Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『パリのアメリカ人』

2005年11月30日 CD発売 UPCI-1036

 

新しいポップス・オーケストラとして誕生したニュープロジェクト「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」の第2弾アルバム。

 

 

楽曲解説

001. パリのアメリカ人
1928年に作曲家ジョージ・ガーシュインが初めて手がけた同名のフル・オーケストラ用管弦楽曲をもとに、ミュージカル映画「巴里のアメリカ人」が作られたのは1951年のこと。パリに住む画家志望のアメリカ人青年とキュートなパリジェンヌの恋模様を小粋に描いたこのMGM作品は、主演および振付を務めたジーン・ケリーとレスリー・キャロンのダンス・シーンが話題となり、作品賞はじめ8つの部門でオスカーを受賞している。

002. 男と女
フランシス・レイが手がけた「ダバダバダ」のメイン・テーマがあまりに名高いこの作品は、過去の痛手から立ち直れず、新たな愛へと踏み切れぬ男女の心の機微を描いた、大人のムードあふれる1966年のフランス映画。主演はジャン・ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメ。監督は、フランシス・レイと組んで「パリのめぐり逢い」(1967)、「白い恋人たち」(1968)等の名作を送り出したクロード・ルルーシュ。

003. ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ
1943年のミュージカル映画「サムシング・トゥ・シャウト・アバウト」のためにコール・ポーターが作詞作曲した曲。ドン・アメチーとジャネット・ブレアが歌い、アカデミー主題歌賞にノミネートされたが、失敗作続きのブロードウェイ・プロデューサーが新作を舞台に乗せようとするまでの悪戦苦闘を描いた映画自体は流行らず、クリフォード・ブラウンと共演した歌手ヘレン・メリルのレコード等によってポピュラーな曲となった。

004. ロシュフォールの恋人たち
監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーヴのゴールデン・トリオが生み出した、フランス・ミュージカル映画の傑作の一つ。お祭りにわきたつロシュフォールの街を舞台に、さまざまな恋が展開されてゆく1965年の作品で、ドヌーヴは実の姉フランソワーズ・ドルレアックと、夢に恋に生きる双子の姉妹役で生涯唯一の共演をはたした。ジョージ・チャキリス、ジーン・ケリーと、その他の出演者も豪華。

005. Le Petit Poucet
シャルル・ペローの童話「親指トム」をもとにした、2001年製作のフランス映画。小人の“親指トム”が主人公のファンタジーで、ロマーヌ・ボーランジェ、カトリーヌ・ドヌーヴらが出演している。監督は、ジャン・レノ主演の映画「クリムゾン・リバー2」を手がけたオリヴィエ・ダアン。久石譲が音楽を手がけ、主題歌をヴァネッサ・パラディが歌っている。

006. 夜も昼も
コール・ポーターが作詞作曲を手がけた1932年のブロードウェイ・ミュージカル「陽気な離婚」からのナンバーで、主演スターであるフレッド・アステアのために書かれたもの。海辺のリゾートを舞台に、イギリス人作家と離婚を控えた女性との恋が描かれるこの作品は、名ダンス・コンビ、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャーズの主演で、1934年に「陽気な離婚者」と改題されて映画化された(邦題「コンチネンタル」)。

007. ビギン・ザ・ビギン
1935年に初演されたブロードウェイ・ミュージカル「ジュビリー」からのナンバーで、西インド諸島のマルチニーク島の民俗舞曲である“ビギン”と“始める=ビギン”を掛けて、コール・ポーターが作詞作曲した。身分を隠して城を抜け出し、普段できないことを楽しむロイヤル・ファミリーの姿を描いた「ジュビリー」はさほどヒットしなかったが、後の大スター、モンゴメリー・クリフトが子役として出演していたことで知られる。

008. ラストタンゴ・イン・パリ
パリのアパートでただただセックスに溺れる日々を送る中年男と若い女の姿をとらえた「ラストタンゴ・イン・パリ」は、衝撃的な性描写ゆえに1972年の発表当時世界各国で上映禁止となり、日本でも27年の年月を経てやっと無修正完全版が公開された。「ラスト・エンペラー」(1987)などで名高いベルナルド・ベルトルッチ監督が31歳の若さで発表した問題作で、主演はマーロン・ブランドとマリア・シュナイダー。

009. ソー・イン・ラヴ
シェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」のミュージカル版と、そこに出演している役者たちのラブロマンスが二重写しで描かれるブロードウェイ・ミュージカル「キス・ミー・ケイト」(1948)の、舞台裏の部分で歌われたナンバー。コール・ポーター作品として最大のヒットとなり、第一回トニー賞の栄誉に輝いたこのミュージカルは、1953年にMGMにて映画化されているが、その際コール・ポーターその人も出演をはたした。

010. 太陽がいっぱい
リッチな放蕩息子に憧れ、彼になりかわるべく恐ろしい犯罪に手を染めていく貧しい青年を描いた映画「太陽がいっぱい」(1960)は、主演のアラン・ドロンがスターの地位を不動のものとしたサスペンス・ドラマ。監督はルネ・クレマン、「ゴッドファーザー」シリーズやフェリーニ作品などで名高いニーノ・ロータが音楽を手がけた。後に「リプリー」(1999)のタイトルで、マット・デイモン主演でリメイクもされている。

