 CD発売 UPCY-9673
2021年11月27日 LP発売 PROS-7035

 

1999年公開 映画「菊次郎の夏」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし 他

 

 

~STORY~

今日から楽しい夏休み。
しかし正男(関口雄介・子役)には宿題を見てくれたり、遊びに連れていってくれる人もいない。
たったひとりの家族であるおばあちゃん(吉行和子)はパートで忙しい。
そこで正男は遠くで暮らすお母さんに会いに行くことを決心、
わずかな小遣いを握りしめて飛び出した。
心配した近所のおばさん(岸本加世子)は、旦那・菊次郎(ビートたけし)に
正男を母親の元まで送り届けるように命令する。
しかし根っからの自由人である菊次郎は出発するなり競輪で旅費を使い果たし、
あげくの果てには正男の小遣いも奪ってしまいスッカラカンに。
そんなこんなで二人の珍道中は始まった…。

 

 

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

北野武さんの作品では、「あの夏、いちばん静かな海」から音楽を担当させていただいていますが、あの映画のときに北野さんと話したのは「通常音楽を入れるところは一切抜きましょう」ということ。例えば、盛り上がるシーンだからといって、盛り上げるための音楽を入れるのはやめましょうと。そういうのってすごく北野さんらしいところだと思うのですが、いわゆる劇伴的なものは本人が望んでいませんし、必要もないんですよ。

「菊次郎の夏」でも、メロディアスだけど絶対ベタベタした感じにならないように心がけました。北野さんの映画は、とにかく立ち振る舞いがすごくきれいで品があるんです。だから、音楽も下品になったり、表現しすぎてはいけない。それが、最も大切にしなければならないところでしょうね。「菊次郎の夏」に関しては、北野さんから「リリカルなピアノものでいきたい」というリクエストがあったんです。最初は、こんなにギャグの多い映画なのにいいのかな?と思ったんですが、実際にやってみたら、ギャグの中に、人間の孤独とか寂しさみたいなものが表現できた。もちろん、北野さんはそれを最初から狙っていたわけで「やっぱりこの人は天才だな」って思いましたね。

そして、北野さんのすごい点は、やはり個性的だということに尽きるでしょう。特に、海外での評価は絶大ですが、それはなぜかというと、個性があるからですよ。独特の映像美、たくさんの要素を入れない、ムダのない引き算のような絵作り……それが、あそこまで徹底できる人って、世界に何人もいません。ものすごく強い意志が必要なんだと思うのですが、北野さんはそれをやり抜いている。本当にすさまじい作業であり、ある意味、周囲のだれよりも孤独だと思うのですが、それをやり抜く意志の強さは本当に素晴らしい。だからこそ、”世界の北野武”なんでしょうね。

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

「これが困ったんですよ。監督に聞いたんですけど「いままでうまく行ってるからいいんじゃない」それだけで終わってしまった。でも爽やかなピアノ曲というイメージはお持ちだったし、それは分かるなと。エモーショナルと言うよりは少年が主人公だし、ピアノ曲なんだけどリズムがあり、という感じで作ったんですけどね。あの映画で困ったのはギャグが満載なので、どうするんだと、実はちょっと思っていたんですよ。そうしたら武さんは大胆なことをおやりになった。「大ギャクをやっているところに悲しい音楽を流してみたら」って言って。大丈夫ですかね、と言って、長めに流したんですよ。そうしたら面白かったのは、それまでは、やってるやってる、というギャグが、全部悲しく見えるんですよ。「ああ武さん、これをやりたかったんだ!」と思って。菊次郎とか少年の持っている悲しみみたいなものが、画面が明るいだけにどんどん出て来ちゃって。あの時に「この映画、やった!」と音楽的にも思いましたね。あの辺を計算していたとしたら、北野さんはすごい人だと思います。普通に笑いを取るために笑いを取る音楽を付けたら自殺行為ですよね。人を好きだという時に、「好きだ」という台詞を書いたらバカ臭いじゃないですか。その時に「お前なんか嫌いだ」と書いた方が、そいつは好きかもしれないというのがあるじゃない。音楽もそういうのがあって、予定調和でこういうシーンだから、こういう音楽流せばと流してしまったら、コンクリートで固めたみたいで、そこから何も立ち上ってこない。ものを作るってそのくらい面白いものだと、最近思います。小説でも、「この主人公、こう動くな」と思っていて、その通りに動いたら、引きますよね。それがこちらの想像を超えていってくれるから引き込まれる。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

菊次郎の夏 サウンドトラック

1. Summer
2. Going Out
3. Mad Summer
4. Night Mare
5. Kindness
6. The Rain
7. Real Eyes
8. Angel Bell
9. Two Hearts
10. Mother
11. River Side
12. Summer Road

All music composed, arranged, produced & performed by 久石譲

Guest Musicians:潘寅林ストリングス(Strings)、鈴木理恵子(Violin Solo)、諸岡由美子(Cello solo)

Recording Engineers:浜田純伸・石原裕也(ワンダーステーション)
Mixing Engineer:浜田純伸(ワンダーステーション)
Assistant Engineers:秋田裕之(ワンダーステーション)、川下輝一(ポリグラム・スタジオ)

