Posted on 2019/07/06
クラシック音楽誌「モーストリー・クラシック MOSTLY CLASSIC 2010年12月号 vol.163」に掲載された久石譲インタビューです。
映画、CMなどを収録した「メロディフォニー」
前作同様アビーロードでロンドン響を指揮して録音
「意外なほどすんなり僕の音を掴んでくれました」
「前回の『ミニマリズム』を作った時に、自分の作家性の強い方向を出したんですが、同時にエンターテインメントの部分で活躍している自分の曲をまとめた作品を作りたいと思いました。2枚同時というのは難しかったので、1年置いて前作と同じロンドン交響楽団(LSO)、録音はアビーロードスタジオという環境で録音を実現させました。前作はミニマルとリズムを合わせた造語、今回はメロディーとシンフォニーを合わせた『メロディフォニー』というタイトルで、対になる2つのCDが完成しました。2枚揃って僕の世界です」
「メロディフォニー」は、「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」「おくりびと」などの映画音楽を中心に、NHKのドラマ「坂の上の雲」、サントリーの「伊右衛門」のCMなど、誰でも知っている曲が並んでいる。
「前作は、全ての部分を自分の考えでやりました。今作は、自分の趣味で選ぶというより、いろんな人に聴いてもらっているメロディーで構成していこうと、インターネットによる投票を行い、参考に構成しました」
前作のミニマルミュージックは、世界の現代音楽の流れの中にある共通言語だが、映画音楽はある意味ローカルな世界。しかし、曲のニュアンスはLSOにうまく伝わっている。
「意外なほどすんなり音の世界をつかんで、素晴らしい演奏をしてくれました。もちろんピアノ・パートは自分で弾いてリハーサルで曲の世界を伝えようとしました。コンサートマスター以外は前作と同じメンバーだったので、全く違う世界にもかかわらず曲の中に何か共通するものを見つけたのかもしれません」
「トトロ」を録音したときが面白かったという。
「サビの部分で日本のオーケストラは『トトロ…』と歌を知っているので楽譜の音符ではなく、言葉のリズムで弾くんですが、LSOは譜面に忠実に演奏するので、イントネーションが違ってきたんです」
その結果、譜面に書かれたシンフォニックな響きがより強調され、曲に新鮮なイメージが加わった。それを見事にまとめているのは近年充実を見せる久石の指揮だ。昨年は、東京フィルでブラームスの交響曲第1番などを指揮、作曲家の余技を遥かに越えた充実した演奏を聴かせた。
「いつかは、ストラヴィンスキーの『春の祭典』をピエール・ブーレーズがやったように完全なリズム分析から入って、作品の並外れたエネルギーを引き出す方向で指揮してみたいと思っています」
(モーストリー・クラシック MOSTLY CLASSIC 2010年12月号 vol.163 より)