011. シェルブールの雨傘
「ロシュフォールの恋人たち」に先駆け、監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーヴのゴールデン・トリオが生んだ、フランス・ミュージカル映画の最高傑作で、1964年度のカンヌ映画祭グランプリを受賞した。港町シェルブールを舞台に、戦争で引き裂かれる傘屋の娘と自動車修理工の若者との悲恋が、甘い調べに乗ってせつなく描かれるこの作品は、セリフもすべて歌いあげる手法も話題を呼んだ。

012. 白い恋人たち
フランス・グルノーブルにて1968年に開催された第十回冬季オリンピック大会の模様をとらえたドキュメンタリー映画で、「男と女」や「パリのめぐり逢い」と同じく、クロード・ルルーシュが監督を務め、フランシス・レイが音楽を担当している。アテネからの聖火リレーに始まり、華やかな開会式、各競技に挑む選手たちの姿、そして13日間の白熱した日々を経ての閉会式などが、ヴィヴィッドに描き出されている。

文:藤本真由

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

「1920年代、30年代という世界大恐慌前後の時代、アメリカ人が憧れるものっていうのは「文化」だったんですね。成功したらパリに住むというのが、彼らのステイタスになっていた。それでコール・ポーターもフィッツジェラルドもパリに住むようになった。でも今、成功したらここに住みたい、というような場所はないでしょう? わかりやすい憧れの対象や目的がないこの時代に、「パリのアメリカ人」をテーマにすることで、今の時代性が浮き出てくるといいなと考えたんです。」

「コール・ポーターっていうと、やっぱり歌ですからね。スウィング的なものや、ジャジーな感覚を持っているということで、彼女を選んだんです。フランス映画音楽だけをそのままやってしまうのではイージーリスニングになってしまうかも知れない。どこかに異種のもの、アメリカン・テイストを入れたかったんですね。フランス料理にハンバーガーが入ってくるというか(笑)。それがコール・ポーターであり、レディ・キムのヴォーカルなわけです。ミスマッチの要素が入ることで両方が際立てばと。そういうことも含めて「パリのアメリカ人」なんです。」

「あと、こうしたテーマを日本人がやるっていう部分も面白いと思うんです。例えば僕はオーケストラをやってますけど、これは西洋音楽がベースでしょ。なんで日本人がやるんだって言われると困っちゃうわけです。結局みんな根無し草状態なんですよね。でも、だからこそ自分のルーツを知りたいという思いがある。そうした部分から出てくる孤独感や叙情っていうのは僕にとって昔からのテーマなんです。」

Blog. 久石譲 「アップル iTunes インタビューズ」 『パリのアメリカ人』発売記念 より抜粋)

 

 

──選曲の基準は。

久石 自分が思い入れのある映画が多いかな。当初は新しい作品も入れようと思ったけど、いざ聴いてみたらぴんとこなかった。最近の映画音楽はメロディーが弱くなっている気がする。「アメリ」(2001年)みたいに面白い曲もあったけど、オーケストラの楽曲として耐えられるメロディーだと感じられなかった。結果的に強いメロディーを持つ昔の曲が残った。

──原因は何だと思いますか。

久石 映画の作り方全般に言えることだけど、「ハリウッド流」が浸透して、ヒットのために作品とは関係のない楽曲が持ち込まれることが多くなった。そのため、映画を象徴するようなメロディーが減ってしまい、サウンドトラックというよりコンピレーションアルバムになってしまっている。昔はもっとあの映画と言えばこのメロディーということがあったのにね。

──名曲のスコアを見て感じたことは。

久石 ガーシュインに代表されるように、クラシックとかポップスとか、ジャンルの垣根を感じさせない曲が多かった。ただ、実際にアレンジし始めたら、編曲というより作曲になってしまった。やっぱり自分は作曲家。素直に編曲すればよかったのに、余計に時間がかかってしまった。

──手ごわかった曲は。

久石 ミシェル・ルグランはどれも大変だった。和音にわざと異音が入っていて、不協和音的に聴かせる構造が多く、こっちがこうしたいのにと思ってもぶつかってしまう。「ルグランは鬼門だ!」ってずっと言っていたよ(笑)。

Info. 2005/11/29 メロディーが強かった往年の映画音楽 久石譲に聞く(読売新聞より) より抜粋)

 

 

 

久石譲 『パリのアメリカ人』

1. パリのアメリカ人 AMERICAN IN PARIS
2. 男と女 UN HOMME ET UNE FEMME
3. ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO
4. ロシュフォール恋人たち LES DEMOISELLES DE ROCHEFORT
5. Le Petit Poucet
6. 夜も昼も NIGHT AND DAY
7. ビギン・ザ・ビギン BEGIN THE BEGUINE
8. ラスト・タンゴ・イン・パリ LAST TANGO IN PARIS
9. ソー・イン・ラブ SO IN LOVE
10. 太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL
11. シェルブールの雨傘 LES PARAPLUIES DE CHERBOURG
12. 白い恋人たち TREIZE JOURS EN FRANCE

Guest Singer:Lady Kim 3. 6. 7. 9.
Guest Pianist:Alex Nakhimovsky 3. 6. 7. 8. 9. 12

Recorded at Sumida Triphony Hall

except
Arranged by Kousuke Yamashita 3. 4. 7.

初回限定エンハンスト映像
「ワールド・ドリームス」収録

 

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