Recording Studio:ワンダーステーション、ポリグラム・スタジオ
Master Engineer:藤野成喜(ポリグラム・スタジオ)
Mastering Studio:ポリグラム・スタジオ DMR-1

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体III~遺伝子・DNA サウンドトラック Vol.1 Gene-遺伝子-』

久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III〜遺伝子・DNA サウンドトラックVol.1 Gene』

1999年4月28日 CD発売 PCCR-00300

 

1999年放送 NHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体III 遺伝子DNA」
音楽:久石譲

 

 

 

寄稿

NHKスペシャル「驚異の小宇宙・人体」パートIIIのメインタイトルが変った。”遺伝子”から”遺伝子・DNA”へと。久石譲さんとの最初の打合せの時、「遺伝子だけでは面白くない。DNAという言葉を入れないとNOWくない」という助言をいただいたのだ。

言うまでもなく、20世紀最大の生物学上の発見はDNA構造の解明である。研究の結果、生命の基本構造は地球上のあらゆる生物に共通しており、数の多さと働きが違うだけであることがわかってきた。ヒトの場合、生命の暗号は60億文字分に相当し、科学者たちはその全てを2003年までに解読しようとしている。「マンハッタン計画(原爆製造)」「アポロ計画(人類の月面着陸)」に次ぐビッグサイエンス、「ヒューマンゲノム計画」である。一方で最近は新聞を広げると毎日のように”遺伝子”の活字が躍る。「アルツハイマーや肥満遺伝子発見」「がんや難病の遺伝子治療始まる」「イヴ・モンタンの墓を掘り起こし、親子関係を調べるDNA鑑定」といった具合である。今や遺伝子・DNAは一般の人達の間でも知的関心事となっているのだ。

私が「人体」プロジェクトのプロデューサーを命じられたのが1986年。以来ずっと久石さんとのおつき合いが続いている。国際共同制作の大型NHKスペシャルで14年間もプロジェクトが続いているのは初めての事で、さらにシリーズ18本を全て一人の作曲家が手がけるのも極めて珍しいことになる。なぜ、それ程までに久石さんに惚れ込んでいるのか。最初の出会いは1989年の「人体」制作中、各レコード会社が推薦する作曲家の音楽を聴いていた時のこと、「風の谷のナウシカ」の音楽を耳にしたとき「これだ!」と直感した。私たちの番組はミクロの細胞にこだわり、その健気な働きを描いたが、60兆細胞トータルとしての人体、”いのち”も又素晴らしい存在であることを訴えたかったからだ。さらに「人体 II 脳と心」では番組に新風を吹きこんでくれた。

私たちは今、番組完成を目前に生みの苦しみの最中にいる。久石さんの、歴史に残るような音楽が番組に息を吹きこんでくれることを大いに期待している。

林勝彦 (エグゼクティブ・プロデューサー)

(CDライナーノーツより)

 

 

ドキュメンタリーの仕事はすごく好きなんです。このシリーズも3作目ですね。ただ、今回はテーマが遺伝子ということで非常に抽象的ですから、映像が浮かばなくて苦しみました。Iは「内臓」がテーマでしたし、IIは「脳と心」がテーマでしたから、割とイメージが膨らんだんですが、「細胞」と言われてもピンと来ないじゃないですか? そういった、最初のイメージ作りで苦しみましたね。でも、遺伝子についていろいろ調べるうち、利己的遺伝子(セルフィッシュ・ジーン)という言葉に出会ったんです。「人間は遺伝子の乗り物でしかない、生命が誕生して以来、人間という器は単なる乗り物でしかない」という内容なんですが、そういうことを考えていると、太古の時代と未来がつながっていて、それは音楽も同じだと思えるようになったんです。そこで、エスニックな要素をたくさん入れたりしました。

この作品では、打ち込みと生の弦を組み合わせています。こういう世界観だと、アコースティックが絶対にいいということはあり得ないんです。あまりにも具象音過ぎますからね。そうすると、もう少し神秘的な世界を出すにはやはりシンセサイザーがよくて、結果的に生と打ち込みの比率は50/50くらいになりました。ただ、今までのシリーズはもっとシンセサイザーが多かったので、今回は割とアコースティック楽器が増えていると言えますね。

このシリーズに関しては、映像に合わせて音楽を作っているわけではありません。「何月何日に映像をお渡しします」って言われても、その日に来ることは絶対にないですから(笑)。2、3ヵ月はズレます。これは映画もそうなんですが、CGを使うとその部分が圧倒的に時間を食うんです。特に、この番組は内容的にCGのウェイトがすごく大きいですから大変だと思います。でも、真剣に作ったら遅れるのはしょうがないですよ。

そんなわけで、基本的にはこのシリーズに関しては、こちらの方である程度世界観を作って大体12~13曲ほど仕上げ、さらに幾つかバリエーションを付けたものをお渡しして、そこから選曲してもらうというスタイルでやることにしているんです。僕の手掛けているサウンドトラックの中で、選曲のスタイルはこの番組だけです。

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

かつてコンピューター(正確にはICか?)が現れたとき、人間の思考のプロセスに発生する膨大な情報を処理することで、大きく社会の構造が変わった。いや、今でも変わりつつある。そして遺伝子、この人類に仕掛けられた2つのウィルスは人類を豊かにするかもしれないし、破壊する爆弾かもしれない。いずれにしても、もう人類は地雷を踏んでしまった。ここで止まることはできない。今現在の中途半端さではクローン牛を作ったり、癌の治療に使ったりするしかない。もっと凄まじいこと、例えばその研究が間違って人類を滅ぼすようなことがあるかもしれない。だから我々は全て知らなくてはいけない。

しかし、いくら遺伝子が解明されても人間の全てが解明されるとは思わない。例えば音楽が与える感動は解明されるのだろうか? 脳の中でどういう物質がどこに働きかけると感動するかは解明できても、何故良い音楽を聴いたらそういう物質が出るかまでは予測は出来ても解明されることはないだろう。全ての遺伝子、DNAが解明されてもまだ分からないもの、それが人間本来のアイデンティティーではないのだろうか?

後日、僕はテーマ曲を作った。それは第1シリーズと同じアプローチのヒューマンな人間賛歌だった。

Blog. 書籍「NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体3 遺伝子・DNA 6」久石譲 音楽制作ノート より抜粋)

 

 

1998年9月26~30日、バリ独特の楽器の音を採取することを目的に訪れている。録音スタッフも同行しガムランで使われている全楽器の音色やフレーズを録音。またバリの女性に昔から伝わる歌やラブソングを歌ってもらうなどし、それが本作品の多彩なリズム・パーカッションやサンプリング・ヴォイスに生かされている。

オーケストラ編成は、弦24人、2管編成の木管8人、ホルン4人、パーカッション2人という大編成。

 

 

久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III〜遺伝子・DNA サウンドトラックVol.1 Gene』

1. Gene
2. 遥かなる時を超えて
3. Mysterious Operation
4. History
5. Micro Cosmos
6. Cell Division
7. Children’s Whisper
8. Wonderful Life
9. A Gift From Parents
10. Choral For Gene

Producer:Joe Hisaishi
Compose & Arrangement:Joe Hisaishi

Recording Studio:
Wonder Station
AVACO CREATIVE STUDIO

 

Gene – Idenshi

1.Gene
2.Harukanaru Toki wo Koete
3.Mysterious Operation
4.History
5.Micro Cosmos
6.Cell Division
7.Children’s Whisper
8.Wonderful Life
9.A Gift From Parents
10.Choral For Gene

 

Disc. 久石譲 『時雨の記 サウンドトラック』

久石譲 『時雨の記』

1998年10月31日 CD発売 COCX-30087

 

1998年公開 映画「時雨の記」
監督:澤井信一郎 音楽:久石譲 出演:吉永小百合 渡哲也 他

 

 

小編成なオーケストラを基調とした音楽。ストリングスの響きがメインとなるが、シンセサイザーもそれを引き立てるエッセンス程度に流れる。古都鎌倉、京都、奈良を舞台にした、大人の晩年の愛を描いた作品、音楽も日本情緒ある哀愁的で叙情的なメロディー。

メインテーマ曲である(22)「la pioggia」は、「雨」という意味のイタリア語。とにかく美しい旋律。ピアノとストリングスが大人の愛の旋律を豊かに美しく奏でる。吉永小百合、渡哲也という往年の日本映画を代表する名俳優の演技に華を添えるにふさわしい上品な音楽。

感情をおしころしたようでもあり、内面からの感情の揺れを表現したような、時には悠々と、時には激しく刻むストリングスと、雨粒のような一粒一粒、一音一音、響き揺れるピアノの旋律。またもうひとつのテーマ曲ともいえる(10)「誓い」や(13)「運命」もよき日本映画音楽の品格を持っている。

 

メインテーマ曲「la pioggia」は他の作品にもその後収録されている。

「NOATALGIA ~Piano Stories III~」では、ピアノとストリングのかけあいがより鮮明に豊かに、「WORKS II ~Orchestra Night~」では、より重厚なフルオーケストラによるライブ音源を、「ENCORE」では、ピアノソロにて緩急あるリズムの揺れと強弱ある鍵盤のタッチが豊かに、聴くことができる。

また久石譲プロデュース作品である「ARCANT / 近藤浩志」では、近藤浩志のチェロと久石譲のピアノによるシンプルながらも奥ゆかしい名演をゆったりとした揺れで聴くことができる。

それぞれの作品詳細も合わせて、聴きくらべると味わい深い名曲である。

 

 

久石譲 『時雨の記』

1. 鼓動
2. 再会
3. 二十年の想い
4. 鼓動II〜告白
5. la pioggia〜鎌倉
6. 絵志野
7. 躍動
8. 驟雨
9. la pioggia〜時雨亭
10. 誓い
11. 家族
12. 二人だけの場所
13. 運命
14. グラナダ
15. スペインの風
16. 鼓動III〜時雨亭跡
17. 静かな愛
18. 残像
19. 命
20. 残されたもの
21. 鼓動IV〜吉野山
22. la pioggia